ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第十六話

「……っ、ぐ」

 

「大和殿!? 目が覚めたんですか!?」

 

激痛に顔をしかめる大和の視界に広がったのは、見慣れぬ天井とセラスの顔だった。

 

「ここは……」

 

「オスティアの艦の中です。戦いが終わった後、一番近くにいた艦隊に救助を求めました」

 

「他の奴らは……戦いはどうなった?」

 

「覚えていないのですか?」

 

そう聞かれ、大和に最後の記憶が蘇る。

 

——ナギの槍が、『造物主』を貫いたことを。

 

「そうか……俺達は、勝ったのか」

 

「はいっ。『造物主』を倒した後に魔力無効化の力場が展開されましたが、それも反転術式で抑え込みました!」

 

大和は起こしかけていた体をベッドの上に落とす。

 

痛む両腕で顔を覆った。

 

「終わったのか……」

 

「はいっ……」

 

セラスの目から涙が溢れる。

 

「全てが終わりましたっ……」

 

「そうか……」

 

「世界は救われました……」

 

「ああ……」

 

「私が今ここにいるのも、貴方のおかげです」

 

「……」

 

「本当に、ありがとうございました」

 

ベッドの上の大和に、深々と頭を下げる。

 

純粋な感謝の眼差しを向けられ、大和は気まずそうに顔をそらした。

 

「いや、別に……」

 

「いえっ、貴方に抱きかかえられたり、庇われたりしなかったならば、私は確実に死んでいました!」

 

自分で言いながら少し恥ずかしかったのか、赤面するセラス。

 

二、三回ほど深呼吸をして、心を鎮める。

 

 

「あのっ、その、それで、べ、別に吊り橋効果とかそんなんじゃなくてですね! わ、私は——」

 

 

その時、部屋の扉がコンコンとノックされた。

 

 

身を乗り出した体勢でフリーズするセラス。

 

「入っていいぞ」

 

「うむ、失礼する」

 

扉を開けて入ってきたのはアリカだった。

 

「よう、久しぶりだな王女さん」

 

「ああ。今回の戦いではお主のおかげで、兵達の犠牲がかなり減らされた。礼を言う」

 

そう言ってアリカは大和に頭を下げる。

 

それを見た大和は照れくさそうに頬を掻く。

 

「……さっきも言おうと思ったが、俺は自分のために戦ったのであって、別にお前らのためじゃ……」

 

「それでもじゃ。民の犠牲が減ったことには変わりない」

 

一国の王女が頭を下げ続けるという場面を見せられて、セラスの頭の中はパニックになった。

 

(え、ええええええええ!!?? こ、これってどういうこと!? 大和殿も平然としてるし!? 二人は以前からの知り合いだったの!?)

 

内心でテンパっているセラスを見て、アリカは咳払いをする。

 

「すまんが、少し席を外してもらえぬだろうか」

 

「へ、あ、はいっ」

 

いくらアリアドネー部隊の隊長といえども、王女に席を外せと言われて否とは言えない。

 

頭の中が疑問で埋めつくされ、フラつきながら部屋を出ていった。

 

セラスが出ていったことを確認した二人は話を再開する。

 

「他の『紅き翼』達は無事なのか?」

 

「うむ。ジャック・ラカンと青山詠春が重傷ではあるが、命に別状はない」

 

「そうか。そいつはなにより」

 

そう言って、大和は体を起こす。

 

「——で、本題はなんだ?」

 

「……」

 

「アンタが戦後処理を放って、わざわざ俺のところまで来たんだ。なんかトラブったんだろ?」

 

「……その通りじゃ」

 

アリカは話す。

 

自分達の勝利、それがどんな代償の上に成り立ったのかを。

 

 

 

「なるほど……オスティアの崩落か」

 

「ああ、わらわは世界を救う代わりに自国を滅ぼす」

 

「……そうか」

 

まともな判断力を残した人間ならば、当然の決断だ。

 

そもそも反転術式を発動させなければ、そのままオスティアは滅びていた。

 

最善の道は、あの時点で存在しなかった。

 

アリカは次善の道を即座に選んだだけだ。

 

アリカに責任などない。

 

「アンタ、それでいいのか」

 

「……いいわけ、なかろうがっ!」

 

オスティアの王女が吠える。

 

 

「わらわとて、最後まで他の道を探した!」

 

 

「誰が好き好んで自国の民を死なせようか!」

 

 

「だが、他の道など存在しなかった!」

 

 

「これしか、これしかなかったのじゃ……!」

 

 

言い切ったアリカは、俯いて肩を震わせる。

 

それを見た大和は一つの決意をした。

 

 

「なあ王女さん。一つ、とびっきり素敵なプランがあるんだが、乗るかい?」

 

 

 

大和の語る作戦。

 

 

それは悪魔の契約。

 

 

契約したが最後、二度と安らかに過ごせる日は来ない。

 

 

そして、アリカは——

 

 

 

 

 

 

 

セラスは艦内を散策していた。

 

大した怪我はしておらず、部隊の指揮権もアリアドネーからやってきた援軍に譲渡済み。

 

ぶっちゃけ暇だった。

 

しかし、セラスは悩んでいた。

 

(王族であるアリカ殿に、敬語も使っていなかった……や、やっぱり二人はただならぬ関係!?)

 

まるっきり見当違いである。

 

(どうすればいいのでしょう……アリカ殿に勝てる要素がまったく見当たりません)

 

セラスは悩み続ける。

 

一人で百面相をしながら廊下を歩くセラスだったが、通りかかった人が避けていることに気づいてはいない。

 

(うう、このままじゃ落ち込むばかりです。外に出て頭を冷やしましょう……)

 

トボトボと歩き続ける。

 

セラスが大和を憧れるようになったのは、グレート=ブリッジの戦いよりさらに前だった。

 

アリアドネーに所属しているセラスは、闘技場の警備を担当したことがある。

 

その時に見てしまったのだ。圧倒的強者というものを。

 

氷の竜を操り、ジャック・ラカンを子供のようにあしらった大和。

 

衝撃を受けた。

 

自分と大して年が変わらないというのに、彼はどれほどの高みにいるのだろうか。

 

それからというもの、セラスは大和の噂を追いかけ始める。

 

グレート=ブリッジで『紅き翼』を撃破した。

 

当然だろう。

 

テオドラ第三皇女の護衛として、闘技場から引き抜かれた。

 

彼ほどの力ならば、国も放っておくまい。

 

そして、彼を追いかける理由は、少しずつ変わっていき——

 

 

 

 

 

甲板に出たセラスは新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

この艦は王都オスティアに向けて飛行中であり、眺めも最高だった。

 

いい場所を見つけ、思わず顔を綻ばせる。

 

しかし、次の瞬間に凍りついた。

 

「や、大和殿!? どうしてこんなところに!?」

 

——自分の想い人であり、命の恩人でもある五木大和が甲板にいたからだ。

 

「ん……ああ、セラスか」

 

大和はボンヤリとした目をセラスに向ける。

 

「どうしてこんな場所に来ているんですか! 貴方は今絶対安静なんですよ!?」

 

「ああ、悪い悪い。すぐに戻るよ」

 

「……大和殿?」

 

ここで、セラスはようやく大和の様子がおかしいことに気がつく。

 

大和は一瞬だけセラスに目を向けたものの、またすぐに外の光景を眺め始めた。

 

だが、セラスが違和感を感じたのはそこではない。

 

今の大和は、隙だらけなのだ。

 

それこそ、セラスですら倒せそうなほどだった。

 

いつもは抜き身の刀のような雰囲気を放っていたにも関わらず。

 

「どうか、なさったのですか?」

 

「いや、ちょっと外の空気を吸いたくなっただけだ。今から戻る」

 

そう言って、大和は甲板の手すりから離れた。

 

そのままセラスの横を通り過ぎ、艦内に戻ろうとする。

 

「ま、待って下さい!」

 

大和が自分の横を通り過ぎようとした時、セラスは思わず大和の手を握りしめた。

 

「……なんだ?」

 

「え、あ、その」

 

思わず止めてしまったものの、セラスにこれといった用事はない。

 

強いていうならば大和の様子が気になったからなのだが、流石にそれは用事としては苦しい。

 

(な、何を言えば……)

 

さらにテンパる。

 

そして、反射的に口から出てしまった。

 

 

「好きです!」

 

 

「え……?」

 

大和がセラスの顔を見る。

 

そして、セラスは自分が何を言ってしまったのかをようやく自覚した。

 

(あわわわわわわわわ!!?? わ、私は一体何を!?)

 

だが、時既に遅し。

 

吐いた言葉は飲み込めない。

 

(ああ、色々と終わりました……)

 

雰囲気もなにもあったものではない。

 

こんな告白が受け入れられるはずもないだろう。

 

セラスは目を閉じ、大和の言葉を待った。

 

しかし、予想とは違って、頭に手の感触。

 

「え……」

 

しばらく硬直してから、ようやく頭が回りだす。

 

(頭、撫でられてる……?)

 

恐る恐る目を開ける。

 

すると、本当に大和に頭を撫でられていた。

 

 

「ありがとな」

 

 

大和は、笑顔だった。

 

 

「お前の気持ちは素直に嬉しい」

 

 

しかし、セラスにはやはり違和感しか感じない。

 

 

「でも、すまない」

 

 

まるで今にも泣きだしてしまいそうな、そんな顔。

 

 

「俺なんかのことは忘れて、新しい出会いを探してくれ——」

 

 

——振られたことよりも、大和がそんな顔をしていることの方が、心に刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『紅き翼』の面々の治療は終わり、ラカンと詠春も出歩けるほどには回復した。

 

その後、離宮島にて終戦の式典を執り行い、オスティア市民の大部分がナギ達を祝福してくれた。

 

 

——ただ、その場に大和の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

ナギ達は現在、離宮島をぶらついている。

 

「ははは。ボロ雑巾みたいだぜ、ジャック」

 

「ま、俺と詠春はヤツの攻撃を至近距離で食らっちまったからな。名誉の負傷ってヤツだ」

 

「それにしても、ゼクト殿のことは残念だったな……」

 

「戦争だったんだ、そういうこともあるだろ。敵も味方も大勢死んだ」

 

「……いや、お師匠は」

 

ナギはゼクトのことを話そうとしたが、アルビレオに止められる。

 

(今はまだ話すなってことか……)

 

「おいナギ。それより姫さんとはどうなったんだよ?」

 

ラカンが暗い空気を変えるためか、おどけた調子で聞く。

 

「……別に、なんもなかったっつの。式典が終わってからは一度も会ってねえし」

 

「本当かー?」

 

「暑苦しいから顔を寄せんな」

 

「詠春、貴方の刀はずっとその形態のままなのですか?」

 

「ああ、コイツは常時解放型というタイプらしくてな。正直持ち運びに苦労している」

 

そんなやり取りをしていると、近くの建物に備え付けられたモニターが目に入った。

 

(あれは……今回の戦いでの戦死者のリストか)

 

人の名前が順番にスクロールされている。

 

気がつけば、いつの間にか周囲の人たちは黙祷を捧げていた。

 

ナギ達もそれに習う。

 

 

——ニコラス

 

——ヒューバート

 

——ネヴィル

 

——シーザー

 

——エドワーズ

 

——ルーファス

 

 

——ゼクト

 

 

その名前が出た時、『紅き翼』のメンバーは皆、顔を伏せた。

 

(お師匠……)

 

ゼクトがどうなったのか、本当に知っているのはナギとアルビレオだけだ。

 

しかし、もうゼクトが戻ってこないという意味ならば、ラカン達も間違ってはいない。

 

『紅き翼』もオスティア市民も、英雄を失った悲しみに心を痛める。

 

だが、その次にスクロールされた名前に、『紅き翼』は目を見開いた。

 

 

 

——五木大和

 

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