ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第三話

 

《君臨者よ! 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!》

 

大和の詠唱が、糸(パス)を通じて刹那の頭に響いた。

 

刹那は緊張を深呼吸で誤魔化す。

 

これから行う行為はタイミングが命だ。その一瞬を逃す訳にはいかない。

 

《焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!》

 

——今だ、小娘!

 

手に持った刀、『大和』から意思が流れ込む。

 

刹那は自身の出せる最大限の気を刀に叩き込み、叫んだ。

 

 

「破道の三十一——赤火砲!」

 

 

緋色に染まった刀身から、勢い良く気弾が飛び出す。

 

凄まじい速度で射出されたそれは、赤い残光の尾を引いて滝に直撃。

 

一瞬で大量の水を蒸発させた。

 

「できた……」

 

《まあこんなもんか》

 

「す、凄いです大和さん! ウチが三十番台の鬼道を使えるなんて、感動しました!」

 

大和と刹那が初めて会話した日から三日。

 

現在、二人はいつもの修行場所で『大和』の能力を検証していた。

 

《使えたって言っても、俺が詠唱やらなんやらを全て肩代わりしてでだろ。お前は気を消費しただけだろうが》

 

「それでもです!」

 

《……まあいいが、最終的にはお前だけで鬼道を使えるようになってもらうぞ》

 

「ええ!? そ、そんな!」

 

《確かに俺が詠唱を引き受けることは可能だが、常に俺がお前の側にいるとは限らない。それにお前自身が鬼道を理解すれば、威力を上げたり気の消費を減らすことにも繋がる》

 

「うう……詠唱がややこしくて覚えられません……」

 

《十分で覚えろ》

 

「そんなぁ……」

 

この三日間、大和は刹那の剣の指導をする傍ら、自分にどこまでの力があるかを調べていた。

 

刀と化し、戦闘力は激減してしまったが、敵がそれを考慮してくれるはずがない。

 

そして今の刹那では木乃香を守るどころか、足手纏いになるのは明白だ。

 

今の自分にはどれだけの手札があるか、それを確かめることは最優先事項である。

 

(鬼道は小娘の気を流用すれば使える。だが今の小娘の気の量じゃ心もとない。クソっ、俺が自分で気を生成できたなら……)

 

現在の大和は自らで気を生み出すことができない。

 

生命力の源たる身体が存在しないのだから当然だった。

 

しかし、大和の戦闘方法のほとんどが気に依存している。

 

事実上、今の大和が単独で戦うのは不可能だった。

 

(だが、このままの小娘で通用するほど甘くはない。残る可能性と言えば斬魄刀だけだが……)

 

「あ、あの、大和さん。一応覚えられたと思うんですけど」

 

《ん、ああ。ならやってみせろ》

 

「あんなのやれと言われても……」

 

《いきなりさっきほどの威力は求めていない。まずは照明に使えるほどの球体をイメージしろ》

 

「は、はいっ」

 

刹那は目を閉じ、大きく深呼吸する。

 

そして息を吸い込んだ瞬間、目を開けて叫んだ。

 

「君臨者よ! 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠しゅ者よ!」

 

《……》

 

「あ、あれ?」

 

《……まずは、滑舌の訓練が必要か》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《この場所は、何年経っても変わらないんだな》

 

「え?」

 

休憩のために、河原の石に座り込む刹那に大和の声が届く。

 

「ひょっとして、大和さんもこの場所で修行したことがあるんですか?」

 

《ん……まあな》

 

滝と川、河原と森。

 

記憶の中にある景色とほとんど変わらない。

 

仲間達と共に修行し、共に遊んだ場所のままだった。

 

刀子と初めて出会った場所でもあるこの地を、感慨深く眺める。

 

《もう十数年も昔の話だ。お前が気にすることじゃない》

 

「……」

 

《どうした?》

 

「あ、あのっ」

 

刹那は何かを決意するような顔をすると、大和に向かって声を張り上げた。

 

「大和さんの昔のことを、聞かせてはもらえませんか!?」

 

《……急に何だよ》

 

「ウチはもっと貴方のことを知りたいんです! だってウチは大和さんのこと何も知らんし、精々知ってることといったら長の友達だったことぐらいしか……」

 

どんどん声が小さくなっていく刹那。

 

「そ、それに大和さんがウチのことなんでも知ってるのに、不公平やないですか!」

 

《それが本音か》

 

「え? あ、いや、その」

 

《それに、テンパると京都弁になるのも相変わらずだな》

 

「ええ!? ウチ、またやってもうたん!?」

 

《ほら見ろ》

 

「あ……」

 

刹那は恥ずかしそうに顔を下に向ける。

 

それを見た大和はため息を一つ。

 

《別に隠すつもりもない。何が聞きたいんだ》

 

「え……聞いてもええんですか?」

 

《構わないと言っている》

 

「なら、えっと……あれ、ウチ何を聞こうとしてたんやっけ」

 

《……》

 

視線は感じずとも、大和の雰囲気を察することはできるようで、刹那は焦る。

 

「す、すみません今思い出しました! とりあえず大和さんの苗字が知りたいです!」

 

《五木》

 

「え?」

 

《だから、五木だっての》

 

五木、という苗字が理解できるにつれ、刹那の頭は回転を始める。

 

五木大和。

 

この総本山に於いて、高い地位を誇る五木家の嫡男。

 

十数年前に、関西をたった一人で西洋魔術師から守り抜いた英雄の名前。

 

一人で百人の魔法使いを打倒したという話は余りにも有名で、知らぬ者はいない。

 

その戦いの際に行方不明とされた彼は、関西にとって伝説の存在だった。

 

 

「え……えええええええええええええええええ!!??」

 

《なんか、前にもこんなリアクションあったな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《へえ……関西では俺はそんな扱いになってんのか》

 

「ま、まさか憧れの英雄に会えるなんて……」

 

トリップしている刹那を横目に、大和は考えを巡らす。

 

(脱走した裏切り者とするより、英雄に祭り上げることによって五木家の地位向上を図ったか。あのジジイの企みそうな手だ)

 

《それにしても小娘。五木元蔵が死去したという話は本当か?》

 

「あ、はい。確か十年ほど昔のことだったはずですけど」

 

《……そうか》

 

五木元蔵。

 

かつて大和を戦場へと送り出した張本人。

 

少なくとも好いてはいなかった。

 

大和の生き方を決めつけ、刀子を人質にとり、人を殺すことを強いた。

 

 

だが……憎んでいるかと言われれば、返答に迷う。

 

 

元蔵は家の五木家の地位を上げることにしか興味を示さなかった。

 

幼い大和が折り紙の鶴を元蔵にあげた時も、結局は翌日のゴミ箱に入っていたのを見つけた。

 

大和が戦闘に類い稀な才能を見せると、元蔵は初めて笑顔を作ったが、恐らくはその笑顔の裏で大和の力をどう利用しようか考えていたのだろう。

 

何が元蔵をそこまで駆り立てたのか、大和は知らない。

 

理由を知ったところで過去の事実は消えないし、大和も許す気はない。

 

ただ、

 

(一度だけでも、本心で話し合いたかったな……)

 

奇妙な虚無感と共に、大和はそう思った。

 

「大和さん?」

 

《ん、どうした》

 

「いえ……なんだか、その、悲しいという思いが伝わってきたような……」

 

《……悲しい?》

 

「はい」

 

《そうか……悲しい、か》

 

そうか、と大和はもう一度呟く。

 

それから数分は、二人とも言葉を発しなかった。

 

沈黙を滝の音が流していく。

 

 

——その日、大和は肉親を亡くしたことを知り、悲しみの感情を知った。

 

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