今回も前回に引き続き、候補生たちの戦いとなります。
なんとか1人1人の特色が出ていればいいのですが……。
第五試合
『エイム・ロイド VS カルマ・レスティレット』
「……結構面白い対戦カードだな」
「エイムさんは
飛べる分、もしかすると陸戦魔導士だったトムさんより厄介だもんね」
「……まぁ、どうもあいつ自身は何か言いたそうで気に入らないけど、実力は認めるよ」
なのはの言葉に、よほど嫌っているのか快人は顔をしかめながら応える。
なのはとしてもその気持ちは多少なりと分かる。日頃接する時には紳士的なエイムだが、ごく稀になんとも言えない、舐め上げるような嫌な視線をする時があるのだ。
それはなのはだけというわけではなく、快人たちも全員が感じ取っている。それでも『
「対するカルマさんは……」
「あのシオンさんのお気に入り。
それだけで十分すぎる」
快人はそう応える。
実際、快人はカルマのことをかっていた。
「とにかく、面白いカードになることだけは間違いないな」
そう言って快人はリングへと視線を戻す。
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「ぐっ!!」
だが、快人の予想とは裏腹にリング上ではカルマがそのダメージで片膝をついていた。
対するエイムはほぼ無傷。カルマを注意深く見詰めながら、しっかりと距離を取っている。
「くそっ!?」
バッと立ち上がったカルマは再び
「くっ!?」
接近を諦めたカルマは横に転がるようにそれを避けきる。だが……。
「がぁ!!!?」
後ろから、避けたはずの電撃がカルマに襲い掛かる。そう、先ほどからこれの繰り返しだ。
エイムの攻撃は電撃を飛ばし攻撃してくるのだが、それが確実に避けているはずなのに生きているかのように電撃が的確に追尾してくる。
最初は
「ちぃ!?」
片膝をついたカルマが忌々しそうに立ち上がる。そんなカルマをどこか余裕を持って、それでも油断なく見詰めるエイム。
「さぁもう勝負はついただろう。
大人しく降参するんだ」
「まだまだぁ!!」
紳士然としながら降伏を要求するエイムに、カルマは猛然と立ち上がり拳を振るおうとするが、エイムから再びの電撃が立ち昇る。それはエイム本人が放電するように放たれ、拡散するように広がっていく。
「ぐぁ!!」
その電撃の奔流にのみ込まれて再びカルマは転がった。
「これで分かっただろう。 もう抵抗は無意味だ。
降参したまえ」
そのエイムの姿に、カルマは拒否するように、振り切るように立ち上がった。
「副総代は強い……。
でも、俺だって目標にしているものがあるんだ。
だから……負けられない!!」
「……そうか。
なら、悪いけれど次で決めるよ」
エイムの言葉に、思わずカルマはゾクリとした。紳士的な人物であるはずなのだが……何故だろう、うすら怖いものを感じたのだ。
言葉通り次で決めようという意図が見え、カルマは身構える。その時になって、カルマは始めて自分がじっとりと濡れていることに気付いた。
(汗、じゃない!?
これは……水滴!?)
ハッ、となってカルマは
そしてエイムから勝負を決める大電撃が放たれた。
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「……エイムさんの
「ただ、向かっている方向はなのはたちとは逆だがな。
なのはたちは『
だがあいつは『
あくまで魔法が主体で
……なのははあいつの
そして数瞬だけ思案すると、なのはは言葉を返した。
「水属性でしょ?」
その言葉に快人はヒュゥと口を鳴らす。
「よく冷静に見抜いたな、正解だよ。
あいつの電撃を見ればあいつは雷属性だって普通は思うが、電撃はあくまで『魔法』だ。
あいつの
電撃があり得ない形で曲がるのは、
そして攻撃力もバッチリ対策済み、水分を相手に付着させることで電撃の利きを上げてダメージ上げてやがる。
魔法の汎用性をさらに高めるように
「……このままエイムさんの勝ちかな?」
「……いや、そうとも限らないぞ。
見てろよ、きっと面白いもんが見られるぜ」
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カルマに襲い来る大電撃に、誰もがカルマの敗北を思った。
しかしカルマは自分に襲い来る電撃に手をかざすと、その手に当たった電撃がエイムの方へとねじ曲げられる。
「!?」
慌ててエイムは周辺の水分を操作して電撃の進路を変えると、その電撃は地面へと墜ちて行く。
しかし、エイムには冷や汗が一筋、伝った。
間違いなくあの大電撃は直撃した。
目を凝らしたエイムはそこで、カルマの手に小さな光の板のようなものを見た。
それは
だがその光の板を、誰であろうカルマが一番驚きと共に見つめていた。
「で、出来た。
はは……この土壇場で、出来た!
名付けて、『クリスタル・ボード』!」
カルマから漏れるのは笑いだった。何故ならこの手にあるものは自分の敬愛する師とも言うべきシオンの技の一つ。
もっとも、自分の実力では『壁』など創りだせず、この掌の小さな『板』が精々だ。それでも、それがこの土壇場で出来たのだ。嬉しくないはずが無い。
そして、ゆっくりとカルマはエイムに向き直る。
「副総代は本当に強い。
電撃を
でも……俺も勝ちたい! この誰かを守るために手に入れた
だから……行くぞ!!」
カルマはエイムに向かって突撃を始める。距離が一瞬で詰まり、カルマとエイムの間で至近距離の乱打戦が展開される。
だがその内容はカルマにエイムが押されていた。単純な近接戦闘なら、カルマの方が技量が上だからだ。
「くぅっ!?」
「ぐっ!?」
このままでは押し切られると考えたエイムは一端距離を離すと、大電撃を放つ。しかしそれはカルマを狙ったのではない。
周囲に拡散した大電撃は、エイムが周辺の水分を
エイムを守るように帯電するそれは、触れるだけで相手にダメージを与えるまさに電撃の鎧だ。
近寄ることもできないその電撃を前に、カルマが一端追撃を諦める。
再び開いた距離に、エイムは一度仕切り直しと、戦術を組み立て直そうとする。しかし、エイムのその視線の先でカルマは腰を落とすと拳を握りしめる。
「今の俺なら出来るはずだ。
高まれ、俺の
カルマが
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
流れる星のように拳が放たれる。限界まで
俗に『流星拳』と呼ばれる技である。
本来なら、いかに『流星拳』でもエイムの電撃の鎧に触れればダメージは必至だ。だが、その拳には『クリスタル・ボード』の守りがあり、『
「うわぁぁぁぁ!!」
その攻撃に吹き飛ばされたエイムは、そのまま場外へと叩きつけられた。
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「おいおい、確かに期待はしちゃいたが、まさかのピンポイントバリアパンチかよ。
しっかし追い詰められてからの流星拳か……強いにゃ強いがヒヤヒヤする戦いだったな」
「うーん、ほんとにそんな感じだよね。
でも、エイムさんも惜しかったよ」
「ああ。 あいつの実力は認めるよ。
命中力上昇に威力上昇……
「私はどちらかというとカルマさんの方が役に立ったかも。
至近距離の隠し玉として『パーフェクト・スクエア』で……」
「……お前、何処まで行っても脳筋さんだな」
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ワァァァァァァァ!!
歓声に沸く中、カルマは場外のエイムに手を差し伸べていた。その手を取ってエイムは苦笑する。
「いや、負けたよ。
正直こんな風に負けるとは思わなかった」
「いえ、胸貸してもらいました。
ありがとうございます」
「あはは。
次の戦いもがんばってね。 期待しているよ」
お互いの戦いを讃え合いリング上で握手をするカルマとエイム。その正々堂々としたさっぱりとした態度に再び会場から割れんばかりの拍手が巻き起こる。
「ありがとうございました!」
カルマは控え室へと戻っていくエイムの後ろ姿に、頭を下げたのだった。
「クソッ!!」
ガンッ!!
誰もいない、暗い控え室に向かう通路でエイムは拳を壁に打ち付けていた。
「あんな、あんな魔法も使えないカスに負けるなんて!」
その表情は先程までのさわやかさは何処へ行ったのか、そこには憎しみにも近い激情を露わにしている。
……結局、エイムの『魔法至上主義』、ひいては『管理局至上主義』はこの6年で矯正されることはなかったのである。
「何が
たった、たったそれだけで魔法の使えないカスの分際でこの僕に土を付けるなんて!!」
いたくプライドを傷つけられたエイムは一しきり激情を露わにすると、落ち着きを取り戻す。
この仮面でも付け替えるように感情と態度を制御する術は見事なもので、ほとんど二重人格の域である。もっとも、それが選民思想と他者を効率よく操る擬態をするために、というのはあまり褒めれた話ではないのだが。
「……まぁいい、決勝のトーナメントまで残ったんだ。
これで『最高評議会』の指令にも答えられる。一端はそれで良しにしよう……」
そう呟くと、何事もなかったかのような表情で控え室に戻っていくエイム。
しかし彼は気付かないし、理解もしていない。
『
その
第五試合
『エイム・ロイド VS カルマ・レスティレット』
勝者:カルマ・レスティレット
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第六試合
『猫山 霊鳴 VS テリー・マーチン』
その戦いは、奇妙な戦いだった。
攻撃は一方的、テリー・マーチンから猫山 霊鳴への攻撃のみで霊鳴からの攻撃はない。
それだけ見れば誰が見てもテリー・マーチンの方が押しているように見えるだろう。テリー・マーチンの激しい攻撃に反撃も出来ず回避に専念している……そう見えるかもしれない。
しかし、それは間違った見方だ。
疲労と消耗という点で言えば、テリー・マーチンの方が大きい。攻撃を外すというのはそれだけ体力を消耗する。それでいてそれに見合った打点を叩きだせないという段階で費用対効果はマイナスだ。
(なんでだ! なんでこんなに避けられるんだ!!)
押しているはずなのに押されている……その矛盾したような状態に、半ば混乱状態だったテリー・マーチンは一気に決着を付けることにした。
一度距離を離すと、
テリー・マーチンは水属性である。水を操り、水があたかも大蛇のようにテリー・マーチンの傍をぐるぐると回る。
「くらえ!!」
そして、その水の大蛇を身体に纏わりつかせたままテリー・マーチンは霊鳴に突っ込んだ。
水を纏っての突進攻撃、これがテリー・マーチンの必殺技である。
水流をジェットのように噴出し加速しながらの突進はペットボトルロケットの原理に近い。もっとも、触れれば大岩すら粉々にする高水圧の爆弾だ。ペットボトルロケットなどという生易しいものではないが。
テリー・マーチンの必殺技……だがそれを前にして、霊鳴は笑っていた。
その瞬間、フッと身体が浮くような感覚に襲われる。
「!?」
気付いた時にはすでに遅い。テリー・マーチンは高速で、自分から場外の地面にめり込んでいたのだ。
「激流に身を任せどうかしている……ってね!」
そんなテリー・マーチンに、霊鳴は茶目っけをきかせてウィンクしたのだった。
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「さすが霊鳴さん、危なげない戦いだったね」
「うん。 霊鳴さん、風属性なんだね。
ずっと風を操って、微妙に攻撃をずらし続けてた。
それにしても……何だろう、動きが戦いのための動きとは違うみたな……?」
霊鳴の戦いを見てその実力の高さに頷きあうシュウトとフェイトだが、フェイトは霊鳴の動きに戦い以外の動きを見たような気がした。
その答えを知っているシュウトは、笑いながら答える。
「あの動きね、『神楽』なんだって」
「『神楽』って……神社でやる『舞踊』の?」
「そう。
でも別に戦いと踊りは無関係ってわけじゃないよ。実際に格闘技とダンスの中間だって言われる『カポエイラ』とかの例もある。
霊鳴さんは神楽の動きを取り入れて、合気道みたいな動きをしているんだ」
「そうなんだ。 そういえば霊鳴さんってイタコだったよね。
それならぴったりかも」
第六試合
『猫山 霊鳴 VS テリー・マーチン』
勝者:猫山 霊鳴
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第七試合
『サビク・アルハゲ VS ペーテル・ハウトマン』
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
リングに響く絶叫に、会場は静まり返っていた……。
試合開始から数十秒しかたっていない。その上、両者はたった一度すれ違っただけだ。そのすれ違いざまの一発だけで、ペーテル・ハウトマンは振るった右の腕を抱えて痛みに悶えている。
対するサビク・アルハゲは右の人差し指を一本立てた状態で悠然と立っている。
そう、サビクは拳を振るってはいない。その人差し指一本でこの状況を作ったのである。
「まだ、やるかい?」
「くそっ!?」
挑発ともとれるその言葉に、ペーテル・ハウトマンは痛みを無理矢理振り切ると、痛みで動かない右手ではなく、無事な左手で拳を振るう。
だがその破れかぶれなテレフォンパンチを容易く避けるとサビクはその人差し指を、伸びきったペーテルの左ひじに当てる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
再びの絶叫と共に、あまりの激痛に膝をつくペーテル。しかし、その絶叫は長くは続かなかった。
膝をついたペーテルの額に、サビクはその人差し指を当てたのだ。グリンッと白眼を向いて倒れ込むペーテルは、一目で戦闘不能だと見てとれる。
「戦いは効率だよ。 最小の動きで最大の成果を、ということさ」
サビクのその言葉と共に薄く笑った。
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「ピンポイントバリアパンチの次は秘孔突きかよ……。
誰かパライストラに地球のマンガでも持ち込んだのか?」
試合を見ていた快人はどこか呆れたように言うが、なのははジト目でそんな快人を見た。
「鏡見た方がいいよ、快人くん。
パライストラの図書館にマンガ置いてる人がいるって聞いたことがあるんだけど……誰だか知ってる?」
「……ほら、図書館と言えば三国志とかのマンガは基本なわけで」
「ただ家に入りきらなくなったマンガ置き場に使ってるだけじゃない。
まぁ、いい娯楽になって助かってるってリニスさんも言ってたけど」
ツッコまれて旗色が悪くなったと見るや自己弁護をはかり始める快人に、なのははやれやれと肩を竦める。
「まぁ、しかしマンガとか関係無しでもあの人があの戦い方に至るのは必然な気がするな。
たしかカルディアさんが目を掛けてた人だろ?
原理や詳細は違うけど、あれはスカーレットニードルと同じ発想だからな」
「そうだね。
あの人の属性は『雷』、指先からの電撃を神経に直接流し込んで激痛と麻痺を生んでる。
星命点を突くスカーレットニードルとは差異はあるけど、『急所への攻撃で相手を行動不能にする』っていう点は同じだよ」
「ああ、良いセンスだとは思うぜ。
しっかし……ピンポイントバリアパンチに秘孔突きに変態……あの部屋いくらなんでも濃すぎだろ」
「……」
快人の的確すぎる言葉に、なのはは何も言えなかった。
第七試合
『サビク・アルハゲ VS ペーテル・ハウトマン』
勝者:サビク・アルハゲ
~~~~~~~~~~~~~~~
第八試合
『ウェイン・ハーレー VS ハインリヒ・フォン・ネテスハイム』
その戦いは奇しくも、第七試合と非常に似たようなものになった。
ウェイン・ハーレーが一撃を入れようと拳を繰り出す。しかし、それをかわしたハリーはすり抜けざまにウェインの腕に触った。
すると、その腕を取り囲むように三角形の形をした
その瞬間、ウェインは凄い勢いで膝をついた。腕を支え、何かに耐えるようにしている。
その隙にハリーは再び今度はウェインの胴体に触った。すると今度はフラフープのようにその胴体を回転する三角形が現れた。
「ぐぅぅぅぅ!!」
ズドン、という普通とは違う音を立ててウェインが倒れ込む。
必死で足をバタつかせるように立ち上がろうとしたウェインだが、無情にも10カウントが数えられたのだった……。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「珍しい……。
闇属性は、光属性と並んで使える人が少ないのに」
リング外でシュウはハリーの属性に思わず声を上げた。
「あれってもしかして……」
「そう、フェイトの考えてる通り、あれは重力制御だよ。
あの三角形の
あれ、そのまま行くと空間系に行くんだろうなぁ……」
「それって、総司の『アナザー・ディメンション』?」
「それに近い奴だね。もっとも、それは極めればの話だけど。
そうでなくても、今回のように重力を掛けて相手の動きを阻害したり、打撃に重力を乗せて攻撃力をアップしたり……面白い能力になっていくと思うよ」
「……冷静に考えなくても凄い能力だよ。
エルシドさんの弟子の人たち、みんなすごい。
私も負けてられないかな」
「これで一回戦は終了だけど……本当に凄い人たちが残ったよ。
次の戦いも楽しみだね」
というわけで第一回戦の残りの試合の模様でした。
全員、方向性というか特色は見せれたらいいなと思います。
次回は銀河戦争、第二回戦。
一戦目を勝ち抜いた猛者たちの戦いをご覧ください。
次回もよろしくお願いします。