月影永理の暴走   作:黄衛門

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第17話 万丈目準の暴走(前編)

 体育の時間は、好き嫌いが激しく分かれる時間である。そして永理は、体育の時間がとても大嫌いだ。

 体育の時間、オシリスレッドとラーイエロー同士の野球対決。オベリスクブルーはクーラーの効いた部屋で自習している。

 甲子園球場染みた、無駄に大きな球場。バッターボックスに立ちながら永理は考える。白いユニフォームに身を包み、手には鉄製バットを極端に短く持っている。こうする事で力の無い永理でも打つ事が出来るのだ。バッター一番、ルールは適当にニュアンスとノリである。

 永理の得意球技はゲートボールだ。まだやった事こそ無いが、まず怪我はしないだろう。そしてピッチャーは神楽坂である。

 永理はバットを逆手に持って、相手に向ける。

 

「あれは……何だ!?」

 

「予告三振だ」

 

 永理は神楽坂からの謎の行動に対する疑問に対し、大して意味の無い答えを返す。

 公式野球でやれば退場ものであるが、これは所詮授業である。こういったおふざけをやっても、誰も咎めないのだ。強いて言うなら野球部程度だろうが、そもそも野球部も永理がバッターボックスに立つ=三振するという公式をコンマ四分の一秒で悟ったので何の問題も無い。

 永理としても相手と味方の考えは読めている。早めに永理を終わらせて、普通の野球をするつもりだ。勿論永理もそのつもりである。それでいいのか、と誰もが首を傾げるだろうが、これでいいのだ。

 

「ふん、とっとと終わらせて早く交代させてやる」

 

「勿論俺もそのつもりだ。……が、当てさせてもらうよ」

 

「打てると思うな小僧!」

 

 神楽坂は左脚を大きく上げ、振りかぶりストレートを投げた。早く、まるで槍のような球だ。キャッチャーのミットに収まってから永理はバットを振る。それと同時に審判から「ストライク!」の声。中々に鋭い球だ、プロでは流石に無理だろうが、アマチュアならそこそこ活躍しそうである。

 キャッチャーがボールを神楽坂に投げ渡し、それをいとも容易くキャッチする。永理はそれを見て「俺なら無理だな」と呟いた。

 が、打つのなら問題ない。永理は昔野球系ゲームをやり込んだ事がある。バントしていればホームラン打てるような選手が居るゲームだが。

 

「永理、怪我しないようにな」

 

「気を付けるんすよ~」

 

「おい、心配の仕方がどう聞いても子供のそれなんだが。少なくともお前らとは同年代だぞ俺! まだぴっちぴちの十六歳ぞ俺!」

 

 十代達からの応援にツッコみを入れる。本来永理はボケキャラなのだが、たまにツッコみが回ってくる事もあるのだ。最もそれも滅多に無いが。頻度で言えばきらめくパンジーさんと出会うレベルだろうか。

 

「次行くぞ永理、おりゃあ!」

 

「見えたッ! チェストー!!」

 

 レーザービーム染みたボールが一直線にミットへと収まろうとするが、永理のゲームで鍛えた動体視力によってそれは既にロックオンされ、一切の迷いも無くバットを振るった。

 カキン、と甲高い音を立て、永理の背後からぱすっ、と弱い音が鳴る。当たった、当たったのだ。しかし力及ばず、打ち返す事は出来なかった。

 永理は無駄にシャフ度を決め、何故か勝ち誇った笑みを浮かべる。それと同時に、審判が「ストライク、ツー!」と叫んだ。

 

 

 万丈目準は荒れていた。他の者の眼から見ればそう取られても仕方がないだろう。あれ以来──十代と全力を出し合い、負けて以来あの高揚感に囚われてしまった。あの時の駆け引き、全力と全力とのぶつかり合い。あの快感を味わう為、それだけの為に万丈目は、適当に眼についたオベリスクブルーの生徒に片っ端から挑んでいた。

 しかし誰も、万丈目を満足させるには不十分な相手だ。餓えている、乾いていると表現してもいいだろう。さながら砂漠に放り出されたように、駆け引きという魅惑の水に餓えている。

 シンクロ召喚もせずに、地獄将軍メフィストで適当に目についたオベリスクブルーの生徒を倒しながら、万丈目はそんな事を思っていた。

 メフィストの槍が相手の胸を貫く。その衝撃で相手は吹っ飛ばされ、大理石の床に背中から叩き付けられた。

 

「これで二七人目……チッ、弱い。弱すぎるぞ」

 

 授業も出ず、ただひたすらに戦い抜いたというのに、あの後に訪れた疲れというものを感じ取れない。全く持って物足りない。誰もがただ高攻撃力のモンスターにデーモンの斧を装備させただけで満足している。その程度のプレイングでは、万丈目は到底満たされる事は無かった。

 空腹が煩わしい。三大欲求を強引に封じ込め、万丈目は次の相手を探す。満たされない、決して。同じくらいの実力を持った生徒は誰も居なかった。だから十代という強敵と戦った時、初めて満足感を味わう事が出来た。ジュニア大会決勝戦の時の、あの感覚……十代とのデュエルは、それすらも超えていた。

 また味わいたい、一度甘美な禁じられし味を覚えたら、また求めずにはいられないのだ。それがたとえ、手が届かないくらい高いものだとしても。

 

「……っざけんなよ、万丈目。テメェよくも!」

 

「時間の無駄だった、貴様なんぞよりあいつの方がよっぽど強い」

 

 先ほど倒した相手が万丈目を睨み付けるが、それに殆ど意に介さず次の相手を探す。もはや殆どの同学年は倒し終えた。上級生、最上級生にも食手を伸ばしている。カイザー亮が一瞬思い浮かんだが、自分はまだそこまで到達出来てないと自覚している。

 

「オシリスレッドに負けたくせに! 俺を馬鹿にしやがって!」

 

「まだ生き残ってるデュエリストが何処に居るか……いや、いい。貴様に期待しても無駄だろうな」

 

 オベリスクブルーの青い制服を翻し、倒した相手には既に興味を無くしたかのように、その場から離れる。

 中等部からたまに突っかかってきていたが、やはり相手にはならなかった。シンクロ召喚を手に入れてから色々と調子に乗っていたのだが、通常召喚のみでシンクロを行うという愚策しか知らない愚者に負ける訳が無い。予想通りの弱さだ。

 廊下を出て、大きなロビーに出る。脇には二階と繋がっている螺旋階段はシックな色合い。床は大理石の上にモフモフな絨毯を敷いている。大きな窓から差し込んでくる光がまぶしい。生徒の数はまばらだ。しかしそれも、殆どが自習室で自習をしているから。今この場に居るのはただのサボりか、もしくは病欠したか。最も自習なので成績にそれほど影響は無いのだが。

 一先ず購買に行き、新たなパックを買うか。と思い付き、購買へ向かおうとするも、それを遮るように三人の生徒が立ちふさがる。

 

「万丈目……お前、最近オシリスレッドの奴に負けたそうじゃないか、ええ?」

 

「……の割には、随分と調子乗ってるようで」

 

「ここは一つ、懲らしめなきゃなあ」

 

 見るからにチンピラといった感じの、柄の悪い三人。服の前を開けガラの悪いチンピラと一目で解るようなTシャツをさらけ出している。万丈目と同じく中等部からの成り上がりではあるが、所詮裏口で入った雑魚共。万丈目に敵意ある眼を向けてきてはいたが、ここまで露骨に絡んでくるとは思っていなかった。数は三人、暴力での喧嘩でなら万丈目は分が悪い。が、ここはデュエルアカデミア。揉め事はデュエルで解決するものだ。

 

「……何の用だ、貴様」

 

「聞いていなかったのかなー万丈目ちゃんよぉ、調子に乗っちゃってるテメェをぶっ倒してあげるって言ってんだよ」

 

「中小企業の御曹司だったっけ? そんな奴が調子に乗ってたらさ~、俺達イライラするんだよね~。解るでしょ?」

 

「……っつー訳で俺達が、制裁を加える事にしたのでーす」

 

 数は三人、圧倒的に不利ではある。だが、これくらいの相手には丁度いいハンデだろうか。制裁、くだらない話ではあるが、別にかまわない。万丈目としては、少し暴れたりなかった所だ。

 

「いいだろう、相手になってやる。貴様ら纏めてかかってこい」

 

 万丈目がデュエルディスクを起動させ、煽る。男達はゲラゲラ下品に笑いながらデュエルディスクを起動させる。

 さっきの相手では改造の小手調べにもならなかった。少しは骨があるといいのだが、と万丈目は危惧する。

 

「ルールはバトルロイヤルルール。俺のライフ4000、貴様らも4000ずつ。ハンデとして先功は貰う。構わんな?」

 

 バトルロイヤルルールでは最初のターン、お互いに攻撃出来ない。故に先功有利ではある。しかし相手は実質的に、毎ターン三回ドロー出来て三回通常召喚が可能で、そして三回バトルフェイズに入る事が出来、更にライフは12000もあるといって過言ではない。

 だというのに、余裕の表情を一切崩していない辺り万丈目の自信が見て取れる。はたしてそれは傲慢か、それとも事実なのか。

 

「舐めやがってクソボンボンが! ぶっ倒してやる!」

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 先功は万丈目のターン、引いたカードを見てニヤリと笑う。新たなデッキ、ではなく改造したデッキ。良か悪かはまだ判断付いていないので、それを判断するのには丁度いい舞台だ。

 

「俺は手札を一枚捨て、THEトリッキーを特殊召喚! 更に夜薔薇の騎士を召喚!」

 

 万丈目の場に、?マークの黒子めいたマスクを付けた道化師と、黒い鎧に身を包み白いマントをはためかせる、銀色の髪の幼く見える剣士が現れる。

 

「更に夜薔薇の騎士の効果発動! このカードの召喚に成功した時、手札から植物族モンスター一体を特殊召喚する! 俺は手札から、イービル・ソーンを特殊召喚!」

 

 夜薔薇の騎士が剣を振り回し、空中に現れた円の中から薄桃色の若干元気の無さそうに見える花と、まるで手榴弾のように丸々とした大きな実が現れる。これで場は整った。十代のあのデュエルを見ていてよかったと、万丈目はニヤリと笑う。

 

「まずはこう行こう。イービル・ソーンの効果発動! このカードを生け贄に捧げる事で相手ライフに300ポイントダメージを与え、デッキからイービル・ソーンを最高二体まで特殊召喚する! ダメージは俺の次のターン動く貴様に、だ」

 

 実がひときわ大きくなったかと思うと、途端に弾け棘がオベリスクブルーの一人と、万丈目の足元に二つ飛ぶ。弾けたら痛そうと思えるが、所詮はソリットビジョン、本当にダメージを受けるという訳ではない。

 だが視覚的にはやはり怖いので、「ヒッ」と男らしくない情けない悲鳴を上げている。

 

「デッキから二体のイービル・ソーンを特殊召喚! この効果で特殊召喚した場合、効果は発動出来ない。レベル1のイービル・ソーン二体と、レベル3の夜薔薇の騎士をチューニング!

 禁断の書物に手を出しし知識の貪欲者よ、禁忌の知識を駆使し我に力を貸せ! シンクロ召喚!」

 

「一ターン目からシンクロだと!?」

 

 輪が縮まり、五つの光となる。そして光の柱となり、その中から若干黒いマントを翻し、全体的に灰色の色調な魔術師が現れる。十代と使っている奴とは色合い等が違うが性能は同じだ。

 

「TGハイパー・ライブラリアン! 更に死者蘇生を発動! 墓地の夜薔薇の騎士を蘇生!

 そしてレベル5THEトリッキーとレベル3夜薔薇の騎士をチューニング!」

 

「一ターンで二回もシンクロ召喚だと!?」

 

 シンクロ召喚はまだデュエルアカデミアに現れたばかり、故に安定してシンクロを行うパターンというものを誰もが見つけられずにいた。しかし万丈目は違う。デッキ単体でもビートが出来、シンクロ召喚による起爆剤によって馬鹿と思えるような爆発力を手に入れる。ただそれだけ、それだけの話だ。

 

「心地よき闇深まる時、血の地獄より現れ光と閉ざす! シンクロ召喚!」

 

 光をまるで羽虫のように蹴散らし、中から黒いシルクハットをかぶり、黒い貴族服に身を包んだ悪魔が現れる。外側が黒く、内側がまるで血のように赤い。手には人間の物と思わしき髑髏を先端に付けた杖を持っている。脚はまるで日本の幽霊のように無い。

 

「ブラッド・メフィスト! ハイパー・ライブラリアンの効果でカードを一枚ドロー! 手札のモンスターカード、ヘルウェイ・パトロールを捨て、魔法カードワン・フォー・ワンを発動! デッキ・手札からレベル1のモンスター一体を特殊召喚する! 俺はデッキからインフェルニティ・リベンジャーを特殊召喚!」

 

 黒いテンガロンハットを付けた二頭身の悪魔が現れる。白い髑髏のような顔、そして西部劇を思わせるようなマントに二丁の拳銃。二丁も拳銃を持っているのに攻撃力は0であるのは密に、密に。

 手札が0の時に特殊召喚出来る効果を持っているが、万丈目のデッキでは基本手札が0になる事は無い。

 

「墓地のレベル・スティーラーの効果発動! ブラッド・メフィストのレベルを一つ下げ、守備表示で特殊召喚! レベル1のレベル・スティーラーとレベル1インフェルニティ・リベンジャーをチューニング!

 溶鉄炉に住まいし小さな住人よ、家主を脅かす敵を排除せよ! シンクロ召喚! 焔紫竜ピュラリス! ハイパー・ライブラリアンの効果で、カードを一枚ドロー!」

 

 何層にも重なったような、鍾乳石のような色をした爬虫類。それはとても小さく、ぷるぷると震えている。竜と名こそ付いており、背中に小さな羽が生えているが、爬虫類族である。

 バトルロイヤルルールでは最初のターン、お互いに攻撃する事が出来ない。仮に展開したモンスターを破壊されたとしても、ドロー加速とダムドの召喚条件を満たすように調整させてしまうだけ。とはいえそのカードはまだ来ていないのだが、来るのも時間の問題だろう。

 

「カードをセットしターンエンドだ」

 

「お、俺のターン! 自分の場にモンスターが存在せず、相手場にモンスターが存在する場合、手札からフォトン・スラッシャーを特殊召喚する!

 更に、サイコ・コマンダーを召喚!」

 

 相手の場に全体的に青白く光る、一つ目の戦士が剣を逆手に持って現れ、その隣に浮かぶ簡易戦車らしきものに乗りナチ式敬礼をする、緑色の服に身を包んだ機械らしきものが現れる。サイキック族、もう少し登場が早ければサイコ・ショッカーもなっていたであろう種族である。特徴としては即効性のあるシンクロ召喚と、ライフコスト。そしてそれをカバーする為のライフ回復ギミックだろうか。

 

「レベル4のフォトン・スラッシャーにレベル3のサイコ・コマンダーをチューニング! シンクロ召喚! スクラップ・デス・デーモン!」

 

 全身継接ぎで出来たスクラップの悪魔、バネやらの内部構造が丸見えだ。レベル7で攻撃力2700の、効果を持たないシンクロモンスター。しかしその攻撃力は案外馬鹿には出来ない、が万丈目の場にはその攻撃力をたったではあるが100上回るモンスターが存在している。

 

「シンクロ召喚に成功した時、カードを一枚ドローする!」

 

「カードを一枚セットし、ターンエンド!」

 

「この瞬間、ブラッド・メフィストの効果発動! 相手がカードをセットした時、相手ライフに300ポイントダメージを与える!」

 

 ブラッド・メフィストが口から赤黒い液体を、圧縮させて噴き出す。見た感じ絶対に食らいたくない攻撃である。

 が、たったの300ダメージ。とはいえ泥沼化していくのはここからだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「相手のスタンバイフェイズ、相手の場に存在する魔法・罠カードの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。とはいえバトルロイヤルルールの場合、ダメージはそのカードのプレイヤーのものとなる。よって貴様の前のプレイヤーに、300ポイントダメージ」

 

 ブラッド・メフィストは杖を振るう。するとその軌道を沿うように黒い線が現れ、相手の腹を切り裂く。

 

「魔法カード、予想GUYを発動! 自分場にモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚する! ハウンド・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚! 更にチューン・ウォリアーを召喚!」

 

 下半身に羽が生えたタイプの珍しいドラゴン、顎がまるで某女性向け恋愛ゲームに出てくる奴らのように尖っている。色は全体的に黒いが、羽だけはオレンジの膜と白の骨組みだ。

 その隣に現れたのは、まるでアニメの世界で放送されている特撮もののような糞ダサい衣装を身にまとった戦士だ。全身真っ赤で何かを図るように所々羅針盤の様なものが取り付けられている。手にはイヤフォンを刺す所のように尖っている。両足には加速を高める為だろうか、ブースターのような物が取り付けられているが、それが更にダサさに拍車をかけている。

 

「レベル3のハウンド・ドラゴンにレベル3のチューン・ウォリアーをチューニング! レベル6、大地の騎士ガイアナイトをシンクロ召喚!」

 

 蒼い鎧に身を纏い青い、青い馬鎧を身にまとった馬の上でドヤ顔ダブルランスをしながら現れたのは、暗黒騎士ガイアのリメイクモンスター。槍や兜の尖っている部分が赤く塗られている。

 シンクロモンスターではあるが、スクラップ・デス・デーモンと同じ効果を持たないモンスター。そこそこ活躍はするのだが、やはりどうも感が否めないカードである。

 

「シンクロ召喚に成功したので、カードを一枚ドロー……貴様ら、ハイパー・ライブラリアンが居る事を忘れてないか?」

 

 万丈目が若干呆れ顔でそう言うものの、それは仕方のない事であった。彼ら三人のデッキは、形こそ違えどシンクロ召喚を主軸としたデッキ。デッキに投入されているモンスターの自力こそ高いものの、万丈目のような相手ではシンクロモンスターを並べなければ安心出来ないものがあるのだ。

 

「うっ、うるさい! カードを二枚セット!」

 

「ブラッド・メフィストの効果だ。二枚だから600ポイントのダメージ」

 

 今度はパターンを代え、水玉を二つ吐き出す。カードの枚数によって効果発動の仕方が違うようだ。しかし、これで万丈目の手札が一気に二枚も回復した。自分は何もやっていないのに、である。オベリスクブルーのくせして、手札の恐ろしさというのが解っていないのか、と万丈目はあまりの低レベルさにほとほとと呆れてしまう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、ブラッド・メフィストの効果。俺の次にプレイするプレイヤーに300、その次のプレイヤーに600ダメージだ」

 

 ブラッド・メフィストは先ほどとは違い気持ち大振りに薙ぎ払う。すると先ほどより大きな黒い線が現れる。二枚伏せている奴の腹には、二重に線が現れる。

 

「モンスターをセットし、カードを二枚セット! ターンエンド!」

 

「600ダメージだ」

 

 最後の一人は防御を固めてきた。シンクロ召喚もせずに、だ。少しは頭が回るようだが、他の二人がそれに関係なくバンバンとシンクロ召喚をし、万丈目の手札を補充してくれる。真に恐ろしいのは無能なる味方だ。

 

「俺のターン、ドロー!

 ……正直貴様らの実力、俺に自信満々で挑戦してくる辺り、そこそこあるのかと思っていたが、ただの自惚れだったか」

 

「なんだと!? 上等だ、やってみろよ!」

 

 万丈目の言葉にガイアナイトを召喚した男が反応する。とはいえそのような事、万丈目のあずかり知らぬ事。まずは相手を確実に仕留める。

 

「フィールド魔法、ダークゾーンを発動」

 

 天井に、まるで台風雲のような黒い雷雲が現れる。稲妻がそこら中に落ち、大気の成分と反応し闇属性モンスターの身体に作用し、力を上げる。

 

「ダークゾーンは闇属性モンスターの攻撃力を500ポイント上げるカードだ。ブラッド・メフィストのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを特殊召喚。レベル・スティーラーを生け贄に捧げ、地獄将軍・メフィストを召喚。更に魔法カード、終わりの始まりを発動。墓地に七体以上闇属性モンスターが存在する時、五体を除外してカードを三枚ドローする。イービル・ソーン三体と夜薔薇の騎士、そしてインフェルニティ・リベンジャーを除外し、カードを三枚ドロー。カードを二枚セット」

 

 黒き鎧をまとった黒い馬に乗り、黒い霧の中から全身真っ黒な悪魔の戦士が現れる。ハンデス効果と貫通効果を併せ持った、そこそこ強いカードだ。後は攻撃力を何とかすればいいのだが、万丈目はただ単にアタッカーとして運用している。重要視しているのは闇属性、という点だけだ。

 

「バトルフェイズ突入時、速攻魔法封魔の矢を発動」

 

 お互いの魔法・罠カードゾーンに矢が突き刺さる。オベリスクブルーのシンクロ召喚を行った二人はニヤニヤ笑っているが、唯一シンクロ召喚をしていない一人の顔は青ざめている。

 

「ブラッド・メフィストでスクラップ・デス・デーモンを攻撃!」

 

「ケッ、馬鹿め! 罠カード発動!」

 

 スクラップ・デス・デーモンのプレイヤーが罠カードを発動しようとするも、封魔の矢によって地面に縫い付けられており発動する事が出来ない。

 そのまま、さした抵抗も無くスクラップ・デス・デーモンは、ブラッド・メフィストが口から吐き出した酸性の赤い液体によってドロドロに溶かされてしまった。苦し気な雄たけびをあげる様を見て、ゲラゲラとブラッド・メフィストが笑う。

 スクラップ・デス・デーモンのプレイヤーは焦って罠を発動しようと何度も発動ボタンを押すも、全く発動する気配は無い。

 

「なっ、何でだ!? なんで俺の聖バリが」

 

「封魔の矢の効果だ。バトルフェイズ時にのみ発動が限られるが、その代わりに互いのプレイヤーは俺のターン終了時まで魔法・罠を発動する事は不可能。ハイパー・ライブラリアンで貴様に直接攻撃、地獄将軍メフィストで伏せモンスターを攻撃!」

 

「チッ、ガイアナイト!」

 

 ハイパー・ライブラリアンが書物のような電子端末にコマンドを入力し、雲の中心部分から相手の頭上に巨大な剣が現れる。そしてそのまま、重力に従い剣が落ち相手の身体を貫かんとする。が、ガイアナイトが自らの身を挺してそれを阻止、鎧を貫かれ破壊されてしまう。仲間を庇う場合そのモンスターのプレイヤーにダメージは行かず、直接攻撃宣言したプレイヤーにそのまま行く。仕留めそこなったか、と万丈目は苦笑する。このターン、もう一度シンクロ召喚出来ていたら一人を葬る事が出来たのだが、中々思い通りにはいかない。

 メフィストの大斧が振り下ろされ、伏せモンスターに襲い掛かるが、巨大な剣によって防がれてしまう。左眼に機械のモノアイ染みた眼帯を付け、左腕が機械製の義手。防御力の高そうな角ばった青い鎧に身を包んだ男。膝当てにXの文字が刻まれている。

 

「X-セイバー パシウルは戦闘で破壊されない!」

 

「メフィストは貫通効果を持っている。そしてパシウルの守備力は0、故に直接攻撃と変わりない」

 

 大斧と剣がぶつかり合った衝撃が、モンスターを通じて相手に襲い掛かる。その余波はライフを削るだけでは飽き足らず、手札まで削り取る。

 

「地獄将軍・メフィストがダメージを与えた時、相手の手札を一枚ランダムに捨てる」

 

 相手の手札ハンデス。中々に強い効果ではあるものの、当の攻撃力があまりに低すぎるので使い手を選ぶカードだ。最も今の万丈目のデッキでは、特殊召喚の容易なレベル5のモンスターとなっているが。

 相手は手札を裏返しシャッフルし、一番上のカードを墓地へ送る。電動羽虫、攻撃力は帝クラスなのだが、戦闘を行う際相手にドローさせてしまうデメリットのあるカードだ。

 

「ターン終了だ」

 

 万丈目は静かに、余裕の表情でターンを終了させた。




 思ったんだけどこの作品、前後編多くない?
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