俺たち転生者 蟹魚復権活動中   作:キューマル式

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久しぶりの更新になりました。

今回は天才すずかさんと、聖闘士星矢においてずっと思っていたことの話です。



第57話 少女、発想する

 ここは聖域(サンクチュアリ)の最重要施設、教皇の間。そこでは今日も、この場の主とも言うべき教皇セージと教皇補佐ハクレイがいる。

 

「うーむ……」

 

「むぅ……」

 

 しかし、今日の2人は何とも言えない難しい顔をしながら手元の書類を見ていた。そんな2人の前には1人の少女がセージたちの反応を今か今かと窺っている。

 そしてひとしきり書類の内容を読み終えたセージが書類から視線を少女へと移した。

 

「この計画だが……本気なのかね、すずか嬢?

 本気でこの計画を実行に移したいと?」

 

「はい!」

 

「うーむ……確かにすごい計画ではあるが……」

 

 セージに問われ少女―――すずかは当然と答えを返す。

 そんなすずかセージはどこか困り顔で顎をさすると、兄であるハクレイにチラリと視線を送るが、ハクレイは「ワシに聞くな」とばかりに肩を竦める。

 そんな時、すずかの傍らに居たシオンがすずかを後押しするようにセージたちへと語りかける。

 

「教皇様たちの疑問ももっともでしょう。始めに相談を受けた私も、同じような気分でした。

 しかし、このアイディアは本当に素晴らしい!

 聖戦まで差し迫った現状です。 ものは試しというだけでも是非やらせていただきたく思います」

 

「ふーむ……」

 

 シオンらしからぬ、幾分興奮した後押しの言葉を聞きセージは再度顎をさすると、決心したように頷いた。

 

「……いいだろう、教皇としてこの計画の実行を許可しよう。

 資材についても、必要な分は好きに使ってもらって構わない。

 ただし自身の学業や生活に決して害を及ぼさぬようにしなさい」

 

「はい!」

 

 セージからの許可に、すずかは花が開くような笑顔で答えると早速と言った風に教皇の間から出ていく。その後を追いシオンも一礼すると教皇の間から出て行った。2人が退出するのを見届けると、セージは傍に控えるハクレイへと話しかける。

 

「この発想と行動力……兄上がすずか嬢を可愛がるのがよく分かります」

 

「そうだろう……と言いたいところだが、今回の『コレ』はさすがにワシでも予想外だ」

 

 そう言って視線を手元の書類に移し、ハクレイはそこに書かれた題名を呟いた。

 

「簡易聖衣(クロス)新造計画か……」

 

 それは雑兵用聖衣(クロス)とも言うべき、量産型聖衣(クロス)を作成しようという計画だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 すずかが量産型聖衣(クロス)を作成しようという発想に至るまでには、しばらく時を遡らなければならない。

 その日の夕方近く、すずかは友人でありパライストラ生徒であるロニス=アルキバとのお茶会を楽しんでいた。ロニスはパライストラの訓練服となっている布の服だけの姿である。

 

「……ん、美味しい」

 

「お菓子もあるよ。 どんどん食べて」

 

 すずかの勧めに菓子をパクつくロニスに、なんだかリスのような小動物へ餌付けしているみたいだとすずかはクスリと笑みを漏らす。そのときすずかは菓子へと伸ばしたロニスの手を見て、顔をしかめた。

 

「ねぇ、ロニスちゃん……手、痛くないの?」

 

 ロニスの手はおよそ少女のものとは思えないくらいに傷だらけだ。

 聖闘士(セイント)の戦いは拳による格闘が基本、そのため聖闘士(セイント)を目指す者が集まるパライストラでは当然ながら拳を鍛え抜くわけだが、彼らの標準装備として配布される革製プロテクターでは手を保護しきれず、手の傷などは当然である。

 

「ん……平気」

 

 傷だらけの手にすずかは心配そうに問うが、とうの本人は気にした様子もなく答えると変わらず菓子をパクつく。その様子にすずかはその話題にはそれ以上触れなかった。

 この話題が再び出てきたのはその日の夜、総司との会話でだった。

 

「えっ、雑兵の人たちってあの装備で聖戦の時も戦うの?」

 

「ああ……」

 

 ベッドの中ですずかが驚きの声を上げ、総司が頷く。

 毎回のようにベッドに潜り込んでくるすずかを指摘することもバカらしく、もはやこの状況に完全に慣れてしまった自分に総司は若干呆れながらもすずかの求めるまま、まるで寝物語のように過去の聖戦などの知識を語っていた最中雑兵の装備の話になり、実戦でも雑兵の装備は布の服と革製プロテクターだったと語った反応がこれだ。

 

「それって凄く危険なんじゃないの?」

 

聖衣(クロス)を纏った聖闘士(セイント)ですら戦死する戦場に出るんだ、危険に決まっている。

 実際、過去の聖戦でも数えきれないほどの雑兵が散った……」

 

 そして総司は比較するように他の軍……ポセイドン軍やハーデス軍の雑兵の話をする。両軍とも雑兵とも言える兵はいるが全員が簡易的なものながら鱗衣(スケイル)冥衣(サープリス)を纏っており、アテナ軍の革製プロテクターとは雲泥の差だ。

 

「過去の聖戦では余ってた聖衣(クロス)を雑兵の人たちに貸してあげるとか、そういうことは出来なかったの?」

 

「冷静に考えてくれ。

 『聖衣(クロス)を纏えない位の小宇宙(コスモ)』だから雑兵なんだ。

 小宇宙(コスモ)のない者の纏う聖衣(クロス)がどんな物かはお前の方が良く知っているだろう?」

 

「それもそうだね。

 それに聖衣(クロス)だって『88』しかないし……」

 

 小宇宙(コスモ)を十分循環させなければ聖衣(クロス)はただの粗悪なプロテクターだ。雑兵が纏っても戦力にはならない。

 それに聖衣(クロス)は最大でも『88』という明確な数的制限がある。何かしらの手段(なのはたちの使う黄金の腕輪など)で小宇宙(コスモ)の問題を無理矢理解決したとしても、雑兵に装備させるなど数が絶対的に足りな過ぎる。

 そんなふうにすずかは考えていたが、意外にもこのことは総司によって否定させられた。

 

「いや、聖衣(クロス)の数が『88』というのはどうかな?」

 

「?

 聖衣(クロス)って全部で『88』なんでしょ?」

 

 聖衣(クロス)が88体というのは常識の話で、すずかも最初の最初に教わっていた。その内容を否定する総司の言葉にすずかは首を捻る。

 

「確かに一般的には聖衣(クロス)は『88』の星座を模した分……と言われているが、これが怪しい。

 有名なところでは鷲座や鶴座は同じ星座をモチーフにしながら『白銀聖衣(シルバークロス)』と『青銅聖衣(ブロンズクロス)』の2種類があるという。同じような事例がチラホラあり、正直ハッキリしない。

 一説には聖衣(クロス)の総数はまさしく『星の数ほど』であり、聖域(サンクチュアリ)が正確に掴んでいるのが『88体』というのが正しいという話もある。

 それに……亜種とも呼べる聖衣(クロス)もある」

 

聖衣(クロス)の亜種?」

 

「『炎熱(フレイム)』や『水晶(クリスタル)』といった星座以外の精霊などをモチーフにしたもののことだ。総数に関してはハッキリしないが、相当数があると思う。

 他にはブルーグラードにいたという『氷戦士(ブルーウォーリアー)』の纏う鎧も聖衣(クロス)の亜種とも言える。『氷戦士(ブルーウォーリアー)』の始祖は海神ポセイドンの監視のために派遣された聖闘士(セイント)がそのまま帰化した者だという説があるくらいだからな。

 そう言った亜種も『聖衣(クロス)』として勘定していいなら、『88』という数は容易く超えられるだろう」

 

 総司の話に、なるほどとすずかは頷く。ようは『どこからどこまでを聖衣(クロス)と考えるかによってその数は変わる』ということだ。

 そして、そんな聖衣(クロス)の亜種の話の中で総司は興味深い、あの聖衣(クロス)の話をした。

 

「亜種の聖衣(クロス)の中で最も有名なのは、やはり『暗黒聖衣(ブラッククロス)』だろうな」

 

「『暗黒聖衣(ブラッククロス)』……いくつか聖域(サンクチュアリ)に保管されてるらしいけど見たことないなぁ。

 話には聞いたことがあるけど、黒い聖衣(クロス)なんだっけ?」

 

「そうだ」

 

 そう言って総司は頷く。

 『暗黒聖衣(ブラッククロス)』……出自不明の謎の黒い聖衣(クロス)で、それは正規の聖衣(クロス)瓜二つの姿をしており、また同一星座の聖衣(クロス)が複数存在(暗黒鳳凰星座(ブラックフェニックス)暗黒龍座(ブラックドラゴン)など)していることも確認されており、その数は相当なものだと推測される。

 一説によれば聖衣(クロス)を模して量産されたもので、黒いのはオリハルコン・ガマニオン・スターダストサンドなどの希少な神秘金属を少なくし、代わりに通常金属を多く織り交ぜたせいで変色しているのでは、とか。

 そのせいか通常の聖衣(クロス)と比べ纏うことは容易だったのかもしれない。実力や素行などのせいで正規の聖闘士(セイント)に成れずに聖域(サンクチュアリ)を離反した暗黒聖闘士(ブラックセイント)たちが自分たちの象徴として纏い、『暗黒聖衣(ブラッククロス)』そのものもあまり良い評判はない。

 

「とにかく『聖衣(クロス)』の総数に関しては、実は相当数があるというわけだ」

 

 そう考えたら、今聖域(サンクチュアリ)が必死で行っている次元世界各地での聖衣(クロス)発見のための調査など、何時になったら終わることやら……そう言って総司は話を締めくくると目を瞑り、本格的に寝に入った。

 その隣ですずかも目を瞑る。だがすずかとしては先ほどの話、特に『暗黒聖衣(ブラッククロス)』についてが頭の中でずっとまわり続けていたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翌日からの、すずかの行動は早かった。

 

「『暗黒聖衣(ブラッククロス)』の修復をしてみたい?」

 

「はい……」

 

 翌日、聖衣(クロス)修復の修行の際にすずかはシオンにそう願い出ていた。

 聖域(サンクチュアリ)には今までの聖衣(クロス)回収の中で発見された『暗黒聖衣(ブラッククロス)』の数点が保管されているが、誰もそれに触ることは無かった。

 過去を知る聖域(サンクチュアリ)上層部や現役黄金聖闘士(ゴールドセイント)からも『暗黒聖衣(ブラッククロス)』にいい印象などあろうはずもなく、かといって野放しにはできないという理由で研究や修理などされることなく保管されている。

 

「すずか、何故そんなことを?」

 

「純粋に興味です。

 私は聖衣(クロス)なら黄金聖衣(ゴールドクロス)から青銅聖衣(ブロンズクロス)まで修復したことがありますけど、暗黒聖衣(ブラッククロス)を修復したことは無いので……」

 

 その言葉に、シオンは腕を組んで少し考える。

 聖衣(クロス)の修復は非常にデリケートなものだ。聖衣(クロス)の修復中には聖衣(クロス)の記憶した『歴史』が見えることがあるのだがそれが問題だ。

 シオンもその昔、その光景を芝居でも楽しむように陶酔したことがあり、その『歴史』の生々しさはよく知っているし、すずかに見せたこともある。それが『暗黒聖衣(ブラッククロス)』であったのなら、聖衣(クロス)の知る『歴史』は正直に言ってあまりよろしいものではない。

 シオンとしても可愛がっているすずかにそんなものを見せて悪影響を与えたくないため今まで『暗黒聖衣(ブラッククロス)』そのものの話題を避けていたのだが、すずかの方から言いだしてくるとは意外だった。

 確かにすずかの言う様に聖衣(クロス)修復師としての向上心なら、それを無碍にするわけにもいかないとシオンも思い至る。

 

「いいだろう。 ただし、気分が悪くなったらすぐに作業をやめるように」

 

「はい」

 

 そう言ってシオンが持ってきたものは聖域(サンクチュアリ)で保管されていた暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)であった。全体的にひび割れているが、損傷状態は比較的軽い。これならば血液は必要ないだろう。

 早速、破損した左アームを手に取り、スターダストサンドとガマニオンを振るうとすずかは金槌を振り下ろした。

 

「!?」

 

 その途端、強烈なヴィジョンがすずかの脳裏に飛び込んでくる。それは暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)が知る『歴史』、その光景は凄惨なものだ。

 力のままに暴虐を繰り返す男に、無慈悲に刈り取られていく命の光景が鮮明にすずかへと流れ込んできた。その勢いはすずかが金槌を振るえば振るうほどより強力になる。

 それはまるで暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)が修理されることを拒んでいるかのようだった。

 だが、苦しそうに顔を歪めながらもすずかは金槌を止めない。

 それは何だか暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)が、手負いの獣のように思えたからだ。

 

「大丈夫、大丈夫……。

 あなたは何も悪くなんかない。 今見せた『歴史』だって、あなたを悪用した昔の人たちの罪、あなたには何の罪もないよ。

 だからお願い、私にあなたを直させて」

 

 すずかはそんな風に諭すように囁きながら修理を続ける。

 聖衣(クロス)は結局のところ、ただの道具だ。それ自身に善悪はない。

 その善悪は使う者の倫理観のみに左右される。

 そのため纏いやすく、そのために悪い人間に象徴とされ悪事の原動力となった『暗黒聖衣(ブラッククロス)』に対して、すずかは同情的だったのである。

 そのすずかの声が聞こえたのか、暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)が見せる『歴史』がゆっくりとすずかの脳裏から消えていく。

 

「ありがとう、分かってくれたんだね……」

 

 そんな風に微笑みながらすずかは暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)を手際よく修理していく。

 その光景を見ながらシオンは改めてすずかの才能に震えた。

 

(まさしくこの子は、すべての聖衣(クロス)から愛される星の元に産まれた子だ)

 

 聖衣(クロス)は道具だが、意思を持っている。聖衣(クロス)の修理には技術だけでなく彼らに愛されることも重要だ。

 その意味で通常の聖衣(クロス)だけではなく、『暗黒聖衣(ブラッククロス)』とまで心を通わす、すずかの聖衣(クロス)修復師としての底知れぬ才気と優しさにシオンは自分が彼女の師でいられる時間はそう長くないかもしれない、と心の中でひとりごちた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 シオンも席をはずし、暗黒蠅座(ブラックムスカ)聖衣(クロス)の修復に区切りがついたところですずかは額の汗を拭うと呟いた。

 

「……確かに、神秘金属の量が普通の聖衣(クロス)よりも少ない」

 

 すずかが暗黒聖衣(ブラッククロス)の修理を願い出た理由、それは総司の話していた内容を自分で確認するためだった。

 実際に自分で修理し、その構成素材の神秘金属の含有量が通常の聖衣(クロス)よりも少ないことを確認する。それでも小宇宙(コスモ)増幅効果や防御力上昇、重量軽減といった効力は無くなっていない。

 

「これなら……いけるかも!」

 

 すずかの考えは『暗黒聖衣(ブラッククロス)』を参考に、雑兵のための簡易聖衣(クロス)を製造することだった。

 聖戦は文字通りの総力戦、雑兵だって聖域(サンクチュアリ)の重要な戦力である。

 雑兵は一般的に雑魚のように思われているが実は違う。聖闘士(セイント)の候補として修行を積み、僅かながらに目覚めた小宇宙(コスモ)と厳しい修行で培った身体能力は目を見張るものがある。原作におけるカシオスや、LCにおいてのちに牡牛座(タウラス)となるテネオの聖戦時代などを見れば分かるが、その力は大岩を動かし、その大岩を砕くほどだ。雑兵も一般から見れば十分に『超人』の領域の存在なのである。

 だからこそ、過去の聖戦の話を聞き、聖戦でも革製プロテクターで戦わざる得ないという話を聞いて、彼らの生存性を高める防具の作成を思いついたのだ。

 そこで参考としようとしたのが『暗黒聖衣(ブラッククロス)』である。

 雑兵が扱うなら、何より『纏えること』が重要になる。そこで要求小宇宙(コスモ)量が少なく、それでも小宇宙(コスモ)増幅効果や防御力上昇、重量軽減といった聖衣(クロス)特有の効果を保持している『暗黒聖衣(ブラッククロス)』を参考にしようとしたのだ。

 『暗黒聖衣(ブラッククロス)』ほどの性能は無くても聖衣(クロス)として最低限の機能を備えた、『雑兵のための聖衣(クロス)』……それがすずかの考えた簡易聖衣(クロス)のコンセプトである。

 

「……よし!」

 

 思い立ったが吉日である。

 その日の夜には総司を巻き込んで計画の素案を作成、修正を繰り返し、しばらくの後にはそれをシオンに見せていた。

 その計画を見せられたシオンの衝撃は並大抵ではなかった。

 

「『聖衣(クロス)』を……創るだと?」

 

「『聖衣(クロス)』といっても本格的なものじゃなく本当に簡単な、雑兵の人たちのための防具ですよ、シオンさま」

 

 そうニコニコと語るすずかに、シオンは唖然とする。聖衣(クロス)新造……そんなことはシオン自身、考えたこともなかったからだ。

 スカリエッティたちの開発した『鋼鉄聖衣(スチールクロス)』は、『聖衣(クロス)』の名前を冠してはいるが実際は魔導士の魔法強化のための外部ユニットでしかない。それとは違い、本当の意味で小宇宙(コスモ)を使うものに対応した『聖衣(クロス)』を新造しようなど、恐らくすずか以外の誰も考えたことはないだろう。

 シオンがそれらを考えなかった理由はいくつかある。

 まず一つは『聖衣(クロス)』に対して絶対不可侵なほどの深い神性を抱いていたことだ。『聖衣(クロス)』は神話の時代から伝わる、神の技術の産物。それを人である自分たちが造ることは不可能だと、最初から考えていたのだ。

 しかしすずかはクリスマスを祝い、年末は除夜の鐘を聞き新年には神社に参拝するという、現代的な日本人だ。良いか悪いか、『神』に対する想いはそこまで深くない。そのため『聖衣(クロス)』についても『道具』として冷静に見れていたのである。

 そしてもう一つ、シオンがそれらを考えなかった理由は単純に材料の問題だ。

 元々聖衣(クロス)修復に必要なオリハルコン・ガマニオン・スターダストサンドなどの神秘金属はその量が極端に少ない。そのため、それら神秘金属を大量消費することが前提である聖衣(クロス)の新造など、物理的に不可能だったのである。

 しかし、今の聖域(サンクチュアリ)は女神さまたちのおかげでそれらの鉱物資源に関してはそれこそ腐るほどある。

 まさにこの『世界』の、すずかだからこその発想であった。

 

「どうでしょう、シオンさま……?」

 

「……」

 

 上目づかいに尋ねるすずかに、シオンはしばし無言だ。それも、シオンは心の中で興奮に打ち震えていた。

 

(この子は……本物の天才だ!

 間違いなく、聖域(サンクチュアリ)に無くてはならない子だ!!)

 

 そんな才気溢れるすずかを指導する立場にいるという今の運命にシオンは感謝すると、その書類を片手に立ちあがった。

 

「行くぞ、すずか。 これだけのこと、行うには教皇様たちの許可が必要になる」

 

「え、それじゃ……」

 

「凄い……このアイディアは本当に凄いぞ、すずか!

 すぐにでも教皇様たちからの許可を貰わねば!」

 

「は、はい!」

 

 シオンも聖衣(クロス)修復師という、いわゆる技術者の1人だ。すずかのアイディアに思うところがあったのか、幾分興奮気味である。

 

 

 こうして教皇の認可を受け始まった『聖衣(クロス)新造プロジェクト』は金属配分に加工など様々な試行錯誤を繰り返し、1年の後には一つの結果を生み出す。

 それが雑兵用簡易聖衣(クロス)……『擬似聖衣(デミクロス)』の誕生である。

 ヘルメット・手甲・胸当てという簡素な造りながら、ごく微量の小宇宙(コスモ)増幅効果や防御力上昇、重量軽減といった聖衣(クロス)特有の効果を保持したそれは、雑兵の戦力化・生存性の上昇に大いに貢献することになるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ふむ……」

 

 セージは教皇の間に併設された書斎で各種種類に目を通す。様々な報告を見ながら思案するセージの元に、ハクレイが書類を片手にやってきた。

 

「兄上、どうですかな? すずか嬢の造った『擬似聖衣(デミクロス)』の方は?」

 

「うむ。 あれは凄い。

 今までの革製プロテクターなどとは比較にならん防御力の上、攻撃力も問題ない。

 さすがはすずか嬢だ、ワシの見込んだだけのことはある。

 難を言えば通常金属を多量に混ぜたために、真っ黒になっていることか。

 暗黒聖衣(ブラッククロス)より黒く、縁起が悪いわい」

 

「そこは後で塗装でもいたしましょう」

 

 まるで老人の孫自慢のようにすずかを誇るハクレイに、セージは苦笑する。しかしセージがなのはを語る時と今のハクレイの姿はまるで同じであり、そのあたり兄弟ゆえに血は争えないようだ。

 

「……聖域(サンクチュアリ)は変わりましたなぁ、兄上」

 

「うむ。 ワシらの聖戦の時とはまるで違う。

 より良く未来に進もうとする意思……これが『次代』というものなのだろうな」

 

 ハクレイの言葉に、セージはしみじみと頷いた。

 

「と、そう言えばまた管理局から例の話が来ておったな。

 どうするつもりだ?」

 

 管理局からの話というのは、近々卒業となるパライストラ一期生たちがどれほどの強さを持ったのか見せろという要請だ。

 あの『雪上会戦』以後、聖域(サンクチュアリ)をあなどる様な者も管理局にはおり、何かにつけては聖域(サンクチュアリ)にケチをつけては抗議を繰り返している輩もいる。

 今回の話もそう言った『反聖域(サンクチュアリ)勢力』からの、聖域(サンクチュアリ)不要論の一環だ。未だに魔法至上主義を唱え、聖闘士(セイント)無しで破滅の予言にある『聖戦』を超えられると信じている者がいるのである。

 セージたちもそう言ったふざけた話は無視していたし、基本的に神秘主義的な聖域(サンクチュアリ)に『反聖域(サンクチュアリ)勢力』側も増長していた訳なのだが……。

 

「それですが……快人の案を採用しようかと考えています」

 

「ほぅ、それでは……」

 

「管理局を招き……パライストラ一期生による『銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)』を開催します!」

 

 その言葉にハクレイが笑う。

 『反聖域(サンクチュアリ)勢力』は聖域(サンクチュアリ)の力を不信がっている、なら出し惜しみせず盛大に見せつけてやればいい……そう言って快人は『銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)』の開催を提案したのだ。

 

「やれやれ……随分と派手な卒業式じゃな」

 

「派手で無くては。

 少なくとも冥闘士(スペクター)に着こうと考える者を出さぬよう、我ら聖域(サンクチュアリ)の力を見せつけてやりましょう」

 

 かくしてパライストラ一期生たちによる格闘大会、『銀河戦争(ギャラクシアンウォーズ)』の開催が決定したのである……。

 

 

 




そんなわけで聖闘士星矢原作でずっと思っていた、アテナ軍の雑兵待遇悪すぎの改善でした。
あと、この物語での聖衣についての見解です。
正直、聖衣と聖闘士が『88』ではΩのパライストラなど開校できないと思いますので、こんな解釈になりました。
あと暗黒聖衣の話題について。暗黒聖衣って使っている人間が悪いだけで不憫だなぁと思います。正直、性能は悪くないのに。
暗黒聖闘士の話題はまた今度。

次回から数度に分けてこの『聖域飛翔編』のキモ、オリジナル聖闘士たちの卒業式とも言える『銀河戦争編』に突入します。

次回もよろしくお願いします。
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