「じゃあ、授業を始めます」
深海自治区の小学校。
泊地棲姫が子供たちを前に教科書を広げる。
艦娘の襲撃から半年が過ぎ、自治区は徐々に復興しつつあった。
「そこの頭の大きな学生さん、教室から出ていなさい」
生徒に混ざって椅子に座っていたヲ級がつまみ出される。
「いいじゃないか姉さん!」
さりげなく混ざっていたつもりだが、いかんせん頭が大きすぎる。
さすがにヲ級が小学生に混ざると異様に目立つ。
「そうそう、鎮守府の事なんだけど」
どこから買ってきたのか、チョコレートをぼりぼり食べるヲ級。
とことん自由人間である。
「戦闘兵器メイデン、彼女達は鎮守府のお手伝いさんとして雑用をこなしているヲ。
草むしりとか、そういう仕事だヲ」
泊地棲姫の妹級が草むしりである。才能の無駄遣いである。
「如月さんは?」
たまに便りをよこしてくる如月。元気なのはよく伝わってくる。
「彼女は鎮守府図書館に勤務しているヲ。本が好きな子だからね。
危ない仕事からは外されることとなったヲ。
艦娘を辞めたいとは言ってたんだけど、長門さんが引き留めたんだヲ。
嫌な体験だけ残して辞めて欲しくない、ちょっと良い思い出を作ってから、
その次の事を考えて欲しい、という事らしいヲ」
ほっとする泊地。
「じゃあ、私はまたぶらりとしてくるヲ。忙しいんだヲ」
校舎から出ていくヲ級。いったい普段は何をしているのだろうか。
飛行場姫の元で護衛任務にあたっているとは聞いているが、ここまで平和だと、
本当にする事がないのかもしれない。
「先生!」
子供が泊地を呼ぶ。
「ごめんなさい。さて授業の続きをしましょうか」
授業が終わり、
海を眺める泊地。
長かったようで短かった日々。
身体はだいぶ軽くなった。
チョークもよく持てるようになった。
如月には元気をもらえた。
マッスル町子にはパワーをもらえた。
色んな思惑が鎮大病院そしてHCLI社の周りに動いていた。
しかし、全ては彼らの善意のもと動いていた。
悪意を持った人というのはほとんどいなかった。
もちろん、鎮守府の上層部というのは、
泊地にとってもよく理解できない部分があった。
しかし、長門や提督が鎮守府を動かしてくれている限り、
今の平和は続くであろう。
「泊地さん」
泊地を呼ぶ声がする。
ここにてしばらく時間が経っていた。
ここにいるのは自分1人だと思っていた。
こんな夕方の砂浜にくるとは、酔狂な人もいるものである。
「吹雪さん」
鎮守府にいたはずの吹雪である。
もしや連合艦隊を解雇されたのだろうか。
そして、そばにもう3人。
「私もこの海好きです」
「なんか心が洗われるっぽい」
睦月、夕立。久しぶりにみた。前よりもちょっと背が伸びたような感じがする。
「ごぶさたしておりました」
「如月さん」
久しぶりに見る如月。
たくましくなったようにすら見える。
思えば、病院のベッドで天井を眺めていたのが、
つい先日のように思える。
そこから、1歩、また1歩と歩んできた。
そして、今の泊地がある。
大変な道のりではあったが、
確実に何か大きなものを得た実感があった。
そして、目の前には青い海、そして青い空が広がっている。
大きく息を吸い込み、はーっと吐く泊地。
「いきましょう、間宮のあんみつ処へ」