SIDE:紅き翼
あの『紅き翼』が撃破されたという情報は、連合軍の間に大きな動揺をもたらした。
救助部隊は『紅き翼』のメンバーを直ぐに回収、治療を行い、彼らは奪還成功したグレート=ブリッジに運び込まれた。
彼らの怪我は重傷ではあったが、致命傷には程遠く、しばらく治療に専念すれば、また戦場に復帰できるとのことだ。
だが、心の方はどうかというと——
「こんなところにいたか、ナギ」
「……ジャック」
グレート=ブリッジの上、大和とテオドラが会話していた場所で、ナギは座り込んでいた。
もうすでに夜の帳が空を覆い、野営地の明かりがぼんやりと浮かんでいる。
「お前、怪我は大丈夫か? 全身ボロボロだったらしいじゃねぇか」
「……そういうジャックはどうなんだよ。氷河期時代のマンモスの化石みたいになってた、って聞いたぞ」
「ガハハ、俺は氷漬けにはもう慣れた」
いつもの軽口もどこか空々しく、覇気がない。
「なあ、ジャック」
「なんだ?」
「お前が言ってた闘技場の無茶苦茶強いヤツって、あいつのことだよな?」
「そうだ。俺もあそこまでデタラメなやつだとは思わなかったけどな」
「……俺たち、手加減されてたよな」
「ああ。妖怪ジジイもアルの野郎も、少し休めばまた戦えるってよ。最初から俺たちを殺す気はなかったんだろ」
「……そうか」
会話がなくなり、二人は建物の上から雄大な夜景を眺める。
グレート=ブリッジは連合が奪還に成功し、下の野営地では勝利の宴が開かれていた。
だが、『紅き翼』に笑みはない。
「……何が『紅き翼』だ……何が『千の呪文の男』だよ。強いヤツと戦いたいだの言っておいて、結局ボコボコにされてへこんでる」
「はは、俺も奴隷拳闘士の時はもっと強いヤツはいねぇのか、とか思ってたな。まぁヤマトの野郎にあってからは考え直したが」
「……」
「……」
また、二人の間に沈黙が訪れる。
「ジャック、頼みがある」
「奇遇だな、俺もだ」
「「お前、俺の新技の実験台になってくれ」」
「……ぷっ、くっくく、何だよ、考えることは一緒か」
「だな。このまま負けっぱなしてのは性に合わねぇ。あのスカした面に一撃くれてやらにゃ、俺たちは前に進めない、だろ?」
ガハハ、と二人して笑い合う。
「おう! よっしゃ、早速戦ろうぜジャック! 俺すんげー必殺技思いつんたんだよ! 雷を自分に直撃させて突っ込む、『神風アタック』だ!」
「俺も新技考えついたぜ! 世界中の生物から気合を少しづつ吸収して(無理)放つ、『超気合玉』だ!」
二人は立ち上がり、距離をとって向かい合う。
——その夜、グレート=ブリッジの上で、巨大な魔力と気がぶつかり合うのが確認された。
(馬鹿弟子が落ち込んでるかと思って来てみたが……いらぬ心配じゃったの)
青山詠春は、グレート=ブリッジの一室の中で座禅を組んでいた。
(まさか、こんな所で彼に会うとは思いもしなかったが……やはり彼の強さは変わっていなかった)
詠春は座禅を組みながら、過去に思いを馳せる。
——詠春とヤマトが初めて出会ったのは、詠春が十五の時だった。
詠春は神鳴流の修行に明け暮れている日々の中で、五木家に天才がいるという噂を耳にする。
神鳴流の中で、既に詠春の相手ができるのは師範代クラスだけだったことから、その噂の天才に興味を引かれるのは当然の流れだった。
木刀を引っさげて五木家に乗り込み、道場で瞑想をしていた大和に手合わせを申し込んだ記憶はまだ、詠春の中に色褪せずに存在していた。
もちろん結果は敗北。
しかし、それ以降の詠春の修行はより一層苛烈になり、得た物も確かにある。
(それにしても大和君、随分ガラが悪くなっていたな……)
——今の大和しか知らない人間には信じられないだろうが、昔の大和は礼儀正しく、素直な少年だった。
手合わせした以降、詠春と大和は親しくなったのだが、その時も大和は目上の人間に対する礼儀を心得ていたのだ。
それがどうなってああなったのか、流石に詠春も気になったが、今はそれよりもこれからの方が大切だった。
(今のままでは彼には勝てない……やはり、アレを習得するしかないか)
これまでは大和に勝つことは一度もできなかった。
しかし、これからもそうであるわけにはいかない。
詠春は『紅き翼』の中で一番軽傷だった。
ほぼ無傷だったと言っても過言ではない。
——だが、それは一番手加減されていた、ということにほかならない。
知り合いだから、昔親しくしていたからという理由で手加減された。
その事実は、普段冷静な詠春の心に火をつける。
「見ていろ……絶対に追いついてみせるからな、五木大和!」
この叫びが隣の部屋にいたアルビレオに聞かれ、後で散々弄られたのは余談である——
「そう言えば詠春、貴方の故郷から何かが届いていましたよ」
「本当か!?」
「ええ、私が預かっておきましたが……これは書物ですか?」
「ああ……こんなに早く届けてくれるとは、ありがたい」
詠春が手にした書物、それは青山家に伝わる秘伝の書。
本来五木家にだけ伝わる『斬魄刀』の秘伝。
だが、長い時代の流れの中で、一冊だけ青山家に流れた書物。
かつて詠春が挑み、そして敗北した記憶を持つ斬魄刀。
——その名は、斬月。