いろいろなところにネタ満載、学校内での彼らの日々をお楽しみください。
最後に……。
この作品に卑猥は一切ない、いいね?
迫る殺気と突き刺すような視線に、快人は諦めを込めたようなため息と共に呟く。
「誰の言葉だったけか?
『この世はこんなはずじゃなかったばっかりだ』ってのは。
ホント、この世界はこんなはずじゃなかったばっかりだよ……」
殺気と視線の主たちを、快人はよく知っている。つい昨日まで同じものを夢見て共に歩んできた同胞たちだ。
その同胞たちからの殺意を、快人は自らへの罰だと潔く受け入れる。
「本当に……どうしてこんなことに……」
そしてその殺気が自らに飛びかかるその瞬間、快人はその言葉をまるで懺悔のように呟いたのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
ことの発端は一月以上前まで遡る。
雨降るその日、体育の授業が自習になり教室には男子のみが残っていた。
「テメェらよく聞け! ついに……ついにこの計画を実行に移す時が来た!!」
「「「「おおおおお!!」」」」
その教室には異常なまでの熱気が籠り、快人はその教室の黒板前で熱弁をふるう。その声に答えるように男たちから歓声が上がった。
さて、状況を説明する前に、まずは中等部へと進学した快人たちの学校での評価を説明しよう。
快人・シュウト・大悟・総司・シャウラの5人は同じクラスに在籍していた。この5人への男子からの評価は、最初は散々なものであった。というのもこの5人、学校一の美少女チームであるなのは・フェイト・はやて・すずか・アリサといつでも一緒にいるのである。嫉妬にかられた男子からは、それはもう嫉妬がこれでもかと籠った『リア充死ね!』コールの連発である。
しかしすでに中学に入学してから1年以上、この5人との付き合いもそれぐらいに長くなるとそれも変わってくる。快人や大悟は裏表なく接してくるし、少女たちとの付き合いを鼻にかけたりはしない。シュウトや総司やシャウラは女子から絶大な人気があるため、それに喧嘩を売るのは得策ではない。そんな風に人柄や損得を男子たちが賢く考えた結果、5人は特に問題なくクラスに馴染んでいる。
特に快人はクラスのムードメーカーとも言える人物で、クラスでも中心的な人物だ。その快人が今、男子たちの『夢』を形にせんとしている。
快人は黒板に『文化祭』とデカデカと書くと、バンと黒板を叩く。
「今日、俺たちの文化祭での出し物を決めることになるわけだが……田中! 文化祭とは何か言ってみろ!!」
「ハッ! 祭りにかこつけて多少の無茶が許される時であります!!」
突然指名された田中くん(出席番号8番)の回答に快人は満足げに頷く。
「そう、その通りだ!
祭りなら、祭りならと普通じゃできないことができる夢の時間だ!
そして……これを機に俺たちはこの計画を実行に移す!!」
そして快人は再び黒板にその文字を書いた。
その文字とは……メイド!!
「ここに我ら男たちの夢、『全女子メイド化計画』を実行に移す!!」
「「「「ウヲォォォォォォ!!」」」」
快人の宣言に、男たちの歓声が木霊した。
「文化祭の出し物を『メイド喫茶』にして女どもに無理なく、強制的にメイド服を着せる!
よく考えろ、綺麗どころいっぱいのウチのクラスで、メイド喫茶をやることの意味を!
これはもはや
そう、俺たちはこの地上に
「う、美しすぎます!」
「神を愛するように、お前のことを愛してるぅ!!」
「「「「
鳴り止まぬ
そんな同胞の声を手で制すると快人は先を続ける。
「だがこの計画の遂行のためにはここにいる全員の協力が必要となる!
辛い戦いとなろう。
だが想像しろ、その先にある絶景を!!
気になるあの子の超ミニメイド服!
短いスカート丈を気にしながらモジモジしつつ接客する気になるあの子!
顔を赤くし、手持ちのトレーで微妙にお尻を隠しながら歩くその姿を!!」
「中野さーーん!!」
「やべっ、俺これが終わったら福沢さんに告白してくる!
俺のために一生メイド服を着てくださいって!!」
「ぼ、僕は勇気をだして高町さんに告白するぞ!」
「はははっ、みんなやる気があって結構!
だが宮沢、テメェはダメだ。
なのはに告ろうとか、ブチ殺すぞ
快人はやる気を見せる同胞たち満足げながら、ドサクサに紛れてなのはに告白しようとか口走った男に殺意を向けた。
そんな熱い男たちとは明らかに温度差……というか呆れ返った集団は教室の隅で頭を抱える。
「……シュウト、お前の兄だろ?
何とかしろ」
「……それはデモンローズを千本くらい突き刺せばいいのかな?」
「それでは足りないだろう。
シャウラ、スカーレットニードルを15発撃ち込んで止めてこい」
「それで止まるかなぁ?
僕、自信ないんだけど……」
言わずと知れたシュウト・大悟・総司・シャウラの4人である。
そんな4人とは裏腹に、快人の暴走は止まらない。
「メイド服、それは古来より存在する夢の装束!
メイドというその名はメイデン(処女)に由来し、汚れ無き清らかな乙女が神に仕えるかの如くご主人様に仕える者を呼び表す称号!
古事記にもそう記されているし、これはもはや常識!
そのメイドの神聖な装束を女どもに着せること、これは男たちにとって絶対真理へと至る戦い、すなわち『聖戦』なのだ!!」
なんとも酷い聖戦もあったものである。快人のテンションに否応なく男たちのボルテージは上がるのだが、それが突然潮を引くように消えて行く。
しかし快人は気付かずに熱弁をふるい続ける。
「そして我らは『聖戦』に命を賭ける戦士!
恐れるな、立てよ国民! 今こそこの計画を完遂し夢の
チョンチョン……
「具体的にはこう……超ミニメイドなのはにフィーヒヒ、ヨイデワ・ナイカ・パッション重点みたいな……」
チョンチョン……
「なんだよおい、せっかくいい所……」
ガシィィィィ!!
肩を叩かれ振り返った快人の頭部にガッチリと指が喰い込む。その細い指のどこにそんな力があるのか、頭からギチギチと骨のきしむ音をかなでさせるアイアンクローを仕掛ける美少女は、ものすごくイイ笑顔で言い放った。
「ドーモ。 カイト=サン。 ナノハ、デス」
「アイエエエエ!? ナノハ!? ナノハナンデェェェェ!?」
突如として襲い来る重篤な
見れば未だ体育の授業中であるはずの女子たちがいつの間にか教室に戻ってきていた。
ウカツ!
「早めに終わって自習ってことになったんだけど……快人くんは一体何をやってるのかな? かな?」
「ちょ、ちょっと待て、ナノハ=サン!
何か頭から聞こえちゃいけない系の音がしてるぅ!?
このマンリキめいた手をヤメロー! 頭がネギトロめいた何かになっちゃうから!!
それにアイサツ前の攻撃はスゴイ・シツレイ! 今すぐ解放すべし!?」
「残念、アイサツ前のアンブッシュ(不意打ち)も一回に限り許されるんだよ。
古事記にもそう記されてるし、もはやこれは常識。
そういうわけでインタビュー(拷問)続行。
で、何をしてるのかな? かな?」
言いながらギリギリと力を込めるなのはに、快人はたまらず叫ぶ。
「シュウト! 兄を、この兄を助けろぉ!!」
快人の必死の呼びかけに、しかしシュウトは肩を竦めて返す。
「我に余剰戦力なし、いさぎよくそこで戦死せよ。
言いたいことがあれば、いずれヴァルハラで聞くよ」
「テメェ、コラッ!
ああ、いいだろう! こうなったら死んでやる!
先に死んだらこっちの方が先達だ、ヴァルハラではせいぜい雑用でこき使ってやるから覚悟しやがれよ!!」
弟に華麗に見捨てられた快人が喚く。そしてなのははそのままいつも通りに死刑を宣告した。
「まぁとりあえずハイクを詠んでよ、カイシャクしてあげるから。
そして……いよいよもって 死 ぬ が よ い」
「ま、まことに恐悦至極!!? サヨナラ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~
しめやかに爆発四散寸前でのびた快人を尻目に、教室は一触即発の様相を呈していた。
「ホント、このバカどもは私たちのいない間に何やってんのよ!」
「「「そうよそうよ!!」」」
アリサが男たちを睨みながら吠えると、女子たちが同調して非難の声が上がる。
「そやな。
クラスの文化祭の出し物なんやし、私ら女の子いないところでコソコソこういうことするのはどうなん?」
「そうだよ。 勝手に決めようとするなんてフェアじゃないよ」
アリサの声に同意し、はやてが呆れ顔で、フェイトはどこか蔑むような視線で男たちを見やり、その様子に男子たちが竦みあがる。
女は暴力や怒鳴り声を使わなくても男を竦みあがらせる不思議な威圧感を放てる。その威圧感に、先ほどまでの熱狂はどこへやら、男たちの戦意は折れかけていた。
だが、そこに声が響く。
「ええぃい! 男たちよ、恐れるな!!」
「あ、復活した」
先ほどまで教室の隅でサ○バ○マンに自爆されたヤ○チャ氏の如くのびていた快人が復活し、男たちに檄を飛ばす。
「民主主義に一騎当千は無い!
アリサだろうがなんだろうが、1人は1票!
恐れるな、今が戦う時だ!!
この戦いに勝利し『メイド喫茶』を! 俺たちの
その言葉に、再び男たちに熱が戻る。
「そ、そうだ! 多数決なら!!」
「チャンスはある!」
「そうだ、みんなやるぞ!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
男たちが熱に浮かされたように団結していく姿に、アリサは呆れ顔で隣のなのはに言う。
「……詐欺師とか新興宗教の教祖とかが合ってるんじゃないの、あいつ?
よかったわね、なのは。
あんた将来は新興宗教の女神様になれそうよ」
「冗談でもよしてよ、アリサちゃん」
親友のありがたい言葉になのはは頭を抱える。
「うるせぇよ。
それより女子ども、文化祭の出し物については多数決だ。
文句はねぇだろうな?」
「いいわよ。 やってみればいいじゃない!」
「よし。 それじゃ多数決だ。
文化祭の出し物『メイド喫茶』に賛成のやつは挙手!!」
その言葉を聞きながら、アリサは自分たちの勝ちを疑っていなかった。
このクラスの男女比は17:15、数の上では男子の方が2名ほど多いがその男子の中にはシュウト・大悟・総司・シャウラがいる。
1人でも挙手しなければその段階で同数、2人挙手しなければその段階で反対が決定する。結局、あの4人が全員『メイド喫茶』に賛成しない限りはアリサたち女子サイドの勝ちは間違いないのだ。
まさかこんなバカなことに4人全員が同調する訳が無い……そうアリサは考えていたのだが……。
「なっ!?」
何と男子全員挙手、シュウト・大悟・総司・シャウラの全員が『メイド喫茶』賛成に挙手していたのだ。
さすがにこれは予想外らしく、女子一同目が点である。
そんな女子たちを前に勝ち誇るようにニヤニヤ笑う快人に、アリサは憎々しげに言った。
「……随分、用意周到じゃない。
一体どうやってあの4人を悪だくみに加担させたのよ?」
「人聞きの悪い。
誠心誠意、真心をこめて『お話』しただけだぜ」
快人は日頃飄々としているが、頭の回る男だ。だからこそ、快人は事前にシュウト・大悟・シャウラ・総司が自分の味方に付くように根回しをしていたのである。
以下はその根回しの風景だ。
~~『シュウトの場合』~~
「弟よ、この兄に協力しろぉ!」
「いや、なんでボクが『メイド喫茶』なんかに?」
「お前だってフェイトのメイド姿とか見たいだろ?」
「そんなの、ボクが頼んだらフェイトはいつだって着てくれるよ」
「……お前、一度本当に爆発しろよ。わりとマジで。
とにかく、100年に一度くらい兄の言うことを素直に聞きやがれ」
「それ、この間も聞かなかったけ?
もう100年は兄さんの頼み聞かなくていいはずなんだけど……」
「お前そんな事ばっか言ってるとフェイトとのデート写真撮って学校やら
「……死ぬ? 兄さん」
ただいま蟹魚
「とにかく! 協力しろよ!
いいな!」
「はいはい、わかったよ……」
心底呆れられながらも快人はシュウトの協力を取り付けた。
~~『大悟の場合』~~
「『メイド喫茶』なぁ……」
「なぁ大悟、お前だってはやての可愛い格好みれるんだから悪い話じゃねぇだろ?」
「それはまぁ、そうだが……」
「それに、これははやてのためでもあるんだぜ」
「はやての?」
「ほら、あいつ前は足関係で昔学校とか来れてなかっただろ?
だから学校行ける様になってからは学校行事とか本気で楽しみにするじゃん。
これならみんなでワイワイキャアキャアやりながら楽しむ、いい思い出になるぜ」
「はやてのためか……」
「そうそう。
『メイド服』なんてこういう機会でないと着ること無いんだろうし、いい思い出になるぜぇ」
「……そうか、そうだな。
はやてのためだというならいいだろう、協力しよう!」
「おう、ありがとよ大悟!」
(うわぁ、チョロい……。 まるで成長してねぇよ、こいつ。
『はやてのため』って言葉に弱すぎだろ、おい)
うまく大悟を説得できたことにほくそ笑みながら、心の中では大悟のチョロさに一抹の不安を覚える快人だった。
~~『シャウラの場合』~~
「というわけでシャウラ、協力してくれ」
「え、でも……」
「なぁ、シャウラ。 俺は別段悪いことしようって訳じゃない。
ただちょっと文化祭の出し物を『メイド喫茶』にしようってだけだ。
それ、何か悪いことなのか?」
「そんなことないけど……勝手にこんな風に進めたら後でアリサちゃん怒らないかな?」
「いいか、お前の家にもメイドさんはいるだろ。
メイドさんの服、お前はどう思う? 変な服か?」
「そんなことないよ。 可愛い服だよ」
「じゃあ次にアリサはどう思う? 可愛くないか?」
「アリサちゃん? それは当然、可愛いよ」
「よし、それじゃ考えてみろ。
この『メイド喫茶』は可愛いアリサが、可愛い服で着飾るものだ。
可愛いと可愛いが合わさり最強に見える……感謝されこそすれ、文句はないはずだぞ?」
「そう……かなぁ? そういうものなのかなぁ?」
「ああ、もう! 煮え切らないやつだな!
とにかく協力しろよ! いいな!!」
「は、はいぃぃぃ!!」
洗脳じみた発言で頭を捻っていたシャウラを、半ば強引に協力者に仕立て上げた快人であった……。
~~『総司の場合』~~
「……何だ?」
「お前はグダグダ言ったところで駄目だろうからな、もう速攻で手札を切るぜ。
これ、なーんだ?」
そう言って快人の取り出した物、それはすずかの写真だ。しかも指でスクール水着を直している瞬間という、ベストショットな写真である。すずかの視線はあらぬ方向へ向いており、すずかがそのカメラの存在を知っているようには見えない。
それを見た総司は目を瞑ってトントンと自分の額を数度叩く。
そして……。
「よし。 死ね!」
「おい、ちょっと待……」
ただいま大惨事蟹双子
「……なるほど、そういうすずかの隠し撮り写真が学校で出回っていると?
で、お前に協力すればその出所の情報を提供するというわけか」
「お前なぁ……もう少し話を……」
「仮に逆の立場で高町なのはの写真が出回っているとして、お前は理性的に会話できるのか?」
「うんにゃ、自信ねぇな」
「……まぁいい。 お前の提案、乗ってやる」
「うしっ! それじゃ交渉成立だな」
かくして、最難関と思われた総司の協力を取り付けた快人。
翌日、とある男子生徒が行方不明になり後日保護。その際、男子生徒は何かに怯える様に「異次元の狂気の世界を見た」と訳のわからないことを繰り返したという……。
……と、このように事前根回しを丹念に行っていた快人に隙はなかったのである。
「さて、そんじゃ文句無いよな? 何たって多数決の結果だもんな。
ビバ、民主主義!」
「くっ!」
ニヤニヤ笑う快人を憎々しげに見つめるアリサであるが、確かにクラスでの公平な多数決の結果では拒否のしようもない。
クラスの女子たちがアリサのことを固唾を飲んで見つめる中、それまで無言だったすずかが動いた。
「わかったよ、快人くん」
「ちょっと、すずか!」
いきなりのすずかの肯定にアリサは声を荒げるが、それを何も言うなという風に首を振ると、すずかは続けて快人に話しかける。
「確かに多数決の結果だもん、しょうがないよ。
でも……『メイド喫茶』だけじゃ納得できないよ」
「? どういうことだ?」
すずかのもの言いに首を傾げる快人。
「だって、これだと私たち女の子ばっかり働くような内容になるじゃない。
それじゃ幾らなんでも不公平だよ」
「それは……確かにそうだな」
「そこでなんだけど……『メイド喫茶』じゃなくて、『メイド・執事喫茶』にしようよ。
それだったら、男子も女子も公平に当日に仕事があると思うよ」
「男にも執事姿で働けってことか……おうっ、いいぞ!
確かに不公平だし、メイド喫茶が通るんだったら俺たち何でもOKだぜ!!」
「ふふふっ……それじゃ文化祭の出し物は『メイド・執事喫茶』だね。
あ、衣装については私に任せて。
ほら、採寸とかあるから男の子にはちょっと知られたくないし……」
「そっか、何から何まで悪いな」
「いいんだよ、だって文化祭……『お祭り』だもんね。
ちょっとぐらい羽目を外してもいいときだものね」
そんな風にすずかは微笑む。そして、快人は男たちへと勝利宣言をした。
「野郎ども、俺たちの夢が、楽園が、約束されたぞぉぉぉぉぉ!!!」
「「「「「ウヲォォォォォォォ!!!」」」」」
「「「「「
男たちの鳴り止まぬ歓声とは対照的に、少女たちは次々にすずかに詰め寄っていた。
「ちょっとすずか。 なんで勝手に……」
「アリサちゃん、どう言っても多数決の結果なんだから仕方ないよ」
「でも、だからって……」
その時、総司だけは気付いていた。すずかが『ニヤソ』と嗤ったのを。
『ニヤリ』ではない、『ニヤソ』である。
この時点で、総司は何やらギリギリとした頭痛を感じていた。
そして、そんなすずかから何やら耳打ちされた女子たちは一様に目を見開き、そして今度は心底憐れむように熱狂する男たちを見る。
「……」
もうその段階で、何か良くないことが決定したことを確信した総司は椅子に深々と腰掛け、頭を抱えながら目を瞑ったのである……。
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その翌日から、文化祭への準備は始まった。
ありていに言えば、翌日から男たちはクラス女子の奴隷であった。
些細なことから力仕事、文化祭に必要なありとあらゆる厄介事を女子側は男どもにブン投げたのである。
「蟹名く~ん、これよろしく」
「はい、ただいま!」
「あ、こっちもね」
「はいはい、今行く!」
それでも男たちは誰も文句は言わなかった。何故ならこの地獄の先には、綺麗どころたっぷりの我がクラス女子のメイド姿を拝めるという『楽園』が待っているのだ。
その『楽園』……メイド・執事喫茶の成功のためになら、奴隷だろうと何だろうともう甘んじて受ける。
「「「「「すべては『楽園』のため!!」」」」」
それを合言葉に、快人を筆頭に男たちは身を粉にして働いた。
すずかから見せられたメイド服の可愛いデザインも大きい。それを着た女子たちの姿を想像し期待に胸を膨らませ明日への活力にすると、男たちは日々を全力で駆け抜ける。その駆け抜けた先が、阿鼻叫喚の『地獄』だとは露とも知らずに……。
そして文化祭前日……ついに『地獄』の釜が開いた……。
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「……え?」
目の前の光景が信じられず、男たちは手の中に視線を落とす。
文化祭前日、衣装合わせということで全員が当日の衣装に着替えることになったとき、その地獄は目の前に現れたのである。
「はい、これ」
そう言ってすずかたちから渡された衣装に男たちは目が点になる。
それは黒と白、優雅なドレープで飾られたスカートに白のカチューシャ……それは男たちの目指した楽園、まごうことなく『メイド服』であった。
だが……それが何故か、男たちの手の中にある。
「あのー、すずかさん?」
「なぁに?」
「何で……我々男に『メイド服』が配られるんでせうか?」
嫌な予感でダラダラと汗を流す快人が問うと、いつもと変わらぬニコニコ顔ですずかは答えた。
「? みんなの衣装だからだよ?
サイズ、合ってるよね?」
そう言って指差すのは大悟に渡されたメイド服、すずかの言う通り大悟の身体に合わせてかなりでかく、そして何故か仮面が付属されていた。
「いやいや! 待て、落ちつけ!
何で、俺たち男にメイド服が配られてんだよ!!
男は執事服のはずだろ!!」
そう言って地団駄を踏む快人に、すずかは『ニヤソ』と嗤いながら答えた。
「えー、でも私、一度でも『男の子が執事服、女の子がメイド服を着る』なんて言ったけ?
『メイド・執事喫茶』にしようとは言ったけど、どっちがどの衣装着るなんて私たち女の子は一言も言っていないよ?」
その言葉に、男たちが全員膝から崩れ落ちる。
そう、最初からすずかたち女子はメイド服を着る気はなく、『自分たちは執事服で男装、男たちはメイド服で女装』させて『メイド・執事喫茶』をやろうとしていたのである。
そうとは知らず『メイド服』姿見たさに、男たちは今日までまんまと馬車馬のようにこき使われてきたということだ。
「お前ら……楽しいかよ!?
俺たちの……男たちの夢を踏みにじって楽しいかよ!!」
快人の呪詛の如き声。快人はそれこそ慟哭組もかくやと言うレベルでマジ泣きであった。
そんな快人に、すずかはまさに天使のような悪魔の笑顔で答える。
「うん、とっても!」
「……」
その言葉にガクリと力尽きる快人だが、それだけでは終わらなかった。
「快人ぉぉぉぉ……」
地獄の底から響くような呪詛の声が聞こえる。半分亡者のように成りかけた男たちがその嘆きのままに快人へと詰め寄っていく。
「ちょ、ちょっと待てみんな!
話せば、話せば分かる!!」
「「「「「問答無用!!」」」」」
「ギャァァァァァァァ!!」
断末魔の声と共に男たちの怨嗟の声に呑まれる快人だが、それだけではもちろん終わらない。
「お、弟よ。 落ちつけ。そしてその薔薇を向けるな。
な?」
「……ボクに兄なんていないね」
「おい大悟、そんなに殺気立ってちゃブルって落ちついて話もできねぇ。
とりあえず落ち着いて俺の話を聞け。 OK?」
「OK!」
ズドン!
「ちょ!?
お前『OK』とか言いながらグレートホーンぶっ放すな!」
「……」
「シャウラ、なんかしゃべってくれ!
無言は本気で怖ぇから!」
「人間って……なんで『痛覚』を持って産まれてくるんだろうね?」
「喋ったと思ったら何か途方もなく怖いことを言ってらっしゃるぅぅぅぅ!!?」
「……まずはとりあえず死ね。 話はそこからだ」
「ストォォォップ!
洒落になんねぇ!! その銀河の輝きはやめろぉぉぉぉぉ!!?」
守護宮に引きずり込まれた快人は、シャカVS慟哭組よりなお酷い、1対4の『お話』をする羽目になったのである。
そして翌日……。
~~~~~~~~~~~~~~~
その日、私立聖祥大学付属中学校の文化祭には、多くの客が殺到していた。
その理由の一端はなのはたちのクラス……『2-A』にある。
この『2-A』はなのはたち5人娘を筆頭として女子のレベルが異常に高いというのは周辺でも有名な話であった。
そんな『2-A』がこの文化祭では『メイド喫茶』をやるというのだ。
可愛い女の子たちのメイド姿を一目見ようと多くの客が殺到する。そんな期待に胸を躍らせた彼らを待っていたものは……。
「はじめましてだ、ご主人様。
どうご奉仕してやろうか、ご主人様」
「「「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
ピチピチのメイド服を着こみ仮面を付けた筋骨隆々のマッチョな男の出迎えだった。
「クックック!
『いらっしゃいませ』から『ありがとうございました』までキッチリご奉仕してやるから覚悟するがいいぞ、ご主人様!」
全力全壊、もう色々と吹っ切れてノリに乗った仮面のメイドガイ大悟が客を出迎える。
そして出迎えるメイド服を着こんだ男たち。その中で、女だと思われて声を掛けられるシュウトとシャウラが、死んだ魚のような目でメニューを運ぶ。総司はすでに『触れたらコロす』とでもいうほどの殺気をまき散らしていた。
そんな中、この騒動の中心の快人は……。
「ぷ……くくく……」
「快人、あんた似合ってるわよ」
「ほんま……ぷぷっ……お腹いたいわ!」
必死で笑いを隠そうとしながらもその実全然隠せていないなのはと、ニヤニヤ笑いのアリサに腹をかかえるはやて。
執事服を着た少女たちによって化粧させられトンデモナイことになったその姿のまま、給仕をやらされる羽目になったのだった。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
夢を追い、夢破れた悲しい男の慟哭が木霊したのだった……。
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『蛇足、あるいは本番』
文化祭が明けたその日、シュウトは魂が抜けたような状態でテスタロッサ家に向かっていた。
理由はたった一つ、テスタロッサ家への食事を作るためである。
いつものように呼び鈴を押し、フェイトの出てくるのを待っていると……。
「あの……おかえりなさい、ご主人様」
「フェ、フェイト!」
出てきたのはメイド服を装備したフェイトだった。
「どうかな? シュウトが喜ぶってすずかから貰ったんだけど……」
フェイトはスカートを摘まんでドレープを見せ、上目づかいで尋ねる。
「もちろん、とっても可愛いよフェイト!」
シュウトのその言葉に、パァっと花が開くようにフェイトが笑顔になる。
「入って。 もう食事の準備出来てるから」
誘われるままに食卓につくと、そこには食事が用意されていた。
「私、あまり料理は得意じゃないから美味しく無いかもしれないけど……」
そう言ってフェイトはハンバーグを一口サイズに切り、フォークでシュウトへと差し出す。
「はい、あーん」
「あーん」
フェイトに言われるままにハンバーグを咀嚼するシュウト。
「どうかな?」
「美味しいよ、フェイト」
「よかった。それじゃまた……」
そう言って今度はサラダのプチトマトをフォークで刺すが、その手をシュウトが掴む。
「シュウ?」
「フェイト……今度はボクの番だよ」
そう言ってフェイトの手からフォークを取ると、フェイトへと差し出す。
「フェイト、あーん」
「もう、今日は私はメイドさんなんだから黙ってご奉仕されなきゃ駄目だよ、シュウ」
「だったらメイドさんにご主人様から命令。
はい、あーん」
「もう……あーん」
どこか困ったように口を尖らせてから、フェイトもシュウトに差し出されたプチトマトを咀嚼する。
「おいしい?」
「うん」
そう言って2人はどちらともなく微笑み合った。
「ねぇ、フェイト」
「なぁに?」
「また……その格好やってくれる?」
「うん、いつでも!」
そんな甘ったるい空間を作るシュウトとフェイト。
「アルフ、そこの塩取ってくれる?」
「待ちな、あたしが先だよ」
そしてそんな2人を極力見ないように、プレシアとアルフは黙って食事を取るのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「ほれほれ、可愛いメイドさんやでぇ」
「……」
家に帰った途端に出迎えるメイドはやてに、大悟から出たものはため息だった。
「なんやそのため息は?」
「……俺としては、しばらくはメイドはこりごりなんだが」
「そんなこと言って、実はわたしのメイド姿にドキがムネムネするんやろ?
うっしーは実はムッツリなのは良く知っとるよ」
コノコノと言った感じで肘で突いてくるはやてに、再び大悟はため息をつく。
「というわけでご主人さま。
食事にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」
「……それはメイドじゃないだろ?
じゃあ、とりあえず食事で」
「はいはい、はよ席について、うっしー」
そう言って食卓にまで案内する妙にテンションの高いはやて。
「なぁはやて……文化祭、楽しかったか?」
「もちろんや!
あんなおもろいうっしー、他では見られへんからね」
「あの姿はもう忘れてくれ……」
疲れたように言いながらも、はやてが楽しかったのならいいかと思ってしまう自分に、大悟は苦笑したのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~
「あ、アリサちゃん、その格好……」
「……なによ?」
突如とやってきたアリサが、またもや突如としてメイド服に着替え現れたことにシャウラは混乱しながら聞くと、アリサはどこか仏頂面で答える。
「もしかして可愛くないとか言うつもりじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことないよ。 すごく可愛いよ!
でも……なんで?」
するとアリサは顔を赤くしながら、プイッとそっぽを向く。
「あのバカ蟹から聞いたわよ。
あんた、私のメイド姿が見たくてあのバカに加担したんだって?」
「う“っ!?」
そう言われては何も言えないシャウラに、アリサつかつかと近寄ってくると若干顔を赤くしながら言い放つ。
「だから、今後同じことであのバカの口車に乗らないようにその……ちょっとぐらいメイド服を着てあげようと思っただけよ。
感謝しなさいよ、シャウラ!」
「え、あ……うん、嬉しいよアリサちゃん」
何やらよく分からないアリサの勢いに、シャウラは何とも言えない顔でコクコクと頷く。
そんな可愛い主人たちの様子を、本物のメイドさんたちがクスクスと微笑みながら眺めているのだった……。
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月村の邸宅に、今日も仲の良い姉妹の声が響く。
「お願いします、ご主人さま。
どうか駄目なメイドのすずかに罰を、お仕置きしてください……」
「違うわ、すずか!
そこはもっと上目使いで、目は涙をにじませた感じで!!
あと、下着が見えるか見えないかの微妙なラインまでスカートを持ち上げるの!」
「はい、お姉ちゃん!」
……仲がいい……のかよく分からない、姉妹の会話が続いていた。片やメイド服を着た妹のすずかに、姉の忍が指示を飛ばす。
「いい、すずか。
総司くんはあなた付きの執事、いわば従者よ。
そんなあなたはいつでも『お嬢様・従者プレイ』が可能!
でもね、男には『征服欲』ってものがあるの。そこをそのメイド服で刺激しなさい!
いつも自分に命令してくるご主人様のすずかが、自分に従順なメイドになる……そのギャップを全面に押し立てて、総司くんの『征服欲』を煽ってやればイチコロよ!
そのための男をだまくらかす演技を、よく身に付けなさい!」
「うん! がんばる!!」
……訂正。姉妹のもうどうしようもない会話が続いていた。
そして何よりもどうしようもないことに、その対象たる総司は同じ部屋で控えている。
「……」
「おや、どうしました?」
「……いや、どうも酷い頭痛が止まなくてな」
「そうですか……ではこれをどうぞ」
頭を抱える総司に、同じく控えていたノエルが何かの箱を差し出す。頭痛薬かと思って総司はそれを手に取るが、総司は即座にその箱を床に叩き落とした。
「おや、どうしました?」
「あんた……一体何を渡してるんだ!!?」
頭痛薬だと思って渡されたその箱は全く違う、何らかの薄手の製品の箱だったのである。
「おや、あなたには何より必要なものだと思いましたが?」
「しれっと何を言っているんだあんたは!」
「いえ、至極正論を。
大体、すずかお嬢様の『体質』について対処を任され、『契約』もなさったのですから遠からずもっとも必須のものになるかと……。
まさかとは思いますが、その若さで無い方がよいとはいいませんよね?」
ノエルの真面目な表情で語られるぶっ飛んだ言葉によって、総司の頭痛がさらに増す。
そして総司は隣の、まだ常識が通じそうなファリンへと視線を向けた。
「……なぁ、ファリンさん。
スタッフサービスに電話すれば、新しい働き口は見つかるだろうか?」
「やめた方がいいと思いますよ。
恐らく総司さんを雇った新しい働き口が、不幸にもありとあらゆる色んな意味で潰されると思いますから……」
「逃げ道は無し……か……。 何と言うブラック企業だ」
圧倒的なアウェー感の中、姉妹の会話は止まらない。
「よーし、いいわすずか!
それじゃ今夜はその格好でがんばって来なさい!
大丈夫、あなたも『夜の一族』なのよ、必ず出来るわ!」
「うん、頑張る! 『夜の一族』の名に賭けて!」
「ああ、『夜の一族』ってそういう……」
今夜にでも降りかかることが確定した厄介事に、総司は再び頭を抱えたのだった……。
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「もう、いい加減機嫌直してよ」
「ふんっ、俺たち男の純情弄びやがって……」
快人の家に食事を作りに来たなのは。
だが、快人は今回の一件で完全にへそを曲げてしまい、不機嫌そうに鼻を鳴らしながらそっぽを向いてソファーに寝転がる快人に、なのはは呆れたようにため息をついた。
「もう……ホントにしょうがないなぁ……」
そう言ってなのはは居間から出ていく。そしてなのはは準備を終えると居間に戻ってきた。
「快人くん……」
「ったく。 なんだよ、なの……は……」
面倒くさそうに振り返った快人はそこで言葉を失う。
何故ならそこには、メイド服を着て恥ずかしそうに顔を赤らめるなのはの姿があったからだ。
「なのは、それ……」
「実はすずかちゃんたちと一緒に服は作ったの。
その……快人くんはなのはにこの服、着てほしかったんだよね?
どう?」
「どうって、お前……そりゃ……凄く似合ってる」
モジモジと顔を赤くするなのはに、これまた顔を赤くしながら答える快人。
「それじゃほら……一緒にご飯食べよ」
「あ、ああ……」
メイド服のなのはに導かれるように食卓につくと、2人は食事を取り始める。
そして快人はポツリと言った。
「なぁ、なのは。
その……ときどきでいいから……またその服着てくれないか?」
「……うん」
快人の言葉になのはは恥ずかしそうにうつむきながら、それでもしっかり頷いたのだった……。
聖闘士の……メイド喫茶!
快人たちの学園生活の様子でした。
学園祭というと、ときメモ制服やら巫女服やらで女装させられたのを思い出します。
さて、次回からはついにパライストラ第一期生の卒業式、『銀河戦争編』に突入予定です。
次回もよろしくお願いします。