こんなの非日常   作:はなみつき

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え?似たような話を読んだ?
それは夢だからセーフ


映画と恋愛アドバイザーと2話

 それは、ある日の夕食後のお茶の時間のことだった。

 はやてが二枚の縦長の紙をひらひらとこちらに見せつけてきたのだ。

 

「映画のチケットか?」

「そうや、今話題の4DXやで。中々ええ席の予約が取れたんよ。一緒に行かへん?」

「何!? 本当か! 行く行く!」

 

 はやてが唐突にこんなことを言い出したものだから始めは何か企んでいるのではと怪しんだのだが、はやてが4DXと言った瞬間に肯定の意を示す。

 うん、我ながら現金な奴だと思う。でもさ、普通ならはやての誘いに何の疑いもなく乗るよ?

 だけど、はやての顔をよーく見て欲しい。

 瞬きの回数がやけに多いことが見てとれる。この癖が出ているときは大抵何か焦っているか緊張しているかだ。そこから考えられることは映画のチケットを餌におれに何かして欲しいのだろう。

 はやての立場上お金は使いきれないほど稼いでいるから、おれの財布を当てにすることは余り無い。無いわけではないが。おおよそ、おれをつれ回して荷物持ちにでもする腹つもりだろう。

 まあ、今話題の映画のためだ。荷物持ち位喜んでやらせて貰おうじゃないか。

 荷物持ちとなる覚悟を決めたおれはふとあることに気が付いた。

 

「あれ? 二枚ってことは…… おれとはやてで行くのか? ヴィータも見たがってただろ」

 

 ちなみに、その映画は女子高生が戦車を乗り回して日本一になる物語だ。

 ヴィータもこれのテレビシリーズを見ていたし、映画化が決定しておれとはやてとヴィータの三人で喜んだことも記憶に新しい。

 ヴィータも映画を見たいはずなのだ。

 

「あ、あたしは別にいいよ…… うん、二人で行って来いよ(震え声)」

 

 なんであいつ声震えてるんだよ。絶対見たいんだろ。

 怪しい…… 怪しいが、特に理由も思い付かない。

 まあ、ヴィータがそう言うなら遠慮無く楽しませてもらうとしよう。

 

「それじゃあ、次の休みに地球に帰るか」

「うん!」

 

 

 そう言うと、はやては満面の笑みを浮かべて返事をするのだった。

 

 

 

 すごい嬉しそうだな。映画が楽しみな気持ちはよくわかるぞ。

 おれも楽しみだ!

 

 

 

 

 

 

 よし!

 

 ハムテル君とデートの約束を取り付けることに成功した私は心の中でガッツポーズをとる。

 そう、デートだ。相手がデートと認識してへんことはわかっとる。やけど、この小さな積み重ねが大事だってなのはちゃんとフェイトちゃんが言っていた。

 ……冷静に考えると全く当てにならん気がしてきたわ。

 

 とは言え、二人のアドバイザーは本気で手伝ってくれるみたいやし、ちょっち頑張ってみようかな。

 

 私は二人と話したときのことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい二人とも。すぐにお茶用意するね」

 

 今日は仕事はお休み。

 なのはちゃんとフェイトちゃんも休みが重なったということで、久しぶりに三人でお茶会をやろうということになった。

 そう言うわけで、私は手早くそれでいて出来るだけ丁寧に紅茶を淹れ、御菓子も持って二人のもとへ行く。

 家に紅茶教の信者が居るせいで私まで紅茶の淹れかたに気を使うようになってもうた。

 

「お待たせー」

「ありがとう」

「良い香りだね」

 

 紅茶とお菓子をテーブルの上に置き、ゆるーいお茶会ということで始まりの挨拶とかそんなものは無く、思い思いにお菓子をつまみ紅茶を飲み始める。

 

「……」

「……」

「……すみませんね、同居人が淹れる紅茶程美味しくのうて」

「そ、そんなことないよ! はやてちゃんの淹れてくれた紅茶もとっても美味しいよ!」

「なのはの言う通りだよ、はやて! ただ、ちょっとマサキが淹れてくれる紅茶は美味しすぎるだけで、はやての紅茶もとっても美味しいよ!」

 

 私のちょっとした意地悪に二人はあたふたしながら私に対してフォローをしてくれる。

 実際あいつが淹れてくれる紅茶は美味しいから困る。ミッドチルダに引っ越す前になのはちゃんのお父さんが割りと真剣にあいつを店で働かせようと勧誘していたのも今となっては懐かしい。

 

「正直、紅茶に関してはお父さんが淹れてくれるものでも満足出来なくなっちゃったんだよね」

「あはは…… 私も自分で淹れては首を傾げながら飲んでるよ」

 

 どうやら私も含めてここに居る全員があいつの(紅茶)でなければ満足出来ない体になってしまっているらしい。

 

「今日公輝君は居ないの?」

「うん、街に遊びに行ってるで。何や、ハムテル君に用事でもあるん?」

 

 なのはちゃんがあいつの不在を確認すると、フェイトちゃんと向き合って頷き合う。一体なんなんやろう?

 取り合えず私はクッキーに吸いとられた口内の水分を補充するために紅茶を一口飲む。

 ……うん、やっぱりなんか物足りんな。

 

「単刀直入に言うね。はやてちゃんは公輝君のことが好きだよね」

「……ッ!?!?!?!? げほっ! げほっ!」

 

 なのはちゃんの思わぬ発言に飲んでいた紅茶を口からぶちまけそうになる。やけど、何とか堪えて吐き出す前に飲み込むことに成功する。お陰で紅茶が変なところに入ってもた……

 

「はー、ビックリした。もう、突然何言うてんねん。そんなことあらへんよ」

 

 本当の所はそんなことある。

 

 それでも、「はい、そうです」と正直に答えるのは恥ずかしすぎる。ここは嘘をつかせてもらう。

 しかし、長い管理局で培った本音を隠して冷静な返しは流石やと自分で自分を褒めてやりたい。

 

「ねえ、はやて、知ってる? はやては嘘をつくと頬にえくぼが出来るんだよ」

 

 ななななんやて! いや、そんなことは無いはずや。そう、これは私にえくぼが出来ていることを確めさせるためのブラフ。ふっ、そんな単純な罠に引っ掛かる程私は甘くはないで。フェイトちゃん!

 

「はっはっはー、嘘嘘。そんな適当言うたって私は騙されへんで」

「うん、そうだね。今のは嘘。でもね、はやてちゃんって、慌てたり、緊張したりすると瞬きの回数が増えるんだよ。これはホント」

 

 ホゲー。

 そ、そんな癖が有ったんか…… 確かに、思い返してみるとえらい瞬きをしている気がする。

 

「ね? はやてちゃん、隠すことはないよ。はやてちゃんの気持ちはみんな知ってるから。思われてる本人以外は……」

「そうだよはやて。それに、私たちの仲で隠し事は無駄だよ? 本人は気付いてないっぽいけど……」

 

 え…… そんなにバレバレやったんか。

 て言うか、そんなバレバレやのに私の気持ちに気付かんあいつって…… 鈍感はラノベの主人公の特権やっちゅうに!

 て、現実逃避しても駄目か。

 うーん……

 

 ……

 

 しゃーない。

 

 二人にはもうバレとるみたいやし、パーっと本音明かそう。

 

「確かに、私はハムテル君のことが…… す、好きやと…… 思う……」

「「うん、やっぱりね」」

 

 何これ。何これ?

 めっちゃ恥ずかしいんやけど。

 なんや二人がめちゃくちゃ優しい目でこっちのことを見てくる。そんな目で見られると、何て言うか、困るわ。

 

「やっと素直になったね」

「はやてとマサキのやり取りを端から見てるとじれったくて仕方なかったからね」

 

 やめてー! そんなふんわりとした笑みを浮かべながらこっちを見ないでー!

 まるで恋する娘を見る親の様な眼差しをされると恥ずかしくてしゃあないわ!

 あー、顔があっついわー……

 

「そう言うわけで! 私とフェイトちゃんではやてちゃんの恋路を協力しようってことになったの!」

「はい?」

 

 どういうわけでそうなるんや。

 

「はやては心配しないで大丈夫。私となのはではやてを全力で応援するから」

 

 心配しかないんやけど。

 なんたってこの二人の恋愛経験は……ん?

 

「もしかして、二人とも私で遊んどるんちゃうか?」

「「……」」

 

 あ! 絶対にそうや!

 自分等が恋愛とかそういうことに全然縁がないから、私を恋愛ゲームの主人公に見立てて楽しむ気やな!

 

「そ、そんなことないよ。私たちは二人が幸せになれたらなーって」

「うんうん、そうだよ」

「……ホンマかいな」

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんのことをジトーっと見つめ続ける。しかし、今度は二人とも慌てた様子は見せず真剣な表情でこちらを見つめてくる。

 

「はあ……わかった! こうなったら二人には最後までつきおうてもらうで!」

「任せて!」

「私も頑張るから!」

 

 こうして私に二人の恋愛アドバイザーが着くこととなった。

 それにしても、二人とも恋愛経験はないはず。

 

 ……

 

 不安やわぁ。

 

 とりあえず、私はなのはちゃんが提案した『予定を立てやすく、自然と近くに相手に寄り、さらに誘いやすく、何度でも楽しめる』と言う様々なメリットを持つ映画デートを採用することにした。

 

 ちなみに、後で『映画館 デート メリット』でグーグル先生に聞いてみたらなのはちゃんが言ってた事そのまんまの記事があったのは余談や。


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