第1話 オリ主が恰好いいとかいう、その固定概念をぶち殺す!!
便所の中でぎゅ~ごろごろと嫌な音が鳴る。腹を壊した音、個室の和式便所の中からだ。
中では黒い髪の青年が、まるで腹を撃たれた保安官のように手で腹を抑えながら、うめき声を上げている。
名を月影永理、通称馬鹿の世界チャンプ。
「うっ」
うめき声と一緒に肛門から出てくるのは、とてつもない量の茶色い液体。物凄い腹痛と共にそれは、まるで肛門から手を突っ込まれ、乱暴に引きずり出されているかの如く。まさに地獄、永理にとってはとてつもない地獄としか言いようが無かった。
事の原因はまず、遊戯王の世界に生を受けてしまった事だろうか。否、それは関係ない。ただ単に偶然、腐っていた肉を昨日生焼けのまま食べてしまったからだ。そしてそのままノリで、どういう訳か父親が採って来たという牡蠣を刺身で食べてしまったのもまた一つの原因だろう。そういえばあの糞親父牡蠣食べなかったなこん畜生、と心の中で悪態を付かずにはいられない。事実今苦しんでいる元凶は父親にあるからだ。そういえば何故か父親は牡蠣を食べていなかった。きっとどこか適当な所の牡蠣を勝手に採取してきたに違いない。畜生め、と思わず愚痴りたくなる。
地獄、永久に終わる事が無いのではと思いたくなるような地獄。腹にまた、筋肉ムキムキマッチョマンの変態からボディーブローを受けたかのような痛みが走り、バリバリと音が鳴る。
「永理~、大丈夫か? 医者呼ぼうか?」
便所扉の外から心配そうに声をかけてきたのは、デュエルアカデミアの受験で偶然知り合った友人の遊城十代だ。今日知り合ったばかりだと言うのに、こうして便所の前で心配の声をかけてくれるとは。とても心優しい人だなと永理は思う。自分だったら絶対見捨ててると自信を持って言えるし、たとえ十代が見捨てたとしても水に流してやろうと思う。今は流せる状態ではなく垂れ流している状態であるが。
デュエルアカデミアというのは、簡単に要約すると遊戯王の専門学校みたいなものだ。とはいえその門はとても狭く、何でも合格者がとても少ないらしい。どういう訳か決闘──ルビにデュエルと付くそれが強い奴は就職も有利らしい。何故かは知らんがこの世界の常識らしい。一応原作知識を永理は持っているが、その原作知識というのが牛尾さんと札束を巡ってのバトルだったり、パズルに触るんじゃねえクソガキ! と王様が言ったり、OPにしかブラックマジシャンが出ない要するに原作の原作知識だけしか持ち合わせていないのだ。一応カードに関する知識はある程度ありそこそこ強いので、狭き門と噂のデュエルアカデミアは合格間違いなし、と自信を持って言える。筆記テストの結果は最悪なものであったが。
今問題なのは、身体に付いてる方の狭き門の方だ。未だにドラゴン族のような咆哮を上げており、茶色いブレスを吐き出し続けている。
「だ、だいじょ、大丈夫だ。そ、そそ、そろそろ紙を。持ってきてくっ!? ぐおおおおおおお!!」
突如永理に電撃が走る。腹痛の痛みというのは波があるのだ。一度引いては、また痛みが増してくる。それの最上級なのが、永理のお腹を襲う。
突然奇声を上げた永理に驚き、更に心配になったのかドアをドンドンと強く叩いてくる。心配してくれるのはありがたいが、今はそれすらも鬱陶しく感じてしまう。
「かっ、紙を!! もしくは慈悲をくれる神を連れて来てくれ!!」
「えっ、か、紙だな。ちょっと待ってろ!!」
外からタッタッタッタッと、足音が遠のいていく音が聞こえる。いい子だ、十代という男は……と永理は常々思う。
自分だったらこんな臭い所、一瞬たりとも居たくない。友情より臭さが勝ってしまい、絶対に逃げ出しているだろう。だというのに十代は、自分の心配をしてくれている。こんなに嬉しい事は無い。
しかし、十代に対しての感謝を下半身全裸で思っている身体に、無慈悲なる牡蠣の裁きが下る。また来た、それも今度の波は大きい。
思わず壁を叩いてしまう。何度も何度も、痛みに耐える為に。辛い、苦しい。出産の痛みはこれ以上らしいが、自分が女でない事に心の底から安堵した。いや、それよりもまずこの痛みを何とかしてほしい所だ。
というか一作目からこれっていいの? 大丈夫なの? と永理は不安になってしまう。メタ発言だってしちゃうのだ、永理は。
波が引いたと同時に、また足音が近づいてきた。十代の足音だろう。まだ足音だけで誰かを把握する事は不可能だが、まず十代だろう。もしトイレでセックスするつもりの腐れアベックだったらざまあみろ!! とあざ笑ってやるところだ。
取りあえず扉のロックを解除し、トイレットペーパー一ロール分の隙間を開ける。そしたらそこから、トイレットペーパーが差し入れられた。既に紙は二ロールほど使い切っており、便所の水も数えきれないぐらい流した。かれこれ三十分、いやもしかしたら一時間以上経ってるかもしれない。そんなに時間が経ってるというのに、十代は付き合ってくれているのだ。励ましてくれているのだ。ホンマいい子やで、と心の中で感動しながらケツを拭く。
「……なあ十代、今日会った奴に言うのも変だけどさ。俺が死んだら葬式出てくれよ」
「今日会った奴に言う台詞じゃないだろ! 俺はまだお前とデュエルしてねえ!! だから死ぬな、永理!!」
いや、これもう駄目かもわかんね。とトイレットペーパーに付いた血を見つめながら心のどこかで、二度目の死を考えずにはいられなかった。
それもこれも、あの神様とかいう奴のせいだ。テクノブレイクして死んだ俺に第二のチャンスとしてこの世界に生を受けさせ、そして健康な身体と遊戯王カードを与えた神様のせいだ。
遊戯王カードの方はまさかのバンダイ版という事で一から集め直しで後日生前持っていたカードを送ってくれるそうだ。要するに強くてニューゲームなのだが、その代償がこれというのはあまりにもひどい話だ。転生主人公というのは大抵かっこいいかコメディかに分けられるが、ここまで不遇なのはそんなに無いだろう。だってプロローグが便所なんだから。
「十代知ってるか。ゲリで脱水症状が起きて死んだ事例があるんだぜ」
「大丈夫だ! お前試験が終わった後水を馬鹿みたいに飲んでたじゃないか!!」
ああ、何処となく水っぽいのはそのせいもあるのかも。と思い苦笑い。永理は疲れた時は水と決めているのだが、まさかここで効いてくるとは思っていなかった。まだズボンもパンツも履いたまま決壊するよりは幾分かマシというものだが。
心なしか、腹から痛みが引いてくる気配がする。いけるかもしれない、と淡い希望を持ち、尻を拭く。まんべんなく、綺麗に。何回も何回も、拭き溢しが無いように。
そしてズボンを履き、少し腰を横に揺らし、軽くジャンプ。痛みは無い。気が付けば服は汗でびっしょりだ。ああ、戦い抜けたんだな。俺。よくやったな、俺。と自画自賛せずにはいられない気分だ。
すっきりとした顔立ちでトイレの扉をゆっくりと開ける。すると目の前には、ぱあっと明るい笑みの十代の姿が。カジュアルな服装に、茶髪の髪。正直受験とかには不利っぽい髪色な気がするが、この世界ではこういう髪は珍しくない。水色に比べたらリアリティはまだある方だ……と、思う。
「永理、もう大丈夫なのか?」
「ああ、おかげさまでな。あっちょい待って、流すの忘れてた」
取りあえずズボンをヘソよりちょっと上辺りまで上げ、ベルトで限界まで閉めてから水を流す。
まるで悪魔のうめき声の様な音を立てながら水は下水道の中へと流れていき、そこに残ったのはこの世の者とは思えないぐらいの異臭だけだった。
しかし優しいな十代、俺が女なら惚れてるわ。と永理は心配してくれている十代に対して思う。まあ女だったら女子便所の扉の前で心配の声をかけてくれる訳が無いのだが。
「汗すっごいな。着替え買う金、あるか?」
手に石鹸を付けて泡立てている永理に、十代は尋ねる。これで無いと言ったら奢ってくれるんだろうな、優しいから。と適当な事を思いながら、手に付いた泡を洗い流しながら自分の服を見る。
十代の言うように、気付けば服はびっしょりと濡れていた。それにかなり汗臭い。なんというか、ガチムチの臭いがする。ガチムチの。
不味い、これは非常に不味い。この世に生を受けて十五年、前世も合わせて五十年産まれてこの方彼女なんてものが出来た事の無い永理は、非情に女性の眼を気にする。
普段は彼女いらないとか、アド損とか言ってるが、やはりなんだかんだ欲しいのだ。彼女は。それが男の性なのだ。ゲイはまた別である。
「安物しか買えないがね……確か近くにユニクロがあったっけかな」
トイレを出てすぐに自販機が置いてあるのは、今日の永理のような人の為である。勿論ウソである。いや、もしかしたらそれも兼ねているかもしれない。
まあ永理にとってはどうでもいい話であるし、そうであろうとなかろうとあってくれてかなり助かっているので何の問題も無い。
自販機に五百円玉を投入し、お茶系統を買う。永理は水とお茶以外飲む事が出来ないのだ。どうも甘い液体を飲むというのに抵抗がある。
ぴっという電子音から一秒の半分ほど遅れて、がこんとペットボトルが落ちてきた。自販機のふたを開け、それを取り出す。茶色いお茶だ。
「ちょいとした拷問に付き合わせた礼だ。飲み物ぐらい奢らせてくれ」
「……そうだな、んじゃこれで」
少し考えてから十代は、少年らしくコーラを選んだ。少し躊躇ったのは、見返りが貰えるとかそういうのを全く考えてなかったから故なのだろうか。
まあ優しい理由だろう。それが善であれ偽善であれ、とても助かった事に変わりは無い。
隣でかしゃり、とペットボトルのふたを開ける音が鳴る。よし俺も、と永理は力を込めてペットボトルのふたを──
「……」
「……どうした永理」
「十代、俺は今から信じられないような事を言わなければならない。でも俺の言う事を信じて、素直に従ってほしい」
妙に意味深な言い方だ、舞台がかったというべきか。
十代は取りあえず頷く。今日会ったばかりではあるがもう友人でもあるし、同時に今日会ったばかりなのでそれほど大変なモノを頼んだりはしないだろう。
永理は若干言いよどんだように口をもごもごさせるが、やがて決心したようにペットボトルを十代の方に向ける。
「開けてくれ」
「……マジ?」
腕がプルプルしている。トイレで力を使いすぎて、ペットボトルを開ける力が残されていないのだ。普通ではありえない事だが、まあそこは永理なので。と言っておこうか。
十代は仕方なしにペットボトルを受け取ると、簡単にふたを開けた。
「すまんな」
「ええんやで」
半ばテンプレ的なやり取りをしてから、十代に空けてもらったお茶で喉を潤す。ごくり、ごくりと飲む音が二つ。もう人が居なくなった実技試験会場のトイレの前でハモる。
どうやら、かなりの時間トイレに籠っていたらしい。我ながら情けない話だなと思うものの、全部悪いのはこの世界での父親の方だと思い直す。自分は全く情けなくない、むしろ試験本番で便意に襲われなかっただけ救われている方だ。
そういえば、とふと思い出したようにお釣りを出す。じゃらじゃらと全部五十円玉で帰って来た。今日は厄日のようだ。
いや、デュエルで運を使い切ってしまったのかもしれない。まさか究極完全体グレート・モスを出せるとは思っていなかったからだ。一応試験用のデッキも作ってはいたのだが、まさかの家に置いてきたという凡ミスをしてしまい、仕方なしに常に持ち歩いているロマンデッキでデュエる事になってしまったのだ。
我ながら何であんなデッキを使ってしまったのか理解に苦しむが、まあそれもまた運命だったのだろう。事実それのおかげで、かなりの注目を集める事が出来た。目立つ事は嫌いじゃない、むしろどちらかといえば好きな方に入る。
「喉も潤した事だし、早速ユニクロに行くか。永理、場所解るか?」
「悪いな、全く持って検討が付かない」
永理は悲しい事に、地理が苦手だ。偶然同じ受験生を見つけてその後を追ってここまで来たのだ、ぶっちゃけどこに駅があるのかも解らない。更に残念な事に、携帯は充電が切れている。SSを見すぎたか、と若干の後悔。
「うっ」
「どうした永理、顔色が……」
ゆっくりと、既に半分ほど飲んでしまったペットボトルのラベルを見る。
そこにはデカデカと、筆のような文字でごぼう茶と書かれていた。ごぼう茶、便秘予防に最適らしいお茶だ。
そして永理は、プラシーボ効果に引っかかりやすい性格をしている。つまり
「ぐおおおおお!!」
「またか!!」
またしても永理は、あの臭い魔境へ逆戻りしてしまった。ああ、可哀想な永理。
どうも、なろうの方ではナチを名乗っている伊右衛門です。中学生時代に書いたのが色々とあれだったのでいったん消去し、やり直した結果文章は良くなったけど中身は酷くなりました。
というか、遊戯王小説なのにトイレから始まるってどうなのよ……そしてついでに、遊戯王の方もかなり引退した身ですし。老骨を引きずり出されました。
あー、ハーレム主人公書きてー。でもストーリーが思い浮かばねー、ガッデム。