泊地棲姫の空   作:たこ焼きうどん

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メイデン

「じゃあ、2人とも。向こうには伝えておきましたから、頑張ってくださいね」

「はい…お世話になりました」

「お世話になりました」

病院玄関で鬼頭に挨拶する泊地と如月。

この日を持って、泊地は退院、如月は関連病院に転院することとなった。

外の心地よい風が泊地を包む。

杖をつきながら歩く泊地。

如月は車いすで座っているのがやっとの状態で、

自力で動くのは当分先になるようであった。

突如発生した、ヲ級の襲撃。

鬼頭によれば、教授会はかなりの混乱状態に陥っていたそうである。

「泊地棲姫奪還を狙ったヲ級の襲撃が再び発生したらどうするのか」

「しかしせっかく手に入れた泊地棲姫というサンプルを失いたくない」

鬼頭はここで自らの論陣を張る。

「保険証を持たない深海棲艦を長期入院させるのは、病院の経営に悪影響を及ぼす」

「これを機に、無保険の深海棲艦たちがこぞって受診、入院してくる恐れもある」

「何より、再度ヲ級の襲撃があり、その結果、入院患者に被害が出た場合、

教授陣の辞職だけでは済まされない」、

「あえて退院させた上で、退院後はメイデンによる監視を行い、

必要なら適宜データ収集を行う」

この意見には他の教授陣も納得したようである。

何かあれば、メイデンを管理する鬼頭が責任をとれば良い。

メイデンが如月の車いすを押す。

複雑な顔をする如月。

「心配しなくてもいいのよぅ。

その子はあなたたちを守るためにいるんだから、ほんとよ、乙女は嘘つかないぃ~」

マッスル小町が言うのだから、少しは信用できるのかもしれない。

筋肉は嘘をつかない、つい思わずそう考えてしまう泊地。

小町は、泊地が一番信頼を置いていた医療スタッフである。

メイデンを見上げる泊地。もし双子の妹がいたら、このような感じなのだろうか。

泊地は不思議な感覚を覚える。

鬼頭から、いわゆるインフォームド・コンセントを受けた泊地と如月。

病状について、そしてメイデンについて。

回復の方は、まずます順調とのこと。問題は…

メイデン。鬼頭が泊地の生体情報を採取し、

防衛機器製造メーカーHCLI社が開発・製造を行った戦闘兵器である。

1体1体が泊地棲姫に近い戦闘能力を持ち、

何より人形であるため、痛みもかゆみもない。

命すらない。完全に破壊されるまで戦い続ける。

深海棲艦のシールドを破壊できる刀を持ち、また自らもシールド展開能力を持つ。

鬼頭はHCLI社と手を組み、この戦闘兵器を鎮守府に売り込む…との事である。

「では、みなさんお元気で」

深々と頭を下げる、泊地と如月。2人は送迎バスに乗せられ、鎮大病院を後にした。

送迎バスの中で揺られる泊地と如月。

「うう…」

顔をしかめる如月。バスの揺れが少し傷に響くようである。

如月の手をぎゅっと握る泊地。

メイデンが如月をさする。

「あ、ありがとう…」

少し楽になったような感じの如月。

メイデンがきりっとした表情になる。

「メイデン第一ドール、ブリュンヒルデと申します」

頭をぺこりと下げるブリュンヒルデ。

「こ、こちらこそ…」

頭を下げる泊地。

うなずく如月。

どこからどう見ても人間である。泊地である。

ただ、髪が後ろで結ってあるのが、唯一違って見える。

ドールということは、それでもやはり人形という事なのだろうか。

泊地はまじまじとブリュンヒルデを見つめる。

「私の任務は、あなた方を命に代えてもお守りする事です。

否、命は持っていませんが…心は持っています」

きりりと言うブリュンヒルデ。

悲しい顔をする泊地。

「そんな、貴方には命があります。だって、ほら、体も温かい…」

泊地がブリュンヒルデの手を握る。

顔を背けるブリュンヒルデ。

「深海棲艦を倒すために作られた深海棲艦…それが私達メイデンズです。

これから貴方の故郷を滅ぼす事になるかもしれない。

もし私がそうしようとしていたら…」

ブリュンヒルデの手が震える。

「その時は、泊地さん、私を破壊してください。これは、私からの一番のお願いです」

泊地が大きく息を吸う。

「…そのお願いは、引き受ける事はできません。何か、別のお願いをしてみませんか?」

バスの天井を見つめている如月がポンと手を叩く。

「いったーい!」

負傷している手に響いたようである。

「じゃあ、メイデンのみなさんと、間宮であんみつ食べに行きましょうよ」

納得したような顔をする如月。

「じゃあ、それお願いにしましょう」

泊地が続く。

「あんみつですか…」

指で涙をぬぐうブリュンヒルデ。

 

3人を乗せたバスが如月の転院先の病院へと到着し、

そこで如月と別れることとなった。

如月を見送ったあと、今度はHCLIの社用車に、

泊地とブリュンヒルデが乗り込む事となった。

「さて、いかがします?泊地さん。今晩は、ホテルにします?旅館にします?

それとも…」

ブリュンヒルデがニコニコしながら言う。

「うーん、それとも、の先が気になりますね…」

苦笑いする泊地。

「HCLIの別荘です。しばらくそこで滞在してみます?」

やや戸惑いの顔をする泊地。

「大丈夫ですよ。今はおそらく世界で最も安全な所です。

それに、うちの社長にも会ってもらいたいし」

少し考え込む泊地。自分を材料に新たに人間を作り、

それを兵器として売り渡そうとしている組織である。

そして、その組織の社長。しかし、ブリュンヒルデが信頼している人物なのであれば、

一応ある程度は信頼できる人物なのかもしれない。

何より、何かがあれば、必ずブリュンヒルデが守ってくれる。

泊地にとっては、ブリュンヒルデの存在こそが一番の心の拠り所であった。

「…分かりました。では、その別荘にぜひ」

社用車はHCLIの別荘へと舵を切った。

海の見える高台にある大きな別荘。まるで海岸沿いの高級旅館のようである。

「では、泊地さん、どうぞ」

玄関をあけるブリュンヒルデ。

「…!」

「は、泊地さん!」

思わず気を失いそうになる泊地。

「覚悟はしてたんですが…」

気の毒そうな顔をするブリュンヒルデ。

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

泊地の目の前に、ブリュンヒルデの姉妹のような…

…つまり泊地の姉妹のような人達が並んでいた。

おそらく、メイデン。その数、10名。

「ねっ?泊地さん。ここなら安全でしょ?」

にこにこするブリュンヒルデ。

「双子の姉妹が… たくさん出来たら… こんな感じなんだろうか…」

うーんと頭を抱える泊地。

 

別荘内の廊下をこつこつと歩く泊地。

外装、内装ともに、まさに高級旅館である。

真面目な顔に戻るブリュンヒルデ。

「メイデン計画。通称M計画。HCLIと鬼頭教授が進めるプロジェクトです」

「M計画…」

鬼頭が生体情報を抜き出したのも、その一環なのであろうか…?やや暗くなる泊地。

「鎮守府に売り込むのは、メイデンというより、

メイデンズによる次世代戦闘システムです」

客間の戸を開くブリュンヒルデ。

「こちらが泊地さんのお部屋です」

広い和室である。泊地が少し戸惑う。少し心細くなるような広い空間である。

話を続けるブリュンヒルデ。

「HCLIは、長年にわたって鎮守府と深海棲艦の両サイドに兵器を売り込む事で、

巨大企業へと発展しました。

 しかし、キャスパー、HCLIの社長ですが…彼は戦争を、

そしてこの企業を終わらせようとしています」

泊地が鬼頭の顔を思い出す。

「人命救済、世界の平和というのは…」

「そうです。この次世代戦闘システムの導入により、

鎮守府の艦隊は全て無人化されます。

 そうなれば、如月さんのような悲劇はもう起きなくなります」

自分に言い聞かせるように話すブリュンヒルデ。

「もちろん、この次世代戦闘システムを通して、

HCLIが鎮守府の軍事を間接的に支配します」

「では、深海棲艦は…」

鎮守府は確かに人的損害は消えるかもしれない。

しかし、そんな戦闘システムに攻撃される深海棲艦はどうなるのか。

泊地の胸を大きな不安がよぎる。

「鎮守府がこの戦闘システムを導入するのには、ある程度時間がかかるでしょう。

 もしかすると、その間に深海棲艦さん達も、

このシステムを何らかの形で手に入れるかもしれません…」

「それじゃあ…」

つばをごくりと飲む泊地。

「すいません、企業秘密を色々と話しすぎました。今日はそろそろ寝ましょう。

 でも、私は貴方、いえ、貴方たちをお守りします。これだけは約束させてください」

ぺこりと頭を下げて部屋を後にするブリュンヒルデ。

「…」

同じく静かに頭を下げる泊地。

あまりにも色々な事がありすぎて疲れたのか、

泊地は畳の上にへなへなと座り込み、さらに大の字になって、

そのまま寝込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

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