とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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ウビストヴォは執拗に追いかけてくる

 月 日

支配種のプラーガを宿した者によるであろう殺人が多発している。明らかに人間の仕業ではない死体の損傷から見て触手によるものであることは間違いない。殺害されているのは裏社会の人間ばかりであまり表沙汰にはなっていないが、それにも限度はある。殺された裏社会の人間の共通点は闇市場でBOWを販売していた武器商人であったことぐらいだ。恐らくはそれが殺害の原因だろう。生物兵器の販売をしている人間を殺害しようと思うほどの強い感情を抱く人間が支配種のプラーガの力に頼っているのは矛盾しているとは思うが、プラーガに頼らなければならないほど追い詰められていたのかもしれないな。

 

余程の虚弱体質か、それとも病に侵されていたのか、その両方か。生物兵器を売り捌いている連中をどうしても自身の手で殺してやりたいと思って禁忌とは知りながらも支配種のプラーガに手を出してしまった苦悩を抱きながらも止まることは出来ずに殺害を続ける殺戮者。もしくはそこまでの事情があるわけではなく、単に商売敵を減らそうと思った生物兵器専門の武器商人の仕業である可能性も無くはないか。どちらであろうと裏社会で生物兵器の販売をする人間が少々減るぐらいで、表の世界にはあまり影響はない。

 

生物兵器の被害を受ける人々が多少は減ることにはなるだろうが。生物兵器の販売をするものが完全に消える訳ではないので、あくまでも多少だ。それでも表の世界には良いことなのかもしれないがね。

 

 月 日

私の予想は当たっていたらしい。枯れ木のような細身の不健康そうな顔色をした男が路地裏で人を殺していた。支配種のプラーガを解放して背から生やした触手で男を貫いて殺害した細身の男は、ふらついたかと思えば地に膝を着き激しく咳き込んで大量の血を吐く。殺害された男の顔は生物兵器を販売している闇の武器商人の1人だった。どうやらあの細過ぎる細身の男が武器商人達を殺害していた犯人のようだ。細身の男は「まだ死ねない。全てはより良き世界の為に。忌むべき力であろうとも。この力を使わなければ僕には人を殺せない。僕が生きている内に値段の付けられた災厄をばら撒く連中を1人残らず殺さなくてはならないんだ」と言って震えながらも立ち上がるとふらつきながら歩いていく。

 

明確な意思を持って支配種のプラーガの力を振るっていた細身の男の身体は重い病に侵されている。病弱で虚弱な身体を持つ細身の男の寿命はもう長くはないだろうな。「P.R.L.412」でいつでも始末が出来るほど隙だらけではあったが始末はしなかった。細身の男は表の世界の人間には手を出すつもりはないようだ。ならば私が手を下す必要はない。生物兵器の販売をする人間は恨まれて当然の事をしていると理解している筈だ。自衛の手段ぐらい持っているのが当然のことだろう。私の部下でもないのに気にかけてやる必要はないな。

 

 月 日

出向いた先で見覚えのある細身の男が寄生体を解放してポポカリムと戦っていた。生物兵器の販売をする武器商人が商品として用意していたものか、自衛の手段として用意していたものか。どちらであろうとも細身の男が苦戦している事は間違いない。とりあえず通行の邪魔で仕方がないので私はL・ホークを瞬時に構えてポポカリムに連射する。放たれた50口径の8発の弾丸を頭部に叩き込まれて絶命したポポカリム。呆然とした細身の男の隣を通り抜けて歩みを進めると「助かりました、ありがとうございます」と素直なお礼の言葉が投げかけられる。私は「通行の邪魔だっただけだ」とだけ言ってその場を後にした。結果的に助けた形にはなるのかもしれないが、本当に通行の邪魔だっただけなんだがね。

 

 月 日

裏路地を通っていると身体を無惨に切り裂かれて倒れ込んだ細身の男と男を切り裂いたであろうウビストヴォが居た。凶暴なウビストヴォは当然の様に私にも襲いかかってきたので、生体チェーンソーの一撃を躱して変異によって右腕に移動している弱点であり生体チェーンソーの動力源でもある肋骨に覆われた心臓を力付くで抉り出して息の根を止めてやる。倒れ込んでいる細身の男にはまだ息があった。支配種のプラーガを身に宿していなければ死んでいただろう。私は持ち歩いていた回復薬(強)を細身の男の傷口にかけてやり調合したハーブも用いて応急措置を施した。軽すぎる細身の男を担いで、私は拠点まで移動する。辿り着いた拠点内で本格的な治療を施した私は、細身の男が目覚めるのを待つことにした。遂に目が覚めた細身の男は自分が何処に居るのか解らずに困惑しているようだったが、私の姿を見ると安心したかのように落ち着いて「治療して下さったのは貴方でしたか。また助けていただいてありがとうございます」と素直に頭を下げてきたので「礼はいらないが、無謀な事をしている理由が聞きたい」と問いかける。

 

細身の男は少し躊躇ったが話し始めた「家族が全員生物兵器の犠牲になったんです。僕に残されたものは使いきれないほどのお金だけでした。そのお金を使って情報を手に入れたんです。僕の家族は武器商人達の行う生物兵器のデモンストレーションで殺されたことが解りました。どうしようもなく闇の武器商人達が憎かった。この手で殺してやりたいと思うほどに。しかし僕の身体は虚弱で病に侵されていました。とても人を殺せる力はない。そんな時に支配種のプラーガのことを知りました。人間に人を越えた力を与える支配種のプラーガをこの身に宿せば自分自身の手で武器商人達を殺す事が出来る。 その誘惑に勝てませんでした。忌むべき生物兵器である支配種のプラーガの力まで借りてしまった僕にはもう止まることは出来なかったんです。より良き世界のためだと自分に言い聞かせて武器商人達を殺していきました。結局やっていることは私怨をはらしているだけだということに気付いてはいましたが、止められなかったんです」そう言って項垂れた細身の男に私は「今日死にかけたが、だとしても止まるつもりはないのか」と聞いた。

 

細身の男は「治療してもらって申し訳ないですが、ありません。もう自分が病で長くない事は解っています。だからこそ1人でも多くの闇の武器商人を道連れにしてやりますよ」と言って立ち上がる。そう簡単に癒える傷ではないのに立ち上がれるのは、支配種のプラーガの力だろうな。細身の男を拠点の出口まで送ると「治療して下さって本当にありがとうございました。身の上話まで聞いてもらってすいません。最後に誰かに話しておきたかったのかもしれません。それでは失礼します」細身の男は丁寧に頭を下げてから立ち去っていった。彼には彼なりの理由があって支配種のプラーガをその身に宿し、闇の武器商人達の殺害に走ったのだ。私の持つ「P.R.L.412」を用いれば彼を止めることは容易いが止めようとは思えなかった。

 

 月 日

多発していた闇の武器商人達の殺害を行っていたものが死亡したらしい。 支配種のプラーガをその身に宿していたその男は全身に銃弾を受けながらも立ち止まらず、背から生えた触手の一本で護衛達を押し退けてもう一本の触手で武器商人達を貫いて殺害していき最後の1人を殺した後に血を吐いて倒れ込み動かなくなったそうだ。男の素性は一切不明で何の目的で武器商人達を殺害していたのかも不明であるらしい。素性を調べあげて男の家族に対して報復を行おうと考える連中も居るようだが、彼の家族はもう全員死んでいるので無意味なことだ。彼が何故殺戮に走ったのかという理由を知っているのは私だけになるが、連中に説明してやろうとは思わない。彼の怒りや憎しみを理解できる連中ではないからだ。

 

支配種のプラーガを現在身に宿している者達は大した理由も無く力を振りかざす者達とは違い、何かしらの明確な理由を持ち力を隠している。その力が振るわれる時は彼等にとって重要な時だけだろう。彼等にとって目的を果たす為に必要な力が支配種のプラーガだったのかもしれない。

 

 月 日

裏社会でも支配種のプラーガは問題視されている。大掛かりな機械でプラーガのみを死滅させる特殊な放射線を浴びさせてからでなければ話に応じない者まで出てきた。武器商人達が支配種のプラーガを宿した者によって殺害されたことが関係しているらしい。自分達を容易に殺せる者の存在が恐ろしくなったようで、用心を重ねる裏社会の人間が増えた。中でも標的となっていた武器商人達が特に気を使っている。武器商人の連中には細身の男と同様に恨みを持つ人間が、いつ現れても可笑しくはない。支配種のプラーガは、生物兵器専門の武器商人の連中にとっては恐怖の対象となっただろう。その牙がいつ自分達に向けられるのかと気が治まらないんじゃあないかな。

 

まあ、私には関係のないことだ。一々気にしてやる必要はないな。それよりもハーブの新たな活用法を模索しているほうが余程有意義な時間の使い方だ。更に効力を高めたハーブタブレットを作製したが、ハーブを基に作製した錠剤の回復薬とどちらが優れているか確かめてみるとするか。




ネタバレ注意
バイオハザード5に登場するBOW
ポポカリム
コウモリにプラーガを寄生させ、トライセルが作り出した歩行可能な大型飛行BOW
スワヒリ語でポポはコウモリ、カリムは「寛大」を意味する
柔軟性のある尾の部分がプラーガ本体になっており、その本体を覆う表皮は極めて硬質で銃弾程度の攻撃では通じない
尾の内側は柔らかく弱点であるが、地上でも敏捷に動き回り相手にさらさない狡猾さを持ち合わせている
4本の脚先の鋭く光る爪や体当たりで攻撃し、尾の先からは粘着質の液体を噴出して獲物の自由を奪う
歩行時の脚に格納されていた翼を使って飛翔し、急降下して襲うなど、地上、空中のどちらの攻撃も侮れない

バイオハザード6に登場するクリーチャー
ウビストヴォ
Cウィルスの感染者が、変異の果てに生まれ変わった姿
ウビストヴォとは、東欧の言葉で「殺害」を意味する
人間のシルエットを保っているが、本来は背骨や肋骨、心臓だった部分が右腕へと移動しており、チェーンソーのような形状に変異している
右腕の心臓部分が全ての動力になっているため、これを破壊すると即死する
その痩躯な外見からは想像できないほどの、高い生命力と耐久力を持つ
また、一度標的を決めると、それを破壊することに執着する傾向が見られる

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