vs はやて
「スー……ぷはー……」
おれは息を吸い込み過ぎないくらいに吸い込み、口に加えている細い棒のようなものを取り落とさないように口を小さく開け、息を吐き出す。吐き出された呼気に加えて白い煙のようなものも吐き出される。
「これ美味いな」
息を吸い込んだ時に感じる芳醇な香りを楽しみながらおれは呟く。
部屋のソファに座り、特にまじめに見てるわけでもないテレビをつけ、癖になる煙を燻らせながらボーっとするのは中々良いものだ。
(味はコーラで香りは紅茶。今の世の中には色々なものがあるのだな)
「本当にな」
おれは口に加えている細い棒を親指と人差し指でつまみ、口から取りだす。その棒の、さっきまでおれの口の中にあった方の先には球形の物体がついている。おれの唾液によってテカテカしているその球体から白い煙が出ているのが分かる。
棒付きキャンディである。
「アメと唾液が反応して煙を作りだす。その煙を口から吐き出すことによって、まだタバコを吸っちゃいけない小さいお子様でもタバコを吸っている気分に! って、嫌煙ブームの日本では絶対に売れなさそうだな」
(タバコを吸う姿がカッコいいと思うのはどこの世界でも同じという事だな)
今なめているキャンディのパッケージの売り文句を口に出して読んでみると、リインさんが反応してくれる。リインさんの言い方からすると、昔のベルカでもタバコを吸う姿に憧れる青年達が沢山いたのだろうか?
このキャンディは現在ミッドチルダで好評発売中のもので、この間管理局の仕事の関係でミッドに行ったときに見つけたのだ。
余談だが、ミッドにコーラはない。しかし、味、色、匂い、炭酸の強さ
など様々な共通点がある飲み物はミッドにもある。その飲み物はミッドで大人気でその飲み物をフレーバーとしたお菓子が沢山あるのだ。その飲み物をおれ達地球組はコーラと呼称しているのである。
「そんでもってキャンディの味はコーラで、煙の香りは紅茶ってのはおれ得だな」
(そんなカオスな物を好むやつが大勢いるとは思えないがな)
あたかもタバコを吸っているような姿を演出できるのがこのキャンディの売りだが、おれが目を付けた所はそこだけではない。それは、キャンディ部分がコーラの味。発生する煙の香りは紅茶の香りと言う部分だ。どちらもおれの好物だ。
かつての高校の倫理教師が例え話としてこう言っていた。
「カレーが食べたい。だけどトンカツも食べたい。そんな相反する気持ちの時、カレーとトンカツをアウフヘーベン! それによってカツカレーをジンテーゼ召喚する!」
簡単に言えば、実現不可能な矛盾する二つの事象を新たな高次の概念により、矛盾を解決するという事だ。
コーラと紅茶を同時に飲むなんてことはナンセンスだ。しかし、このキャンディはこの矛盾を見事解決して見せた! 今この時、あの先生の言っていた言葉を真に理解できた気がする。
(マサキが楽しそうで何よりだ)
テンション上がりまくりのおれに冷めた声音でそう言ってくるリインさん。そんなこと言って、本当はこの新感覚を味わいたいんだろ? 確かに、味覚と嗅覚の共有はしているけど、この新感覚は自分で体験してみないと実感できなものだよ。
「リインさんが治った時のお祝いとしてこのキャンディをあげることにしよう」
(私が文句を言える立場ではないが、もう少し他に何かないだろうか……)
「ハァ……」ってため息なんかついちゃって、リインさんはガックリした様子。
一体何が不満なのだろうか? 是非ともこの素晴らしい感覚を味わってほしいだけだというのに。
おれはキャンディをふかし、少量の煙を勢いよく噴き出す。何をしているのかと言うと、スナメリが作るバブルリングの煙版を作ることを試みている。
「お、綺麗にできたな」
(ほう、やるじゃないか。ご褒美として小魚をやろう)
おれはそこまでスナメリを目指しているわけではない。
リインさんの冗談をスルーし、再びキャンディをペロペロする作業に戻る。今度は大量の煙を溜めてもっと大きい煙リングを作ってみよう。
「何タバコなんか吸ってんねん!?」
「フゴッ!!」
どこからともなくやって来たはやてがそんなことを言いながらおれの口に含んでいたキャンディを勢いよく引き抜いた。
思いだしてみよう。おれはキャンディを舐めていた。棒付きキャンディーを舐めるとき、大抵の人は棒の部分を軽く噛んでキャンデイが落ちないようにしているだろう。そんな状態のキャンディを勢いよく引き抜くとだな……
「歯が、歯がぁ~!」
「って、なんやキャンディーやん。これミッドで売っとるやつやな」
キャンディ部分が歯に引っかかって「ガッ!」ってなるのは必然である。突然だったからめっちゃ痛かった。能力のおかげで痛みはほぼ一瞬で引いてくれたのが幸いだった。
飴玉の部分からモクモクと煙が出ているのを見て、はやてもこのキャンディが何かわかったようだ。
「痛いじゃないか。まじでビビったぞ」
「ごめんごめん! てっきり我が家で未成年が喫煙しとると思ってな」
まあ、確かにパッと見ればそう見えなくはないわな。
「あ、これコーラ味やん。私がもろたるわ」
「ちょっ! こら!」
そう言ってはやてはおれのキャンディを口の中に含んでしまう。おれのキャンディが!
はやてがコーラ味のチュッパチャップスを好きなことは知っていたが、おれだって好きなんだぞ! それを横取りするなんて!
(マサキよ、そんな泣きそうな顔をするな。みっともないぞ)
な、泣きそうな顔なんてしてないやい!
と、そんなこんなしていると、何故かはやては先ほど口に咥えたキャンディを口の中から出して飴玉の部分を見つめている。……これは、好機!
「隙あり!」
はやてがボーっとしているうちにはやての手からキャンディを奪い返す。折角奪い返したキャンディを再び取られないようにおれはすぐさま口に咥え直す。次引き抜こうとしとしても、今度はしっかり意識しているから引き抜かれないぞ!
「あっ……かっ……かっ……かっ!」
「ん?」
キャンディを奪い返して安堵すると同時に、はやての様子がおかしいことに気が付いた。顔を真っ赤にしてさっきから「かっかっかっか」言っている。一体どうしたというのだろう。
「かあああぁぁぁぁ……」
「え!? はやて!」
(主! どうなさったのです!)
さっきまで「かっかっかっか」言っていたと思ったら、今度は「かー」と叫びながらどこかへ走り去って行ってしまった。まさか、こんなところでドップラー効果を実感できるとは思わなかった。
「はやてはどうしたんだ」
(私にもわからぬ)
おれとリインさんは二人で首を捻るばかりだった。
★
なのはちゃんとフェイトちゃんとの会議があった日から数日。その会議で決定された計画を実行に移す時が来た。
「よ、よーし。やるで……やったるで!」
私は家にいるあいつに聞こえないように小声で気合を入れる。
ここのところ、あいつはヴィータのことをどのような目で見ているかを知るために観察することにした。やけど、あの二人の関係はそんな甘いものではないような気がする。軽口を言い合い、時々喧嘩をして、一緒に笑って。確かに二人の距離は近いけど、恋人と言うよりは兄妹って感じやった。たぶん、あいつにとってヴィータは家族というくくりなんやろな。
……そうなると、家族であり、ロリでない私の事なんて……イヤイヤイヤ! まだあきらめるような時間や無いで! 私ならできる!
それは置いておいて、ヴィータの問題はとりあえず大丈夫やろう。これから私があいつに大人の女の子の良さを教えたるで!
「私まだ中学生やけど……大人でええんかな? まあ、ええか」
そんなことは些細な問題や。
フェイトちゃんには負けるけど、私のおっぱいも中々の物やと自負しとる。自称おっぱいマスターの私がそう思うんやから大丈夫や。この自慢のおっぱいをあいつの腕とか背中にアテテンノヨして、その良さを思い知らせたる!
「せやけど、工ど……やっぱり緊張するな……」
いや! 緊張なんてしてへん! 私のメロメロボディであいつを一発K.Oや!
決意を胸に、あいつがくつろいでいるリビングへと入る。リビングにはニュースを流しているテレビとそのテレビをボーっと見ているあいつがおる。
(ん?)
だが、あいつの様子はいつもと違っている。口に何か加えているようだ。棒付きキャンディだろうか? いや、違う。あいつが息を吐くのが見えて分かる。何故、息を吐くのが見えるのか? それは、白い煙があいつの口から出てきたからだ。それが意味している所は……あいつ、タバコ吸っとる!
私の動きは早かった。
「何タバコなんか吸ってんねん!?」
「フゴッ!!」
あいつの口からタバコを引き抜く。しかし、タバコを引き抜く時何か引っかかりを感じたのと、あいつが口を押えて何やら悶えているのがおかしい。
「歯が、歯がぁ~!」
「って、なんやキャンディーやん。これミッドで売っとるやつやな」
細い棒の先には見覚えのある球体がくっ付いている。これは棒付きキャンディや。つまり、私は思い違いをしとったちゅう訳や。
何やらどこぞの大佐みたいなことを言っとるあいつに私はすぐに謝る。
「痛いじゃないか。まじでビビったぞ」
「ごめんごめん! てっきり我が家で未成年が喫煙しとると思ってな」
さっきまであいつが舐めていたキャンディはモクモクと煙を挙げている。これはミッドで話題のキャンディシガレットやろう。キャンディを観察していると、私はあることに気が付いた。
「あ、これコーラ味やん。私がもろたるわ」
「ちょっ! こら!」
キャンディのこの黒っぽい色。まさしく、私の好物コーラ味のキャンディである証拠である。それを知ってしまったら私がやることは一つしかない。
横取りである。
うん、思った通りこのキャンディはコーラ味や。煙のフレーバーは紅茶やろか? けったいなもん食べとんな。でも結構うまうまや。
……
!
私はあることに気が付いてもうた。
それに気が付き、私はゆっくりと口に含んでいたキャンディを出す。
飴玉の部分は私の唾液によってキラキラと光っている。
「隙あり!」
私が手に持ったキャンディを見ていると、あいつに奪い返されてしもた。すると、それだけでなくなんの躊躇もなくそれを口の中に含む。
つまり、それは……
「あっ……かっ……かっ……かっ!」
「ん?」
それは、それは……
「かあああぁぁぁぁ……」
「え!? はやて!」
(主! どうなさったのです!)
間接キスしてもうたあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!
あいつが何か言っていたような気がしたが、そんなことは耳に全く入らないくらい恥ずかしくなって走り出してしまった。
勝者:公輝
敗因:自爆