俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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週一投稿のペースが崩れた…orz

今年最後の投稿、今までで最大文字数になりました。
色々状況が動きます。
そしてついに最後の1人も名前だけチラリと登場。


第38話 聖夜に祝福を/絶望へ反逆を(前編)

 

 

「うっしゃぁぁぁぁぁ!!

 よくやったわ、蟹名快人!!」

 

天界にて。

浮かんだ映像を見たアテナ様はガッツポーズ。

その横ではヘラが驚愕の表情を浮かべていた。

 

「ば、バカな! 底辺の蟹座ごときに私の、双子座が負けるはずが…」

 

「ふーんだ。

 私の選んだあいつは心底しぶといのよ」

 

悔しそうなヘラにアテナ様は胸を張った。

そんなアテナ様の肩をアフロディーテ様が叩く。

 

「はいはい、アテナ。 気分がいいのは分かるけど今はそうじゃないでしょ」

 

「そうだった!

 ヘラ、やっぱりあんたなんじゃないの! あの世界に干渉してたのは!!」

 

「あら、何のこと?

 私は今だって何もしてないでしょ?」

 

「魂への枷なんて、条件が一致したときに発動するようにすればいいだけでしょ。

 今、何もしなくてもあんたが無関係な証拠にはならないわ!

 それに、あの双子座の転生者が思いっきり話してたじゃない!!」

 

「あら、あんな人間の言うことなんて信じてるの?

 昔っからおつむの軽い子だと思ってたけど、悪化したんじゃないの?」

 

「んだとコラァ!」

 

「はい、アテナ、どうどう」

 

「アテナ、落ち着くッス!」

 

今にもとびかかりそうなアテナ様を、アフロディーテ様とアルテミス様が左右から押さえつける。

だが、そのヘラを見つめる視線は一様に冷たい。

アフロディーテ様もアルテミス様も、人間を弄ぶようなことをしているヘラには嫌悪感を露わにしていた。

だが、そんな視線を投げかけられてもヘラはどこの吹く風と肩を竦める。

 

「だから私が干渉する動機は? 証拠は?

 ほら、言ってみなさいよ、さぁ!」

 

「ぐっ…」

 

それを言われてはアテナ様も何も言えない。

だがその時、第5の声が響いた。

 

「証拠と動機ならぁ、ここにありますぅ!」

 

その声に振り返ればそこにはニコニコと笑う、ナイスバディな女神さまが1人。

彼女を知るアルテミス様はその名を呼んだ。

 

「が、ガイア!?」

 

「はい、アルちゃん、元気ですかぁ?

 それに、アテナちゃんもアフロちゃんも久しぶりですぅ。 元気ですかぁ?」

 

「あんた、相変わらずね」

 

ボケボケしたスローテンポ、そして独特の間延びした声にアテナ様は呆れたように、だが懐かしそうに苦笑する。

 

「ガイア、再会を喜ぶのはあとにしましょう。

 それより今、面白いこと言ってたわね。

 どういうこと?」

 

アフロディーテ様がガイア様に問いかけると、ガイア様は頷いて話を始める。

 

「実はぁ、私もあの世界、ちょっとおかしいと思って色々調べたんですぅ」

 

「えっ? 私もアフロも調べたけどおかしな部分は…」

 

その言葉に、ガイア様は首を振った。

 

「アテナちゃんもアフロちゃんも、『今の世界』しか調べなかったんじゃないですかぁ?」

 

「? なんか駄目なの?」

 

「よぉく考えて下さい、あの世界では普通じゃないのが『復活』してるんですぅ。

 『発生』じゃなくて、『復活』ですぅ。

 『復活』っていうのは、『昔いたものが蘇る』ことですぅ。

 そうなれば、『今の世界』を調べるだけじゃ駄目ですぅ」

 

「そ、そう言われれば!」

 

アテナ様はガイア様の言葉に激しく頷く。

そう、デスマスクしかりアフロディーテしかり邪神エリスしかり夢神ボペトールしかり…全員『復活』しているのだ。

それなら、あの世界で『過去にこれらが存在した』という事実があったことになる。

 

「そう思ってぇ、『あの世界』を広く調べてみたんですぅ。

 そうしたら…こうなってましたぁ!」

 

そう言ってガイア様がとりだしたのは1枚の書類。

その内容を一読したアテナ様・アフロディーテ様・アルテミス様の顔がサァっと青く変わる。

 

「ちょっと、あの世界は『リリカルなのは』に酷似した世界だったはずよ!

 それなのに、なんで『世界基盤』がこんなことになってるのよ!?」

 

「こ、これどう見てもヤバいッス!!」

 

「ど、動機は何なの!?

 これだけヤバイことを…『あの世界』を完全に滅ぼすようなことに、ヘラに何のメリットがあるの!?」

 

あまりの内容に顔を青くさせた女神一同の中で、アフロディーテ様はこれだけの大それたことをヘラがやる動機が分からずガイア様に問い詰める。

そして、ガイア様はその動機を語った。

 

「これは全部、私たちの送った転生者を殺すためですぅ」

 

「はぁ!?

 ここまで規則破ってその目的が私たちの送った転生者を殺すためって…それに何のメリットがあるの!?」

 

「メリットというより…これは『証拠隠滅』なんですぅ」

 

「『証拠隠滅』…?」

 

訳がわからず問い返すアテナ様に、ガイア様は続ける。

 

「私たち神のお仕事は『魂の適正管理』ですぅ。

 魂を適正に管理し、世界を維持していくことが役目ですぅ。

 でも、それでも予定外の事故はあるですぅ。

 そう、丁度『あの地下鉄事故』のように…」

 

「そうね。

 そんな『管理外の魂』はそのまま霧散して消えてしまう、管理帳簿外のもの。

 だから偶然見つけた事故で、『管理外の魂』だからこそ、千載一遇のチャンスと思って前々から妄想してた計画を実行に移した…。

 まぁ、可哀そうでもあったし、救える分くらい救ってやりたいとも思ったからね。

 でも、それも『管理外の魂』のだからこそ。

 管理内の魂にそんなことしたら重大な規則違反だからね」

 

「ぼくもガイアも、偶然アテナとアフロがそれをやるのを見て、同じように残ってた魂を転生させたッス」

 

神といえど、人の魂を軽々しく転生などさせられない。

それらは本来、適正に管理されるものだからだ。

だが予定外の事故によって発生する『管理外の魂』なら話は別、霧散して消えてしまう魂だからと神のちょっとした気まぐれが許される。

だからこそ、予定外の『あの地下鉄事故』を偶然発見したアテナ様とアフロディーテ様は快人とシュウトを転生させた。

同じように、アテナ様たちの様子を見ていたアルテミス様もガイア様を誘い、『あの地下鉄事故』の魂から転生者を送り込んだ。

だが…。

 

「でもぉ…あの『事故』が『事故じゃない』としたらぁ?」

 

「それって…」

 

アテナ様のその問いには答えず、ガイア様は無言で新しい書類を取り出す。

そこに書かれた内容を読んだ女神様たちは驚きで目を見開き、同時にすべての事情を理解した。

 

「あ、んたぁぁぁ!!」

 

ヘラに飛びかかろうとしたアテナ様を、再びアフロディーテ様とアルテミス様が押さえた。

 

「駄目ッスよ、アテナ!」

 

「離しなさい!

 この女…こんな不正やらかして、その証拠消そうとこんなヤバイようにあの世界いじくり回して…。

 一発殴らなきゃ気が済まないわ!!」

 

「落ち着きなさい、殴っても何にもならないわ。

 それに…この女はもう終わりよ」

 

アテナ様を押さえつけながら、アフロディーテ様が冷たく言い放つ。

 

「これだけの証拠があるんだから、もうこの女は終わりよ。

 公平な裁判でこの女を裁いて、あの世界に還元してやったほうが利口でしょ?」

 

「そうね、そうよね!!

 覚悟しなさいよ、ヘラ! 行くわよ、みんな!!」

 

そうアフロディーテ様に諭されたアテナ様は、善は急げと駆けていく。

 

「あ、アテナ待つッス! ぼくも行くッス!」

 

「私もぉ、行きますぅ!!」

 

そんなアテナ様を追い、アルテミス様もガイア様も駆けていく。

 

「…人の魂を弄んだこと、せいぜい後悔しながら裁きの時を待つことね」

 

最後に、軽蔑の視線とともにアフロディーテ様がヘラに吐き捨て、アテナ様を追った。

残っているのはヘラだけだ。

 

「裁き、ねぇ…。

 そんなのこの私に下せると本気で思ってるのかしらね、あのバカどもは」

 

ヘラはただ1人、部屋で薄く、邪悪に嗤った…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

激闘の聖夜は終わった。

全員はすぐにアースラに収容されたが、ここに来て激闘を戦い抜いた黄金聖闘士(ゴールドセイント)に限界が来た。

4人はそれぞれ小宇宙(コスモ)を限界まで消耗していたし、肉体の怪我もかなりのものだ。

そのため、セージは『守護宮』の使用を許可した。

 

「アルバフィカ、ここにいる皆を頼んだ。

 そうだな…3時間ほどで戻ってくるように」

 

「お任せ下さい」

 

そう言ってアルバフィカの引率の元、『双魚宮』での治療が開始されることになった。

『双魚宮』におもむいたメンバーは黄金聖闘士(ゴールドセイント)4人、そして自ら同行を希望したなのは・フェイト・はやて・すずか・アリサ、そしてシャマルだ。

なのは・フェイト・はやてはお互いの幼馴染を心配するのと同時に、すずかとアリサに今までのことなどを説明するため、そしてシャマルはその回復魔法での治療のために同行を選んだ。

突然、何も感知できずに11人もの人間が消えたことに管理局側は面食らうが、セージは気にした様子もなく、目の前に跪く3人に声をかける。

 

「さて…ハスガード、アスプロス、デフテロス、おもてを上げよ」

 

「「「はっ!」」」

 

顔を上げたのは大悟の師であるハスガード、総司の師であるアスプロス・デフテロス兄弟だった。

 

「まずはハスガード、何か申し開きはあるか?」

 

「…ありませぬ。

 少女を救うためとはいえ聖闘士(セイント)の拳を使い、さらに夢神復活の危機を招いたこと…申し開きもありません。

 師として、この身はいかな罰も受けましょう。

 されど、大悟は金牛の星の名を継げるほどの逸材。

 教皇様、どうか大悟には寛大な処置を…」

 

「そう心配をするな」

 

恐縮するハスガードに、ポンとセージは肩を叩く。

 

「確かに手加減をしていたとはいえ、聖闘士(セイント)の拳で罪無き魔導士を襲撃し怪我を負わせたことは許し難い。

 しかし、それも邪悪からではない。愛する少女を救わんとするため。

 その愛を否定するほど愚かではないつもりだ。

 それに夢神ボペトール討伐の功績は大きい。

 今後は、お主の弟子には管理局への協力などの任務を与えようと思う。

 その力にて力なきものを守り、罪滅ぼしとするように」

 

「はっ! 教皇様の温情、弟子にかわり厚くお礼申しあげます!」

 

セージの言葉に、ハスガードは深々と頭を下げた。

 

「さて…次にアスプロス、デフテロス…お主らも苦労をしたようだな」

 

「…悪神の支配に屈した我ら兄弟にも、申し開きはありません」

 

「いかなる沙汰も受けましょう。

 しかし、我らが弟子、総司には…」

 

「みなまで言わずともよい。

 ヘラと言えばオリンポス十二神、しかもその魂だけではいかなお主らとて抗いきれまい。

 それにお主らの弟子は、快人やシュウトしか襲ってはいない。

 快人やシュウトも、そのことで責める気はなかろう…。

 それに、だ…」

 

そこまで語り、セージはフッと笑う。

 

「我が弟子、快人の意外な成長も見て取れた。

 それもお主らの弟子が強大であったお陰…あのような素晴らしい聖闘士(セイント)を育て上げたこと、賞賛に値する。

 聖闘士(セイント)同士の私闘は禁じられているが、今回は不問とする。

 お主らもその弟子も、再び邪悪から愛と平和を守るために我らとともに歩んでもらう。

 よいな?」

 

「「はっ、我らの力は愛と平和を守るため、いついつまでも!!」」

 

「ふっ…お主ら双子とその弟子の活躍、期待しておる」

 

ぴったりと息の合った言葉に、セージはほほ笑む。

アスプロス、デフテロス兄弟の辿った運命を知る者として、この2人が反目することなく同じものを目指して共に歩む姿に、自身も『弟』であるセージは心洗われるようだった。

セージはそこまで決定を下すと、リンディやグレアムの方へと振り返る。

 

「さて、リンディ女史、グレアム殿。

 我々とそちらも、話し合うことは多いと思う」

 

「え、ええ…こちらとしても、色々と話し合いたいことがありますので」

 

「では、さっそく参りましょうか…」

 

立ち上がるハスガード、アスプロス、デフテロスを伴い、管理局との交渉へとおもむくセージ。

 

(快人があれほどによくやったのだ。 私も負けてはおれんな。)

 

良き弟子は、師も成長させるという。

快人の活躍に触発されたセージは自分の戦う交渉という戦場へと、意気込みを新たにするのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

セージ達聖闘士(セイント)側と管理局側が交渉に入っている間、残されたクロノ・ユーノ・アルフはエイミィの元にやってきていた。

その目的は今回の戦いでのデータ解析である。

ボペトール出現前の戦いはアースラからのサーチャーを通してその記録を取っていたし、ボペトールが出現後はクロノのデバイスであるS2Uとデュランダルにその記録が残されている。

その記録映像に今夜の戦いが映し出されるが、そのすべてがクロノ達管理局の理解の外側だった。

一番理解できそうな『なのは&フェイトVS闇の書の防衛プログラム』の一戦とて、常識破りのオンパレードだ。

互いの一撃一撃に籠る推定魔力・威力は桁違い、さらにその直撃を受けても傷一つ付かないなのはとフェイトの纏った聖衣(クロス)の防御能力はもはや笑うしかない。

だが、今夜はこれ以上の戦いが繰り広げられた。

『快人VS大悟』、『全員VS闇の書の闇+夢神ボペトール』、『快人VS総司』…なのはたちの一戦ですらそうなのだから、黄金聖闘士(ゴールドセイント)の全力で暴れまわる戦いはすでに視認すらできない。

限界までスローにしても光しか見えない光速戦闘に、桁違いの威力を誇る奥義の数々。

推定能力や推定威力の分析などコンピューターが早々にサジを投げてしまい、『推定不可能』という投げやりな文字を羅列するだけだ。

 

「これ…本当に現実なんだよね?」

 

「…目の前で見た僕も、実は夢なんじゃないかって疑ってるよ」

 

半笑いのエイミィに、同じくクロノも呆れたように返した。

そして改めて、自分たち管理局が井の中の蛙だったことを思う。

今まで次元世界では魔法こそが人間の持ち得る最強のツールだった。

だが、その根底を覆す光景が映像には映し出されている。

彼ら黄金聖闘士(ゴールドセイント)が1人でも本気になったら、管理局の全戦力を集結させても返り討ちにあうだろう。

エイミィとクロノは、『魔法至上主義』の終焉が見えたような気がした。

 

一方、ユーノは今夜の事件の映像を見ながら認識を新たにする。

 

(やっぱり彼ら聖闘士(セイント)こそ、あの破滅の予言にあった、たった一つの希望なんだ!)

 

リンディと共に、破滅の予言について知るユーノはそう確信する。

そして、ユーノは破滅の予言の全文を思い出していた。

 

 

 

『古の彼方に在りし者たち、幾星霜の果てに目覚めの時を迎える。

 彼の者たち、長き時を経て蘇りし傲慢なる王なり。

 王たちの傲慢は死を運び、王たちの軍勢は破滅を呼ぶ。

 屍の山を築き、血の大河を成し、それでも王たちの蹂躙はとどまる事無し。

 法の力にこれを止める術はない。

 現世はすべて、古の闇へと還るであろう。

 

 傲慢なる王たちの軍勢に抗えしは、黄金の闘士たち。

 星の力を秘めし誇り高き闘士たちの、頂点を極めし者。

 無限なる宇宙を魂に秘め、その拳にて空を裂き大地を砕く。

 その力こそ、かの王たちに抗するただ一つの力。

 されど王たちは強大なり。

 いかな黄金の闘士とて、その力の前に膝を折ろう。

 黄金の闘士に力与えるは、清らかなる祈り。

 それあらば、黄金の闘士は死せず。 幾度膝を折ろうが立ち上がり、王へと向かう。

 かくて、黄金の闘士は祈りと共に力を手にする。

 その力、すべてを超えた領域にあるもの。

 これぞ唯一無二、現世を守りしただ一つの希望なり』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

3時間の時が流れ、黄金聖闘士(ゴールドセイント)と少女たちが戻ってくる。

戻ってきた黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの怪我がすっかりと癒えていることに、リンディを始めとする管理局側は驚きを見せた。

いかに回復魔法を得意とするシャマルがいるといっても、たった3時間であれだけの黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの傷が完全に癒えるはずがない、という管理局の常識がまたも覆され、もはやリンディたちは笑うしかない。

実際は黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの身体能力と小宇宙(コスモ)により、異常に効きの良くなった回復魔法による治療を3日間も受けたからなのだが、それを管理局が知るすべはなかった。

 

「で、じいさん。

 後始末は一体どうなるんだい?」

 

「その辺りは、詳しくは年明けに管理局上層部との対話ということになっておる。

 協力という面では、今までとあまり変わらんよ。

 そこな牡牛座(タウラス)と騎士は事情はどうあれ、罪なき者を襲い怪我を負わせたのは事実、罪の償いは必要になる」

 

「主はやて、我らヴォルケンリッターは管理局への協力という形で罪の償いをしようと思います」

 

「情状酌量の余地もあるし、そう酷いことにはさせないよ」

 

シグナムが代表してはやてに言うと、クロノも管理局としてヴォルケンリッターたちへの措置を横から言った。

その言葉にセージも頷き、大悟と総司へと決定を下す。

 

牡牛座(タウラス)の牛島大悟よ、お前も管理局への協力に積極的に参加してもらおう。

 お前の師ハスガードにも言ったが、それを持って今回への件は不問とする」

 

「教皇様…ありがとうございます」

 

「そしてもう1人…双子座(ジェミニ)の双葉総司。

 お前は快人とシュウトへと襲いかかったが、邪悪なる神により操られていた故致し方あるまい。

 今後は聖闘士(セイント)として正しき道を行くがいい」

 

「はっ…」

 

深々と頭を下げた大悟と総司に、少女たちも満足げだ。

 

「これでやっと、『闇の書』の悲劇は終わったんやな…」

 

はやてがそうしみじみと呟くと、その場の空気が変わる。

 

「実はそれなんだけど…」

 

言いにくそうに目を伏せてリンディが言うと、その言葉をさえぎるようにリインフォースが一歩前に出て、黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちに言う。

 

「誇り高き黄金の闘士たちよ、ありがとう。

 私があの『神』といわれるものによって創らされていた悪夢を打ち砕いてくれて…」

 

「へっ…悪神を討つのは俺達聖闘士(セイント)の仕事ってな」

 

「もう悪夢を創る必要はない。 これからは自分の『夢』を創れるよ。

 あの『夜天の書』の製作者の望んだようにね」

 

快人とシュウトの言葉に、リインフォースは悲しげにほほ笑み、首を振る。

 

「残念だが、そうもいかない…。

 頼みたいことがある、黄金の闘士たちよ…。

 私を…破壊してほしい」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

その言葉を聞いた少女たちが絶句する。

今回のことですべての元凶である『夢神ボペトール』は、切り離された防衛プログラムと共に消滅した。

だが、リインフォースの歪められた部分はそのままだ。

このままでは新たな防衛プログラムが生成され、暴走をしてしまうという。

『夢神ボペトール』が存在しなくても、その暴走した防衛プログラムはまさしくロストロギア、世界一つを滅ぼすのに十分すぎた。

 

「幸いなことに守護騎士プログラムは完全に切り離せました。

 『夜天の書』を破壊しても、守護騎士たちは消滅しません。

 逝くのは私だけで済みます」

 

「破壊なんてせんでえぇ!! 私がちゃんと抑えるから…」

 

そう涙を流しながら縋り付くはやてを、優しく諭そうとするリインフォース。

大悟と守護騎士たちも悲しそうに見つめていた。

 

「ねぇ、クロノ。 何とかならないの?」

 

フェイトの言葉に、クロノは首を振る。

 

「それこそ年単位での長期間の解析ができれば解決策もあるかもしれないけど、それまでに暴走することが必至じゃどうしようもない。

 保管維持も不可能だし、破壊するしかないんだ」

 

それは管理局としての公式見解だったのだろう。

いつ暴走するかも分からず、封印手段も皆無なロストロギアを野放しにはできない。

管理局の言うことは至極もっともだ。

 

「良いのです。

 気の遠くなるような永い年月を生き、たくさんの世界を、命を壊してきた私が…最後の最後で綺麗な名前と心を貴女にいただきました。

 貴女のそばには守護騎士たちがおります。黄金聖闘士(ゴールドセイント)がおります。

 何も心配はありません。

 私は笑って逝けます…」

 

「リインフォース…」

 

はやてが止めてもリインフォースの決意は変わらなかった。

だが、そこに快人から待ったがかかる。

 

「ちょいと待て…」

 

「何だ、蟹座(キャンサー)黄金聖闘士(ゴールドセイント)?」

 

「お前、それでいいのか?」

 

「いいも何も、それ以外は…」

 

「いいから黙って答えろ。 お前の気持ちはどうなんだ?

 どうせ何言ったってタダなんだ。

 ほれ、本音を言ってみやがれ」

 

快人の言葉にしばし、リインフォースは口を開く。

 

「私だって…本音を言えば、生きたい!

 主たちと暮らしたい!

 だが…私は!」

 

その言葉を聞いた快人が顎を擦りながら、何かを考える。

そして今度はゆっくりと快人は、はやてに問うた。

 

「なぁ、お前は今後どうするんだ?

 小宇宙(コスモ)にも魔法にも目覚めて、今後はどうやって生きてく?」

 

「私は…なのはちゃんたちのように、この力を誰かの役に立てたいと思っとる」

 

「なるほど…戦う意思はアリ、か…」

 

再び何事かを考える快人。

そして、今度はリインフォースを指さしながらセージに問うた。

 

「じいさん、こいつの『中身』、どう思う?」

 

その奇妙な言い回しで合点がいったのか、セージも顎を擦りながら言う。

 

「なるほど…確かに強い情念。

 製作者とやらはよほどの想いを賭けていたのだな。

 文字通り、『魂』を賭けるほどに…」

 

「…よし!」

 

セージの言葉で決心がついたかのように、快人が手を鳴らす。

 

「じいさん、俺達の今回の夢神ボペトールを倒した功績、結構なモンだよな?

 ご褒美が欲しいんだけどよぉ…」

 

「…いいだろう、此度のボペトール討伐の功績を評価する。

 好きにやってみるがいい」

 

セージの苦笑しながらのその言葉に、快人は頷いた。

それまで、ことの成り行きを見守っていたなのはが快人に聞く。

 

「ねぇ、快人くん。

 一体何の話をしてるの?」

 

「ちょっとした可能性の話さ…。

 おい、リインフォース。 お前を破壊って話、少し待っちゃくれねぇか?

 どうせ今日明日にでも暴走ってわけじゃないんだろ?」

 

「新たな防衛プログラムの生成には少なくとも半年以上の月日はかかる。

 それまでは暴走はあり得ないが…」

 

「それなら…ちょっとした賭けに付き合ってくれ。

 もしかしたら、お前は死ななくて済むかもしれないぞ」

 

その言葉に、はやては目を見開いた。

 

「ほ、ほんまなん!?」

 

「あくまで可能性の話だ。

 今日明日、時間をくれ。 やるだけやってみる。

 …おい! 大悟、総司、お前らも手伝え!

 シュウト、もちろんお前も来い」

 

それだけ言い残すと、強引に3人を連れて『巨蟹宮』へと逆戻りしていった。

その快人に、セージは苦笑する。

 

「せわしないものだ。

 さて…なのは嬢、フェイト嬢。2人とも良くやった。

 あれだけの敵に一歩も引かず戦い抜いたこと、驚嘆に値する。

 だが油断はしてはならない。

 今後も、精進し続けるのだ」

 

「「はい!」」

 

「そして…はやて嬢。

 君も小宇宙(コスモ)と魔法に目覚めたことは知っている。

 君の手に入れたその力の意味を、誤らぬように。

 その力は、何かを守り何かを成すために存在するのだ」

 

「わかっとります。

 この力は、私みたいに誰かを絶望の呪縛から解き放つために!」

 

「フッ…ならば精進しなさい」

 

「はい!」

 

元気な少女3人の返事にセージは笑顔をつくる。

そして、今度はグレアムがはやてへと今までのことを告白し、謝罪をした。

 

「はやて君、すまなかった…」

 

「グレアムおじさん、頭を上げて下さい。

 私はグレアムおじさんのこと、恨んだりしてません。

 『闇の書』はたくさんの不幸を巻き起こしたんやから、おじさんの言い分にも一理あるのは分かります。

 それに何より、今回の事件では誰も死んでへん。

 新しい悲劇は生まれずに終わったんや。

 せやから…ええんです。

 グレアムおじさんは、自分を責めんでもええんです」

 

そう言ってグレアムの手を取り、はやてはほほ笑む。

グレアムは年甲斐もなく涙を流した。

 

「では…リンディ女史、参りましょうか?」

 

「ええ、ここからは大人の仕事ですからね」

 

セージの言葉にリンディが頷く。

なのはやフェイトによって、アリサやすずかは魔法や小宇宙(コスモ)聖闘士(セイント)や時空管理局のことを聞かされていたが、これはもう子供たちの秘密にしておくには大きすぎる。

実際、こんなに遅くまで帰ってこない娘たちを親御たちは心配しているだろう。

それらの事情説明のために、セージたちは動くのだ。

大人たちの仕事は、まだまだ終わりそうになかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

セージを筆頭にした聖闘士(セイント)師匠組と管理局の各家庭への説明はそれなりに難航した。

流石に常識を打ち崩すような荒唐無稽な話の連続であるから当然である。

だが、魔法や小宇宙(コスモ)による力を実演させられれば信じるしかない。

それに、各家庭がことの大小あれど『普通ではない』のだ。

今さらそれが増えたところでどうというわけではなかった。

そんな中、なのはは正式に家族へとお願いをしていた。

 

「学業との両立するから、今後も聖闘士(セイント)や管理局のお手伝いをさせてほしいの」

 

なのはは自分の進むべき道が、この道だと決めたのである。

フェイトやはやても同じく、戦っていく道を選んでいた。

これに渋い顔をするのは、家族としては当然だろう。

特に高町家は戦いを知る家系でもある。戦いがどれだけ厳しいかということを良く知っている。

誰が可愛い愛娘を戦場に送りだしたいなどと考えるのか。

だが、それでもなのはは頑なだった。

 

「私は偶然でもなんでも、『力』を手に入れたの。

 だったら、それは正しいことに使わなくちゃいけないと思うの…」

 

そんななのはの熱意に、最初に折れたのは母である桃子だった。

 

「なのはの人生、やりたいことが見つかったのならやってみなさい…。

 でも…無茶だけはしちゃダメよ。

 そしていつでも無事で帰ってきなさい…」

 

「お母さん…」

 

戦いに出る夫、士朗を見送り続けた桃子は強かった。

その母の強さと、愛されていることの感謝になのはが涙を流し、桃子が抱きしめる。

 

「…セージさん、なのはをお願いします」

 

「…心得ました。

 貴方がたの大事な娘、なのは嬢は確かにお預かりしました…」

 

士朗が深々と頭を下げ、セージがそれに返す。

こうしてなのはは正式に、戦いの世界へと足を踏み入れていくのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

12月26日夕方…守護宮から帰ってきた黄金聖闘士(ゴールドセイント)を筆頭に、事件関係者全員が集まっていた。

場所はすずかが提供してくれた、月村家の庭である。

今日ここに人が集まっているのはこれから、リインフォースの生存に関わる大事なことをするためだった。

リインフォースの前に快人を始めとした黄金聖闘士(ゴールドセイント)が、黄金聖衣(ゴールドクロス)を纏い、小脇にヘッドパーツを抱えながら立っている。

戦闘での傷が激しくところどころボロボロだが、それでも黄金聖衣(ゴールドクロス)は美しかった。

 

「さて…それじゃ始める前に確認をとっておきたい」

 

快人がおもむろに切り出す。

 

「今から試そうとしている方法は生か死かの二者択一、失敗すればそのままリインフォースは死ぬだろう。

 おまけに言えば、これは仮説の上に仮説を立てるような無茶苦茶な理論の元に成り立ってる。

 やろうとしてる俺が言うのもなんだが…賭けとしては分が悪すぎる。

 そしてもう一つ、成功した場合にも注意が必要だ。

 成功した場合、お前はこれから永遠に戦いの中に身を置くことになる。

 はやてが死のうがなんだろうが、だ。

 どうする、それでもやるか?」

 

「今のままでは私の生きる確率はゼロ以外にない。

 その確率がゼロ以外になるというのならば、賭けてみたい。

 それに私は元々、永劫を生きる魔導書…永遠に戦いの中に身を置くなど今までと変わらない。

 それよりも、私は主たちとの刹那の今を望む」

 

「そうか…。

 お前はそれでもいいか?」

 

リインフォースの言葉を聞き、今度ははやてに言葉を投げかけると、はやてはゆっくりと頷く。

 

「このまま何もせんかったら、リインの生きる目はない。

 せやったら、博打でも何でも、可能性のあるもんに賭ける!」

 

「わかった…」

 

2人の決意を聞き、快人は頷く。

すると興味があるのか、ユーノが遠慮がちに快人に問うた。

 

「快人、一体何をするんだい?」

 

「よろしい、それじゃ今からやることの説明をしよう」

 

その言葉に、快人は芝居がかったような口調で説明を始めた。

 

「『ピグマリオン』って話、知ってるか?」

 

その言葉にほぼ全員がはてな顔をするが、読書好きのすずかとはやては知っていたようですずかが説明する。

 

「確かピグマリオンって人が、自分の彫った彫刻の女の人に恋をして想い続けていたら、哀れに思った女神アフロディーテ様が彫刻の女の人を、本当の人間にしてくれたってお話だよね?」

 

「そう、それだ。

 みんなも知ってるだろう『ピノッキオ』なんてのも元ネタはこの『ピグマリオン』だろうな。

『ピグマリオン』に限らず、この手の話は古今東西にたくさんある。

 誰かが想いをこめてつくった器物に魂が宿る、って話だ。

 そして…それは真実だ」

 

想いの限りをこめて創られたものには魂が宿る…エピソードGでは娘を想う心で、石像に魂が宿るということもあったし、聖衣(クロス)なんて魂の宿る器物の最たるものだ。

 

「じゃあ次に全員に質問。

 リインフォースはただのプログラムか?

 主人を想い・泣くこいつに心は、『魂』はないと思うか?」

 

快人の言葉に、誰も何も言えない。

こんなに心優しいものに、『魂』がないなんて思えない。

 

「シュウトの話で、『夜天の書』の製作者が並々ならぬ想いでこいつを創ったことは知っている。

 そう、これが今回のことの根本にある『リインフォースには魂がある』という仮定だ。

 それなら魂を操るのは俺の専門、なんとかできるって寸法だ」

 

「なんとかって、どうやって…」

 

「それは…これだ!」

 

ユーノの言葉に、快人はいたずらっぽく笑うとそれを『巨蟹宮』から取り出した。

それは…。

 

「「「聖衣(クロス)!?」」」

 

それは十字の形をした、オブジェ形態の聖衣(クロス)だった。

 

「夏に戦った亡霊聖闘士(ゴーストセイント)から剥ぎ取った一つ、南十字星座(サザンクロス)聖衣(クロス)だ。

 4人がかりの突貫仕様でレストアしたものだけどな。

 聖衣(クロス)には、魂を宿らせる能力がある。

 事実、俺達の聖衣(クロス)には歴代の黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの魂が残ってるからな。

 ここまで来たら俺がやろうとしてることは察しがついただろう?

 そう…『魂の移植』をやろうとしてるんだよ」

 

快人の計画、それは『夜天の書』からリインフォースの魂を抜きとり、それを南十字星座(サザンクロス)聖衣(クロス)へと移植するというものだった。

そうすれば、もはや抜け殻の『夜天の書』はいくらでも処分ができる。

だが、この計画はまず『リインフォースには魂がある』という仮定が正しくなければ始まらない。

挙句、器物に付くという『魂』としては非常に質量が小さいもの。

上手く制御してやらなければ、『夜天の書』から取り出した瞬間にでも霧散してしまう。

『夜天の書』からの超精密作業で『魂』を取り出し、濃密な小宇宙(コスモ)で保護しながら南十字星座(サザンクロス)聖衣(クロス)へ移す…本気でできたらウルトラCだ、と快人は笑った。

 

「どうする、無茶苦茶なこの計画、乗るか?」

 

「無論だ…頼む!」

 

リインフォースの言葉に、快人は頷くと目を瞑り、人差し指と中指を立て、小宇宙(コスモ)を集中させていく。

怪しく紫に輝きだしたその指を、快人は振り上げた。

 

積尸気冥界波(せきしきめいかいは)!!」

 

瞬間、リインフォースの姿が掻き消え、力を失ったように『夜天の書』が地面に落ちる。

快人は目を瞑り、何かに意識を集中し続けている。

そして…。

 

「ふぅ…」

 

快人が息を付いた。

 

「ど、どうなん!? リインは、リインはどうなったん!?」

 

「呼んでみたらどうだ?」

 

はやての言葉に、快人は肩を竦めながら答える。

そして、はやてはその名を呼んだ。

 

「リインフォース!!」

 

その言葉に応えるように、オブジェ形態の南十字星座(サザンクロス)聖衣(クロス)がバラバラに分離し、はやてへと装着されていく。

そして…。

 

「主はやて…」

 

「その声は…リイン!!」

 

見れば、はやてのすぐ側にリインフォースはほほ笑みながら立っていた。

それの意味することは…。

 

「ああ、成功だ」

 

「「「「やったぁーーーー!!!」」」」

 

快人の言葉に、全員の歓声が上がる。

 

「ほんま? ほんまにもう、リインは死ななくてええの?」

 

「もちろんです。

 これからも…おそばで仕えさせてください、我が主」

 

「リイン!!」

 

はやてがリインフォースへと手を伸ばそうとした。

だが。

 

「お、重っ!? 聖衣(クロス)重っ!!」

 

「は、はやて!?」

 

聖衣(クロス)の重さに倒れそうになったはやてを大悟が慌てて支え、自身の小宇宙(コスモ)を送り込み、南十字星座(サザンクロス)聖衣(クロス)の重量を下げる。

その姿を見て、快人が笑った。

 

「はははっ。

 とりあえずはなのは達みたいに黄金の腕輪をつくる必要があるな。

 それと修行…聖衣(クロス)聖闘士(セイント)の至宝、それを使ってるんだからなのは達みたく戦えるように鍛錬を怠らないこと。

 そうしなきゃ取り上げる羽目になるからな」

 

「わかっとるよ。

 ありがとな、快人くん」

 

「結構結構、それじゃ…」

 

そう言って快人は『夜天の書』を拾い上げる。

そして、それをはやてへと投げよこした。

 

「ほら、初めての作業だ。

 お前の手で、破壊してやんな」

 

「…うん。

 やろか、リインフォース」

 

「はい…」

 

はやてが手にした『夜天の書』に魔力と小宇宙(コスモ)をかけると、『夜天の書』がボロボロと崩れていく。

 

「さようなら、お父様…」

 

リインフォースの呟き。

その場にいた全員が、崩れゆく『夜天の書』からスゥっと消えていく、ほほ笑む老人がいたのを見たような気がした。

ここに、いくつもの世界を滅ぼした最悪のロストロギア、『闇の書』に関わる事件は完全に幕を下ろしたのだった…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

12月28日、この日はなのはの実家である翠屋で忘年会がとり行われていた。

高町家、テスタロッサ家、八神家、月村家、バニングス家、そしてアースラクルーの面々が集まっている。

そして、各家の少女たちは思い思いの話に花を咲かせていた。

 

「へぇ、それじゃ総司くんはすずかちゃんの家に住むことになったんだ」

 

「うん。

 表向きは私付きの執事さん、ってことになるんだけど…ほら、私の『秘密』が知られちゃってるから、それで…」

 

「名目としては、誰かにばらさないか監視ってこと?」

 

「せやけど、ほんとは一緒にいれてうれしいんやろ?」

 

「えへへ…」

 

 

 

すずかの一族が『吸血鬼』だという秘密は、あの守護宮で3日間の中ですでに皆には話した。

だが、誰一人として驚くものはいなかった。

正直、魔法や小宇宙(コスモ)といったものや、その壮絶な戦いの後では全員、

 

『吸血鬼? だから何? 『神』より怖いの、ソレ?』

 

といった反応だった。

全員、本格的に感覚がマヒしていたとしか言えない惨状である。

あまりのアッサリっぷりに、すずかは今まで悩んでいたのがバカらしくなったほどだ。

ともかく、すずかとしては悩みが簡単に解決してしまったからいいが、彼女の実家、もっと言えば『夜の一族』としてはそうもいかない。

すずかはあの戦いを目撃したことで、以前総司が封印していた記憶がすべて戻っていた。

そのため、すずかを守り『夜の一族』でも有数の実力者だった氷村遊を簡単にあしらい、なおかつ秘密を知ってしまった総司には一族としてそれ相応のことをしなければならない。

とはいえ、総司たち聖闘士(セイント)の実力を知れば下手なことはできるはずもない。

そこですずかの姉の忍が提案したのが、総司を雇って目の届くところにおいておくというものだ。

丁度というべきか、総司は天涯孤独であり家族もいないため住み込みにさせても世間的にも問題はない。

妹のすずかが想いを寄せる逸材、ということで忍はそのあたりノリノリだった。

実際、未来の義弟になればと本気で思っていたりもする。

同時に、『夜の一族』の一人としての冷静な判断もそこにはあった。

もし聖闘士(セイント)が定期的に人の血を必要とする『夜の一族』を邪悪として認定すれば、『夜の一族』はたちどころに滅ぼされてしまう。

だから身近で自分たちを見てもらい、『夜の一族』は邪悪ではないということを総司を通して聖闘士(セイント)にアピールし、一族の安寧を図るという狙いだ。

この試みは大いに成功し、聖闘士(セイント)と『夜の一族』は結構親密な関係になっていくのだが、それはまだ先の話である。

とにかく忍の『夜の一族』としての一族の未来と、姉としての楽しいおもちゃ獲得計画は総司が『夜の一族』の立場を理解した上、すずかに懇願されたことで実行にうつされた。

少年執事、双葉総司はその実力を即座に発揮し、わずか1日ですずか付きのメイドであるファリンが自信を喪失する活躍をみせている。

さすがは天才の星、双子座(ジェミニ)の男だ。弱点のない男である。

 

 

 

そんな少女たちから少し離れた場所で、件の黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちは頭を抱えながら少女たち…正確にはすずかを見ていた。

 

「…一応聞くぞ、総司。

 何やらかしやがった?」

 

「…聞くな、頼むから」

 

快人の問いに、総司は頭を抱えながら答える。

本当ならこんなことは快人も聞きたくないが、事が事だけにもう一度総司に問うた。

 

「いいから答えろ、バカヤロウ。

 何やらかしゃ、いきなりすずかが小宇宙(コスモ)に目覚めてるなんてことが起きるんだよ」

 

そう、何がどうなっているのか、たちの悪い冗談のようにすずかが小宇宙(コスモ)に目覚めていた。

しかもいきなりに、である。

 

「まさか…また何か『神』の干渉か?」

 

大悟は最悪の事態を考え身を固くするが、シュウトは心底呆れかえったように言った。

 

「原因、首筋の『それ』なんじゃないの?」

 

「…」

 

総司は若干、顔を赤くしながら無言で首筋のその傷を手で覆い隠す。

総司には、すずかが小宇宙(コスモ)に目覚めてしまった理由に心当たりがあった。

原因は間違いなく自分である。

それというのも住み込みとなった昨夜、就寝という時間になるとすずかが総司の部屋を訪ねてきたのだ。

何の用かと尋ねると、『今夜は一緒に寝ようと思って…』と答え、いつの間にやら総司のベッドに潜り込んできたのである。

最初は部屋に戻るように言った総司だが、すずかには大きな借りがいくつもあり、しかも今は自分の主人のようなもの。

あまり強く言えないうちに、なし崩し的に同じベッドで寝ることになったのだが…その時、すずかが総司の血を吸わせてほしいと言い出したのだ。

総司としてはすずかの一族の体質は理解していたし所詮は献血のようなもの、と軽く了承してしまったのだが…これがいけなかった。

黄金聖闘士(ゴールドセイント)の血は超高純度の小宇宙(コスモ)の凝縮体だ。

しかも生の血液、聖衣(クロス)黄金聖衣(ゴールドクロス)に限りなく近いものにするほどの代物だ。

普通の人間ならまだしも、血を摂取・吸収する『夜の一族』にはこれは効きすぎた。

そのせいですずかの眠っていた小宇宙(コスモ)が刺激され、目覚めてしまったという次第である。

 

「「「…」」」

 

あまりのバカらしさにもう3人とも声は出ず、ただただ頭を抱えた。

さすがは双子座(ジェミニ)の男、最後の最後で詰めの甘いうっかりさんである。

 

「ま、まぁいいではないか。

 害はないようだし…」

 

「そうそう、見たところ小宇宙(コスモ)はどう見ても雑兵以下。

 フェイトたちと違って魔法なしじゃ、どうやっても戦いなんてできないし…」

 

大悟とシュウトが無理矢理なフォローを入れる。

実際、すずかの小宇宙(コスモ)はそんなものだ。

なのはたちが気づいていない辺り、それをよく表している。

小宇宙(コスモ)を感じ取れる程度…LC蟹座外伝に登場したスリの少女、ジョーカのようなものだ。

戦闘転用などできるはずもない。

とにかく…

 

「総司、お前絶対すずか以外の『夜の一族』に血、吸わせるなよ。

 まかり間違って小宇宙(コスモ)を使える悪の吸血鬼なんて出来た日にゃ、最悪だからな」

 

「…わかっている」

 

そんな中、BGMがダンスのものに変わった。

すると、少女たちが自分のお目当ての黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちのところへとやってくる。

 

「シュウ…」

 

「うん、行こうか、フェイト」

 

目と目で通じあい、手を絡め合うシュウトにフェイト。

 

「ほら、うっしー!」

 

「お、おい…」

 

大柄な身体を引きずるように強引に大悟の手を引くはやて。

 

「総司くん…」

 

「ふぅ…行きましょうか、お嬢様」

 

大仰に芝居がかったように優雅に手を取りあう総司にすずか。

そして…。

 

「快人くん」

 

「参ったなぁ。

 俺、ダンス苦手なんだけどな」

 

「…快人くんに得意なものってあったっけ?」

 

「はぁい、ぼくちゃんなのはイジメが大得意でぇす!」

 

「いはいいはいいはい!」

 

こめかみをピクピクとさせながら、なのはの頬を引っ張る快人。

四者四様、黄金聖闘士(ゴールドセイント)の少年たちと少女たちは取り戻した平和の中でほほ笑みあうのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ダンスになり、特定の相手のいないアリサは壁際でジュース片手にダンスの様子を見ていた。

なのはにフェイト、すずかにはやてと自分の親友たちはとても楽しそうだ。

それは隣に安心できる誰かがいるからだろう。

今の4人がアリサにはとても輝いて見えた。

同時に、意識していなかった呟きが漏れてしまう。

 

「いいなぁ…」

 

4人の隣にいるのは、いずれもタイプの違う4人の少年。

黄金の聖衣(クロス)を纏い、凛々しく戦う最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちだ。

自分だけが違うというのが、疎外感となって心に圧し掛かる。

 

「どこかに落ちてないかしらね、私を見てくれるような黄金聖闘士(ゴールドセイント)

 

冗談めいた呟きを吐いた時、アリサの携帯電話が鳴った。

それを取り出して見てみると、それはよく知る相手だ。

すぐにアリサは電話に出る。

 

「もしもし…ふふっ、久しぶりね。 元気?

 うん…うん…そうなの、ふぅん。

 うん、うん…」

 

相手の話に、アリサは笑顔で相槌をうちながら取り留めない話を続けていく。

 

「ごめん、私今パーティに出てるの。

 だから、また今度…会ったときに話しましょ。

 ニューイヤーはそっちで過ごす予定だから…。

 って、そういえばそっち今、朝5時ころじゃないの?

 うん…うん…あ、今アメリカにいないんだ。

 じゃあ次に会うのはどこ…。

 …わかった、パパに話しておくね。

 それじゃ、今度はギリシャでね、シャウラ!」

 

そう言って、アリサは電話を切る。

そして視線を戻せば、幸せそうに踊る4組。

 

「はぁ…」

 

なんだか虚しくなったアリサは深いため息をついたのだった。

だが、アリサは知らない。

すでに自分に、黄金聖闘士(ゴールドセイント)との縁ができていることを…。

それを彼女が知るのはもう数日先の話である…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ドンッ!

 

「どーいうことよ!!」

 

「ストップっす、アテナ!」

 

「そうよぉ、暴力はいけないわぁ」

 

天界の一室に、アテナ様の声が響く。

拳を机に叩きつけて怒りを露わにするアテナ様をアルテミス様とガイア様がなだめようとしているが、効果があるようには見えない。

アテナ様の視線は、机の対面に座るメガネをかけた女神様にくぎ付けである。

 

「もう一回言ってみなさい、アストライア!!」

 

「じゃあもう一回言ってあげるわ、アテナ…」

 

メガネをかけた女神様――アストライア様はクイッとメガネの位置を直すと、今しがたと同じことを言った。

 

「ヘラは裁けない。 以上よ」

 

「だから! それはどういうことよ!!」

 

「落ち着きなさい、アテナ」

 

再び激昂しかかるアテナ様を横からアフロディーテ様が抑えると、そのままアストライア様へと問う。

 

「どういうことなの、アストライア。

 提出したあれだけの証拠があれば、どう考えても有罪確定でしょ?

 訳がわからないわ…」

 

「…」

 

その言葉に、アストライア様は目を伏せる。

そして、ゆっくりと言った。

 

「……された」

 

「はぁ?」

 

震えるような小声で何かをアストライア様は言うが、よく聞こえずアテナ様は聞き返す。

すると、バッと顔を上げたアストライア様は吹っ切れたように叫んだ。

 

「もみ消されたのよ、全部、ヘラのやつに!!」

 

「なっ…!?」

 

「そうよ!

 あれだけの証拠があれば有罪確定、ヘラのやつの神の資格を剥奪してやることもできたわよ!!

 子供のころから天秤座ってだけで私のことババア呼ばわりしてきたヘラに目にもの見せてやれたわよ!!

 なのに、なのになのに!!

 提出してもらった証拠も何もかも…う、うぅ…」

 

そこまで言うと、アストライア様は顔を伏せて泣き崩れる。

 

「アストライア…」

 

「アテナぁ…私悔しいよぉ…。

 私は、法を司る女神なのよ。

 なのにあんな違反を、あれだけの証拠があったのに裁けないなんて…」

 

もはやアテナ様も何も言えず、慰めるようにその肩を叩く。

 

「でも、それじゃぁ…」

 

「このままぁ、泣き寝入りですかぁ?」

 

「くっ…あれだけのことやらかして、そんなことできるわけないでしょ。

 必ず、裁きを下してやるわ!」

 

「無理よ、アテナぁ。

 提出してもらった証拠もやられちゃったし…。

 新しい証拠でもあれば別だけど…」

 

「うーん、私があれだけ探した以外の証拠ですかぁ?

 でもぉ…それはぁ…」

 

アテナ様、アルテミス様、ガイア様、アストライア様の4人がヘラの悪行を裁けぬことに、悔しげに顔を歪める。

だが、そんな中アフロディーテ様は何かをずっと考えていた。

そして、静かに語りだす。

 

「…アストライア、確認なんだけど…新しい証拠が出れば、ヘラを裁ける?」

 

「もしそうなったら、私の名誉に賭けてでもヘラを裁いてやるわ!」

 

「…」

 

その答えに、アフロディーテ様は頷くと、全員に言った。

 

「…行くわよ、みんな」

 

「アフロ、行くってどこに?」

 

「問題になってるあの『世界』に…転生者たちに会いによ。

 ヘラを裁く証拠は…そこにある!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいアフロ!

 あんたまさか…」

 

「そうよ。

 返答次第だけど、あの子たちに…死んでもらいましょう」

 

アテナ様の言葉に、アフロディーテ様は静かに答えたのだった…。

 

 

 




事件の後始末+今後の伏線いっぱいでした。
しかもこれでまだ前編状態…先は長い。

はやての聖衣は新生南十字星座になりました。
リイン生存と合わせ、このためにはやてには小宇宙に目覚めてもらいました。
…サザンクロスクロスって語呂悪いなぁと書きながら思ってみたり。

そして黄金聖闘士たちも呆れかえる、投げやりなすずかの小宇宙への目覚め。
これは今後もすずかが聖闘士たちと歩むための重要な伏線になります。
多分、聖闘士たちから見た重要度は5人の中ですずかがダントツになる予定。
次点はアリサ。

そして、名前だけ登場の5人目の黄金聖闘士の少年。
名前を少し調べれば、何座かわかってしまう素敵仕様です。

次回は女神様たちと転生者たちの邂逅です。
語られる真実はなんと…。

次回もよろしくお願いします。
みなさん、よいお年を。
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