ネギま!で斬魄刀   作:こごろう

34 / 39
第十二話

 

狩谷というカリスマを失った強硬派が瓦解するのに、それほど時間はかからなかった。

 

元々強硬派は少数だったことに加え、そのほとんどが狩谷のかき集めた私兵だ。

 

リーダーの策が失敗したことを知ると、本山で詠春の足止めをしていた術者達も降伏した。

 

 

——ここに、狩谷総一郎の起こした謀反は終結する。

 

 

しかし、何よりも大変なのは事後処理だった。

 

狩谷は関西の事務処理のほぼ全てに何らかの形で関わっている。

 

そのような人物が起こした反乱は、関西に大きな波紋を発生させた。

 

後釜を決めるだけでも一苦労だ。

 

詠春は一週間、ほとんど徹夜で各地を駆け巡ることになる。

 

そして肝心の大和はというと——

 

 

『ひ、久しぶりだな……刀子』

 

「……そうですね」

 

 

——修羅場に突入していた。

 

 

 

 

 

 

 

あの事件の後、刹那達は本山まで搬送され、そこで専門の治癒術者による治療を受けた。

 

木乃香はまだ意識が戻ってはいないが、外傷はほとんどなく、単に精神的な疲労と診断された。

 

刹那は大和から応急処置を施されたこともあり、既に目が覚めている。

 

なので詠春達に事情を説明するべく、近衛家の屋敷の一室まで来たのだが——

 

 

『……そんな訳で、今まで刹那と共に過ごしていました』

 

 

室内には詠春と鶴子、そして刀子がいる。

 

刹那に持ってこられた大和は、今までのことを全て話した。

 

 

オスティアで体を失ったが、意識は残っていたこと。

 

刹那の気を貰うことで糸(パス)が繋がり、意思疎通ができるようになったこと。

 

そして、今回の戦いに参加したことなど、全て話した。

 

戦っている最中に大和の気を感じていたのか、詠春達は予想よりも早く、この事実を受け入れた。

 

「……本当に貴方なのですね、大和君」

 

『ええ。精神だけの話ですが、未だに生き恥を晒しております』

 

「そうですか……良かった、本当に……」

 

詠春は思わず目頭が熱くなるのを感じた。

 

彼からすれば、良かったなどという言葉で片付けられるものではない。

 

京都で起きた西洋魔法使いとの戦い。

 

そしてオスティアの崩落。

 

大切な友人に二度も重荷を背負わせてしまったことを、詠春は深く悔やんでいた。

 

たとえ精神だけの存在だとしても、大和が生きていてくれたことは詠春にとっての救いである。

 

『ひ、久しぶりだな……刀子』

 

「……そうですね」

 

『……』

 

「……」

 

会話が途切れる。

 

刀子は最初からずっとこの調子だった。

 

大和の方を見ようともせず、話しかけても生返事しかよこさない。

 

その様子を見かねたのか、鶴子が大和に話しかける。

 

「まさか妖刀になっとったとは、大和はんは相変わらずウチの予想を超える人やなぁ」

 

『……だからな鶴子。俺は妖刀じゃないっつの』

 

「やっぱり恋愛対象は刀なん? ウチが『ひな』とお見合いさせたろか?」

 

『無機物に惚れる性癖はねえよ!』

 

鶴子もまた、旧友との思わぬ再会に心躍らせていた。

 

魔法世界で大和に何が起きたのか、鶴子も既に詠春から説明を受けている。

 

もう会えないとばかり思っていたので、再会の感動も大きかった。

 

『まったく……お前のその性格は相変わらずだな』

 

「大和はんかて、口調こそ変わっとるけど中身は全然変化しておまへん。お人好しなところとか、あの頃のまんまや」

 

『……』

 

過去の話を持ち出され、大和は黙り込む。

 

二十年前、大和は彼らに一言の別れも告げずに逃げ出した。

 

その負い目は今でも消えずに残っている。

 

『鶴子……俺は……』

 

 

 

「大和はんが京都を飛び出してまうから、ウチと大和はんとの婚約も全部パーなってもうて、エラい騒ぎになったんやで?」

 

 

 

『え……?』

 

「は……?」

 

「……ほへ?」

 

大和、詠春、刹那の順番で、妙な声を上げる。

 

刀子はこの話を知っていたのか、俯いたまま大した反応を見せなかった。

 

——とは言っても、この話題が出た瞬間に肩がぴくりと震えたのだが。

 

「お、おい鶴子! そんな話、私は一言も聞いていないぞ!?」

 

いち早く正気に返った詠春が叫ぶ。

 

大和は驚きのあまりに声が出なかったが、完全に同意見だった。

 

ちなみに刹那は口を開けて放心している。

 

話についてこれなかったようだ。

 

「まあ婚約言うても口約束レベルやったし、正式なもんとちゃうかったけどな」

 

鶴子は何でもないように言うが、詠春と大和は呆気に取られていた。

 

二人にとっては寝耳に水もいいとこである。

 

刹那は相変わらず放心していた。

 

そして鶴子は再び爆弾を投下する。

 

 

 

「——それに、婚約の話を持ちかけてきたのは、そっちの方やで?」

 

 

 

『はあああああああああああッッ!!??』

 

「ちょ、どういうことだ大和君! 鶴子に求婚したのか!?」

 

『俺だって初耳ですよ、そんな話!』

 

大和と詠春が言い争い、刹那は放心し、鶴子はその光景を見て笑う。

 

その場はどんどんカオスになっていった。

 

「鶴子、からかうのもその辺にしておきなさい。青山家と五木家との間に、そういう話が持ち上がっただけでしょう」

 

そんな状況を収めたのは刀子だった。

 

不機嫌を隠そうともしない声音と共に鶴子を睨む。

 

「家同士の……話?」

 

「ええ。青山家と五木家の当主達が『お互いの子供を結婚させよう』などと酒の席で言っただけです。この話に大和……さんは一切関与していません」

 

刀子は大和達に簡潔に説明する。

 

確かに二人の間に婚約話が持ち上がったことはあったが、酒の勢いに任せた戯言であり、正式なものではない、と。

 

『酔っぱらい達の戯言かよ……驚かせやがって』

 

「まったくだ……」

 

大和達は事情を聞いて、一気に脱力する。

 

 

 

ここから先は鶴子も知らないことだが、実のところ、当主達はこの婚約にかなり乗り気だった。

 

五木家当主の元蔵からすれば、この話は権力を得るのに最適であったし、青山からしても実力、人間性、家柄の三拍子が揃った大和はかなりの好物件だったのだ。

 

さらに言えば、大和と鶴子は共に修行していた仲。

 

顔も知らない相手と結婚させるよりかは……という親心もあった。

 

大和が脱走さえしていなければ、間違いなく後戻りできないところまで話が進められていただろう。

 

そんなことは露知らず、大和は安堵の息を吐く。

 

「この話を聞かせた時の刀子の反応が、これまた傑作やったんよ。『たとえ鶴子ちゃんが相手でも、大和君は譲らな……』」

 

「な、何を言い出すのですか、鶴子!?」

 

ニヤニヤと話す鶴子を、顔を真っ赤にして羽交い締めにする刀子。

 

この部屋の人間は、完全に鶴子のペースに巻き込まれていた。

 

「あ、言っとくけど、今のウチは旦那一筋やで?」

 

『……お前に言いたいことは色々あるが、とりあえず疲れたよ……』

 

「同感だ……」

 

大和と詠春は大きくため息をつく。

 

そんな二人を見て、鶴子は小さい声でこう言った。

 

 

「——だって、こんな話題でもせんと、ウチらはギクシャクしっぱなしやんか」

 

 

ポツリと呟かれたその言葉に、三人の動きが止まる。

 

「今ここに素子はおらんけど、それでも二十年振りに大和はんと会えたんや。さっきみたいな妙な遠慮は抜きで、またあの頃みたいに笑いあいたいんよ」

 

『……』

 

大和は皆で修行していた時代を思い出す。

 

真面目だった他の四人と比べて、鶴子はよく悪戯などを企んでいた。

 

でもそれは自分のためではなく、他の四人を笑わせようとするためのこと。

 

——青山鶴子という人間は、誰よりも他の人間の笑顔を大切にしていた。

 

『本当に、お前は変わらないな……』

 

「昔よりも美人になった自信はあるで?」

 

『はは……確かに』

 

晴れやかに笑う鶴子に対し、大和と詠春は苦笑するしかなかった。

 

(またあの頃みたいに、か……)

 

思えば、あの修行場所では五人の間に壁など存在しなかった。

 

身分も年齢も忘れて、ただ一人の人間として接することができた。

 

だというのに、大和は誰にも相談せずにその場所を去り、結果として全員が疎遠となってしまった。

 

その咎は間違いなく、大和にある。

 

(責任なんて取れるはずもない……でもせめて、けじめだけは……)

 

大和は決意すると、黙り込んでいる刀子に話しかける。

 

『なあ、刀子』

 

「……なんですか」

 

刀子は大和から視線を外しながら返事をする。

 

その反応が大和の心を僅かに抉った。

 

だが、大和はその痛みを噛み締める。

 

自分の犯した過ちから、目を背けないために。

 

 

『お前と、腹を割って話したい』

 

 

その言葉を出した瞬間、刀子が弾かれたように顔を上げた。

 

「今更……今更、貴方がそれを言うのですかっ! 二十年前、私達に何も言わずに去ったくせに! 今更腹を割って話したいなどと!」

 

『……そうだ』

 

大和の冷静な声に、刀子の我慢が限界を迎えた。

 

二十年の間、ずっと大和に言いたかったことが口からあふれ出す。

 

「ふざけないでください! 大和さんに置いていかれた私達の……私の気持ちが、分かるものか!」

 

刀子は叫ぶ。

 

感情の赴くままに。

 

「あの頃の私はずっと不安だった! 大和さんがいつか、弱い私を置いていくんじゃないかって! どうせそのことにも気づいていなかったのでしょう!?」

 

最早、刀子自身も自分が何を言っているのか理解していない。

 

「大和さんに置いていかれたくない一心で、私はそれまで修行をしていたというのに!」

 

それでも、言葉だけは流れ出る。

 

「なのに、貴方はあっさりと消えてしまった! 何の未練もないとでもいうように!」

 

今まで自分すら理解していなかった思いまで、大和に叩きつけてゆく。

 

「ついこの間、桜咲が修行を依頼しに来た時だってそうだ! 大和さんは私に気づいていながら、何の反応も見せなかった! やはり私のことなんてどうでもいいと……!」

 

『違う!!』

 

大和が初めて言葉を挟んだ。

 

「じゃあ、どうして私に語りかけてくれなかったのですか!」

 

『お前が、俺のことを忘れたがっていると思ったんだ』

 

あの時、刀子は大和のことを『知らない』と言った。

 

だからこそ大和は何も言わなかった。

 

刹那にも、何も語らせなかった。

 

自分が消えたことを忘れてくれるならば、それもいいと思ったが故に。

 

 

——忘れでもしなければ耐えられなかった、刀子の思いに気づくことなく。

 

 

『……すまなかった。いくら謝っても、許してもらえるとは思っていない』

 

ただ、と続ける。

 

『お前の存在が、俺の中ではどうでもいいということ。これだけは否定させてくれ』

 

刀子がハッと顔を上げる。

 

黒い瞳に微かに浮かぶ涙。

 

大和は成長した幼馴染の顔を見て、本当に美人になったな、と思った。

 

 

『俺はオスティアで犠牲鬼道を使い、この体になった』

 

 

大和はその時のことを思い出す。

 

 

アリカの苦悩。

 

『紅き翼』達の怒り。

 

体が消えていく恐怖。

 

そして——

 

 

『体が消えていく中、俺が最後に考えたのはお前のことだよ——刀子』

 

 

 

——約束を守ることができた、喜び。

 

 

 

『俺は、お前のことを軽んじたことは一度もない。……頼む、信じてくれ』

 

「……」

 

刀子が黙り込む。

 

大和は自分の思いを全て語りきった。

 

これ以上言うべき言葉は無い。

 

そしてしばしの沈黙を挟み、刀子が口を開く。

 

「……わかりました。貴方の言葉を信じます」

 

『そうか……』

 

心から安堵する。

 

大きな肩の荷が下りた気分だった。

 

二十年の間、ずっと大和を苦しめていた罪悪感。

 

それが、ようやく消えたのだ。

 

 

 

 

 

 

「ただし、許すのはこの前、私に語りかけなかったことだけですが」

 

『ありが……ん?』

 

 

 

 

 

『えっと……刀子さん?』

 

「大和『君』にも事情があったことは理解しました。しかし、二十年前に頼られなかったこととは別問題です』

 

刀子は立ち上がり、ゆっくりと刀を引き抜く。

 

野太刀には既に刀子の気が込められ、溢れ出た分がバチバチと発電現象を起こした。

 

刀子は大和に向けて満面の笑みを見せる。

 

大和はその笑顔を見て、背筋に氷を突っ込まれたような錯覚を覚えた。

 

「——というわけで、これから二十年間の恨みを思う存分、晴らさせていただきます」

 

(……あれ、さっきまで綺麗に終わりそうだったのに、どうしてこうなった)

 

 

 

 

 

『もっと速く走れ、小娘! 追いつかれるぞ!』

 

「そ、そんなん言うても、ウチ関係無いやないですかああああああ!」

 

「待ちなさい! 今すぐその刀身を叩き折ってあげますから!」

 

『ヤバい、刀子の奴、完全に目がマジだ!?』

 

(そ、そうや! 狙われてるのは大和さんだけやから、大和さんを捨てていけばウチは助かる!)

 

『言っておくが、俺を捨てたらぶっ飛ばすぞ!』

 

「あんまりやああああああああああ!!」

 

「神鳴流奥義! 雷光剣!」

 

 

「『うわあああああああああああああ!?』」

 

 

 

 

 

 

三人が部屋から去り、詠春と鶴子が残される。

 

「なあ鶴子……あれ、放っておいていいのか?」

 

「いいんどす。二十年振りに会えたんやから、ちょっとくらい甘えさせればええんよ」

 

(あれで甘えているのか……?)

 

遠くから落雷のような轟音と、二人分の断末魔が響く。

 

とりあえず、屋敷が崩壊しない範囲で甘えて欲しいな、と思う詠春だった。

 

「そういえば、もう一つだけ聞いていいか?」

 

「なんどす?」

 

「鶴子はさっき『今では旦那一筋』と言っていたが……お前、ひょっとして昔は……」

 

「詠春はん」

 

鶴子は詠春の言葉を遮る。

 

そして、笑顔と共に言い放った。

 

 

「それ以上は、無粋やで?」

 

「……そうだな。悪かった」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。