ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第八話

 

「月牙、天衝ッ!」

 

人のいない、そして鬼で溢れかえる屋敷で詠春の叫びが響きわたる。

 

詠春の持つ巨大な刀、斬月から三日月状の気の刃が射出され、十数体の鬼をまとめて薙ぎ払った。

 

「はぁ、はぁっ……くそっ、何体いるんだ!」

 

詠春は中庭で膝をつく。

 

専門の庭師により美しく整備されていた庭は、今や見る影もないほどに荒れ果てていた。

 

屋敷に関しても同様で、屋根や柱などの様々な場所に戦闘の爪痕が残されている。

 

今の近衛家の屋敷はまさしく、戦場であった。

 

 

 

この場所で詠春が戦い始めてから、かなりの時間が過ぎている。

 

十数年もの間、戦闘から遠ざかっていた詠春の一番の弱点は体力だ。

 

そこらの鬼を薙ぎ払うことぐらい現在の詠春でも容易だが、いつまでも戦い続けることができるほど詠春は若くない。

 

敵の鬼達もそれを理解しているようで、大人数で一気に襲いかかるような真似はせず、詠春を休ませないように波状攻撃を繰り返す。

 

——その結果、詠春は鬼の数を三分の二ほど削ったところで体力が尽きかけていた。

 

「たった一人でここまでやるとはなぁ……さすが大戦の英雄。残りはざっと三百ってところやな。元々は千ぐらいおったのに」

 

「まだ……それだけ残っているのかッ……!」

 

軍勢の中で一回り大きい鬼が詠春の前に出る。

 

先程から周りの鬼達に指示を出していることから考えて、この鬼は軍勢のトップなのだろう。

 

「ワイらも別にアンタの命までとれとは言われとらんし、時間稼ぎに専念しとってんけどな。それでもここまで被害が出るとは予想外やわ」

 

この鬼の言うとおり、詠春に襲い来る攻撃には殺意があまりなかった。

 

しかし、それは詠春にとって喜ばしいことではない。

 

時間稼ぎをされるということは敵の目的は詠春ではなく、別にあるということ。

 

そして、その目的は考えるまでもなく——

 

 

(木乃香……!)

 

 

「まあそういうわけやから、悪いけどもう少しワイらと遊んでいてもらうで」

 

「そこをどけぇッ!!」

 

詠春は斬月を握り直し、鬼の一団に向けて駆け出す。

 

鬼達は詠春の修羅の如き形相に思わず一歩退くが、彼らにも決して破れぬ契約の鎖がある。

 

彼らは『近衛詠春の足止め』という強制力の下、行動を開始した。

 

「う、おおおおおおおおお!!」

 

視界を埋め尽くす鬼達に対し、斬月を我武者羅に振り回す。

 

一歩進むにつれ詠春の体には傷が刻まれていき、そしてそれ以上の数の鬼を屠っていった。

 

体中がボロボロになっても詠春は止まらない。

 

今この瞬間に木乃香が敵に捕まっているかもしれないと考えると、止まれなかった。

 

斬撃だけでなく、空いた手でぶん殴り、蹴り上げ、頭突き、ありとあらゆる手段で目の前の鬼を排除していく。

 

そして、先程のリーダー格の鬼に斬りかかったところで——詠春は前のめりに倒れた。

 

「血を流しすぎたか……それだけボロボロやったら無理もないな」

 

「く……そ……」

 

詠春は無様に倒れた体を必死に起こそうとする。

 

しかし、彼の手足は動かない。動いてくれない。

 

既に詠春の身体には一欠片の気も残ってはいなかった。

 

「……アンタみたいな男は嫌いやないけど、ワイらは契約には逆らえん。悪いな」

 

そう言って、鬼は右腕を振り上げる。

 

殺されることはないかもしれないが、あの腕で両足を潰されてしまえばそれで終わり。

 

木乃香を助けに行くことができなくなる。

 

(すまない、木乃香……)

 

詠春は絶望に目を閉じ、その時が来るのを待った。

 

 

しかし、予想された衝撃は一向に来ない。

 

詠春は目を開け、そして驚愕した。

 

 

 

——鬼の胸から刀が生えている。

 

 

 

「まったく、大和はんと修行してた頃からちっとも変わっとりまへんな。そのすぐに熱くなる癖」

 

 

訳が分からない、という表情をしている鬼を串刺しにしたまま、刀は横に振り払われる。

 

鬼はなすがままに飛ばされ、保てなくなった体が崩壊していった。

 

そして、その鬼の後ろにいたのは——

 

 

「鶴子!? お、お前、旦那と一緒に旅行に行ってたんじゃ……」

 

 

かつて、刀子と共に最前線で戦ってきた女性。

 

詠春を除いて神鳴流最強とまで呼ばれ、斬魄刀を使う刀子と唯一互角に戦える人物でもある女傑——青山鶴子。

 

結婚を期に引退し、婿と共に旅行に行っていたはずの鶴子が現れ、詠春は混乱した。

 

「どうしても何も、いきなり詠春はんの部下から連絡が来たんよ? 『強硬派が謀反を起こして、長が危ない』って。だから旦那との旅行は中止して、長距離転移魔法符で帰ってきたんどす」

 

鶴子は軽い口調で言うが、長距離転移魔法符は異常に高く、おいそれと使えるものではない。

 

安いものでも確実に数百万は飛ぶ。

 

しかし鶴子はそれを惜しみなく使った。

 

ここが使い時だと感じたが故に。

 

「ま、後で代金は請求しますけどな」

 

そう言って、鶴子は倒れた詠春の前に立つ。

 

前線を退いてなお、鶴子は武人だった。

 

その背中の頼もしさに、詠春は自分の不甲斐なさを情けなく思って苦笑いした。

 

「はは……そんなもの、いくらでも経費で落とすさ……」

 

「それで、木乃香ちゃんは今どこにいるんや? さっさとコイツら片付けて迎えに行かなあきまへん」

 

鶴子は周囲の鬼達を視線で威嚇する。

 

ただ見られただけだというのにも関わらず、鬼達は喉元に刀の切っ先を当てられているかのような錯覚を感じた。

 

「それが、最近は遊び場所をしょっちゅう変えるから見当がつかない。刀子君が護衛でついているはずだが……」

 

「そこらへんは敵さんも織り込み済みのはずや。何かしらの対策を打たれとるやろ」

 

「くそっ、親でありながら情けない」

 

「反省は後どす。今はそれよりも木乃香ちゃんの場所を——」

 

見つけるのが先、と続けようとして固まった。

 

鶴子だけではない。詠春も、周囲の鬼達も同様に凍りつく。

 

 

 

山全体を覆い尽くすような殺気が、突如として出現したからだ。

 

 

 

戦闘中であるにも関わらず、いや、彼らの頭からは既に戦闘のことなど頭から抜け落ちていた。

 

皆、我を忘れたかのように屋敷の裏手にある立ち入り禁止の山を見る。

 

 

 

あそこに、巨大なナニカがいると、全員の本能が訴えていた。

 

 

 

——そして次の瞬間、その場所から爆発したかのように気の奔流が溢れ出す。

 

 

 

「馬鹿な……!」

 

「これはっ……! そんな、嘘やろ!?」

 

 

詠春と鶴子は、この巨大な気の持ち主を知っている。

 

これほどまでに研ぎ澄まされた気を忘れろというほうが難しい。

 

すぐに誰の気か理解できた。

 

しかし、それは絶対に有り得ない。

 

なぜならば、この気の持ち主は既に——亡くなっている。

 

 

 

——そう、思い出の地より流れ出る気は、確かに五木大和のものだった。

 

 

 

 

 

再会の時は、近い。

 

 

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