ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第十七話

 

「おいどうなってる! どうして魔法が使えないんだ!」

 

「そんなもん俺が知るかよ!」

 

「誰か、私の娘を見かけませんでしたか!?」

 

 

王都オスティアはパニックに陥っていた。

 

ある一時を境に、魔法がまったく使えなくなるという異常事態が発生。

 

自らの手足のように扱ってきた魔力が消え、オスティアの市民は恐慌状態となった。

 

さらに追い打ちをかけるかのように地震が起こり、オスティアの数箇所が崩落する。

 

それはまさに、この世の終わりのような光景だった。

 

「お母さん! お母さ——きゃあ!」

 

はぐれた母親を探し、子供が周囲を見回す。

 

だが、このパニックの中ではそれもままならず、走り回る大人に突き飛ばされてしまった。

 

「うう……痛い……」

 

少女にとって、いつも通りの一日のはずだった。

 

親の仕事の関係上、離宮島のパレードには行けなかったが、その分夕食を豪華にしようと家族で話し合った。

 

お母さんと二人で町に出かけ、良い食材を買った。

 

戦争が終わったお祝いをしよう、とお母さんと笑いあった。

 

パレードに行けなかった分、お父さんに埋め合わせをしてもらおう、と話し合った。

 

「なのに、どうして……」

 

足をくじいてしまったのか、少女は蹲ったまま動かない。

 

しかし、あることに気がついた。

 

先程まで逃げ惑っていた周囲の人間が、今は全員立ち止まっている。

 

「……?」

 

不審に思い、周りの人間を見回す。

 

すると、一人の例外もなく空を見上げていた。

 

少女もつられて上を向く。

 

すると、そこには——

 

「綺麗……」

 

 

見る者を虜にするような、蒼い光がオスティアの街を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい姫さん! ナギだ! 応答しやがれ!」

 

この魔力消失現象の中で、『紅き翼』もまた動き出していた。

 

指名手配されていた時期、逃亡に使っていたボロ船に乗り込み、この現象の正体を知っていると思われるアリカに連絡を入れる。

 

ブリッジのモニターに、アリカの顔が映される。

 

「……ナギか。何の用だ」

 

「何の用か、じゃねえだろ! 一体これはどういうことだ!」

 

「……見てのとおりだ。妾は世界を滅ぼす黄昏の姫御子の『反魔法場』を、姫御子ごと封印した。これはその代償なのだ」

 

「っ、なんで言わなかった!」

 

「言えばどうにかできたのか!」

 

即座に返され、ナギが言葉に詰まる。

 

「くそッ、今からそっちに向かう! 待ってろ!」

 

「ここにお主の力は必要ない! それよりもまだ崩落を始めていない区域に行ってくれ! 妾達が逃亡中に使用していたボロ船なら——」

 

「もう乗ってるよ! ちくしょう、こんな時に大和の野郎は何してんだ!」

 

その名前を聞いた瞬間、アリカの顔に動揺が生まれた。

 

「……おい姫さん。アンタ、何か知っているのか」

 

アリカの表情の変化をナギは見逃さなかった。

 

「……」

 

「姫さん!」

 

生まれた動揺は一瞬だけ。今のアリカは完全に無表情だ。

 

アリカはゆっくりと口を開く。

 

「……今、妾達が行なっていることは、ただの『保険』なのだ」

 

「『保険』だと……?」

 

「そうだ。この魔力消失現象で失う命は、ほぼゼロだろう」

 

「姫さん、アンタ何言って……」

 

その時、蒼い光がどこからともなく舞い降り、オスティアを包み込んでいくのをナギは見た。

 

首の後ろがチリチリとした感覚を伝える。

 

この感覚を、ナギは何度も味わったことがあった。

 

そう、この感覚は——

 

「大和……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、始めるか」

 

オスティアの周囲に無数に存在する浮島。

 

その中の一つ、直径百メートルもない島に大和はいた。

 

右手に持った刀を地面に突き立てる。

 

既に下準備は終えており、後は実行に移すだけ。

 

大和は深呼吸を一つ、そして、両の手を強く打ち鳴らした。

 

 

「縛道の百——時殺(ときごろし)」

 

 

大和の体から、蒼い光が溢れ出す。

 

それは絡み合い、もつれ合いながら爆発的に体積を増していく。

 

さながら蒼一色で構成されたオーロラのように、オスティアを覆った。

 

それを見届けた大和は息を深く、深く、吐き出す。

 

一番重要な工程を終え、大和は安堵した。

 

(だが、まだ集中を切らすわけにはいかない……)

 

神に祈るような姿のまま、大和は自らの意識の中に潜っていく。

 

だが、ふと懐かしい気を感じた。

 

鬼道に長ける大和は、それが詠春による天挺空羅だということをすぐに理解する。

 

(詠春さん……鬼道は苦手だったのに、天挺空羅を使えるようになっていたのか)

 

まだ京都にいた頃、いつもの場所でよく鬼道の訓練を見ていたことを思い出し、大和は苦笑する。

 

天に伸びる気の網は大和から見れば拙いものではあるものの、詠春が修行を怠っていなかったことを証明していた。

 

大和を捕捉することに成功したのか、気の網の一部が大和の元に飛んでくる。

 

 

『……君……大和君!』

 

「詠春さんですね? 聞こえていますよ」

 

『よし、繋がった!』

 

 

天挺空羅の向こう側から複数人の声が聞こえる。

 

どうやら『紅き翼』の全員が集まっているようだ。

 

『大和君は今どこにいるんだ!?』

 

「オスティアの周囲に浮遊している島の中の一つです」

 

『そんなところで一体何を……って、おいナギ! 押すな!』

 

『おい大和! テメェこんな時にどこで油売ってんだよ!』

 

 

現在、詠春はボロ船の中の一室で座禅を組んでいる。

 

魔力が消失しているために念話などは使えず、気で発動する鬼道でしか大和と連絡がとれない。

 

苦手な鬼道を成功させるための努力だったのだが、側にいたナギが飛びついたために体勢が崩れそうだった。

 

『バカフィールドもいるのか、丁度いい。仲間を連れて今すぐにオスティアから離れろ。魔力消失現象に巻き込まれるぞ』

 

「それはもう聞いた! 俺達はこれから逃げ遅れた人達の救助を——」

 

『必要ない』

 

ナギの言葉は途中で遮られる。

 

『だからお前らはさっさとこの場を——』

 

「必要ないって、どういうことだよ」

 

『……』

 

「テメェと姫さんは何を企んでんだよ! 答えろ大和!」

 

『……簡単な話だ。俺が鬼道を使って、オスティアを地面に軟着陸させるということだよ』

 

それを聞いた『紅き翼』は息を呑む。

 

大和のデタラメさはよく知ってはいたが、今回はその中でも群を抜いていた。

 

オスティアはその辺りに浮いている島とは訳が違う。

 

ウェスペルタティア王国はどちらかと言えば小国の部類に入る。

 

だが、仮にも一国の首都。

 

それを一人の鬼道で浮かすなど、最早笑い話だ。

 

しかし、大和のことを知る人間ならば、また話は違ってくる。

 

「お前、首都を浮かすなんてこと本当にできるのか」

 

『ああ。浮かすというよりは、時間停止の鬼道を使って落下のスピードを緩めるといった方が正確だがな』

 

「マジかよ……」

 

『マジだ。だからオスティアは俺に任せて、お前らは避難した人達の混乱を収めてくれ』

 

驚愕する『紅き翼』達だったが、ナギはモニター越しのアリカの様子がおかしいことに気がつく。

 

「どうした姫さん。顔色が悪いぞ」

 

「……」

 

『なんだ、王女さんもいるのか?』

 

「ああ、モニター越しだけどよ」

 

「あの、少しよろしいですか?」

 

通信にアルビレオが割り込む。

 

『なんだアル。今俺は集中してんだから、できるだけ手短に話せ』

 

 

「わかっています。私が聞きたいのは、それほどの術を行使する貴方になんらかの代償があるのではないか、ということです」

 

 

アルビレオがそれを聞いた瞬間、アリカの表情が凍りついた。

 

『……』

 

大和も黙り込んでしまう。

 

「返答はなしですか。詠春、貴方の知っている範囲でなにか副作用のようなものがある鬼道はありますか?」

 

「……ある。俺が知っているのは一刀火葬という鬼道だが、それを放つには腕一本を代償にしなければならない」

 

犠牲破道と呼ばれる、破道の九十六——一刀火葬。

 

それは焼け焦げた己の腕を生贄に捧げることで発動する禁術。

 

そのおぞましさに、『紅き翼』達は顔を歪めた。

 

「一つの都市を浮かべるという鬼道に、何の代償も無い訳がない」

 

アルビレオもまた、大和に鬼道を教わった身。

 

だからこそ、出来る範囲が大体わかる。

 

「大和、貴方はこの犠牲鬼道を使おうとしているのですね?」

 

『……そうだ』

 

「一体、何を捧げるつもりなのですか?」

 

時間停止の鬼道は、それだけで禁術。

 

ましてや、オスティアを丸々包み込むほどの規模だ。

 

その分代償も大きく——

 

 

『——身体全部だ』

 

 

その呟きは、空虚に響いた。

 

「っ、ざっけんな……」

 

ナギが拳を強く握り込む。血が滲むほどに。

 

「テメェ、ふざけんじゃねえええええッッッ!!!」

 

そして叫ぶ。

 

「何考えてやがる!? オスティアの連中救って! そんでもって自分が犠牲になって! そんなもんただの自己満足じゃねえか!」

 

『そうだが、それがどうかしたか? 少なくともお前に俺の人生をどうこう言われる筋合いはない』

 

「んだとコラァ!」

 

そこで、ナギは気付く。

 

先程からアリカが一言も喋らないことに。

 

「まさか姫さん、アンタも……」

 

アリカはゆっくりと頷く。

 

「……ああ、知っていた」

 

「姫さんッ……!」

 

『おいバカフィールド。王女さんを責めるのはお門違いだぜ。そもそもこの方法を提案したのは俺だしな』

 

それでもなお言い返そうとするナギだったが、ふと思い出す。

 

戦死者のリストの中に大和の名前が入っていたことを。

 

 

——それはつまり、最初から生きて帰るつもりが無いことを証明していた。

 

 

『悔しいか? それならその気持ちをよく胸に刻んでおけ。今お前が感じている無力感は、王女さんもまた感じているものだ』

 

そう言われてナギは気付く。

 

モニターの端にチラッと映されたアリカの手。

 

その手もまた、血が滲んでいた。

 

『結局のところ、お前に力が無いのが悪い。そして俺には力がある。だから俺を止められないんだよ』

 

ナギは近くの壁を思いっきり殴りつける。

 

大和の言葉は全て真実だった。

 

大和のすることに文句を言える筋合いなどない。

 

『お前は王女さんを救ってやれ。ソイツは俺のことも背負っちまうだろうからな』

 

思えば、最初から大和は自分のためだけに戦っていた。

 

人を救いたいというのも、ただの自己満足。

 

こうして犠牲鬼道を発動しているのもまた同じ。

 

最後まで自分本位に、夢を叶えようとしているに過ぎない。

 

 

『俺には叶えたい夢がある。今回の崩落はそれを叶える大チャンスなんだ。誰にも邪魔は、させない』

 

 

 

——僕は破道よりも縛道の方が好きだな。作成者の、できるだけ人を殺したくないという思いが伝わってくる。

 

 

——僕達の持っている技術は、人を傷つけるためのものだ。それは否定しようがない。

 

 

——でも、この技術で誰かを護こともできると思うんだ。

 

 

——僕はこの技術で、人を守れる存在になりたい。多くの人の命を救えるような存在に。

 

 

 

——そう、お伽噺のような英雄に、僕はなりたい。

 

 

 

オスティアが、緩やかに降りてゆく。

 

その大地にたくさんの人を乗せながら。

 

人々は皆、外に出て蒼い光を見つめる。

 

誰もが無言だった。

 

しかし、誰もが理解していた。

 

この蒼く、優しい光が、自分達を守っているのだと。

 

都市が地面に降りるまで、人々はその光から目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

体が消えていく。

 

自分の手をかざしてみると、地面が透けて見えた。

 

地面に突き立っている自分の刀を撫でようとする。

 

残念ながら、その前に手は完全に消えてしまったが。

 

結局、名前すら付けることはなかった刀。

 

しかし、間違いなく自分と共に歩んできた相棒だ。

 

ありがとうと言おうとして、自分の喉が消えていることに気付く。

 

苦笑しようとして、口が無いことに気がついた。

 

仕方なくオスティアの方に目を向ける。

 

自らの鬼道はその役目を果たし、都市を緩やかに地上へ降ろしている。

 

これならば被害もほとんど無いだろう。

 

せめて最後まで見届けたいが、視界が霞んできた。

 

この瞳もまた、その役目を終えようとしている。

 

まだ思考は残っているようなので、過去に思いを馳せてみた。

 

 

様々な出会いがあった。

 

 

挫折したこともあった。

 

 

また、自らの足で歩き始めた。

 

 

そして、大和に残った最後の誓い。

 

 

 

——ねえ、刀子ちゃん。

 

 

 

——色々と遠回りしちゃったけどさ。

 

 

 

——一度、諦めそうになったけどさ。

 

 

 

 

——俺、やっと英雄になれたよ——

 

 

 

 

 

『紅き翼』とアリカがその場所にたどり着いてから、誰も言葉を発しなかった。

 

大和のいた場所に残っていたもの。

 

それは、一本の名も無き刀だけ。

 

皆、無言で見つめ続ける。

 

 

一人の英雄の生き様を表す、その一本の刀を——

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