「もう、疲れたよ……リインさん……」
(私はお前と心中するのはごめんだぞ)
つれないなぁ、リインさん。少しはおれを元気づけてくれたっていいじゃないか。
「……だああああ!! もう、なんなんだよ! どこのラノベの主人公だおれは! 普通に過ごしててクラスメイトの太ももに顔を挟まれる事態になるとか、おかしいだろ!」
(でもお前そういう小説好きだろ?)
え、あー、まあ……好きだけどさ……ああいうのは自分がやるものじゃないのよ。自分と関係ない誰かがやっているのを外から見るから面白いのであって、自分が当事者になったら胃が爆発すると思う。
「はあ……フェイトさんと顔合わせ辛くなっちまったよ……」
(フェイトも、アリシアの所為だということは分かってくれるだろう。気にすることはあるまい)
……そうかな……そうだな! うん、気持ちを切り替えよう。切り替えは大事だよな。
「はやてのギガウマ弁当も食ったことだし、昼の部も頑張るとしよう」
持久走が終わった後、保護者席で見学していたヴォルケンズが確保していた場所に敷いてあるブルーシートに向かった。そこにはすでにはやてがおり、弁当を広げているところだった。弁当の内容はからあげ、たこさんウインナー、卵焼きなどの「運動会と言えばこれ!」って感じの弁当だった。
ただ、一つ気がかりだったのが、はやてのニヤニヤが浮かぶのを必死に抑えながらも、ちょっとピリピリした雰囲気を放っていたことだ。すごい変な顔になっていたのだが、言わないでおいた。何か言ったらどつきまわされそうな感じだったからな。ヴォルケンズ全員がはやての弁当を食べながら冷や汗を垂らしていたことを、おれは知っている。
「よし、次の競技も頑張るぞっと」
(次は何が起こるんだろうな。結構楽しみにしているぞ)
何も起こらないし、起こらせやしない!
☆~第7種目借り物競争~
昼の部第1種目である借り物競争。走者はスタート位置から30メートル先の机の上に置いてあるお題が書かれた紙を一枚手に取る。お題通りのものを学校の敷地内から調達して行き、ゴールの場所にいる体育委員の人に判定してもらう。その判定でOKとでれば、ミッションクリアだ。
「よ、よし。おれと一緒のグループの人は全員男だ。持久走の時みたいな、あんなことは起こらなさそうだ」
(チッ)
おれの安堵したような声に対して、リインさんが舌打ちをかましてくる。リインさん、一体どんなのを期待していたんだ。
そんなくだらないことを考えていると、おれのグループが走る番が来た。今度こそ一番取ってやるぞー。
「位置について、ヨーイドン」
体育委員がそう言うのを合図に、おれたちは課題の紙が置いてある机に一斉に走り出す。勿論、おれも例にもれず机に向かい一直線に走る。
「どれにするか……」
紙は机の上にきれいに横一列に並べられており、このきれいな列を崩すのは個人的には惜しく思う。
(そこはあえて少し右側にあるやつにしよう)
と、リインさんが助言してくる。それならば……
「せっかくだからおれはこの目の前の紙を選ぶぜ」
おれは捻くれたリインさんと違ってまっすぐな人間なのさ。
(公輝……後悔することになるぞ(適当)……)
また、リインさんは適当なことを……
「さてさて、問題のお題はっと……は?」
は?(疑問)ではなく、は?(威圧)である。
『お題:彼女』
こ、こいつ……彼女いない歴23年のおれに喧嘩売っていやがるな。後7年で魔法使いに成れるっての……あ、もう魔法使いだった。誰だ、こんなお題考えたやつは。なで回してベロンベロンにさせてやる。
(で、どうするんだ? 審判に正直に「彼女いません」って話すか? プッ……)
(うぎぎ……)
リインさんが言っているようにするのが一番正しい行動なのは分かっているのだが、ああ言われてしまっては何としてでも彼女を連れていきたい。だが、そうなると一体誰を連れて行くかということだが……
(はやてでいいか)
(主を偽彼女にするんだな。まあ、お前ならそうするとは思っていたが、無難すぎるな。つまらん)
別にリインさんをつまらせようと思ってやってるわけじゃないし。
小学生の時からおれとはやては彼氏彼女の関係なんじゃないか? と言われて、よくからかわれた。苗字が違うにもかかわらず、同じ家に住んでいるということもあってその噂は七五日以上の長い間言われていることもおれは知っている。この件で噂が再燃焼しても慣れたものだから、はやてがどう思うかは置いといて、おれは気にしない。そもそも、判断役がおれの知らない人ならこの話は広がらないだろう。わざわざ知らない奴の彼女が誰とか噂を流すもの好きはいないだろうしな。おれの知り合いがたまたま借り物競争のゴールの判断役なんていうことはそうそうないだろう。
(さてと、はやては今どこにいるのかな……ん? ん!?)
はやてを見つけるために辺りを見渡していたおれは重要なことに気が付いてしまい、思わず二度見してしまう。
(ジュ、ジュンがゴールの判定役……だと……)
(ん? ああ、あいつは公輝の友人だな。そして、主達に何やら熱い視線をいつも向けている輩だな)
彼の名前は佐藤潤一。おれが学校で一番良くつるんでいる男友達だ。あっちがどう思っているかは知らないが、おれは奴のことを親友だと思っている。あいつと一緒に話していると面白いし、やるゲームもほぼ一致しているので、しばしば遊んだりしている。しかし、あいつには欠点……というのは少し違うが、奴と付き合ううえでちょっと困った点がある。それは、あいつは、はやて、なのはさん、フェイトさん、アリサさん、すずかさんの五人のことが大好きなのだ。それの何が問題なのかって? 大問題だ。おれがはやてと仲が良いのは当然だし、色々あってなのはさんとフェイトさんと仲良くなり、そのつながりですずかさんやアリサさんとも仲良くなった。そうするとどうなるか? 男の嫉妬程見苦しいものはないとだけ言っておこう。ジュンにはあの五人とはちょっと仲が良いだけでそういう関係ではないということを必死に説明して納得してもらったのだ。
お題→彼女で彼女=はやてと言う答えをジュンに見せたらどうなるか。ちょっと想像したくない。折角納得してもらったのに元の状態に戻ってしまう。おれが席を離れるたびに、机の中の時間割通りに並べた教科書の順番をバラバラにされたり、おれがいつも机の左側に掛けているカバンを右側に掛け替えたりと、色々な嫌がらせをまたされるかもしれない……面倒くさい奴である。だめだ、はやてを彼女として連れて行くことはできない。
…………もう適当でいいや……
(シャマルさん、ちょっとおれの彼女の振りしてくれませんか?)
(え? 私でいいのなら、いいですよ~)
念話でシャマルさんに連絡を取り、協力を申し込む。
おれとそこそこ仲が良くて協力してくれそうな女子であるなのはさん、フェイトさん、すずかさん、アリサさんははやてと同じ理由でダメだし、シグナムさんはおそらくおれの頼みを拒否してくるだろう。ヴィータ? ヴィータを彼女として連れて行った瞬間おれは社会的に死ぬことになるから論外だ。そうなると、シャマルさんしかいないということになる。適当で良いって言ったけど、選択肢なんてないじゃないか……
おれはシャマルさんの手を引いてお題を判断するジュンの所に行く。
「お、公輝か。どれどれ、お題は……って、まじかよ!? こんな美人さんが……、公輝の裏切者め!」
「うふふ」
シャマルさん、何ちょっと嬉しそうにしてるんですか。
「あーはいはい。で、結果は?」
「ん、合格」
よっしゃ! やっと一位とれたぜ! ふぅ、色々あったけど、やっぱり一位を取れると嬉しいな。さっきまで考えていた不安も少しやわらいだってもんだ。
その後、新たな噂が学校中を巡ったのは言うまでもない。
☆
その後あったことを話そう。借り物競争の次の腕相撲大会はすずかさんにシュンコロされ、騎馬戦では大将であるアリサさんに突っ込んだ結果シュンコロされてしまった。いいとこ無しである。
なんだかんだあった体育祭も終わり、おれたちはまたいつもの日常を謳歌している。イベントは楽しいが、それは何もない日常があってこそ楽しいのだという事をおれは何らかのイベントが終わるたびに感じるのであった。
ただ、一つ変わったことがある。
最近はやてのおれを見る目がなんかおかしい。
次は体育祭(はやて)会