月影永理の暴走   作:黄衛門

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第10話 怪談話と遊戯王

 草木も眠る丑三つ時、外からフクロウの声が木霊する。ほーっ。ほーっ。一定の感覚で鳴いているのが、非情に不気味な雰囲気を醸し出している。

 夜の食堂というのは、普段立ち入っていたとしてもやはり不気味なものである。何処か違うのだ、何かが違うのだ。この世は一つの例外によって、がらんと姿を変える。オシリスレッドのボロい食堂、一つのテーブルを囲むのは十代、翔、隼人、そして永理の四人だ。今日は十代の提案で、気温も厚くなってきたので怪談をする事になったのだ。適当なモンスターカードをかき集め、引いたレベル分の怖い話をするというもの。

 壁も床も天井も、そこらの工場勤務の人間が通ってそうな見た目。違うのはヤニが付いていない事ぐらいだろうか。こういうのもまた、風情があっていいものだ……と、永理は思う。

 蚊取り線香の臭いがぷんと鼻腔をくすぐる。アカデミアには海以外にも何かと水辺が多く、蚊が多いのだ。ぽりぽりと噛まれた箇所をかきながら、コアラ顔の隼人は蝋燭に照らされているカードを引く。

 死霊伯爵、レベル5の通常モンスターだ。

 

「これは、俺の実家での話なんだな……」

 

 翔がガタガタと震える。隼人の家は酒屋で、しかもかなりの田舎だ。田舎というのは決まって、怪談話といった妙な話がつきものである。やっと始まったばかりだというのにこの様では、終盤まで持つのか……と、永理は青い髪を揺らす青い顔をしたちっちゃい青年を見やる。

 

「俺が中学生ぐらいの頃、ふと夜中に目が覚めたんだな。俺は普段寝てる途中で起きるなんて事ないから珍しい事もあるもんだな、とぐらいにしか思ってなかったんだな。で、目が覚めた途端尿意を感じトイレに行ったんだな。

 そのトイレってのが、また遠くて……長くて廊下を渡らなきゃいけないんだな。その日は満月だったから月明かりのおかげでそれほど暗くも無くて、急いでトイレに行ったんだ」

 

「ここここれ、レベル5の話じゃないっすよね……ねっ、アニキ。ねっ」

 

「いや、まだ怪談にも入ってないんだけど……トイレの話しかしてないし」

 

 ガタガタと震える翔を慰めるように、十代は言う。確かにまだトイレの話しかしていない。何故ここで怖がるんだ、と永理にとっては不思議であったが、ホラーゲームとかやってて慣れてしまったのだろう。

 隼人はニヤニヤ笑みを浮かべながら、話を続ける。結構意地悪いのね、と永理は呟いた。

 

「ぎしっ、ぎしって音が鳴る廊下、トイレに行った後戻っていたんだ。そしてふと、庭の月を見てみたくなったんだな……そして廊下に腰掛けて、月を眺めていたんだ。

 真ん丸満月は大層綺麗で、俺は感動したんだな。ぼーっと、十分ぐらい眺めていたらふと……視界の端になにか見えたんだな。

 俺の家の庭には、隅に柿の木があるんだな。普段はそれを採ったりしてるんだな」

 

 柿の木があって庭もある、隼人の家はかなり大きいようだ。そろそろ翔の怖くない発言が鬱陶しくなってきた。輿水幸子のあれはとても可愛いものであったが、ショタコンの女の子受けするとはいえ翔は男。やはり永理的には興奮しないのだ。

 そもそも見た目が女の子でなければ、どうもあれなのだ。興奮しないのだ。永理は。

 

「子供ってのは好奇心が旺盛なんだな。俺もその例に漏れず、それを確かめる為に、サンダルを履いてその木の方に近付いたんだな。暗くてよく見えなかったけど……よーく目を凝らして見て見たら」

 

 そこで隼人は言葉を区切り、間を入れる。数秒、数十秒だろうか。それぐらいの僅かな時が立ってから、重い口を開いた。

 

「首を吊った男が、木にぶら下がっていたんだな」

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

「んわっ!? びっくりした、翔……驚きすぎだぞ」

 

 正直永理的には、隼人の話より翔の悲鳴の方が怖かった。というか、何処からあの声が出てるんだ。あの小さな身体から。十代も同じなようで、若干顔が引きつっている。

 正直口癖とか口調のせいで怖くは無かったが、それでも翔が驚いてくれた事に満足したのか隼人は笑顔で話を閉めた。

 次は翔の番だ。先ほどの驚きと恐怖から気を取り直し、カードを引く。

 レベル4、終焉の精霊。

 

「デュエルアカデミアの森に滝があるの、知ってる?」

 

「そんなものがあるのか?」

 

 十代の言葉、永理も口には出さなかったがあるなんて事は知らなかった。滝、なんだか筋肉ムキムキマッチョマンの高校生に見えない奴がドローの練習とか言って、カードを流して取る何の意味があるのか解らない練習をしてそうだな。と何故か思う。

 翔はそんな永理のどうでもいい予知も知らず言葉を続ける。

 

「あの滝の裏側に洞窟があるんだ。その洞窟をちょっと進んだ先に、地下水が溜まった湖があるんす。

 この話は、その湖にまつわる話っす」

 

 地下というのは、森というのは人間が暮らす環境とは違うと言われている。故に昔から、そういった怪しい伝承が絶えない。

 山とは神聖なもので、地下とは忌むべきものなのだ。地獄の底という言葉は、暗に地獄は下に、地下にある事を示している。それだけではなく、洞窟はその昔防空壕としても使われていた。自害、生き埋め、その他諸々色々重なり、故にそういった怪談話は絶えない。

 

「その湖は底が透けて見えるぐらい透き通っていて、とても冷たいらしいっす。それだけならちょっと探せばありそうな名所っすけど、それは普通の湖じゃないんっす。

 頭に欲しいカードを思い浮かべながら湖を覗き込むと、湖の底にそのカードが浮かび上がってくるっす……そんな所にカードがあったら欲しくなるっすけど、決して手を伸ばしてはいけないっす……」

 

 死者には様々な者が居る。その中に、自分一人死ぬのが嫌という者もいれば、生きている者を疎ましく思う者もいる。そういった奴らは大抵、生者を死の世界へ引きずり込まんとするのだ。

 

「何故なら手を伸ばした瞬間、湖の底から白い手が首を掴んで引きずり込んでくるからっす!」

 

「おおっ……中々怖かったな」

 

「そうだな」

 

 十代の言葉に同意する。ちょっとした子供なら怖がりそうな話だが、そういった類の話はネットでいくらでも転がっている。そういったものに見慣れた永理にとっては、まあやはりありきたりなものとしか感じられなかったのだ。

 次は永理の番、カードをめくる。究極完全態・グレート・モス、レベルは8だ。ふむ、と永理は考える。何の話をしようか、と。

 あの恐怖体験を話すのもいいが、あれをどう言葉化させればいいのか皆目見当もつかない。

 

「あれは数年前、まだ俺が小学校に通っていた頃の話だ……。

 俺には歳の離れた友達が居て、そいつはよく酔っ払っては俺の家に来るんだ。で、その日もかなり酒を飲んでいたのかへべれけになって家に入って来たんだ」

 

「なあ翔、へべれけって何だ?」

 

 十代の問いに、翔は首を傾げる。隼人が苦笑いしながら、へべれけについて解説をした。永理もいったん、語るのをやめる。

 

「へべれけってのは、べろんべろんに酔っ払ってる事なんだな。ナウいとかヤングとか、そういった時代の言葉なんだな」

 

 要するに死語である。永理は二人に通じない事に対し、少々ジェレネーションギャップを感じてしまった。そうか、もう使わないのか……妙な悲しさが、永理の心の中に広がる。

 永理は気を取り直し、語り直す。そこは別にどうでもいい話なのだ。いや、状況を想像してもらうには重要なのだが、一先ずどうでもいいのだ。

 

「そしたらそいつ、案の定青い顔してさ。風呂場へ連れていって介抱してやったんだけど、ゲロの中になにか動くものが……」

 

 永理は一旦そこで言葉を区切る。そしてニヤリと口角を上げ、締めの言葉を出した。

 

「それがさ、ムカデだったんだよ。あれ人間恐れないから、寝てる時とかに口の中に入っちゃったんだろうな」

 

 永理が結論を口にすると、途端に十代と翔の顔が、まるでムカデを噛み潰したような顔になる。

 

「んじゃ、次は隼人の番な」

 

「いや、この話はもうやめよう」

 

 十代と翔はそう言い締め、無言で食堂の奥にあるトイレに向かう。相当こたえたらしく、顔が真っ青だ。

 十代と翔は真顔で、「マジ?」「マジっすか?」と互いに確認し合い、急いでトイレまで走り、ドアを開けた。するとそこには

 

「おええええええええええっ!!」

 

「だ、大徳寺先生!?」

 

「話聞いてたっすね……」

 

「よし俺達も続くぞ!」と十代の声と共に、聴くも無残なむさくるしいゲロ音の三重奏。まさに地獄、拷問である。永理はマスクを取り、今のうちに付けておく。話す際ゲロの臭いを嗅がなくてもいいようにだ。

 女の子がゲロっているのを見るのは好きだが、男のは論外だ。臭いだけでもあれなのだ、嫌なのだ。

 

「つか隼人、お前は大丈夫なんだな」

 

「親父がよくムカデ酒を作っていたんだな。あれ使い終わったらよく焼いて、酒のつまみに食っていたんだな。結構美味しかったんだな」

 

 ああ、そう。としか永理は答えようが無かった。正直自分でも、あれを食べようとは思えない。いや、田舎ならあるのか……? と考えるが、やはりそれも無いだろう。精々野イチゴ辺りで留まっている筈だ。

 

「あっ、この黒いのムカデじゃないのか?」

 

「それ先生のひじきだにゃ……」

 

 今更嘘とは言えないな、と永理は頬杖を付きながら思う。酒飲みの友達は居るが、とはいえ流石に酔っ払って家を間違えるような奴ではない。

 たまに公園で寝ていたりとかはしたりしているらしいが、それは永理のあずかり知らぬ所。

 しばらくしてから、二人の友人は一人の教師を連れて戻って来た。顔は何処かぐったりしているが、同じぐらい安堵もしている。どうやらゲロの中にムカデは居らず、ひじきしか無かったらしい。

 

「永理君……あまりショッキングな話はやめてほしいのにゃ……」

 

「錬金術で蟲とか使わないんすか」

 

「使うけども……食べるのは韓国の仕事にゃ」

 

 そんな仕事は無い。とはいえ下手にツッコむのも面倒なのであえて永理は何も言わない。永理はツッコみではなくボケの立場の人間なのだ。

 故に面倒な事はしない。

 

「永理君……酷いっす、こんなボロ家でそんな話するなんて」

 

「そういやムカデって、小さな奴だと隙間から入ってくるんだよな」

 

「んだな」

 

 永理の言葉に隼人は頷く。先ほどの怪談で、隼人は田舎育ちだと判明した。故に永理の言葉に信憑性が増す。えっ、と青い顔をする三人。適当に言ったのは本当だったんだ、と永理はぼんやりと思う。

 

「せせせせ、先生の部屋は大丈夫な筈だにゃ……大丈夫、かどうか見て来てくれないかにゃ十代君」

 

「えっ、何で俺が!? 俺だってムカデは嫌っすよ!」

 

 まあ、あの蟲を好きだと言う人は殆ど居ないだろう。ムカデ、漢字で書くと百足。実際には精々三十~五十程度しか無く、百本ものはかなり珍しいらしい。

 では何故百足と書くのか。それは昔、百というのは数が多い事を現す漢字だった事が由来だ。

 

「取りあえず三人とも、水で口を濯いできた方がいいと思うんだな……」

 

「そういや永理、なんでマスクなんか付けてるんだ?」

 

「ゲロの臭いは嫌いだ」

 

「酷いっす! 元凶なのに酷いっすこいつ!!」

 

 ハハハと笑い適当に制す。確かに、永理は酷い事をしている。その自覚はある。だが嫌なものは嫌なのだ。永理はいつでも通常運転、いつも通り自己中に動く。他人の事なぞお構いなし。そんな自分が大好きなのだ。

 まあ、それのせいで友情関係を壊してしまった事もあったが、別にメリットも無さそうだったのでノーマンダイ。

 十代、翔、大徳寺の三人は口を濯いできてから、椅子に座る。大徳寺の椅子は無かったので、近くに会った椅子を拝借した。

 

「……で、四人は何をやっていたんだにゃ? それもこんな夜遅くに」

 

 口を濯いできたのでもうゲロ臭はしない。

 十代は楽しそうにその問いに答えた。永理はあくびを洩らす。

 

「怪談話だぜ先生! 最近暑いからな!」

 

「吐きすぎて身体が熱いっす……」

 

「眠い……」

 

 ちなみに永理は既に四徹目に突入してしまっているのだ。それでもなんだかんだ無遅刻無欠席、居眠りも無しでやっている辺り流石と言える。別に生前はブラック企業に勤めていたとかそういうのは無いのだが、趣味に没頭するあまり、そして仕事に支障を出さない為にこういった特技を産み出してしまったのだ。勿論身体にかなり悪いが、趣味で死ぬなら本望である。

 

「消灯時間はもうとっくに過ぎてるのにゃ、学生は寝るのも仕事の一つなんだにゃ」

 

「その点アニキは授業中寝てるから仕事してるっすね」

 

「授業中寝ない為に夜に寝るのにゃ」

 

 先生のもっともな言い分に、何か言い返そうとして何も言い返せない十代。永理はそれを見てアハハと笑う。一応永理もまだ成長期ではあるが、それより趣味に時間を注ぎたい人間なのだ。

 

「百物語は途中で終わらせたら、その者に災いを齎すという……なので、先生が最後の話をするのにゃ」

 

 既に災いは齎されているが、気にしたら負けだ。大徳寺はカードを引く。FGD、レベル12の融合モンスターだ。何故こんなレアカードをレッド生徒が持っているんだというツッコミは禁止である。

 

「えっ、途中で終わったら駄目なのか?」

 

 十代が青い顔をし、永理の顔を見る。永理のムカデ話のせいで、百物語は中断させてしまったのだ。

 しかし、永理は何の心配もしていない。何故なら、江戸時代でも百物語は流行っていたが、その頃のルールは最後まで終わらせない事だったというのを知っているからだ。

 何故、途中で終わらせるのか。それは流石に武士と言えど、実態のない者を斬る事が出来ないからである。殺せない者ほど恐ろしいものは無い。そもそも百物語は降霊術の一つなのだ。なので途中で終わらせた所で何の被害も出ない。大徳寺の言った言葉は、四人を早く寝かしつける為のものだ。

 

「これは特待生寮の話なのにゃ……」

 

「俺の部屋で女子生徒がレイプされて、彼氏と一緒に心中した話っすか?」

 

「……やっぱり、あれは見間違いじゃなかったんすね」

 

 翔の記憶に、大体二話ぐらいの出来事がフラッシュバックする。永理が亮を捕まえ、亮が弟である翔を捕まえたあの珍妙な事件。

 ちなみに例の二枚のカードは未だ部屋の中、どう処理するか決めかねている。

 

「いいや、それじゃないにゃ……特待生寮では、闇のデュエルの研究をしていたらしいのにゃ。勿論、他の生徒には内緒で。

 一人、また一人と特待生は消えていったんだにゃ。男、女、友人、知人、ライバル、嫌いだった奴……次々と消えていき、次は自分じゃないのかと不安になって逃げだす者も居たらしいのにゃ……。

 結局その原因も、消えた生徒が何処に行ったのかも不明。最終的に廃寮となったのにゃ」

 

 原因不明、消息不明。永理は大方闇のデュエルとかだろ、と適当に予想する。闇のデュエル、永理はよく知らないが、昔色々とあったらしい。とはいえ科学的にそれを再現する事なんぞ不可能な筈だ。海馬が闇のゲームをやっていたが、あれはソリットビジョンシステムの応用。実際には闇のゲームではない。

 しかし、永理の顔には悪ガキのような笑みが浮かんでいた。

 

「さあ、もう解散するにゃー、早く寝なさいなのにゃー」

 

「はいはい、俺達ももう寝るか」

 

「だな」

 

「はいっす。永理君、大徳寺先生。おやすみなさいっす」

 

 そう言い残し十代と奇妙な仲間達は食堂を出て行った。永理は台所に行き、ヤカンで湯を沸かす。その間に急須の中に茶葉を入れておく。

 

「永理君も早く寝るようににゃ~、今日は徹夜しちゃ駄目ですにゃ」

 

「緑茶飲んだら寝ますよ」

 

 ならいいにゃ、と言い大徳寺は食堂を出て行った。お湯が沸くまでの間、余った時間を利用しPDAを操作し、亮に一つのメールを送る。

 送信ボタンを押し、画面に送信完了と表示された瞬間、ヤカンが甲高い音を立てた。




 前回は初歩的なミスをしてしまい、申し訳ありません。そしてデュエル描写無しですみません。
 次回からタイタン出します、絶対。そしてデュエル描写もあります、絶対。
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