神話・伝説・おとぎ話―――それらの胸躍る物語や登場人物たちの活躍はただのフィクション、創作にすぎない。
そう、本来ならただの創作に過ぎないはずだった。
だが―――少女たちの目の前にその創作のはずの神話にある戦いは、今確かな『現実』として存在していた。
快人とシュウトの間を光が飛び交う。
それは光の速度で繰り出される拳と蹴りの応酬。
それを2人は互いに防ぎ、同じ速度の反撃を行う。
「はははっ、さすがに防ぐか」
「このぐらいできなきゃ、黄金聖闘士(ゴールドセイント)失格でしょ?」
笑いすら含んだ軽い雰囲気で放たれる一撃一撃の拳に込められたエネルギーは、一体どれほどなのか?
やがて、2人が一旦距離を離す。
「さて、ウォーミングアップは終わり」
「こっちも身体が温まったよ」
「じゃぁ、そろそろ次に行くか。今度は…空戦だ!」
「望むところ!!」
その言葉と共に、2人は空へ『駆け上がる』。
その秘密は足に集中させた小宇宙(コスモ)。まるで地面が続いているかのように空中を小宇宙(コスモ)で蹴り、文字通り空を駆けまわりながらぶつかり合う。
「す、すごい…」
「…」
なのはの呟きに、敵味方を忘れ共に観戦していたフェイトも静かに頷いた。
いや、聖闘士(セイント)という存在について知らない分だけフェイトの驚きの方が数倍大きい。
(凄い…シュウ、凄い!!)
今までとは違う幼馴染の新たな側面に、フェイトは瞬きすら忘れた様に目の前の光景を見つめる。
(あいつ…なんだってこんな力を!)
アルフがこの戦いで覚えたのは純粋な驚愕だった。
我が家の飯炊き兼庭師と思っていた相手が、人知を超えた力を振るっているという事実にそれ以上のものが出てこない。
一方、学者でもあるユーノは現実的かつ理性的にその出鱈目さに驚愕していた。
(あの拳一発一発が、Sランク級魔力砲撃に匹敵するなんてどういうこと!?
それに…結界が維持されてるし、僕らにも影響が無い)
ユーノとアルフが周囲に被害が出ないように張り巡らせた結界―――その強度は、2人の最初のぶつかり合いの余波で吹き飛んでもおかしくない。
それが今現在も維持できていることなど、本来ならあり得ない。
さらに、それだけの余波を受ける距離にいるはずなのに自分たちにはまるで影響が無い。
ユーノたちは気付いていないが聖闘士(セイント)ならば、彼らと結界に濃密な小宇宙(コスモ)が覆い守っていることが分かるだろう。
そしてそれを行っているのが誰なのかは考えれば一目瞭然だった。
(これが聖闘士(セイント)の、小宇宙(コスモ)の力なのか!?)
ユーノは彼らが2人がその気になったら、次元世界を管理する『時空管理局』すら滅ぼせてしまうんじゃないかと思ってしまった。
やがて、2人は地上に降り一端距離を取ると大きく踏み込む。
「だりゃぁぁぁ!!」
「たぁぁぁぁぁ!!」
大きく振りかぶった2人の右拳がお互いの顔面を狙う。
2人は狙ったかのように同時に身体を逸らした。
互いの拳が、お互いのヘッドマスクを吹き飛ばす。
左右の場所を入れ替え、快人とシュウトは再び向き合った。
「へ、やるじゃん!」
「兄さんこそ」
快人は今の攻防で拳が掠め切れた頬の血を拭うと不敵に笑った。
一方のシュウトは頬から流れる血を気にも留めず、快人を見続ける。
「それじゃ兄さん…そろそろ技に入ってもいいかな?」
そう言ってシュウトの手に現れたのは黒い薔薇。
シュウトの小宇宙(コスモ)の高まりに合わせ、シュウトの周りにいくつもの黒薔薇が現れる。
そしてシュウトはその小宇宙(コスモ)を爆発させた。
「ピラニアンローズ!!」
何本もの黒薔薇が快人へ向かって放たれる。
快人が俊敏な動きでそれを回避すると、黒薔薇の一本が地面へとぶつかり地面に小規模なクレーターが出来た。
岩をも砕く黒薔薇、それがピラニアンローズである。
さらに観戦しているなのはたちにとって驚異的な光景が目の前に広がっていた。
「曲がった!?」
黒薔薇がまるでミサイルのように快人を追尾していく。
相手の小宇宙(コスモ)を追い、敵に必ず喰らいつく…これがピラニアンローズと言われている所以である。
「へっ!」
快人は一度大きくピラニアンローズから距離を取ると、右手に蒼い炎を生みだした。
「積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)!!」
なぎ払うように放たれる蒼い炎が、ピラニアンローズを焼き尽くす。
「シュウト、そんなもんじゃ俺には届かねぇぞ」
ニヤリと笑って快人が言う。
すると、
「知ってるよ」
「何?」
そんな風にニヤリと笑って返すシュウトに快人はいぶかしむが、すぐにその理由を知り驚愕した。
「これは!?」
いつの間にか、快人を包囲するように地面に何本もの白薔薇が突き立っている。
「ブラッディローズ…血を吸う呪いの白薔薇。
さっきの兄さんと打ち合いをやってるときにブラッディローズの陣を布いていたのさ」
そう、ピラニアンローズは快人をあらかじめ設置したブラッディローズの陣に誘い込むための罠だったのだ。
「心臓へは行かないけど、手足に突き刺さるのは我慢してもらうよ」
そう言ってシュウトはパチンと指を鳴らした。
「ブラッディローズ!!」
地面から快人を囲むように放たれる白薔薇。
「快人くん!?」
なのはの悲痛な声。
観戦していた誰もがシュウトの勝利を確信していた。
だが、そんな状況下で快人はというと…。
「へっ!」
不敵な表情を崩していなかった。
そして、その理由はすぐに全員が知ることになる。
快人の周囲に光る蒼い炎が大量に現れたのだ。
そして…。
「積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)!!」
その言葉と共に、蒼い炎が爆発し迫っていた白薔薇が全て消し飛んだ。
積尸気魂葬破(せきしきこんそうは)―――本来は霊的なものを爆破炎上させる技だが、快人のそれは自身の小宇宙(コスモ)で蒼い炎を作り、それを爆破させる技となっている。
「まさか…」
シュウトも完全に防がれるとは思っていなかったらしく、驚きの表情で快人を見る。
「防がれるとは思わなかった…て感じだな。
でもそれはいくらなんでも俺を舐め過ぎなんじゃねぇの?
俺はお前の兄、蟹座の黄金聖闘士(ゴールドセイント)なんだぞ」
「…そうだったね。
でも、ボクだって最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)の一人だってこと忘れてない?」
「まさか。 忘れるかよ。
これだけの実力を持ってるんだからよ」
そう言って笑い合う快人とシュウト。
やがて、シュウトが切りだす。
「兄さん、これ以上はまずそうだ」
「確かに、このままだと本当の千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)か消滅かになっちまう」
シュウトの言葉に、快人は肩を竦めて同意した。
本来、互角の黄金聖闘士(ゴールドセイント)同士が戦った場合、永遠に決着のつかない千日手、『千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)』になるか、両者共倒れになるかという末路だと言われている。
そもそも、この戦い自体がお互いの実力の知り、それをなのはたちに見せることが目的なのだ。
そういう意味ではすでに目的を達しているのだから、これ以上の戦いの意味は無い。
だが…。
「次の一発で終わりにしようぜ、シュウト!」
「ボクも同感。不完全燃焼は嫌だからね。白黒つけよう!」
この兄弟、存外負けず嫌いなのであった。
シュウトが小宇宙(コスモ)を高めると、その手に紅い薔薇が現れる。
それを見て快人は露骨に嫌そうな顔をした。
「おいおい、なのはたちもいるんだからそれの香気は勘弁してくれよ」
「大丈夫、こんなことで毒を使うほどボクだって見境なしじゃないよ。
ただ…この薔薇吹雪の威力だけは受けてもらうよ」
シュウトの小宇宙(コスモ)の高まりに合わせ、シュウトの周りに紅い薔薇の花弁が舞い始める。
それを見て、快人も右手に小宇宙(コスモ)を集中させ始めた。
蒼い炎がその手の中で燃え上がる。
「お前のその薔薇、欠片も残さず燃やし尽くしてやるぜ!」
「紅い薔薇の嵐、受けてもらうよ!」
2人の間で際限なく高まる小宇宙(コスモ)。
観戦しているなのは・ユーノ・フェイト・アルフの4人―――あるいは3人と1匹も決着の瞬間を感じ取り、固唾をのんで見守っていた。
そして、2人は同時に高めた小宇宙(コスモ)を爆発させた。
「積尸気鬼蒼焔(せきしききそうえん)!!」
「ロイヤルデモンローズ!!」
今までにない勢いの蒼い炎が快人から放たれる。
対するのは紅い薔薇の竜巻。
五感を奪う毒薔薇『デモンローズ』による全てを破壊する薔薇竜巻、それが魚座(ピスケス)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)の必殺技の一つ『ロイヤルデモンローズ』である。
今回は観戦しているフェイトたちもいるしこれは殺し合いではないため毒は無いが、それでも小宇宙(コスモ)の塊である薔薇の竜巻は地面を盛大に抉りながら迫る。
そして、その二つがぶつかり合う。
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
閃光・轟音・爆発…とても言葉では表せないソレに、なのはとフェイトは悲鳴を上げるのだった…。
~~~~~~~~~~~~~~~
「う、うぅん…目がチカチカするの」
「私も…」
ゆっくりと回復していく視覚と聴覚。
それが始めに捉えたものは…。
「いやぁ、やっぱ強いなお前! お兄ちゃんびっくりだ!」
「あはは、兄さんだって凄いじゃないか!」
この事態を作りだした兄弟が、あははと笑いながらお互いの肩を叩いて満足そうに歩いてくる姿だった。
さっきまでの極限バトルの面影などどこにも残っていない、仲の良い兄弟の姿に唖然としてしまう。
「お! お前らいつの間に仲良くなったんだ?」
「本当だ、フェイトも珍しい…」
そう言われて、なのはとフェイトはお互いを見ると、さっきの衝撃に驚いた拍子に2人は抱き合っている状態だった。
「ご、ごめんなさいなの」
「こ、こっちこそごめんね」
言われてバッと身を離すなのはとフェイト。
「あの…私、高町なのは。 あなたは?」
「フェイト=テスタロッサ…」
もはや戦いの雰囲気で無くなったことで、フェイトも聞かれるままに名前を名乗る。
そんなフェイトに、シュウトが何かを投げてよこした。
「はい、フェイト」
「これ…ジュエルシード!?」
それは猫を巨大化させていたジュエルシードだった。
即座にジュエルシードを封印するフェイト。
「これで1つめ…」
その様子を見て、快人は呆れたようにシュウトを見た。
「お前、抜け目ないなぁ」
「まぁね、こっちもこれが必要だから」
その2人の言葉に、なのはが声をあげる。
「そうだ! ねぇ、フェイトちゃんはなんでジュエルシードを集めてるの?」
「それは…」
言い淀むフェイトに、シュウトが助け舟を出した。
「その話は明日にでもしない? ほら、結界張った2人が伸びちゃってるから結界が消えちゃったし」
見れば、あの爆発で驚き過ぎたのかユーノとアルフが仲よく並んで気絶していた。
そのため結界は消えている。
「こっちも協力してもらうことになると思うから、落ち着いて話そう。
兄さん、これボクの連絡先と住んでるところ」
「おう!」
そう言ってメモを受け取る快人。
「ちょ、ちょっとシュウ! 勝手なことは…」
「大丈夫。信じて、フェイト」
その行動にフェイトが待ったをかけようとするが、シュウトに止められていた。
「それじゃ明日、話をしよう。 集合は4時に、海浜公園で」
「わかったよ」
そう言って、快人たちはユーノを連れ、シュウトたちはアルフを連れて別方向へ分かれるのだった。
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アリサとすずかの元へと帰る途中、なのはが快人に口を開いた。
「ねぇ、快人くん。 あのシュウトくん、だっけ?
あの男の子が快人くんの弟なの?」
「まぁ、ちょっと人には説明できない複雑な事情があるけど、間違い無くあいつは弟だ」
「そうなんだ…。
ねぇ、それじゃシュウトくんとフェイトちゃんたちは何でジュエルシードを集めるのかな?」
「さぁな。 とはいえ、悪事に使うとは思わないよ。
なんたってシュウトの目が光ってるんだ。
それに…」
そこで快人は言葉を切る。
「今後は、俺たちはあいつらと協力することになるだろう。
そうなれば俺たちも監視役、変なことには使わせないさ」
そこでふと疑問に思ったことをなのはは口にした。
「ところで何で一緒に協力してジュエルシードを集める事になるの?
フェイトちゃんは何か協力してジュエルシードを集めるのには反対みたいだったけど…」
そんな疑問に、快人はニヤリとしながら答える。
「明日までにちょっと自分で考えてみろ。
ただ…間違い無く協力してジュエルシードを集めることになると思うぞ」
「だから何で?」
「ヒントは俺、それとシュウト」
「快人くんとシュウトくんがヒント?」
「というかほとんど答えだけどな。
…おーい、アリサ、すずか! 戻ったぞ!」
そう言ってポンとなのはの頭を叩くと、アリサとすずかに手を振る。
「遅いじゃない」
「ちょっと心配しちゃったよ」
「いやぁ悪い悪い!
ユーノが木の上で寝てて、それをなのはが捕まえようと木に登って落ちそうになっててさ、ちょっと時間かかっちまった」
そんな嘘を並べながら席に付く快人の姿を見ながら、なのはは先程の快人の言ったことを考えるのだった。
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「ねぇ、シュウ…なんであの子に協力なんて話をしたの?」
帰り道、フェイトはシュウトに疑問をぶつけてみた。
「気に入らない?」
「うん、私は母さんのためにジュエルシードを集めないといけない。
でも…あの子たちと一緒にいたら母さんへジュエルシードを渡せなくなる可能性があるよ」
なのはたちの目的はジュエルシードの封印だと分かっているが、プレシアはそれを使用することを考えている。
フェイトはプレシアが何のために使うつもりかわからないが、『封印』と『使用』が目的では、そのためにぶつかることは分かりきっていた。
つまり、協力しても最終的には対立の可能性が高いのだ。
だったら最初から同盟など組まない方がいいと、フェイトは考えていた。
しかし…。
「それじゃ無理だよ、フェイト」
シュウトはフェイトの意見を真っ向から否定する。
「もう協力しないと…もっと言うと対立した場合、ボクらも兄さんたちも、一つもジュエルシードを集めることはできないんだ」
シュウトはそう言って話を続けた。
「今日のボクと兄さんの戦い…見たよね?
ボクと兄さんの力については帰ったら説明するけど…ボクたちの力はフェイトたちとは別次元にあることは分かるよね。
戦術とかその他もろもろで覆せないレベルで」
その言葉にフェイトは頷く。
あの戦闘能力は戦術とか工夫とかで何とかなるものでないことは、フェイトはしっかりと理解していた。
「そしてボクと兄さんの戦闘能力はほぼ互角だってことも分かったと思う。
もし本気でボクたちが対立したら…どうなると思う?」
「そうなったら…共倒れ?」
「そう、それしか結果はない。
フェイト…向こう側の勢力にボクと同等の兄さんがいた時点で、協力しか道はないんだ」
その言葉に、一応フェイトは納得する。
「でも…それでも最終的な対立は避けられない」
「大丈夫、それも何とかなる。
ようは向こうは、ジュエルシードが悪用されることが嫌なんだ。
プレシアの利用目的が、危険なことじゃ無ければ協力してくれるよ。
そして…ボクはプレシアの使用目的を知ってる」
「!? なんでシュウが!?」
「それも帰ったら話すよ」
驚き目を見開くフェイトを尻目に、シュウトは星空を見上げた。
星座たちの瞬きが、今日はやけに綺麗に感じる。
「シュウ、今日はすごく嬉しそう。
やっぱり…お兄さんに会えたから?」
「そうさ…」
久しぶりの再会。
もはや血は繋がっていない、されど魂にはしっかりと刻まれている。
だから…。
「…たったひとりの兄さんだからね、会えてうれしいさ」
そう言ってシュウトは笑う。
そんな姿を見て、『兄弟っていいなぁ』とフェイトはひそかに思うのだった…。
黄金聖闘士同士の戦闘でした。
何度設定を読み返しても、黄金聖闘士はチートの塊だなぁ…。