ノートパソコンとかは持ち込み禁止だし、電算室で小説書くわけにもいかないし散々な2週間でしたよ。
さて、今回は『聖域始動編』の最終回です。
快人となのはの関係をお楽しみに。
あ、ブラックコーヒー用意した方がいいかもですよ(笑)
「総司ィィィィ!!」
激昂と共に地を蹴った快人は、瞬きの間も無く総司へと肉薄する。そのまま、2人は高め合った
「シャアァァ!!」
フェイント混じりに放たれた快人の中段蹴りだが、総司はそれを完全に防ぐと反撃の拳を的確に快人の腹へと叩きこんだ。
「がっ!?」
身体がくの字に曲がり衝撃に息が吐き出されるが、快人にそれに構う暇は無い。総司の容赦のない追撃のカカト落としが、快人の後頭部目がけて振り下ろされる。
「ぐっ!?」
それを咄嗟に横に跳んで快人は避けるが、隙を与えず急接近した総司の蹴りが快人へと叩きこまれた。
「くっ!?」
吹き飛ばされながらも何とかバランスを取った快人が着地する。
「ちっ……さすがにやりやがるな、総司」
唾と共に口の中の血を吐き出しながらの快人の言葉に、総司は忌々しそうに眉を潜めながら言った。
「……今のお前では弱すぎて話にならん。
これが俺に勝ち、あの忌々しい女神にひと泡吹かせた男の姿だと?
ふん、呆れ果てて声も出んな」
「てめぇ……いい加減その安い挑発はやめやがれ」
「挑発のつもりは無い。すべて事実だ。
お前は……今のお前はどうしようもなく弱い!」
「テメェ、減らず口を!!」
激昂した快人が技を放つために
「
「遅い!!」
「ぐぁ!?」
吹き飛ばされた快人が地を滑るように体勢を立て直す。だが、その口元がニヤリと歪んだ。
「これは……」
総司が周りを見渡せば、そこには自身を取り囲むように青白い無数の鬼火が浮いていた。
「相変わらず小細工の上手いことだ。 俺に気付かれずこれだけの鬼火を配置するのだからな」
「ふん、好きに言いやがれ。
さて総司、いくらお前でもこれだけの鬼火の爆発は堪えるだろう?」
「……やってみるがいい。
以前のお前ならまだしも、今のお前の
売り言葉に買い言葉。勝利を確信しある意味では降伏勧告のつもりだった快人は、総司の挑発的なもの言いに頭に血を上らせる。
「ああ、そうかい! だったら黒焦げになって少し頭を冷やしやがれ!!」
そして、快人はパチンと指を鳴らした。
「
総司を取り囲む鬼火が一斉に爆発破裂する。魂を焼く
「へっ……死にはしねぇが、俺にケンカ売ったことを少し反省しやがれ!」
勝利を確信した快人は、爆炎の中へとそう毒づく。だが……。
「!? これは!?」
「ふん……だから言っただろう。 今のお前の
驚きに目を見開く快人の視線の先には、総司が立っていた。その宣言通り、あの魂焼く
「バカ、な……」
目の前の光景を信じられないかのような快人に、総司はまるで見下すように言い放つ。
「当然だ、
だが今のお前は
そんな心で
「大切なものを捨てた? 俺が何を捨てたって言うんだ?」
「そんなもの決まっている……『女神』だ!!」
そして、その言葉と共に総司の拳が快人の顔面へと叩きこまれた。そのままの勢いで総司は殴り抜け、快人の身体は吹き飛び叩きつけられ、コロッセオの壁へとめり込む。
「がはっ……」
「
女神のために戦う時、その最大の力を発揮する。
だがお前は今、己の女神を、高町なのはを遠ざけ捨てようとしている!
そんなお前の操る
「ぐっ……!」
壁にへたり込むようにめり込んだ快人は、見下ろすような総司へと憎々しげに視線を向け、その身体を起こそうとするがまともに身体が動かない。やがて、諦めたかのように快人の両手がだらりと下りる。
それは互角の実力者同士と言われた
「第一、傷つかせないために高町なのはから力を奪うというのなら、そもそも何故最初に
「……最初は俺だってあいつの好きにさせてやりたいと思った……」
壁に半ばめり込み、へたり込むような快人に総司が問うと、俯きながら快人はポツリポツリと話を始める。
「あいつは頑固だし、思い立ったら一直線なおバカだ。だが……そんなあいつの行動で俺だって救われたことだってあるし、そうしてひたむきなあいつが一番輝いてるのを俺は知ってる。
そんなあいつのやりたいことを、好きにやらせてやりたかった。だから、あいつのやりたいことやる時に、少しでもあいつの身が守れる力として、俺はあいつに
最初はそれでよかったし、俺も満足してた。なのはの
何も……心配はしてなかったんだ。その時にはな」
ゆっくりと顔を上げる快人の顔には、自嘲の色が見て取れた。
「始めてその考えを変えるキッカケになったのは、あの……なのはたち3人だけでゴルゴーン退治に行った時のことだ。
俺も、誰も
まぁ、3人で上手くゴルゴーンは倒したからその時はいい。
でもその一件で実力が認められて、以降ちょくちょく俺たち
そこで、快人はフッと苦笑した。
「……笑えよ。
俺は……戦いを舐めていたんだ。頭では理解しているつもりでいたんだが、心のどこかで『なのはが戦って危なくなっても俺が守ればいい』って甘く考えてたんだよ。
それが別々の任務を与えられることで徐々にヒビ割れていき、そして……この間の『敗戦』が決定的だった。
『聖戦』は文字通りの総力戦、そんな中では『なのはが戦って危なくなっても俺は守れないかもしれない』っていうのがこれ以上ないくらい明確に分かったんだ。
それを理解した途端……俺は怖くなった!」
快人はその押し込めていた感情を吐き出す。
「ああ怖い! 俺は堪らなく怖い!
俺が死ぬのはいい。 俺は
だがあいつが死ぬのは……なのはが死ぬのは耐えられない!」
快人が思い出すのは守ることのできなかった、自分を誰より愛してくれた両親の姿だった。
「父さんも母さんも俺は『死』から守れなかった……その上なのはまで『死』に奪われることになったら、俺は耐えられない!
だが『聖戦』は過酷だ。俺の命一つでなのはが救えるならいくらでも捨ててやるが、命を捨てたって守れないことだってあるだろう。
だったら、もう『聖戦』から……『戦い』から遠ざける以外に方法は無いんだよ!」
『聖戦』の過酷さを認識し、そこからなのはを確実に守るための快人の結論。それは今まで押し込められていた快人の本音だった。
「……」
その言葉を聞いた総司はゆっくりと快人に近付く。そして……。
「快人、お前……それがまさか自分だけが持っている悩みだと思っているんじゃないだろうな?」
総司は快人の胸倉を掴み強引に立ち上がらせると、怒りを押さえつけるように言い放つ。
「その痛みと悩みは俺たち……シュウトも大悟もシャウラも、そして俺だって全員が持っている!
俺たち
そんな俺たち全員が、貴様と同じような思いを抱かなかったと思うのか!!」
それは普段感情的にならないクールな総司が見せる、感情を露わにした姿だった。
「いや、高町なのはやフェイト=テスタロッサや八神はやてはまだいい。
3人には『力』がある。何かあった時に自分の身を守る術がな。
だがすずかやアリサ=バニングスには
俺とシャウラの方が、その悩みはより深刻だ!」
その言葉に、快人はハッとする。確かに総司の言う通りだった。
すずかにもアリサにも、自身の身を守る術はほとんどない。
しかし、それでも万全ではない。特にアリサの場合は今後次元世界の、
結局、一番の方法は自分たちとの関係を断ち、この『世界』から手を引くこと以外にないのだ。
しかし……。
「正直に言おう、俺も怖い。怖いに決まっている。
すずかを守ることができないかもしれない、その結果すずかが死ぬかもしれない……そう思うだけで怖くて震えがくる。
だがな、俺もシャウラもお前のように籠の鳥にして閉じ込めようとは思わん。
その方が安全確実だとわかっていてもな」
「何……で?」
「俺たちと同じ道を、他でもないすずかとアリサが自分で選んだからだ!
俺も散々、すずかにも忍さんにも俺の近くにいることでどれだけ危険になるかは話している。死ぬ可能性だってある、そう何度だって言っている!
それでも……それでもすずかは、今の道を選んでいるんだ!
お前も知っての通り、俺はあのフザけた女神に好き勝手自分の運命を狂わされた男だ。
そんな俺が、他の誰かの覚悟を持って選んだ道を無理矢理力でねじ曲げるような行為はできん!
ましてや……無理矢理遠ざけるような真似など、俺が耐えられん……」
そう言って、総司は少しだけ遠い目をした。
「弟をこの手で殺し、運命を呪った俺にとって、この『世界』など一欠片の価値すら見えなかった。俺にとってこの『世界』など、最初から死んでいた。だが……それをすずかが塗り替えた。
俺のような男を受け入れ、月明かりの中で微笑むすずか……彼女が生きている、それだけで価値の見出せなかったこの『世界』すべてが愛しいものに変わっていた。
お前にとって高町なのはがそうであるように、俺にとって女神とは月村すずかだ。
「……まさかお前からノロケ話が聞けるとはな」
「……否定はせん。
自分で言いながら、らしくないことを言っているという自覚はある」
総司の苦笑と共に2人のビリビリとした緊張感溢れる空気は、柔らかいものへと変わっていた。
総司が掴んでいた胸倉を離すと、そのまま快人はへたり込むように地面に胡坐をかく。そして快人は総司を仰ぎ見るように尋ねた。
「……なぁ総司、俺はどうしたらいいと思う?」
「人の未来を、お前の独断で決定づけるな。まずは話をしてみろ。
なに、大概の問題はコーヒー一杯飲んでる間に心の中で解決するものだ。2人でゆっくりコーヒーでも飲んでしっかり話をしてこい」
「そりゃ駄目だ。あいつ甘党だからコーヒー駄目なんだよ」
「だったらココアでも用意していけ。 気の利く男だと惚れ直すぞ」
「……お前、今日はホントにらしくねぇな」
「何とでも言え。 今日はもう開き直った」
苦笑する総司が手を差し出し、快人を立ち上がらせる。
「負けたよ。 今回は完全に俺の負けだ。
これで一勝一敗だな」
「ふん、今のお前に勝っても何も嬉しくは無い。
さっさと行け。 今ならまだ面会時間に間に合うだろう?
ここの後始末は俺に任せろ」
「……悪ぃな、何から何まで」
「そう思ったら今度何か奢れ。そうだな……梅こぶ茶でも」
「お前、案外渋い趣味なんだな」
肩を竦めると快人はコロッセオから出て行こうとする。その途中、快人は一度振り返った。
「総司……ありがとよ」
「ふっ……さっさと行け」
ヒラヒラと手を振ってあしらう総司に、快人は苦笑すると今度こそコロッセオから出て行った。
一人コロッセオに残った総司は呆れたように呟く。
「まったく……世話の焼ける男だ。
だが、これで問題はあるまい。 高町なのはは強い女だ。
あいつもしっかりと話さえすれば上手くいくだろう」
ジャリ……
その時、コロッセオの土を踏みならす音が聞こえ、総司はため息をつく。
「あとは、この難敵をやりすごすのみ、か……。
今の快人の相手よりも100倍は難しいな」
総司は苦笑と共に、目の前の現実を見る。
そこにはハクレイを筆頭にした、パライストラ教師陣の姿があった。
「さて、
この惨状を、説明してもらえるかな?」
ボロボロに壊れたコロッセオ。ハクレイの言葉にどう誤魔化したものか、と総司は内心で頭を捻るのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
総司の言葉に従い、快人は病院へとやってきたがそこでおかしなことに気付いた。
「妙だな、なのはの
まだ安静にしているはずなのに……」
なのはは
「トレーニング室?」
やってきた快人は部屋の名前を見て眉をひそめる。リハビリトレーニングのための部屋だが、なのはの
「まさか……いやいや、いくらあのおバカでも流石にこれは……」
嫌な予感がしながらも快人が扉を開けると、そこには……。
「ん、しょ……んっ……」
手すりに掴まりながらゆっくりと歩く、歩行練習中のなのはの姿がそこにはあった。
「……何してんだお前?」
「ひゃぅ!? か、快人くん!?」
快人が声をかけると、なのははおっかなびっくりといった感じで振り返った。その姿に快人はこめかみをピクピクと震わせながら、もう一度口を開いた。
「もう一回聞くぞ。 お前、何してんだ?」
「えっと……怒らない?」
「怒らない怒らない。 ほら、言えよ」
「うん、あのね……ほら傷も治っちゃったしベッドで寝てるだけもどうかなーと思うから、ちょっと復帰のためにリハビリしようかなぁと思って……」
なにやら快人の纏う雰囲気に若干顔を引きつらせながらも、小首を可愛らしく傾げながら上目づかいで聞く辺り、なのはも策士である。
「……」
その言葉に、快人は無言でなのはに近付く。そして……。
「何をしてやがりますか、このおバカはぁ!!」
「いはいいはいいはい!?」
快人がこめかみに青筋を立てながら、なのはの頬っぺたを引っ張っていた。
「快人くんの嘘つき! 『怒らない』って言ったのに!」
「うるせぇ、このバカ! おバカ! 大バカ!!」
「ひどい! なのはバカじゃないもん!!」
「お前はバカ以外に形容のしようがねぇレベルのバカだ!!
このおバカなのは!! 略してバカなのは!!」
「それ全然略してない!」
「うっせぇ!! ああ、もう!!」
快人は苛立たしげに頭をガリガリと掻き毟りながら地団駄を踏む。そして、快人はなのはの手を強引に掴むとクロストーンを握りしめ叫んだ。
「
光が溢れ、2人の姿はその場から掻き消えたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「きゃっ!」
守護宮へと文字通りなのはを引きずり込んだ快人は、なのはをベッドへと投げ出す。
「ちょっと、快人くん!」
「うるせぇ、バカ! お前安静にしてるって話だろ!?
アホなことやってねぇで寝てろ、バカ!!」
抗議の声を上げて身を起こそうとするなのはを快人は無理矢理寝かしつけようとする。ベッドの上で押しつ押されつ、問答を繰り返す快人となのは。
「第一、お前はもう戦いをやめろって俺がこの間言ったじゃねぇか!
もう復帰とかアホなこと考えてるんじゃねぇ!!」
「嫌だよ! 怪我が治ったら、すぐ復帰するもん!
強くなって、今度は負けないもん!!」
「戦いに『今度』なんぞあるかぁ!
今回は運よく生き残っただけだ! 次は本気で死ぬかもしれないんだぞ!!
もう戦いの世界からは手を引いて、お前は普通に過ごせ!!
お前が抜けた穴くらい俺が何とでもしてやるし、文句言うやつがいたら俺が全部ブッ飛ばしてでも黙らせてやるからよぉ!!」
「絶対嫌ッ!
大体、そんなこと言いながら快人くんだってこの間ボコボコに負けてたじゃない!!」
「ありゃたまたま調子が悪かったんだよ! あんなクソ鳥にゃ、今度は負けねぇよ!!」
「言った! 今快人くんも『今度』とか言った!!
戦いに『今度』なんか無いんじゃなかったの!?」
「うっせぇ! 俺はいいんだよ俺は!!」
「何その自分勝手!!?」
互いにベッドの上で感情の限りを叫び合う快人となのは。
総司からのせっかくの忠告で最初はゆっくり話し合うつもりだった快人だが、どうしても堰を切ったかのように言葉が止まらない。そしてそれに呼応するように、なのはも言葉が止まらなかった。
「何でだよ! 何だって俺の気持ちが分らないんだよ、お前は!!」
「そんなの何も言ってくれてないじゃない!
なのは、エスパーじゃないんだから、言ってくれなきゃわかるわけないよ!!」
「そんなもん態度でわかれよ!
どんだけの付き合いだと思ってるんだ!!」
「そっちこそなのはの気持ちなんにも分かってくれないくせに、なのはにだけ分かれなんてむしが良すぎなの!!」
「お前なぁ!」
「きゃっ!?」
快人がなのはの肩をグッと掴んで、なのはを正面から見つめるとその感情のままに吐き出した。
「そういうこと言うか、お前は!
ああ、そうかい! だったら、だったら言ってやるよ!!
なのは! 俺はなぁ! お前が大事なんだよ!!
俺は『世界』なんかよりなのはのことが大事なんだよ!!」
「えっ……?」
快人の言葉に、あれだけ言い合っていたなのはが落ち着きを取り戻す。そんななのはに快人は勢いのまま言葉をぶつける。
「俺は父さんも母さんも『死』から守れなかった。
今でもよく覚えてる『世界』からすべての色が消えたような虚無感……俺の『世界』はあの時一度死んだんだ。
でもな、そんな一度死んだ『世界』はお前の、なのはのおかげで息を吹き返したんだ。
お前はそのバカみたいな笑顔で、一度死んだ俺の『世界』を生き返らせてくれた。
なのはがいなけりゃ、俺はただの生ける屍だったんだよ……」
なのはの肩を掴んでいた快人の手が力なく垂れ、へたり込むように座り込んだ快人は、それでもなのはを見つめながら言う。
「俺な、父さんと母さんの死んだ光景を今でもたまに夢に見るんだ。
あれからもう何年も経ってるのに、今でも鮮明に覚えてる……。
そのたびに怖いんだよ、もしお前が……なのはが父さんや母さんみたく死んだらと思うと怖くて堪らないんだ。
だから頼む、もう戦いはやめて平和に生きてくれ。
なのはを守りたいんだ。 でも俺の実力じゃ命を捨てて戦っても守れないかもしれない。
俺バカだからさ、戦いから手を引いてもらうしかお前が安全にいる方法なんて考えつかねぇんだよ。
だから……黙って俺の言うこと聞いてくれよ……」
快人は言葉を出しつくし、しばしの間2人の間に沈黙が下りる。
「……それが快人くんの気持ち?」
「……ああ」
「そうなんだ。 それじゃ……今度はなのはの気持ちをぶつけるね」
そして、今度はなのはがゆっくりと、しかし柔らかく快人を見つめながら言う。
「なのははずっと、いい子を演じてた。
お父さんやお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんに迷惑をかけないように、言いつけを守る『いい子』でいよう……そうやって自分を取り繕って、演じて生きてた。
みんなが見てたのは『いい子』を演じた偽物のなのは……でも、私はその『いい子』の仮面を外すのが怖かった。だって『いい子』じゃなかったら、誰かの期待に応える私じゃなかったら誰も、家族のみんなも私のこと必要としてくれないかもしれないから。
でもね、そんなバカななのはの考えを、あの日快人くんが壊してくれたんだよ」
なのはの脳裏に過ぎるのはあの公園での出会い。
「見ず知らずの私に自分勝手に言いたい放題……でもね、快人くんの言葉は私の『いい子』の仮面を砕いてくれた。
いい子でないなのはでもいい、そう思えるように私を変えてくれた。
私、高町なのははあの時、快人くんの言葉で始まったの」
そして、なのははスッと快人の頬に触れる。
「私は……ずっと快人くんのそばに居たい。一緒に笑い合いたい。
ううん、いい事だけじゃない。
辛いことがあったら一緒に悩んで、悲しいことがあったら一緒に泣いて……楽しいことも辛いこともみんな半分こにして、進んで行きたいの。
だから……私はこれからも同じ道を……戦う道を進んで行きたい。
死んじゃうのはもちろん怖いよ。 痛いのも嫌。
でも……その恐怖も痛みも、一緒に歩めない辛さよりはいいと思うから……。
それに……」
そこまで言うと、なのははゆっくりと快人の頭を胸に抱きしめた。なのはの突然の行動に一瞬だけ戸惑いの声を上げかける快人だが、頭上からの温かい水滴にその声を詰まらせる。
「なのはだって怖いよぉ、快人くんが死んじゃったらって考えたら震えちゃうもん。
だからお願い、せめて同じ道を、隣を歩かせてよぉ……」
結局、なのはも同じく快人の身を案じていたのだ。
「ッ! なのはぁっ!」
そのなのはの想いに、快人の目からはいつの間にか、涙があふれ出ていた。
快人となのはは互いに泣きながら抱擁を続けるのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「んっ……」
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったらしい、泣いていたときと同じくなのはの胸に頭を抱かれた状態で、快人は目を覚ました。
「あ、起きた?」
柔らかい声に視線を向けると、なのはが快人の顔を微笑みながら覗き込んでいた。
「悪ぃ、すっかり眠っちまった」
「ううん、いいよ。 なのはも今起きたところだもん」
「そっか……。
見苦しいとこ、見せちまったな。
まったく……泣くのなんて随分久しぶりだ。
「いいの? なのは見ちゃったけど……」
「いいさ。 それとも、あんな姿見て幻滅したか?」
「ううん、なのはだって泣き顔見られちゃったしおあいこだよ」
「そうだな」
快人はそう言ってほほ笑むと、少しだけ真剣な表情に戻ってなのはに言う。
「……俺はやっぱりお前が心配だよ。本音を言えば、もう戦って欲しくないと思ってる。
でも……お前の望みは違うんだろ?」
「うん……私は、戦うよ」
「そうか……なら俺も腹括った、もう何も言わないよ。 お前に嫌われたくないからな。
ただ……一つだけ約束してくれ。
俺より一分でも一秒でもいいから、長く、生きてくれ……」
「なら、なのはからも約束……。
なのはも快人くんもいつか死んじゃう……でも絶対に老衰以外の死因では死なないって約束して」
なのはの差し出した小指に、快人が自身の小指を絡める。
「分かったよ、指切りだ」
「嘘ついたら、デモンローズ千本飲ませるからね」
「オイ、針じゃねぇのかよ。 殺す気満々じゃねぇか、それ」
互いに約束を交わしあい、指切る2人の表情にはどちらともなく微笑みが浮かんでいる。
それが終わると、なのはは気だるげにあくびをした。それにつられるように快人もあくびをする。
「うーん、まだ眠いや。 もうちょっと眠りたいかも……」
「奇遇だな、俺も眠ぃ……」
「なら、もうちょっとこのまま……」
「だな……」
快人の頭を抱き枕代わりに、なのはがゆっくりと安らかな寝息を立て始める。それを見ながら快人も睡魔に襲われ、頭が霞みがかってくる。規則正しいなのはの寝息となのはの脈打つ心臓の鼓動、そして自分に廻されたなのはの腕の温かさが心地いい。
得も言われぬ心地よさが自分を包んでいるのを快人は感じていた。
そして、快人は理解する。
「ああ、そうか……。
『命は宇宙』……そういう、ことなのか……」
師であるセージの言葉を今、快人は実感していた。どこまでも深く自分を包み込んでくれるなのはの命に、快人は雄大な宇宙を見る。
その雄大な宇宙に抱かれながら、快人はまるで母に縋る子供のように安らぎに満ちた顔で眠りの世界に墜ちたのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
あの『敗戦』から2週間……なのはは無事に退院し、少女たちはここ『巨蟹宮』で退院記念のお茶会を開いていた。
「いやぁ、後遺症とかもなくなのはちゃんが復帰できてほんまによかったわ」
「退院おめでとう。 でも無茶したダメだよ、なのは」
「あはは、はやてちゃんもフェイトちゃんもありがとう」
はやてとフェイトにお礼を言いながら、なのはが紅茶を啜る。
「それでなのは、お父さんたちは説得できたの?」
「うん……随分反対されちゃったけど、何とか説得できたよ」
アリサの言葉に、なのはは苦笑しながら答える。
今回の大怪我で高町家から戦いを続けることを反対されていたなのはは、ここ数日ずっと家族の説得にあたっていた。最初は猛反対を受けたなのはだが、数日にわたる説得と脅迫まがいの駄々をフル活用、なんとか説得に成功したのである。
「どちらにしろ、なのはちゃんが無事でよかった……。
快人くんが血を提供してくれるって言うから、私、張り切っちゃうよ」
「うん。 お願いね、すずかちゃん!」
穏やかな空気のなか他愛もない話に花を咲かせる少女たち。それはとても戦いの中に生きる少女たちとは思えない穏やかさだった。
そんな中、ふと思い出したようにアリサがなのはに聞いた。
「そう言えばさぁ……なのは何かあった?」
「え、なんで?」
「何かさぁ……なのはの雰囲気が変わった気がしてさ。
何かあったの?」
「べ、別に何にもないよ!」
ティースプーンをクルクル弄びながらのアリサの言葉になのははブンブン首を振って否定する。だが、その様子は『何かあった』といっているようなものであり、それに気付いたはやてとアリサは顔を見合わせニンマリととてもイイ笑顔を作った。
「その反応、何かあったわね。 ほら、さっさと話してみなさい」
「そやそや、大方快人くんのことやろ? キリキリ吐かんかい」
「そ、そんな……」
なのはは助けを求めるようにフェイトとすずかを見やるが、2人とも口には出さないが興味津々なようで助けるつもりなど無さそうだ。
困り果てたなのはだが、その時修行中だった5人が連れだって『巨蟹宮』へと戻ってきた。
「うーっす、何の話してんだ?」
「お、噂の主の登場や。
なぁなぁ、快人くん。 なのはちゃんと何かあったん?
ほらほら、キリキリ吐きぃ」
「はぁ? 別にいつも通りで何も変わったことなんぞねぇぞ」
はやての言葉に肩を竦めて返す快人。
「なんやおもろないなぁ、キスしちゃったとかそういうおもろい話を期待しとったんやけど……」
つまらなそうにため息をつくはやてに、快人はこめかみをピクピクとさせながら言う。
「……へぇ、そういう話で突っ込んでいいんだな?
撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ……お前ら全員、おんなじような話で突っ込まれる覚悟ができててしてるんだよな?
おーい、シュウト、大悟、シャウラ。ちょっくらこいつらとの赤裸々な話を聞かせてくれよ。ほらほら、ボーイズトークの時間ってことで」
「ちょ、ちょいまちちょいまち! あー、もう!
なのはちゃん、またな! うっしー、余計なこと言わんで行こ!」
「シュウ……」
「ふふふ、なのはちゃん、またね」
「行くわよ、シャウラ!」
どうやら藪蛇だったと全員が感じていたようだ。余計なことを口走る前に、少女たちはそれぞれの
「ったく、面白がりやがって」
「あはは……」
去っていくその背中を見送りながら、快人が呆れたようにため息をつき、なのはは苦笑いをする。
「ねぇ、快人くん。 今日はどうするの?」
「ん? 今日は疲れたから、もう帰って遊ぶ」
「前半と後半が全然繋がってないんだけど……。
まぁ、いいや。 だったらなのはも行く。 丁度あのゲームの続きやりたかったし」
「いいけどよぉ……お前のプレイ、アレおかしくねぇ?
何だって出会う文明すべてに『こんにちは、死ね!』やるんだよ」
「えー、モンちゃんプレイだし出会い頭に『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』は基本だと思って」
「挙句お前、地球脱出寸前に保有してた核ミサイル手当たり次第に全部ぶっ放したろ。
敵、まだ騎兵が現役の文明だったぞ」
「全力全壊なの!」
「……ときどき本気でお前が怖ぇよ」
快人はそう言いながら、ポンと肩を叩いてなのはを促す。
2人で連れだって歩く快人となのは。そんな中、快人の横顔をチラリと見ると、なのはは意を決したように、その言葉を紡いだ。
「ねぇ……快人くんはなのはのこと、どう思ってるの?」
「な、何だよ藪から棒に? 十分どう思ってるかは話したろ?
いちいち何度も言わせんなよ、恥ずかしい」
そう言って顔を赤くしプイッとそっぽを向く快人に、クスリと笑ってなのはは続けた。
「えー、なのはしっかり聞いた覚えないなぁ?
レイジングハートは覚えある?」
『直接的な言葉は、メモリーには記録されていません』
「だって。
ほらほら、快人くんはなのはのことどう思ってるの?
言ってくれたら、なのはも快人くんのことどう思ってるか教えてあげるよ?」
「お前ら……そんなに俺に恥ずかしいセリフを言わせたいのかよ?」
「うん、聞きたい。
まさか『言えない』とか勇気のないこと言わないよね、快人くん?」
「……この悪魔め」
「うん、悪魔でいいよ。 悪魔らしいやり方で聞かせてもらうから」
上目づかいで恥ずかしい言葉をねだるなのはに、快人は何やら悪魔の羽根と尻尾をみたような気がした。こうやって可愛らしくねだれば断らないと分かっている、随分と策士な小悪魔である。そして悲しいもので、それが策と分かっていても引っかかってしまうのが男の悲しいさがだった。
「だー、もう!!
わかった、わかったよ! 言えばいいんだろ、言えば!!」
半ばやけくそのように声を上げると、快人はなのはの肩を掴み正面から見据える。なのはも柔らかく微笑みながら快人を見ていた。
「な、なのは。 俺は、俺はお前のこと……」
「うん、なのはのことを?」
なのはは顔を赤くした快人に先を促す。すると、声を震わせながら快人は……。
「ゲ……」
「ん? ゲ?」
「ゲバギゼギヂダン ザギグビザ!」
「ここではリントの言葉でしゃべって!!」
……快人はどこまでもヘタレであった。
「何! 何で今の流れでグロンギ語なの!?
ヘタレ! このヘタレ蟹!!」
「うるせぇー!! お前、日本語で言えって言ってないからOKなんですぅ!!
言ったからこの話は早くも終了! おしまい! はい、解散!!
ほら、とっとと行くぞなのは!」
そう言って強引に話を切り上げると、快人はゆっくりと『巨蟹宮』の出口へと向けて歩き出す。その背中になのははため息を一つ付いて苦笑した。快人らしい反応と言えば快人らしい、と少し納得したなのはは同じようにちょっとした悪戯を返すことにした。
「えいっ!」
「うわっ!」
ポフッ
快人の背中に背後からなのはが飛びついた。突然のことに驚く快人の耳元になのはは口を寄せて、囁くように言う。
「パダギロ ゲバギゼギヂダン ザギグビザジョ」
「!?」
そう、快人の趣味を知り尽くし、ずっと付き合ってきたなのはだ。今さらグロンギ語くらいは訳ないのだ。だが、そのことを知らなかった快人はあまりのことに面食らう。
そんな快人の反応に満足げに頷くと、なのははスルリと身体を離して歩き出した。
「ほらほら。 行こうよ快人くん」
「ちょっと待てなのは! 今の言葉……もう一度日本語で……」
「うん、快人くんがしっかり日本語で言ってくれたら、なのはも日本語で答えてあげるの♪」
「うっ……」
軽やかにステップを踏むように歩くなのはに、苦虫を潰したような顔の快人。
快人がその言葉をしっかりと日本語で言うには、まだしばらくの時間がかかりそうだった……。
聖域暦2年……苛烈な敗北の中、黄金の闘士たちと少女たちはそれでも共に過酷なる聖戦へと向かうことを決めた年だ。
同時にこの瞬間は、黄金の闘士たちと少女たちとの『愛』が始まった年なのかもしれない。
『愛』……女神アテナ曰く人間の持つ偉大な力、命の源から湧きあがってくるなにものにも負けることのない力。
では、『愛』とは何なのか?
それは死よりも、死の恐怖よりも強く、人生を支え、進歩を促す原動力。
死の恐怖を知りながら、それでも共に生きる未来を目指し進歩を、前へ進むことを決めた黄金の闘士たちと少女たち互いの胸にあるもの。
この『愛』が聖戦を射抜く一条の光となるのか……それは未だ誰も分からないことだった……。
というわけで、この作品で新たなバカップルが誕生しました(笑)
ゴジラ映画見て泣き、グロンギ語を自在に操るなのは……おかしいな、この子はどうしてこうなったんだろう……?
この章によって覚悟を決め、そして『愛』を胸にした黄金聖闘士と少女たちは本格的に聖戦へと向かっていくことになります。
さて、次章から幕間をいくつか挟み、聖戦前の大事件『新暦71年編(仮)』をスタートする予定ですが……更新はかなり先になります。
というのも、しばらく本編とは関係のない『外伝編』の執筆に全力を傾けるからです。
ここで発表しますが、『外伝編』はこのハーメルンのほかの作家さんとのコラボレーション企画となります。
発表の方法はまだ考えていますが、相手さんへの寄贈という形を取ろうと思っていますので、宜しければそこで快人たちを見かけたら応援してください。
では。
先週のΩ:玄武が逝ったぁぁぁ!!
まぁ、確かに前回でフラグは立ってたよ、うん。
とはいえΩ黄金の中でも断トツの良識派だった玄武の退場は痛い……。
でも、これで紫龍の天秤座フラグが立ったのかな?
何やら聞いたことのない言葉を口走ってましたが、あれはエイトセンシズとかのことだろうか?
だとすれば最終的には神聖衣解禁なのかもしれない。
ユナの神聖衣モードはちょっと見たいなぁ。