今回は『聖域始動編』の最後のお話、その前編です。
この話は全キャラに解決すべき部分があるのでかなりの長丁場の予定、前中後の3話構成の予定。
今回は蠍と牡牛のお話までです。
聖戦の初戦とも言える『雪上会戦』は、Gフォース―――
『敗北』、というのはその後の対応をもっとも重要視される。決定的な敗北ならばなおさらだ。早急に態勢の立て直しと対策が必要となるが、残された傷跡は大きかった……。
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「校長のおっしゃられる通り、パライストラ生徒たちの間に動揺が広がっています」
パライストラ校長室でリニスはごくごく機械的な、感情を感じさせない仕事用の声で淡々と状況をアルバフィカに報告した。
「……やはり今回の敗戦の影響か……」
報告を聞いたアルバフィカはため息とともに天井を仰ぎながら椅子に背を預ける。
「
それが完膚なきまでに敗れ去ったとなれば仕方の無いことなのかもしれません……。
ただ……」
そう言って、「これは私見ですが……」と前置きしてからリニスは言葉を続けた。
「噂の伝達スピードなど、このパライストラ生徒たちへの動揺には作為的なものを感じますね。
恐らくは何者かが意図的に煽っているものと思われます」
「それはやはり入り込んでいる間者だろうか?」
「恐らく間違いないでしょう。
「内に外に、敵は多いな……」
やれやれとアルバフィカはため息をついた。
「いかがしますか、校長?」
「いかがも何も従来通りだ。
パライストラの生徒たちのすべきことは己を鍛え、来るべき時のための力を蓄えること。その内容に変わりはないよ。
動揺せずに、己を鍛えることに邁進するように伝えてくれ」
「分かりました、そのように伝達します。
……入り込んでいると思われる間者はいかがしますか?
許可をいただければ私の方で調査を……」
「いや、その必要はない」
リニスの提案を、アルバフィカは首を振って却下する。
「これで動揺し、
そんな心根では
それに……下手な調査は君にも危険が及ぶだろう?」
「っ!?」
その自分を気遣う言葉にリニスは思わず顔を赤くするが、アルバフィカは気にした様子もなく続けた。
「パライストラはまだまだ問題は山積みだ。
この仕事の量はもう君なしでは廻らんよ。 その君に危険なマネはさせられんさ」
アルバフィカはあくまでも現状を話しただけだろうし、現実をありのままに語っただけだろう。少なくともリニスがアルバフィカに抱いているような恋心を持っての発言ではないはずだ。
リニスはすでに魂が具現化した存在だから『死ぬ』ということはまずない。身の危険などありはしないというのに、生身と同じように自分を気遣い、さらに自分を必要だという言葉にリニスの胸は高鳴る。
我ながらどうしようもなくちょろい女だ、とリニスは思う。『好きだ』とか『愛してる』とか言われたわけでもないのに頼られ必要とされているのがうれしくて、勝手に勘違いして、勝手に期待に胸を膨らませ、勝手に尽くそうとしているのだから。
(もしこれを狙ってやっているとしたら、とんでもない女誑しですね)
とはいえ、それができるような器用な人間でないからこそリニスはアルバフィカに惹かれたのだ。
アルバフィカは窓際に移動し、外を眺めながら言う。
「教師陣には言わなくても大丈夫だろうが、あくまで今まで通りに修行を続けさせてくれ。
また、精神的な不安の解消のためにも生徒からの相談の窓口を医療室に設けたい。
責任者のシャマル殿に話をしておいてくれ」
「はい、校長!」
アルバフィカの指示にリニスは答え、頭の中でプランを立てていく。
パライストラ校長とその秘書は、今日も多忙なようであった……。
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パライストラ第一期生の総代として『雪上会戦』に参加したトム・ウィリアムは前回の敗戦について考えていた。
(あれが
圧倒的、ただひたすら圧倒的だった。
パライストラ全員の憧れでもあるあの
(教皇様達が戦力拡張に躍起になるはずだ……)
トム・ウィリアムはこの時、始めて『聖戦』というものがどんなものか思い知っていた。
彼は管理局の人間であったし、パライストラ入校にあたって『破滅の予言』について知らされており『聖戦』についての知識もあったが、次元世界すべてを巻き込むような内容には誇張のしすぎではないかという疑念があった。
だが、それが最悪なことに、誇張でも何でもないということを思い知ったのだ。
(あんな力がところ構わず暴れまわれば、本当に次元世界が終わってしまう……)
そこまで考え、トム・ウィリアムはネガティブに陥っている自分の考えを振り払った。
「まだ時間はある。 できることはいくらでもあるはずだ」
確かに今回の『敗北』は大きな痛手であり、
自分自身の
まず始めに何を考えるべきか……そう思ってふと視線を向けると、その視線は机の上に飾られた写真に目が行った。そこにはパライストラの学生たちと、なのはたち3人娘が映っている。
なのはたち3人は
きっかけはなのはの魔法訓練を目撃したトム・ウィリアムがアドバイスをしたことだった。管理局で戦技教導官をしていた経験上、トム・ウィリアムはその人の癖や特徴を見抜き、適切な助言を行うことは得意だ。そのため、なのはにアドバイスをしたことがきっかけで、なのはの方から魔法を上手く使えるように教えを受けたいと言ってきたのだ。今では、彼はなのはにとっての魔法の師の1人である。
トム・ウィリアムの方もまるで真綿で水を吸うように物事を吸収していく才気溢れるなのはに様々な教えを授け、また
そんななのはの撃墜の報は、トム・ウィリアムにとっても心配だった。
(あの子は戦えるのか?)
管理局でも戦闘の怪我によって身体は大丈夫でも、その恐怖によって戦えなくなり一線から身を引いた人間を数限りなく見ている。
なのはもそうなってしまわないだろうか……そう、ふと考えてしまい、すぐにトム・ウィリアムは苦笑とともにその詮無い考えを振り払った。
(あの子はきっとこの程度では折れない……)
なのはは強い。その心には、『不屈』という言葉がまるで巨大な大樹のごとくしっかりと根付いている。その『不屈』に支えられた心が折れるはずが無い。
そう確信しているトム・ウィリアムは写真から視線を外し、ノートを前にする。
(あの子は必ずすぐに帰ってくる。
あんな子供でも頑張るんだ、大人の自分が頑張らなくてどうする!)
そう心を切り替え、トム・ウィリアムはノートに己の為すべきことを列挙し、纏める作業に移ったのだった……。
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パライストラの地下修練場で、その日もエルシドは33号室のルーク、リュウセイ、ハリーの3人に対して教えを授けていたが、3人の動きが目に見えて鈍いことにすぐに気付いた。
「どうした、鍛錬に身が入っていないな……」
「「「……」」」
その言葉に、3人は答えられない。その姿にエルシドは息をついた。
「大方、予想は付いている。
この間の『敗戦』を、そして
エルシドの言葉に3人は頷く。3人にとって、
そんな3人に対し、エルシドは言う。
「お前たちの反応は正しい。
だが……それこそが
エルシドは一瞬だけ遠い目をすると、3人に向き直る。
「己の道を己で決め、その道をただ貫く……それこそが『生きる』ことだと俺は思っている。
俺はアテナの愛と正義の道こそが、人々に平穏をもたらす道だと信じ、貫き、生きた。
例えどんな困難があっても、だ。
……お前たちが先の戦いで、何を思ったのかは分からん。
だが一つだけ……己の決めた道を、後悔せずに貫け。
俺の言うべきはそれだけだ……」
そう言ってエルシドは少し離れた場所で、腰をかけた。
エルシドの言葉を受け3人は思い出す。そう、自分たちは為したい目的が、進むべき『道』をこの道だと決めたのだ。その道はそれぞれの『覚悟』と『想い』があって決めたものだ。障害があるからと言って変えるなど、できようはずもない。
そのことを思い出した3人は再び、鍛錬へと戻る。
己の道はすでに決めている。その道を貫くための『剣』を、今は研ぎ澄ます……3振の若き剣たちは、師の言葉に再びその剣を研ぐ作業に没頭するのだった……。
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さて、そんな33号室の面々と同じく、野外修練所ではカルマ・レスティレットが鍛錬を続けていたが、それは見るからに無茶だ。
「くっ! はっ!!」
石柱に叩きつける拳は血が滲み、息は上がっていて明らかなオーバーワーク。それは修行というよりもはや自虐の域である。それでも、カルマは何かに取り憑かれたように拳を振るい続ける。その様はまるで苛立ちを物にぶつける子供のようだった。
「やめるんだ、カルマくん!」
堪らなくなった同室のサビク・アルハゲがカルマを羽交い絞めにしてそれを止めた。
「離してくれ、サビク!」
「いいや、これ以上はもうドクターストップだ!
そんなことじゃ拳どころか、身体が完全に駄目になる!!」
サビクは必死で説得するが、カルマはその言葉を聞き入れない。
「第一、 そんな精神状態で鍛錬なんかになるはずがない!
落ち着くんだ!!」
「うるさい! うるさい! うるさい!!」
苛立ちに暴れるカルマは、まるで駄々をこねる子供のようだった。そんな修練場に、別の声が響く。
「これは何の騒ぎだ?」
「シオン様……」
シオンの登場にカルマもやっと暴れるのをやめるが、拳をおろしたその姿には覇気が無い。そんな姿に、シオンは息を付く。
「もっとも、私も話は聞いている。
近しき者が
「……はい」
悔しそうにカルマは唇を噛んだ。
「シオン様、俺、分からないんですよ。
俺はあいつや、孤児院の兄弟たちや、他にもたくさんの誰かを守れる自分になりたくてここに、
なのに……何であいつが
カルマはカレンが
そんなカルマに、シオンはゆっくりと語り始めた。
「……私の親しき者も、
「「!?」」
突然のシオンの言葉に、カルマとサビクは息を呑む。
「そんな彼と私は対峙し、そして……私は彼を討ったよ」
「後悔は……しなかったんですか?」
「その気持ちは確かにあった。
だが……私はそれでも
生きると言うことは、何かを『選ぶ』ことだ。
そして『選ぶ』ことに後悔はつきもの……私は生きてきた分だけの後悔を重ねてきた。
それでも私は、その『道』を進むことをやめなかった……」
「シオン様は俺にもその『道』を……敵になった知り合いを討つ道を行けというんですか!?」
シオンの話からそう言われていると判断したカルマは感情的に声を荒げるが、そんなカルマにシオンはゆっくりと首を振った。
「
だが……私はお前がその者のために心を燃やすことをやめてほしくないとも思っているよ」
「えっ……?」
「今の話は、私の選んだ私の『道』だ。
お前は、お前の選んだ『道』を行けばいい。その者のための心を燃やすことを選んだのなら、その『道』を真っ直ぐに迷わず進めばいい。
例え後悔に襲われても、俯くことなくしっかりと前を見据えてだ」
「シオン様……」
「だがカルマ、お前の進もうとしている道は過酷な道だ。
それに見合う力を必要とするだろう。
己を鍛えることも大切だが、友の言葉と絆を大事にしろ」
シオンの言葉に、サビクも続ける。
「そうさ、同じ部屋の仲間なんだ。
僕の言葉も、君の行く道の助けになるかもよ」
「サビク……」
カルマのさっきまでの乱れた心は、澄んだ水のように落ち着きを取り戻していた。その様子を見ながら、シオンは安堵の息を付く。
(彼はどうやら大丈夫そうだ……)
シオンとしても将来が楽しみなカルマに、こんなところでつまずいて欲しくないと思っていたが、この分ではどうやら大丈夫そうだ。何故なら彼には己の選んだ『道』を行こうと言う決意と、仲間がいるのだから。
そこまで考えて、シオンはふと一つの疑問をぶつけた。
「そう言えば、君たちのもう一人の友はどうしたんだい?」
見渡してみてもヨハネス・スピンドルの姿が無い。仲のいい55号室の面々にしては修練での別行動は珍しい、とシオンは言葉を続ける。
そんなシオンにサビクが答えた。
「ああ、彼なら……」
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「シャウラ様ぁぁぁぁ!!!」
パライストラ食堂にてシャウラを見つけたヨハネス・スピンドルはいつも通り嬌声を上げながらシャウラへと近付くが……。
「……」
「? シャウラ様?」
いつもなら悲鳴を上げながら逃げるシャウラからの反応がない。その様子にヨハネスがシャウラの顔を覗き込みながら言うと、そこでやっとヨハネスの存在に気付いたようにシャウラは反応した。
「あ、ヨハネスさん……」
「どうしたんですか、シャウラ様?
様子がおかしいようですが?」
そう言いながらも、ヨハネスはその原因はあの『雪上会戦』での敗北であろうと予想する。
「シャウラ様、もし僕でもよければ話くらいは聞けますよ。
こう見えても僕はシャウラ様より年上なんですから、さぁ僕の胸にゴートゥヘル!」
「地獄に飛び込んでどうするの?」
テンションが振り切ったため言葉が明らかにおかしいヨハネスに苦笑し、それでもシャウラはその胸の内を話し始めた。それはシャウラ自身がかなり参っていたのと同時に、変な人ながらいい人、という意識がヨハネスにあったからに他ならない。
「……僕は本当なら誰も傷つけたくない、それが例え敵だとしても。
でも……結局は力を振るうしかないことになれば人を傷つける。
僕は……口ではどうとでもいいながら、
誰も傷つけたくないと言いながら力を振るう己が、とんでもない偽善者のように思え、それが自分自身への嫌悪に繋がっている。これは
そんなシャウラの言葉を聞いたヨハネスは、ゆっくりと口を開いた。
「シャウラ様……確かに『力』は相手を傷つけるもの。それに不安を抱くのは正しいことだと思います。
でも……迷いを抱いて『力』を振るうことは、危険です。
迷いを持てば自分も、自分の守りたいものも、無関係なものも……そして時には『相手』すら傷つけますよ」
そこには日ごろ変態的な行動をとる困った男ではなく、年下を導く真面目な好青年の姿があった。そんなヨハネスはそのままシャウラの正面に座ると、ゆっくりと話を始める。
「ちょっとした僕の昔話をしましょう。 あれは僕が管理局に入ってしばらくたった時のことです。
その時の任務は人質をとって立て籠もる、立て籠もり犯の制圧でした。
何人もの人質と各所に仕掛けられた爆弾、そしてその起爆装置を握る犯人……僕らは建物内に強行突入、起爆装置を起動させる前に犯人を捕まえることに成功しました。でも……事件はそれで終わりではなかった。
突然、人質の女の子が犯人の落とした起爆装置へと向かったんです。
犯人は必ずことが成功するように、あらかじめ人質の女の子を操る魔法をかけていたんですよ。
全員が犯人へ集中していたその時、僕は魔法を放てば女の子を止められる場所に居ました。でも……僕は『迷い』を持ってしまいました。戦いの中で、小さな女の子に魔法をぶつけ傷つけることを。
……その『迷い』は致命的でした。女の子によって爆弾は起爆、僕たち武装隊はバリアジャケットにより軽症ですみましたが人質に重軽傷者多数、死者まで出る大惨事となったんです……。
数多くの重軽傷者に死者、そして操られた女の子……この子は操られたとはいえ、この事件の最後の引き金を引いてしまったことで、その心に消えることのない深い傷を負ってしまいました。
これが僕の『迷い』が生んでしまった結果です……」
ヨハネスは過去の悲惨な事件を淡々と語る。
「それ以降、僕は『迷い』を捨てました。
任務なら相手がどんなものでも、一切の慈悲も無く叩き制圧する……でも、僕はそれが多くの人を、ともすれば『敵』すら救う方法だと思うからです……」
そこまで語ると、ヨハネスはシャウラへと微笑む。
「……シャウラ様、『天蠍宮』へ行ってください。
先ほど、ツンツン娘……じゃなかった。 アリサさんが来たらしいですよ」
「アリサちゃんが?」
「ええ……。
シャウラ様、アリサさんと話して見て下さい。
きっと……その『迷い』はそれで晴れますよ」
「そう……だね」
ヨハネスの言葉に、シャウラは立ち上がった。そして、食堂からの去り際に振り返る。
「ヨハネスさん、ありがとう!」
ペコリと頭を下げ、シャウラは自らの守護宮である『天蠍宮』へと向かう。そこで待つはずの少女と話をするために。
「……」
残されたヨハネスはしばし、無言であった。
そして……。
「むほほほほほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
意味の分からない嬌声をヨハネスが上げると何かに悶えるように床を転げまわる。
「シャウラ様が、僕に、お礼を!!
むっほぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
さて、もう一度この場所がどこか説明するが、ここはパライストラの食堂である。当然、他の生徒たちも多数が利用する場所だ。
突然の奇怪な図に誰もが目を疑う中、ぴたりとヨハネスの動きが止まる。
「あ、あの……大丈夫? 色んな意味で」
勇気ある1人の女生徒が恐る恐ると言った感じで突然静かになったヨハネスに話しかけると、ヨハネスは無言で立ちあがった。そして、どこからどう見ても好青年としか言いようのない、イイ笑顔でこう言い放ったのだ。
「嬉しさのあまり……ほぼイキかけました」
「「「「「へ、変態だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
その場に居たパライストラ生徒たちの叫びが木霊する。
……イイハナシダッタノニナー。
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ヨハネスの言葉通り、用事を済ませたアリサはシャウラの部屋とも言える『天蠍宮』に居た。
「アリサちゃん!」
「シャウラ?」
アリサはどこか思いつめたようなシャウラの様子をいぶかしむ。そしてシャウラは自分の悩み……『自分は誰も、敵ですら傷つけたくない。でも戦わなくてはならない』という悩みを吐き出した。
その話を聞いたアリサは目を瞑り、数回トントンと自分の額を指で叩くと、シャウラに言う。
「シャウラ、アンタ馬鹿?」
「えうっ!? 酷いよ、アリサちゃん!
僕、これでも真剣に悩んで……」
呆れ顔のアリサにため息と共にバッサリと切って捨てられ、さすがにシャウラも反論しようとするがアリサは続けた。
「ねぇ、シャウラ……どんなことにだって『誰も傷つけない』なんて方法は無いわよ。
意図するにしろしないにしろ、人は生きてるだけで誰かを傷つけてるもんよ。
特に……私やシャウラは、家関係で数えきれない数の人間を傷つけて恨みをもう呆れるほどに買ってるわ」
「それは……」
その言葉に、シャウラは口ごもる。
他者を傷つけることは何も暴力だけではない。特にシャウラとアリサの実家は一大企業であり、追い落とされ不幸になったもの、そしてそのことでシャウラとアリサを恨む人間は数多い。実際、そう言った人間に誘拐されそうになったことだって何度もある。
そういう意味では、2人はすでにとんでもない数の人間を傷つけている。
「でも、私はそのことが罪なんて思わないわ。
これからだって次元世界で事業展開するとき、私はいくらだってライバルは追い落としてやるし、恨まれてやるわ。
だって……それでもやりたいことが、やらなきゃならないことがあるもの」
そう言って、アリサはフッと笑って続けた。
「『大いなる力には大いなる責任が伴う』……クモのヒーローの言葉だっけ、これ?
私、この言葉は真実だと思う。
私は望む望まざるに関わらず『一大企業の令嬢』というある種の力を持って産まれたわ。そして、そんな私には『責任』がある。
競争に勝ち、企業を発展・存続させること……それは部下になった人たちがまっとうに暮らせるように、そして大切な友達やこの場所を、『世界』を守るために必要な私のすべき『責任』よ。私はこの為なら、相手を傷つける。
人類皆平等、なんてのは嘘っぱちよ。世界の裏側でどれだけの人が死んでいても、『可哀そう』とは思うし『助けたい』って思うことはあっても、涙は出ないわ。
私にとって大切な守りたいもののために、私は誰かを傷つけることに後悔はしない。もちろん、傷つけないにこしたことは無いけど、それができないなら私は躊躇わない」
アリサはそう言って、真っ直ぐにシャウラを見つめた。その目にはまぎれもない『覚悟』が見て取れる。今のアリサの言葉は真実なんだろう。
「アリサちゃんは強いね……」
「何言ってるのよ、シャウラは最強の
シャウラの言葉にアリサは苦笑した。
「……傷つけたくない、でも傷つけることを躊躇ってはいけない……これが僕の、
「きっとそうね。 だってそうしないと、たくさんの人が死んじゃうんでしょ?」
「うん……」
アリサの言葉にシャウラは頷くが、それでも誰かを傷つけるということへの嫌悪感は消えない。そんなシャウラを、アリサはゆっくりと抱きしめた。
「あ、アリサちゃん!」
「いいからこのまま聞いて」
突然のことに顔を真っ赤にしてシャウラが声を上げるが、アリサはシャウラの耳元で囁くように言った。
「シャウラは優しいから、どんなに誰かを守るためでも、相手を傷つけなきゃならないってジレンマは辛いんでしょ?
相手を傷つけるシャウラに、罪だ罰だと言う奴だって出てくるかもしれない。
でも……少なくとも私だけはシャウラが何をしたって肯定してあげる。シャウラを知ってる私だけは、どんな相手にだって……神様にだって言ってやるわ、『シャウラは悪くない』って。それで一緒に背負ってあげる。罪だろうが罰だろうが、ね。
だから、必要なら躊躇うな。いい、わかったわね!」
「あ、アリサちゃん……」
シャウラの目に涙が滲む。シャウラは
(人はやっぱり傷つけたくない……でも必要なら……躊躇わない。僕はその罪を背負う!
だって……どんなに罪を背負っても、どんなに恨まれても……守りたいものがあるから……)
それは漆黒の夜空に輝く、決して見逃すことのできない光のようで……。
「……アリサちゃんはまるで『アンタレス』だね」
「何それ? なんで星なの?」
怪訝な顔でアリサは返すが、この言葉はシャウラにとってどれほど大きいかアリサは知らない。
燃えるルビー、深紅のアンタレス――それは
そして、そんなシャウラの胸にも火が灯る。
(僕は聖戦を戦い抜く!
この魂のすべてを燃やし尽くしても!)
罪を背負っても守るべきものを改めて確認したシャウラからは『迷い』は消えていた……。
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黄金十二宮の『金牛宮』にて……。
「う、うぅ……」
「あ、やっと起きた」
大悟が目を覚ますと同時に、自分の顔を覗き込むはやてと目が合った。そしてゆっくりとはやてに膝枕をされていることを認識する。
「俺は……」
「うっしー、忘れたん?
レグルスさんと童虎さんに修行を頼んで2人に吹っ飛ばされて気絶してたんよ」
「……ああ、そう言えばそうだった」
ライトニングプラズマと廬山百龍覇の飽和同時攻撃を受けて気絶したのを大悟は思い出していた。
「目が覚めたし、重いだろう?
すぐどく……」
「あ、ええんよ。
まだこのままで」
大悟は身を起こそうとしたがはやてに頭を掴まれて止められ、強引に膝枕を続けることになった。
そのまま2人はたわいない話を始める。
「せっかくの女の子の膝枕なんよ。 もう少し堪能してもバチはあたらへんよ。
ほれほれ、美少女のプリプリの膝やで。 スベスベで気持ちええやろ?」
「……自分で美少女とかいうのはどうかと思うぞ。
あと……運動不足なんじゃないか? プリプリというか……プルプルな気がするぞ」
「あはは……殴るで? グーで」
気にしていたのかちょっと青筋を立てて拳を震わせるはやてに、大悟は苦笑を返す。そんな大悟に、はやても仕方ないという風に肩をすくめると拳をおろした。
「うっしーは乙女心がわかっとらん。 今ので私の好感度がマイナス1されたで」
「そうか。 それじゃセーブポイントからやり直しをさせてくれるか?」
「残念やけど、これセーブポイントは無いんよ」
「それはハードモードなことだ」
軽口を自然に叩きあう2人。その姿はまるで長年にもわたって連れ添ったようにも見える。実際、2人は同じ家で『家族』として生活をし続けているのだから、ある意味では当然とも言える姿だった。
「しっかし……うっしーも無茶しよるなぁ。
「……そのくらいの無茶が必要だと、この間の戦いでよく分かった」
大悟はグッと拳を握りしめる。
『雪上会戦』において大悟はラダマンティスを相手に正面から力負けをし、角を折られるという屈辱的な敗北を喫した。その悔しさは未だに大悟の胸の中に渦巻いている。その悔しさもあり角を修復するのは『ラダマンティスを倒した時』、と一種の願をかけ、大悟は
「言い訳はしないしできない。
今の俺は……ラダマンティスより弱い。
こんなことでは『聖戦』を乗り越えるなんて夢のまた夢だ。
だからこそ……無茶でも何でも強くなる必要があるんだ」
そう言って大悟は握りしめた拳を空に向かってゆっくり振り上げる。そんな大悟に、はやてはウンウンと頷いた。
「そやな。 私もこの前思い知ったわ。
無茶やらなってうっしーの気持ちも分かる」
「……無茶な修行してる俺を咎めないのか?」
どうにも物分かりのいいはやてに、自分でも無茶な修行だと自覚していた大悟は試しに聞くことにした。
「シグナムとかは『無茶だ』とか『身体を壊す』って言っとったけど、私は別に咎めへんよ?
だって……」
そう言うとはやては空に向かって振り上げられた大悟の拳を、包み込むように両手で掴む。
「うっしーは今まで、私を悲しませたことは無いもん。
だから今回も大丈夫や。
だってうっしーが無茶して身体壊したら私が悲しむもん、そんなことうっしーが絶対するわけない。だから、どんなに無茶に見えても私はなんも心配しとらんよ」
その言葉には一片の偽りも曇りも無い。それほどまでに、はやての大悟への信頼は厚いのだ。
「……そろそろ修行に戻るよ」
大悟は若干顔を赤くしながら、気恥ずかしそうに身体を起こして立ち上がる。
「頑張って、うっしー。
また倒れたら膝枕で迎えたるから」
「おいおい、倒れること前提で話をするなよ」
大悟は肩をすくめると、修行場である『金牛宮』の奥へと戻っていく。
そして……。
「ライトニングプラズマ!!」
「廬山百龍覇ッ!!」
「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
何やら叩きつけられるような音が遠くから響き、はやては苦笑しながら、やれやれといった感じでため息を付く。
「こら、お早いお帰りになりそうやな」
少しだけ嬉しそうにしながらはやてはしばしの間、幼馴染の帰還を待つのだった……。
というわけでパライストラ生徒勢と、蠍・牡牛のお話でした。
シャウラはヨハネスとアリサのお陰で、『迷い』は振りきりました。
大悟ははやてとのゆるぎない信頼を再確認しました。
次回は魚・双子、そして蟹の前編まで予定です。
次回もよろしくお願いします。
今週のΩ:グレートティーチャーwww
本家ライオネットボンバーってアニメ初登場じゃなかろうか?
しかし同期がここまでしっかり先生やっていると、余計に市先輩の立場がない。
まぁ、生涯現役という姿勢は褒められるかもしれないが…。
そういえば、あの牧場主は何でライオネットボンバーを伝授出来たんだろう……?
次回はまた集合が……って、この間集合させたばっかでまた集めるなよ。
聖闘士の移動手段って徒歩っぽいから時間かかるだろうし。
やはりその辺りを補うためにもグラード財団のような後援組織は必要なんだろうなぁ……。