月影永理の暴走   作:黄衛門

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第12話 闇のゲームで、君とセクロス!(後編)

 読者は精霊、というものをご存じだろうか。精霊、万物の根源とされている気的なあれであり、フィクションにおいては『ひゃんっ!』とかヒロインが言ったりするアニメでのメインウェポンだったり、死んでも一回休みだけで済んだりするあれである。

 遊戯王の世界においても精霊は存在すると言われており、伝説のデュエリスト武藤遊戯はクリボーの精霊に振り回されているという。

 遊戯王世界の精霊、そう聞くと皆は何を思い浮かべるだろうか。クリボーやハネクリボーのような可愛い系(クリボン? 知らない子ですね)や、ブラマジガールやガガガガールのような女の子系、霊使いやカード・エクスクルーダーのような小さな存在等を思いうかべるだろう。

 永理は勿論、そんなカードが持ち精霊になるとは思っていなかった。精々メタモルポットとかそういうのだろうと、たとえレベルが高くとも精々上級モンスター程度だろうと思っていた。

 しかし、しかしだ。現実は非情である。

 

「……マジ?」

 

『プヒィィィップ!』

 

 目の前で黒い空間から浮かび上がるように蒼い羽を広げている、超巨大な緑色のモンスター。召喚に関しての難易度で言えば、まだ三幻神を三体揃える方が楽だと錯覚するほどの面倒さを誇り、更にその苦労に見合わない究極龍にも勝てない攻撃力の効果は召喚制限のあるモンスター。究極完全態・グレート・モス。これが、永理の持つ精霊だ。

 永理は思わず十代の顔を見る。十代の側、右肩辺りで浮かんでいるのは、白い羽を付けたクリボー、ハネクリボーである。そしてもう一度永理の持つ精霊を見る。

 思わず永理は、膝から崩れ落ちる。

 

「フェバリットカードだけども、だけどもさ……それでも、なあ」

 

『プピュン』

 

 究極完全態・グレート・モスが慰めるように、永理の背中を羽で優しく叩く。十代は思わず苦笑い、タイタンは困惑顔だ。マスク越しからでも解るぐらいに。

 

「え、永理……どうやったら、この世界から抜け出す事が出来るんだ」

 

 タイタンが尋ねる。究極完全態・グレート・モスのインパクトが大きかった為、永理の話を聞けてなかったのだ。そしてついでに、話を本筋に戻す為に、永理に尋ねる。永理は顔を上げないまま答えた。

 

「どちらかがデュエルで負け、死ぬまで……」

 

 永理の言葉を聞き、一気に十代の表情が険しくなる。人殺し、それに対し嫌悪感と抵抗があるのだ。否、むしろ無い者の方が少ない。そういった輩は何処かが壊れているのだ。

 しかし、今永理達が居るのは闇の世界。ここから脱出するには、どちらかが犠牲にならなければならない。十代か、タイタンか。

 

「なっ、何だ……天井が、おいおっさん!」

 

「ん? どうしたじゅうだッなんだこれは!?」

 

 タイタンの上から、闇の世界を形成していたのであろう黒い物体がぼとり、ぼとりと落ちてくる。タイタンの肩、帽子に落ち、芋虫のようにうねうねと動く。

 一つ、二つ。最初はその程度だったが、次第にぼとりぼとりと、まるで大粒の雨のように、次々と闇の形成物が落ち、タイタンの身体をまるでラバースーツのように覆う。

 中からくぐもった悲鳴が聞こえ、顔部分の闇が震えだす。するとまるで、風呂の栓を抜いたかのようにタイタンの口の中に闇の形成物が吸い込まれていき、タイタンの周りにはそれらしき物が無くなった。代わりにタイタンの雰囲気が、何処か変わったのだ。

 

「……デュエルを続けよう、遊城十代」

 

「それしか方法は無いみたいだな……腹括って、やってやる! ドロー!」

 

 何とか十代は気を持ち直したようだ。いや、無理をしているだけだ。どうすれば友人を助けられるか。タイタンははっきり言えば、十代にとってはただの他人。であれば十代は、当然他人であるタイタンより友人である永理を助ける為に行動するだろう。

 たとえそれによって、自身の手が汚れようとも。

 

「魔法カード、融合回収を発動! 墓地のスパークマンと融合を手札に戻す! そして融合を発動! 手札のフェザーマン、スパークマン、バブルマンを融合! E・HEROテンペスターを融合召喚!」

 

 十代の場に、フェザーマンのようなデザインの人工的な羽を付け、稲妻模様が施された青いタイツを身に纏ったヒーローが現れる。右手にはバブルマンのような銃、左手には爪のついたガントレット。テンペスターはニヒルに笑いながら、スカル・デーモンを見やる。

 

「バトル! テンペスターでスカル・デーモンを攻撃!」

 

「罠カード、発動! 聖なるバリア‐ミラー・フォース‐!」

 

 テンペスターは地を蹴り空中高くまで飛翔すると、そのまま空気抵抗が無いように落下。右手の銃から水の弾を撃ちながら勢いよく突っ込む。しかしそれを妨害するように現れる、虹色の壁。それに銃がぶつかり、攻撃が反射されると思った瞬間、そのバリアは消滅した。

 

「なにっ!?」

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂! 相手にドローさせる代わりに、魔法・罠の効果を無効にし、破壊する!

 行けっ、テンペスター! カオス・テンペスト!」

 

 水の銃弾はまるで糊のような粘度でスカル・デーモンの動きを止め、スカル・デーモンの懐の着地する。何とか逃れようとスカル・デーモンは腕を動かし、足も動かそうとするが、どうにもいかない。そのままテンペスターは左腕を大きく振りかぶり、ボディにぶち込む。ガントレットの先端が腹に触れた瞬間、それは変形しまるでくぎ打ち機のように動き、刃をめり込ませる。

 地獄から響くような悲鳴を上げ、スカル・デーモンは爆発。地を蹴りバク転し、十代の場に戻る。

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

「私のターン、ドロー! ……メインフェイズ、リビングデッドの呼び声を発動! 墓地からプリンスクインデーモンを特殊召喚!」

 

 タイタンの場に、女性と思わしき悪魔が現れる。何故女性とらしき、と表現したのか。それは、ムキムキの紫色の肌、その上から付けられたあまりにも攻撃的すぎる、トゲトゲとした鎧。胸を隠す鎧にはまるで虫の足のようなモノで固定されている。腕にはよく解らない長いワイヤーが付いた腕輪を取り付け、ボロボロの前掛けが見ていて(興奮しないグロッキーな方の意味で)目に毒だ。唯一女性と思えるのは長い髪ぐらいで、それも顔を見たら帳消ししたくなるほど。

 

「ジェノサイドキングデーモンを召喚! このカードは、自分場にデーモンと名の付くモンスターが存在しなければ召喚・特殊召喚する事が出来ない」

 

 紅いマントを身にまとい、巨大な両手剣を手に持った悪魔が現れ、両手剣の使い心地を確かめるように赤い筋肉を膨れ上がらせ、それを二・三度ほど振り回す。白い鎧と王冠のような頭が特徴的だ。

 攻撃力2000、そして確実性は無いもののこのカードを対象にした効果を無効にする効果。これらを秘めているのだが、その代償として毎ターン800のライフを、スタンバイフェイズに払わなければならない

 

「……でもタイタンの場に存在するモンスターの中で一番強いのは攻撃力2600のプリズンクインデーモン、俺のテンペスターには一歩及ばない!」

 

「ふん、こいつはただの生贄だ。魔法カード、アドバンスドローを発動! レベル8以上のモンスター、プリズンクインデーモンを墓地へ送り、カードを二枚ドロー! 更に速攻魔法、デーモンの駆け引きを発動! 手札・デッキからバーサーク・デッド・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 プリズンクインデーモンの身体の内側から、炭化したような細長い手が、まるで草をかき分けるように、プリズンクインデーモンの身体が引き裂かれる。雄叫びをあげ、口や身体から赤い血を吹きだす。更に無情にもプリズンクインデーモンの身体が横に引き裂かれ、中から臓器を身にまとった、ほぼ骨のような竜が現れた。頭に細長い紫色の毛がある、まるで生者を生きたまま焼き殺したような肌のドラゴン。乾燥した羽を広げ、地獄から響くような雄叫びを上げる。

 

「攻撃力……3500!?」

 

 その値は遊戯王における通常召喚可能モンスターのラインである3000のモンスターを容易に殴り倒せる火力。召喚方法もちょいと工夫すれば容易にクリア出来、更に全体攻撃効果まであるのだ。勿論弱点として、毎ターン自らの身体は徐々に朽ちていき、攻撃力がダウンしてしまう。

 とはいえそれらは些細な事。使えなくなれば、生け贄にするなり何なりすればいいだけの話。

 

「バトル! バーサーク・デッド・ドラゴンでテンペスターを攻撃!」

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンは口を大きく開ける。ぴしぴしと、乾いた口端がひび割れ、カスが床に落ちる。その口の中から、スイカほどの大きさはあろう火炎弾が発射される。テンペスターはそれを水の銃で消そうとするが、当然蒸発。炎に包まれて死んだ。

 

「補給部隊の効果で、一枚ドロー!」

 

「更にジェノサイドキングデーモン! 五臓六腑を爆裂させろ!」

 

 ジェノサイドキングデーモンは自らの身体に剣を入れ、五臓六腑をまるでグレネードのように爆発させる。十代は思わず口を覆った。グロいのにはあまり慣れていないのだ。

 この攻撃によって、十代のライフは850。デッドラインに突入してしまった。

 

「私はこれで、ターンエンド。エンドフェイズ、バーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力は500下がる」

 

「俺のターン、ドロー!

 ……サイバー・ヴァリーを召喚! カードをセットし、ターンエンド!」

 

 十代の場に、眼の無い機械の竜の幼生が現れる。一先ず安全牌を打った。ヴァリーで戦闘を強制終了させ、たとえヴァリーが破壊されてもカードは確実に一枚ドロー出来る。罠で攻撃は防げる。手札の重要性を、十代は知っている。だが、そうは上手く行かない。

 

「貴様のエンドフェイズに、罠カードを発動させてもらう! ナイトメア・デーモンズ!

 自分場のモンスター一体を生け贄に、発動! 相手場にナイトメア・デーモンズ・トークン三体を特殊召喚!」

 

 ジェノサイドキングデーモンの腹が裂け、そこから三体の小さな悪魔が現れる。全身真っ黒で、赤い眼と赤い口で十代に笑いかける。髪は緑色だ。

 攻撃力2000、その高い攻撃力のトークンを相手場に特殊召喚するという、一見デメリットしかないカードに見える。だがトークンが破壊されたら、800のダメージを受けてしまう。そしてバーサーク・デッド・ドラゴンは相手場のモンスター全てに攻撃出来る効果。厄介としか言いようがない。

 十代の背中を嫌な汗が流れる。十代の傍らでハネクリボーが心配そうな声を上げる。

 

「バトル! バーサーク・デッド・ドラゴンでナイトメア・デーモンズ・トークンを攻撃!」

 

「罠カード、和睦の使者を発動! このターン俺の場のモンスターは破壊されず、戦闘ダメージも受けない!」

 

 バーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃は、見えない何かによって弾かれた。バーサーク・デッド・ドラゴンが悔しそうに唸り声を上げる。

 

「カードをセットし、ターンエンド。エンドフェイズにバーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力は500ダウンする」

 

 これでバーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力は2500、上級モンスターの打点となった。

 しかし、だからといって安心は出来ない。少なくとも後二ターン粘らねばならないからだ。

 更にレベルは6、シンクロ召喚に使うには高すぎるレベル。生け贄召喚出来るモンスターは、十代のデッキには二体しか存在していないし、それらがあったとしても確実に一体は残ってしまう。

 

「……俺のターン、ドロー!

 魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のカードガンナー二体と、テンペスター、サンダー・ジャイアント、そしてグングニールをデッキに戻し、カードを二枚ドローする!」

 

 実質二枚デッキが増えただけで、手札が二枚に増量したようなもの。融合シンクロ軸のデッキであれば、貪欲な壺で戻すカードが全てエクストラデッキに戻るだけというのも珍しくは無い。

 カードを引き、十代は笑みを浮かべる。

 

「手札から速攻魔法、クリボーを呼ぶ笛を発動! デッキからハネクリボーを特殊召喚!」

 

 十代の場に、羽を生やしたくりくりっとした、茶色い丸いモンスターが現れる。女子に人気なカードで、武藤遊戯の影響によって大量に印刷されたクリボーシリーズの一枚だ。サポートカードにも恵まれているが、専らクリボーを呼ぶ笛の効果で特殊召喚され、生け贄になっている気がするのは恐らく気のせいである。

 

「サイバー・ヴァリーとナイトメア・デーモンズ・トークン一体を除外し、カードを二枚ドロー!」

 

 サイバー・ヴァリーがナイトメア・デーモンズ・トークンの身体に巻き付き、光に消える。

 あと二体、一体でもナイトメア・デーモンズ・トークンを破壊出来れば、何とか首の皮一枚は繋がるだろう。しかし今、十代の手札にはそういったカードが存在しない。否、存在する事にはするのだが、既に召喚権を消費してしまっている。二重召喚もデッキに入れてない。

 とはいえ、十代の口には勝利を確信した笑みが。来てほしいカードが来たのだ。

 

「手札から速攻魔法、サイクロンを発動! 魔法・罠カードを破壊する!」

 

 十代の足元から現れた竜巻が、タイタンの伏せカードを破壊する。タイタンの伏せていたカードは次元幽閉、危なかったと額に付いた大粒の汗をぬぐう。

 

「ああ、女性カード持ってくるの忘れた! インセクト女王しかない! ファッキンブッダ!」

 

「永理ちょっと黙ってろ! 魔法カード、ミラクルフュージョンを発動! 墓地の沼地の魔神王とスパークマンを除外し、E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマンを融合召喚!」

 

 永理の茶々を黙らせ十代が召喚したのは、十代が最も信頼するカード。フェバリットカードはフレイム・ウィングマンだが、このデッキのエースは間違いなくシャイニング・フレア・ウィングマンだ。

 白いメタリックな羽を広げ、暗闇を照らすように白く発光する。白き鎧を身にまとい、右手に付けているのは発火装置。十代の墓地に存在するE・HEROと名の付くモンスターは十一体、攻撃力は3300アップし5800。D・G・Dを優に超える攻撃力だ。

 

「バトル! シャイニング・フレア・ウィングマンでバーサーク・デッド・ドラゴンを攻撃! シャイニング・シュート!」

 

「なっ、ばっ、馬鹿な……馬鹿な!?」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンは強く地を蹴り、上空高くまで飛びあがる。そして空中で180°回転し、バーサーク・デッド・ドラゴンに右手を突き出し勢いよく突撃。右手に付けている発火装置から白い炎が、まるで羽のように溢れ出、バーサーク・デッド・ドラゴンの身体を貫く。

 バーサーク・デッド・ドラゴンは紫色の血を口と貫かれた箇所から吹き出し、雄叫びを上げ、まるで乾いた粘土のように身体が崩れていく。タイタンの前に、足を踏み込んで着地すると、シャイニング・フレア・ウィングマンはそのまま、未だくすぶっている白い炎を纏った右手でタイタンを思い切り殴った。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンは戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、相手ライフにそのモンスターの攻撃力分ダメージを与える!」

 

 デュエルが終了し、十代とタイタンのソリットビジョンが消える。タイタンの近くで永理が女性型モンスターをインセクト女王しか持ってこなかった事を嘆いているので、どうも緊張感が薄れてしまうのが否めない。

 

「あっ、終わった? タイタンか十代、どっちか女性型モンスター持って無い?」

 

「……お前の為に必死になった俺は何なんだよ」

 

 いつの間にか手の拘束を解いた永理が十代の側まで寄って来て、尋ねる。十代はそれに対し溜息で答えた。命懸けのデュエルだったというのに、緊張感がまるでないのだ。十代の側でハネクリボーも、苦笑いしている。

 しばしの日常的雑談タイム。しかしそれも、すぐに過ぎ去る事となった。

 暗闇の空間が震え出し、崩れていく。十代の背中から外の光が漏れた。

 

「なっ、やめっやめろ! 来るなァ!」

 

 タイタンの足元が緩み、まるで底なし沼のように身体が飲み込まれていく。抵抗虚しく、ゆっくり、徐々に。まるで恐怖感を与えているかのように。

 十代は永理の手を引っ張り、その光へと向かおうとする。だが永理は究極完全態・グレート・モスに命じ、タイタンの身体と永理の右腕に糸を巻きつかせ、それを手繰り寄せようとする。

 しかし、永理の力は平均的な女子小学四年生よりちょっと強い程度。その程度の力では到底一人の大人を引っ張り上げることなど不可能。しかし、足と手に力を入れ、タイタンが闇に飲み込まれるのを少しでも遅らせようとする。永理の手に糸が喰いこみ、血が垂れる。

 

「十代、先に行ってろ! こいつは俺が何とかする!」

 

「何言ってんだ! お前大人どころか翔にも力で負けるじゃないか!」

 

 十代も糸を掴み、タイタンを引っ張る。永理の手に糸が更に喰いこみ、肉が裂け、血が滴る。だが、十代が加わった事でタイタンの身体は、徐々にではあるが闇から引きずりあげられている。徐々に、ではあるが。

 

「もっ、もういい! 貴様らだけでも逃げろ!」

 

「……死ぬ恐怖はよく解っているんでな。それに俺は、見捨てられるほど落ちぶれてはいない!」

 

 更に永理は力を込める。歯を食いしばり、必死に痛みを耐える。死ぬ恐怖は永理がよく解っている。死んだ原因こそ馬鹿馬鹿しいものではあるが、だとしても一度感じたあの恐怖。まるで自分が自分じゃなくなるような、溶けていくような感覚。それと一緒に感じる、強烈な孤独感。それを今日知り合い、人質になったとはいえ友人となったタイタンに味あわせるなんて、とてもではないが出来ない。

 腕の感覚が無くなって来た。十代も力を入れ糸を手繰り寄せるが、その手は切れ血が滲んでいる。タイタンの上半身が完全に出、両腕で自分の身体を引き上げる。

 足が完全に出た瞬間、十代の隣に居るハネクリボーが凄まじい光を発した。闇の空間が、まるで風化するかのように消えていく。すると姿を露わしたのは、元々居たロビーである。闇の世界へ連れ込まれる前と変わっているのは、永理と十代に精霊が見えるようになった事だ。究極完全態・グレート・モスは手乗りサイズとなって、永理の頭の上にしがみ付いている。

 永理達の後を追ってきたのだろう隼人と翔が、永理と十代が突然現れた事に対し驚き、そして無事に帰って来た事に対し安堵し、声をかける。

 

「あっ、アニキ! それと永理君も!」

 

「無事戻ってきたみたいなんだな……って、永理!? その腕どうしたんだな!?」

 

「ん? ああ、ちょいとな。ハンカチくれ」

 

 元のエントランス、月明かりが永理と十代、そしてタイタンを照らす。永理は元の世界に戻ってこれた事に対して安堵する。十代の隣でハネクリボーも嬉しそうに鳴いた。

 永理はハンカチを、ミミズのように切れた手に巻き付け止血する。

 タイタンはうぐう、と一つ呻いてから身体を起こす。それに対し翔と隼人が驚いたが、永理と十代はタイタンの肩を支える。

 

「すまない……貴様らをこんな目に合わせてしまって」

 

「気にすんな、仕事なんだろ? 悪いと思ってんなら、ガキの為にもカタギの仕事をしてくれりゃあいい。十代もそれでいいか?」

 

 究極完全態・グレート・モスの糸で切った手を振りながら、永理は十代に尋ねる。十代もそれに対し頷く。タイタンはもう一度、深く謝罪した。

 

「……なんか、初めて永理君がかっこよく見えたっす」

 

「同じく、なんだな」

 

「えっ、酷くない?」

 

 翔と隼人の茶々に永理は律儀に答える。確かに、お世辞にもかっこいいと言われるような事はしていないと自覚している。強いて言うなら究極完全態・グレート・モスを召喚した事ぐらいだろうか。

 とはいえ、一応生きてきた年月で言えばこの中で一番年上なのは永理なのだが、それを彼らが知る術は無い。

 

「……取りあえず、警備員が来る前に逃げろ。親父が前科者とか洒落にならないからな」

 

「ああ、そうさせてもらう……迷惑をかけた詫びだ、これを」

 

 そう言いタイタンは、十代と永理にカードパックを手渡し、マントを翻して廃寮を去って行った。

 最新の、デュエルアカデミアでのみ先行販売されているシンクロモンスターの入っているパック。何故タイタンがこれを持っているのか。裏で糸を引いているのは、学園に居る誰かのせいだという事か。

 とはいえ永理にとってはどうでもいい話だ。無傷ではないとはいえ結果的に全員助かり、ついでにカードパックもゲット出来た。これ以上の収穫は無い。

 

「……所で翔、隼人。明日香は?」

 

 十代が最もな疑問を口にする。すると翔と隼人は互いに顔を見合わせ、あっと声を上げた。永理と十代、そしてハネクリボーはそれに対し苦笑した。

 

 

 デュエルフィールド。タイタンと十代が最初に戦い、永理とタイタンが友人になった場所。少々黄ばみ埃っぽい床に、ヤニだらけの天井。蜘蛛の巣と苔がびっしりと張り巡らされ、まるで幽霊屋敷のような場所。そこに雰囲気的には釣り合っているが、新品故完全には釣り合っていない棺桶の中。明日香は目を覚ました。

 

「えっ……ここ、何処?」

 

 外から鶏の、朝を告げる鳴き声が聞こえてきた。




 一応、えーりん主人公だからね。たまにはかっこいい所をね。
 さて、これがきっかけで永理は精霊が見えるようになりました。まあなっただけです、相も変わらずヒロインなんていません。
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