自書女主話Dark   作:最下

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比企谷八幡に光を与える

 

 

 

次の日、学校に休むことを伝えてゴミ出し、朝食の用意を行い八幡さんたちを起こしに行く。昨日はあれから義母さんから合鍵と食費を渡された。何度も頭を下げられて少し困っちゃったよ。それも全て私の手の平の上で起こってることだから罪悪感なんてモノはないけどね。

 

 

「ほら、朝だよ八幡さん、小町さん」

「……んぁ」

「ふみゅ……」

 

 

抱き合って眠っている二人の体を揺らす。目を瞑っている八幡さんはやはり小町さんと兄妹という真実を改めて教えてくれるような整った顔をしている。君こそ無防備じゃないかな、と少し溜息を吐いてしまうね。ふふ、でも大丈夫、今だけじゃなくいずれこの寝顔は私のモノになる。八幡さんだけじゃなく小町さんのもね。

 

 

「ふぁ、……おはようさん」

「おはよう。はい濡れタオルね」

「さんきゅ」

 

 

先に洗面台に行かせて昨日みたいに血を思い出してフラついていたら面倒だしすぐ気付くことも出来ないから、小町さんを起こしてる間に顔を拭ける様に濡れタオルを持ってきた。……うん。君も小町さんも昨日より顔色がいいね。それなら今日は散歩に出かけるのも有りかも知れないよ。

 

 

「小町さん起きて。御飯が冷えちゃうよ?」

「んぅ、おひゃようごじゃいましゅぅ」

「おはよう。ちょっと失礼」

 

 

目を覚ましたとは到底言えない小町さんの顔を濡れタオルで拭う。少し冷たいのは態とだよ。刺激が無いと腐っちゃうからね。……あ、冷たいのはあくまでタオルで私自身ではないよ?

 

 

「んみゃ?!ななななな」

「うん、今度こそおはよう」

「お、おはようございます。さっきのは?」

「これだよ、タオル」

「驚きました……」

 

 

私も想像以上に驚かれて驚いたよ、とにかく小町さんの目はパッチリと覚めたようだね。それじゃあ朝ご飯といこうかな、シンプルだけど味は保証するよ

 

 

~~~

 

 

「さて、今日はお散歩にでも行こうよ」

「へ?」

「は?」

「ほら、キビキビ動く、こんなにいい天気だよ?」

 

 

朝ご飯も終わって少し休憩してから持ち掛けてみる。いくら傷心でも太陽の下を歩かないのは体に悪いよ。それにこの時間なら知り合いと会う可能性も低いし、後冷蔵庫の中身も心もとないからね。

 

 

「食材を買うのが目的だけどね。付いてきたら甘いもの買ってもいいよ?」

「小町行きます!」

「……俺も行く」

 

 

小町さんが釣れたのは甘いもの効果だろうけど、八幡さんは弱ってるからだろうね。人の死を目の当たりにしたら当たり前だろうけど八幡さんは一人でいたくない、それと私と小町さんが犯罪者に襲われないかを心配してる。ありがとね、犯罪者は君がいる限りから私達の事を襲わないよ

 

 

「んー、いい天気です!」

「うぉぉ、眼が痛い……」

「さて、行くよ」

 

 

さんさんと降り注ぐ対応の光が肌に沁みこむような感覚を楽しむ。花で例えると小町さんはヒマワリだね。太陽の光がとても似合う。太陽の妖精と言われたら信じちゃうよ。対する八幡さんは日陰にひっそりと生えるカンアオイと行った所かな。奇妙な花の形は八幡さんの一見奇妙な生き方に似ている。私は……何かな?自分で考える事ではないね。

 

 

「おー、やっぱこの時間は人いないな」

「まるで誰もいない世界に来ちゃったみたいだね」

「小町はお兄ちゃんと八千代さんがいればどうにかなる気がします」

「ふふ、可愛い事いってくれるね」

 

 

ちなみに今は道路側から八幡さん、小町さん、私の順番で手を繋いで歩いている。これで私の身長がもっとあれば少しさまになるかな?なんてね、誰もいないから気にする必要も無いしもとより深く気にするタイプじゃないと私は思っている

 

 

「さて今日は何を作ろうかな……。君達は何か希望はあるかな?」

「小町はお肉の気分です!肉だー!」

「いいなそれ。ガッツリ食いてぇ。肉だー!」

「食べさせてあげたいけど君達の消化が心配かな」

 

 

朝は一般的な朝食を作ってみたけど二人とも綺麗に食べてくれたから、昨日が一番弱っていただけかな。それなら食欲があって大変よろしいと言う事だね。うん、少し元気になったご褒美だよ。ああ、二人の髪の毛が下がってきてる

 

 

「よし、今日はお肉にしよう。良いお肉があるといいね」

「あ、八千代さん。これ小町に渡されてた食費です」

「ありがとう、昨日君達の母親から受け取った分もあるから良いのが買えるよ」

 

 

私にとっては気兼ねない言葉だったが二人にとってはそんなことはない。それもそうだね、君達は自分の現状を親に伝えなかった、それは紛れもなく悪い事だよ

 

 

「明日には君達の母親は休めるみたいだよ」

「そう……か」

「たっぷり叱られてたっぷり甘えなよ、いいね?」

「はい!」

 

 

伝えることは伝えてお買い物に戻る。一通り必要なものは八幡さんが持ってくれている籠に放り込んだ。後はお肉と二人用の甘いものかな。改めて計算すると結構多めに食費渡されたみたいだね。まあ絞れるとこは絞っておくから万が一にもお金に困ることは無いだろうね

 

 

「好きなもの一つ持ってきなよ。私はお肉見てるから」

「かしこまりましたー」

「こら小町、早歩きすんな」

 

 

小町さんに手を引いて連れてかれた八幡さんを見送り精肉コーナーに移動する。お肉を見極めながらこれからの思考をする。まずこれから使えるモノは「雪ノ下雪乃」だね。雪ノ下先輩の動きを利用させてもらうよ。彼女の行動の影響力は大きいからね

 

 

「八千代さんこっちです!」

「ほれ、貸せ」

「お願いするよ」

 

 

小町さんは根強い人気のアイス、八幡さんはMAXコーヒーが一本を持った二人に合流し、とりあえず得たお肉を籠に入れて貰い会計を済ませる。その後は八幡さんが持つと言うので袋を預ける。君の気が利くところ好きだよ。もう少し察しが良くてもいいと思うけど、まあ君だからそれは諦めるよ

 

 

「じゃあ帰るよ。何処か寄りたいところはあるかな?」

「俺は無い」

「小町もありませんね」

「お家に帰ろうか」

 

 

荷物を持っている八幡さんに少し気を使いながら歩くが流石男の子、軽々と動き回っているので気を使う必要が無いことを悟る。……君達は強いね。小町さんはともかく八幡さんは人の死、それも仲が良かった人の死を見たというのにもう少し乱れてもいいと思うけど。私からは流石といっておこうかな。

 

さあ、八幡さん、小町さん。チェックメイトまで時間が無いよ。盤上の下で行われている対局なんて知らないだろうけどね

 

 

~~~

 

 

『もしもし……?』

「こんにちは、雪ノ下先輩。若葉です」

 

 

訝しむような声音の雪ノ下先輩にサッと挨拶を済ませる。時刻は夕方、放課後と呼ばれる時間だね。因みに電話番号は小町さんに(無理矢理)教えて貰った。

 

 

『何故……、いえ何の様かしら』

「今日、比企谷家に来て、八幡さんや小町さんと話してもらえないかな?」

 

 

しばらく電話の向こうからは何一つ音が返ってこない。私が今行っているのは思惑を除けばお節介と呼ばれるようなことだ。ハッキリ言って断りたい気持ちは大きいだろうね。私から「嫌ならいい」と言えば断ると思うよ。でも私は静観する。

 

 

『……何を話せと言うのかしら』

「何でもいいよ。世間話でも趣味でも、……感情のままに言葉をぶつけてもね」

『ッ……!』

 

 

やっと返ってきた言葉は底冷えするような声だ、これには口角が少し上がっちゃうね。さあ雪ノ下先輩、私の目的の為に駒にさせて貰うよ。そのために君にとても素晴らしくて美しい役を与えないとね。

 

 

「……雪ノ下先輩。これは独り言です。まず由比ヶ浜先輩は太陽です。太陽がなくちゃ植物は育たず月も輝けない」

『何を言いたいの?』

 

 

やれやれ、お月様も太陽が亡くなって相当参っているみたいだね。太陽が由比ヶ浜先輩。月が雪ノ下先輩。カンアオイは八幡さん。ヒマワリは小町さん。……太陽を壊した私は一体何役なのかな?これから何に成るかな? ふふ、無駄な思考だね

 

 

「要するに困ってる植物達の為に光になってくれないかな?」

『月は輝かないと言ったばかりじゃない……!』

「月ならね。でも君は変化する生き物。人間だよ?」

『自分で輝けと……』

「そう。それでどうするかな?」

 

 

再び電話の向こうの音が消える。今雪ノ下先輩は考えている。リスクリターンじゃなくて感情で。そして私の知る雪ノ下先輩はその手を

 

 

『わかったわ。今からで構わないかしら』

「うん、お茶菓子を用意して待ってるよ」

 

伸ばす

 

 

~~~

 

 

寝静まった時間を除いて何時でもほのぼのと暖かい空気が漂うリビングが今は凍り付いていた。原因は八幡。まあ真犯人は私だけどね。話を戻して雪ノ下先輩を連れて二人を呼んだ瞬間空気が凍り付いた。やはりといえる結果に満足だよ。ふふ、対局を再開しよう

 

 

「八千代、これはどういうことだ?」

「どうしたもなにも、君の友人を連れてきただけだよ」

「友人と言うのは撤回してもらいたいわね」

「それは失礼したよ」

 

 

ギロリと音がする程こっちを見てきた八幡さん。大丈夫だよ、君を追い詰める苦痛はこれが最後の予定だよ。これが終わったらエンディングに向かって動くだけだしね。というか雪ノ下先輩も面倒な人だよ

 

 

「そうじゃない。俺が聞きたいのは『何故』だ」

「腐ってるあなたを調理しに来たのよ」

「はっ、腐ってるのはいつもの事だろ。いまさら料理か?」

「ええ、眼だけじゃなく心まで腐りかけた肉は柔らかくて美味しいでしょうね」

 

 

この二人は何時でも喧嘩腰だね。でもいつも道理ではなく今の二人には余裕がない。そんな状況でお互いを挑発しあっていい事なんて無いのにね。……でもそれでいい。並べ立てたドミノが綺麗に倒れていくような快感があるよ

 

 

「お兄ちゃんも雪乃さんも喧嘩はやめてください……」

「ッ!、すまん……」

「ごめんなさい、小町さん」

 

 

ふぅん、雪ノ下先輩も小町さんには強く出れないみたいだね。これは面白い情報だったけど、もう不必要かな。さて本来の目的から離れる訳にはいかないね。

 

 

「小町さん、ここにいるのが苦痛なら上まで送るよ?」

「いえ、最後まで見届けます」

 

 

決意を固めた表情をする小町さん。ふふ、一番心が強いのは八幡さんでも雪ノ下先輩でもなく小町さんだね。小町さんが居なくとも計画は進むけど居てくれるならありがたい。歓迎するよ

 

 

「さて何故連れてきたか、だったね」

「ああ」

「雪ノ下先輩は由比ヶ浜先輩に近かった人。君の考えが知りたかったからね」

「私の……?」

 

 

目を瞑り、頭に刻んだ脚本を確認する。さあ共に踊ろうよ、お月様とお花さん達?

 

 

「ええ、由比ヶ浜先輩が殺された場所。あそこは私が選択肢に出した場所」

「だから……?」

「私に恨み一つでも無いのかな?ということだよ」

 

 

雪ノ下先輩の表情が大きく変わる。言葉にするなら「愕然!」と言ったところかな。一般的な由比ヶ浜先輩の死因は三つ。一つは殺人犯のせい。一つは襲いやすい場所を提供した私のせい。一つは到着が遅れた八幡さんのせい。人は形無いものに感情をぶつける事が苦手だ。それ故に存在する私や八幡さんに矛先が向く。君はどうかな雪ノ下先輩?

 

 

「わ……たしは!」

「…………」

「あなたを恨んでなんか……!憎んでなんか……!」

 

 

ああ、あれだね。頭では理解できてるけど感情が追いついていない、という奴だね。賢い君らしい答えだよ。でも感情には素直でいて欲しいな。だから付き壊させてもらうよ、その理性をね。

 

 

「見えないものを怨むのは辛いよね。行き場がない感情は辛いよね」

「くぅっ……!」

「八千代さん……?」

 

 

必死に抑えようとする雪ノ下先輩の声。不安そうな小町さんの声。八幡さんの探る様な視線。甘美な欲望に、感情に身を任せなよ。そのためなら他を落としなよ。さあ、さあ

 

 

「いいよ、さあ手を伸ばして?私はここだよ」

「うぁ……うぅぅ……」

「さあ」

 

 

雪ノ下先輩の前で膝立ちをし手をとる。感情と理性が戦ってる様が君の眼から良く見えるよ。感情に削られていく君の理性は崩壊寸前だ。軽く小突いただけで音を立てて崩れるだろう。つまりもう一押しと言う事だよ

 

 

「楽になりなよ」

「っ!」

 

 

瞬間、私の手元にあった雪ノ下先輩の手は私の首に巻きついてくる。私の視界に移るのは必死を絵に描いた様な表情をした雪ノ下先輩。怒る様な憎むような怨むような泣いているような、そんな表情。他には目を見開いている小町さんに、余りの事態に硬直している八幡さん。くく、雪ノ下先輩。私は欲望の為に他を落とせるよ、このようにね

 

 

「ふ、ふふ。さあ、感情を、吐き出しな、よ……」

「ぅ……!ぁ……!」

 

 

ぼろぼろと大粒の涙を零す雪ノ下先輩の頬を撫でる。人を落とすには上から蹴落とせばいい。人を上げるには下に立って踏み台になればいい。とても簡単な考えだよ。でも、まあ、ふ、ちょっ…と……きつい、かな……。

 

 

「……ッ、やめろ!雪ノ下ァ!」

「ッ……!?」

「ぐっ……」

「八千代さん!?」

 

 

我に返った八幡さんが上げた怒号で雪ノ下先輩の手が離れる。バランスを崩した私が後ろに倒れる姿を見て小町さんが悲鳴を上げる。ふ、ふふ。これじゃあまるで地獄絵図だね……。

 

 

「八千代さん!…千代さん!……代さん!………さん!」

 

 

ああ、ごめんね小町さん……。少し寝るよ……

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