俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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仕事が忙しく、また週一投稿ペースの崩れてしまったキューマル式です。
ちくしょう……異動はバカだ……。

今回は前回の予告から予定を変更、最後のオリジナル聖闘士の登場はまた次回ということにして、今の聖域の日常のお話です。


第47話 聖域、ある日の風景

カリカリカリカリ……

 

 

部屋の中に、何かを引っ掻くような音が響く。

その部屋ではアルバフィカが机に向かい、書類にペンを走らせていた。

 

 

コンコン……

 

 

「失礼します、校長」

 

 ノックと共に、部屋の中に入ってきたのは知的そうな女性だった。どことなく猫を彷彿とさせる印象の女性である。

 

「追加の書類をお持ちしました」

 

 そう言って女性は袖机に抱えていた書類を置く。その様子に、アルバフィカは目頭を押さえた。

 

「まだこれほどに書類があるのか……」

 

「校長、これでまだ全体の半分以下です」

 

「……気分の萎える話を笑顔でするな、君は」

 

「どんなものであれ正確な状況報告は、秘書として当然ですよ」

 

 アルバフィカのどこか恨みがましい視線に、秘書の女性――リニスはクスリと笑って答える。

 猫山霊鳴によって猫のぬいぐるみに憑依していたリニスの魂だが、霊鳴のパライストラ入校と共に山猫座聖衣(リンクスクロス)への移し替え作業が行われていた。シュウトやフェイトから、流石に猫のぬいぐるみの身体はどうにかしたいという強い要望があったのと、聖闘士(セイント)の素質を多分に秘めた霊鳴への期待からの措置である。リニス自身もこれから迫り来る聖戦までの間に、フェイトやシュウト、そして霊鳴の力になりたいと願い、魂の移し替え作業に頷いた。

 作業自体はあっけないほど簡単に成功した。快人曰く「リインフォースっていう器物の魂なんてほとんど質量の無い魂で成功したんだ、こんなはっきりした魂で失敗する方がどうかしている」とのことである。

 とにかく、聖衣(クロス)にその魂を移されたことである程度の自由が効くようになったリニスはフェイトを育て上げたその細やかな性格を見込まれ、パライストラの校長秘書として働いていたのである。

 その実力はパライストラ初代校長であるアルバフィカも大いに認めるところだ。正直、リニスがいなかったらとうの昔にパンクしていたという自覚が、アルバフィカにもある。だからこそ、彼女の存在はアルバフィカにとって喜ばしいのだが……。

 

「……」

 

「ふふふ……」

 

 微笑みを絶やさないリニスに、アルバフィカは小さく嘆息する。どうもリニスはアルバフィカが困ったりする姿を楽しんでいる風がある。この書類の山とて、タイミングを見計らっていたのではないか、とさえ邪推してしまう。

 実はアルバフィカの思っている通り、この書類のタイミングはリニスの図ったものだ。

 リニスはアルバフィカのことをシュウトから聞き、実際にその人物を見て好意を抱いていた。ただし、大多数の女性がアルバフィカを見て抱く「綺麗な人」という印象ではない、「可愛い人」という印象をリニスは抱いていたのだ。

 毒の血によって他人と交わることのなかった、誇り高き孤高の薔薇……その影響からか、現在のこの聖域(サンクチュアリ)でもあまり人付き合いは得意ではない。そのどこか不器用な姿を「可愛い」とリニスは思ってしまう。

だから、この書類の山には「可愛い人」をちょっと困らせ、「自分に頼って欲しい」というちょっとしたリニスの女心が見え隠れしているのだ。

 結局、アルバフィカは再び小さく嘆息すると、リニスの思惑通りの行動をとった。

 

「手伝ってもらえるか、リニス?」

 

「はい、喜んで!」

 

 待っていました、とばかりのリニス。シュウトですら頭の上がらない最強の黄金の魚座の師を手玉にとる……げに恐ろしきは女である。

 

「……やはり予想していたことではあるが、医薬品の消費量が多いな」

 

聖闘士(セイント)の修行に生傷は絶えませんから。

 回復魔法だけでは効率の問題もあり、医薬品との併用は必至です。

 医療室のシャマルさんも、頭を抱えていました」

 

「だがそのおかげか、今のところ死者は出ていない。

 この部分は追加予算を検討するようにしよう」

 

「わかりました」

 

 スラスラとアルバフィカの指示をメモするリニス。

 

「次は……学生からの要望のまとめか。

 これはまた……」

 

 その内容は学内売店を設置してほしいという要望書だった。

 男子側はトム・ウィリアム、女子側は猫山霊鳴が代表として署名している。入校前から聖域(サンクチュアリ)と繋がりがあり、さらに本人が年下を取り纏めるのがうまい先輩気質だったことも手伝い、猫山霊鳴はいつの間にかパライストラ第一期生の女子のまとめ役のようになっていたのである。

 その内容に、アルバフィカは目頭を押さえる。生粋の聖闘士(セイント)であるアルバフィカにとってみれば、これは完全に我が儘の領域の話だ。予算とて無限ではない、バッサリと却下しようとしたアルバフィカだがリニスが待ったをかける。

 

「生徒のほとんどは成長期の子供、パライストラの推奨している自己鍛錬もあれば食堂での食事だけでは栄養の不足も考えられます。

 それを補うのにも、学内売店というのはよいアイデアではないかと。

 それにこのパライストラは特性上、娯楽は限りなくゼロです。

 『食べる』という娯楽を与えてもいいのではないでしょうか?」

 

 食事というのは単なる栄養補給ではない。ストレス解消であり娯楽だ。

 実際に、現代陸軍の野戦食配給ドクトリンでは十分な戦闘行動を行うためには2食以上の十分な栄養の温かい食事を配給し、工夫や美食化を進めることで戦闘意欲と士気を維持させることを重要だとしている。戦闘糧食にはデザートのついているものまであるくらいだ。

 ストレス解消と士気低下を抑えるためにも、『食べる』という娯楽を生徒に与えてはどうかとリニスはアルバフィカに説いた。

 そしてリニスは霊鳴から聞いた、売店で欲しい物の話をする。

 

「それに……霊鳴から聞いていますが、女子としてはその……月一の『消耗品』を買える場所が欲しいと……。

 医療室からの支給品はちょっと……という話も聞きます」

 

「……ああ、それは確かに男の私にはわからない話だな」

 

 その言葉にアルバフィカも確かに、と頷く。

 かくしてリニスの口添えもあり、パライストラの学内売店は前向きに検討されることになる。

 

「次は……」

 

 そう言ってアルバフィカが次の書類に手を伸ばしたその時だった。

 

 

ズドォン……

 

 

 遠雷のような音とわずかな振動。

 そこに込められた小宇宙(コスモ)だけで何が起こったのか分かり、アルバフィカは頭を抱える。

 リニスはモニターを起動させると、淡々と状況報告をした。

 

「場所は屋外修練場ですね。 やったのは……また、あの人です」

 

「……報告されなくても分かっているよ」

 

「今月に入ってからもう3回目ですよ。

 こう言ってはなんですが……あの人に教師として適性があるようには見えないんですが……?」

 

「……私もそう思う」

 

 今度、本気で人事案については教皇様に意見しようと思っているアルバフィカであった。

 

「被害状況の確認と修繕予算の見積もり……頼めるか、リニス?」

 

「ええ、すぐにでも。

 でもまずはお茶を淹れてきますね。

 校長も少し落ち着いたほうがいいと思いますから」

 

 そういうリニスの視線の先では、アルバフィカの握りしめたペンが砕け散っていた。

 

「わかった……気分の落ち着くものを頼む」

 

「ええ、任せてください」

 

 心の乱れを見透かされちょっとバツが悪そうな顔をしたアルバフィカに、微笑みと共にリニスが答える。

 パライストラ校長と校長秘書の苦労は絶えないようだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

さて、その問題の屋外修練場では……。

 

「何だ貴様らは!!

 それで本当に聖闘士(セイント)になろうと考えているのか!!

 不甲斐ない!! 怒りを覚えるほどに!!」

 

 鬼の怒号が響き渡っていた。総司の師の一人、デフテロスである。

 候補生たちの不甲斐なさにキレたデフテロスが小宇宙(コスモ)を放出、屋外修練場の一部を粉々に砕いていた。

 そんなデフテロスを、ため息をつきながらハスガードが押さえる。

 

「待て待てデフテロス、訓練を始めたばかりの候補生たちを殺すつもりか?」

 

「力なきものは死あるのみ!

 こんな軟弱な者どもが聖闘士(セイント)になろうとは片腹いたいわ!!」

 

「その軟弱さを無くすために訓練を始めたばかりなのだが……」

 

「ハスガードの言う通りだ。

 己の肉体を研ぎ澄ませ、鍛え上げることこそ聖闘士(セイント)への道。

 その最初の一研ぎすらしていないうちに、なまくらと決めつけるのは問題があるだろう」

 

 ハスガードの横から、今度はエルシドがデフテロスをいさめる。

 ハスガード・デフテロス・エルシド……この3人が、パライストラの実技を担当する教官たちだ。

 ちなみに座学や女神への敬愛といった精神素養に関してはシジフォスとデジェルが交代で指導を行っている。

 

「しかしお前たちも分かっているだろう。

 10年、たった10年しか時間がない。 このようなことで根を上げる軟弱者に教えを授けても意味はあるまい!!」

 

「時間がないからこそ、慎重にならねばならん。

 お前の危惧は俺にもよく分かる。

 だが、急いてはことを仕損じるもの。

 軟弱者であると結論を出すのは、もう少したってからでも悪くはあるまい。

 それに……これは教皇セージ様からの指示でもあるしな」

 

 教皇セージの名前を出されては、いかにデフテロスといえども矛を収めるしかない。

 

「貴様ら何をグズグズしている!

 さっさと走れ!!」

 

 デフテロスの言葉に、候補生たちは尻に火が付いたかの勢いで走り出す。

 その様子を見ながら、ハスガードとエルシドはため息をついた。

 

「全く……教皇様も何故にデフテロスを教官としたのか……何か深い考えがおありなのだろうか?」

 

 どうにもデフテロスが教官というのがイメージできないハスガードは首を捻る。実は引き締めのためにとことん厳しい鬼教官を、という程度の理由だとは知らないことは幸せなことだった。

 候補生たちを、まさに鬼の顔で追い立てるデフテロスに苦笑しながらも、ハスガードは先ほどのデフテロスの危惧を考える。

 

「10年……デフテロスの言うように確かに短い。

 俺にも同じ不安はある」

 

「しかし、だからといって100億の時間があろうと、ハーデスに対して万全な体勢など望めまい。

 ならば、今やるべきはただ一つ……未来を担うべき剣たちを、時間の余す限り鍛え上げることのみ」

 

 ハスガードの言葉に頷きながらも、エルシドはそう言い切る。

 

「ほぅ……何やら気合十分ではないか、エルシド。

 面白い逸材でも見つけたのか?」

 

「それはこれからのことだろう。

 候補生のどれ程が、真に折れぬ信念を持っているか……すべてはこれからだ。

 あの娘たちのように、心強いものがいればいいが……」

 

「ああ、まったくだ」

 

 エルシドの言葉にその通りだと頷くと、ハスガードは候補生たちを見やるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 パライストラで候補生たちが地獄の訓練を続ける中、ここクロストーン内の『巨蟹宮』でも地獄の特訓が行われていた。

 

「ほらほらほら! もっと速く動かねぇと当たっちまうぞ、小娘ども!」

 

「「「ぎにゃぁぁぁ!!」」」

 

 シャクシャクとりんごをかじるカルディアの指先から放たれる赤い閃光から、なのは・フェイト・はやての3人娘は、形容しようのない叫びとともに逃げ続ける。

 これは3人の修行の一環、敵の攻撃を避ける訓練である。しかし、その内容とは放たれるスカーレットニードルを避け続けるという代物だった。

 その内容に、さすがに隣で見ていた童虎も待ったをかける。

 

「お、おいカルディア。 いくらなんでも、それは今のあの娘たちには酷な修行であろう。

 わしが思うにもう少しこう、考えたほうがいいのではないか?」

 

 遠くから全力でコクコクと頷く3人娘。この3人としても黄金聖闘士(ゴールドセイント)公認の拷問技を向けられることは恐怖以外の何物でもない。

 そんな童虎に不満そうにカルディアが言う。

 

「なんだよ、どうせ速度は見切れるレベルだし星命点にぶち当てるわけじゃないんだから痛みはねぇって。

 当たっても、ちょっと針の穴くらいの穴が開くだけだって」

 

 それはそれで大問題であるのだが……。

 

「ふむ……ならば問題はないな」

 

「「「何で納得しちゃうの(んや)!?」」」

 

 童虎が納得した顔で頷いたことに、3人娘は悲鳴のような声を上げる。

 

「よっしゃ!

 んじゃ、元気に続けるぞ」

 

「「「ふにゃぁぁぁぁぁ!!?」」」

 

 先代黄金聖闘士(ゴールドセイント)の中でも良識派で知られる童虎の納得が得られたことで勢いがついたのか、カルディアが嬉々として再びスカーレットニードルを放つ。3人娘は泣きそうになりながら悲鳴を上げ、小宇宙(コスモ)を集中させてそれを見切ろうと逃げ回るのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 3人娘の悲鳴が聞こえれば、普通なら光の速さで駆けつける黄金聖闘士(ゴールドセイント)の少年たちだが、こちらも地獄の特訓は続いていた。

 アスミタの前で座禅を組む黄金聖闘士(ゴールドセイント)の5人。

 これのどこが修行か? と思う人もいるだろうが彼らの状態を知ればとんでもない荒行だということが分かるだろう。

 5人は全員、五感を剥奪された状態で座禅を組んでいるのだ。

 黄金聖闘士(ゴールドセイント)は第六感を超えた先、セブンセンシズに目覚めているから五感が封じられてもセブンセンシズで状況を認識することができる。

 だが、それはそんなに簡単なことではない。五感を封じられることは大きなペナルティなのだ。

 しかし、以前にも述べたように五感と小宇宙(コスモ)は密接な関係にある。5人は五感を強制的に長時間封じ、自身の小宇宙(コスモ)をさらに高めようという特訓中なのだ。

 音もなく静かな、しかし凄まじい荒行を黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちは続けていた。

 

 

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 パライストラ生徒の一日は過酷である。

 まず朝礼後、パライストラ近くに建設された女神神殿へとおもむき、女神像に対して礼をとるところから一日が始まる。

 その後清掃と朝食の時間を挟み座学・精神素養の講義を受ける。

 実技を挟んで昼食、さらに午後は丸々実技というのが基本的な流れだ。

 午後の授業が終わると夕食となり、その後は自由時間ということになっている。

 こうして見れば一般的な学校と何ら変わりない生活サイクルに見えるが実技の内容というものが『過酷』の一言、一日の終わりには誰もがクタクタになっていた。

 自由時間には思い思いの行動をすることが許されている。

 ある者はこのパライストラにおける今現在唯一の娯楽とも言える本を読むために図書室へと向かい、ある者は傷を癒すために医療室へ向かう。またある者は翌日のためにひたすら身体を休め、ある者はルームメイトとの交流を深める。

 そんな者の中には『自己鍛錬』を選ぶ者もいた。

 ここ野外修練場に、今その自己鍛錬に励む者たちがいる。

 

「かっかっか、悪いな。

 俺の鍛錬に付き合ってもらって」

 

 独特な笑い方でルームメイトたちに詫びるのは、『55号室』のカルマ・レスティレットである。

 その言葉にルームメイトであり組手に付き合うサビク・アルハゲは首を振る。

 

「かまわないよ。それに君はすぐに無茶をする。

 無理だと思ったらドクターストップをかけるためにも、見張るべきだと思うからね」

 

「そうだねぇ、前のように無茶のしすぎで倒れられても困るしね」

 

「あれは……悪かったよ」

 

 組手する2人を眺めながらのヨハネス・スピンドルの言葉に、カルマはバツ悪そうに答える。

 実際にカルマは夜の一人での鍛錬の無茶が祟って、あろうことか実技の最中に倒れかけたのである。ここパライストラの『部屋』という単位は訓練等で力を合わせるためのものであると同時に、連帯責任のための制度でもある。『部屋』というチーム全体で支え落伍者を生まないように、という配慮だ。

 

「あの時倒れてたら、僕ら全員間違いなくデフテロス教官にボコボコにされてたね。

 あの時の教官の顔といったらもう、本物の鬼だったよ。

 管理局の訓練校でもあんな鬼教官はいなかったね」

 

 肩を竦めるヨハネスに、「まったくだ」とサビクは頷いた。

 

「でも本当にいいのか?

 せっかくの自由時間を俺の鍛錬に付き合って」

 

「くどいよ。僕もパライストラに遊びに来たわけじゃない。

 力を手に入れるための努力を惜しむつもりはないからね」

 

「そうそう。

 それに自由時間と言っても娯楽なんてほとんどないからね。

 まぁ、シャウラさまの写真に囲まれながら過ごしていればいつだってどこだってウルトラハッピー、最高の娯楽なんだけどね!」

 

「「いや、それお前だけだから!!」」

 

「お前は歪んでる!」

 

「まぁ、人の趣味をとやかく言うつもりはないけど、僕らはそういう趣味はないからね。

 お願いだから巻き込まないでおくれよ」

 

 身体を不気味にくねらせながらのヨハネスの言葉を、カルマとサビクは即座に全力で否定した。どこから手に入れてきたのか、シャウラの写真で埋まったヨハネスの私室を思い出し、カルマとサビクはゲンナリとする。

 とはいえ『55号室』の面々の仲は良好、互いに支え合う強い絆が生まれつつあった。そしてその『絆』こそが聖闘士(セイント)として戦う中、何者にも勝る力を生むものなのだ。そう言った意味で『55号室』は教官側も期待を寄せる部屋なのである。

 そんなメンバーが野外修練場で自己鍛錬をしているのだ。当然の話だが先代黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの間でも彼らのことは話題になり、「ちょっと様子をみてやろうか?」と彼らの自己鍛錬に付き合ったりしたりする。そして、今日もまた先代黄金聖闘士(ゴールドセイント)が面白そうに様子を見に来ていた。

 

「よぅ、やってるか、ガキども」

 

「がんばってるかい?」

 

 今日やってきたのはカルディアとシオンであった。

 

「ああ、カルディア様。 ご機嫌麗しゅう!」

 

「よう、『伝説』。 今日も元気に変態してるか?」

 

「何を言っているんですか。僕は至って正常ですよ。

 今日もいつも通りシャウラ様のことを考えるだけでごはん三杯はいけます。

 どこにも異常はありません」

 

「いや、それがもうおかしいんだよ。

 大体、何で君はシャウラくんのスカーレットニードルを受けてニコニコできるんだ……」

 

 リンゴをシャクシャク齧りながらのカルディアにヨハネスが答えると、シオンは若干引いた顔で言った。

 ヨハネスの教官たちからのあだ名は『伝説』である。

 ヨハネスは入校後、ちょくちょく様子を見に来る現役黄金聖闘士(ゴールドセイント)5人の中にシャウラを認めた瞬間、突然にシャウラに向かって全力疾走しながらこう言ったのだ。

 

「シャウラ様! 僕にスカーレットニードルをもう一度!

 あの痛みの恍惚を僕に今一度ぉぉぉぉ!!」

 

 これを聞いたシャウラは引きまくって全力で逃走、マジ泣きであったという。

 

「う、撃つよ! それ以上近づくと痛いスカーレットニードルを本当に撃ち込むよ!

 だから来ないで!」

 

「どうぞどうぞ。

 僕にとってはご褒美です」

 

 壁際に追い詰められ半泣きのシャウラに、とてもいい笑顔でヨハネスは答えた。

 そして色々な意味で恐怖にかられたシャウラが本当にスカーレットニードルを撃ったのだが……。

 

「い、痛いぃぃぃ!! で、でも……いいぃぃぃぃ!!

 ああ、シャウラ様の愛の熱が僕の身体の中で駆け回るぅぅぅぅぅ!!」

 

「「「「うわぁ……」」」」

 

 激痛で地面を転げまわりながらのヨハネスの言葉に、現役黄金聖闘士(ゴールドセイント)4人は完全に引きまくった。当事者であるシャウラにいたっては、もう完全に泣きが入っていた。

 結局……。

 

「この変態! 変態!! ド変態!!!」

 

「ちょっと、やめて。

 シャウラ様の攻撃じゃないと全然気持ちよくないから」

 

「うっさい、死ね変態!

 シャウラ、もう大丈夫だから。 ほら、大丈夫大丈夫」

 

「ううぅ……アリサちゃぁん……」

 

 偶然やってきたアリサによってヨハネスはズタボロになるまで踏みつけられ、アリサの胸に抱かれ慰められること1時間、やっとシャウラは正常な状態に戻ったのだ。最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)の奥義を受けながら快感とするそのすさまじい出来事によって、ヨハネスはこの瞬間パライストラにおいて『伝説』になったのである。

 事の顛末を聞いたセージとハクレイは頭を抱えながら、「次のパライストラ入校生から面接試験を設けよう」と固く心に誓ったらしい。パライストラの方針さえ変えたのだから、そういう意味ではまさしく『伝説』と呼ばれるのにふさわしいのかもしれない。

 

「まぁいいや。

 ほれ、今日も少し様子みてやっから鍛錬してろ」

 

「君らはいつも通り、鍛錬していればいい」

 

 そう言ってカルディアとシオンは手近な岩を椅子代わりにして腰掛ける。

 こうやって先代黄金聖闘士(ゴールドセイント)の見る中での鍛錬というのは3人にとってはかなりのプラスだ。時折、先代黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちから的確な指摘を貰えるのだから、その鍛錬には力も入る。

 それに……カルマとサビクにとっては、カルディアとシオンの2人という今日は『当たり』だ。

 誰にだって相性というものはある。それは戦闘スタイルにも言えることだ。

 その中でカルマはシオンの、サビクはカルディアの戦闘スタイルに感銘を受けていた。

 

聖闘士(セイント)でも最大級の防御能力、そして十分すぎる攻撃力……俺の目指したいものはそれだ)

 

 『守る力が欲しい』とここパライストラの門を叩いたカルマは、特に聖闘士(セイント)の技の中でも珍しい防御技に途方もない興味があった。だからこそ、カルマの目標としているのはシオンのような聖闘士(セイント)なのである。できることならシオンに直接弟子入りを志願したいとさえ思っているくらいだ。

 一方のサビクの理想の戦闘スタイルはカルディアやシャウラといった蠍座(スコーピオン)の闘技である。

 

(『星命点』……急所を的確に狙い、そこを撃つ。

 もっとも効率的な戦闘方法だ)

 

 もともと医療技術を持つサビクは、その戦闘スタイルも鍛えようもない関節や急所に対する一撃など、医学知識に基づいた効率的な戦闘方法を信条としていた。そういう意味で、絶対的急所である『星命点』への攻撃に特化している蠍座(スコーピオン)の闘技は理想の極致なのだ。

 

 己の向かうべき目標を見据え、若き聖闘士(セイント)の候補生たちはその牙をゆっくりと研いでいくのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ズドン、ズドン……

 

 

 地下の屋内修練場でサンドバックへと拳を無心に振り続けるのは『33号室』のルーク・ブランシュであった。

 彼の心に常にあるのは『焦り』である。

 一家の中で唯一魔力資質が無いため『おちこぼれ』扱いされてきたルークにとって、このパライストラで力を示すことは最大にして最後のチャンスであった。

 だからこそ、誰よりも早く、誰よりも強く小宇宙(コスモ)を扱い、その力を示したいと思っていたのだ。

 そんな想いが彼を自己鍛錬へと駆り立てるのだが……。

 

「おいルーク、何やってるんだよ?」

 

 地下屋内修練場にやってきたのはルームメイトであるリュウセイとハリーであった。

 ルークの姿を認めると同時に、リュウセイが眉をひそめる。だが、とうのルークは面倒そうにただ一言だけを返した。

 

「……自己鍛錬だ、邪魔するな」

 

「あのなぁ!!」

 

 その言葉にリュウセイは頭を掻き毟ると、振り上げるルークの拳を掴む。

 

「こんな風に拳を痛める自己鍛錬があるかよ、バカ!」

 

 リュウセイの言葉通り、ルークの拳は日中の訓練と自己鍛錬によって血が滲んでいた。

 だが、ルークはリュウセイの手を乱暴に払いのける。

 

「お前らには関係ない……」

 

「ありますよ。

 僕たちはルームメイト、その心配をするのは至極当然の話です」

 

 ルークの拒絶にハリーは諭すように言うが、とうのルークはそれを無視するように再び拳を握り、サンドバックへと向かう。

 

「おい、いい加減にしやがれ。 このままじゃ本気で拳壊すぞ!」

 

「……それで砕けるなら、俺は所詮それまでだ。

 俺はそれを超えて……『力』を手に入れる!」

 

 どうにも聞き分けのないルークに、どうしたものかとリュウセイとハリーが顔を見合わせた、その時だった。

 

「それは鍛錬ではなく自虐だ。

 そんなことでは、己を鍛えることなどできん……」

 

「え、エルシド教官!?」

 

 現れた人物に声を上げたリュウセイはもちろん、ルークとハリーすら声を失う。そんな3人の反応をよそに、エルシドはサンドバックの前に立った。

 

「ルーク・ブランシュ、自己鍛錬を行おうというその向上心は立派だ。

 だが休養も己を鍛え上げることの大事な要素の一つ……友の忠告は素直に聞くべきだ」

 

「しかし教官、俺は一刻も早く、強くなりたいんです!!」

 

 ルークの言葉に、エルシドはルークを見つめる。その内面すら見透かすような視線で、エルシドは問うた。

 

「お前が強さを求めるのは、本当に聖闘士(セイント)としての愛と正義のためか?」

 

「……」

 

 その言葉に、当然ルークは答えられない。ルークの力を求める理由は『自己の価値を示す』ことなのだから。

 

「ルーク、今のお前はまるで抜き身の剣のようだ。

 鋭さだけを求める鞘無き剣……敵も味方も、己すら傷つける剣のように見える。

 ……少し、俺の目指したものを話してやろう」

 

 そう言ってエルシドはルークだけでなく、リュウセイとハリーに向かっても話を始める。

 

「俺の生涯目指したものは『聖剣』だ。

 正義のためのみに振るわれる、何物をも切り裂く、決して折れない『剣』……俺はそれを目指し、己を鍛え続けた。

 だが、その『聖剣』には己一人では至れないのだ。

 守るべき者、信頼する友、揺らがぬ信念……それら多くを得なければいかに己の身体を鍛え上げても『聖剣』には至れない。

 それらを得た俺は……目指した『聖剣』に近いものに辿りついた。

 このように、な」

 

 そしてエルシドは手刀を一閃させる。すると、サンドバックは綺麗な断面となって切り裂かれた。

 あまりのことに3人とも目が点である。

 

「ルーク、焦る気持ちは分かるが友の忠告は素直に聞き入れろ。

 そして外に広く心を開け。そうすれば、おのずとお前の内にある小宇宙(コスモ)は答えるだろう。

 決して、抜き身の剣で終わるな」

 

 そう言って去っていこうとするエルシドを、ルークが止めた。

 

「ま、待って下さい教官!」

 

 言って、ルークは手をついて頭を下げる。

 

「教官、俺に教えを授けて下さい!」

 

「……日中、教官として教えは授けているつもりだが?」

 

「それだけではなく、それ以上の教えも俺に授けて下さい!」

 

 そう言ってルークは頭を地面にこすりつけるようにエルシドに頼み込む。

 

「俺にもお願いします!」

 

「ぼ、僕にも!!」

 

 いつの間にか、ルークだけではなくリュウセイとハリーも手をついて頭を下げていた。その3人の姿を一瞥したエルシドはゆっくりと頷く。

 

「いいだろう、自己鍛錬に付き合うくらいのことはしよう。

 ただし、俺の言うことは師の言葉として必ず聞け。

 いいな?」

 

「「「はい!!」」」

 

 3人の返事にエルシドは頷くと、再び背を向けた。

 

「今日はもう全員休め。とても鍛錬のできる状態ではない。

 明日、またこの時間に来い……」

 

 エルシドはそれだけ言うと今度こそ地下修練場から去って行った。残された3人は立ち上がると、今のことを思い出す。

 

「すげぇ……あの教官に直接教えを受けられるなんて!」

 

「そうだね、これは凄いことだよ」

 

「……」

 

 3人ともそれぞれ興奮気味である。

 3人はそれぞれ、エルシドの語る『聖剣』の話に感銘を受けていた。だが、3人がそれぞれ『聖剣』において感銘を受けたポイントは微妙に違っていた。

 

(何物をも切り裂く『聖剣』……その『鋭さ』を俺も欲しい!)

 

 その鋭さで、誰かの心に己の価値を刻み込む……ルークは『聖剣』の鋭さに感銘を受けていた。

 

(決して折れない『聖剣』……その『強靭さ』なら、誰かを守る力になる!)

 

 その強靭な折れぬ力で誰かを守る……リュウセイは『聖剣』の強靭さに感銘を受けていた。

 

(正義のためのみに振るわれる『聖剣』……その強大な力に振り回されない『己を律する心』があれば、僕は正しい何かを成せるかもしれない)

 

 己を律する心で、真の正義を……ハリーは『聖剣』を振るうための、強大な力に振り回されない己を律する心に感銘を受けていた。

 

 『聖剣』を構成する3つの要素にそれぞれ感銘を受けた3人は、それぞれの『剣』を鍛え始めるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 黄金十二宮から西に約50キロの森林地帯、そこには聖域(サンクチュアリ)上層部と一部の人間しか知らない秘密の施設がある。 スカリエッティ一味、そしてゼスト隊の生き残りであるゼスト・クイント・メガーヌのアジト、秘密研究所である。

 そこでは現在、スカリエッティとプレシアがゼストを、正確にはゼストの着込んだ『物』を見ていた。それはブレストアーマーのようなものであり、色すら塗っておらず金属そのままの鈍い銀色の光を放っている。

 プレシアとスカリエッティ――この2人は旧知、というわけではないが互いに知っている仲である。というのも、スカリエッティはフェイトを産み出すキッカケとなった『プロジェクトF』のベースとなった基礎理論を構築した人物である。その理論を発展・完成させたのはプレシアだが、スカリエッティがいなければフェイトは存在できなかったのだ。

 

「あなたとまさか、共同研究をすることになるとはね」

 

「私もこんなことは予想すらしていなかったよ」

 

「……そうね、あの飢えた獣みたいに知識欲に貪欲だったあなたが、こうも変わるとは予想すらできなかったわ」

 

「お互い、それだけの経験をしたということだろう。

 君も私も『小宇宙(コスモ)』と出会い、それで変わったのさ」

 

 そう言ってスカリエッティは彼方を見た。その方向とは黄金十二宮、正確には女神神殿の方向である。

 スカリエッティにとって『小宇宙(コスモ)』との出会いは大きかったが、もう一つ大きな出会いがあった。それは女神信仰という、いわゆる『宗教』との出会いだ。

 当然のことだが次元世界にも宗教は存在するが、スカリエッティはそれらには興味がなかった。だが、ここ聖域(サンクチュアリ)での女神信仰では違った。

 黄金十二宮の奥、女神神殿には数多くの女神たちの小宇宙(コスモ)を伝える神具が確かに存在した。それによって伝えられる女神アテナの大いなる『愛』というものを知ることになったのだ。『愛』とは思想の一形態に過ぎず、それまでのスカリエッティにとってはそれは現実には何の効果もあらわさないただの概念でしかなかったが、それを雄大な小宇宙(コスモ)という形で実感することになったのである。以降、スカリエッティは女神信仰者の一人だ。

 関係のない話だが、この様子を見ていた快人は「……これ、たちの悪い洗脳じゃねぇの?」と言った瞬間に、先代黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちの集中砲火を受けることになったのである。

 

 ともかく、そんなわけで聖域(サンクチュアリ)に対し非常に協力的になったスカリエッティと、元から協力的だったプレシアは2人の共同研究として取り組んでいるものの試作第一号がゼストの着込んだブレストアーマーのようなものである。

 これこそ『魔導士が聖闘士(セイント)とまともに戦うための方法』として考え出された物。魔導士の能力を引き上げるための、魔導士のための聖衣(クロス)――鋼鉄聖衣(スチールクロス)である。

 以前破損したレイジングハートとバルディッシュが提案した『鋼鉄聖衣(スチールクロス)計画』、それをプレシアとスカリエッティの共同によって形にしようというのである。

 とはいえその道は前途多難だ。

 

「どうだろう、騎士ゼスト?」

 

「やはり重いな。 胸部パーツのみの現状でこの重量では、俺ですら着込めるか分からんぞ」

 

 ゼストのその言葉に、スカリエッティはため息をつく。

 

「やはりか……だが、仮想敵を聖闘士(セイント)級と仮定すれば、最低限そのレベルの防御力は必須だ」

 

「でもそのために機動性が下がって相手に攻撃が当たらない・相手の攻撃が避けられないではお話にならないわね」

 

 聖闘士(セイント)と魔導士を純粋に比較すれば、黄金聖闘士(ゴールドセイント)のような一部の規格外を除いて、攻撃力に関しては魔導士でもやろうと思えば聖闘士(セイント)に迫るものを出せる。しかし、防御力・機動力という部分を見れば魔導士では聖闘士(セイント)に敵わないのだ。その2点を補うためのものとして開発を始めたのがこの鋼鉄聖衣(スチールクロス)だが、この2点の両立というものが非常に難しい。

 そもそも、『防御力(装甲)が厚ければ重くなり機動力が下がる』、といったようにこの2つのファクターは本来、当り前のように反比例するものなのだ。それを双方ともに上昇させようというのは無茶な話なのである。

 しかし……。

 

「ふふふ……面白いじゃないか。

 絶対不可能な命題を解き、誰も見たことのない答えに行き着く……それこそ私のような科学者の往く道だよ」

 

「……そうね。

 到達不可能と思える地平への道を、知性でもって切り拓くことこそ科学者の誇り……いいわ、私たちの知性のすべてで持ってこの命題を克服・征服してあげる!」

 

 望んだ結果が出ていないというのに、スカリエッティとプレシアは壮絶な顔で笑う。

 それは己の戦う道を往く戦士の顔。

 『不可能』に、『知性』という名の剣を手に挑む『科学者』という戦士の顔だ。

 2人の科学者の戦いはまだまだ始まったばかりであった……。

 

 

 




というわけで今回はパライストラの日常の様子でした。

……この聖域は色んな意味で問題を抱えた仕様です。
アルバフィカ校長とリニス秘書――弟のごり押しで、この2人を書くためだけに一週間投稿が空く羽目になったとは口が裂けても言えない……。

そして教師陣はこれはまた……命がいくつあっても足りない鬼教官、いきなり溶岩に叩き込まない分丸くなりました。

そしてオリジナル聖闘士たちの方向性の示唆する回でもあります。
正直、送られてきた設定で黄金聖闘士の師事と技を受け継ぐ設定が多すぎて頭を抱えました。
授業で公平に教えてるのに一部生徒だけ特別に師事を、というのはいくら何でも不公平すぎてそれは出来ません。どうやりゃいいのか……。
結局、なるべく希望にそった形を無理のないようにと思った結果今は『自主練に付き合ってくれる』となりました。
とはいえ、『55号室組』と『33号室組』のキャラたちの目標到達点は見えたと思います。
え、ヨハネス? 彼はこの作品の、書いてて楽しい清涼剤ですが何か?(笑)

次は今度こそ最後のオリジナル聖闘士登場回の予定。
次回もよろしくお願いします。



今週のΩ:聖闘士星矢において、やはり『対神戦』は絶望的な仕様。
     その辺りひしひしと感じられて良い回でした。

     しかし本当にエデンさんちはいい家庭でした。
     カーチャンも最後の最後まで『可愛い息子のために!』を貫いてくれましたし……家族関係が壊滅していることの多い聖闘士星矢を考えると、エデンさんはかなり恵まれてるなぁ。
     そして満を持して登場したのに簡単に折れるアリアの杖。
     なんか……最後の希望が断たれた気分です。
     
     ユナちゃんはマジでヒロイン。
     そのヒロイン力は間違いなくアテナを超えた……。

     次回は……え、この局面で星矢?
     まさか最後全部、復活した星矢に丸投げってことは……ないよなぁ?
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