比較的短めの内容になりました。
黄金十二宮の『双魚宮』……。
「ダイヤモンドダストッ!!」
「くぅ!?」
デジェルの放つ極低温の猛吹雪の中で、シュウトの薔薇が凍っていく。
シュウトはあの敗戦で自身の薔薇が相手に届くことも無く焼失したことで、自分の薔薇の維持能力に問題を見出していた。
炎と薔薇では、相性が悪いことは最初から分かっている。あの強力な熱の中では、空気中に漂わせた香気すら焼かれてしまって相手に届くことは無い。
だからこそ、シュウトは『どのような環境下でも失われない薔薇』を目指し、薔薇へと
「どうした、まだたったのマイナス160度前後だぞ。
この程度の変化に耐えられないようでは、あの
「分かって……います!」
「ならば
限界を超え高めた
そんなことはとっくの昔にやってはいる。シュウトの濃密な
そして、やはり今日も上手くは行かなかった。水瓶の形へと組まれたデジェルから、溢れだすように究極の凍気が放たれる。
「オーロラエクスキューション!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
最終的な目標である超高温下・絶対零度下でも有効な薔薇……だが今のシュウトにはそれは遠い目標だ。
凍気の奔流を受け、シュウトはその意識を手放したのだった……。
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「シュウ! シュウ!!」
「あ……れ……? フェイト……」
自分を呼ぶ声にシュウトが目を開けると、シュウトの顔を覗き込んだフェイトの顔が、今にも泣きそうに歪んでいる。シュウトは未だ覚醒しきっていない頭で、無意識にそんなフェイトの頬に手を伸ばした。
「ボクは……」
「デジェルさんとの修行で倒れて……」
「ああ、そうだった……」
辺りを見れば、そこは『双魚宮』の居住スペースにあるベッドだ。身を起こそうとするシュウトだが、そんなシュウトをフェイトが慌てて押し留める。
「動いちゃダメだよ、シュウ! まだ休んでないと……」
「そんな時間はボクにはないよ。
早く、もっと強くならないと……」
それでもまだ身を起こそうとするシュウトに、フェイトは強引な手段にでることにした。
「え、えぇい!」
ポフッ
フェイトはシュウトに覆いかぶさるように飛びついた。
「フェ、フェイト……!?」
「シュウは休まないと駄目。 もしどうしても行くというのなら、私をはね飛ばして行って」
動揺するシュウトを、フェイトは真剣な表情で見つめながら言う。しばしの間2人の間で視線が交錯するが、折れたのはシュウトだった。
「ズルイよ、ボクがフェイトをはね飛ばしたりできないって分かっててしてるでしょ?」
「うん、知ってる。 だからやった」
その言葉に、シュウトはため息を付くと起こしかかっていた身体を再びベッドへと預ける。だが全身でシュウトに覆いかぶさるように抱きついたフェイトは、その拘束を緩めない。
「あの……フェイト? ボクもうしっかり休むけど……?」
「そう言ってシュウは無茶しそうだから、もう少し……このまま様子を見る」
顔を赤くしながら上目づかいでそんなことを言うフェイトに、シュウトはほほ笑むとその艶やかな髪を一撫でした。それが気持ちいのか目を細めるフェイトに、まるで猫みたいだとシュウトは苦笑する。
しばしの間、ベッドで抱き合いながらそんなじゃれあいを続けた2人。やがて、ゆっくりと2人は会話を始めた。
「……シュウ、最近のシュウは焦ってるみたい。
やっぱり……この間の戦いのせい?」
「……そうだよ」
目を瞑れば、あの戦いが目蓋の裏に蘇ってくる。
そして放たれた言葉。
『お前は……弱い』
ギリッ!
思い出すだけで無意識に噛みしめた歯が鳴り、胸の内を『悔しさ』が染めて行く。
「ボクは……手も足も出なかった。
聞いて呆れるよね。
……ボクは悔しいんだ! 悔しくて悔しくて堪らないんだ!!」
「シュウ……」
フェイトは滅多にないシュウトの激情に驚いた顔を見せる。基本的に大人しく優しいシュウトは、フェイトにとってはいつでも微笑んでいるイメージがあるからだ。もっとも敵対した相手やフェイトを傷つけた相手にはいくらだって激情を露わにしているのだが、その辺りは受け取るものの違いだろう。とにかく、滅多に見れないシュウトに驚きと、同時に少しだけ男らしい力強さをフェイトは感じていた。
『こんなシュウもカッコイイかも……』
そんなことを頭も片隅で考えてしまうフェイトは、完全に恋する乙女である。だが、それはそれとしても、無茶な修行で身体を壊しそうなことをフェイトとしては看過できない。
だからフェイトは釘をさすことにした。
「気持ちは分かるよ。
でも……それで万一身体を壊したら元も子も無いよ。
そんなの、私は絶対に嫌」
「……分かってる、無茶はしないよ」
「……嘘つき、さっきの修行だって十分無茶だったよ」
「それは多少の無茶はするよ。 そうしないと強くなれないからね。
でも、ボクだってバカじゃない。 身体を壊すような決定的な無茶はしないさ。
だって……それをやったら、ボクの望んでいるものにたどり着けないからね」
「シュウの望むもの?」
その言葉に小首を傾げるフェイトに、シュウトは優しく笑いながら続けた。
「『未来』、だよ。
フェイトとずっと一緒にいれる『未来』……それがボクの望むものさ。
ボクは
死を覚悟しなきゃならない戦いなのはよくわかってる。
でも……ボクはその先にたどり着きたい。
そしてボクは……聖戦を生き残って、フェイトと一緒の『未来』が欲しい。
でもそのためには力が必要なんだ。
力だけで未来は手に入らないけど、力が無ければ未来を選ぶ選択肢すらない。
だから……ボクは強くなるんだ。
負けて悔しいなら、負けないように強くなる。
死にたくないなら、生き残るために強くなる。
だからね、少しの無茶はその……許してほしいんだ」
「……そこまで言われたら、私は何も言えないよ」
フェイトは何も言えなくなって、シュウトの胸に顔を埋めた。
フェイト自身とて前回の敗戦で
「……私はずっとシュウの側にいたい」
「ボクも、ずっとフェイトの側にいたいよ」
「だから……必ず2人で辿り着こう、『未来』へ」
「そうだね、2人で行こう、『未来』へ」
僅かな希望の光に向かって、2人で一緒に歩んでいく。
シュウトとフェイトは微笑みあいながら、未来への約束を交わしながら、聖戦への覚悟を新たにしたのだった……。
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カン、カン……
金属をうち合わせる甲高い音が響く。
ここは黄金十二宮の『双児宮』、総司の目の前ではすずかが
現在修復作業が行われているのは、はやての纏う
すずかは手際よくスターダストサンドとガマニオンによって傷を塞ぎ、欠損部を再生させて行く。その様子を横から見ていた総司は感嘆の声を漏らした。
「上手いものだな……」
「そんなことないよ。 ハクレイおじいさまやシオンさまにもまだまだだって言われちゃったし」
実際、すずかの修復技術はすさまじいものだった。総司たち
だからこそ、総司も素直にすずかのその才能を褒め称える。
「それは比較対象が規格外なだけだと思うが?
この
「そう……だね」
「?」
総司の言葉に、すずかはどこか陰りのある顔をする。そのことに総司が疑問を持つと、すずかは手を止めて総司を見た。
「
「すずか?」
突然のすずかの言い草に、総司は首を傾げる。どうにも、いつものすずからしくない。そう総司が思っていると、すずかはゆっくりと話を始めた。
「実はね、私この間シオンさまに見せてもらったんだ。
「……」
「
誰もが皆、精一杯頑張って生きて、そして散っていく……そんな光景を見て思っちゃった。
すずかはどこか自嘲気味に笑う。
「ハクレイおじいさまやシオンさまは修復師であるのと同時に、
もし私に戦う力があったら今回だってなのはちゃんを助けられたのかなぁ、って思っちゃうの……」
戦い行く者を待つことしかできない……すずかの感じているのはそんな待つ者の寂しさである。そんなすずかに、総司はため息を付いた。
「お嬢様、お嬢様は存外お馬鹿でございますなぁ」
「ひ、酷い。 私、こう見えても結構真剣に悩んでるのに……」
総司は芝居がかった執事口調でいうと、すずかは不満そうに頬を膨らませる。そんなすずかに再びため息をついた。
「確かに、友達が大怪我して帰ってきて待つことしかできない身には辛いことはわかる。
だが『自分も戦えれば』などと考えるのは馬鹿な話だ。
人一人ができることなど、たかが知れている。何でもかんでも付け焼刃でやろうとすれば破綻するだけだ」
「ハクレイおじいさまやシオンさまは?」
「……あの人たちは規格外、特別やれることが多いだけだ。
まさか、自分があの人たちのような天才だとは思っていないだろう?」
そう言って総司は肩を竦める。
「実際、お前の
それに、だ……お前は『戦っていないからこその価値』もある」
「『戦っていないからこその価値』?」
何のことか分からず小首を傾げるすずかに、総司は言う。
「俺たち
だが、
戦いから帰る、穏やかな日常がなければ戦いもできん。
そういう意味で、戦っていないお前は日常の象徴だ。
生きて帰りたい……そう思える日常の象徴にお前はなればいい……」
「……ねぇ、総司くんにとっては私はそんな象徴になってる?」
すずかは少し顔を赤くしながら上目づかいで総司に問う。
「さぁな。
ただ……すべてを失ったはずの俺にはもったいないくらい、居心地のいい場所だとは思いますよ、お嬢様」
何だかおちゃらけたような、はぐらかした回答だがすずかは満足だった。自分が総司の帰る場所になれている……それが何となくだが分かって、何とも誇らしい気分になる。
「えへへ……」
「突然ニヘラと笑い出すのは怖いですよ、お嬢様」
「突然じゃなくて、いいことがあったから笑ってるの」
「左様ですか」
総司は諦めたように肩を竦めると、辺りを見渡す。そこで、総司はあることに気付いた。
「そう言えば……
すずかが今修復作業を行っている
纏う者がいる
もしかしたらもう修復が終わったのか……そんな風に総司は一瞬考えたが、すずかの表情が暗く変わるのを見て、それが違うということを感じ取った。
「……何か、あったんだな?」
「……うん。 実はね……」
そして、すずかはそのことを総司に話した。
「……他にこのことを知っているのは?」
その質問に、すずかは首を振る。
「まだ私と総司くんだけだよ。
……ねぇ、どうしよう。 こんなことハクレイおじいさまやセージさんに知られたら……」
「……分かった。 俺が何とかしよう」
「うん、快人くんをお願い、総司くん!」
不安そうな顔のすずかの頭を総司は一撫ですると、踵を返し『双児宮』を後にする。その視線は鋭く冷たい。そんな視線で、総司は苛立たしげに呟いた。
「快人……貴様は……!」
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「ふっ、はっ、たぁ!!」
夕闇せまるパライストラに併設されたコロッセオで、
「ちぃ! もっと早く無けりゃ、あのクソ鳥には当たらねぇ!」
仮想敵であるアイアコスには、今の自分のスピードでは攻撃を当てられない……そう感じ取った快人は、さらに攻撃を鋭くしようと
その時だった。
「こんなところにいたか……快人」
「あん? なんだ、総司か……」
やってきたのは、これまた
「お前も修行か?
だったら空いてる所で、俺の邪魔にならねぇようにやってくれよ」
そう快人は言い放つが、総司は鋭い視線のまま言葉を返した。
「いいや、俺はお前に用があって来た」
「俺に?
悪いが見ての通り修行の真っ最中だ、後にしてくれ」
にべもなく快人は総司をあしらおうとするが……。
「単刀直入に聞く。
快人……すずかのところから
その言葉に、快人は眉をピクリと動かすと拳を止めた。そして始めて総司の方を快人は見る。そして、あることに気付いた総司は再び質問をした。
「……質問を変えよう。
快人、すずかのところから
総司の指の先……快人の首には、待機状態のレイジングハートが掛かっていた。修理のためラボ送りになっていたはずのレイジングハートの、修理完了の話は聞いていない。となれば、それは普通の手段で手に入れたとは考えにくかった。
そんな総司の指摘に、快人は悪びれた様子もなく言い放つ。
「ふん、なのはにゃもう両方とも必要のねぇモンだ。
使わねぇモンを俺が持ってたって、別段文句は出ないだろ?」
「ほぅ……高町なのはは戦いをやめるのか?」
「ああ、あいつはもう戦わねぇよ。
まぁ、あのぐらいの力じゃどうせ居たって聖戦じゃ役には立たねぇ。
心配すんな、その分の穴くらい俺が補ってやるからよ」
どこか茶化したような快人の言葉に、総司の視線がさらに鋭くなり総司から威圧感にも似た何かが放たれる。
「……一つ聞くぞ?
それは本当に、高町なのはが言いだしたことなんだろうな?」
「あいつの意見なんて聞く必要はねぇよ。
あんな死ぬ寸前の大怪我したんだ、もう戦う気なんざ失せてるさ」
努めて感情を抑えたような総司の言葉に、快人が答える。
そして……何かが総司の限界を超えた。
「そうか……なるほど、よく分かった……。
快人……お前は本当に臆病者だな」
「……オイ、誰が臆病者だって?」
臆病者呼ばわりに、快人の視線に殺気が混じる。だが、総司は気にした様子も無く言葉を続けた。
「ああ、言葉が足りなかった。正しく言い直そう。
蟹名快人、お前は臆病者の上に最低の卑怯者だ。
選択肢を奪い取り、自分の思い通りの選択を無理矢理選ばせる……お前のやっているのは鳥の翼をもいで地面を歩けと言っているようなものだ」
「……それがなのはにとって一番いい選択だ」
「お前にとって一番都合のいい選択の間違いだ。
俺にはお前は高町なのはをまるで犬のように鎖で縛っているようにしか見えないがな。
そう考えれば高町なのはも不憫なものだ、信じていた幼馴染が何もかもがんじがらめに縛りつけてくる最低男だったとはな」
「……今すぐその口を閉じろ。
仲間のよしみだ、今なら半殺しで許してやる……」
快人からの殺気は、すでに
「なんだ? 事実を言われ何を怒る?
そんなに真実を指摘されたのが堪えたか?
ハッキリと言うが、貴様のしていることは暴力で女に言うことを聞かせるDV男と何ら変わらん。
そんな貴様は
ブツン……
そんな音が響いたような気がした……。
「……分かった。 悪かったな、気付かなくて。
お前、俺にケンカ売ってるんだな?」
「何だ、気付いていなかったのか。
ではバカなお前でも分かるように言い直そう。
その曲がった性根を叩き直してやるからかかってこい、快人!!」
「上等だよ、総司ィィィィ!!」
夕暮れ迫るコロッセオで、黄金の光が交錯する。
あの『闇の書事件』以来の、
さて、今回は魚座と双子座編でした。
シュウトは悔しさに震えながらも、見据える『未来』のために修行に勤しみます。
特に問題ない総司は、すずかに帰るべき場所であることを望みます。
そして快人……ついになのはから戦う力を強引に奪い取る強硬手段に出ました。
次回は蟹座VS双子座の第二回戦、友情の大ゲンカとなります。
次回もよろしくお願いします。
先週のΩ:やっと、やっとΩの黄金が黄金らしい活躍をしたぞぉぉぉぉ!!
一騎当千の強さといい、語る言葉といい玄武さんは本物の黄金聖闘士でした。
やはり天秤座は安定しているなぁ……。
『恥をかかせおって!』とか言いながらも力を貸す上司というのは新しい気がする。最初、あの剣は部下に突き刺さるものかとばかり思いましたから……。
パラサイトの結束力は聖闘士より上なんじゃないだろうか?