ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第十二話

「王女さんよ……俺なんかをスカウトしてくれんのは嬉しいけどな、俺はもう、そういうのを目指すのはやめたんだ」

 

「ほう、そういうのとはなんじゃ?」

 

「正義の味方とか、そんなんだよ」

 

月明かりに照らされた大和の顔は、一気に老け込んだようだった。

 

 

「逆に聞くけど、なんでアンタらはそんなに頑張れるんだ? 見知らぬ人を救うために人を殺して……苦しいだけじゃねえか」

 

 

大和はアリカに問う。

 

どうして、たったの八人で世界なんてものを抱え込むのかと。

 

「アンタには世界を救う義務なんてないだろ……もう、そんなに頑張んなくてもいいじゃねえかよ」

 

言い切ってから、自分は本当に情けなくなったな、と思った。

 

「……そうじゃな、確かに、わらわとて人間だ。人を殺す命令を下せば心は痛むし、挫けそうになることもある」

 

「……」

 

「それに、わらわの父君も『完全なる世界』の一員だ。いつの日か、わらわの手で打ち倒さねばならぬ時が来るじゃろう」

 

「なら、もう」

 

いいだろ、と続けようとして、息を呑む。

 

アリカの目を見てしまったから。

 

 

 

その、命そのものを燃やしているかのような瞳を。

 

 

 

「人を殺すのが怖い? 大いに結構だ。人を殺すことを好きなのよりは百倍マシというものじゃろう。わらわがお主に文句を言いたいのは別のことだ!」

 

 

「あ……」

 

 

「お主が傍観者気取りでいることに、わらわは何よりも腹が立つ! どうせ、自分が動けば世界がどう動くかわからないのが怖いのじゃろう! その神のような思考が気に食わん!」

 

 

「……」

 

 

 

「思い上がるなよ。誰がどう言おうと、お主もこの世界のたった一欠片だ」

 

 

 

ああ、なんとなく分かった気がする。

 

 

 

「この世に産まれた以上、お主の行動は全てお主のもの。誰にも否定はさせぬ」

 

 

 

どうして、彼女を見るのが、こんなに苦しいのか。

 

 

 

「お主には何かをする権利がある。お主の行動も、この世界を造る一つの要素なのだ!」

 

 

 

必死に『生きている』彼女が、眩しいんだ——

 

 

 

 

「——だから、自分は世界の邪魔者だ、などという顔をするでない」

 

 

 

 

大和の肩が震える。

 

「なあ、王女さん……」

 

「なんだ」

 

「俺さ……ずっと、後悔してた」

 

「うむ」

 

「初めて人を殺した日から、ずっとずっと、後悔してたんだ」

 

「そうか」

 

 

 

「——俺なんて、生まれてこなければよかったって」

 

 

 

その言葉を言った瞬間、左頬に痛みが走った。

 

目の前には、右手を振り切ったアリカ。

 

魔力もなにも篭めていない、ただの女性としての張り手。

 

だが、今まで受けた張り手の中で、一番効いた。

 

 

「人を殺したことを悔やむのは自然なことだ。受け入れろとも、乗り越えろとも言わん。だがな、事実だけは認めろ。己の人生から目を背けるでない」

 

 

その言葉を聞いて、大和は過去に思いを馳せる。

 

 

 

 

——僕はさ、この技術で人を救いたい

 

 

 

——お前の力は、人を殺すためのものだ

 

 

 

 

——すまない、リオン

 

 

 

 

 

「なあ……」

 

 

大和が口を開く。

 

 

「アンタの言うとおり、俺は行動することで誰かの人生を左右するのが怖い、ただの臆病者だ」

 

 

そして、閉じ込めてきた思いを語る。

 

 

「人を殺したくないってのも、ただの言い訳」

 

 

アリカは無言で聞く。大和の人生を。

 

 

「ずっと、自分の存在から目を背け続けていたんだ」

 

 

すべての思いを吐き出して、大和の心には、たった一つの約束が残った。

 

 

 

 

 

——お伽噺の英雄に、僕はなりたい

 

 

 

 

 

 

「そんな僕でも、誰かを救いたいと、思ってもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

それは、嘘偽りのない『五木大和』としての言葉。

 

今まで自分を縛っていた呪縛はもうない。

 

そんなもの、目の前の王女が吹き飛ばしてしまった。

 

 

そして、アリカが僅かな笑みと共に、口を開く。

 

 

 

 

 

「そんなもの、自分で決めろ」

 

 

 

 

 

「ぷっ……くくく」

 

思わず笑ってしまった。

 

「まったく、本当に自他共に厳しい王女さんだ」

 

「ふん、こんなものは序の口じゃ」

 

「はは、『紅き翼』の連中、絶対に味方する側間違えたぜ」

 

「ぬかせ」

 

大和は笑う。アリカも笑う。

 

「さて、そろそろ戻ろうぜ。他の奴らも心配する頃だろ」

 

「うむ」

 

二人は小屋に向かって歩き出す。

 

満天の夜空を見上げながら、大和は思った。

 

 

 

 

——刀子ちゃんに、黙って出ていったことを、いつか謝りに行こう。

 

 

 

 

「ありがとよ……だいぶ楽になった」

 

「……ふん」

 

 

 

きっと自分はロクな死に方はしないだろうと大和は思う。

 

だが、それでいい。

 

元々英雄なんてものを目指す時点で誰かから憎まれ、疎まれ、裏切られる。

 

そのことを承知で、それでも自分は誰かを助けたいと願ったのだから。

 

 

(……ああ、なんだ。俺はとっくの昔にわかっていたんだ)

 

 

自分が馬鹿だから忘れていただけ。

 

 

――答えなんて、最初からあの子に自分の口から伝えていたじゃないか。

 

 

大和はボリボリと頭を掻く。どうにも気恥ずかしった。

 

ふと、掘っ立て小屋の中が騒がしくなっていることに気がつく。

 

耳を澄ますと、どうもアリカの姿がないことに気がついたナギが誘拐だ拉致だのと騒いでいるらしい。

 

隣を歩くアリカと目を合わせ、共に苦笑する。

 

 

「誘拐されたらしいぜ王女様?」

 

「ならば誘拐犯は貴様か?」

 

「多分あのバカはそう勘違いするだろうな。アイツは『完全なる世界』の手先だったんだ、とか」

 

 

 

大和は軽く腕や腰を回して体をほぐしていく。

 

その様子を見てアリカはナギの数秒後の未来を幻視し、ため息をついた。

 

大和が掘っ立て小屋の扉を開ける。

 

 

 

 

――案の定二人の姿を見て飛びかかってきたナギを、大和は拳で撃ち落とした。

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