俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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お久しぶりです。
現在、ダンクーガさんのところでこの作品のコラボ企画を執筆中ですが、今回はその合間に書いた、これまた外伝編を載せていきます。
この外伝はオリジナル冥闘士たちである、『天殺星リントヴルムのカレン=レスティレット』、『天魔星アルラウネのエンプレス』、『天断星マンティスのレンカ=ヒスイ』の覚醒した時の話となります。
今回は『天殺星リントヴルムのカレン=レスティレット』のお話です。


注意:今回の話から『R15』『残酷な描写』の警告タグがつきました。
   つまりそう言う、かなりアレな内容ですので合わない人は注意してください。



外伝 冥闘士覚醒編
天殺星リントヴルムの目覚め


 

『いやー! やめっ、やめてぇぇぇぇぇ!!』

 

 耳を覆いたくなるような悲鳴が、薄暗いその場に響いていた。牢のように格子のついた構造が、ここが人を閉じ込めるためのものであることを物語る。

 その場にいるのは2人の少女、歳の下の少女は耳を塞ぎ、ガタガタと身体を震わせていた。もう一人の少女は、そんな歳の下の少女の震えを止めようとするかのようにきつくその身体を抱きしめている。

 

『イヤ、助け、助けて! 誰か、誰か助けてぇぇ!!』

 

 だが少女たちがどれだけ耳を塞ごうと、その悲鳴は止むことはない。しかもその悲鳴は知らない他人のものではなかった。それはついさっきまで『姉』と呼び、共に生きてきた家族のものだったのである。

 

「いやぁ……もういやぁ……」

 

 耳を塞ぐ少女は、涙と恐怖に濡れた瞳で自分を抱きしめる少女を見やる。

 彼女もまた隠しきれない恐怖に瞳を揺らしながらも、少女を抱く手に力を込めた。

 

「レイア姉さん……」

 

「大丈夫よカレン、大丈夫、大丈夫……。

 姉さんがあなたを守るから」

 

 この少女たちの名前はカレン・レスティレットとレイア・レスティレットと言う。血は繋がっていないが、2人は姉妹も同然の間柄である。

 やがて室内に木霊していた、いつまでも続くかと思われていた悲鳴が、いつの間にやらパッタリと止んでいた。

 

「リーナ姉さん……」

 

 先ほどまで響いていた悲鳴の主である姉、リーナ・レスティレットがどうなったのか……それを想像してしまい、カレンは再び涙を流すがそんな2人の元に人相の悪い男たちがやって来た。

 

「出ろ、お前たちの番だ」

 

「おっと、妙なことは考えるなよ」

 

 男はそんなことを言うが、カレンはガタガタと震えるだけだ。

 あの悲鳴はワザとこの部屋に聞こえるようになっていた。この部屋にいるものに聞かせることで、抵抗しようとする心を折り、恐怖によって従順にするという目的である。その狙い通り、カレンには抵抗しようなどという心は先ほどの姉の悲鳴で完全に折れていた。

 気丈にもレイアはカレンを庇うように抱きしめながら歩くが、その身体が自分同様恐怖で震えていることが分かる。

 

(なんで? なんで……こんなことに……?)

 

 どことも知れぬ廊下を歩かせられながら、カレンは今のようなことになった理由がまったく分からなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 カレンは捨て子だ。物心つく前に捨てられたため、本当の親というものは誰か知らないし、知ろうとも思わない。何故なら、そんな血の繋がりだけの親子よりも価値のある家族を彼女は持っていたからだ。

 孤児院『レスティレット園』……そこに引き取られたカレンは、そこですべてを手に入れた。兄弟姉妹たちに、父とも呼べる園長先生……そこには血は繋がらなくても確かに『家族』と呼べる大切な人たちが存在していたのだ。

 決して裕福な暮らしではないが家族とともにすごし、管理局に行った兄弟姉妹たちの活躍を我が事のように喜び、穏やかに過ぎていく日々……それは永遠に続くとさえ思っていた。だが……そんな日々は突如として崩れ去った。

 突然の『レスティレット園』の火事と園長先生の死、そして人相の悪い男たちにカレンたちは全員、どことも知れない場所に連れてこられたのである。

 これは『レスティレット園』の園長が、管理局高官と犯罪組織との癒着と違法な人身売買の実態を知り、それを発表しようとした『レスティレット園』の園長を口封じしたというのが真相であるが、現段階のカレンたちには知る由もない。

 そして行き場を失ったカレンたち『レスティレット園』の孤児たちは、犯罪組織の人間によって捕まっていたのだ。

 

「ほれ、これに乗れ」

 

 人相の悪い男が指すそれは、ワイヤーとレールによって上に繋がっていることを見るとエレベータのようだが、その形状はまるで檻のようだ。所々の錆が不気味さを煽る。

 レイアもカレンも抵抗など出来るはずもなく、それに乗りこむとエレベーターはゆっくりと昇っていく。

 そしてエレベーターが着いたのは一つの光も無い真っ暗な空間だった。

 

「出ろ」

 

 その言葉に、2人はゆっくりとエレベーターを降りて真っ暗な空間へと恐る恐る一歩を踏み出す。その背後では2人を乗せてきたエレベーターがゆっくりと降りていった。

 レイアとカレンはゆっくりとその真っ暗な空間を見渡す。光は無いが、複数の視線のようなものを2人は感じた。それと同時に、何だか鉄のような臭いが微かにする。そして何より気になるのが、奇妙な音がすることだ。ベチャリ、グチャリという粘着質な音に時折、バキリ、ボキリという固い音が混じっている。その音に空恐ろしいものを覚え、カレンは姉へと抱き付く。そんな妹をレイアもきつく抱き返した。

 その時、2人の居る暗闇の空間が一気に光が満たされた。突然の照明に思わず目を覆うレイアとカレン。

 そこはまるで古代のコロシアムのような場所だ。観客席にあたる場所では人相の悪い人間が、一様にニヤニヤとした薄気味の悪い笑いを浮かべていた。そして2人から約20メートルの場所に……その光景はあった。

 それは巨大なオオカミのような、魔法生物だ。その辺りには赤い赤いものが、地面の土を染め上げている。

 その魔法生物は『何か』を一心不乱に貪っていた。先ほどから聞こえていた粘着質な音と固い音はその生物の咀嚼の音である。そしてその生物の咀嚼している『何か』の正体に気付いたカレンは絶叫した。

 

「イヤァァァァァァァ、リーナ姉さぁぁぁん!!!」

 

 それはカレンやレイアの姉である、リーナ・レスティレットの変わり果てた姿であった。

 見る影もない姿に変わり果てた姉にカレンは絶叫し、レイアはそんなカレンにこの光景を見せまいとするかのように抱え込むように抱きしめる。

 そんなカレンの声に反応し、その魔法生物がゆっくりと2人の方を見た。その口元には姉の、腸と思われる内臓をブランと咥えている。

 それを見て、恐怖でカレンは叫んだ。

 

「た、助けて! 誰か助けて!!」

 

 しかしそんなカレンを、観客席の人間は面白そうに眺めるばかりだ。

 『スナッフ・ショー』という都市伝説がある。それは殺人行為を娯楽として見せるというショーのことだ。その模様を記録した『スナッフ・フィルム』などと共によく聞く噂、都市伝説の類として思われている。だが、ここはそんな都市伝説であるはずの『スナッフ・ショー』の会場であった。そして、彼女たちはそのショーの主演女優たちである。観客たちは彼女たちが泣き叫び、絶望の声と共に無残に殺される姿を今か今かと待ちわびていたのだ。

 魔法生物は口元からぶら下げていた食べカスをボトリと落とすと、新たに現れた獲物へと血走った目を向ける。

 

「ヒッ!?」

 

 その視線に恐怖でカレンは短い悲鳴を上げた。

 

「グルルゥゥゥゥゥ……」

 

 魔法生物は威嚇するようにうなると、2人の周りを円を描くようにジリジリと近付いてくる。

 レイアはカレンを背中に庇いながら後ずさるが、あまり広く無い場所だ。すぐに、壁際へと追い詰められてしまう。

 

「姉さん……」

 

「……」

 

 もはや逃れられない運命に、カレンはレイアへと視線を向ける。すると、レイアは何かを決意したように一度だけカレンの顔を覗き、小さく微笑んだ。そしてレイアは抱きつくカレンを引き剥がした。

 

「こっちよ、化け物!!」

 

 いつの間にか拾っていた石を魔法生物に投げつけ、その注意を引き付けるとレイアは一歩でもカレンから魔法生物を引き剥がすかのように走り出す。

 

「姉さん、ダメ!!」

 

 カレンの声にもレイアは止まらない。

 

「グルァァァァァ!!」

 

 魔法生物はそんなレイアに向かって走り出した。最初から体躯が違いすぎる。

 ただの少女であるレイアと魔法生物との距離はすぐに縮まった。

 

「姉さん!!」

 

 カレンの絶叫に、レイアが振り返る。そしてレイアは愛する妹に向かい、少しだけ微笑みを見せた。そして……魔法生物のその強靭な前足が一閃した。

 

 

ベチャ!

 

 

 ……まるでトマトを地面に叩きつけたような、嘘のように軽い音だった。

 カレンへと微笑みかけてくれたレイアの顔は……『無くなっていた』。真っ赤な真っ赤なものが、地面を濡らして行く。

 魔法生物はそんなレイアの身体に貪りついた。

 

「あ、ああ……」

 

 カレンはあまりのことに、目の前で何が起こっているのか分からなかった。そんな彼女の前にコロコロと、何かが転がってくる。

 それはピンポン玉ほどの大きさの球体、大好きな姉の……レイアの目玉だった。

 

「……」

 

 それを見たカレンは姉の死を理解した。そのあまりの衝撃に立つことすらかなわず、放心状態でガクリと地面にへたり込む。バリボリと大好きな姉が咀嚼されていくその光景を、カレンは何も映らない瞳で見つめていた。

 そんなカレンの耳に、観客席の人間の声が聞こえてきた。

 

「何だつまらない」

 

「もっと叫び声をあげて貰わないと面白くないな」

 

「そこ行くと一つ前のは良かった。 少しずつ喰われてたから、悲鳴が最高だったよ」

 

 まるで昨日のテレビの話題でも上げているような、そんな軽い会話だった。

 

(ナニ……コレハナニ……。

 アノヒトタチハ……ナンノハナシヲシテイルノ?)

 

 壊れかけの……いや、壊れてしまったカレンの心に湧きあがるのは疑問だった。

 何故だろう、自分たちは普通に暮らしていた。それが唐突に、訳も分からず壊された。

 自分を育ててくれた園長先生は言っていた。

 

『正しくありなさい。悪いことをすれば必ずそれは自分に返ってきます。

 どんなに辛くても、正しくありなさい』

 

 ならばなぜ、自分たちはこんな目にあっているのか?

 自分たちは何か悪いことをしたのだろうか?

 だから自分たちに『罰』が返って来たのか?

 では……今自分たちを見ている、あの観客席の人間たちは『正しい』のか?

 姉たちが泣き叫び、無残にも殺されていく様を見世物として楽しむ人間は『正しい』のか?

 ……正しくなどない。正しいはずがない。

 でも、彼らは正しくなどないはずなのに、誰もが『罰』を受けていない。

 それは何故?

 何かがおかしい。何かが間違っている。

 なら……間違っているのは何?

 そして……壊れたカレンの心はその回答へとたどり着く。

 

(ああ、そうか……間違ってるのは……『世界』なんだ)

 

 あんな人間を生きることを容認する『世界』、それがそもそも間違っているのだ。

 そう、自分にこの絶望と慟哭と怒りと憎しみを与えるこの『世界』は間違っている!

 カレンの心が、その回答へと収束していく。

 その時、それまで姉の身体を貪り喰っていた魔法生物はゆっくりと残った獲物、カレンへと視線を向けた。

 カレンの様子を見て脅威がないと悟ったのか、魔法生物は新たな獲物に一直線に向かっていく。

 すでにカレンに避けるようなことはできない。

 ほんの数秒もしないうちに、自分も姉たちと同じように命を刈り取られることだろう。

 だからそんな命の最後にカレンが選んだ思考は、祈りでも諦めでも無く『呪詛』だった。

 自分の幸せを無残にも奪い取り、そして正しくない人間が『罰』も受けずにのうのうと過ごすこの『世界』そのものへの『呪詛』だった。

 

(こんな『世界』なんて……コワレテシマエ!!)

 

 ついに魔法生物が飛びかかろうとしたその瞬間、それは起こった。

 

 

ガンッ!

 

 

「ギャウン!!」

 

 黒い光と共に、突如として現れた『何か』……それにぶつかった魔法生物がまるで犬のような悲鳴を上げて転がる。

 

「えっ?」

 

 それは黒い光沢を放つ、龍の形をしたオブジェだった。そのオブジェの龍は、カレンを覗き込むかのように視線を合わせると、バラバラに分離した。

 黒い光がカレンへと集い、形を為して行く。

 

「これは……?」

 

 カレンは自身の姿を、呆けたように見つめる。

 それは鎧のようだった。カレンの全身を、黒い光沢の鎧が包んでいる。そしてそれと共に身体の内側から、力が湧きあがるのを感じる。

 カレンの『死』を目前にした『世界』への呪詛、それを『神』は見捨てなかった。

 もっとも、その願いを聞き届けたのは善神ではないのだが……。

 

「……」

 

 カレンはゆっくりと、魔法生物を見やる。

 

「グルゥゥゥゥゥ……!!」

 

 魔法生物は先ほどのがよほど気にくわなかったのか、低いうなり声を上げながらカレンへと襲い掛かって来た。

 巨体を誇る魔法生物が、姉の頭を吹き飛ばした前足の一閃をカレンへと見舞う。

 だが、カレンはその人間ならば頭が吹き飛ぶような威力の一撃を片手で受け止めたのだ。

 

「!!?」

 

「……死になさい!」

 

 驚きに目を見開く魔法生物に、カレンから炎が噴き出し、襲い掛かる。

 

「ギャゥゥゥッゥゥゥン!!」

 

 魔法生物が悲鳴にのたうつ。だがそれもすぐに消え、その炎が魔法生物を骨すら残さず焼き尽くした。

 それを見届けたカレンはその視線を観客席へと向ける。

そこには突然の事態に目を見開く人間たちの姿があった。皆一様に腰が引け、逃げ出そうとしている者もいる。

 そんな者たちにギリッとカレンは歯を噛みしめると、そのたかぶる殺意を解き放った。

 

「『罰』を……『罰』を受けろぉぉぉぉ!!」

 

 その怒号と共にカレンから吹きあがった炎が刃となり、雨のごとく降り注ぐ。

 観客席に張られていたシールドを瞬時に貫通した炎の刃は、まるで熱したナイフでバターを切るように、観客たちを切り裂き、燃やして行く。ほんの数秒の間に、その場にいた命はすべて刈り取られていた。

 それを確認したカレンは、ゆっくりと姉たちの亡骸へと近付いていく。

 

「リーナ姉さん、レイア姉さん……」

 

 無残なその遺体を、カレンはその炎でゆっくりと燃やして行く。俯いたカレンの頬を一筋の涙が伝う。やがて、カレンはゆっくりと顔を上げた。

 

「許さない……私の……『レスティレット』の家族をこんな目にあわせた奴……!

 必ず、必ず全員、殺してやる!!」

 

 その顔には絶望と慟哭と怒りと憎しみが渦巻く。

 

 かくして、姉たちへの涙一粒とともに心を黒く染め上げた少女は、人としての生き方をやめた。

 そしてここに冥王ハーデス軍の冥闘士(スペクター)の一人、『天殺星リントヴルムのカレン=レスティレット』が誕生した。彼女が冥界三巨頭の一人であるアイアコスと出会うのは、まだもう少しだけ先の話である……。

 

 

 




というわけで外伝である『冥闘士覚醒編』の第一弾は、この作品の初オリジナル冥闘士となった『天殺星リントヴルムのカレン=レスティレット』の過去話でした。

内容的イメージは幽遊白書の仙水……ってこれで分かる人も、もう少ないか(笑)

今回はとことんまで残酷かつヤバくしました。
こんなことあれば世界ぶっ壊したくなりますよ、という感じで。

次は『天魔星アルラウネのエンプレス』の過去の予定。
こちらもゲスく、悲惨にいきますよぉ。

次回もよろしくお願いします。
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