『バカフィールドの家が、此処に?』
「ええ、家というよりは別荘ですが。アイツは世界中を飛び回っていたので、よく立ち寄る京都に居を用意したのです」
刀子が暴走した日から数日。
現在、大和達は詠春に連れられて、アスファルトで整備された山道を登っていた。
鶴子は旦那を迎えに行ったために不在だが、刀子と、意識を取り戻した木乃香も一緒である。
あれから詠春と話し合った結果、木乃香に魔法の存在を教えることが決まった。
木乃香の立場上、いつまでも教えないというわけにはいかないし、今回の事件で鬼など色々見られている。
誤魔化しきるのは難しく、そして記憶を操作するのは親の心情的にも辛い。
そのような事情から、木乃香には裏の世界の存在を知った。
「ということは、せっちゃんも魔法使いなん?」
「い、いえ、私はただの剣士で……」
「でも、この前ウチを守ってくれた時に変身してたえ? 真っ白い着物の格好に」
「あれはどちらかというと大和さんの能力というか、斬魄刀の特質というか……」
木乃香には大和の存在も知らされた。
刀が喋るという事態に最初は驚いた木乃香だったが、その刀が以前に自分達を助けてくれたものだと判ると、あっさり受け入れる。
そのおおらかさには大和でさえも舌を巻いた。
「大和さん、それ本当?」
『……本当だ。刹那と袖白雪の相性が予想以上に良かったんでな。話には聞いていたが、俺も直に見るのは初めての現象だったよ』
「つまり、せっちゃんには才能があるってことやね?」
『む……』
このように、答えにくい質問をしてくる時もある。
油断ならないヤツだ、と大和は気を引き締めた。
「……」
ふと刹那の顔を見てみると、キラキラした目でこちらを見ている。
その姿はどことなく忠犬を連想させた。
……褒めて欲しいのだろうか。
『確かに相性は良いが、それだけだ。まだ実戦に出れるレベルじゃない』
「あう……」
大和がそう言うと、刹那は餌抜きを宣告された犬のようにうなだれる。
その頭には、伏せられた耳が幻視するほどの落ち込みようだった。
ふと木乃香の方を向くと、思惑が外れたのが悔しいのか、拗ねたように頬を膨らませている。
(確信犯か……)
やはりコイツは侮れないな、と大和は思った。
『それで詠春さん、狩谷のことですが……』
ナギの別荘が見えてきた辺りで、大和は狩谷の話題を切り出す。
彼は一体どのような処罰を受けるのか、と。
「……ええ、彼は彼なりに関西の未来を考えてくれていたことは理解しています」
詠春も真面目な顔つきに戻り、歩きながら大和の問いに答える。
狩谷の謀反は失敗に終わったが、それでめでたしめでたし、というわけにはいかない。
「しかし、彼にしかるべき処罰を与えなければ、それは後々大きな禍根となります。……無罪放免は不可能なんですよ」
『……でしょうね』
「今日の明け方に上層部と会議をした結果、狩谷君を京都から追放することが決まりました」
『ッ……!』
狩谷はそのカリスマをもって、多数の術者を扇動し、京都の頂点たる近衛家を襲撃した。
さらに、長の娘を拉致しかけるという罪状まである。
正直な話、極刑にならないのが不思議なぐらいだ。
「……すみません、私の口添えでは減刑がギリギリでした」
『いえ、命があるだけでも良かったと思わなければ……』
大和はそう言うが、その心中は穏やかでなかった。
今回の謀反、元を辿れば自分にも責がある。
大和が京都に残り、関西の主戦力として振舞っていれば、メガロへの抑止力にも成りえたはずだ。
そうすれば関西が現在のように、メガロから圧力をかけられるような状況も無かったに違いない。
(狩谷……)
遠い昔、一度だけ鬼道のコツを教えただけの相手。
それ以外の接点などない。
しかし、彼は一度会っただけの大和のために命をかけた。
誰よりも京都と、京都に住む人々を愛する彼が追放されるという事実は、大和の胸を抉った。
(俺は……無力だ……)
「そして狩谷君には、上層部には極秘でヘラス帝国に向かってもらうつもりです」
『え……?』
大和は詠春の言葉を、咄嗟に理解できなかった。
しかし次の瞬間、大和はそれ以上の衝撃を受ける。
「我が関西呪術協会は、ヘラス帝国と同盟を結ぶことが決定しました」
『なっ……!』
「こちらが差し出すものは陰陽道、そして鬼道の基本的な技術です。見返りは連合からの保護。正直、破格の条件でしょう」
関西呪術協会は日本の中では最大勢力だが、世界レベルで見れば、お世辞にも大きい勢力とは言えない。
しかもその性質は閉鎖的であり、外交にしても陰陽道などの技術面以外での利権もない。
ヘラス帝国にはほとんど得のない同盟である。
『どうしてそんなに好都合な同盟が……』
「貴方の御陰ですよ、大和君」
『え?』
「この前対談した時、テオドラ王女が言っていたのです。『妾がヤマトから受けた恩は、こんな形でしか返せない』と」
『……』
それは違う、と大和は言いたかった。
救われたのは自分の方だ。
拳闘士紛いに身を堕とし、何を為すべきか解らなかった時代。
テオドラに拾われたことが全てのきっかけだった。
皇女なのに素行が悪く、そのくせ人一倍自国の民を愛する不器用な少女。
彼女に振り回される日々が、今でも鮮明に思い出せる。
「こちらはたった一回知識を提供するだけ。そして向こうは長期間、連合からの防波堤となってくれる。この同盟は率直に言うとお情けです。——しかし、私はそれに甘え続ける気はありません」
この日本には、既に開拓できる部分がない。
代わりに存在するものといえば、絡まったしがらみだけだ。
そこで詠春が目をつけたのは魔法世界。
「狩谷君にはヘラス帝国を拠点として、魔法世界で独自に動いてもらうことになります。人脈作りに、西洋魔法の知識の収集、流通ルートの確保……いずれ関西が魔法世界に進出する時のために」
そして最終的に、ヘラス帝国に一方的に保護されるのではなく、相互に利益を生み出せる関係に。
これが詠春の選んだ道。
『……とんでもなく険しい道ですよ』
「覚悟しています」
『少なくとも数十年単位のプロジェクトになるでしょう』
「遣り甲斐があるではないですか」
詠春は屈託なく笑う。
「——言ったでしょう? 貴方にだけ全てを背負わせないと」
大和はその笑顔を見て、この人はやはり、自分達の兄貴分なのだと思った。
そして一行は、天文台が備え付けられた家に到着する。
『へえ……あのバカの家にしてはオシャレだな』
「モダンやなー」
ナギの家の内装を見て、大和と木乃香がそのような感想を漏らす。
多数の本で埋めつくされた家にはソファなどもあり、中々住み心地が良さそうだった。
「それでは大和君に説明しましょうか。あの後、私たち『紅き翼』がどのように行動したのかを」
詠春がここに大和を連れてきたのは、あの大戦で大和が消えてから何があったのかを語るためだ。
オスティア難民の援助。
アリカに着せられた冤罪。
二年間に及ぶ、『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』としての活動。
——そして、アリカの救出劇まで。
「そこでナギの奴、私達の前でプロポーズまでしたのです」
『はは……アイツも約束を守りましたか』
彼らの物語を聞いて、大和は安心する。
自責の念に駆られるアリカを救える人間、それはやはりナギしかいなかった。
自分が消える際に託した願い。
その一方的な約束を、ナギは守り通したのだ。
(よくやった……バカフィールド)
大和と詠春は、その後も『紅き翼』の話題で盛り上がる。
その内容はとりとめのないものであり、ラカンを氷漬けにした時の話や、アルビレオが女と間違えられた時の話などだ。
刀子も、自分が知らなかった時代の大和のことを聞けて満足そうである。
そして木乃香と刹那は——
「むー、お父様達ばっかり盛り上がっとる。ウチらのことを忘れとるんちゃうの?」
「お嬢様、そう言わずに……」
木乃香は話題について行けずに拗ねており、刹那はそんな木乃香を宥めていた。
古今東西を問わず、子供というのは親同士が頭上で会話をするのを嫌うものである。
手持ち無沙汰になった木乃香は、家の中で面白い物を探して回る。
そして、棚の上に写真立てを見つけた。
「これって……お父様の写真?」
その写真の中には、七人の男がいた。
若かりし詠春も写っており、他にも二メートルを超すほどの大男や、木乃香ほどの子供もいる興味深い写真だ。
しかし、それよりも木乃香の好奇心を刺激したものがある。
「この黒い着物の人って……」
一番前に立っている二人の内の片割れ。
赤毛の少年が気に食わないのだろうか、顔を背けている黒髪黒目の少年。
この人物は見覚えがあった。
木乃香は大和を見て、手に持った写真に視線を移す。
「……」
もう一度大和を見て——今度は刹那を見る。
「……」
木乃香の頭にとある策が浮かび上がる。
それが成功した時を想像して——木乃香はニンマリと笑った。
「という訳で、ナギは数年前から行方不明扱いになっています」
『なるほど……でも心配はないでしょう。あのバカのことですし、どうせどこかで王女さんとイチャついてますよ』
「はははは……」
談笑する大和と詠春の側で、刹那はやることもなく突っ立っていた。
暇ではあるが、『大和』を背負った状態で歩き回ったら会話の邪魔になる。
よって、木乃香のように家の探索もできない。
(大和さん、楽しそう……)
旧友と会話しているからか、大和の声はいつになく弾んでいた。
刀子は会話に参加しないものの、二人の会話に相槌を打つ。
三人の間にはとても自然な雰囲気が流れていた。
刹那はその三人を見て、ある種の不安に駆られる。
(大和さん……本当にウチなんかが持っとってええ人なんやろうか……?)
木乃香が二階から降りてきたのは、そんなことを考えている時だった。
「せっちゃん! 見て見てー!」
「お嬢様?」
声の方向に振り向くと、木乃香が片手に写真を持って階段を降りてきていた。
木乃香は刹那のすぐ側まで来ると、口を耳に近づけて内緒話の体勢になる。
(さっき、この家で写真を見つけたんよ)
(はあ……それがどうかしたんですか?)
どうしてコソコソと話をするのか疑問だったが、とりあえず言葉を返す刹那。
(ほら見て、お父様も写っとる)
(ずいぶんお若いですね。結構古いものみたいです)
(それで聞きたいんやけど、せっちゃんはこの中では誰が一番かっこええと思う?)
(ええっ?)
木乃香の唐突な質問に、刹那は戸惑う。
(そ、そんなの急に言われてもっ……)
(ええやんええやん。教えてーなー)
刹那は再び写真を見る。
写っている七人はタイプこそ違えど、全員美形だった。
これなら木乃香が好みを聞きたくなるのも仕方ないか、と思って刹那は悩み始める。
(タイプの人か……今まで考えたこともなかったけど)
ふと、一番前にいる少年に目がいく。
(黒髪黒目に着物……日本人?)
どちらかといえば冷たい印象の顔立ちなのに、赤毛の少年から顔を背けている様子は子供っぽく、それが不思議と可愛いと思えた。
(ちなみに、ウチのオススメはこの人やえ)
そう言って木乃香が指さしたのは黒い少年。
ならば木乃香と一緒でいいかと思い、刹那もその少年にすることにした。
(じゃあ私もこの人で)
刹那がそう言うと、木乃香の笑みが一層深くなった。
そのことを疑問に思う前に木乃香は行動を開始する。
「お父様ー、コレ見てー」
「おや……これはまた懐かしい写真ですね」
「お父様の若い頃の写真、ウチ初めて見たえ」
木乃香は写真を詠春に見せびらかす。
刹那はそれをぼーっと眺めていたのだが、次の瞬間——とんでもない爆弾が落とされた。
「せっちゃんはその中では、黒い着物の人が好みらしいんよ」
『……』
「……」
「……」
大和、詠春、刀子が黙り込む。
先程までの和やかな空気は一変し、どこか妙な雰囲気になった。
「お、お嬢様! 何もこんな場所で言わずとも……」
「せっちゃんの好み、大和さんはどう思う?」
木乃香のいきなりのカミングアウトに慌てる刹那だが、木乃香は無視して『大和』に近づいていく。
『お、おい、お前何を』
「えーっと、こうやるんやったかな——来れ、『大和』!」
『ちょ、待……』
大和の制止も聞かず、木乃香は『大和』に魔力を送り込む。
近衛家の魔力を送られた『大和』は強く発光し——黒髪黒目の少年が実体化した。
「……」
それを見て、今度は刹那が黙り込む。
木乃香の写真に写っている人物が自分の刀から現れ、刹那の頭は真っ白になった。
ふと、少年と目が合う。
少年は半笑いのような表情を作り、こう言った。
「そういやお前って、気絶してたから俺の顔知らないんだっけ……?」
刹那はその声に聞き覚えがあった。
というより、毎日聞き続けている声だった。
視線をズラすと、満面の笑みを浮かべた木乃香の姿。
そして、全ての事情を悟った刹那は、
「——ッ!!??」
声にならない悲鳴を上げて、逃げた。
顔を真っ赤にし、玄関から脱兎の如く逃走する。
取り残されるのは幼馴染三人と、ニコニコ笑顔の木乃香。
呆然と立ちすくむ大和に対し、刀子がボソッと一言。
「ロリコン」
「違う……誤解だ、刀子……」
どうしてこうなった、と大和は頭を抱えるのだった。
「はぁっ……はぁ……」
息を切らせた刹那は、近くの木に手を置く。
家を飛び出した勢いのまま走り続け、とうとういつもの修行場所まで来てしまった。
(これまであんまり意識せえへんかったけど、大和さんは刀じゃなくて人間……今までとんでもない恥ずかしい姿見られてたあああああああああああ!!??)
心の中で絶叫する。
大和が元々人間だったことは知っていたが、実のところ、刹那はそれほど気にしていなかった。
知識はあっても、実際に大和が人だった頃を見たわけではない。
そのため、刹那に実感はあまり湧いていなかった。
「〜〜ッ!!」
感情がオーバーヒートした刹那は、近くの木を殴り始める。
たとえ子供の腕力といえど、気で強化されている拳の威力は強い。
大人でも抱えきれないであろう太さの幹が震える様は、いっそ壮観であった。
「……いい加減にしろ。へし折る気か」
本職のボクサーも真っ青なラッシュは、後ろから腕を掴まれたことによって唐突に終わる。
「やや、大和さんっ!?」
「物体を激しく殴打する音がしたから来てみたが……何やってんだ、お前」
「こ、これはそのですねっ! 別に動揺してるとかではなくっ!」
「……はぁ」
要領を得ない説明をする刹那を見て、大和は頭を掻く。
「木乃香の悪戯なんて、俺は気にしていない」
「え……」
「さっさと戻るぞ。詠春さん達も総本山に帰ったしな」
そう言って、大和は刹那に背を向けて歩き出す。
「ま、待ってください!」
「ん?」
去っていく大和に、刹那は反射的に声をかけてしまう。
別に話したいことがあるわけでもないのに。
「どうした、刹那」
「えっと、その……」
どうすればいいか悩む刹那の頭に浮かんだのは、ナギの別荘で思ったこと。
刀子や詠春と親しげに話す大和を見て、思ったこと。
——大和さんは、本当に自分の下に居ていい人なのだろうか……?
「大和さん」
気が付けば、口から言葉が出ていた。
「どうした、刹那」
「大和さんは、えっと、その」
「……何だ、はっきり言え」
刹那の体が微かに震える。
刹那の心を満たす感情、それは恐怖だ。
今から口にする言葉は、下手をすると大和と決別する言葉。
言わなければいい、ともう一人の自分が囁く。
言わなければ、この関係が少しでも長く続く筈だと。
でも——
「大和さんは、ウチよりも刀子さんの側にいたいですか?」
——聞かずにはいられなかった。
「……は?」
その質問を受けた大和は目を丸くする。
心底意外な質問を受けた、とでもいうように。
「だ、だって、刀子さんはウチより強いし、それに大和さんとは親しいじゃないですか。こんなウチよりもよっぽど……」
「……」
「刀子さんは美人やし……ウチはあの鬼に色気がないって言われたし……」
「……はぁ」
大和は大きくため息をつく。
刹那がどうしてこんなことを言い出したのか、ようやく察しがついた。
(刀子や詠春さん達と親しげに話しているのを見て、俺が取り上げられないか不安になったわけか)
合点がいった大和は刹那の下へ歩いていく。
刹那は未だにブツブツと『私だって成長すれば……』とか呟いており、大和が近づいて来ていることに全く気づいていない。
そして刹那の直ぐ側まで寄った大和は——その無防備な頭に、思い切り拳骨を落とした。
「きゃうんっ!?」
「お、いい感触。これは体が戻って良かったと思えるな」
「〜〜ッ!?」
ほとんど手加減なしの拳をまともに食らい、刹那は痛みに蹲る。
あまりの激痛に涙目になった。
「な、何すんの、大和さん!」
「お前がアホなこと言うからだろうが。完全な自業自得だ」
顔を真っ赤にして怒る刹那に対し、大和はあくまでも冷静に答える。
そして刹那の鼻先に指を突きつけ、こう問うた。
「一つ聞くが、なんで俺がこの世にダラダラ留まっていると思う?」
「え……?」
予想外のことを聞かれ、刹那は言葉を失った。
そんな刹那の様子を意に介さず、大和は続ける。
「もう俺には未練なんざこれっぽっちも残っちゃいない。自分の夢は叶えたし、唯一心残りだった刀子とも和解した」
「……」
「なのに、どうして俺がこの世に留まっていると思う?」
「……わからへん」
そう答えた刹那の頭に二発目の拳骨が突き刺さった。
地面で悶える刹那の頭上から怒声が届く。
「んなもん、テメェがいちいち放っておけないからだろうがッ!!」
その言葉を聞いて、刹那の動きが止まった。
次の瞬間、大和は刹那の襟を引っ掴み、無理やり自分と同じ目線まで持ち上げる。
顔が触れそうな程の至近距離で、大和の怒声はまだ続いた。
「もう三年もテメェと過ごしてきたんだぞ!? いい加減情も移るわッ!」
「辛いことがあれば、その場で泣かずに布団の中で俺を抱きながらメソメソ泣きやがって! 錆びさせる気か!」
「神鳴流の師範代が剣術を教えてくれなかったら詠春さんに報告しろ! 何の為の保護者だと思ってる!」
大和の腕に吊り下げられた刹那は呆然とする。
自分と大和との関係について話していたのに、気が付けば過去のことで説教されている。
急展開すぎて、涙すら引っ込んでしまった。
——だが、次の言葉はそれ以上の衝撃を刹那に与える。
「——忘れるな。俺はお前のために此処にいる。お前のためだけに此処にいるんだ」
それは不器用な騎士の誓い。
かつて赤毛の少年の誓いを目にし、それを羨んだ少年が真似をしただけのこと。
だが、朝焼けの中での誓いのように美しくはなかった。
一人は泣き、一人は怒る、到底人には見せられない代物。
不細工で一方的な誓いを終え、大和は刹那の服を離す。
呆然としたままの刹那は地面に落ち、そのままペタンと座り込んだ。
「……」
「……」
双方共に、言葉はない。
大和は語るべき言葉を全て語ったし、刹那は大和の言葉を飲み込めていない。
気まずい沈黙が場を支配し——雰囲気に耐えられなくなった大和が立ち去ろうとする。
「あ……」
刹那は無意識に手を伸ばし、大和の袖を掴む。
その気になれば引きはがすことは簡単だったが、大和はそうせずに立ち止まった。
「……」
「……」
その体勢のまま、再び沈黙。
それが数分の間続き、そして大和が諦めたようにため息をつく。
果たして今日は何回ため息をついただろうか、などと考えながら振り向き、告げた。
「……帰るぞ」
大和は刹那の腕を強く引き、その体を自分の背中の上に落とす。
刹那の体は抵抗なくポジションに収まり、いわゆるおんぶの体勢になった。
大和は刹那を背負ったまま、山の麓に向けて歩き出す。
相変わらず二人の間に言葉はない。
大和は微妙に早歩きでこの雰囲気から逃れようとするが、不意に背中の服がぎゅっと握られる。
「……がとう……いますっ」
そんな声が耳に届くと同時、背中にポツポツと暖かい感触。
「……」
大和は無言で刹那を背負い直し、再び歩き始める。
背中の温もりを確かめるように、先程よりも、少しだけゆっくりのペースで——