とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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後日談その2

 月 日

知人からの呼び出しを受けて向かった彼の拠点。エルヒガンテやガラドールにアイアンメイデン等の解剖標本を自慢気に見せてくる知人に無難な返事を返して提供されたハーブティーを飲むと、ハーブの良い香りとすっきりした口当たりがして、いくらでも飲めそうだった。解剖標本よりもお手製だというハーブティーの方に興味があるのでハーブティーについて詳しく話を聞く。ハーブティーの配合を事細かに教えてもらったので今度試してみるとしよう。ある程度落ち着いたところで呼び出しの理由について話を聞くと、ある組織に命を狙われているとのことだ。救いを求めて私のことを呼んだらしい。彼を狙う組織は彼の掴んでいる情報を搾り出してから始末するつもりのようだ。ハーブティーの配合を教えてもらった礼を返す時が早めにきた。とりあえず組織の動きはまだないようなので、先手を打たせてもらう。知人を狙う組織の拠点の位置は把握できている。周囲に民間人の家屋があるということもない。これは太陽光集積システム「レギア・ソリス」を使うべきだな。膨大な太陽光エネルギーを収束させた超高熱照射により組織の拠点は壊滅。問題が消えて無くなったことを知人に伝えると大げさに感謝された。

 

 月 日

エヴリンは特異菌を無尽蔵に生み出すジェネレーターだ。そして特異菌の群体全てを統合して命令を下す絶対の支配者でもある。エヴリンが生成する特異菌は、彼女の意志の力で急激に形状を変化させることも可能なため、簡易的な防護服なども容易に破り、皮膚表面からあっという間に侵食することが可能だ。特殊な真菌である特異菌は体組織を養分として増殖し、徐々に細胞が特異菌と置き換わり始める。感染初期の段階でも切断された四肢が自然接合するほどの再生能力を発揮。感染中期の段階で脳幹に特異菌の侵食が到達すると感染者の思考はエヴリンと同調を開始し、徐々に自我を失っていく。感染末期の状態では体組織の特異菌への置換が進行し、人を逸脱した姿に変貌して身体能力には飛躍的な向上が見られる形態となる。兵器として創られた人工生命体エヴリンはその不死性を支える代謝機能の代償なのか、特殊な薬剤の投与を定期的に受けないと細胞分裂時に深刻な異常をきたしてしまうという問題があったが、私がウロボロス・ウィルスから開発した永劫状態を維持する薬品を投与することで細胞劣化を永遠に抑えることに成功した。自然の生物が加齢とともに少しずつ細胞の再現精度を失っていくのに対して、今の彼女は肉体の最盛期とも言える20歳で老いることが無くなる。この薬品を使っていなければエヴリンは数十倍の速度で劣化を繰り返し、急激な老化を迎えていただろう。本来は部下達のために作製していた薬品だが役に立って良かったと思っている。その後の経過も順調でエヴリンには何も問題はない。部下達には永劫を生きる覚悟があるなら使いたまえとメッセージを添えてウロボロス・ウィルスを元に造り上げた万人に永劫状態を与える薬品を送り届けたが、使ったかどうかは部下達次第だ。長く生きる私とこれまで以上に長い付き合いになってくれれば嬉しいがね。

 

 月 日

トールオークスの地下に広がるカタコンベには400年近い歴史があるそうだ。この墓所に納められているのは、シモンズ一族と彼等に携わってきた「ファミリー」の人間であるらしい。公にされている墓所ではないが様々な罠が仕掛けられていて、さながらインディ・ジョーンズにでもなったような気分だった。墓泥棒や「ファミリー」を探ろうとしたもの達が昔から侵入していたためにこれだけの罠が仕掛けられていたのだろうと考えられる。カタコンベの地下には原始的な洞窟や祭壇のようなものがあり、この地下空間がシモンズ一族の介入前より現地の人間によって使用されてきたことが推測できた。こんなところにまで私を呼び出したエイダが何を考えているのかは想像がつく。余計な邪魔が入らない場所でじっくりと話したいことが彼女にはあるのだろうな。誰にも邪魔されることのないこんなところで行われる会話の内容はどんなものになるかは解らないが、秘匿しておきたい筈だから日記にも内容は書かず私の胸の内に収めておくことにしよう。エイダの求める真の目的に関する内容であるかもしれないからな。

 

 月 日

BSAA北米支部の管轄内で巻き起こったバイオテロをクリス君率いるアルファチームが解決に導いていく。ピアーズとスティーブという名の隊員が特に活躍したらしい。次代を担う後進の育成に成功しているクリス君にとってBSAA北米支部の未来は明るいだろう。共に戦うアルファチームの面々を家族と呼んで命懸けで守りぬくクリス君に心からの信頼を寄せている隊員も少なくはない筈だ。北米支部アルファチームの隊員達1人1人が希望だと言い切るクリス君にとってチームの面々はかけがえのない存在となっている。もしも彼等をまとめて失うようなことがあればクリス君は復讐の鬼と化すかもしれない。まあ、そんなことは早々起こる筈もないことだ。BSAA北米支部アルファチームの面々を積極的に狙うような輩も存在しない。クリス君が率いるアルファチームならば、如何なる困難が待ち受けていようとも乗り越えていけると信じている。バイオテロに屈することなく戦いを続ける北米支部アルファチームに幸が訪れることを願っておこう。

 

 月 日

合衆国大統領直轄組織DSOのエージェントであるレオン・S・ケネディとヘレナ・ハーパーが某国で活動しているとの情報が入る。2004年に少し見かけただけのレオンはともかく2009年に直接出会ったヘレナが大統領直轄組織DSOのエージェントになっていたとは驚きだ。それにしても感情に流されやすいヘレナが相棒だとレオン・S・ケネディは苦労しそうだな。調べたところによるとヘレナは連続殺人事件の捜査を行い犯人を取り抑えたところで犯人に過剰な暴力を振るってしまい停職処分になった過去がある。暴力を振るった理由について「犯人が、遺族の前での暴言を止めなかったために黙らせた」とヘレナは答えたらしい。ヘレナ・ハーパーが己の正義と信念を決して曲げない女性であることがこのことから理解できる。ヘレナの妹デボラの交際相手が別れ話のもつれで彼女を傷つけそうになった時に私が偶然通りかかっていなければデボラはナイフで切りつけられて負傷していただろう。それを見たヘレナが何をするかは簡単に想像できる。恐らくは発砲してデボラの交際相手に重傷を負わせていた筈だ。妹への愛情が深いヘレナなら間違いなくやる。私が止めに入ったおかげでデボラが怪我をすることもなく、私に痛め付けられた程度で済んだ交際相手は運が良い。ヘレナの手綱をレオンが上手く握れるかどうかが任務成功の鍵を握っていそうだな。頑張ってくれたまえレオン・S・ケネディ君。

 

 月 日

ラクーン事件後、シェリー・バーキンが合衆国の監視下に置かれたのには、二つの理由があった。一つは、彼女の身体に宿るGウィルスを研究するため。もう一つが、Gウィルスを狙うアルバート・ウェスカーにシェリー自身が狙われる可能性があり、保護が必要だったためである。その後、ウェスカーが所属していた組織の崩壊と、2009年にウェスカー自身がクリス君率いるBSAAに殺害されたことで、彼女の身柄を脅かす者はこの世からいなくなった。保護の必要がなくなったシェリーは、軟禁を解くことの交換条件として合衆国のエージェントになることを持ちかけられたようだ。近年のバイオテロの増加によって、自分のような犠牲者が増えることを危惧していたシェリーは、その話を受け入れてエージェントに就任した。エージェントとしての教育を受けたシェリーは数々の任務をこなしていったらしい。その任務の中でジェイク君と遭遇したことは彼女にとってどんな影響を与えたのだろうか。去り際の彼女の顔はとても晴れやかな顔をしていたため、ジェイク君とは良い関係を築けていたようだった。連絡先も交換していたようだし、シェリーはこれからもジェイク君とは関わっていくつもりみたいだ。2人とも悪い人間ではないから良い繋がりになるとは思う。

 

 月 日

手土産の美術品を持ってレディが住んでいる孤島に向かう。孤島へと向かうことは事前に連絡しておいたのでレディは快く出迎えてくれた。私が持ってきた手土産の美術品の数々はレディのお眼鏡に敵ったらしく、嬉しそうに受け取っていたので持ってきておいて良かったと言える。和やかな雰囲気の中で本題の話に入り、アレクシアに対してどう思っているかを聞くと「正直に言えば憎くてたまらない」と答えが返ってくる。彼女が望んだ美を全ての基準とする王国を滅ぼした1人であり、私を殺す手伝いを自由意思を奪って無理矢理やらせた相手であるアレクシアを憎いと思うのは当然だろう。レディから「何故貴方は自分を殺した相手と結婚することを決めたのでしょうか」と不思議そうに問いかけられて私は、愛してしまったからだと答えた。レディは深く息を吐くと「そうであるなら仕方ありませんね、貴方の意志を尊重します」と笑う。アレクシアに対する憎しみが消えた訳ではないだろうにレディは笑顔で「貴方が手綱を握っているならアレクシアと敵対することは、もうないでしょう。納得がいっていなかったワタシのために時間を作ってもらってありがとうございます」と言って頭を下げたので直ぐに頭を上げさせた。それから暫くは穏やかなレディと会話を行い、彼女の自慢の美術品を見ながら感想を述べたりして緩やかに時間が過ぎていく。レディと直接会って話をしてみて良かった。彼女が抱え込んでいたものが少しは和らいだように見えたからだ。今後も珍しい美術品が見つかれば彼女の元へ持っていくことにしよう。

 

 月 日

クリス君の妹であるクレア・レッドフィールドやモルガン・ランズディールの腹心であったニール・フィッシャーが参加しているテラセイブとは、1998年のラクーン事件以降、政府や企業によるバイオテロや深刻な薬害の隠蔽工作が明るみに出たことで、利益誘導されない民間団体によるチェックと被害者救済が必要との機運の高まりのなかで生まれたNGOである。武力は持たず、生物災害の鎮静後の現地への物資供給や治療チーム派遣などの人的支援を主な活動目的としているが、安全性が確保されていない薬物開発や適法でない研究施設の建設についても監視の目を配り、政府や企業の不正に対する大規模な抗議デモを開催するなど活動は多岐にわたるようだ。2005年のハーバードヴィル空港バイオテロ事件では、抗議活動を行って恐喝容疑で逮捕されたテラセイブ元職員カーティス・ミラーがウィルファーマ社の首席研究員フレデリック・ダウニングに利用されてバイオテロを実行したという不祥事が存在する。権力を得るためには手段を選ばない冷徹な男であるモルガンの腹心だったニール・フィッシャーという男がテラセイブの幹部職員となっていることが問題だということに気付いているのは、裏社会の人間だけでテラセイブの面々には解っていないみたいだ。ニール・フィッシャーといういつ爆発するか解らない爆弾を抱えているテラセイブの組織がこれからどうなるかは解らない。大人しくテラセイブで働いているだけならば構わないが、此方に踏み込んでくるなら容赦をしてやる必要はないな。

 

 月 日

強化型CウィルスとはCウィルスの開発者であるカーラ・ラダメスと私が共同で開発したCウィルスの強化型だ。通常Cウィルスを投与された場合、サナギを経て生まれ変わった後に、再び変異することはないが、強化型Cウィルスの場合はそれと異なり、サナギの過程を経ることなく、強化と変異が永遠に進行し続けることになる。強化型Cウィルスはディレック・C・シモンズへの復讐のために使われた。安定も均衡も得られない無限に変異し続ける身体に変えられたシモンズはカーラの気が済むまで拷問を受けることになったようだ。簡単には死ねない身体に変えられたシモンズはこの世の地獄を見せられたことだろう。その後シモンズは「ファミリー」によって廃棄処分にされて生涯を終えることになったが、信じていたものに裏切られたカーラの気持ちが少しは理解できたのではないかな。強化型Cウィルスの精製方法は非常に難しい上に、カーラ・ラダメスと私以外にその製法を知る者がいない。カーラ・ラダメス亡き後は、もう私しか強化型Cウィルスの製法を知る者は存在しないが、私はそれを誰かに教えるつもりはない。この先必要となることがなければ一生秘匿し続けるつもりだ。強化型Cウィルスはエイダのクローンとして作り替えられたカーラ・ラダメスによるディレック・C・シモンズへの復讐のためだけに造り出されたウィルスだ。復讐は成功に終わったのだから、役目を終えた強化型Cウィルスを私が使う必要はない。世界に対する憎しみが治まらなかったカーラ・ラダメスも私と共同で造り上げた強化型Cウィルスを決してシモンズ以外に使うことはなかった。殺しにきた私に対しても落ち着いた様子を崩さなかったカーラは誰かに止めてもらいたかったのかもしれない。カーラと共に強化型Cウィルスを造り上げた時は楽しかった。私が強化型Cウィルスを造り出すことはもうない。私はそう決めている。もしも誰かが強化型Cウィルスを造り出してしまった時は、ワクチンを造ることになるだろうがね。

 




ネタバレ注意
バイオハザード4に登場するBOW
エルヒガンテ
プラーガに寄生された人間を遺伝子操作した結果、巨大化して4倍もの大きさになった
名前のエルヒガンテはスペイン語で巨人の意味
背面、特に首裏の頚椎部分がプラーガの影響で盛り上がっており、常におびただしい量の唾液を垂らしている
驚異的な体力と怪力を備えるが、周囲のガナードを殺してしまうほど非常に凶暴でコントロールが難しいため、生み出されたのは、わずか数体のみであった

ガラドール
プラーガを用いた肉体強化実験で生み出された、優れた身体能力を持つ戦士
ガラドールはスペイン語でカギ爪を持つ者の意味であり、両腕に先端が曲がった鋭利な3本の爪を備える
視界に入るものを無差別に襲うほど凶暴化してしまったため、まぶたを縫合され、通常は檻に入れられて厳重に拘束されている
かすかな音も聞き逃さないように耳を澄ましているためか、やや下向きの体勢
戦闘においては、視覚の代わりに発達した聴覚で敵の位置を的確に察知し、両腕の爪を伸ばして八つ裂きにする

アイアンメイデン
リヘナラドールの復元能力に加え、全身に自在に伸縮する無数の針を備え、より攻撃に特化した改良種
両腕を長く伸ばして敵を捕獲した後に、引き寄せて全身から突き出た針で刺し貫く
名称は、中世ヨーロッパに実在した拷問具の名に由来
空洞の人形に人間を入れて、内部に突き出した長い釘で処刑する拷問具であり、鉄の処女の別名もある

バイオハザードディジェネレーションに登場する人物
カーティス・ミラー
元テラセイブ職員
滅菌作戦で妻子を失ったという過去を持つ
ラクーンシティでの惨劇の真実を聞かされてハーバードヴィル空港でバイオテロを決行する
その後はウィルファーマ社へ向かい自らにGウィルスを投与して怪物と化す
一時的に自我を取り戻すもすぐに暴走を始めて最終的にはレオンに倒される

フレデリック・ダウニング
元アンブレラの研究員であり、tワクチン開発を成功へ導いたウィルファーマの首席研究員でもある
紳士的な雰囲気とは裏腹に、ブラックマーケットにも精通している
カーティス・ミラーを煽り事件を引き起こさせた諸悪の根源
Gの戦闘データを求めるフレデリックの狙い通りカーティスはG生物となった
レオン達との戦いの一部始終を撮影していたフレデリックだったがそのことが仇となり黒幕がフレデリックだということに気付かれて取引現場でレオン達に逮捕される

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