こんなの非日常   作:はなみつき

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作者曰く、

ちょっとやり過ぎた感はある(ブラックコーヒーを飲みながら)。


持久走と体育祭と4話

「ああ、疲れた……疲れた……」

(公輝の口から疲れたという言葉が出るとは、珍しいこともあったものだ)

 

 なのはさんとタッグを組んだ二人三脚を終え、おれは次の種目である持久走の参加者が集まる場所に来ている。

 

「疲れてないけど疲れた」

(意味が分からんぞ)

 

 おれの能力があれば体力的な意味で疲れるということはない。おれに密着していたなのはさんも、疲労を感じることなく快適に走ることが出来ただろうさ。しかし、問題は肉体ではなく精神。おれが感じているのは精神的疲労だ。

 

「観客全員に「ガンバレー」って言われるのは結構来るものがあるって初めて知ったわ……これからはああいう場面で、おれは「ガンバレー」って言わないことにしよう」

(空気の読めない男の出来上がりだな)

 

 例え周りに空気が読めない認定されようと、おれは決めた。絶対に決めたんだ。

 おれは運動会で一番遅れている子に声援を送っている人たちに声を大にして言いたい。

 

 言われている方の気持ち分かって言ってんの?

 

 と。

 周りにいる人たち×2個の眼球が放ってくる生暖かい視線、一生懸命走っているとき特有の自分を包む膜の向こう側から聞こえてくるような声援、ゴールした時にはその頑張りを称えた拍手の3連コンボ。このコンボにやられておれとなのはさんは顔真っ赤だったよ。

 しかも、今回は可愛い女の子がぴったりくっついている状況もプラスされて、3連コンボの効果は2倍に増幅! おれのS(pirit)P(oint)はもう0だよ……

 

「はぁ、もういい、切り替えよう。次は個人競技だから大丈夫だ」

 

 おれは次の持久走でグループ1位を取ることを心に決める。

 

「あ、公輝。早いね」

「ん? やあ、フェイトさん。退場門を出てすぐに入場門に来たからな」

 

 そう言ってきたのはフェイトさん。フェイトさんも持久走の参加者だ。

 ちなみに、入場門と退場門は同じものなので、退場門から出た瞬間に入場門に来たことになるのである。

 

「あはは、なるほどね。あ、もう入場だって。お互い頑張ろうね」

「おう、頑張ろうぜ」

 

 おれたちは入場門を通り、運動場に入る。

 

 

 

 

☆~第5種目持久走~

 

 

 

 持久走の参加者は各クラスの紅組と白組から一人ずつ選出する。1学年4クラス×2人×3学年ということで総勢24人。これを前半グループと後半グループの二つに分けて走るのである。おれもフェイトさんも前半グループだ。

 

(ふふふ、おれの体力回復持久走術を見せてやる)

(おい、それは卑怯だろ)

 

 リインさんがなんか言ってるが気にしない。

 持久走で一番大切なことは走る速さではない。それは体力、および体力管理だ。短距離を走るように持久走を走ったら体力が持つわけもなく、だからといって体力を出し惜しみしていたら上位になることはできない。だが、おれなら体力が減ってもすぐさま回復するため、体力の減りは考える必要はない。つまり、ずっと短距離走を走るようにして走り切ることが出来るのだ! まあ、そうするためには常に体力満タンの自分をイメージしながら走らないといけないが、そんなことは造作もないことだ。

 

「位置について……ヨーイ……」

 

 パン!

 

 そうこうしているうちに体育委員がスタートの合図をしてピストルを鳴らす。おれは体力なんか気にせずスタートダッシュを決める。他の走者は体力を温存する為か、あまりスピードは出していない……いや、あれは!

 

「公輝、良いペースだね。私も負けないよ!」

 

 おれのすぐ横にピッタリとついて並走するのはフェイトさん。そこそこのスピードを出しているにもかかわらず、息を切らせる様子もなく、おれに話しかけるという余裕まで見せつけてくる。

 

「な、なかなかやるなフェイトさん。だが、おれだって負けん!」

 

 フェイトさんの余裕さに少し顔が引き攣ってしまう。

 最初から全力全開では他の走者に申し訳ないと思って少しセーブしていたが、フェイトさんがここまでやるというのならそんなことをしている余裕はない。リミッターを外させてもらう!

 

「公輝もやるね。私だって!」

 

 第2コーナーに入るところ辺りでフェイトさんも抑えていた力を少し出したようだ。今おれが走っている速さより少し早い程度だ。

 

 は、速い……このままでは……

 

 

 

 

 

 

「ま、負けた……」

(プギャー)

 

 くそぉ、ふざけた顔で指さしてくるリインさんの顔がありありと思い浮かぶ。

 体力チートを使っても持久走でフェイトさんに勝つことが出来なかった。体力はおれの方が多いはずだ。となると、やはり原因は……

 

「おれの50メートル走のタイムが9秒台ということか」

(公輝、さっき持久走で速さは関係ないとか言ってなかったか?)

 

 違うよ! フェイトさんが規格外過ぎただけだもん! おれに落ち度はないはずだよ! 

 

(卑怯な手を使ってこの様ではな)

 

 すごい言われようである。まあ、卑怯というのは否定できないが。

 

「お疲れ様。もう少しで抜かれるかと思ったよ」

「お疲れ」

 

 御冗談を。持久走の後半でも、少し汗をかきだした程度で、まだまだ表情からは余裕がにじみ出ていましたよ、フェイトさん。

 

「ほら、そこにいたら邪魔になっちゃうよ?」

「うん」

 

 そう言ってフェイトさんはおれに手を差し出してくる。現在、おれは退場門を出たところでフェイトさんに圧倒された事実に改めて衝撃を受け、崩れ落ちて四つん這い状態である。ここにいたら邪魔になることは分かっているのだが、体が動かない。想像以上にショックだったようだ。

 おれは立ち上がるためにフェイトさんの手を取ろうとするが、

 

「おーい! フェイトー! お兄さーん!」

 

 後ろからそんな声が聞こえてくる。

 この元気溌剌な声と、おれのことをお兄さんと呼ぶ人物は……

 

「あ! お兄さん、それは私に乗れってことでしょ? 行くよー、それー!」

「グハッ!」

 

 後ろからやってきたのはアリシアさんだ。今日はプレシアさんやリンディさんたちと体育祭の見学に来たのだろう。アリシアさんも私立聖祥大附属小学校に通っている三年生である。かつてのなのはさんやフェイトさんのように地球の学校に通いながら管理局の仕事をしている。プレシアさんの技術者の面を色濃く受け継いだアリシアさんは局で有望視されている人物の一人である。

 話がそれてしまったが、おれは現在ヨツンバイン状態、目の前には中腰になっておれに手を差し伸べているフェイトさん。そんな状態のおれに後ろからアリシアさんが突っ込んで来たらどうなるのっと。当然前方に倒れこむ。直立しているフェイトさんなら受け止めることもできただろうが、フェイトさんは中腰状態。そうなると、倒れ掛かってくるおれを受け止めることが出来ず、当然フェイトさんも巻き込んで転倒。

 

「ま、公輝……」

 

 頭の上から聞こえてきたのはフェイトさんの戸惑ったような声。顔を動かそうにも、なにか柔らかいモノによっておれの顔が固定されているため、動かすことが出来ない。この柔らかいモノはなんだ? …………こ、これは……

 

「ちょちょちょっと待って待って! 顔動かさないで! くすぐったいよ!」

「あれー? フェイト顔真っ赤だよー?」

 

 おれの頭の上で交わされる会話。今彼女たちがどんな顔をしているのか確認することはおれには出来ない。なぜならば、おれの頭部はフェイトさんの御足、ふとももに挟まれているのだから。

 

「むわあああぁぁぁぁ、アイイアさん、どいてくえええぇぇぇ(むわあああぁぁぁぁ、アリシアさん、どいてくれええええぇぇぇぇ)」

「公輝ぃ、動かないでぇ……」

「え? 今お兄さんなんて言った? アイエエエエ? 私は忍者じゃないよ?」

 

 おれの上にはアリシアさんが乗っかっているため、動いてフェイトさんの太ももから脱出することもできない。フェイトさんも慌てているようで、動いてこの状況を脱出しようとしない。

 

 周りの生徒が何故か手助けしてくれなかったため、この状態のまましばらく動くことが出来なかった。おれははやて、なのはさんを念話で呼び、助けを求めた。助けに来てくれるまでできるだけ動かないようにし、息もできるだけしないようにして、フェイトさんの太ももの感触をばれないようにひっそりと楽しんでいたのはおれの中だけの秘密。

 

(サイテー)

 

 どうやらリインさんにはばれていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……男の子にあんなことされちゃうなんて……でも、公輝は何も悪くないよね。うん、姉さんが全部悪い」

 

 私はさっきのことを思い出すと、顔が再び熱くなるのがわかる。

 

 坂上公輝

 

 彼には大きな恩が沢山ある。友達を助けてもらい、母を助けてもらい、姉を助けてもらった。そんな男の子に私が恩以外の特別な感情を抱くのは、そう時間はかからなかった。

 

「でも、私なんかじゃ……」

 

 私が抱いている感情と同じものを抱いている人を私は知っている。たぶん、その人は私より先に、私より強く、私より大きな感情を抱いている。

 

「ダメだよ……」

 

 人通りが少ない場所に設置されたベンチに座る少女。誰にも聞かれることはないと思っていた呟きは、おせっかいな母と姉以外の人に聞かれることなく消えていく。

 

 




体育祭編終わったら本編書きます。

追記
アリシアがミッドの学校に通っている設定を私立聖祥大附属小学校に通っている設定に変更しました。
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