ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第二話

 

《全く、湖に投げ込まれたエクスカリバーもこんな心境だったのかね……》

 

「ほ、本当にごめんなさい。まさか貴方が前の持ち主の人やったなんて……」

 

《……別に、もう気にしていない。それよりも柄の中までちゃんと拭けよ。目釘の抜き方はわかるな?》

 

「は、はいっ」

 

現在、刹那は『大和』をバラバラに分解して河原に並べていた。

 

刹那は刀を滝壺にぶん投げた後に正気に戻り、詠春から託された大切な刀を捨ててしまったことに気がついた。

 

すぐに取りに行こうかと思ったがしかし、やはり怖いものは怖い。

 

結局、回収する決心をするまで十分程の時間を要した。

 

もちろんその間、大和は滝壺に沈んだままだった。

 

そして回収した後も問題発生。

 

大和に散々怒鳴られて、刀に頭を下げ続ける人間という珍しい構図を経た後、刀のあちこちに浸水していることが判明したのだ。

 

とはいえ、水の中に沈んでいたのだから当然とも言えるが。

 

このままでは錆び付いてしまうとのことで、刹那は刀のメンテナンスをすることを命じられたのだった。

 

「えっと、その、大和さん?」

 

《なんだ小娘》

 

「どうして刀になっているのか、聞いてもいいですか?」

 

《断る》

 

一刀両断。

 

即座に断られ、刹那は涙目になる。

 

それを見てさすがに哀れに感じたのか、仕方ないといった風に説明を始めた。

 

《……昔、俺が生きていた頃だが、その時に少しばかり無茶をしてな。その代償として体を全て持っていかれた》

 

「か、体全部?」

 

《ああ。だが、魂は代償の対象外だったらしく、それだけが残ったんだ》

 

「そ、想像もつかへん……」

 

一体どれほどの事をすれば、体を全て失うなどという代償を払わねばならないのだろう。

 

刹那はそれを聞いてみたくもあったが、何故か話してくれないだろうという確信があった。

 

《本来、魂だけ残ったところでそのまま消えるか、悪霊化するかのどちらかしかない。だが俺の場合、運のいいことに、すぐ近くにとり憑く対象があった》

 

「それがこの刀やったん?」

 

《そういうことだ》

 

「それって、やっぱり妖刀……」

 

《ああ?》

 

「はうっ、ご、ごめんなさい」

 

完全に立場が逆転しているが、それを突っ込む人間はこの場にいなかった。

 

「これでよしっ、と」

 

《刀の手入れの方法はちゃんと覚えておけよ。お前のは色々と順序が間違っていたからな》

 

「すみません……」

 

《……まあ、毎日欠かさずに手入れしていたことは褒めてやってもいい》

 

「え?」

 

人に褒められることに耐性の無い刹那は、それが自分に向けられた言葉だと気付くのに数瞬の時間を要した。

 

そして、気付くと同時に真っ赤になって照れる。

 

「あう、あうう」

 

《……調子に乗るな。言っとくが、普段のお前の刀に対する扱いは結構雑だからな》

 

「あ、やっぱりそうですよね……」

 

《ああもういちいち落ち込むんじゃねえ!》

 

「あうっ、す、すみません……」

 

しょんぼりする刹那を見て、大和はため息をつく。

 

もし体があれば、頭をがりがりと掻いていただろう。

 

そして刹那がふと、考える。

 

(あれ、普段のことを知ってるってことは……ひょっとして)

 

あることに思い当たり、刹那の顔が青ざめる。

 

「あ、あああの、大和さん」

 

《何だよ》

 

「ひょ、ひょっとして、私の普段の行動も、その、見てたんですか……?」

 

刹那は修行の時を除けば、常に『大和』を持っていた。

 

それこそ、肌身離さずと言っていいほどに。

 

もしも最初から全て見られていたとしたら——

 

 

《見てたぞ。この間、お前が詠春さんの器を落として割ったこととかもな》

 

 

大和がごくあっさりと白状したことにより、刹那の呼吸が止まる。

 

《俺の刀を受け継いだ日に、はしゃいで振り回した挙句に『ざんがんけん!』とか叫んで岩に斬りかかったことも忘れてねえぞ。オマケに斬れずに刃毀れしたもんだから泣き出すし》

 

「わあああああああああああああ!!!」

 

《そういや一昨日もホラー映画見て泣き喚いていたな、お前。詠春さんの娘は笑って見ていたのに情けない》

 

「いやああああああああああああ!!!」

 

これまでの人生における黒歴史を全て見られていたと知り、刹那は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

《ああそうだ。寝るときに俺を抱くのも勘弁してくれ。夏場は蒸し暑い》

 

「ひゃああああああああああああ!!!」

 

《それともう一つ。いくらなんでも風呂場に俺を持ち込むのはやめてくれねえか。湿気で錆び付きそうになる》

 

「——きゅう」

 

羞恥心が限界突破し、刹那は倒れた。

 

《本当に、こんなのが主でいいのかね……》

 

 

少し早まったかもしれない。

 

そう思った大和は二度目のため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《腕の振りだけに頼るな。もっと膝を使え》

 

「えっと、こうですか?」

 

《肘じゃなくて膝だ! ちゃんと聞いてんのかお前は!》

 

「あううう」

 

数分後、気絶から目が覚めた刹那は河原で素振りをしていた。

 

何故こんな状況になっているのかと言うと、目覚めた刹那に対し、大和がこう言い放ったからだ。

 

——お前の剣術、俺が指導してやってもいい。

 

《また握りが甘くなっているぞ。正しい握り方は教えただろうが》

 

「は、はい!」

 

《たとえ今は窮屈で振りにくかろうと、しばらく振り続けていると慣れる。それまでその型を維持しておけ》

 

「わかりました!」

 

大和の指導を受けて、かれこれ数時間。

 

刹那の剣術は劇的に、とまではいかずとも、かなり改善されていた。

 

鳥族とのハーフであるが故に身体能力に優れ、剣術のセンスもあったのだろう。

 

幼い刹那は大和の教えをスポンジのように吸収していった。

 

《力を篭めることと力むことは別だ。基本は脱力、それを一気に爆発させるイメージを持て》

 

「……」

 

《どうした?》

 

「……あの、一つ聞いてもいいですか?」

 

《何だ、言ってみろ》

 

何か剣術でわからないことでもあるのか、と大和は考える。

 

しかし、刹那からの質問は予想外のものだった。

 

 

「——どうして、ウチにここまでしてくれるんですか?」

 

 

《……ああ? いきなり何を》

 

「だって、ウチは弱くて、刀の握り方すらよくわかってなかったし」

 

《おい小娘、お前》

 

「それに」

 

大和の言葉を遮って、続ける。

 

「今までの私を見てきたんなら、大和さんも知ってるでしょう?」

 

 

——ウチが、化け物ってこと。

 

 

その呟きは、やけに大きく響いた。

 

《……》

 

「だから、別に無理をして私に付き合ってくれなくても、長に言えばもっと強い人のところに……」

 

《馬鹿かお前は》

 

「……え?」

 

《ああ、そういやお前は馬鹿だったな。忘れていた俺のミスだ》

 

「ちょ、ちょっと、大和さん?」

 

刹那からすれば、かなりの覚悟を必要とした言葉だった。

 

それがあっさりと馬鹿呼ばわりされ、戸惑ってしまう。

 

《ホラー映画すらまともに見れないヤツが化け物だと? ふざけてんのか》

 

「え、あ、その」

 

《第一、その映画を見た晩にお前、少し漏ら》

 

「わああああああああああああ!!! それは言わんといてええええええええええええ!!!」

 

思いっきり叫び、ハアハアと肩で息をする刹那。

 

《そんなヤツをどうやって怖がればいいんだよ。言っておくが、生前の俺は山一つぐらい簡単に消し飛ばせるぞ》

 

「や、山って……」

 

自分の刀の前の持ち主が規格外の人だったと知り、刹那が驚愕する。

 

そして同時に気づいた。

 

 

——ひょっとして、自分は今、慰められているのだろうか?

 

 

《そんなへっぽこのくせに、自分が化け物だなんて生意気言いやがって。せめて神鳴流の技の一つくらい覚えてから——》

 

「……」

 

《……おい、小娘?》

 

「あ……」

 

咄嗟に我慢しようとしたが、ダメだった。

 

表情は変わらぬまま涙が溢れ出し、握りしめた『大和』の柄に落ちていく。

 

《お、おい、急にどうした》

 

「ち、違っ……ひっく」

 

《なぜ急に泣く!?》

 

一度自覚してしまえば、もう手遅れだった。

 

今まで、誰にも知られずにいた秘密。

 

それを初めて受け入れられた感動と、喜びと、様々な思いが胸の中で混ざり合う。

 

そして、それらの感情は涙となって溢れ出した。

 

《ああもう俺が言いすぎた! 悪かったよ! だから泣くな!》

 

「ちゃ、ちゃうんです、ぐすっ、その、知られてから、受け入れられたの、初めてやったから」

 

慌てる大和の声が耳に響く。

 

彼に感謝を示したいのに、自分の中で上手く言葉にならない。

 

色んな感情が混じり合って、もうぐちゃぐちゃだった。

 

刹那は泣き続ける。

 

両手で刀を握り締めながら。

 

 

——決してその手を離さぬように。

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