相手の場にはゲート・ガーディアン二体に加え、二枚の伏せカード。それに対し翔の場には攻撃力0のドリルロイド。ボードアドバンテージもライフアドバンテージも圧倒的に不利、しかし翔の眼には何もない。勝つという確信めいた意思以外、何も。
「僕のターン……ドリルロイドを生け贄に捧げ、ユーフォロイドを召喚ッス」
マスコットチックな眼を付けた、半ばテンプレチックな丼状の銀色UFOが、頭に付けた赤いアンテナをぴょこんと揺らしながら現れた。
「強欲な壺を発動、カードを二枚ドローッス。カップ・オブ・エースを発動ッス。コイントスを行い、表なら僕が、裏なら相手がカードを二枚ドローするッス」
場の中心部分に、鍋の蓋ぐらいの大きさはあるだろう黄金色に輝くコインが現れる。表には青眼が、裏には真紅眼の模様が施されている。
コインが空中高く舞い、場に落ちる。結果は青眼、即ち表だ。
「カードを二枚ドロー……魔法カード、天使の施しを発動ッス。カードを三枚引き、二枚捨てるッス。魔法カード、貪欲な壺を発動ッス。墓地の機械竜パワーツール、ドリルロイド、ブラック・ボンバー、カイトロイド、サブマリンロイド、兄貴の墓地のグングニールをデッキに戻し、カードを二枚ドローッス。魔法カード、精神操作を発動ッス。ゲート・ガーディアンのコントロールを奪うッス。ただし、生け贄に使う事は不可能ッスけどね」
「しかし、ゲート・ガーディアンのレベルは11。そうそうシンクロ召喚に使う事は出来まい!」
シンクロ召喚は主に低レベルモンスター同士で行われる。稀にレベル7や8を使う時もあるが、だがレベル11。レベル10以上のシンクロモンスターは基本的に、素材は二体必要だったり特別なチューナーが必要だったりする。
「そうッスね、確かにそうッス。でも、これならどうッスかね? 魔法カード、パワー・ボンドを発動! パワー・ボンドは、機械族専用の融合カード。場のユーフォロイドと、戦士族モンスター……ゲート・ガーディアンを融合!」
融合召喚は生け贄ではなく、融合素材としての墓地へ送る効果。故に融合にも対応している。そしてゲート・ガーディアンはどういう訳か戦士族、墓地よりの回収等が容易な種族ではあるが、この時ばかりはそれが裏目に出てしまった。
マスコットチックな眼を付けた、半ばテンプレチックな丼状の銀色UFOが一回転し、底面が勾玉上に開く。すると様々な色の触手染みた機械のワイヤーがゲート・ガーディアンの身体を半ば強制的に飲み込む。ゲート・ガーディアンは抵抗もせず、そのまま下半身を飲み込まれた。そして頭に鋭い針が突き刺さる。そこから何かの物体を埋め込まれる。すると自らの拳をぶつけあい、ゲート・ガーディアンは完全にユーフォロイドに洗脳されてしまった。
パワー・ボンド。実の兄である丸藤亮から、使用を制限されていた究極の融合カード。相手の立場となり、完全に安全を確保するまでは使うな、そう昔言われていた。それがあの時、一昨日から始まったナニカによって、相手の持っている一番怖いものが解るようになった。翔は元々、その素質を持っていたのだ。それが亮と永理によるナニカによって、引き出された。引き出されてしまったのだ。
「ユーフォロイド・ファイアー! このカードの攻撃力は、融合素材にしたモンスターの合計分となる。更にパワー・ボンドの効果で融合召喚した際に攻撃力は二倍!」
攻撃力1200のユーフォロイドはほぼ添え物のようなもの、メインは攻撃力3750のゲート・ガーディアン。系4950。更にパワー・ボンドの相乗効果によって、攻撃力は二倍……即ち、9900。無傷である8000ライフを容易に削り取れる馬火力となった。
それには流石に会場もどよめき、そして湧く。凄まじい攻撃力、これはどの男にも共通するロマンである。ロマンで言えば永理も負けてはいないが、あれはまた別のベクトルだ。
「更に速攻魔法、サイクロンを発動! 右のカードを破壊!」
翔の足元より現れたサイクロンが、迷宮兄弟の場に伏せているカードを粉砕する。迷いなき選択、そして破壊したカードは、まるで狙ったかのように聖バリだった。
「怖くなるんですぐに解る、どれがブラフでどれが本命かね……もう一つの伏せカードは恐らく攻撃反応型ではない、怖さを感じないからね。まだ隠し玉を持っている事も、僕にはお見通しッスよ。でもその恐怖は手札からは感じない……恐らく、まだデッキに眠っている。違うッスか?」
ニタリと、確信めいた笑みを浮かべる。翔の勝ち誇った顔。前の翔ではない、十代は直観的に、本能的にそう感じる。
男子三日会わざれば刮目して見よという言葉がある。男子は三日会わないでいると、驚くほど成長するという意味だ。しかし翔のそれは、その度を超えていた。まるで何かに憑りつかれたように、勝利に執着心を持っている。
「……答えるつもりはない」
翔の問いに迷宮兄弟兄が代表し答える。平然としている表情だが、内心では焦っていた。全て翔の言った通りだからだ。伏せているカードはリビングデッドの呼び声、攻撃反応型でもモンスターを守るカードでもない。迷宮兄弟、伝説のデュエリスト武藤遊戯と城之内克也を苦しめたデュエリストとして有名となっている。だがその切り札が広く知られているのは、ゲート・ガーディアンだけ。つい最近手に入れたカードの事なぞ、知る由も無い筈だ。まだ世間にも好評していないカードなのだから。
だというのに翔は、まるで狙ったかのように言い当てた。それがデッキに眠っている事を。そして狙ったかのように、迷いなく聖バリを破壊。不正を行っているようには見えないし、そもそも翔がこの場に現れたのはデュエル開始前。それまでは誰もが翔を目撃していない。一昨日からだ。故に不正はあり得ない。では何故?
しかし、そんな疑惑も、攻撃を待ってくれる訳ではない。
「バトル! ユーフォロイド・ファイターでゲート・ガーディアンを攻撃! フォーチュン・ディストラクション!」
UFO部分に電撃が入ると、それに反応するようにゲート・ガーディアンの太鼓と風が別のゲート・ガーディアンにぶち当たる。そこらじゅうに漏電し、被電し、地面や天井で何度も弾ける。抵抗する間もなくゲート・ガーディアンの身体を紫色の雷が包み、刺す。腕を振り回し、足をじたばたさせ苦しむ。それが無駄な抵抗とも知らずに。
やがてその場で倒れ、痙攣を繰り返す。数十秒ほどでデュエルディスクのシステムが作動し、粉々となり砕け散った。
一気に6750もライフが削られ、残りは250。形勢逆転、ギゴバイトの攻撃力だけで死ぬレベルだ。
「更に魔法カード、一時休戦を発動。互いにカードを一枚ドローし、次の相手のエンドフェイズまでありとあらゆるダメージを受けない。ドリルロイドを守備表示に変更。これでターンエンドッス。本来ならパワー・ボンドの効果で、融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるッスけど、一時休戦のおかげでそれは無しッス」
ドリルロイドが自らのドリルを交差させ、防御姿勢を取る。
手札消費無しでパワー・ボンドのデメリットを帳消しにした。理想的なコンボだ。
まさかの手痛い仕返しに歯噛みしながら、デッキトップに指を置く。
「私のターン、ドロー!
……まさか切り札を、こんな形で出す事になるとはな」
「あ、兄者!? ここで出すつもりか!」
このままでは圧倒的に不利になってしまうが、切り札を出せば徐々に程度まで抑える事が出来る。しかし当然、デッキに攻撃力9900のモンスターは存在しない。魔法か罠、モンスター効果で破壊するしかない。それらを引き当てるまでに耐えうる壁を用意しなければならない。この際、プライドは抜きで動かなければ無様に負けてしまうのだ。
「墓地にゲート・ガーディアンが存在する時、ライフを払う事で魔法カード、ダーク・エレメントを発動! デッキより闇の守護神-ダーク・ガーディアンを特殊召喚する! 守備表示で特殊召喚!」
迷宮兄弟の場に現れるのは、おおよそゲート・ガーディアンとは思えないモンスターだ。
黒く尖った、カミキリムシの口を三つ程度重ねたような兜を被り、胸の真ん中部分に悪魔の顔の模様が付いたキンニクムキムキマチョマン。右手には大きく黒い斧を持っている。下半身部分はまるで神話に出てくるアラクネーのように、蜘蛛のような生物となっている。だが蜘蛛というよりはもっと別の、鎧の様な皮膚を持ち、つばのようになっている頭の下から覗く赤い眼。脚はまるで殺戮兵器のように尖っている。
しかしその脚も折りたたまれ、腕はクロスされており防御姿勢。守備表示で出されたからだ。本来であれば攻撃力3800という破格の攻撃力、圧倒的力で場を蹂躙出来る筈なのだ。
「このカードを発動したターン、召喚・特殊召喚する事が出来ない。カードを一枚伏せ、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!
凄いんだけど、攻撃力4000程度じゃもうなあ……魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地のハイパー・ライブラリアンを特殊召喚する! 更にジャンク・シンクロンを召喚! 召喚時墓地からレベル2以下のモンスター、ダークシー・レスキューを特殊召喚!」
白い服に身を包んだサイバー魔術師が現れ、その隣にオレンジ帽子を被ったどう見ても機械にしか見えない戦士族が現れる。更にその隣には、死体を乗せた救命ボートが。どう見ても機械族に見えないのはご愛嬌。
「レベル1ダークシー・レスキュー二体、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング! 未来の技術により生まれし人造人間よ、我が傷を癒し勝利を与えよ! シンクロ召喚! マジカル・アンドロイド! ダークシー・レスキューがシンクロ素材として使われた事により、カードを二枚ドロー! 更にハイパー・ライブラリアンの効果で一枚ドロー!」
光の柱を振り払い現れたのは、大きな真珠のような球体を付けた剣を逆手に持った、一人の女性だった。水色の幾何学的な、白と青と金のローブのような服。左手には盾のようにも、何か別の装置のようなものにも見えるよく解らないものを持っており、頭にはヘッドホンのような物体。そして赤茶色の長い髪の後ろにはこれまたよく解らない、さながらレースゲームの未来的コースの壁みたいなものが付いている。
胸は標準的だ。
とにかく十代は、一気に手札を三枚まで復活させた。もはやHERO要素が皆無なのは密に、密に。
「魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のダークシー・レスキュー三体とデブリ・ドラゴン、ジャンク・シンクロンをデッキに戻し、カードを二枚ドローする!
魔法カード、融合を発動! 手札のワイルドマンとネクロダークマンを融合し、E・HEROネクロイド・シャーマンを守備表示で融合召喚!」
十代の場に、まるで歌舞伎役者のような顔をし、腰にしめ縄をした上半身裸のHEROが、赤く長い髪を振り回し現れる。手にはじゃらじゃら鳴る金色の輪が大量につけられた杖が、横文字なのに日本文化が前面に出ているのはいかがなものか。
誰がどう見てもヒーローには見えないが、バッドマンもデッドプールもそんな感じなのでだいたい問題ないだろう。
「ネクロイド・シャーマンが特殊召喚に成功した時、相手場のモンスター一体を破壊し、相手の墓地モンスター一体を選び、特殊召喚する! 俺はの守護神-ダーク・ガーディアンを破壊し、墓地よりレベル・スティーラーを攻撃表示で特殊召喚!」
ネクロイド・シャーマンが杖をしゃんしゃん鳴らすと、ダーク・ガーディアンが苦しみだす。すると口の中から一匹のテントウムシを吐き出し、破壊された。どういう仕組みの攻撃かはわからないが、どう見ても呪術系の類いだ。ヒーローの攻撃ではない。いや、厳密にいえば効果破壊なのだが。
ともあれこれで場は整った。十代の手札は一枚のみとなったが、大方とてつもないドローソースなのだ、何も心配する必要は無い。
「バトルだ! マジカル・アンドロイドでレベル・スティーラーを攻撃!」
「罠カード、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」
マジカル・アンドロイドは剣の下部分から炎の塊を出す。するとレベル・スティーラーの身体は燃え上がり、焼殺された。翔の言葉通り、相手の場に攻撃反応型のカードは無いようだ。
翔のあの予想、まるですべてお見通しかの様な眼。流石の十代も、味方だというのに少しばかり怖い。が、それ以上に心強い。
「カードをセットし、エンドフェイズにマジカル・アンドロイドの効果発動! 場のサイキック族モンスター一体につき600ライフポイントを回復する! ターンエンド!」
マジカル・アンドロイドが逆手に持っている剣を掲げる。すると癒しの光が十代を包み込む。
これでライフは3700、この程度ではさして意味は無い。が、無いよりはマシなのだ。
「私のターン、ドロー!
魔法カード、強欲な壺を発動! カードを二枚ドローする! 混沌の黒魔術師を生け贄に……海竜-ダイダロスを召喚する!」
「そいつの召喚成功時、速攻魔法魔力の泉を発動ッス。相手場の表側表示で存在する魔法・罠カードの数だけカードをドローするッス。そして相手のエンドフェイズまで、相手の魔法・罠カードは破壊されないッス。僕はカードを三枚ドロー」
混沌の黒魔術師が渦潮の中に姿を消す。すると渦潮は天高く伸び、水の柱を立てる。その中から青く長い身体をくねらせ、神話に出てくる竜のような姿をした、海竜が現れる。
青い肌は水の中から差し込む光の乱反射によって眩しく輝き、竜のように狂暴な顔に埋め込まれた眼に黒目は無い。人間でいえばデコ部分だろうか、丁度眼の真上にはエメラルド色に輝く宝石が埋め込まれている。更にその後ろの鱗にはブラックパールのようなものが三つ。しかし人で言えば背中に当たる部分には棘が大量に付いており、更にその腕もかなりの凶悪性を秘めている。だが竜頭蛇尾という諺通り、やはり尻尾部分はとても貧相だ。
「海竜-ダイダロスの効果発動! 場の海を墓地へ送る事で、このカード以外のカード全てを破壊する! ディストラクション・シーベリアル!」
ダイダロスが大きな雄叫びを上げると、途端に海の中が、アトランティスの中が荒れ狂う。激しくなった水の動きによって塔は崩れ落ち、階段もかつて人が住んでいたであろう、商売していたであろう煉瓦造りの建物も、崩れ、決闘場のように大きな広場の床が剥がれる。海中に混ざっていた酸素が泡となり、視界を遮る。
泡のカーテンが晴れ、残っていたのはダイダロス一体だけ。あの綺麗な景色も、何もかもが無くなっていた。
もはや弟のデッキはゲート・ガーディアンデッキではない。ただのアトランティスデッキだ。だが実際に強い、事実今苦しめられている。ライフアドバンテージこそ十代達の方が上なものの、ボードアドバンテージに関しては、不利な状況を一気にひっくり返された。
「ダイダロスで直接攻撃! リヴァイア・ストリーム!」
ダイダロスの口から吐き出された、圧縮された水。その勢いはさながら何もかもを貫く一本の槍。それが十代の胸を打ち抜き、心臓を射止める。勿論ソリットビジョンなので人体に影響は無い。
「私はこれで、ターンエンドだ!」
しかしここで、迷宮兄弟弟は愚策を犯してしまう。このターンに仕留めきれず、翔にターンを回してしまったという愚策を。カードを伏せなかったという、伏せられるカードを引き当てられなかったと言う愚策を。
「僕のターン、ドロー!
……確かに、凄いッス。流石は伝説のデュエリストと戦っただけの事はあるッスね。でもこの勝負、僕の勝ちッス」
相手の場には罠カード、しかしそれから翔は恐怖を、怖さを感じない。手札は五枚、墓地は肥えていない。が、手札は十分にある。
攻撃するチャンスはここしかない。相手に攻撃反応型の罠も、フリーチェーンの罠もないここしか。で、あれば何を迷う必要があろうか。一撃必殺、クリボーを相手が持っているとは到底思えない。
「逆転したと思ったらされていた、デュエルモンスターズあるあるッスよね? 魔法カード、手札抹殺を発動!
互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする! 僕の手札は四枚、よって四枚を捨て新たに四枚のカードを手札に加える! 更に、魔法カードおろかな埋葬を発動! デッキからカイトロイドを墓地へ送る!」
一気に五枚もの墓地肥し。墓地が肥えていないのであれば、肥やせばいいだけの話だ。実に簡単で単純明快な話。
そしてキーカードも上手く手札に呼び込む事が出来た。永理と実の兄である亮から受けたナニカ、それによって不思議なぐらい運が良くなっている。口元に邪悪な笑みが浮かび上がる。既に勝利への愉悦に浸っているのだ。しかし油断はしない。確実に、絶対に、一撃で相手を倒す。
翔は眼を紅く輝かせ、カードを発動する。
「速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動! ライフポイントを半分払い、このターン、自分が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に1度だけ融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを自分の手札・フィールド上・墓地から選んでゲームから除外し、素材にする事が出来る!
そして魔法カード、融合を発動! 更にサイバネティック・フュージョン・サポートの効果によって、墓地のモンスターを融合素材とする事が出来る!
墓地のレスキュー・ロイド、ステルスロイド、ユーフォロイド、ユーフォロイド・ファイター、カイトロイドの五体を除外し、極戦機王ヴァルバロイドを融合召喚!」
全身真っ赤な、二つのシェイカーのような足でしっかりと立つ翔の切り札。尻には自らの身体と攻撃の衝撃を支える棒が三つ付いており、人間でいえば腕に当たる部分は巨大な砲身が付いている。眼は一つだけでセンサー式、頭部にある三つのアンテナが敵を察知するのだ。肩は円盤状のジェネレーターが二つ。攻撃力4000、削りきる事は不可能ではあるが、ゲート・ガーディアンよりも、ダーク・ガーディアンよりも高い攻撃力はやはり脅威だ。
「この学園で攻撃力3000程度は、安全な壁ラインにはならないッスよ。バトル! ヴァルバロイドでダイダロスを攻撃!」
ヴァルバロイドは肩のジェネレーターを回し、腰を落とす。衝撃を逃す為、そして耐える為床に尻の棒を突き刺す。ジェネレーターが陽炎を超え炎が吹き出し、両腕の砲身に蒼いエネルギーの塊が灯る。
数秒ほどの溜め、それが解放され砲身から蒼いエネルギーに包まれた物体が、ダイダロスの身体を貫く。さながら串で突き刺したような傷を覆い、それらが少し遅れてから弾け、血肉をまき散らす。骨に沿っていた肉が飛び散り、中から折れた骨がばらばらと床に落ちていく。口から血を吐き、鼻血が口を更に濡らす。苦し気に、血と血泡交じりを口から吐き出しながら、声を上げる。それは悲しみの咆哮だった。それは痛みの、断末魔の咆哮だった。そしてこと切れたように、どさりと場に、デュエルフィールドに身体を落とす。
迷宮兄弟のライフは尽き、デュエル終了のブザーが鳴り、ソリットビジョンが消え去る。どさり、と迷宮兄弟が膝をつく。同時に付く当たり、流石は双子といった所か。
結果は十代と翔の勝利。だというのに会場から、誰もが声を失う。ドロップアウトの、丸藤翔のあまりの変わりように。
それ打ち消すかのように、永理が指をパチンと鳴らした。
「あっ、あれっ。アニキ、制裁デュエルはどうなったんすかっ?」
すると翔の眼が元に戻り、あの独特な気配が消え去る。翔はキョロキョロと辺りを、状況がよく解っていないように首を動かす。
すると途端に、会場が湧いた。誰もが、ブルー生徒を除く誰もが翔と十代に言葉をかける。特に翔への言葉が多い。
「……なあ永理、翔に何をしたんだ?」
その歓声に包まれながら、十代は永理に尋ねる。すると永理はニヤリと笑い、心底楽しそうに説明した。
「不安を取り除き、自分の奥底に眠る才能を一時的に引きずり出しただけだ。才能の前借りをさせただけさ」
「才能の前借り?」
十代が首をひねる。そのような事が出来るのか、そしてあの──あの不気味な、まるで死線を潜り抜けた強者が持つ特有の雰囲気が、翔の持つ才能なのか。
最初は戸惑っていたものの、調子に乗りVサインを観客に向ける翔を見て、十代は思う。既に迷宮兄弟はデュエルフィールドを下りてしまったらしく、姿が見えない。
「元々サイバー流は相手の立場になって物事を考える流派。サイバー流後継者であり翔の兄である亮は、天性のドロー運とデュエルタクティクス、そして安定に勝つデッキ構築技術を持っている。では翔は? 本当に何も持っていないのか?」
亮と一度戦った永理には解る。亮は狙ったカードを破壊する能力を持ち合わせていない。相手の立場になって考え、相手ならどう対処するか。それらの技術を人工的に手にしてはいるが、どこにどのカードが伏せてあるかまでは、流石に解らない。翔はおぼろげながらもそれが解ったのだ。恐怖という、本来であればマイナスの感情で。
臆病とは時にプラスとなるのだ。
永理は大きなあくびを洩らし、腕で涙を拭う。
「まっ、あくまで可能性の話だ。未来はデュエル以上に先が解らない……だからこそ面白い。十代、翔をああするかどうかは、お前次第だ。あいつは影響を受けやすいからな」
『ドロップアウトボーイズ! もうアナータ達の出番は終わりましターノ! とっととデュエルフィールドから出ていきなサーイ!!』
「ひぃっ!? ごっ、ごめんなさいっす!!」
慌ててデュエルフィールドを下りる翔に苦笑しながら、十代も歩いてデュエルフィールドを下りる。それと入れ替わるように永理がデュエルフィールドへと立つ。
「負けるなよ、永理」
「ハッ、誰に言ってんだ。こちとらサイバー流も倒したデュエリストだっつーの」
すれ違い様に言葉を交わし合う二人。そしてデュエルフィールドへ立ち、永理はデュエルディスクを起動させる。
さあ、どんな相手が来る? 大きく前を開いたオシリスレッドの制服を棚引かせながら、永理は口角を上げる。
『次のデュエルは三十分の休憩後、行うノーネ。もうお昼時間ですカーラ。なのでシニョール永理、ドヤ顔で決めている所悪いでスーガ、昼飯食べてきていいデスーノ』
「……なんで俺の扱いこんな悪いの?」
ぞろぞろと生徒が観客席から出ていく。昼食を取る為だ。永理はその場に立ち尽くしながら、後ろに立っている十代に問いかけた。十代は何も言わず苦笑で返した。
はい、という訳でやとっこさ二人のデュエルが終わりました。二日しか期間開いてないのね、おいたんびっくりしたよ。
さて、永理のお相手ですが……オリキャラではありませんよ。まあ、お楽しみに。