「じゃあすずかさん、明日来るからまたその時はよろしく」
「私からもよろしゅうな」
「もちろんですよ」
現在地点はすずかさんの屋敷の門前。
おれとはやてはすずかさんに挨拶をして目的地である映画館へと赴こうとしているところだ。
何故すずかさんと挨拶を交わしているのか? それはミッドチルダと地球をつなぐ地球側のポートが設置されている場所の一つがすずかさんの家だから。別にアリサさんの家に設置されたポートを使っても良いのだが、特に深い意味もなく今回はすずかさん家のポートを使わせてもらった。
さて、そんなことは置いておいて、早く出発しよう。
そう決意したおれはポケットからキーを取りだして「
「あれ? 公輝君、それって……」
ふっふっふー。
よくぞ聞いてくれましたすずかさん!
おれの隣に現れた『それ』を見た人は皆揃ってこう言うだろう。『原付』、と。
おば様達がちょっと買物に行くときによく使うスクーターでもない。(スクーターも原付ではあるけどなんか違うじゃん?)
ちょい悪のおじ様が革ジャンを羽織って乗り回すバイクでもない。
そう、それはThe・原付。原付of原付。
スクーターの様にシンプルでシュっとした見た目をしているわけでもなく、バイクの様に厳つい機械という印象を与えることもない。ちょうどその中間に位置しているかのような見た目。それがこいつ。
その原付の中でもこの機種は指折りの耐久性を誇り、サラダ油を入れても動いたなどと言う笑い話(本当かも知れない)が存在する。
その質実剛健という言葉を体現したような原付の名は!
「カブだね」
そう、カブ。
すずかさんの言うとおり、
日本で最も有名な原付と言っても過言ではないのではなかろうか。
しかし、こいつはただのカブではない!
「それって、デバイス?」
「デバイスではないよ。ミッドの友達にちょこっと弄って、便利にしてもらったんだ」
地球でカブを購入したのち、スカさんの所に持ち込んで改造してらったのだ。スカさんの改造によって魔導師が持つデバイスの様に持ち運びが楽ちんである。一体この質量がどういう仕組みでキー一本分になっているのかは突っ込んではいけない。魔法世界驚異の技術だ。
さらにそれだけでなく、デュエルディスクを取り付けることによってライディングデュエルが可能となる。
しかも脳波コントロールできる。(ライディングデュエル中の操作は基本的にオートパイロトだが、例外的な操作をしたい時はハンドルやアクセルを使用することなく脳波で全て行える)
違法改造なのでは? と、考える人もいるだろう。外見はデュエルディスクを取り付けなければ通常のカブと変わらないし、走行という観点で性能は一切変わっていないから大丈夫。たぶん。メイビー……。お巡りさんに止められてもこいつの中まで検められることはないだろう。
ところでお気づきだろうか?
このスーパーカブ110改め、スーパーカブ110
こいつで空を飛んで逃げ回るフッケバイン一味に対し、
まあ、どうでもいい話か。
「ほれ、はやて」
「ん」
はやてにジェットヘルメット渡し、おれ自身もヘルメットをかぶってからカブDWのエンジンをかける。セルスイッチを一回ポチっと押すだけでコイツは軽快なエンジン音を奏でる。
うん、問題はない…… 調子はいいみたいだ。
「それじゃあ行ってきまーす」
「ほんなら行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい」
はやてはタンデムシートに座ると、片足をステップに乗せる。腕はおれの腰に回して落ちないようにしっかりと固定する。
おい、はやてよ。今は止まってるから良いけども、走行中におれの腹を摘まんだりくすぐったりするんじゃないぞ? こけるぞ。こけたら最悪お前のキレイな肌がおろし金でおろしたみたいになるからな。
……よし、出発だ!
ギアをニュートラルから1速へ上げ、右手のグリップを軽くひねるとおれたちは目的地へと走り出した。
「……大丈夫かなぁ」
すずかさんの声はアクセルによって唸りだしたエンジン音と風の音にかき消されておれには聞こえなかった。
☆
目的の映画館は海鳴から少し遠い街にある。今回観る予定の映画は通常の映画ではなく、映画の状況に合わせて観客たちもそれを体感して実感できる4DXだ。4DXは特別に整備された映画館でしか観ることが出来ず、基本的に観るためには都会にある大きな映画館まで足を運ぶしかない。
つまり何が言いたいかというと、残念ながら海鳴には4DXを備える映画館が無かったのだ。
すずかさん宅を発ってしばらく。隣町へと続く県道に出たところで後ろにいるはやてが念話で話しかけてくる。
念話、良いよね。エンジン音にかき消されないように大声を張る必要もないし、メットの中にインカムを仕込む必要もない。バイカーは全員念話を使えるようになれば便利だと思うよ。
『それにしても、ハムテル君バイクの免許なんて取ってたんやな』
『おう。昔からカブには乗って見たくてな。それにどうせなら原付二種の方が色々と都合が良いから頑張ったぜ』
原付二種は原付以上、所謂普通のバイク以下に位置する原付だ。原付二種に乗ることが出来ればスピードは60キロまで出せるし、面倒な二段階右折はしなくていいし、タンデムだって許されている。手軽さと利便性を兼ね備えたサイキョーの二輪だとおれは勝手に思っている。
『それにしても、車の運転は渋っとったのに、二輪はいけるんやな』
『……いや、普通にめっちゃ怖い』
はい。ここまで色々と原付二種の良さについて語って来たけど……うん。やっぱ公道を走るのはクッソ怖いわ。
法定速度まで出すことが出来るから後続車に追い抜きを掛けられることはよっぽどのことが無い限り無いんだけれども、生身で60キロを感じるのはすっっっげぇ怖い。何て言うか、速さをその身で感じる。フェイトさんとかこれ以上の速さで空を飛んでるような気がするけど、怖くないんだろうか?
とはいえ、そうは言っても何だかんだで速さにはすぐ慣れるものだ。走り出しは若干ビビッたけども、今は大分周りを見る余裕も出来ている。では、何が怖いのかというと……
(タンデムこええええええええええええええええええ!!!!)
タンデム。二人乗りともいう。タンデムシートに人を乗せて走行するのはかなり怖い。
後ろに数十キロもある人間を乗せていると原付のケツが重くなる。バランスがいつもと違って操縦にすごい違和感がある。
そして、うっかり車体を傾けすぎると二人仲良く投げ出されておろし大根……いや、おろし人間になってしまう。おれだけなら兎も角、同乗者を怪我させる危険性があるのはヤバイ。おれが居れば傷もきれいさっぱり無くせるとはいえ、転んだ瞬間はどう考えても超痛い。
ギャン泣きする自身もある。……ギャン泣きで済めばいい方だ。
『大丈夫かいな?』
『大丈夫だ、問題ない』
『めっちゃ不安になって来たわぁ……』
免許取得後1年しないとタンデムが許可されない理由がわかるなぁ。
何だかんだ言いながらと、おれたちは目的地へと進む。車の通りが少ないのが幸いだった……ッ!?
何事!?
タンデムの感覚にも慣れ始め、このまま何事もなく目的地に到着できますようにと心の中で祈っていた時、急にはやてがこれまで以上に身体を密着させてきたのだ。
ヤ、ヤメロ! 突然座る体勢を変えるんじゃない、はやて! 突然のバランスの変化に戸惑うわ!
『……ど、どうや?』
「何が!?」
思わず念話ではなく口に出して聞き返してしまう。それくらい動揺しているのだ。
やっば、背中に冷汗かいてきたわ。
『気持ち良い感触が、……あるやろ?』
はい!? 何の事!? 風の感触の事か?
今そんなものを味わっている余裕は……
「ない!」
「……」
よ、よ~し……いいぞ。今のバランスにも慣れて来た。
よしよし、おれは着実に上達している。
「……ふん!」
「あびゃ!」
おれの背中から体を離したと思ったら突然背中を叩くはやて。
マジでやめて! シャレにならん! 転んでもおれは知らんぞ!?
あ、出発前にミラーで見えたすずかさんが心配するような表情をしてた理由が分かった。
おれ操縦のタンデムを不安に思ってたんだわ。
★
なんやかんやありながらも、私達は目的の映画館がある大型ショッピングモールに到達することが出来た。
「何事も無くてよかった」
「……せやな」
そう。こいつの言う通り何事もなく目的地に来ることが出来たんわええんやけど……。
こいつ! あろうことかタンデム中に私が『当ててんのよ』したったのに、その感想が「ない!」やで! 誰がない乳や! なのはちゃんよりはあるわい! フェイトちゃんには負けるかもしれんけど……ほんま信じられへんわ。
タンデムって言うたら、もっとこう……二人の身体が密着することでドキドキワクワクするもんとちゃうんか!?
勇気出して抱き着いた私がアホみたいやん!
私は駐輪場にカブを止めて二人分のヘルメットをハンドルにひっかけているこいつにじっとりとした目線を向けてしまう。
「ん? 何?」
全く……まあええわ。
今回の目的は映画や。タンデムは前座にすぎひんのやからな!
「ハムテル君の背中が汗でぐしょぐしょで気持ち悪かったなって思っただけや」
「……それは許して」
落としどころは考えてます。
あとは間の話を思いついたら適当に書いていきますよ。