昼食タイムにハムとチーズを挟んだだけの簡易サンドイッチを食べ、腹がそこそこ膨れた永理はデュエルフィールドに立っていた。既に昼食の時間は終わり、続々と観客席に人が戻り始める。観客席の中には十代と翔の姿も見えた。
制裁デュエル、永理だけはどういう訳かシングルデュエルだ。理由は解らないが、ただ単に余ってしまっただけなのだろう。一緒に廃寮探索に行っていた亮をタッグにすると勝利は確実であり、制裁にはならない。で、あればシングルでやらせるしかない、と論理委員会が判断したのだ。
最もやる事は変わりない。いつも通り、やるだけやる。ただ今回はグレート・モスはお休みだ。頭の上に載っているグレート・モスが残念そうに羽をしょぼんと垂らしている。
「で、俺の相手はまだなのか?」
既に永理がこの場に戻ってきて十分程度経っている。十分というのは、ゲームをやるには短すぎる時間だが待つには少々長い時間に感じてしまう。これを総対象理論というらしい、アインシュタインが言ってた。
とにかく、それぐらい待っているのに相手は来ない。永理は早く自分の部屋に戻ってゲームをやりたいのだ。最近KONGHとジャック・Oという顔も名前も知らぬ仲間と傭兵をしているのだ。翔への軽い洗脳に時間をかけてしまい期間が開いた分、早く戻ってそれをカバーせねばならない。永理は学業や自らの将来より、今の趣味に時間を費やすタイプの人間だ。そのおかげで受験勉強も全くやらず一夜漬けで筆記試験に挑み、結果オシリスレッドになってしまったのだ。自業自得である。
「悪いな、待たせちまって。宿主が欲張るから……クソッ、体重が」
何やら愚痴を言いながら現れたのは、永理のよく知る人物だった。あまりの驚きに、クロノス教諭の解説も耳には届かない。
白く長い、癖の強いさながらハリネズミのような髪。悪そうな三角眼、整った顔。そして囚人の様な服の上から肩にかけている黒いコート。首に千年
そいつが現れた瞬間、黄色い歓声が巻き起こる。やはりイケメンがいいのか、女子共は。と永理は一人醜く嫉妬する。
「バクラが何故ここに」
永理は思わず、疑問の言葉を口にする。正しく表現するなら、何故獏良了ではなくバクラが、この世に居るのだ。という疑問だ。
獏良了。静かで細く、美形な青年。そして何処か可愛げがあり、かなりの人気を誇っていた。この世界では、今はプロデュエリストとして活躍している。最も専ら、オカルト番組に引っ張りだこではあるが。その腕は確からしい。永理も何度か掲示板やニュースで見たのを覚えている。しかしその時映っていたのはバクラではなく、獏良了。宿主の方だった。しかし今目の前に居るのは、あのバクラだ。かなり人気のあるキャラクターであり、出番の多い方だ。
しかしそんな意味を組めず、バクラは髪をかきながら、その質問の意味を考える。
「あーっと……お前とは会った事無い筈なんだが、俺様も有名になったって事か?」
獏良了。いや、バクラと言った方が正しいか。バクラは額に人差し指を当てながら何とか永理の顔を思い出そうとしたが、全く思い出せずにいた。最も今回、こうして会うのは初めてなのだからそれも仕方ないのかもしれない。
伝説のデュエリスト武藤遊戯の相棒が城之内克也、永遠のライバルが海馬瀬戸とするならば、バクラは倒すべき宿敵と言えるだろう。原作遊戯王における実質的ラスボス、そして女声優とは思えないほどのかっこよさ。ピクシブでの表裏のカップリング率の異常性等々……とにかく人気のあるキャラクターだ。永理も昔はそのかっこよさに憧れたものだ。
その人気の理由はひとえに、厨二的なかっこよさが挙げられるだろう。しかし永理は、目の前の人物にかっこよさを感じる事が出来ないでいた。
「普通の人間ではないようだが……なんだよ、何見てんだ。俺にそっちの趣味は無いぞ」
「いや、口にクリーム付いてるぞ」
バクラは顔を少し赤くさせてから、慌てて袖で口に付いた生クリームを拭う。
……なんだこれ、というのが永理の正直な感想だ。永理の知るバクラは大邪神ゾーク・ネクロファデスとかいう奴の魂の一部であり、盗賊王バクラの記憶を持ったカリスマ性バリバリの男だった筈だ。少なくとも口にクリームとか付けて出てきたりはしない。
「ぐっ……しっ、仕方ねーんだよ! 宿主が大食いで! しかも甘党で! 昼にファンから大量のシュークリーム渡されたらさ!!」
バクラはそう必死に弁解するが、ぶっちゃけそうだとしても既にカリスマなんて何処か遠くへと飛んで行っている。大方何処ぞのファンが何処かで獏良の好物がシュークリームと知り、それを大量に差し入れされたせいだろう。とはいえ真実がどうであれ、もうあのかっこよさを感じなくなっている。恋と同じように、カリスマも冷めるのは一瞬なのだ。
「チッ、お前のせいでペースが色々と狂っちまった……まあいい、お前を倒して汚名返上してやる!」
「汚名挽回にならないといいな」
バクラと永理は同時にデュエルディスクを起動させ、同時にカードを五枚引く。
というより、汚名返上する必要も無いと永理は思ったのだが、どうやらバクラの方はかっこよさを気にしているらしい。
「「デュエル!」」
バクラ、原作ではオカルトデッキを使っていた。永理も記憶がおぼろげではあるが、切り札は攻撃力2200のダーク・ネクロフィア。とはいえ戦術はビートダウンだけではなく、特殊勝利やデッキデス等実に多種多様だ。
永理もその厄介さは身に染みて解っている。だからこそ、なのだろうか。強者と解っているからこそ、心の底からワクワクが止まらない。脳内からアドレナリンが噴き出る。
「オレ様の先功、ドロー!
死霊騎士デスカリバー・ナイトを召喚!」
黒い馬に乗った黒き騎士が、ボロボロになった黒いマントを棚引かせながら現れる。右手には巨大な剣、左手には悪魔を催した模様が掘られてある死体のように青い盾。既に魂は朽ちているのだが、身体は死霊によって無理矢理生かされている。
「カードを二枚セットし、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!
手札抹殺を発動! 互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする! 俺は手札を五枚捨て、五枚カードをドロー!」
「オレ様の手札は三枚、よってカードを三枚ドローだ!」
一先ず墓地へ送っておきたいカードは墓地へと行った。ダーク・ネクロフィアも手札にあったのだが、現状では邪魔になるだけだ。
相手のデッキは墓地を増やす事で真価を発揮するデッキ。つまり手札抹殺は悪手だったりするのだが、そのコンセプトは永理も同じ。まずは墓地を肥やさねば、動く事が出来ない。永理は手札に来たモンスターを見て、にやりと笑う。
「タイタンのおかげで、色々と強化出来てていいな……相手場にモンスターが存在し、自分場にモンスターが存在しない場合、このカードは特殊召喚出来る!」
永理が手に取ったカードの説明を聞き、会場がどよめく。
誰もが知っている、デュエルアカデミアで一番強いデュエリスト。カイザー亮のエースモンスターの召喚条件だからだ。
「バイス・ドラゴン! ただし、この効果で特殊召喚した場合攻撃力は半分となるがね」
無駄に筋肉が引き締まった、全体的に細い紫色のドラゴンが現れる。顔と手、そして脚だけは普通の竜のように大きいのが非常にアンバランスだ。羽には濃い緑色が混ざっている。とはいえ効果によって攻撃力がダウンした為か、引き締まっていた筋肉に少し柔らかさが戻ったように見える。素人目から見ては何の変化も無いように見えるが、それでも攻撃力1000分の変化があったのだろう。
一見ではサイバー・ドラゴンの劣化カードのように見えるが、バイス・ドラゴンの属性は闇。永理のエースモンスターの強化に使うには十分だ。これで悪魔族ならいう事無いのだが、流石にそこまで求めるのは無い物ねだりというもの。ある程度の妥協は必要だ。
それでなくとも攻撃力ダウンというコストになってないコストで生贄として使う事が出来るのだから、とても重宝する。生け贄に攻撃力は不要なのだ。
「特殊召喚モンスター、死霊騎士の効果が動作しないところを見るに、チェーンブロックを作らない効果か。上級モンスター……態々攻撃力をダウンさせて出したという事は、さっきの奴らが使っていたシンクロとかいう奴か?」
「生憎だが俺は古くやらせてもらう。バイス・ドラゴンを生け贄に捧げ死霊伯爵を召喚!」
バイス・ドラゴンの少し細くなった筋肉を数多のブロック肉に変換させて現れたのは、赤い紳士服にを纏った顔色の悪い伯爵だ。毎回毎回生け贄を切り裂いて現れるのは何故なのだろうか。そして腰に手を当て、剣を相手に向ける無駄に決めたポーズを取るのも不思議だ。
『ふっふっふっ、決まりましたね』
そして永理が使っている除外軸悪魔族デッキの精霊は彼らしい。そろそろ普通の精霊が欲しいな、と永理は思わず嘆きたくなる。そもそもデュエルモンスターズの精霊という時点で何処かおかしなオカルト話なのだが。
「死霊伯爵……! 懐かしいカード使うじゃねーか」
バクラが心底嬉しそうに死霊伯爵を眺めながらそう言った。バクラも昔このカードを使っており、武藤遊戯にフィニッシャーに見せかけたり、ゴースト骨塚という翔と同じ声の奴に止めを刺したりしていたのだ。
「バトル! 死霊伯爵で死霊騎士デスカリバー・ナイトを攻撃! 怨念の剣-ナイト・レイド!」
死霊伯爵は三、四度ぐらい軽くその場で跳ねてから、一気にデスカリバー・ナイトとの距離を詰める。
デスカリバー・ナイトは即座に、手に持っていた剣で応戦するが、すらりすらりとまるで落ちる木の葉のようにその攻撃をかわし、手に持っているレイピアでまず馬の脚を切り裂く。
緑色の血を吹き出し、床に膝をつく形となる馬。その上で馬から降りるというタイムラグをどうしても生じさせてしまう。
死霊伯爵の渾身の突き。デスカリバー・ナイトは盾でそれを受け止めようとしたが、紙一重にかわされ鎧の隙間を縫うように首に深く突き刺さり、赤い血を吹き出す。
そしてそのまま横に一閃。首が宙を舞い、重力に従いごとりと落ちる。
『……またつまらぬものを斬ってしまいました』
レイピアに付いた血を振るい、床に飛ばしながら死霊伯爵はどこか満足げにそう言った。しかし頭はハゲである。
「カードを一枚セットし、ターンエンド!」
パチン、と軽い手取りでカードを伏せる。
バクラは思わず含み笑いしてしまう。このデュエルは今のデュエルではない。バトルシティを思い起こさせる、懐かしのデュエルだからだ。古く、何も考えず、好きなモンスターを生かす為にだけデッキを作った、あの懐かしの。それはバクラとて例外ではない。決して広くは無かったカードプールから好きなカードを、そしてコンボを組み込む。まだこれといったテーマカードも存在していない時代、それがデュエリストだった。
懐かしのデュエル、懐かしの興奮。それを今の、外より高速化の進んだデュエルアカデミアでそんなデッキを組む。バクラと同じ時代にデュエリストとなった者であれば、この興奮を分かち合える筈だ。
「オレ様のターン、ドローカード!
お前最高だぜ。まさか常に最先端を行くデュエルアカデミアで、昔のデュエルが出来るなんてなぁ……懐かしい、実に懐かしいぜ。儀式魔法、高等儀式術を発動! デッキから通常モンスターをレベル分送り、そのレベルと同じ数の儀式モンスターを特殊召喚する! 首なし騎士と絵画に潜む者を墓地へ送り、手札からレベル8、現れるがいい死の世界の支配者──闇の支配者-ゾーク!」
紅い羽のようなマントを翻し、見るも悍ましい顔と凄まじい筋肉の悪魔が現れる。左肩からまるで襷のように金色の胸当てがあり、腰の悪魔の顔を催したベルトと繋がっているように見える。ズボンは黒い。
ゾーク、原作遊戯王におけるTRPG編のラスボスがモデルとなっているモンスターにして、大邪神ゾーク・ネクロファデスの偶像品である。どうでもいいが獏良了が個人的に造ったものをどうしてカード化出来たのだろうか。
「闇の支配者-ゾークの効果は強力だが、ギャンブル性が高いのでな。保険を掛けさせてもらう! 永続罠、出たら目を発動! そして闇の支配者-ゾークの効果発動! サイコロを振るい、1・2の場合は相手モンスター全てを、3・4・5の場合は相手一体を、6は俺の場のモンスター全てを破壊する! 最も、出たら目の効果によって俺または貴様がサイコロを振った場合、その内1つの目を以下の目として適用出来る! 1・3・5が出た場合6として扱うか、2・4・6が出た場合1として扱う……そしてゾークは1が出た時自らの場を破壊する。つまりこれで、オレ様はゾークのデメリットを気にせずサイを振れるって訳よ。当然オレ様が選ぶのは、6として扱う効果! 舞え、洗脳ダイス!」
ゾークの効果は1が出てはいけない。1が出ては自壊してしまうからだ。それを回避する為の出たら目、出たら目の効果で1は6として扱われる。つまり自壊は絶対ありえない。中々に考えられている。
中央に、本来1,3,5のある場所には6の目が付いているサイコロが落ち、転がる。出た目は2、破壊出来るモンスターは一体だけだ。とはいえ永理の場にモンスターは一体のみなので、結果はあまり変わらなかったりする。
「死霊伯爵を破壊! ゾーク・カタストロフィー!」
ゾークの手から発射された紫色の光線が死霊伯爵の身体を包む。すると、まるで小麦粉人形のようにボロボロと身体が崩れていく。カツン、とレイピアが落ちる音がした。右半身は既に塵と化し、死霊伯爵の身体が崩れ落ちる。
相手に一矢報いようと、悪あがきのように左手をゾークに伸ばす。しかしその指も、手も崩れ落ちた。後に残ったのは、大量の塵だけ。それすらも風によって消え去ってしまう。
「バトルだ! 闇の支配者-ゾークで直接攻撃! ゾーク・インフェルノ!」
ゾークは右手に闇の炎を纏い、それをまるで羽虫を払うように放つ。薙ぎ払いの起動で撃ちだされた闇の炎が永理の目前まで迫るが、それは突然掻き消えてしまった。
「罠カード、和睦の使者。戦闘ダメージを0に」
「チッ、全体効果か……カードを一枚セットしターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
相手の場には攻撃力2700と、二枚の伏せカード。一枚は永理の予想だが、先ほどの言葉から察するに闇の幻影か。しかしもう一つのカードは不明。永理は洗脳状態の翔のように、危険を察知する能力なんぞ持ち合わせていないのだ。
そして今の手札は、ゾークを突破する事は出来ない。であれば、呼び込むまで。
「魔法カード、闇の誘惑を発動! カードを二枚ドローし、死霊伯爵を除外!」
まずは一枚目、永理のデッキは世にも珍しい墓地除外をフルに活用するデッキ。そしてこのドローで、キーカードとなりうるカードを引けた。
「魔法カード、終わりの始まりを発動!」
「終わりの始まりだと!? 墓地にそんな数のモンスターは──手札抹殺!」
「その通りだ! 墓地に闇属性モンスターが七体存在する時、発動出来る! 五体の闇属性モンスター……死霊伯爵、バイス・ドラゴン、終焉の精霊二体、ダーク・ネクロフィアを除外し、カードを三枚ドロー!」
手札抹殺によって効率よく墓地にモンスターが行き、運よくこのカードをドロー出来た。これで除外されたカードは全部で六枚。永理は手札を見やる。まだ足りない、なのでとっておきの駄目押しをする事にした。
「魔法カード、封印の黄金櫃を発動! デッキからネクロフェイスを除外し、二ターン後に手札に加える!」
「なっ、ネクロフェイスだと!?」
永理の目の前に、黄金色の櫃が現れ、その中にグロテスクなカードが収められる。どう見てもビックリ箱の類いだ。
バクラもネクロフェイスを使っていたのだ。当然、その効果の凶悪性は知っている。しかし用途が違う。バクラの場合の用途はデッキ破壊、対して永理のデッキはあくまでビートダウン。故にこのカードも、攻撃力強化のカードでしかない。
「ネクロフェイスは除外された時、互いにデッキからカードを五枚除外する!」
そして、終焉の精霊を召喚!」
永理の目の前の上から、ぽたんと墨汁をカラーボールに詰めたようなものが落ちて来て、床に広がる。床に広がった黒い液状のものは徐々に形作っていき、永理の影を飲み込むように、自らの身体を完全に画一させた。
クカカカと裂けたような口で笑みを浮かべ、緑色の瞳でゾークを睨み付ける。
「終焉の精霊は、除外されている闇属性モンスターの数×300ポイント攻撃を上げる……俺の除外されている闇属性モンスターは十三体」
「攻撃力……3300だと!?」
「いいや、相手の闇属性モンスターもカウントする。バクラ、お前の除外された闇属性モンスターは何体だ?」
「……三体だ」
バクラは絞り出すように答える。既に攻撃力はゾークを超えているが、更にその上にされたのだ。永理の顔に、勝利を確信した笑みが浮かび上がった。馬鹿のように高い攻撃力のモンスター一体なのでこの戦局を変えるようなカードを引かれては終わりだが、逆に言えばそれを引かせる前に相手を倒せばいいだけの話だ。
クカカカと、更に口を引き裂きながら終焉の精霊は笑う。既に二〇〇度ほどが引き裂かれたようになっており、ひいき目に見ても地上の生物とは思えない形となった。
「よって攻撃力は4800! バトル! 終焉の精霊でゾークを攻撃!」
会場が一気にどよめく中、終焉の精霊は口を引き裂いたように笑いながら、まるで尾を引くように永理の影からとび上がり、ゾークの目の前に迫る。それを撃墜しようと黒い光線を出すも、それを容易く避け、右手で首に手刀を突きこむ。
カハッとゾークが苦しそうに息と共に、黒い血を吹き出す。見ると終焉の精霊の左手がゾークの腹に突き刺さっていた。そのまま背骨を掴みとり、一気に引きずり出す。嫌な音が鳴り、それと共に終焉の精霊の手にはゾークのものらしき骨が、黒い血に塗れてあった。
首を突いた手刀を更に一気に押し込む。するとゾークは、まるで人形のように容易く落ちて行った。
「ふははは、カードを二枚伏せターンエンドだ!」
一気に相手のライフを、1900というラインまで持っていく事が出来た。対して永理のライフは未だ無傷の4000。戦局は上々、永理の方がボードアドバンテージもハンドアドバンテージも上だ。
「オレのターン、ドロー!
魔法カード、マジック・プランターを発動! 場の永続罠を墓地へ送る事で、カードを二枚ドロー! 更に罠カード、死なばもろとも!」
「なっ、このタイミングで死なばもろともだと!?」
「互いの手札が三枚以上の時に発動が可能、互いに手札を好きな順番でデッキの一番下に戻し、カードを五枚ドローする! そしてオレは戻したカードの枚数×300ポイントのライフを失う!
俺とお前の手札は三枚だが……こいつは発動時に三枚あればいいだけだ。オレ様の死なばもろともにチェーンし速攻魔法、手札断殺を発動! 互いに手札を二枚捨て、二枚ドローする!」
これでバクラの手札は二枚となった。つまり、300ポイントのライフの消費を抑えたのだ。いや、それだけではない、ついでに墓地も肥やされた。それは永理も同じなのだが、断殺で中々にいいカードが来ていたので少しばかり悔しい思いがある。
「そして俺は二枚、貴様は三枚のカードをデッキの一番下に戻す……そして五枚ドローし、オレのライフは1500失う」
残りライフはたったの900、しかし相手の手札は十分に潤った。それは永理も同じなのだが、元々永理の手札は三枚。二枚得したとしても、相手にそれ以上得をされては意味が無い。
「魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地の死霊騎士デスカリバー・ナイト、首なし騎士、闇の支配者-ゾーク、絵画に潜む者、ダーク・ネクロフィアをデッキに戻し、二枚カードをドローする! 更に至福の木の実を発動! 相手よりライフが低い場合、ライフを2000回復する!
更に儀式魔法、奈落との契約を発動! 手札の死霊騎士デスカリバー・ナイトとファントム・オブ・カオスを儀式の供物として捧げ、終焉の王デミスを儀式召喚!」
黒い鎧に身を包んだ巨人が、巨大な斧を手に持ってバクラの場に現れる。所々白い箇所があり、摩訶不思議な模様が鎧に記されている。顔は悪魔そのものではあるが、角は短い。手には巨大な斧。
デミスの召喚によって、会場が湧く。超強力なレアカード、中には「永理終わったな」「あいつのロマンは嫌いじゃなかったんだけどな」と永理に対して同情する声が。
終焉の王デミス。攻撃力こそ2400と少なく感じるが、たった1000のライフを払う事で場を一掃する事が出来る強力なカードだ。場をリセットしてから、適当なモンスターを召喚するだけで4000のライフなんてあっという間に消え去ってしまう。
そして永理の伏せているカードはフリーチェーンのカードではあるが、防御用のカードではない。
「オレ様はライフを2000払い、場のカード全てを破壊する! 終焉の嘆き!」
デミスは巨大な斧の底、大きな刃の付いていない部分を床に強く打ち付ける。するとそこから、さながらミルククラウンのように紫色の炎が広がり、場のカード全てを破壊し尽くす。
しかし、ただでは終わらないのが永理だ。デミス一体だけなら、何とか防ぐ手段はある。次のターンの為の布石を打っておく。
「それにチェーンし罠カード、闇のデッキ破壊ウイルスを発動! 場の攻撃力2500以上のモンスター一体を媒体とし、相手の場・手札の魔法か罠を破壊する! 俺は終焉の精霊を媒体として、罠カードを選択!」
全てを破壊し尽くす闇が終焉の精霊に当たる直前に弾け、中から黒いウイルスがバクラの場に感染し、破壊される。バクラの伏せていたカードは沈黙の邪悪霊。相手の場に二体以上モンスターが存在しなければいけないので使う機会の無かったカードだ。
手札にあった罠カードは一枚だけのようだ。
「残念だが、俺の手札に罠カードは無いぜ。墓地のデスカリバー・ナイト、ファントム・オブ・カオス、そして死霊騎士デスカリバー・ナイトを除外し、ダーク・ネクロフィアを特殊召喚!」
バクラの場に、まるで冥界にでもつながっているのではと思うくらい禍々しい渦が現れ、その中から青い肌の、髪の無い女性が、壊れた赤ちゃん人形をあやすように持ちながら現れる。首輪を付け、赤茶色い胸当て。そして左腕と両足には同じ色のプロテクター。永理の使う団地妻的な感じのダーク・ネクロフィアではない。完璧ホラー要素抜群のダーク・ネクロフィアだ。
もはや守るものは無い。これが全部通れば、永理のライフはまるで蝋燭の火を吹き消すように容易く尽きてしまうだろう。
「バトルだ! 終焉の王デミスで直接攻撃! 拒絶の大斧!」
デミスは巨大な斧を大きく振り上げ、そして振り下ろす。すると巨大な衝撃波が、まるで獲物を狙うサメのように永理に向かってくる。しかし永理の目の前でそれはかき消され、弾き飛ばされた。
「墓地のネクロ・ガードナーを除外し、攻撃を無効!」
「だがもう一体残ってるぜ! ダーク・ネクロフィアで直接攻撃! 念眼殺!」
ダーク・ネクロフィアは眼から黒い稲妻を出す。既に永理を守れるカードは墓地には無く、大人しくそれを受ける事にした。思わず顔を腕で防御してしまうが、そういった行動に関係なくライフは削られてしまう。
「俺はカードを一枚セットし、ターンエンドだ!」
相手に伏せカードは一枚、モンスターは二体。逆転する事は不可能ではない。だがそれも運任せ、今の手札では少々難しい。高攻撃力に出来るモンスターが居ないのだ。
まあ、まずはドローしてから考えるか。と永理は思考をいったん中断させ、カードに指を添える。
「俺のターン、ドロー!
死者蘇生を発動! 墓地のダブルコストンを蘇生!」
見たまんまお化けといった感じの二体の黒いモンスターが、永理の場でクルクルと回る。
ダブルコンストン、ダブルコストモンスターだ。闇属性に限るが、二体分の生贄として使う事が出来る。
「更に魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動! 場にデビルメタルトークンを特殊召喚!」
永理の場に、全身が水銀で出来たスライムが現れる。メタリックな金属色をし、うねうねと液体金属を変化させ形作ったのは、どういう訳かシュワルツェネッガー。ターミネーターのつもりなのだろうか。ダブルコストンはそれを見てニヤニヤと笑っている。
「更にカードを三枚セットし、ダブルコストンを生け贄に捧げ、破壊竜ガンドラを召喚! ダブルコストンは闇属性のモンスターを生け贄召喚する際、二体分の生贄として使う事が出来る!」
ダブルコストンが消え去るが、永理の場にモンスターは現れない。バクラが首を傾げ、永理はデュエルディスクをまるでブラウン管テレビを直すかのように叩く。会場もどよめく。何せあの、武藤遊戯の使っていたカード名を宣言したのに現れないからだ。
「……故障したか?」
「いいや、上だ! みんな上を見ろ!」
会場の中から誰かが上空を指差し、皆がそちらに注目する。永理とバクラもだ。
するとそこには、巨大な緑色の軍用機が炎に包まれながらこちらへと落ちて来ていた。思わずバクラは、永理も目が点となる。
『レッツパーリィィィィ!!』
軍用機が床に激突し、その上から一つの影が飛び出した。タイタンから貰ったパックで当てたカードではあるのだが、やはり普通ではなかったようだ。
永理の伏せている三枚のカードのうち二枚の上に、見事に着艦した。デミスもネクロフィアもぽかーんとしている。
顔は狂暴なドラゴンのような奴の筈が、一つ目モノアイの敵に現れそうな機械で、身体も丸っこく何処かミリタリー的な完全人型の機械。関節部分が太くなっているのは、装甲を破られて動かせなくさせない為か。そして尻尾は無く、背中には羽の代わりに赤い巨大なバックパックが二つ。右手には七つの銃口を持つガトリング、左手にはグレネードガン。
どう見てもドラゴンではない。いや、というかデュエルモンスターズのモンスターでもない。どう見てもあの会社のバ神ゲーの主人公だ。
「……それ、本当にガンドラか?」
「ガンドラです、多分。
まっ、まあいい。ライフを半分払い、場のカード全てを破壊し除外する!」
『熱々のローストチキンにしてやるよ!』
背中のバックパックを展開させると、明らかに物量的に入らない量の武器が入っている。スナイパー・ライフル、マシンガン、マルチミサイル、火炎放射器、サメの形をしたバズーカ砲。レールガン等々。
尻にあるブースターで大きく跳躍する。その時メタルウルフの隣にあった伏せカードが破壊された。インチキバックパックの中からマルチミサイルを持ち、空中でぶっ放す。ミサイルがさながら強く打ち付ける雨のようにデミスとダーク・ネクロフィアを破壊。爆炎が全てを包み込む。デビルメタルトークンは熱によって蒸発してしまった。
ガコン、と思い音を立てて大統領は着地する。
「そして、破壊したカードの枚数×300ポイント攻撃力アップ! 破壊したカードは七枚、よって攻撃力は2100となる!
トドメだ! 破壊竜ガンドラで直接攻撃!」
『
大統領の言葉と共に会場の一部の人間が一緒になって叫ぶ。
大統領はシャウトと共にインチキバックパックを展開し、その余りある暴力をバクラに叩き込む。雨の様なミサイル、正確に狙ってくるスナイパーライフル、足元を狙うマシンガン、肌を燃やす火炎放射、水のような弾道を残し突っ込んでいくサメ型バズーカ、稲妻が駆け巡るレールガン。そしてそれらを覆い隠すように大きな爆発を巻き起こすマルチミサイル。
あまりにも色々とツッコミ処はあるが、とにかくデュエルは無事勝てた。終了のブザーが鳴り、ソリットビジョンが消える。
『しょ、勝者月影永理なノーネ……あれ、どう見てもドラゴンじゃなくて機械なノーネ』
「……ハッ、またこいつにやられるとはな。いや見た目全然違うけど」
バクラは悔しそうに、しかし何処か満足そうに頭をかきながら、永理を指差す。
「次は俺が勝つ、それまで負けるなよ」
「……次も勝つさ、俺がね」
言ってろ、とバクラは返し、デュエル場を後にした。結局永理の疑問。何故バクラが現世に蘇ったのか、そして何故悪事を働かないのか。それらの疑問は全部、破壊竜ガンドラの大統領化によるインパクトによってかき消されていた。
「やったな永理! 俺達退学にならずに済んで!」
『……あー、十代君、翔君、そして永理君。制裁デュエル、素晴らしいデュエルでした』
十代が永理の肩を叩いていると、スピーカーから校長の声。
お褒めの言葉をかけられている。それに対し十代は照れ臭そうに笑うが、翔は何処か他人事だ。実感が無いのだろう。何せ翔には、あの時の記憶が無いのだから。
『しかし、校則を破ったのには変わりありません。よって今回のデュエルに関してのレポート三十枚の提出を命じます』
校長の言葉を聞き、げんなりとする三人。三人とも別に勉強が好きという訳ではないのだ。永理は普段真面目にやってるように見えるが、そう見えるようにしているだけ。十代は言わずもがなサボりまくり寝まくりである。翔もやはり、年相応に勉強なんて嫌いなのだ。
「……仕方ない、とっとと終わらすか。感情とかそういうのぶち込みまくって水増しさせまくりゃ何とかなるだろ」
「そうだな……畜生、制裁デュエル勝ったら無罪放免って言ったのに」
永理は諦めたようにそう言う。十代はまだ愚痴っていたが、もう諦めた様子だ。
せっかくデュエルに勝ったと言うのに、何故か試合に勝って勝負に負けた気分になってしまった。十代の横でハネクリボーが三人に同情するように鳴き、永理の頭の上でグレート・モスがぷひゅんと鳴いた。
ぶっちゃけこの作品を書き始めた当初の目的は、破壊竜ガンドラを出す事でした。仕方ないじゃない、思いついたんだから。仕方ないじゃない……。
何故バクラが現世に舞い戻ったかは、後々明らかになります。はい。