おれは気づいたらそこに居た。
「あん?」
見上げれば青い空と白い雲。
見下げればおれ達が住む街、海鳴市が見える。
どうやら、おれは空に浮いているようだ。しかし、感覚的には空に立っている感じだ。
おれは自分だけでは魔力が足りないため、飛行魔法はおろか、宙に浮くことすらもできない。リインさんとユニゾンしている感覚が無いため、これはあり得ないのだ。つまりこれは夢だろう。
「夢……か……」
夢の中なら独り言を呟いてもいいよな。これで実は誰かに聞かれてるなんてことがあれば恥ずかしいが、やはり声を出すという事は状況の把握に努めるのにとても役に立つ。
夢だという自覚ができたところで、おれは夢を見る前のことを思いだす。つまり、それは意識を失う前のこと。
長い付き合いの少女達からの告白。そして、それに対する返事。
そう。おれは確かに返事をしたのだ。
返事をしたと言うことは選んだという事だ。誰も選ばなかったという選択はしていない。おれはあの三人の中から一人を選んだ。だけど……
「おれは……誰を……選んだんだっけ……」
思いだせない。
思いだせない。
何でこんな大事なことが思いだせないんだ!
「思いだせん!」
おれは思わず頭を抱えてしまう。
そんな時、おれは拍手の音を聞いた。
まさか今までの独り言からの不自然な挙動を見られたのか! そう思ったおれは拍手をしている人物を確かめるために慌てて振り返る。
「……ジュン?」
おれの後ろに立って拍手をしていたのは、親友である佐藤潤一だった。
「おめでとう」
ジュンは拍手をしながらおれに対してそう言った。一体あいつは何に対しておめでとうと言ったんだ?
おれはその意図が分からず困惑するが、また別のところから拍手の音が聞こえてきた。
「「おめでとう」」
「……アリサさん、すずかさん?」
これまたクラスメイトのアリサさんとすずかさんだ。彼女たちもジュンと同じように拍手と称賛の言葉をおれに送る。
「おめでとう」
「リンディさん?」
クロノさんの母親のリンディさん。
「「おめでとう」」
「士郎さん、桃子さん?」
なのはさんの父親の士郎さんと母親の桃子さん。
「「おめでとう」」
「プレシアさん、アリシアさん?」
フェイトさんの母親であるプレシアさんとお姉さんのアリシアさん。
「おめでとう」
「スカさん、ウーノさん、ドゥーエさん、トーレさん、クアットロさん?」
スカさんが代表として称賛の言葉を口にし、その後ろで彼の娘たちが手を叩いている。
いつの間にか知り合いや友人がおれの周りを取り囲んで拍手をするといういような状況になっている。そんな状況で、おれはあることに気付く。
彼女たちが居ないことに。
「「「おめでとう」」」
そんなことを考えた時、聞こえてきたのは彼女たちの声だった。
「なのはさん」
彼女の笑顔はいつもおれを笑顔にさせた。
「フェイトさん」
彼女のほほ笑みはいつもおれを安心させた。
そして……
「はやて」
彼女の破顔はいつもおれを幸せにさせた。
他のみんなと同じように「おめでとう」と言いながら手を叩いている彼女たち。
そして、彼女たちは全員笑っていた。
だけど、おれは腑に落ちないことがある。
「これ、どういう状況?」
それは、今の状況だ。
夢の中のおれはここで意識が途切れる。きっと目が覚めるのだろう。
その時、ここには居なかった女性の笑い声がかすかに聞こえた気がした。
□ □ □ □ □
「……! ……ルくん!」
□ □ □ □
「……ーよ! はよ……!」
□ □ □
「……ーい! ……寝とるんか?」
□ □
「……。もうすぐで……!」
□
「はよ、起き! ハムテルくん!」
「イテッ!」
おでこにちょっとした衝撃を感じておれの意識は急浮上させられた。目を開けると、そこには手を手刀の形にして振り下ろしたはやての姿が目に映る。
「な~にするー……」
寝起きと言うこともあっておれの言葉は情けない感じに間延びしている。
「そんなぐっすり眠れるくらいにアインスの膝枕は気持ちよかったんやな」
はやてのその言葉を聞いて今の状況がだんだんとわかった来た。今枕にしているものがフニフニで心地よい温かさだったことに疑問を覚えていたのだが、なるほど。どうやらリインさんの太ももの感触だったらしい。
だから、おれははやての言葉に修正をしなければならない。
「膝枕じゃなくて……太もも枕だろ常考」
「……それは寝ぼけとるんか? それとも酔うとるんか?」
確かにまだ寝ぼけているし、酔いも残っているだろう。そうでなければ恥ずかし気も無くリインさんの太ももを今も枕にし続けるなんてことはしない。あ~、心地よいんじゃ~。
「ええから、はよ起き!」
「あうん」
はやてはおれの両手を掴み、無理やり上半身を立ちあがらせる。かなりの勢いで引っ張られたので頭だけが置いて行かれるかと思った。そのおかげで眠気も酔いも吹っ飛んで行ってしまう。
「もう年越しそば出来たで」
「そうか。除夜の鐘も聞かないとな」
「ミッドに除夜の鐘は無いやろ。まだ寝ぼけとるんか?」
あれ? ここは海鳴じゃなかったっけ? ……ああ、ここはミッドだったな。
おれはカレンダー機能付きの時計を見る。
新暦81年12月31日午後11時40分。
つまり、後20分程で年は明け、新暦82年を迎えようとしている訳だ。
今日は大晦日と言うこともあり、普段はあまり飲まない酒を買って来てみんなで飲んだんだ。それで良い感じに酔いが回り調子良くなって、さらに飲んだような気がする。たぶん、その所為で眠ってしまったのだろう。
「何でもええけど、はよ来てな。みんなハムテルくん待ちやで」
「ああ、すまん」
そう言ってはやては年越しそばが用意されているであろうテーブルのある部屋へ行ってしまう。
「リインさんごめんな? 足痺れただろ」
おれはさっきまで枕にしていたリインさんに謝罪の言葉を伝える。いつ寝てしまったのか覚えていないが、はやてのあの言い方だとかなり長い間リインさんの太ももを下敷きにしていたようだ。
「そんなことはないさ。その間ずっとマサキが私に触れていたのだからな。疲れなどと言う物とは縁が無い」
「それもそっか」
おれをずっと膝枕をしていたという事は、おれの能力の影響をリインさんはずっと受けていたことになる。そうなると彼女の足が痺れるという事にはならないはずだ。むしろ、溜っていた疲れも無くなったことだろう。
それならば、おれは謝罪ではなくこの言葉を送らなければいけない。
「ありがとうな、リインさん」
「どういたしまして」
おれは「よっこいせ」と言いながら立ちあがり、みんなが待っている部屋へ向かおうとする。
「マサキ」
「ん?」
部屋へ行こうとした俺をリインさんが呼び止める。
「良い夢見れたか?」
リインさんはそんなことを聞いて来た。
夢か……
確かに夢を見た気がする。
運動会でラノベの主人公みたいになったり。
家族にエロ本が見つかって大変なことになったり。
何故かホモロリコンの容疑を掛けられたリ。
誰かに誘拐されて、誰かにヤられそうになったり。
そして……うーん……? 何かとてつもない一大事が起きたような気がするんだが……駄目だ。全く思いだせない。
まあ、夢なんてものはこんなものだ。何かの夢を見たことは覚えているのに内容は大まかなことしか覚えていない。詳細を思いだそうかと思ったら、次の瞬間には夢の内容を全く思いだすことが出来なくなる。
だけど、これだけはわかる。
「ああ。中々良い夢だった」
「フフッ……そうか」
リインさんはそれだけ聞くと、先にみんなが待つ部屋へ行ってしまった。
なんなんだ? よくわからないがおれもリインさんの後に付いて行く。
「遅いぞマサキ」
「すまんすまん」
ヴィータがおれに文句を言ってくる。きっとはやてのギガウマ年越しそばが待ちきれなかったのだろう。明日ははやてのギガウマ御節が待っているというのにそんなことで大丈夫か?
「アインスの膝枕はそんなに良かったか」
「やっぱりマサキは変態だな」
「ノーコメントで」
おれにからかった様子で聞いてくるシグナムさん。正直言って大変素晴らしいものでした。
ていうか、アギトちゃん「やっぱり」って何? 君の中のおれのイメージは一体誰に植え付けられた。ん? 教えてごらん。お兄さん怒らないから。教えてごらん。
「む! キミテルさん! お姉ちゃんの太ももの一人占めは許せません!」
「じゃあ今日はリインさんの太ももをベッドにして寝るといいよ」
「それはいい考えです!」
リインちゃんが「天才か!」って顔をしておれのことを見てくる。だけど、それだとリインさんが寝がえりをうつと、リインちゃんがプチッといっちゃう気がするのだが……言わないでおこう。
「同志マサキは膝枕をお望みですか? それなら私の太ももをいくらでも貸し出しましょう」
「あっ、ドゥーエさんは……遠慮しておきます」
「? 何故です」
何故かドゥーエさんには近づいてはいけないような気がするんだ。何故だろう……
「早く座れ」
「……はい」
ザフィーラさん……
なんか……すいません……
「みんなー! これで完成ですよー!」
キッチンの方から薄くスライスされたかまぼこを持ったシャマルさんが現れる。そして、手に持ったかまぼこを年越しそばの上に一つ一つ置いて行く。
シャマルさん……いや、最後の作業は大切だよな。画竜点睛って言うし。年越しそばにとってのかまぼこは、絵に描いた竜にとっての目玉と同じくらい大切だもんな。
「な、何ですか! みんなそんな目で見て!」
シャマルさんは座っているみんなの生暖かい目に釈然としない様子をしながらも自分の席につく。
「はいはい、みんな座ったな?」
最後に八神家の家長であるはやてが席につく。
「今年も色々あったな~私もお腹刺されたりしたし」
「流石にあれは肝が冷えたぞ。もうあんなことは勘弁してくれ」
はやてが刺された件は今年を代表とするような大事件と関連しているのだが、この事を話すのは今は止めておこう。
「でも、何があってもハムテルくんが助けてくれるやろ?」
「おう。おれの目の届かない所で死なれない限りは、絶対に助けてやるよ」
と、意気込んで言ってみたものの、言ってからだんだん恥ずかしくなって来た。
「お、もうすぐで今年も終わりや。みんな、準備はええか?」
はやての言葉にこの場に居るみんなが「もちろん!」と返す。
時計を見ると、今年ももう残り数秒だ。そんなことを考えているともう来年が今年になり、今年が去年になる。
「「「「「「「「「ハッピー! ニューイヤー!」」」」」」」」」
これは去年の終わり。
そして、今年の始まり。
また今日から新しい日常が始まる。
この話は
これからは
それは小さな切っ掛けなのかもしれない。
しかし、小さな切っ掛けは大きな結果をもたらす最初の一歩だ。
これは、変なところでヘタレる主の少女と恩人であり元パートナーだった少年の関係をちょっとだけ後押ししたいと思った、一人のユニゾンデバイスによるお話。
おわり。
「なあ、はやて」
「なんや?」
そばを食べ終わり、おれが淹れた紅茶を飲んで一息付いているはやてにおれは言う。
「髪、伸びたな」
「そうやな~。ええ感じやろ?」
はやてはそう言いながら伸びた髪を指に絡めてクルクルと弄る。
かつては肩に届くか届かないか位であったはやての髪は、今や肩を少し超え、肩甲骨の辺りに届く位になっている。
今まで特に気にしていなかったが、今日はやけにはやての髪が気になった。
確かにはやての言う通りだ。不覚にも良いと思ってしまったのは事実である。
「まあせやろな。公輝くんの好みにドストライクやもんな?」
「何で知ってるんだよ!」
しかし、そう言った時のはやての笑顔を見ると細かいことなんてどうでも良くなってしまう。
これは家族の弱みなのか。
それとも男の弱みなのか。
はじまる?
はい! これで終わりです!
伏線も何もあったものじゃなかったですけど、とりあえずこのお話はおしまいです。こんな幕引きですみません! 許してください! 何でもしますから!
まあ、それは置いておいて。
みなさん、最後まで読んで頂きありがとうございました。
一応この先のお話も想定しております。
↓
公輝たちは今年で26歳になる。周りの同僚達もどんどん結婚していき、「自分もそろそろ……」と焦りだした青年達。
そんな中、リインフォースの後押しもあって公輝ははやてのことを意識し始める。しかし、はやて本人はその変化には気付かず、相変わらずヘタレてしまう。一方、なのはとフェイトは公輝の変化に何となく気がついていた。
二人の少女は親友の二人をくっつけようと画策するのであった。
歳を取ることで様々な知識(性知識とか)を得たかつての少女達。子供(夢)時代とは比べ物に成らないほどの苛烈なアピールを公輝は捌ききることができるのか!?
魔法恋戦記リリカルまさき
はじまる?
↑
書くかどうかの予定は全くの未定です。面白いアイデアが思い浮かべば書きます。
どう見ても二期があるかのように終わったけど、円盤が余り売れなかったアニメの二期を期待するくらいの感覚で期待していてください。
お疲れ様でした。