ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

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第九話

 

《……い……起き……!》

 

どこからか、大和の声が刹那の頭に響きわたる。

 

刹那は自分の意識がゆっくりと戻ってくるのを自覚した。

 

ただし意識が戻ったと言っても、それはまるでテレビの中の出来事のような感覚で、『ああ、自分は気を失っていたのだな』ぐらいにしか思えなかったのだが。

 

《……すめ……おい、起きろ小娘っ!!》

 

「う……うう」

 

現実感がひどく欠如しており、前後の記憶もあやふやだ。

 

体の感覚もほとんど機能しておらず、自分が立っているのか寝ているのかもわからない。

 

ただ、とても眠く、抗い難い睡魔が自分に襲いかかっていることはわかった。

 

《なにを悠長に寝ている! さっさと目を覚ませ! 殺されるぞ!》

 

「や、まと……さん?」

 

《……クソっ、頭を強く打ったのか。肋骨も数本いかれてやがる》

 

必死な様子で自分に呼びかける大和の声を聞き、この人でも慌てることがあるのかと驚いた。

 

それほどまでに自分はひどい怪我なのだろうか。

 

 

……怪我?

 

ウチはどうして怪我なんか……

 

 

ようやくそこまで思考が追いついた時、刹那は思い出した。

 

今日、自分はいつもの場所で修行をしていたこと。

 

その場所に木乃香がついてきたこと。

 

 

——自分が突如現れた鬼により、吹き飛ばされたことも。

 

 

刹那は全てを思い出し、そして思い出すと同時に体の感覚が戻ってきた。

 

一番最初に戻ってきた感覚は苦痛。

 

体を無理やり引きちぎるような痛みが襲う。

 

刹那は耐え切れずに胃の中のものを全て吐き戻した。

 

半分以上が血で構成された自らの吐瀉物を見て、刹那は再び気が遠くなる。

 

だが皮肉にも、刹那の意識を繋ぎ止めたのは鬼の放った言葉だった。

 

 

「まったく、狩谷の坊主め……こんな童達を襲えなどと、胸糞の悪くなるような命令をしよって」

 

 

童『達』ということは、あの鬼の標的は自分だけではない。

 

いや、むしろ長の娘である木乃香の方が本命に違いない。

 

自分のような存在を狙う理由など、どこにもないのだから。

 

「この……ちゃん」

 

「む、まだ意識があったのか? ……やはり童を相手にして、無意識に手加減してしまったようじゃな」

 

刹那は『大和』を杖にして、ゆっくりと立ち上がる。

 

頭を強く打ったせいか、視界は霞み、足は産まれたての仔鹿のように頼りない。

 

しかしそれでも刹那は立ち上がり、しっかと地面を踏みしめる。

 

「ふむ……その傷で立ち上がる気概は褒めてやるが、お主のそれは蛮勇というものじゃぞ」

 

《小娘、もういい立つな! あの鬼にお前の止めを刺す気はない!》

 

刹那は霞む視界で鬼の姿を捉える。

 

鬼は川を跨いだ向こう岸に立っており、そこで自分は鬼の一撃によって川を飛び越えたことを理解した。

 

鬼にとっては軽く腕を振るった程度なのだろう。

 

しかしその軽い攻撃により、自分は川の向こう岸まで飛ばされ、頭から木に叩きつけられた。

 

恐ろしいほどの腕力である。

 

それに対し、刹那は鳥族とのハーフと言ってもまだ子供だ。

 

身体能力で勝るところなど一つもないだろう。

 

剣術や鬼道にしても、大和から習ってまだ一週間ほど。

 

とても実戦で使えるレベルではない。

 

身体能力、技量、経験、戦いにおける全ての要素において、刹那に一欠片の勝機も存在しなかった。

 

《今のお前じゃ、あの鬼には勝てねえ! このままだと犬死にするぞ!》

 

大和も、必死な様子で刹那を止める。

 

三年間自分を見守り続けてくれた彼の言うことは、きっと正しい。

 

本当に自分に勝ち目などないのだろう。

 

 

 

——でも、刹那は立ち上がる。

 

 

 

《おい、何をやっている!?》

 

「……刀を持って立ち上がるからには、童といえども戦士。ワシもお主のことを敵と見なすぞ?」

 

大和の驚いた声が聞こえる。

 

いつも通りの乱暴な口調ではあったが、確かに自分の身を案じてくれていることがわかった。

 

……心配してくれて、ありがとうございます。

 

……心配かけて、ごめんなさい。

 

 

——でも、ウチは引けません。

 

 

刹那は見てしまったから。

 

鬼の小脇に抱えられた木乃香を。

 

今まさに鬼に連れていかれようとしている、自分にとって始めての親友を。

 

 

 

——その親友が、自分に心配をかけまいと、必死に口を抑えて悲鳴を押し殺しているのを。

 

 

 

だから、

 

「だから、ウチは戦います」

 

刹那はふらつく足で一歩を踏み出す。

 

倒れそうな体を『大和』で支えながら。

 

親友を助けるために、鬼に向かって歩き出す。

 

《……今のお前じゃ、勝てないぞ》

 

「それでも、ウチは戦います」

 

《そんなボロボロの体でか?》

 

「それでもです」

 

 

《——たとえ、それで自分が死んだとしてもか?》

 

 

大和は問う。

 

 

三年前、『大和』を受け取った時の誓い。

 

 

それを死ぬまで守り抜く覚悟はあるのか、と

 

 

そして刹那は——

 

 

 

「——はい。それで死んでも、この道に後悔はありません」

 

 

 

《……くそっ、そんな所だけ俺に似やがって》

 

「え?」

 

大和のため息が刹那の頭に響く。

 

なぜだかわからないが、大和が頭を掻きむしっている光景が想像できた。

 

《ええい、毒を喰らわば皿までだ! 俺も付き合ってやる!》

 

「え、あの、大和さん?」

 

《俺が、あの鬼をぶっ倒す手助けをしてやると言っているんだよ! 返事はどうした!》

 

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

 

大和に怒鳴られた瞬間、条件反射で返事をする刹那。

 

《……絶対に死なせない》

 

「え?」

 

《これから斬魄刀戦術を使う! お前は俺に気を集中させろ!》

 

「で、でもウチはまだ斬魄刀を屈服させて……」

 

《俺が変換器の役割をする! いいから、お前は馬鹿のように気を流し込め!》

 

大和はそう言うが、実際の所、この作戦が成功する可能性は低かった。

 

確かに、斬魄刀を屈服させている大和であれば、本体と繋ぎを取ることはそう難しいことではない。

 

しかし、できるのはあくまで斬魄刀を交渉の座につかせることだけ。

 

そこから先に、大和の介入できる余地はない。

 

 

(俺が知る中で最もまともな精神の斬魄刀は……アイツか)

 

 

呼び出す斬魄刀を決め、大和は叫ぶ。

 

《今から解号を唱える! 俺の後に復唱をしろ!》

 

「はいっ!」

《行くぞ、〝刹那〟!》

 

「……はい!」

 

 

この瞬間、刹那は理解する。

 

今、始めてこの人に、主として認められたのだと。

 

 

 

《舞え——》

「舞え——」

 

 

 

 

 

 

——袖白雪(そでのしらゆき)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長生きはしてみるものじゃな……まさかあの年頃で斬魄刀を扱う者を目にするとは……」

 

刹那達を襲撃した鬼は、元々この作戦には乗り気でなかった。

 

子供に手を上げることは彼の流儀に反するものであったし、もとより強者との戦い以外に興味はない。

 

だからこそ、今回は大戦の英雄である近衛詠春と死合うことができると期待していたのだが、実際に命じられたのは子供を拉致せよという任務。

 

正直、うんざりする内容だった。

 

(つまらん仕事はさっさと終わらせて帰還しようと思っておったが……思わぬ収穫じゃな)

 

心の中でそう呟き、鬼は脇に抱えていた木乃香を地面に降ろす。

 

「すまぬが、離れていてもらうぞ。流石に子供を抱えながら手合わせをするのは無礼であろうしな」

 

「せ、せっちゃんに何する気なん!?」

 

「あの童は幼いながらも戦士の目をしておった。ならば、それ相応の対応をするのが礼儀であろう」

 

そう言って、鬼は刹那のいる方向へと歩いていく。

 

 

 

刹那が解号を唱えた瞬間、この周囲一帯に冷気が包まれた。

 

白い霧のような冷気は刹那を覆い、その姿を完全に隠している。

 

鬼は川沿いに立ち、向こう岸にいる刹那を待ち構える体勢をとった。

 

戦いを愛する鬼に不意打ちをする気など毛頭ない。

 

立ち向かってくるものには、誰であろうと最大の敬意を。

 

それこそがこの鬼の流儀である。

 

そして刹那を覆う霧が晴れ——鬼は感嘆のため息をついた。

 

 

「ほう……白の剣士とは、中々に優雅であるな」

 

 

——現れた刹那の姿は大きく変わっていた。

 

 

ただの胴着だった服は、不浄を一切寄せ付けぬ純白の死霸装へと変化。

 

その手に握る刀も大きく様相を変え、刀身も鍔も柄も全て純白となり、柄頭に長い帯が尾を引く美しい刀となっていた。

 

 

——だが、鬼がなによりも美しいと思ったのは、刹那の髪。

 

 

鳥族と人間のハーフである刹那の特徴である、アルビノ体質。

 

背中の羽と同様に忌み嫌われ、今までは染料で隠していた本来の髪色が現れた。

 

まるで魂を凍らせる雪女の如き白銀の髪に、鬼は目を奪われる。

 

そこで刹那はゆっくりと目を開き——その紅の瞳で鬼を見据えた。

 

 

最早言葉は不要。

 

川を隔てて向かい合う二人の間で、それぞれの気がぶつかり合う。

 

 

そして、先に動いたのは刹那だった。

 

 

先程までのふらついていた足取りとは違い、かなりの強者である鬼を感心させるほどの速度で走り出す。

 

だが、鬼の驚きはここからだった。

 

飛ぶなどして避けると思われた川を——そのまま水面を走ってこちらに迫ってきたのだ。

 

「なんと!?」

 

鬼は思わぬ現象に目を剥くが、刹那の走った跡を見て得心がいく。

 

その身から溢れる冷気によって形作られた、氷の道。

 

水の流れが穏やかである下流ならともかく、滝が直上にある急流での神業を見て、鬼は獣のように笑う。

 

そうでなくては、と。

 

川を渡りきって走ってくる刹那に対し、鬼は無造作に腕を振るった。

 

殺す気の攻撃ではないにしろ、特に手加減をしているわけでもない。

 

常人が直撃したならば、間違いなく即死の威力だ。

 

速度も十分にあり、こちらに向かって全力疾走している刹那では左右に方向転換もできず、避けきれないはずだった。

 

 

ここで、鬼は二度目の驚愕を味わうことになる。

 

 

刹那は勢いをまったく緩めず、いや、むしろ加速した。

 

そしてそのままスライディングで鬼の腕を掻い潜る。

 

さらにその際、相手と自分の速度を利用して、鬼の腕を撫でるように切り裂いていった。

 

予想外の避け方、そして自分の自慢である皮膚が傷つけられたことに鬼は呆然とする。

 

右腕から鮮血が吹き出し、そこでようやく鬼は我を取り戻した。

 

(斬魄刀といい今の動きといい、あの童は何者じゃ!?)

 

鬼は刹那に対して向き直る。

 

刹那は既に体勢を整えており、刀の切っ先を鬼に向けていた。

 

その真っ直ぐな瞳を見て、鬼は自分の浅はかさを思い知る。

 

(何が戦士として認める、じゃ……さっきまでの自分を殴り倒したいわい)

 

そう、今自分の前に存在するのは、紛れもない敵だ。

 

僅か十にも満たないであろう少女だとしても、それは変わらない。

 

殺し殺される立場である相手を、上から目線で『認める』とは何様のつもりだ?

 

鬼は緩みきった自分の性根に喝を入れる。

 

授業料は既に十分貰った。

 

余分な血も流れ、頭も冷えた。

 

鬼はもう慢心しない。

 

心は熱く、されど頭は冷静に。

 

 

——再び、死闘が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那は鬼と戦いながら、言い知れぬ全能感に酔いしれていた。

 

(すごい……次にどう動けばいいのか、手に取るようにわかる!)

 

先程から鬼と互角以上に戦えている刹那だったが、それはもちろん彼女だけの力ではない。

 

これらの剣技は全て、大和の戦闘経験から汲み取ったものである。

 

 

 

元々、大和と刹那との間には細い糸(パス)があった。

 

三年間ずっと気を篭められたことにより発生したこの糸は、刹那が斬魄刀『大和』を開放したことで、この瞬間に一気に拡張した。

 

そこから大和の意思が、刹那に流れ込んでくる。

 

 

《右の蹴り上げ、そしてそこから踵落としが来る! 軸足側に回り込み、アキレス腱を狙え!》

 

《はいっ!》

 

 

常時開放型である、斬魄刀『大和』の能力。

 

その本質は、鬼道を肩代わりすることや斬魄刀と交渉することではない。

 

 

『常に意識を表に出すことができる』

 

 

これこそが、斬魄刀である『大和』唯一無二の特性だった。

 

 

《右ストレートはフェイント——!》

 

《本命は、踏み込みながらの左ショートアッパー——!》

 

 

本来、斬魄刀の意識というものは、使用者が屈服させようと挑む時ぐらいしか表に出ない。

 

だというのに戦闘中どころか、普段の生活の中でまで刹那と意思疎通できる『大和』は、はっきり言って異常だった。

 

 

《刀の腹で相手の攻撃を逸らしつつ——》

 

《——身長差を利用して、相手の足元へ潜り込む!》

 

 

しかし、それこそが『大和』の本来の使用法。

 

単純な戦闘だけではなく、知恵や経験、気配の察知まで大和が担当することができる。

 

使用者を訓練で強化してくれる斬魄刀など、『大和』以外には有り得ない。

 

「くそッ、足元をうろちょろと!」

 

《今だ、刹那!》

 

《はい!》

 

 

 

——つまり、『世界最強の英雄が味方になる』ということ。

 

鬼道や斬魄刀は、その副産物でしかない。

 

 

 

焦れて動きが雑になってきた鬼に対し、刹那は大きく距離をとる。

 

足元にいた刹那に向けて腕を振り回していた鬼は、咄嗟に刹那を追撃することができない。

 

その一瞬の隙をついて、刹那は袖白雪を地面に突き立てる。

 

 

一回、二回、三回、四回。

 

 

袖白雪を地面に突き立てる度に、柄頭の帯が白い軌跡を描く。

 

その一連の動作は戦闘中にありながらも美しく、まるで舞っているかのよう。

 

鬼は思わず魅入られた。

 

そして鬼の意識の空白を突き、刹那と大和の舞が完成する。

 

 

 

 

——次の舞、白漣(はくれん)

 

 

 

「っ、しまっ——!?」

 

刹那の足元から出現した凍気の濁流。

 

雪崩の如き広範囲攻撃に、正気に返ったばかりの鬼は成す術もなく呑み込まれていく。

 

さらにそれだけには留まらず、木々や地面、川すらも凍てつかせ、前方五十メートルの空間を全て呑み込んでようやく止まる。

 

 

 

——使用者と斬魄刀の心が一つになれば、それはかつての英雄が再び現代に蘇るのと同義。

 

 

 

「や、やりましたよ大和さん!」

 

《全力でフラグ建ててんじゃねえ!》

 

 

——ただし心が一つにならなければ、ただの喋る刀に成り下がるのだが。

 

 

「でも流石に今のを直撃すれば、いくら鬼と言っても……」

 

《ダメージぐらいは通っただろうがな……白漣に呑み込まれる寸前、気を体に纏わせて防御していた》

 

大和は鬼を倒しきれていないと判断。

 

そして、その判断は正しかったとすぐに証明される。

 

氷の塊に無数の罅割れが走ったと思えば、その中心から鬼の腕が突き出されたのだ。

 

「まったく、年寄りにこの寒さは堪えるわい」

 

「そ、そんな……ほとんど無傷やなんて……」

 

氷漬けになっていた筈の鬼は、平然とした様子で内から氷を砕いて脱出する。

 

かなりの気を篭めた一撃だったにも関わらず、大した怪我を負っているわけでもない鬼を見て、刹那は戸惑った。

 

大和はというと、鬼の様子を見て一つの推測にたどり着く。

 

《白漣を防いだあの方法……コイツ、まさか》

 

大和がその推測を刹那に伝える前に、鬼が口を開く。

 

「悪いのう嬢ちゃん。ワシはその斬魄刀の能力をほとんど把握しておるんじゃ」

 

「なっ……」

 

《……やはりな》

 

「あの技は白漣じゃったな? あれは見た目こそ派手じゃが、その分威力が分散しておる故、一対一(サシ)の勝負には向いとらん。体を気で覆えば致命傷は避けられる」

 

鬼の言うとおり、白漣は一対多でその本領を発揮する。

 

とは言っても威力が弱いわけでもないし、攻撃範囲も広い。

 

相手が回避を選択して巻き込まれれば、十分にダメージを与えられる筈だった。

 

 

だが、あの鬼は真っ先に防御を選択した。

 

 

「以前、五木家の者と共闘した際にその刀を見る機会があってな……美しい使い手と刀であったのを覚えておる」

 

鬼は懐かしそうな目で袖白雪を見る。

 

昔のことを思い出しているのだろうか、その顔には微かに愛しさのようなものが浮かんでいた。

 

だが、鬼は刹那に視線を戻すとニヤリと笑う。

 

「ただし、今代の使い手は色気がちいと足りんようじゃがの」

 

「ほ、ほっといてくださいっ!」

 

《……んな挑発に乗ってる暇があるんなら、ちょっとはこの場を乗り切る策を考えろ》

 

「うう……すみません」

 

実際の所、刹那達はかなり不利な状況だった。

 

袖白雪のことを知られているということは、事実上切り札の全てが封じられているのと等しい。

 

知っている技をむざむざ受けるほど、あの鬼が甘くないということは刹那にも理解できていた。

 

(しかし、これ以上の速度の接近戦に刹那の体は耐えられない……あの鬼の目も慣れ始めている)

 

たとえ大和の戦闘経験を使えるからといって、それを扱っているのは九歳の刹那だ。

 

まだ体も出来上がっていない子供の身に、長時間の大和の戦い方は毒にしかならない。

 

既に刹那の体中は悲鳴をあげているはずだ。

 

今までは身長差や交差法などを利用して刹那の負担を減らしていたが、鬼がその動きに慣れつつある現状、これ以上の高速戦闘は不可能に近かった。

 

 

そして、今刹那達が持っている手札の中で、唯一あの鬼を打倒できる手段。

 

袖白雪を相手の体に突き立て、内側から凍らせて砕く技。

 

 

参の舞——白刀(しらふね)

 

 

しかし、当然鬼もこの技を警戒しているだろう。

 

命中してくれるとは到底思えなかった。

 

決め手は存在せず、そして持久戦で刹那に勝ち目はない。

 

まさしく八方塞がりだ。

 

《くそっ、他に何か手段は……》

 

「——大和さん。私に考えがあります」

 

《ああ?》

 

先程とは逆に、刹那の意思が大和の中に入ってくる。

 

刹那の考えた作戦を理解した大和は数秒考え込み、そして刹那に尋ねた。

 

《確かにこれなら通用するだろうが……お前にできるのか?》

 

「できます。ウチと、大和さんと、袖白雪なら」

 

《……そうか》

 

大和は決断する。

 

主が無い頭使って必死に考えた作戦だ。

 

成功させてやろうじゃないか、と

 

《場所は俺が指定する。それで、お前は自分のやるべきことが理解できているな?》

 

「はい!」

 

《いい返事だ》

 

刹那は改めて鬼に向き直る。

 

その威圧感は一向に衰える気配を見せない。

 

一歩間違えれば、間違いなく自分は死ぬ。

 

それを理解していながらも、刹那はまったく恐怖を感じなかった。

 

 

恐怖が麻痺しているのだろうか?

 

いや、違う。

 

 

掌から伝わってくる信頼。

 

——それのおかげで刹那は、まだ戦える。

 

 

《準備はいいか、刹那!》

 

「はいっ!」

 

 

 

戦いは、佳境へと移っていく——

 

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