遂にぶつかり合う超奥義。
色々詰め込んだらかなり長くなりました。
そして伝説の『アレ』がチラリと登場。
正面から向き合う2人の
だが、2人の共通点は
「兄弟、だと?」
総司の言葉に、快人は頷く。
「ああ。
俺もお前も、文字通り生まれ変わっても兄として弟を持った男だ。
だから答えろ。
お前にとって『兄弟』ってのはなんだ?」
「ふん、そんなことか…ならば答えてやる。
『兄弟』とは、誰よりも近い他人! 自分のもう一つの可能性!
同じ熱き血潮を分かち合い、同じものを目指し共に進み、共に支え合う。
それが…『兄弟』というものだ!!」
繰り出される総司の右拳を、快人は左手で受け止める。
「へっ、俺も同感だ!
宇宙の生命から比べればまたたきの瞬間も無い人間の一生で、俺は2度も弟を得て、兄としての生を受けた!
俺は…この運命を感謝している!!」
快人が放った右拳を、総司が左手で受け止めた。
お互いに互角の力で組み合う快人と総司。
「俺とて感謝したさ!
どのような過酷な運命でも、弟とならば乗り越えて行けるとな!
だが…それもあの瞬間に崩れ去った!
『神』に弄ばれ、弟を手に掛けさせられたあの瞬間にな!!」
総司からの
「弟を、同じ熱き血潮を分かち合った者を手に掛けさせられた俺の無念が、貴様に分かるか!?」
荒れ狂う
「…分かんねぇよ、そんなもん」
「ぐっ!!?」
快人の鋭い右足が総司に叩き込まれ、2人の距離が開く。
そして再び、快人と総司は向かい合った。
「弟を殺す気持ちなんて分からねぇし、分かりたくもねぇ。
正直…『人事でよかった』って思う。
だが…俺はお前を『羨ましい』と思うことが一つだけある。
それは…『本当の兄弟』だってことだ」
快人は少しだけ上を見上げて、そう洩らした。
「俺とシュウトは…もはや血は繋がっていない。
違う親から生まれ、違う血を持つ他人同士…兄と弟を繋ぐ強い『血の絆』が、俺とシュウトには無いんだ。
『血の絆』を持たぬ俺とシュウトを『兄弟』とするものはたった1つ…『魂の絆』だけだ。
もはや俺には永遠に手に入らない『血の絆』を弟との間に持ったお前が…俺は同じ『兄』として少し羨ましい…」
『血の絆』…生まれた瞬間に繋がるその絆を、自分が死んで無くしてしまったそれを持つ総司が、快人は羨ましいと言う。
だが、それでも…。
「『血の絆』を無くした俺とシュウトは、もう兄弟とは呼べないかもしれない…。
だがそれでも…俺は『魂の絆』で繋がったシュウトの、弟の『兄』でありたい!!」
そう言って快人はゆっくりと構えを取る。
「俺はシュウトの『兄』、
『兄』として、『魂の絆』に誓って弟は殺させねぇ!」
それに答えるように、総司も構えを取った。
「ならば俺は、
『兄』として、『血の絆』に誓ってお前たちを殺す!」
その答えに快人は苦笑を洩らした。
「お前は、俺とどこか似てるな」
「…認めたくないが、どうやらそうらしい」
『魂の絆』で繋がった弟を守ろうとする快人。
『血の絆』で繋がった弟の無念を晴らそうとする総司。
ここにいるのは、その兄弟の絆のために戦う『兄』2人。
「『兄』として、弟を守るためお前は潰す!
双葉総司ィィ!!」
「『兄』として、弟の無念を晴らすため、貴様らは殺す!
蟹名快人ォォ!!」
負けられぬ相手と認識し認め合った2人は、その倒すべき相手の名を吠える。
濃密な
~~~~~~~~~~~~~~~
2人の
お互いにとてつもない攻撃力を誇るそれを2人は交わし、防ぎ、捌く。
交錯するたびに
それは、まるで完成された演武のようであり、星が踊るようでもあった。
生死を分かつ戦闘だということも忘れ、全員がその美しい姿に釘付けになる。
2人の会話は、その場にいた全員にも聞こえていた。
その内容はほとんどが理解できなかったが、それでも総司が邪悪な『神』の呪縛で弟を殺すことになり、今もその呪縛のために苦しんでいることは分かる。
運命の交わることのなかった姉アリシアとの別れを経験しているフェイトの、総司への先程までのシュウトを傷つけられたことへの憎しみの視線はなりを潜めていた。
そしてフェイトと同じようにリインフォースと同じような状況の総司に、八神家一同も憎しみよりもどこか憐憫を秘めた視線へと変わっていた。
「快人くん…」
「総司くん…」
なのはとすずかは、その美しくも悲しい姿に自然と涙が流れた。
なのはもすずかも、兄や姉を持つ『妹』だ。
だから、そんな兄弟姉妹が自分に向けてくれる優しく心地よい想いをよく知っている。
快人と総司も、2人の兄や姉と同じだ。
家族への限りない優しさを持つ『兄』。
そんなどこまでも尊く、どこまでも優しい心を持ちながら、いや持っているが故に戦い合う2人を前に、なのはとすずかの目からは自然と涙が流れ止まらない。
そしてもう1人、涙を流している者がいる。
「兄さん…」
戦う快人の後ろ姿を見つめながら、シュウトも涙を流していた。
その背中はずっと昔、生まれ変わる前から見ていた自分の『兄』のもの。
だから、その『兄』の背中にシュウトは心から呟く。
「ボクは…兄さんの弟でよかった…」
無限に、そして夢幻にあるであろう誕生の選択肢の中から快人の『弟』という選択肢を選び産まれ出でたその幸運、そして生まれ変わっても何一つ変わらず『兄弟』でいた運命にシュウトは涙を流す。
様々な視線を浴びながら、2人の『兄』は互いの意地を拳に込め、ぶつかり合っていた…。
~~~~~~~~~~~~~~~
「オラァァァァァ!!」
「オオォォォォォ!!」
快人と総司の右拳が、同時にお互いの胸へと叩き込まれ2人が吹き飛んだ。
「…お前の
悔しいが今のお前の
「なんだったら
千日だろうが万日だろうが付き合ってやるぜ?」
快人の言葉に、総司は首を振る。
「俺には、悠長にそんなことをしている暇はない。
次の一撃で…決する!!」
総司はゆっくりとその両手を頭上に掲げた。
「あ、あれは!?」
「ギャラクシアン・エクスプロージョン!?」
シュウトと大悟の言う通り、それは
「蟹名快人、お前の
だが、お前と俺には決定的な差がある。
それは…技だ!
どんなに
総司の言う通りだ。
快人の技である『
『
しかも…。
「…」
快人はチラリと後ろを見る。
快人の後方には倒れたシュウトと大悟の姿があった。
放たれた『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を快人が避ければ、無防備な2人に直撃することとなる。
つまり、快人はここで不動で、正面から『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を止めなくてはならない。
「ふん、この位置は計算通りってわけか…」
「さぁ、どうする蟹名快人!
弟と仲間を見捨て避けるか?
弟と仲間の楯となって砕け散るか?
好きな方を選べ!」
危険な高まりを見せていく総司の
それを見ながら快人は不敵に笑い、答えた。
「無論、俺が選ぶのはそのどれでもない。
正面から『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を止める、だ!」
そう宣言すると、快人もゆっくりとその両手を空に向かって掲げる。
「何を…するつもりだ?」
総司は快人の行動に驚きを隠せない。
それと打ち合うとなれば同レベル、対神級の超奥義でなければ話にならない。
快人ならばそれが分かっているはずだ。
だが、快人は見たことも無い構えを取り、真っ直ぐに、不敵に総司を見つめる。
「…まさか!?」
その時になって、総司は思いだした。
そう、
それを証明するかのように、どこからともなく現れ出した青白い光が快人の掲げた手の先にゆっくりと集まっていく。
そして、その場にいたものすべてが見た。
「あれは…!?」
「
快人の背後に、ズラリと並ぶのは
半透明なその姿は、誰がどう見ても普通でないことは分かる。
だが、なのはたちは誰もそれらから恐怖を感じなかった。
むしろ、温かい何かを感じる。
そして、その温かい何かは快人へと注がれていた。
「これは…まさか!?」
「へへっ。
御察しの通り、これは俺たち
「バカな!? お前の師であるセージはこの技を知らないはず!?
何故、この技をお前が!?」
その言葉に、快人は苦笑しながら答えた。
「お前がどう思っているのか知らないが、『この技』は構造自体は至ってシンプルだ。
『呼んで、集めて、放つ』…このたった三工程だけだからな」
そう、この
ただ単純ながら絶対に必須の条件を快人は今まで全くクリアしていなかったため、使うどころかその足がかりすらつかめなかった奥義である。
そして…その必須条件を快人は
その絶対必須の条件とは、ハクレイの語ってくれた
それを理解できていなかった今までの自分が、『この技』の足がかりすらつかめなかったのは当然のことだったのだ。
「だが、今の俺は違う!
それは死しても消えぬ、熱く強い想いだ!
俺に前に、未来へ進めと訴えかける魂の咆哮だ!
この一撃…舐めるなよ!!」
快人がゆっくりと掲げた両手を総司へと突き出す。
広げた両手はまるで身体を広げた蟹のようだ。
その手の前に、青白い光が球体となって集う。
「ならば、俺はその咆哮すら打ち砕く!
銀河と共に、散らせてやろう!!」
対する総司は左手は掲げたまま、右手を腰だめに構える。
開いた右手に集まっていく
究極にまで高まった
「
「
そして…それは同時に解き放たれた!
「
「ギャラクシアン・エクスプロージョン!!!」
ギャラクシアン・エクスプロージョン―――
その2つの超奥義がぶつかり合い、中空で燻ぶる。
それは快人と総司という、2人の自我と想いと意地のせめぎ合い。
互角のその2つの力は中空で爆散し、辺りは閃光に包まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~
閃光から視力が回復したなのはたちが見たものは、結界を覆っていた異次元空間のようなものが消え、ゆっくりと結界が崩壊していく様だった。
「もしかして…!」
「!? 壁が無くなっとる!!」
それに気付いたフェイトとはやては即座に倒れたシュウトと大悟に駆け寄った。
「シュウ!?」
「うっしー!? シャマル、早く!!」
「は、はい!!」
全員がシュウトと大悟へと駆け寄り、2人の治療を始める。
だが、その先は今だ爆煙によって見えない。
そして…その爆煙がゆっくりと晴れていく。
「「「!?」」」
快人と総司はお互いに健在だった。
だらりと両手を下げ、俯きかげんにピクリとも動かない。
「ユーノ、結界を!」
「う、うん!!」
まだ戦闘が収束していないと判断したクロノの指示に、ユーノが結界を張り直す。
「…よし、かなり消耗している今なら、僕らでも彼を抑えられる!」
そう判断してデバイスを構えようとするクロノを、怒鳴り声が止めた。
「手ぇ、出すんじゃねぇ!!」
「快人くん!!」
それは快人だった。
ゆっくりと俯きぎみだった頭を持ち上げ、正面の総司を見ながら続ける。
「
俺とこいつの戦いは、まだ終わってねぇ!!
手なんざ出したら、誰であろうがぶっ飛ばすぞ!!」
その声に、クロノの動きが止まる。
そんなクロノの肩にポンとシグナムが手を乗せた。
「管理局、我らも同感だ。
この戦い、誇りをかけた騎士の決闘に通ずるものがある」
「そうだ。 この戦いは、汚しちゃならねぇ…」
シグナムの言葉にヴィータも相槌を打ち、クロノはしぶしぶといった感じで引き下がる。
誰もが動くことなく事態を固唾を飲んで見守る中、快人は目の前の総司へと声をかけた。
「おい、起きてんだろ?」
「…ふん、今の声なら死人でも起きる」
ゆっくりと総司も顔を持ち上げた。
「…何故、他の連中と俺を襲わない?
今の俺ならば労せず倒せるかもしれんぞ?」
「これは俺とお前のケンカだ、誰にも邪魔させるかよ。
それに…どっちにしろ勝つのは俺だ」
「よく言う。
勝つのは、俺だ」
その答えに、快人は楽しそうに笑った。
「じゃあ最終ラウンド、行こうや?」
「…いいだろう、最後まで付き合ってやる」
快人にどこか苦笑したように総司が返し、2人が一歩を踏み出した。
同時に快人から
「2人とも
「これはどういう…」
突然のことに戸惑うクロノとザフィーラの声に、横から答える声があった。
「2人とも
『脱がざるをえない』んだ…」
「シュウ!」
シャマルの回復魔法によって意識を取り戻したシュウトに、フェイトが抱きつく。
そんなフェイトの髪をひと撫でしたシュウトは、対峙する快人と総司を見つめながら続けた。
「2人の
「その通り。
あの状態では
だから2人はあえて
「うっしー!?」
同じく意識を取り戻した大悟に、はやてが抱きついた。
そんなはやてに一瞬だけ微笑み、しかしすぐに大悟は視線を2人へと向ける。
まるでその全てを目に焼き付けるように。
そしてそんな2人に、祈るような視線を送るなのはとすずか。
「快人くん…」
「総司くん…」
そんな中、一歩一歩とゆっくりと近づいた上半身裸の快人と総司はその拳を振りあげた。
「オオォォォォォォ!!」
「アアァァァァァァ!!」
総司の顔面に快人の拳が叩き込まれ、総司の身体が揺らぐ。
だが、すぐに持ち直した総司の拳が、今度は快人の顔面へと叩き込まれる。
それは
2人を今動かしているのはお互いの意地のみ。
その意地を拳に乗せ、互いに叩きつける。
「早く倒れろよ」
「お前がな」
2人は苦笑すら漏らし、そんなことを言いながら互いの拳を打ちつける。
泥臭く幼稚な、だが誰一人目の離すことのできない神聖な決闘がそこにはあった。
だが、その決闘も最後の瞬間を迎える。
互いに一歩距離を置いた2人は深呼吸を一つする。
同時に、残りわずかな
次で決まる…その場にいるものすべてが、それを直感的に悟る。
そして…。
「これで…最後だ!!」
踏み出した総司が、
快人も、
そして…。
ガキン!!
「なぁ!?」
総司が驚きに目を見開いた。
総司の
互いの拳が壊れ、衝撃でその腕が上に弾き上がる。
その瞬間、快人は最後の一歩を踏みこんでいた。
超至近距離、十数センチの距離で快人と総司の視線が交錯する。
そして、快人がニヤリと笑った。
ゴッ!!
重い衝撃音が辺りに響いた。
「…知ってるか?
戦いってのは力でするもんじゃない、頭がいい奴が勝つんだぜ」
「…ふん。 おまえの場合、ただ石頭なだけだろうが」
互いの頭をぶつけた体勢…いわゆるヘッドバットの状態で快人の言葉に、総司は心底呆れたように苦笑すると総司の身体が揺らぎ、そのまま仰向けに倒れ込む。
そして快人は右手を握り、天高く突き上げた。
「俺の…勝ちだ」
「…ああ、俺の負けだ」
快人の宣言に、総司が倒れたまま答えたのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
「痛ぅ…」
「快人くん!!」
決着がついたと同時に揺らぐ快人を、飛び出したなのはが支えた。
「待ってて、すぐ回復魔法を…!」
「…ああ、頼む」
なのはに支えられ、回復魔法を受けながら快人は身体を引きずって倒れた総司へと近づく。
「総司くん! しっかりして!!」
倒れた総司には、すずかが縋りつくようにしてその名を呼んでいた。
その声に答えるように、総司がゆっくりと目を開ける。
「すずか…か…」
「総司くん!!」
総司の顔を覗き込むすずかへ視線を巡らせ、総司は快人へと視線を移した。
「こんにちは、敗者。
気分は?」
「…最低だ」
「そりゃ、結構なこった」
総司の反応に、快人はくつくつと笑う。
そんな快人に、総司はこんなことを言いだした。
「蟹名快人、頼みがある…俺を…殺してくれ」
「なっ、何言ってるの!?」
突然の言葉に驚くすずかを無視して、総司は快人へと言葉を続けた。
「俺を弄んだあの女神が、負けた俺をそのままにしておくはずがない。
俺の魂は、あの女の枷がはめられている。
このままでは、操られた俺が何をしでかすか分からん…。
だから…頼む。
その前に俺を殺してくれ…」
「…」
その言葉に、快人はなのはを押しのけるとゆっくりと総司へと近づく。
「や、やめて快人くん!? この人を、総司くんを助けて!?」
そう言って快人を止めようとしたすずかを、なのはが押しとどめる。
そしてなのははすずかに向かって、まるで『大丈夫』とでも言うように無言でゆっくりと首を振った。
快人はしゃがみ込み、右の拳を握りしめる。
それを見た総司は、ゆっくりと目を閉じた。
だが…。
ベシン!
「ぐっ!」
「あほか、お前は」
総司の額には、快人のデコピンが叩き込まれていた。
「あのなぁ…お前が死んだらそれこそ、その舐めた女神の思うツボだよ」
「だが、今ここで殺さなければ、再び俺はお前らを殺しにくるぞ。
それだけではない、何をしでかすか俺自身もわからん」
その言葉を、快人は鼻で笑う。
「ふん、望むところ。 いくらでもかかって来い。
お前が『神』に操られて何かやろうとしても、俺が止めてやる。
お前如き、俺にかかればお茶の子さいさいよ」
「…その割にボロボロなの」
「うっせぇ!」
横からの肩を竦めたなのはの言葉に苦笑してから、快人は真顔に戻りながら総司に言う。
「俺だって1人の『兄』として、兄弟を弄んだクソ神には腹が立ってるんだ。
それの思い通りにことが運ぶことを手伝うなんて、死んでもお断りだぜ。
それに、さ…」
そこまで言うと、快人はチラリと横のすずかを見た。
涙を流しながら総司を心配そうに見つめるすずかに、快人は肩を竦めると総司を見る。
「お前は『血の絆』で繋がった弟を失った…これはもう、何をやっても覆らない。
でも、『絆』っていうのは日々新しく生まれるもんだ。
そして、その『絆』は明日を生きる理由になる。
お前には明日を生きるだけの理由になる『絆』が出来てるみたいだからな」
「弟を殺した俺に『絆』など…」
「だったらその似合わねぇ、ファンシーなネックレスはなんだ?
俺の記憶だと、夏の旅行の時にすずかが水族館で誰かのお土産用に買ってたもんだと思うんだけどな」
「…」
「自分を想ってくれる誰か…それは死者も生者も含めて尊いもんだ。
だから…お前は生きろ。
生と死を見る
「蟹名快人…」
快人は総司に笑いながら手を差し伸べ、総司もゆっくりと手を伸ばす。
その光景に、誰もが事件の終わりを思った。
だが…。
「ぐ、ああぁぁぁぁぁ!!?」
「そ、総司くん!?」
総司の突然の絶叫に、すずかが縋りついた。
「お、おい! どうした!!?」
快人も訳が分からず、混乱しながら総司へと問いただす。
すると、総司は皮肉げに顔を歪めた。
「どうやら…駄目らしい…。
あの女が魂につけた枷が…俺を殺しにかかってるようだ…。
もう俺は…もたん」
「う、嘘だよね!? 総司くんが死んじゃうなんて、嘘だよね!?」
すずかの言葉に、総司はゆっくりと首を振る。
そしてすずかへと微笑んだ。
「…ありがとう、すずか。
俺は『神』に弄ばれ、弟を殺し、絆を無くした…。
そんな俺でも、誰かといる時間は、お前との時間は楽しかったよ…。
だから…ありがとう…」
「やめて、やめてよ!
そんなお別れの言葉みたいなのやめてよぉ!!」
すずかは総司の手を握り、大粒の涙を流しながら叫ぶ。
「助けて! 神様、総司くんを助けて!!」
だが、『神』は人を助けない。
どこまでも『神』は残酷で無慈悲だ。
だからこそ…人を助けるのは、同じ人なのだ。
「ふっざけんじゃねぇぇぇぇ!!」
快人の怒号が響き渡る。
「どこまで…どこまで俺たちをコケにしてんだ、そのクソ神はぁ!!
兄弟の絆を弄んだだけじゃ飽き足らず、用が無くなりゃポイってか?
それをよりにもよって俺の目の前で…生と死を見る
舐めてんじゃねぇぇぇぇ!!!」
快人の声に呼応するように、
「どけ、すずか!!
俺に任せろ!!」
快人はそう言って強引にすずかを総司から引きはがす。
「無理をするな、蟹名快人…。
相手はヘラ…オリンポス十二神の一柱、今までの連中とは『神』としての格が違う。
いや…あれはこの世界の『神』とは違う、下手をすればこの世界に干渉する高次元存在、『
その枷は、どうしようも…」
「はぁ!? 『神』がどうしたって!?
んなもん、チェーンソーで解体してやらぁ!!
いいか! この俺が! 勝者の俺が『生きろ』って言ってんだ!!
『神』の都合で死なせてなんぞやるか!!
敗者のてめぇは黙って、言われたようにこれからも生きろ!!」
そう言い放ち、快人は目を瞑り右手の人差指と中指をビシリと立てる。
灼熱のマグマのように激しく高ぶる感情は
そして、紫の怪しい光を放つ指先を快人は振りあげた。
「
肉体から分離した総司の魂が浮き上がった。
「思った通りだ…」
快人は浮き出た総司の魂を見ながら呟く。
総司の魂、その首にはどこかに繋がる鎖が巻きついていた。
その鎖が総司の魂の首を締め上げているのだ。
原因さえ分かれば、やるべきことは一つ。
「この鎖…ぶった切ってやる!!」
快人は指先に
快人は
だが…。
「な、にぃ!?」
魂に憑くその鎖はまごうこと無き『神』の呪縛。
そのあまりの頑丈さに、
いや、それ以上に
今夜の、強敵たちとの連戦に次ぐ連戦は快人の限界をとうに越えていた。
今こうして
だが…。
(誰が諦めるか!!)
周りを見れば一心に祈るすずか、そしてことの成行きを見守る全員の視線が集中している。
これらの期待を全て裏切り、ふざけた悪神の企みに屈するのは何よりも許せない。
そして快人は…最終手段に出た。
「おい、シュウト。
今すぐ俺に…デモンローズをぶち込め!!」
「え、えぇぇぇ!!」
快人の言葉に、シュウトはその意図を瞬時に悟る。
そのため、五感を封じることで
これを利用し、
デモンローズは五感を破壊する毒薔薇だ。
快人はデモンローズの毒で五感を強制的に封じることで
「む、無茶だ!
いくら解毒剤があってもデモンローズの毒は五感を瞬時に破壊する猛毒なんだよ!
後遺症が残る可能性だってある!」
「そこら辺の毒の量は、丁度いいように調整しろ!」
「そんな無茶苦茶な!?」
快人の無茶苦茶な発言に、シュウトは悲鳴のような声を上げるが、振り返った快人の言葉で何も言えなくなった。
「なぁに、大丈夫だ。
俺の弟、
「…ズルいなぁ、兄さんは。
そんな風に言われたら…やるしか無いじゃないか!」
シュウトは紅薔薇を取り出し、
そして、投げ放ったデモンローズが快人に突き刺さった。
「うっ…!」
触覚が、嗅覚が、味覚が、視覚が、聴覚が消えていく。
快人の意識は
~~~~~~~~~~~~~~~
感覚を失った快人は、外部から見れば死人のようだ。
その右手を掲げたまま、快人は微動だにしない。
だがそれでも、快人の
「お願い、お願い!」
一心に祈るすずかと、全員が見守るそんな中…。
「…」
なのはが、動いた…。
~~~~~~~~~~~~~~~
意識の内側で、快人は苦しんでいた。
(足りない、足りない、足りない!!)
あの鎖の強度は何となくだが理解できている。
五感を封じ、半ば強制的に
(あまり時間もない…)
あの鎖が総司の魂をくびり殺すまでは、そう長くは無い。
それまでに
(そんなこと…他でもない、俺の目の前で許せるか!!)
儚く散りゆく『命と幸せ』を守るために、快人は戦う。
その快人の目の前で、命を弄ぶ行為をするなど許せるはずがない。
だが、現実問題としてそれだけの
焦りが泥沼のように快人を引きずり込もうとしたその時だった。
(これは…)
五感が消えたため、魂の部分で外部を認識した快人は、誰かが自分の隣に立っていることに気付いた。
その人物は…。
(なのは…)
なのはは快人の掲げる右手にスッと、支えるように手を添える。
そしてなのはは寄り添うように側に立つと、快人の耳元で言う。
「快人くん、あの時の約束覚えてる?
ほら、この事件が始まる前の、公園での試合に勝った時の約束…」
よく覚えている。
『缶に魔力弾を当てられたら、なんでも一つ言うことを聞く』という約束で賭けをして、快人がなのはに一杯喰わされたときの話だ。
「何でも一つ言うこと聞くって約束だったよね?
ずっと保留にしてた『お願い』、今言うね…」
そして、なのははその『お願い』を口にした。
「総司くんを助けて、みんなが笑顔でこの事件を終わらせて!
お願い、快人くん!!」
その切なる声が、快人の魂へと響く。
そして、それを聞いた快人の意識は噴き上がる笑いを止められなかった。
(あ、あはは! あはははははは!!
あいつは、このタイミングで俺に、そんな『お願い』をするのかよ!
あははははは!
最高だよ! 最ッ高だぜ、なのは!!)
幼馴染の最高の無茶苦茶さに、もう笑いが止まらない。
清々しい気持ちが、快人の焦りを消していく。
(くっくっく…
OK、OK!
そのオーダー、必ず叶えるぜ、なのは!!)
焦りの消えた快人の意識が、再び
だが、不安など欠片も無い。
女神のために戦う時にこそ、その真なる力を発揮するもの。
そして…快人にとっての勝利の女神は今、その右側で快人の力を信じて寄り添っているのだ。
(俺の
刹那の瞬間でもいい!
生も死も、神も邪神も全てを越える領域まで…燃えろ!!)
そして…その
見えたその光に、快人は手を伸ばした。
(いっ…けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)
~~~~~~~~~~~~~~~
「「「「「!!?」」」」」
快人の発する
その
「ナ、のはぁぁぁ!」
「うん!」
片言のような絞り出すような快人の声になのはは頷き、快人はその掲げた右手を一閃する。
そして…。
バリン…
呆気ないほどの簡単な音と共に、総司の魂の首に巻きついた鎖は断ち切れていた。
総司の魂が、その身体へと戻っていく。
「はぁはぁはぁ…」
なのはに支えられ、肩で息をする快人の目の前で総司が目を開けた。
「俺は…」
「感じるだろ? お前の魂の枷はぶっ壊したぜ。
これで…お前は自由に生きれる」
「自由…? これが…自由か?」
そう言って、目を覆い隠す様に手を掲げる総司。
「まぁ、自由になってまず最初にお前がやることは…」
「総司くん!!」
そこまで言った快人を押しのけるように、すずかが総司に縋りついて泣き始める。
そのすずかの髪を、総司は2・3度優しく撫でた。
「…最初にやることはすずかの相手をすることなんだが…俺が言うまでもねぇか?」
そう言ってポリポリと頬を掻く快人。
そして、快人は自身を支えるなのはの顔を覗き込んだ。
「お願い聞いたが…こんなもんでどうですか、お姫様?」
「バッチリだよ、快人くん!」
満面の笑みのなのはに、快人も微笑みを返す。
「メリークリスマス、なのは」
「メリークリスマス、快人くん!」
ここに、激闘の聖夜はゆっくりと幕を下ろしたのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
「「…」」
事件の終わりに喜びあう中で、シュウトと大悟は少しだけ険しい顔で快人を見ていた。
五感が消えていた快人は気付いていないようだが、あの刹那の瞬間に快人が発揮した
それは『セブンセンシズ』をも越える
知識としては存在することは知っている。
だが、
それは『エイトセンシズ』…
そしてもう一つ…あの眩しい閃光の中でシュウトと大悟は確かに見た。
快人も気付いていない刹那の瞬間だけ、快人の
それは
だが、そのためには女神の血が必要となるはずだ。
何かが世界に起きている…それを強く感じさせる出来事に、シュウトと大悟は身を震わせるのだった…。
遂に決着の蟹座VS双子座でした。
少年漫画をイメージしまくった、泥臭いほどのニーサン大決戦はいかがだったでしょうか。
今回のことで、やっと総司が仲間になります。
この辺りの殴り合った末の友情は、少年漫画をこれでもかとイメージしました。
そしてチラリと登場、第八感と蟹座の神聖衣。
主人公たちの最終的な目的地です。
とはいえ
『ボロボロの極限状態』+『デモンローズで五感封じ』+『なのはに尻を叩かれる』
ここまでやって今の快人では、奇跡的に刹那の瞬間、右手のみの変化程度。
最終目標への道は遠い…。
次回からはまた数回に分けてA‘S編の後処理と、この世界の現状確認となります。
この世界の現状・状況、そして聖闘士と魔法少女の進む道にご期待下さい。
今週のΩ:体育座ことオリオン座出陣。
えー…お前は結局何がやりたくて誰の味方なんだよ?
アリア死んで後悔はわかったが、一緒に戦う気は無いとか…でも処女宮の上に弾き飛ばしてくれたのはファインプレー。
思っくそ反逆しても、息子はきっと分かってますよと信じる家族がけなげすぎる。
マルスさんちは、意外にいい家庭なのかもしれない…。
そして水瓶座出陣…って、おい!
水瓶座がどうして時間操作系になってるんだよ!?
そこは時間を凍らせてる、とか言えば納得できるかもしれないが…水瓶座の聖衣がとんでもない悪の洗脳装置になってるのはどういうことよ!?
というかこれ、色が黄金なだけでやってること完全に冥衣だよ!?
我が師カミュ! この聖衣とんでもない欠陥品ですよ!!
そして次回は天秤VS水瓶の黄金対決。
予告で童虎老師がでたぁ!!
老師だけはまるでお変わりないようで安心です。
どうやら玄武は童虎と関係あるようだが…だとしたらお前何歳ってことに…。