(やっと刀を使わせることができたか)
ラカンは急激に下がった気温に身を震わせた。
これまでにチャンピオンである大和とは七回戦ったことがある。
その七回全てにおいて完敗したが、以前に一度だけあの刀を使わせたことがあった。
だが、そこから先は勝負にすら、ならなかったのだ。
その時のラカンの記憶は曖昧だった。
ただ覚えているのは、今のように急激に気温が下がったことと、突如巨大な氷の竜があらわれ、自分に向かって大口を開けていたことだけだ。
そこから記憶は途切れ、気が付けば医務室で治療魔法を受けていたという体たらく。
医者が言うには氷の竜が一瞬でラカンを呑み込み、氷漬けにしたという。
(あれから死ぬ思いで修行した。アーティファクトも手に入れた。もうあの時みたいな無様は晒さねぇ!)
ラカンの新しい力『千の顔を持つ英雄』。
その力はありとあらゆる武具、防具を作り出すこと。
「喰らいやがれ、ヤマトォ!」
そのアーティファクトはラカンの意思を正確に受け取り、無数の武具となって大和へと飛んだ。
氷輪丸——その名を呼んだ瞬間に世界は変わった。
自身が所有する数多の斬魄刀の中でも、氷輪丸はかなりの上位に位置する。
その力は天候をも左右し、氷雪系最強の名にふさわしい。
未だ始解だということにも関わらず、現れた氷の竜の威圧感により気の弱い観客は気絶している。
(アーティファクトを手に入れやがったか。だが、そんなもん関係ねぇ。もう一度氷漬けにしてやる)
「——行け、氷輪丸」
主の指示を受けた氷の竜は、敵を打倒すべく飛翔する。
ラカンから放たれた武具はそのほとんどを凍らされ、呑み込まれ、破壊されていった。
そのままラカンがいたところ一帯を氷の海にするが、
(手応えがない……?)
敵を捉えた感覚がないことに一瞬困惑する。
そして、背後からの殺気。
振り向いたそこには、ラカンの巨体を隠すに十分なほどの大剣。
(コイツ、大剣を隠れ蓑に)
「うおらあああぁぁぁぁっっっ!!!」
大和が見せた一瞬の隙。それをラカンは見逃さずにアーティファクトを再展開し、渾身の力をこめて投擲した。
「っ、縛道の八十一——断空!」
間一髪、断空が大和の前に展開され、武具の群れをくい止める。
八十番台の鬼道なだけあって貫通したものはないが、それでも何本かが突き立つ。
(この前より力が格段に増してやがる。コイツはどこの戦闘民族だ!)
だが、この奇襲が成功しなかった時点で、ほぼラカンの負けは決まっていた。
「氷輪丸!」
初撃をかわされた屈辱からか、怒りの咆哮をあげて再びラカンに向かう氷輪丸。
「あっ、やば」
渾身の力をこめた分、技後硬直も長くなり。
全てを言い切る前に、ラカンは氷輪丸に飲み込まれた。
「……はっ、わ、私としたことが、あまりの試合展開に我を失っておりました! ラカン選手は新しく手入れたアーティファクトにより善戦したものの、大和選手の氷の竜により惜しくも飲み込まれてしまいました! というか本当に大丈夫なんですか、あの人!?」
大和は斬魄刀をひと振りし、氷山のようになっている一角から背を向けて歩きだした。
「え、えー、とりあえず勝者、大和選——」
バキンッ!!!
「まだだあああぁぁぁぁっっ!!!」
誰もが勝負が終わったと感じていた。
あの氷山から抜け出すことなど不可能だと誰もが思っていた。
だが、ラカンは諦めない。
『千の顔を持つ英雄』の持つ特性。武具だけでなく、防具にもなれること。
氷輪丸に飲み込まれる寸前に、自身の持つほぼすべての気と魔力を使って、自分に創り出すことができる最大級の鎧を展開したことに気づいた観客はいなかった。
「届きやがれぇぇっっ!!」
最早自分に力はほとんど残っていない。この攻撃が直撃しても大和を倒すことはできないだろう。
だが、それでも意地がある。このまま終わってたまるものか。
大和はまだ背を向けている。今ならば一撃を——。
そして、大和がようやく振り向き、目があった瞬間、ラカンの本能が最大限の警鐘を鳴らした。
「二度は食らわねぇ」
——射殺せ——神鎗(しんそう)。
奇襲をかけたつもりが、奇襲をかけられた。
大和の脇腹の横から伸びてくる刀を見たラカンの心情はそれだ。
ラカンがその攻撃をかわせたのは奇跡に近い。自分の本能に従って横に飛ばなければ、今頃串刺しになっていた。
「ちっ、かわしやがったか」
「ちょ、お前、ヤマト! 今のはよけなかったらマジでやばかったぞ!?」
「ん? ああ、大丈夫だ。てめぇならかわせると信じていた」
「今さっきお前『ちっ、かわしやがったか』って言ったろうが!」
「縛道の六十一——六杖光牢」
「うおいっ!?」
力尽きて動けないラカンを、さらに縛道で拘束する。
「つうかお前その刀の能力は一つじゃねえのかよ! そんなの反則だろうが!」
「そんなこと言った覚えはねぇし、第一テメーが言うな」
正論である。
「散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる」
「くっそおおおおっっっ!! 覚えてやがれえええぇぇぇぇ!!!」
「やなこった。破道の六十三——雷吼砲」
——こうして、後々にまで語られる、ジャック・ラカンVS五木大和の八回目の闘いは幕を下ろした。