すでに名前は出ているので、もうバレバレなあの星座です。
第40話 少女、黄金を得る
少女、アリサ=バニングスは今、旅の空にいた。
今の日付は12月31日、一年が終わろうとしている日である。
あの翠屋での忘年会の後、アリサは新年をある人物と迎えるために移動中だった。
例年であれば一緒にアメリカでニューイヤーを過ごすのだが、今年はどういうわけか別の場所でニューイヤーを迎えたいという話が出たため、アリサは遠くギリシャにまで移動中である。
「まったく…何をしてるのかしらね、あいつ…」
これから久しぶりに会う相手に、アリサは思わず笑みを漏らす。
その笑みは、アリサの知るものなら驚くような、ひどくやさしいものだった。
降り立った空港でアリサは目当ての相手を探す。
すると…。
「アリサちゃ~~ん!!」
声がして振り返ってみれば、そこにはアリサに向かって駆けてくる1人の人物。
甘栗色の長い髪を三つ編みにし、アリサより少し小さいくらいの身長の、『少年』である。
その顔立ちに体格に纏う雰囲気は『美少女』として通用するのだが、彼はれっきとした男だった。
パタパタと甘栗色の長い三つ編みの髪を、まるで犬のしっぽのように左右に揺らしながらこっちにやってくる様に、アリサは苦笑した。
「あんたねぇ…そんなに急がなくても私は居なくならないわよ」
「でも…少しでも早くアリサちゃんに会いたかったんだもの!」
「な、何言ってるのよ…」
全力疾走で息をする少年にアリサは呆れたように言い放つが、少年はアリサに返す。
その純粋な好意に、アリサは顔を赤くした。
そして、息を整えた少年は佇まいを整えるとアリサを見据えて言う。
「久しぶり、アリサちゃん!」
「久しぶりね、シャウラ!」
こうしてアリサと少年――シャウラ=ルイスは久しぶりの再会を果たしたのだった。
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シャウラ=ルイスとアリサ=バニングスの関係は、一言で言ってしまえば『許婚』というものだ。
民間から軍事まで手広くその製品を提供する巨大企業。
アメリカ大統領の首すら挿げ替える、とまでいわれている巨大マーケットの覇者。
『ルイス=インダストリー』の御曹司が彼、シャウラ=ルイスだった。
彼の父とアリサの父は、苦楽を共にした親友同士だったそうだ。
そして、そんな友情で結ばれた2人は『もし自分たちに息子と娘が産まれたら、結婚させよう』と約束しあっていたのである。
美しき男同士の友情だ。
だが、そんな約束で自分の人生に干渉されるなどアリサとしてはたまったものではない。
初めて許婚の話を聞いたときには、アリサはそう言って父に反発を露わにした。
だからこそ、当時5歳のときお互いに初めて顔を合わせて開口一番にアリサはこう言ったのである。
「私は絶対、あんたのお嫁さんになんてなってあげないからね!」
そう腕を組んで勝ち気に宣言したアリサ。
当時、アリサとしては『嫁に行く』という行為がなんだか女の自分が相手の従属物になるような気がしていた。
実際には『結婚』とはそういうものではないのだが、将来は経営者となりバリバリと仕事をこなそうと思い、負けん気の強いアリサにとってそう思ってしまえる『許婚』の存在を認められなかったのである。
もう一つ言えばある意味自分より女らしく見えるシャウラに、ちょっとした妬みの感情もあった。
そんなアリサの言葉に、一見少女に見えるオドオドとした様子でシャウラはこう答えたのである。
「だ、だったら、僕を、アリサちゃんのお婿さんにして下さい!!」
その言葉に、2人の父は大爆笑した。
アリサとしてもこの言葉は想定外だった。
先ほどの考え方からして、当時のアリサは『嫁に行く』という行為が相手の従属物になるような気がしていて嫌だった。
その観点から考えると、シャウラの『婿に行く』発言はアリサの従属物になってもいい、と言っているに等しい。
それを純度1000%の好意からシャウラは言ったのだった。
純粋な好意というものは、向けられた相手がよほどの捻くれものでなければとても心地よく感じるものである。
そしてアリサも、そんな捻くれた心の持ち主ではなかった。
結局、『許婚』という関係はとりあえず棚において、普通に異性の友達としての付き合いからはじめることになった2人は、その後も長期休みなどの時には頻繁に会うようになっていったのである。
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「夏以来ね、シャウラ。 見た感じ変わんないみたいだけど、元気だった?」
そう言ってアリサはシャウラの頭をポンポン触る。
下手をすれば自分より綺麗なサラサラの髪の感触に、ちょっとだけ『負けた』と思ったのは秘密である。
「ぼ、僕だって少しは背伸びておっきくなったんだよ!」
「どのくらい?」
「その…4mmくらい」
「ほとんど変わんないじゃない」
呆れたようにアリサは肩をすくめる。
すると、シャウラの方はというとちょっとだけ目を細めながらアリサに聞いた。
「アリサちゃんは…前に会ったときより随分変わった気がするね。
何かあったの?」
「まぁ…いろいろね」
アリサはそう言ってお茶を濁す。
前に会ったのは夏休みが始まってすぐの時だった。
その後、クリスマスには聖闘士やら魔法やら管理局やら、普通じゃない経験をしているのだ。
今までの常識を崩すような現実を知ってしまったアリサの内面でも、結構な変化が訪れていることを自覚している。
それがにじみ出てしまったんだろう、とアリサは納得した。
「さぁ、立ち話も何なんだから移動しましょ!
私、ギリシャは初めてなんだからエスコートしてよ、男なんだから」
「うん!」
そう言ってアリサが差し出した手をシャウラが取った時だった。
ドン!
「きゃ!?」
誰かにぶつかられ、アリサが体勢を崩す。
「もう! 何なのよ!」
悪態をついたその時、アリサは自分の持っていた鞄が無いことに気付いた。
見れば男がアリサの鞄を抱え走り去っていく最中だ。
引ったくりである。
「ど、ドロボー!!」
アリサはそう叫ぶが、後を追うようなことはしない。
そう幼いころから教育されているからだ。
アリサは実家の関係から、誘拐未遂など危ないことに巻き込まれることも多かった。
盗みなどを追ってきたところを待ち伏せた場所に誘い込む、などそう言った荒事の常套手段である。
だからこの段階でアリサはある意味、鞄を諦めていた。
ただ、その中に入っていたなのはたち友達との写真が無くなってしまうのは腹立たしい。
データとしては残っているからいくらでも作り直せるが、それでもそれが誰かに盗まれるというのは腹立たしかった。
格好や雰囲気、そしてブランド物の高価な鞄で一目で金持ちと思える子供であるアリサならば楽だと思ったのだろうか。
引ったくり犯人は邪魔もなく颯爽と去っていこうとする。
だが…。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
突然、引ったくり犯人が倒れたかと思うと右足を抱えて転げまわる。
「な、なんなの?」
突然の出来事にアリサは呆然とするが、シャウラはこれ幸いと引ったくり犯人が投げ出したアリサの鞄を拾ってアリサへと手渡した。
「突然どうしたんだろう?」
今だに喚きながら足を抱えて転げまわる、引ったくり犯人の周囲にはやじ馬が集まっている。
それを見ながら首をひねるアリサに、シャウラは肩をすくめながら答えた。
「さぁ? きっと…毒の虫にでも刺されちゃったんじゃないのかな?」
そう言ってシャウラは右の人差し指を指揮棒のようにクルリと回す。
「?」
一瞬、アリサにはシャウラの人差し指が真紅に光っているように見えた。
だが瞬きをすると、当然シャウラの指先にそんなものはない。
「気のせい、か…」
「行こ、アリサちゃん」
「う、うん…」
アリサはまだ引ったくり犯人の様子が気になっているのかチラチラそちらの方を見るが、シャウラに手を引かれるままに空港を後にしたのだった。
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その後、アリサはシャウラにエスコートされるままアテネの市街観光を楽しんだ。
女神アテナをまつるパルテノン神殿を筆頭に、壮大な歴史建造物を見て回る2人。
そして今夜の宿泊地まで飛行機で移動である。
移動先はクレタ島、翌日に見て回る予定の場所である。
だが、シャウラとアリサが降り立ったクレタ島は、不穏な雰囲気に包まれていた。
多くの警官が街を行き来し、どこか物々しい。
その上、警官たちがしきりにシャウラとアリサにさっさと家に帰るように言うのだ。
「何か変ねぇ…」
「本当、どうしたんだろう?」
訳が分からず小首を傾げる2人だが、それは食事中のニュースを見て分かった。
今現在、このクレタ島では謎の子供の失踪が相次いでいるらしい。
その数、現在男女合わせて13人。
集団誘拐事件の類と見て捜査中らしく、大晦日だというのに街は物々しい雰囲気に包まれていたのだ。
「怖い話ね、シャウラ」
食後のデザートのバクラヴァ(ギリシャのパイのようなデザート)をパクつきながらアリサは言うが、シャウラから反応がない。
シャウラは無言で、何かを考え込んでいるような様子だった。
「シャウラ?」
「あ、ごめんね、アリサちゃん。
ちょっと考え事しちゃって…」
「何、もしかして私との食事が楽しくないとか言うんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことないよ!
アリサちゃんといれて僕、楽しいよ!」
アリサの言葉を、即座に首をブンブンふり否定してみせるシャウラ。
シャウラとアリサはそのまま会話に戻るが、シャウラの表情が冴えないことにアリサは気付いていた…。
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「ふぅ…」
風呂から出て髪を乾かしたアリサは、ベッドへ腰掛けながら今日撮った写真の画像を眺めていた。
自分より小さなシャウラが隣に立つ姿に、何だか同い年の男の子というより弟のようだと思う。
「弟って言うより、人懐こい犬かな?」
トレードマークの長い三つ編みが揺れる様が、犬が尻尾を振っているように見えることを思い出してアリサは笑った。
同時にそうやって飾らずにいれるシャウラの存在をうれしく思う。
アリサは気の強い娘だ。
クラスでもリーダーシップをとり、誰にだってズケズケと言うべきことを言う。
加えてしっかり者、天才的な頭脳も発揮し、その知識は大人顔負けということもある。
そんな彼女の在り方を好ましく思う人間も多いが、同時に敵も多かった。
可愛げがない・女のくせに…アリサに対するそういった陰口は多い。
逆にその恵まれた家庭環境・才能・能力にかしこまってしまう人間も多い。
アリサとしては、それらのすべては煩わしいとも思っていた。
だからこそ、そういったものを感じさせない友達というのは何よりの宝だった。
バカなことを言いながらからかってくる快人も飾らずに接してもらえているということで、アリサにとってはありがたかったのだ。
そしてシャウラもその1人、飾らずに接することができる数少ない相手である。
「ふふっ…明日もしっかりエスコートしなさいよ、シャウラ」
誰に言うでもなく微笑みながらアリサが呟く。
その時…。
「!?」
ゾクリと、悪寒が背中を駆け抜けていく。
気温が突然下がったような気がした。
部屋の電灯が、突然不安定に点滅を繰り返していく。
「な、何…」
アリサは身震いすると、布団を引き寄せる。
その時、アリサの耳にどこからともなく囁くような声が聞こえる。
『甘い
『捧げよ、捧げよ。
王に捧げよ』
『最後の供物は、この娘に…』
地の底から響くようなその声に、アリサは震えながらじっと息を殺して目を瞑った。
だが、音もなく気配もしない。
アリサが恐る恐るゆっくりと目を開く。
そこには…。
「!?」
真っ黒な、古代の甲冑のようなものを着込んだ影だ。
理解を超える恐ろしい光景に、叫び声を上げる間もなくアリサの意識は刈り取られたのだった…。
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夕食後、野暮用を終えたシャウラは戻った宿のドアをくぐる。
その時、シャウラは異常に気付いた。
何か『どす黒いもの』が通った痕跡がその宿にはあったからだ。
そしてその『どす黒いもの』の気配が最も濃い場所は、アリサの部屋だ。
「アリサちゃん!!」
扉を開け放ったシャウラの目に入ったのはもぬけの殻となった部屋。
開け放たれた窓からの風に、カーテンが揺れる。
その時、光と共にシャウラのそばに影が降り立った。
「こりゃどうやら連れてかれちまったみたいだな」
「お師匠様、のんきなこと言ってる場合じゃないですよ!」
シャクッとリンゴを齧りながらの言葉にシャウラは声を荒げるが、その人物は気にした風もなく言い放つ。
「どうせ行くつもりだったんだ。
理由が増えて面白くなってきたじゃねぇか」
「そんなぁ…」
シャウラは師匠の言葉に嘆くが、確かにその通りだ。
自分のすべきことは一つ。
「行きます、お師匠様」
「おう、やっちまえ。
女に手を出したことがどれだけ高くつくか、激痛と一緒に思い知らせてやれ」
「はい」
顔を上げたシャウラ。
もしもアリサはこの場にいたのならば、シャウラの雰囲気の変化に驚いたことだろう。
何故ならシャウラの纏うそれは、完全に戦士のものだったからだ。
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「う…ん…」
アリサの意識がゆっくりと覚醒していく。
始めに気付いたのは電灯とは違う光。
チロチロと点滅するような炎の光で照らされた空間。
そこの石造りの祭壇のような場所にアリサは横になっていた。
身を動かそうとするとジャラリと不吉な音が聞こえて視線を巡らすと、アリサの足と手に鎖が括り付けられている。
「な、何よこれ!!」
全くわけのわからぬ状況に、アリサの声が広い空間に響いた。
そしてそれに答える声が一つ。
『気が付いたか、娘よ』
「っっ!?」
そこにいたものに、アリサの心は凍りついた。
そこにいたのは黒いローブを身にまとった骸骨だった。
数え切れぬほどの腕を持つその骸骨が、アリサを見下ろすようにしている。
あまりの恐怖に、アリサの悲鳴は声にならない。
「な、なんなの、あんた…」
カラカラと乾いた喉からアリサが声を絞り出す。
『我はミノス王。
ギリシアを呪う者!!』
ミノス王から怨嗟の籠った呪詛のごとき言葉が吐き出される。
『再び現世へ完全な形として戻るため、若く瑞々しい
「こ、
吐き出された『
『
憎い、憎い!!
それを知るお前も憎い!!』
最初から正常な状態ではなかったが、アリサの『
『贄の血を、
ミノス王の声に答え、黒い兵士のような影が手にした剣を振り上げる。
「ちょ、待ちなさい。
やめて、やめてよ!!」
間近に迫った死の恐怖に、アリサは手足をバタつかせるが鎖で縛られた手足はどうもがいても外れない。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!
誰か、誰か、助けてぇぇぇ!!」
叫んで目をギュッとつぶるアリサ。
だが…いくら待っても何も起こらない。
アリサはゆっくりと目を開く。
すると…。
「え?」
剣を振り上げた黒い影、その身体を細い紅い光が貫いていた。
まるでレーザー光線のような細い紅い光のその数、15本。
そして黒い影がボロボロと崩れていく。
『こ、これは…』
驚きの声を上げるミノス王。
その間に、再び飛来した紅い光は今度はアリサを拘束していた鎖を断ち切った。
自由になったことに驚きの声を上げる間もなく、アリサの身体が宙に浮く。
どうやら誰かに抱えられているようだ。
アリサをさらった相手は
「遅ーい、バカ蟹!!」
だが返ってきた声はアリサの予想していたものとは違っていた。
「い、痛いよぉ、アリサちゃん」
「え? シャウラ!?」
思いっきり頭をはたかれ涙目になったシャウラが、アリサの顔を覗き込んでいた。
思ってもみない相手にアリサは目を瞬かせる。
そのままシャウラはアリサを地面に降ろすと、ゆっくりとミノス王へと振り向いた。
「あなたは
お願いです、攫った子達を返して、こんなことはやめてください!」
『小童が何を言う!
我らの恨みは、屈辱は、『世界』のすべてを焼き尽くすまで消えん!
その小娘ともども、その血と
途端に湧き出てくる黒い兵士の影。
その数はもはや数え切れないほどだ。
「シャウラ、逃げるわよ!」
冷静さを取り戻したアリサがシャウラの手を引くが、シャウラは一歩も動かなかった。
「シャウラ?」
そしてゆっくり振り返ったシャウラの表情に、アリサは驚いた。
まるで女の子のような整った顔立ちで、しかし目に紅い炎を宿したような真っ直ぐな瞳。
リンとしたその表情はまさしく『男』のものであり、シャウラもこんな表情ができるのかと思うのと同時に、アリサはいつもと違うシャウラの様子にドキリとしてしまう。
「アリサちゃん、もうちょっと待っててね」
いつもと変わらぬいつもの笑みでシャウラは言うが、その雰囲気に呑まれたアリサはコクコクと反射的に頷いていた。
「ミノス王、お願いです。
僕は戦いたくないんです。 だから、もうこんなことはやめて下さい」
『小童の言葉に、いかほどの価値があるものか。
我らの贄となれぇ、小童!!』
ミノス王の号令と共に迫る黒い兵士たちの影はまるで、黒い津波だ。
シャウラとアリサを押しつぶそうとするその津波、だがシャウラは動じることなくただ一言呟く。
「
瞬間、黄金の光が溢れた。
押し寄せた黒い津波は、黄金の光に押しのけられるように散っていく。
そして…その光の向こうにアリサはその姿を見た。
美しい黄金の鎧に身を包んだシャウラの姿を。
トレードマークの三つ編みが2つに増えたような、ヘッドパーツから垂れる尻尾。
棘のように突き出たショルダーパーツ。
間違えるはずはない、アリサはこの存在を知っている。
だから、その言葉が自然に漏れた。
「
アリサの呟きに答える様に、ゆっくりと目を開いたシャウラは宣言した。
「僕は
その場にいるすべてのものに聞こえる様にシャウラは宣言する。
『
ギリシアの誇る
許せん! 朽ちて死ぬがいい!!』
「ミノス王、あなたが僕たちに何を思ってもいい。
でも、こんなことは無意味です。
攫った子達を解放して、もうこんなことはやめましょう」
『五月蠅い! 出でよ、ミノスの兵よ!!』
あくまでも停戦を呼びかけるシャウラを無視して、ミノス王の号令と共に再び現れる黒い兵士の影。
だが、その兵士の影は今までと違っていた。
胴体中央、まるで古代帆船の舳先についた女神像のごとく子供が括り付けられていた。
その数、13体。
「何それ、汚ッ!
ただの人質じゃない!!」
『何とでも言うがいい小娘。
殺せ!
ミノス王の号令に従って黒い兵士たちが迫る。
だがシャウラは全く動じることなく、右手の人差し指を構える。
濃密な
そして、シャウラはそれを解き放った。
「スカーレットニードル!!」
紅い細い閃光が駆け巡る。
その閃光は寸分違わず、人質となった子供を避けて影だけを撃ち抜いた。
ボロボロと崩れ去っていく影の兵士を前にミノス王が叫ぶ。
『バカな、あれだけの数の兵を、子供を避けて正確に撃ち抜いたというのか!?』
それがどれほどの妙技かということは、筆舌に尽くしがたい。
シャウラはミノス王に指を向けると、再び高めた
「スカーレットニードル!!」
紅い光線が、ミノス王を貫く。
『い、痛い!? なんだこの苦痛は!?
肉の身体を失った我が、何故このような激痛を!?』
襲い来る激痛に、訳が分からないという風に叫ぶミノス王にシャウラがゆっくりと語る。
「僕のスカーレットニードルはもっとも慈悲深い技とも言われている。
15発を撃ち込むことで、どんなものでも死に至らしめるスカーレットニードルは、15発までの間に激痛と共に降伏か死かを選ぶ権利を相手に与えるんだ。
今、撃ち込んだのは攫われた子供たちの味わった恐怖と親たちの心配の数、13発。
残りは2発。
ミノス王、もう降伏してください。
そして、現世の何物にも害を与えないと誓ってくれれば…」
『ふざけたことを言うな!!
我の憎しみは消えん! この世界を炎に沈めても、我が怒りは消えんのだ!!』
ミノス王の言葉に悲しそうに目を伏せると、シャウラの指先に再び光が灯る。
「それなら…14発目!」
『うぎゃぁぁぁぁぁ!!』
叩き込まれた14発目のスカーレットニードルが、ありえぬはずの激痛を持ってミノス王を苛む。
『グゥゥ…我らはまた、あの
だがここは魔導迷宮クノッソス、一度入れば出られぬ迷宮よ!
お前もそこの小娘どもも、日の目を見ることなくここで朽ちていくのだ』
その言葉にアリサは身を固くするが、光と共に現れた人物がその言葉を否定する。
「バッカじゃねぇか、こいつ。
何の準備もなく、こいつがここに来るわけねぇだろ。
あ、リンゴ喰うか、お前?」
突然現れた人物に気さくに話しかけられたアリサは目を瞬かせる。
そんなアリサに、シャウラは手短に説明した。
「僕のお師匠様のカルディアお師匠様だよ」
「そーいうこった、ちびっ子。
まぁ、これからもよろしくな」
「は、はぁ…」
もう状況についていけてないアリサは曖昧に頷くしかない。
シャウラはミノス王に向き直ると言い放つ。
「僕も十分な用意をしてから、このクノッソス宮殿に入ったんだ。
迷宮踏破神具『アリアドネの糸玉』を持ってきてる。
どんな場所からも迷わず導いてくれるこの神具がある以上、僕たちがこの迷宮から出れないなんてことはないんだ」
『ぐうぅぅ…』
シャウラの言葉に、ミノス王は己の完全な敗北を悟る。
『いいだろう、
だが
この命…息子にくれてやろう!!
目覚めよ、我が…息子よ…!』
そして絞り出すようなミノス王の声と共に、ミノス王は完全に消滅する。
だが、ミノス王の残したどす黒い
そして地響きと共にそれは立ち上がった。
牛の顔と人の身体を持つ巨大な禍物。
その名は。
「ミノタウロス!?」
神話でのミノス王の息子。『神』の怒りによって怪物として生まれた悲しい子供。
ゲームなどでも有名だったため、その名はアリサも知っていた。
その全長は10m近く、もはや巨人である。
ミノタウロスの雄叫びと共に、どこからともなく巨大な斧が現れ、ミノタウロスはそれを手にする。
神話に出てくる怪物に、アリサの心は恐怖で鷲掴みにされたように竦み上がる。
だが、シャウラは落ち着き払ったまま、ゆっくりとミノタウロスへと向かった。
「シャウラ!」
「…大丈夫だよ、アリサちゃん。
すぐ…終わるから。
お師匠様、アリサちゃんとほかの子をお願いします」
ゆっくりと歩いていくシャウラの背中に、アリサの声が響く。
だが、シャウラはそれだけ言うとミノタウロスへと向き直った。
「…ごめんね、僕は神様じゃないから君は助けられないよ。
僕を憎んでくれても、恨んでくれてもいい。
でも、僕の後ろにいる人たちを傷づけることは絶対許さない。
だから…」
そして、スッとシャウラは腰を落とし、右の人差し指を構える。
それに呼応するようにミノタウロスが巨大な戦斧を振り上げた。
だが、シャウラは全く動じず構えを取り、
シャウラの灼熱のように燃え上がる
「せめて痛みもないほどの瞬間で、君を
紅い輝きと共に、どうか安らかな眠りを…」
振り下ろされる戦斧を見据えながら、シャウラはその技を解き放った。
「スカーレットニードル・アンタレス!!」
スカーレットニードルの最大致命点を付くアンタレス。
それは絶対的な死を相手に与える必殺の一撃。
シャウラはそれを、スカーレットニードル14発と同時にミノタウロスへと叩き込んでいた。
どす黒い
「さよなら…ゆっくり、休んでね…」
そんなミノタウロスを、シャウラは悲しそうな顔で眺めていた…。
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「ふぅん…シャウラも
「僕の方こそ、アリサちゃんが
アリサちゃん、何だか
シャウラとアリサはクノッソス迷宮からの帰り道、お互いに知っていることを話し合っていた。
攫われていた子供たちは全員、シャウラの守護宮である『天蠍宮』に収容している。
地上に出てからどこかに寝かせておくつもりだ。
帰り道は『アリアドネの糸玉』が導いてくれているので問題ない。
今回の事件を聞いたシャウラは、ミノス王の仕業だということがすぐに察しがついていた。
だからこそ、クノッソス迷宮からの脱出用に
だがそのおかげで空白の時間ができてしまい、その間にアリサが攫われることになったのだが、そのことをシャウラは詫びる。
「ごめんね、アリサちゃん…」
「あんたのせいじゃないんだから謝らなくてもいいの。
私が運が悪かったんだろうし…」
アリサはそう言って詫びるシャウラを慰めるのだが、今回のことはアリサの運が悪いばかりではなかった。
夏の『邪神エリス事件』でエリスの器にされてしまったアリサは、潜在的にだが強力な
今回のミノス王も、その潜在的な
「…転校しないとダメだよね、これ」
「? なんか言った、シャウラ?」
「ううん、何でもないよアリサちゃん」
シャウラは、何でもないと首を振りながらもミノス王のことを考えた。
(ティターンのものらしき
どうにも嫌なことを考えてしまったシャウラだが、その考えは正しかった。
復活するのは神々だけではなく、神話級の怪物たちもこの『世界』では復活してくるのだ。
だが、いまさらそれを嘆くこともできない。
シャウラもこの『世界』の現状を女神様たちから聞き、それでもこの『世界』を守り戦うことを誓っていた。
それは家族のため、優しい人たちのため、そして…。
「何? 何か私の顔についてるの?」
「な、なんでもないよ~」
ジッとアリサの顔を見つめていたシャウラはそう指摘され、慌てて視線を戻す。
やがて、出口が見えてきた。
「外ね!」
「うん!」
互いに頷きあってクノッソス迷宮の外に飛び出すシャウラとアリサ。
登り始めた朝日が、2人を包む。
そして互いに顔を見合わせると2人は笑いながら言った。
「ハッピーニューイヤー、アリサちゃん!」
「ハッピーニューイヤー、シャウラ!」
新しい新年を、2人で迎えたその時だ。
シャウラがバッと空を見上げる。
「どうしたの?」
その視線を追ってアリサも空へと視線を向けると、そこには見知った顔が浮いていた。
「アリサちゃん!?」
「なのは!? それにみんなもどうしたの!?」
それは日本にいるはずのなのは達だ。
振袖を来たなのは・フェイト・はやて・すずかを、それぞれの信じる
「いや、ギリシャにみんなで来たんだが近くで大きな
そう言って皆を代表して状況を説明する快人はチラチラと、シャウラに視線を向けていた。
「あの、アリサちゃん。 その子って…」
すずかが、恐らく全員が気になっているだろうことをアリサに聞く。
纏う
だが、アリサは一歩前に出ると胸を張って答える。
「シャウラよ。
私の
これで自分もなのはたちと同じだ、と宣言するように嬉しそうに答える。
新年の朝日の中、未来を託された5人の
というわけで最後の1人は蠍座でした。
Ωの蠍座登場に合わせられてよかった。
しかも『男の娘』という原作の瞬ポジション。
まぁ、慈悲深い(笑)な技ですからね、スカーレットニードル。
そういうわけでシャウラくんは、戦いたくない系のキャラになります。
ただし戦闘能力に関しては瞬と同じく特一級にスペックアップしています。
というのも、すべての物体に星命点があるようになっているからです。
例えて言うと、『直死の魔眼+絶対命中』という極悪仕様のスナイパーがこのシャウラくんです。
恐らく原作の蠍もこのくらいは強かったはず。
今回の話はエピGまんまになりました。
というのも今後戦闘経験を様々なキャラに積ませるために、どこかの『神』の先兵だけでは弾切れになるからです。
『神』やその闘士だけでなく、こういう神話級怪物も次元世界そこかしこで現れるようになりました。
なのは達には、今後こういう神話級の怪物と戦って聖戦までの間レベルアップにいそしんでもらいます。
次回は全員での聖域参拝+現有戦力の確認と方針決定となる予定。
次回もよろしくお願いします。
今週のΩ:蠍座は…うん、自爆しました。
蠍座聖衣さんも無理矢理言うこと聞かされて鬱憤たまってたんでしょう。
技の発動の瞬間に装着者見捨てて自爆させるとかやることがえげつない。
ソニアさんがヒロイン押しされた回でした。
あれ、死んだのかな?
次回は退場したと思われていた水瓶座との戦いみたいですが…そろそろ仲間が1人ずつ減っていくころ。
ほとんど活躍してない栄斗自爆とはさせないよな?