俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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今回は前回のエリオとセットになる、あの子の登場です。
ただし、こちらも魔改造上等の素敵仕様です。


第56話 魚と黒、少女と伝説を見つける

 太陽が落ちようという黄昏時、生い茂る森の中を幼い少女が泣きながら走っていた。

 こんな時間から森に入るなど、本当なら危険極まりない行為であり普段なら絶対にしない。しかし、今はそんなことを気にはできない。

 何故なら……本当の危険は少女のずっと後方、彼女の産まれた集落にあるのだから。だから、そこから一歩でも離れなければならない。

 

「キュクルー……」

 

 少女の腕の中で、小さなぬいぐるみのような竜が抱えられていた。少女によってつい先日卵から孵ったばかりの幼い竜は、自分の母とも言うべき少女を見ながら心配そうにひと声鳴いた。

 そんな1人と一匹の逃避行は続き、やがて森が夜の闇に包まれ少女が疲労で一歩も動けなくなるところまで続いた。

 大きな木の根元当たりの丁度いい大きさの木のウロに身を隠し、少女は抗いがたい睡魔に身を委ねる。

 

「お父さん……お母さん……みんな……」

 

 不安を押し隠すように腕の中の幼竜を抱きしめ、涙を流しながら少女は夢の世界へとズブズブと沈んで行った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ここは第六管理世界、アルザス地方。

 そこに住まうのが少数民族、『ル・ルシエ族』である。竜を使役し、自然と共に暮らす民族であった。

 そう、残念なことに『ル・ルシエ族』を語るのには過去形になる。

 何故なら『ル・ルシエ族』の暮らすその集落は滅んだのだから……。

 その日、ル・ルシエ族の『集落』は怪物に襲われた。いくつもの頭を持つ巨大な蛇のようなその怪物は突如として集落にやってくるなり、手当たり次第に集落の人間を襲い、喰らった。

 無論、『ル・ルシエ族』も黙ってやられていた訳ではない。『ル・ルシエ族』は優秀な竜召喚士だ。その力で赤竜や飛竜を召喚し、怪物に対して果敢に応戦する。

 しかし、怪物は想像以上の化け物だった。その複数の首から毒霧を吐き、毒によって多くの住人が倒れた。では空からと攻撃した飛竜も怪物からの火炎を受け、火だるまになって撃ち落とされる。

 なんとか怪物の首をいくつか破壊することに成功しても、驚異的な再生能力で再び首が生えてくるどころか、首が倍に増えるという始末だ。

 そんな怪物の襲撃により、『ル・ルシエ族』はその歴史に幕を下ろす。

 一人と一匹の幼い少女と竜……キャロ・ル・ルシエとフリードリヒを残して……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 朝の光に目を覚ますと、そこは暖かい自分の家ではなく、肌寒い木のウロの中。そのことでキャロはあの出来事が夢ではなかったのだと思いだす。

 

「お父さん……お母さん……」

 

「キュクルー……」

 

 昨日はキャロがこのフリードリヒを孵したことで、家ではささやかながらお祝いが開かれていた。

 きっと将来は凄い竜召喚士になるといって嬉しそうに自分を撫でてくれた父も母も、自分の生まれ故郷ももうない……その事実にキャロの目から再び涙が流れる。

 しかし、そのとき同時にキャロとフリードのおなかがキュウと可愛らしく鳴った。

 

「お腹すいたね、フリード……」

 

「キュクルー……」

 

 そう言ってキャロは流れる涙を拭うと、木のウロから這い出して歩き出した。帰る家を失い食べ物もない状況……だが彼女には目的地があった。

 

「龍神様の滝に行こう……」

 

 『龍神の滝』……そこは『ル・ルシエ族』に古くから伝わる伝説のある場所であり、言い伝えにある神聖な場所だ。

 その昔、地上で凶暴な怪物か暴れまわっていた時、星から龍がその滝に降りて来て怪物を封じ、人々を救ったという。その後龍は永劫とも言える永い眠りに付いたが、龍はその滝が逆流するとき再び現れ、人々を守るという伝説である。

 その場所をキャロは目指して歩き出す。

 キャロが『龍神の滝』を目指した理由は神聖なその場所なら安全だろうと考えたこともあるが、その近くには休むための小屋が建っているからだ。森で迷った時などの非常時に備えたもので、多少ながら食糧の備蓄もしている。そのため、寝床と食べ物を求めてキャロとフリードは『龍神の滝』を目指し歩き出した。

 やがて見えてきたそれは、大瀑布と呼ぶにふさわしい巨大な滝……『龍神の滝』である。

 今までの移動で疲れ切っていたキャロはやっとたどり着いた目的地にホッと息を付く。

 しかし……。

 

 

 グルゥゥゥゥ……

 

 

「!?」

 

 龍神の滝のほとりまで来ていたキャロはその唸るような声にビクリと身を震わせると、その声の方を見る。そこにいたのは熊のような巨大な体躯のネコ科の猛獣だ。水場には水を求めて様々な動物が集まるが、それを獲物にした肉食獣というものも自然と寄ってくる。自然に生きる『ル・ルシエ族』の一人として幼いながらそのことは習っていたはずだが、疲れによってそのことにまで頭が回らなかったのである。

 

「グルァァァァァ!!」

 

「いやぁぁぁぁぁ!!?」

 

 慌ててキャロは森の中に逃げ込もうとするが、疲れ切った幼子の走りなど猛獣のにとっては止まって見えるほどだっただろう。一瞬にして飛び掛かられ、その衝撃に思わず腕の中のフリードを投げ出してしまう。

 

「逃げて、フリード!!」

 

「キュ、キュクルー……!」

 

 咄嗟にフリードに逃げるように叫ぶが、それを無視してフリードは猛獣へと体当たりする。しかし、そんなフリードを無視して猛獣はキャロに動けないように圧し掛かると、その鋭い牙の生えた口をゆっくりと開けた。

 迫る死の恐怖にガチガチと歯が鳴る。どうしたところで自分はもう助からない……そんな諦めにも似た気持ちと恐怖から逃れたい一心で、キャロはギュッと目を閉じる。

 だが……。

 

「グ、ルゥゥゥ……」

 

「?」

 

 襲い掛かって来た猛獣の声がどこかおかしい。猛獣のその声は。獲物を前に歓喜する声ではなく、どこか苦悶を耐えるような声だった。そして何時までたっても自分に襲い来るはずの激痛は無い。

 キャロは恐る恐る目を開いた。すると、猛獣の肩辺りに薔薇が突き刺さっていた。そしてあの熊のように巨大な猛獣を軽々と左手一本で支える少年の姿がある。

 目の前の状況を疑問に思うより早くキャロは、今度は金髪の少女によって地面から抱き起された。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい……」

 

 状況のよく分からないキャロは自分を気遣ってくれるその少女の優しい瞳に曖昧な返事を返すだけだ。

 だが、その答えに満足したのかその少女は頷くと、猛獣を持ち上げる少年へと声をかける。

 

「シュウ、大丈夫。 この子は無事だよ」

 

「そっか、それはよかった」

 

 少年……シュウトは肩越しにチラリとキャロを見ると、何処から取り出したのか右手の薔薇を猛獣へと投げつける。2つ目の薔薇を身体から生やした猛獣は再び苦悶の声をあげると、力を失いコテンとシュウトへとしな垂れかかる。よく見れば呼吸と共にその身体が上下しており、猛獣はどうやら眠っているようだ。

 

「どう、シュウ?」

 

「睡眠毒が効いてきたみたいだ。 森の方に置いてくるよ。

 その間その子を頼むね、フェイト」

 

 そう言ってシュウトは楽々と猛獣を抱えあげると森の中へと歩いていく。その後ろ姿を見送ったフェイトは再び腕の中のキャロを覗き込みながら聞いた。

 

「ねぇ、大丈夫だった?」

 

「……」

 

 だが、キャロはそれに答えることなく極度の緊張と疲れからそのまま気を失った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どれだけ気を失っていたのだろうか、キャロが目を開けると、そこは見知らぬテントの中だった。

 

「気がついた?」

 

 キャロのすぐそばで様子を見ていたフェイトの声に、キャロはゆっくりと身体を起こすと視線を巡らせる。

 

「どこが痛いところはない?」

 

「は、はい……大丈夫です」

 

 横から心配そうに声をかけてくるフェイトに、キャロはボーっとしながら生返事を返す。その時、何処からともなく美味しそうなにおいが漂ってきて、キャロのお腹がクゥ、と可愛らしく音を立てる。

 その姿にクスッ、とフェイトは笑うとキャロの手を優しく取った。

 

「おいで、一緒にご飯食べようか」

 

 フェイトに手を引かれテントの外に出ると、シュウトが簡単な朝食を作っていた。その足元では出された食事を一心に頬張るフリードの姿がある。

 

「キュクルー!」

 

「あ、良かった。 目が覚めたんだね」

 

 キャロの姿を見つけたフリードがキャロの胸に飛び込み、シュウトが朝食を皿に盛りつけながら微笑む。

 その美味しそうな料理に再びキャロのお腹が鳴り、シュウトはクスリと笑いながらキャロを座らせる。

 

「とりあえずは食事にしよう。

 フェイトも座って」

 

「うん」

 

 シュウトの言葉にフェイトも席に着くと朝食が始まった。その中でシュウトもフェイトも名前をキャロに名前を名乗る。

 2人はこの『龍神の滝』を調査するために来たのだと語る。

 

「龍神様の滝を調査……ですか?」

 

「まぁね。

 それと……この辺りでおかしなことが起こっていないかも調べに来たんだ」

 

 シュウトとフェイトは今回、この地方に伝わる伝説の『龍神の滝』を調査しに来たのだが、もう一つ調べ物があった。聖域(サンクチュアリ)の星見と『予知夢』の能力を持つ猫山霊鳴の進言で、何か良くないことが起こっているとの報告があったのだ。それを調べるのも2人の今回の任務のうちである。

 

「君はこの辺りに住んでるの?

 ここ最近変わったことがあったら教えて貰えないかな?」

 

 シュウトもフェイトも勘が良い。こんな朝早くに、こんな幼い子供が一人で森を歩きまわっているとは考えにくい。何事かが起きていることを薄々感じながら、しかし急かす様な真似はせずごく自然に目の前の幼子に接するようにする。

 そんな2人の言葉にキャロは昨日のことを思い出し、涙を流しながらゆっくりと自分の集落を襲った悲劇を2人に語る。

 

「「……」」

 

 話を聞き終えたシュウトとフェイトは無言で頷きあうとゆっくりと立ち上がった。

 

「どうやら、それがボクたちの解決すべきことみたいだね。

 キャロちゃん……だったよね?

 ボクたちをそこに案内してほしいんだけど……お願いできる?」

 

「みんなだってどうしようもなかったのに、2人が行ったってあの怪物はどうしようも……」

 

 涙で濡れた瞳でうつむきながらのキャロの言葉。だが、その目の前で2人は微笑むとただ一言、言葉を紡ぐ。

 

魚座聖衣(ピスケスクロス)

 

「バルディッシュ。

 バリアジャケット、聖衣(クロス)展開(オープン)

 

 その言葉と共に光が2人を包み、キャロが顔を上げると2人は黄金と白銀の鎧を纏った姿でそこに居た。

 

「……2人は、魔導士なんですか?」

 

「違うよ、ボクらは魔導士じゃない。

 『聖闘士(セイント)』……地上の愛と平和のために戦う闘士さ」

 

 茫然と紡ぎだされた言葉に苦笑と共にシュウトが返す。それに続けて、フェイトはキャロの頭を優しく撫でながら言った。

 

「大丈夫、私たちにまかせて。

 必ずその怪物、退治してみせるから……」

 

 そんなフェイトに、キャロは腕の中のフリードをギュッと抱きしめながら頷くのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 キャロの案内で『ル・ルシエ族』の集落へとやって来たシュウトとフェイト。

 

「酷い……」

 

 そこかしこにかつて人間だった『残骸』と呼ぶにふさわしいものが散乱している地獄のような光景にフェイトはキャロの目を覆うが、キャロはその手を振り払うようにどけて変わり果てた故郷の光景を瞳を涙で濡らしながら、まるで自身の魂に焼き付けるように見つめた。

 

「……一人でも生存者はいないかな?」

 

「残念だけど……無理だね」

 

 フェイトの呟きに、先ほどから周囲を警戒し続けているシュウトが首を振る。

 

小宇宙(コスモ)を感じないことはフェイトも分かってるでしょ。

 ボクの方も全然感じない。

 それに……」

 

 シュウトは鼻を鳴らし、周囲の臭いを感じで顔をしかめる。

 

「毒の残り香……それも随分強力なやつだ。

 これじゃよしんば襲われて生きていても毒でやられちゃう……」

 

「毒……バルディッシュ、対毒術式の準備を!」

 

『イエス、サー』

 

 フェイトはバルディッシュへと指示を飛ばし準備を整える。

 その時……。

 

 

 ズズズズ……。

 

 

 何処からともなく音がして、シュウトが薔薇を構え、フェイトがキャロを抱えるように抱きしめる。

そして……。

 

「キシャァァァァァ!」

 

「キャァァァァ!!」

 

 突如として地中から巨大な蛇の頭が飛び出し、キャロへと襲いかかろうして思わずキャロが悲鳴を上げるが、シュウトとフェイトはキャロを連れて跳躍、後方に着地すると敵の姿を見る。そしてシュウトたちの目の前でその怪物は姿を現した。

 巨大な大蛇の首が次々と地面から現れ、次いでまるで恐竜のような形状の胴体がはい出してくる。それを見てシュウトとフェイトはこの神話級怪物の正体を悟った。

 

「シュウ、これって……!」

 

「間違いない、ヒュドラだ!」

 

 『ル・ルシエ族』の集落を襲った怪物の正体、それは9つの首を持つ蛇の神話級怪物『ヒュドラ』だ。

 ヒュドラは鎌首をもたげ、その視線はシュウトたちに注がれている。

 その威圧感にキャロは思わず自分を抱きしめて構えをとるフェイトの手を握った。フェイトは少しだけ微笑みその手を握り返す。そして、シュウトはそんな2人を守るように一歩前に出た。

 

「ボクが前に出る。

 フェイトはキャロちゃんを連れて後方から援護を」

 

「わかった!」

 

 その言葉と共に、シュウトは薔薇を構えながら走り出し、フェイトはキャロを抱きかかえながら空中へと飛ぶ。

 ヒュドラは自分に向かってくるシュウトを敵と認め、その9つの首が連続してシュウトを噛み砕こうと襲い掛かるが、それをシュウトはかわすと小宇宙(コスモ)とともに黒薔薇を構え、投げ放つ。

 

「ピラニアンローズ!!」

 

 噛み砕く黒薔薇が集中し、巨木の幹のようなヒュドラの首の一本を吹き飛ばす。

 だが、その光景にキャロは思わず叫んでいた。

 

「だ、ダメッ!?」

 

 ル・ルシエ族は優秀な竜召喚士、その力で果敢にヒュドラに挑んで敗北しているが、その原因はヒュドラの異常なまでの再生能力のせいだ。首を吹き飛ばしても首が倍に増えて生えるという生物としてあり得ない再生能力の前に、この集落は敗れ去ったのである。吹き飛んだ首が倍に増える光景を思い浮かべキャロが悲鳴のような声を上げた。

 だが、シュウトもフェイトも慌てることなくすぐに行動を起こす。

 

「フェイト!」

 

「サンダーレイジ!!」

 

 シュウトの言葉にフェイトから電光がヒュドラに襲い掛かり、肉の焼ける臭いが辺りに漂う。フェイトの放った『サンダーレイジ』はシュウトが放った『ピラニアンローズ』で砕けたヒュドラの首の断面を焼き焦がしていた。

 神話級怪物と戦う聖闘士(セイント)にとって、神話に対する知識は必須科目だ。伝承では、ヒュドラはヘラクレスが切り落とした首の断面を火で焼くことでその再生を防ぎ倒したとなっている。そのことを知っているシュウトとフェイトは、シュウトが首を破壊し、その断面をフェイトが魔法で焼き焦がすことで、神話のヘラクレスの必勝法を再現したのである。

 ヒュドラは苦悶の声を上げながらも、シュウトに喰らい付こうと首を操るが、シュウトの動きに翻弄されるばかりだ。

 

 首が4つまで減った時、ヒュドラも危機感を覚えたのかそれまでシュウトに喰らい付こうとしていた首たちが一斉に何かをため込むように首を引いた。そしてその口から紫の霧のようなものが放たれる。ヒュドラの毒である。シュウトを毒で動けなくしてから仕留めようというのだ。

 ヒュドラの毒は強力だ。射手座の元となったケンタウロスのケイローンの死因もヒュドラの毒であったしヘラクレスの死因もヒュドラの毒、正に必殺と言ってもいいほどに強力なのである。

 毒を放ったヒュドラの首の一つが勝ちを確信したのか小さく鳴く。しかし、次の瞬間その首はシュウトの放つ『ピラニアンローズ』によって打ち砕かれた。

 いかなる生物をも殺すはずのヒュドラの毒霧の中だが、シュウトは平然とした様子だ。それも当然、最強の毒使いの『魚座(ピスケス)』であるシュウトは如何なる毒も効かないのである。例えそれが神話級の毒であろうとだ。相性という点ですでにヒュドラはシュウトに勝てるはずがなかったのである。

 

 1つ、また1つと首が砕かれ、ついにヒュドラに残ったのは中央の一番巨大な首だけだった。破れかぶれのようにヒュドラの最後の首が極大の炎のブレスを放とうと息を吸い込む。それを見たシュウトは後ろに跳んで距離を開けた。

 

「君に悪気があったわけじゃないのかもしれない。

 この集落を襲ったのも、動物の狩りと同じ感覚なのかもしれない。

 でも、この場所であったような悲劇は繰り返させる訳にはいかない!

 だからボクの薔薇で、君は冥府(タルタロス)へと送り届ける」

 

 シュウトの小宇宙(コスモ)と共に、紅い薔薇が舞う。

 ヒュドラがシュウトに向けて炎のブレスを放った。シュウトはその炎に向かって真正面から高まった小宇宙(コスモ)を解き放った。

 

「ロイヤルデモンローズ!!」

 

 解き放たれた小宇宙(コスモ)は薔薇竜巻となり、迫り来る炎を真正面から吹き散らしながらヒュドラへと直撃する。ヒュドラの身体がボロボロと崩れ落ちていく。デモンローズの毒がヒュドラの身体を内側から蝕んでいるのだ。神話最大級の毒の魔物が、毒によって蝕まれていくのは何とも皮肉というか、滑稽な話である。

 ヒュドラは最後に断末魔の雄たけびを上げると、ボロボロと砕け散った。それは『ル・ルシエ族』をキャロ一人を残して滅亡に追い込んだ怪物の、あまりにあっけない最後だったのである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ヒュドラを倒し『ル・ルシエ族』の遺体を弔ったシュウトとフェイトは、再び『龍神の滝』を訪れていた。神話級怪物の退治の仕事が終わったため、残ったもう一つの仕事である『龍神の滝』の調査のためだ。その隣には、フリードを抱きかかえたキャロの姿がある。

 今回の事件で天涯孤独になってしまったキャロをそのままに出来るはずもなく、シュウトとフェイトは、キャロに聖域(サンクチュアリ)へ来ないかと提案、幼いながら天涯孤独になってしまったことを分かっていたキャロは、この短い間ながら家族の仇をとり、優しい2人に懐いていたのでこれに頷いた。

 

「シュウ、本当にこの『龍神の滝』のことが分かったの?」

 

「まぁね、『ル・ルシエ族』に伝わってたこの地方の伝承を直に聞けたことが大きかったよ」

 

 キャロから『龍神の滝』の伝承を聞いた途端、この『龍神の滝』のことが分かったというシュウトに、フェイトは首を傾げる。

 伝承には『滝が逆流するとき再び現れる』という一節があるらしい。このフレーズで何をすればいいのかピンとこない転生者はいないだろう、とシュウトは苦笑した。

 

「ちょっとだけ離れていて。 ただし、いつでも動けるようには準備を」

 

 そうフェイトに伝えると、シュウトはゆっくりと小宇宙(コスモ)を高め始める。戦闘時のように小宇宙(コスモ)を高めるシュウトにフェイトは首を傾げながらも、言われるままにキャロの手を引いて一歩下がる。

 そして、それを確認してからシュウトは目の前の大瀑布に向かって飛び上がった。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気合一閃、シュウトは小宇宙(コスモ)と共に滝を蹴りあげる。すると……。

 

「!?」

 

 まるで巻き戻し映像を見るかのように、大瀑布の水が逆流していく。それはまるで天に駆け昇る龍のようだ。その光景に圧倒され声も出ないフェイトとキャロの横にシュウトは降り立つ。

 

「やっぱり……思った通りだ」

 

 そう言ってシュウトが指差す先、それは大瀑布の水の壁の向こう、岩壁にぽっかりと洞窟が口を開けていたのだ。大瀑布が逆流しなければ、侵入はおろか気付くことすらできないだろう。

 

「恐らく伝説の元はあそこだ。 行こう」

 

 ここは『ル・ルシエ族』にとって神聖な場所、そこを部外者であるシュウトたちだけで立ち入るには抵抗があったことと、キャロが『ル・ルシエ族』の伝説について知りたいと強く希望したため、同行を許可している。シュウトとフェイトは、キャロとフリードを抱きかかえて洞窟へと一足飛びに降り立った。

 洞窟内は薄暗いが危険な気配はせず、むしろ清浄な小宇宙(コスモ)が漂っている。そんな洞窟内を進むことしばらく……ついにシュウトたちはその場所にたどり着くと、そこにあるものに全員絶句した。

 

 そこは地底湖のような澄んだ水辺、その中央の島には青銅色に輝く、ドラゴンのレリーフの入った箱が鎮座している。

 それは伝説とも言える青銅聖衣(ブロンズクロス)の一つ、『龍座聖衣(ドラゴンクロス)』だ。

 だがしかし、少なくともシュウトはそれにはさほど驚いてはいなかった。何故なら、シュウトとしては龍伝説となれば『龍座聖衣(ドラゴンクロス)』があり得るかもしれない、とは思っていたのだ。

 だが、そんなシュウトですら予想外のものがそこには一緒にあった。

 それは巨体だ。蛇のように長い身体を持つ巨体が、まるで『龍座聖衣(ドラゴンクロス)』を守るように丸まりながら眠っている。その頭の角、牙、そして髭がその巨体の正体が蛇ではないと物語っていた。

 それは『龍』だ。西洋型の『ドラゴン』ではなく、東洋型の『龍』である。そして、そんな『龍』にシュウトは思い当たるものがあった。

 

「まさか……」

 

『……何者だ』

 

 そんなシュウトたちの目の前で、『龍』はゆっくりと目を開くとその身体を起こした。

 

『人か……ここを訪れる者がいるとは……』

 

 そこまで言うと『龍』は3人をジッと見つめた。

 

『……娘、お前はこの地の一族の者だな?』

 

「は、はい!」

 

 唐突に伝説の龍神様に声を掛けられ、キャロは跳ね上がるように勢いよく応える。

 

『なるほど、ならばこの懐かしさも納得できる。

 だがお前たち2人……お前たちから感じる、この懐かしさはこの聖衣(クロス)から感じるものに似ている……。

 聖闘士(セイント)というだけではない。

 この例えようもない懐かしさは一体何だ……?』

 

 自問自答のように呟く『龍』。そんな姿に、シュウトは思い当たるその可能性を聞いてみた。

 

「もしかして……『童虎』という名前に心当たりがありませんか?」

 

『童虎!? なんと懐かしい……お前は何故その名を知っている……?』

 

 その答えに、シュウトはこの『龍』の正体を確信した。

 

「やはり、あなたは童虎さんの師匠!?」

 

 そう、この『龍』は最愛の人を失った渇きに人外に堕ち、人のまま死ぬために亢龍となって天に昇ったはずの童虎の師だったのだ。

 そんな『龍』に、聖域(サンクチュアリ)には魂の存在になりながらも童虎が存在し、自分たちはそんな童虎からも教えを受けているのだと語る。

 

『そうか……魂となりながらも、あやつはまだこの世におったのか……』

 

 童虎の存在に頷く『龍』は、どこか嬉しそうだ。そんな龍に、今度はシュウトが尋ねる。

 

「あなたこそ何故ここに?

 あなたは天に昇り、人として死んだと聞いていましたけど……」

 

『……人外に堕ちたこの身に、人としての死など望めなかったということだ……』

 

 そして『龍』は語り始める。

 天に何処までも昇りその身を塵に変え死に絶えようとしていた『龍』だったが、その強靭な身体はそれで死を与えてくれることは無かったのだ。

 やがて、気の遠くなるような時間の果てに『龍』はこの世界へと降り立ったそうだ。

 再び孤独となった『龍』だが、そんな時いくつもの頭を持つ邪悪な蛇の怪物がこの地に住む人間を襲っているのを目撃した『龍』は人々を助け、その邪悪な蛇の怪物を封印したのだという。

 

「あのヒュドラを封じたのはあなただったんですね」

 

 色々納得をしながら、シュウトは先を促す。

 助けられた人間は『龍』に感謝し、それを『龍神』として崇め始めたという。それこそが『ル・ルシエ族』であり、『ル・ルシエ族』の龍信仰の原点はどうやらこの『龍』だったようだ。

 

『この永劫とも言える時の中の、一時の気の迷いのようなものだったが……悪くは無かった。

 恐れられたことはあっても、感謝などされたためしは無かったのでな……』

 

 そんな折、この世界に空から『龍座聖衣(ドラゴンクロス)』が落ちてきたそうだ。『龍座聖衣(ドラゴンクロス)』は童虎の血によって蘇った聖衣(クロス)、その懐かしい弟子の気配のするものを守るように眠りに付き、今日に至るというわけだ。

 

「えーと……『龍神』様でいいですか?」

 

『好きに呼ぶがいい。 自身の名など、とうの昔に忘れて久しい』

 

「それじゃ『龍神』様、実は……」

 

 話を聞き終えたシュウトは早速、この『世界』に迫るハーデスとの聖戦の危機を語る。

 そしてそのために『龍座聖衣(ドラゴンクロス)』を聖域(サンクチュアリ)に譲って欲しいと願ったのだ。

 

『……いいだろう、童虎の守った世界を再び守るため、持っていくがいい』

 

 『龍神』はそう言って、龍座聖衣(ドラゴンクロス)を差し出す。

 

「やったね、シュウ!」

 

「うん、これで任務完了だよ」

 

 無事任務が終わりそうなことにシュウトとフェイトは微笑みながら顔を見合わせる。その時、『龍神』がキャロに向かって言葉を発する。

 

『娘よ……名は何と言う?』

 

「は、はい! キャロ・ル・ルシエです」

 

『そうか……この地に住まう一族最後の子よ、すまなんだ。

 もしワシが目覚めておれば……いや、その昔封じるのではなく滅しておれば、お前の一族は生きていたやもしれん……』

 

「……いえ、龍神様のせいじゃないです」

 

 涙を讃えながら悲しそうに俯くキャロ、そのキャロに目線を合わせようというのか『龍神』は頭の位置を地面まで落として語りかける。

 

『娘よ……お前には大きな力が眠っている。 龍とともにある大きな力が』

 

「力?」

 

『左様。 娘よ、決して渇かぬよう真っ直ぐに育て。

 そして……どうしようもない困難に出会った時は、ワシを呼ぶがいい。

 その時、ワシは何時いかなる時でもお前を助けるために姿を現そう。

 龍の巫女よ……』

 

 優しく語りかける『龍神』に、何のことかわからないキャロは目をパチクリさせるばかりだ。

 それがアルザスを守護する最強の『龍神』との誓約だったのだとキャロが気付くのは、ずっと後のことである……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 聖域(サンクチュアリ)に戻ったシュウトたちは、すぐに報告のために教皇の間へとやってきていた。

 シュウトたちの報告を聞き、セージもハクレイも満足そうに頷く。

 

「2人ともよくやってくれた。

 神話級の魔物を討伐し、聖衣(クロス)の発見……十分な成果だ」

 

「『ル・ルシエ族』を救えなかったことは残念です……」

 

「シュウトよ、あまり自分を責めるな。

 我らは神ではない、出来ぬこともある。

 お前は自らのできることを全うしたのだ」

 

 『ル・ルシエ族』を救えなかったことに自罰的な発言をしたシュウトに、セージが言葉をかける。

 

「シュウト、老師(せんせい)が生きていたというのはまことじゃろうな!?」

 

「はい、間違いなく」

 

 話を聞いた童虎がシュウトに詰め寄る。そんな童虎に苦笑しながら、セージは一端落ち付くようにたしなめる。

 それに童虎はバツ悪そうに下がるが、セージが今度会いに行ってもいいという話をすると童虎はまるで少年のように喜びを露わにした。

 

「これが龍座聖衣(ドラゴンクロス)かぁ……」

 

 話を聞きつけてやって来た快人を始めとした現役の黄金聖闘士(ゴールドセイント)は興奮したように龍座聖衣(ドラゴンクロス)を触っているが、それほど過去の聖戦に詳しくないなのはたち女の子側から見ると、今さら青銅聖衣(ブロンズクロス)で騒いでいる男たちの様子に首を捻っていた。

 やがて報告は進み、唯一生き残ったキャロも聖域(サンクチュアリ)で引き取ることに満場一致で決定し順調に報告は進む。

 そんな中、今回のヒュドラの話をした時に快人がポツリと呟いた。

 

「なーんか引っかかるなぁ……」

 

「どういうこと、快人くん?」

 

 首を捻る快人に、なのはが聞く。

 

「いや、前にも似たような話あっただろ?

 ほら、お前らが倒したエウリュアレ、あれも封印が解けて復活した系のやつだったじゃん。

 あの手の神話級怪物の封印ってのはそれこそウン千年、ウン万年クラスだ。

 それがここ近年にそこらじゅうでポロポロ解けるってのはちょっと出来過ぎてねぇか?」

 

「……つまり快人、お前は『誰かが人為的に各地の神話級怪物の封印を解除している』、と?」

 

「まぁそうなんだけど……冥王軍にとっても神話級怪物も邪魔者だから、冥闘士(スペクター)の連中がそれをやるってのはどうもメリットが少ないような気がしてな」

 

 『敵の敵は味方』という言葉があるが神話級怪物なんて暴れまわる天災のようなものだ。制御できない天災は自分のところに被害を出す可能性もあるし、ハーデスの性格上そう言ったことはしないタイプ、その部下である冥闘士(スペクター)がそれをやるとは思いにくい。そのため快人も『冥闘士(スペクター)陰謀説』を唱えきれないでいる。

 結局のところ、今後も警戒と情報収集に励むことで解散ということになったが、全員の心の中では陰謀めいたものを感じずにはいられなかった……。

 

 




そんなわけで次世代を担う2人目、キャロちゃんさんが登場しましたが……凄い魔改造です。
こちらのキャロちゃんはヴォルテールのかわりに、廬山百龍覇をぶっ放す童虎のお師匠様である龍神様を召喚する『龍神召喚』を使ったりします。
……次世代最強じゃなかろうか、この子?

次回はすずかの提案する聖域強化計画のお話の予定。
では、次回もよろしくお願いします。
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