人は、自分という存在にその意味を問いかける。
『何のために、何を為すために自分は産まれたのか?』
この問いかけはどんな人間も一度は考えることではあるだろうし、過去様々な哲学者たちがその命題に挑み、様々な解を出す。
人生とは、自らの産まれた理由を探す壮大な旅なのかもしれない。
そう考えると、彼女にとってその人生を賭して探し出すだろう回答は、すでに出ていた。
彼女に『何のために、何を為すために産まれたのか?』と問いかけたのなら、彼女は何の迷いも無く、こう答える。
「私は、『正義』のために産まれた」
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とある次元世界の研究施設……彼女はそこで産まれた。
その命の育まれた場所は温かな母の胎内ではなく、冷たい金属の試験管……彼女は人工生命という、原罪無き者であった。
ここはある次元犯罪者の違法研究所だ。ここで研究されていたものは、人造魔導士の生成というものである。
次元世界は広大だ。いや、広すぎると言ってもいい。時空管理局はその広大な世界の適正管理と維持のための組織だが、その人材不足というのは深刻な問題となっていた。
普通に考えても、広大な次元世界に対する管理や維持などには膨大な数の人材が必要なことは分かるが、とある考え方がそれを後押ししていた。その考え方とは時空管理局に蔓延していた『魔法至上主義』的な考え方である。
ミッドチルダを始めとした次元世界は魔法文明を元にした文明であり、質量兵器、いわゆる通常の物理的な武装や文物を禁止していたが、それが結果として人材不足に拍車をかけることになった。
考えてみれば当たり前の話である。魔法は確かに便利な力ではあるが、魔法は持って産まれた『才能』に大きく左右される。地球のような『物理機械文明』の場合兵器や機械は『誰でも同じように扱える』が、魔法という個人の才能に左右されるため、『出来る人間と出来ない人間』が産まれた瞬間から明確に分かれてしまうのだ。あまりにも魔法が便利すぎ、それ以外の可能性を思考の最初から排除してきたための弊害ともいえるだろう。
とにかく、その不足する人材問題への対応は様々な面から押し進められてきた。各世界からの人材のスカウト、孤児院などの子供の管理局への就職斡旋などである。同時に、とても表沙汰には出来ない方法でも人材問題の解決方法が研究されてきた。その一つが『人造魔導士生成』である。
プロジェクトFATE……次元犯罪者にして天才科学者、ジェイル=スカリエッティが基礎理論を構築した『人造生命生成』の技術は、裏の世界で注目を集め、各々がさらなる発展や研究が様々な場所で、様々な目的で為されていった。そんなプロジェクトFATEの発展を研究していた人物の一人がフェイトの母であるプレシア=テスタロッサだ。
死んだ娘であるアリシア復活のためにプロジェクトFATEの研究を続けていたプレシア=テスタロッサであるが、ある時のことその研究に行き詰っていた。そしてその時、同じく『人造魔導士生成』の研究をしているある次元犯罪者との間で技術交換を行ったのである。その結果プレシア=テスタロッサが誕生させたのがフェイト=テスタロッサであり、その次元犯罪者が誕生させたのが彼女、レンカ=ヒスイであった。そう言った意味でフェイトとレンカは、『腹違い』ならぬ『試験管違い』の『姉妹』と言ってもいい関係なのである。
そんな風に誕生したレンカ=ヒスイは、自分が人工生命であるということを最初から知っていたが、彼女はその産まれをまるで悲観していなかった。むしろ、自らは『正義』のために産まれたのだと、誇らしくすら思っていたのだ。この辺りは、その次元犯罪者がいつか管理局などに『出荷』する時を意識してそういった教育をしていたことの影響が大きい。
その日も、彼女はいつか来る『正義』のために力を振るう時のため、いつも通りの日々を歩んでいた。
「ふぅ……」
訓練を終えて、レンカは大きく息をつく。そんなレンカに同じような容姿の少女が2人、声をかけていた。
「お疲れ様、ヒスイ。 相変わらず熱が入っているわね」
「ええ、コーラル姉さま」
そう言ってレンカが赤い髪の少女―――コーラルへと言葉を返すと、今度はその隣の紫の髪の少女が肩を竦めながら言う。
「大丈夫? ちょっと力入りすぎなんじゃないの?」
「お気遣いなく。 大丈夫ですわ、クォーツ姉さま」
そんな姉の言葉にレンカは言葉を返した。
コーラル、クォーツ……この二人はレンカと同型の、レンカの前に作成された『人造魔導士』である。
そんな姉たちの言葉を尻目に、レンカは軽く汗を拭うと再び訓練へと戻っていこうとする。そんな妹に、コーラルは咎めるように言った。
「ちょっと、レンカ。 あなたまだやるつもりなの?」
「ええ。 お姉さまがたは休んでいて下さい。
私はもうしばらく続けますわ」
「熱心ねぇ……」
クォーツの半ばあきれの言葉に、レンカは当然のように答えた。
「もちろんですわ。 だって……早くフェイトお姉さまのようになりたいんですもの」
そう語るレンカの目は、まるで夢見るように輝いている。
この頃はあの『闇の書事件』にて
その際の映像は時空管理局に提出され、同時に『特別なルート』から様々な次元犯罪者の元へと届けられた。その映像をレンカたちは見たのである。そして、すぐさまそこに映った金髪の少女が、自分と同じ者だということに気付いたのだ。
フェイトの名前に、コーラルとクォーツもどこか憧れるように呟く。
「フェイト=テスタロッサ……プレシア=テスタロッサによって造られた私たちのお姉さま」
「あれが私たちの、『正義』のために戦う姉さま……」
呟くコーラルとクォーツの目も、どこか輝いていた。
レンカたち3姉妹は、フェイト=テスタロッサに特別な憧れを抱いていた。自分たちと同じ産まれを持ち、そしてあの『闇の書事件』の解決のため、自分たちの目指した『正義』のために戦い勝ったフェイト=テスタロッサは3姉妹の憧れであり目標だ。
「お姉さまがた、私、いつかフェイトお姉さまと一緒に戦いたい。
『正義』のために!」
そうキラキラ輝くような瞳で熱く語る妹に、コーラルとクォーツは軽く肩を竦めるとレンカの肩を叩いた。
「そうね、私たちもそうよ」
「それじゃ、そのためにもっと強くならないとね。
私たちもまだ訓練に付きあうよ」
「ええ、お姉さまがた!」
肩を並べて再び訓練へと戻っていく3人。それはいつか果たすべき産まれてきた意味……『正義』を為すためにゆっくりと、確実に力を付けていく。
だが……非情にも、運命は彼女たちに微笑むことはなかった……。
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その日、3姉妹はある実験室へと集められていた。白い、室内模擬演習用の実験室だ。
「今日は何の実験なのかしら?」
「姉さまも聞いてないの? レンカは?」
「私も聞いてませんわ」
突然の実験室への呼び出しに、3姉妹は首を傾げる。そんな中、室内にスピーカーからの声が響いた。
『時間通りだ、よく集まってくれたね』
聞きなれた声、それは彼女たちを造り出した科学者であった。
「マスター、予定には無かったはずですが、今日は一体どんな実験を?」
コーラルの言葉に、スピーカーの向こうの声が答える。
『なぁに、今日は実験ではなく……掃除だよ』
「? それはどういう……?」
コーラルのその問いかけより先に、シューという音と共に実験室に白いもやのように何かの気体が注入されていく。
「かふっ!?」
「クォーツお姉さま!?」
その気体を吸ってしまったクォーツが血の塊を吐き出し、レンカはその光景に驚愕で目を見開いた。
それを見て、コーラルは何が起きたのかを理解する。
「これは……ガス!?
マスター、これは一体!?」
『だから言っただろう、掃除だよ掃除。
実はここを引き払うことになってしまってね、立つ鳥跡を濁さず、というだろう?
すべての証拠は消しておかないとならないのでね』
その言葉に、コーラルは自分たちが捨てられたのだということを悟った。
「コーラルお姉さま!?」
「レンカ、壁を壊して脱出するわよ!!
クォーツ、あなたもよ! もう少しだけ頑張って!!」
「わ、わかりました、姉さま……」
混乱するレンカを叱咤し、血を吐きながら青い顔をするクォーツを無理矢理立たせると3人は魔力を練り上げ実験室の壁目掛けて魔法を発動させた。
しかし……。
「駄目です、お姉さま! 傷一つ付きません!?」
「諦めないで! 魔力を打ち込み続けて!!」
3人は必死で練り上げた魔力を連続して叩きつけるが、一向に壁には傷つかない。そして、そのうちに遂にクォーツに限界が訪れた。
「がふっ、がふっ……!?」
「クォーツ!? うぐっ!?」
明らかに危険な量の血を吐いて倒れたクォーツ、それを追うようにコーラルも血を吐きながら膝を折る。
「お姉さまがた!?
……うぐっ!?」
倒れた姉たちに駆け寄るレンカも、違和感と共に血の塊を吐き出す。
「クォーツ……レンカ……」
「はい……お姉さま……」
「……」
コーラルの声に、弱弱しくレンカは答えるがクォーツからの声は無い。見ればすでにクォーツは大量の血を吐き出して事切れていた。
「逝ってしまったのね、クォーツ……私もすぐ逝くわ……」
「お姉さま……」
息も絶え絶えなコーラルの手をレンカは握ったが、自身もガスの毒がまわり弱弱しくしか握ることは出来なかった。そんな自分たちの姿をコーラルは自嘲した。
「こんな終わりなんて……私たちまるでおもちゃのよう……」
いらなくなったから捨てられる……その様をまるでおもちゃのようだと笑う。
「私たち……一体何のために産まれてきたんだろうね……」
涙を浮かべながらのその言葉を最後に、コーラルは息を引き取った。
「お姉……さま……」
姉たちの最後を看取り、レンカ自身も毒に蝕まれていく中で感じたものは無念と理不尽だ。
(私たちは『正義』のために産まれたはずなのに……。そんな私たちの最後がこれだというの?
私たちの産まれてきた意味は、何だったというの?)
走馬灯のように駆け巡る思考の中、彼女はその答えに行き着いた。
(ああ、そういうことね……。
今の『世界』、そのすべてが『悪』だったのね。
だから……こうして私たちを、『正義』を消そうとしているのね)
それは姉たちを失い、自らも死に逝く中でレンカの辿り着いた答え。『正義』を目指し、いつか為す『正義』を夢見て力を蓄えてきた自分たちを殺す運命への呪詛の言葉だ。
だが、そんな死に際の呪いの思いを聞き届けるものがあった。
「な……に……?」
ガスの霞むもやの中、その視界にレンカは今まで見たことのない奇妙なものを見つけた。
それは漆黒のオブジェ、カマキリの形をしたそのオブジェがいつの間にかレンカを見下ろすように浮かんでいる。
「う……くぅ……」
歪む視界の中、導かれるように最後の力を振り絞りレンカはそのオブジェへと触れた。
その瞬間、オブジェはバラバラになりレンカの身体へと装着されていく。
黒い光が、その場を包んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~
「何だ? 何が起こった?」
モニターを監視していた科学者は突然のことに目を見開く。
突如として黒い光が包んだかと思えば、奇妙な鎧に身を包んだ実験体がそこには立っていたのだ。
「バカな、もう室内のガスは致死量をとっくに超えているはずだぞ」
本来ならばありえない光景に科学者は驚愕した。
ある種の昆虫や哺乳類には解毒能力を持つものがいる。毒が効かないように進化した昆虫や、青酸などの毒物を摂取しても分解することのできるキツネザルの仲間などが顕著な例だ。それと同じように、死の淵に立たされたレンカの身体を、あの黒い鎧―――天断星マンティスの
レンカがゆっくりとカメラへと視線を向けると、次の瞬間ノイズと共にカメラの画像が途絶えた。カメラが破壊されたのだ。
同時に、異常事態を示すアラートが鳴り始める。
「まさか……あの実験室から脱出したというのか!?」
科学者は慌ててコンソールを叩き、実験体の位置を探そうとする。
だが彼は気付いていなかった。彼の後ろにはもう、死神がその鋭い鎌を振り上げていたことを。
そして、彼がそのことに気付く機会は永遠に失われたのだった……。
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「はぁはぁ……」
原型もとどめぬほどの細切れの肉塊を前に、レンカは深呼吸を繰り返す。
そして、整った息の後にレンカから漏れたのは笑いだった。
「あは、あはは!
やりました。 やりましたわ、お姉さまがた!
『正義』を為し、『悪』を討ちましたわ!」
その『正義』の理想に輝いていた目は、いつの間にか曇り切っている。レンカはそんなことには気付かず、ひとりごちた。
「お姉さまがた。
私は、お姉さま方の分まで『正義』を為しますわ。
私は……最大の『悪』を討つ!
今の『世界』という名の『悪』を、私の『正義』で砕いてみせますわ!!」
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吹き荒れる雪の中、レンカはジッとその雪の果てを見つめ続ける。
「……来る」
やってくる者の
やがてやってくるのは金の髪で、白銀の
「あなたは……一体……!?」
驚きに目を見開く金の髪の少女―――フェイト=テスタロッサへと、レンカは優雅に、そしてこれ以上ないくらいの微笑みと共に答えた。
「私はレンカ……レンカ=ヒスイ。
天断星マンティスのレンカ=ヒスイですわ、以後お見知りおきを、フェイトお姉さま!」
『正義』のために産まれたと信じ『正義』を目指し、そして今の『世界』という名の『悪』を討つことを決意した
彼女と、彼女たちの憧れであったフェイト=テスタロッサとの激突は、まだ始まったばかりだった……。
というわけで外伝である『冥闘士覚醒編』の最後はフェイトコピーこと『天断星マンティスのレンカ=ヒスイ』の過去話でした。
『正義を信じ、正義に裏切られた正義の味方』というのがコンセプトです。
重度の正義狂という、作者の大好きな作品のヒロインの1人に近いかな……。
まぁ、この子に肋骨伸ばして攻撃させたり、自分の腸を引きずり出してワイヤーにして相手を絡め取るとかはさせませんが(笑)
この子の姉たちの名前は完全にでっちあげました。
一応、レンカがヒスイなので同じく宝石繋がりの3姉妹です。
コーラル(サンゴ 3月の誕生石)
クォーツ(水晶 4月の誕生石)
ヒスイ(翡翠 5月の誕生石)
という感じですね。
イベントに関しては、とあるラノベのエクスカリバーのイベントをイメージしております。
次からは本編再開、あの雪上会戦での大敗北の後の聖域の動きからいく予定です。
次回もよろしくお願いします。
今週のΩ:アテナの聖衣キタァァァァ!
でもアテナ様には不安しかない……。
そして星矢が射手座の神聖衣(?)にパワーアップ。
前回の格好良すぎる牡牛座同様、黄金聖闘士の活躍が熱い!
次回は目が離せません。