永理にとって野球は、アニメの録画時間をずらす天敵と呼べる存在だ。暑い日差しの中、袖で汗をぬぐいながら思う。アニメの時間枠を潰してまで見るものでもないと思うし、そもそも潰してまで取った枠の間に終わらない事もあるのだ。
そんな野球に熱中するような奴らも、総じて敵である。敵であった。今は野球よりもデュエルで中断されるのが多い。だが金持ちの家に生まれたので、DVDには全く持って困らなかった。更に両親も要するに永理と同族であったのも、また救いか。
とにかく、炎天下の中レフトを守ってる永理が思う事は一つ。
「帰りたい」
「行くっす! 僕が編みだした魔球、大リーグボールを受けてみるがいいっす!」
翔が脚を大きく右脚を振り上げ、振りかぶって投げる。右脚で蹴られたマウンドの土が頭上まで跳ね上がり、ボールを離した直後にその土が縫い目に巻き込まれる。ボールは地面スレスレを飛んで、本塁すれすれに下降および上昇して土を巻き上げ、縫い目の土が保護色の役割で消える。バッターはバットを振るが、ボールには当たらず、キャッチャーミットの中に納まっていた。
相手から見れば、まるで消えたと錯覚するのだ。
「見たか! これこそが大リーグボール2号の力! もう一球、行くっすよ!」
どりゃあ! という掛け声と共に、またしても放たれた大リーグボール2号。だがバッターは風の音を詠んでボールの軌道を詠み、バットを振る。カキン、と甲高い音と共に、ボールは打たれ左に飛んで行く。
「永理! キャッチだ!」
十代の声が聞こえたが、身体が反応しない。ボールが打たれたのにやっとこさ気付いて、それを何とか飛んでる間にキャッチしようとする。
しかし、運動神経は洗顔の邪教神の合計ステータスより低いと言われた永理がキャッチ出来る訳も無く──
「けばぶっ!?」
どてっ腹に、ボディーブローのようにボールがめり込んだ。腹を抑え蹲る永理、そんな永理に、翔が叫ぶ。
「なんてこった、永理君が死んじゃった!」
「この人殺し!」
「死んでねーよ!」
即座に復活し、取りあえず二番ベースに投げる永理。大体三番ベースと二番ベースの中間辺りでボールが下降していき、ころころと地面を転がった。
この後、突如入って来た三沢大地の活躍によってオシリスレッドが圧倒的格差で負けたのだが、それらは割愛させていただく。デッキ構築に夢中になり過ぎていて、授業に遅れてしまったようだ。結果だけを言えば、大体永理が悪いのだ。ちなみに三沢大地の打った球によって、何処かの最高責任者が負傷した事は、三沢大地、遊城十代、丸藤翔の三人だけがその原因を知っていた。
ちなみに永理は保健室に送られました。
まるで死を告げる鐘のように、授業終了のチャイムが鳴り響く。実際、数で圧倒的に有利な筈の相手に、押され始めていた。
「お、俺のターン! ドロー!」
男は少し焦りながら、カードを引く。
「スタンバイフェイズ、やれ」
ブラッド・メフィストによる薙ぎ払いによって、三人の身体に黒い線が走る。バトルロイヤルルールにおいて、毎ターン効果を発動するカードはかなり効果的だ。一気に相手するのなら、この手に限る。
相手のライフは既にかなり削られてしまっている。そしてパシウルを伏せていたプレイヤーは、次のターン敗北が決まってしまうだろう。何とかこのターンのうちにブラッド・メフィストを場から消さねば、勝機は無いに等しい。
「お、俺はモンスターをセット!」
「見捨てるのか、俺を!」
「うるさい! お前がライフを削られるからいけないんだ!」
仲間割れが始まったようだ。万丈目はほとほとあきれ返った。無能同士の足の引っ張り合い。この世で一番怖くない集団は、無能の集まりである。
そんな相手が何を勘違いしたのか、万丈目に勝てると思ってしまったのだ。シンクロモンスターを手に入れた事による慢心故か。
馬鹿馬鹿しい、と万丈目は斬り捨てる。シンクロモンスターも効果を見、最適な状況で出さねばただのモンスターと成り下がってしまう。それを相手は、全く理解していない。
「ターン……エンドだ」
「お、俺のターン……」
「スタンバイフェイズ、ブラッド・メフィスト」
万丈目はパチンと指を鳴らす。するとブラッド・メフィストはニタリと気味の悪い笑みを浮かべ、杖を薙ぎ払う。パシウルを持っていたプレイヤーのライフは0となり、パシウルが場から消え去る。
まずは一人。最初に脱落したのが、万丈目の中で一番評価の高い者というのが面白い話だ。実力者も、無能が居てはその力を発揮する事が出来ない。
「俺が……二年生の俺が、一年生であるお前に負ける訳が無いんだ!
手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
相手の場にメタリックな竜が現れる。サイバー・ドラゴン、サイバー流の象徴とされているカードで、攻撃力2100というそこそこの火力、緩い特殊召喚条件、そして皇帝の異名を持つデュエリスト丸藤亮のエースモンスターである。サイバー流のカードなので価値はかなり高いが、まさかそれを持ってるとは……と万丈目も内心驚いていた。
「へっへへへ……昨日偶然当てたのよ、一枚しか入ってないのをまさかここで引き当てるなんてな。ジュラック・デイノを召喚!」
次に現れたのは、赤い恐竜のようなモンスターだ。肉食獣のような風貌をしており、でっぷりと出た腹にはさながらジャック・オ・ランタンのような模様が施されている。
攻撃力1700、レベル3のチューナー。ビートに使うもよし、ドローソースとして活用もよし、イージー・チューニングに使うもよし、チューナーとして使うもよしの四拍子揃ったカードだ。
「レベル5サイバー・ドラゴンに、レベル3ジュラック・デイノをチューニング!」
ジュラック・デイノが光の環と化し、サイバー・ドラゴンを星へと変える。
レベル8のモンスターはかなりのレアカードだ。サイバー・ドラゴンに比べれば、選りすぐりしなければ手に入りやすいが、それでもかなりの高額なカードというのに変わりは無い。
それを持ってるという事は、この男何か持ってるのかもしれない。理論や道理では言い表せないものを。最も、それは万丈目も同じだ。
「スクラップ・ドラゴン!」
「ハイパー・ライブラリアンの効果で一枚ドロー」
トタン製の羽を広げ、スクラップより生成されたドラゴンが姿を現す。
無数の配管から蒸気が吹き出し、むき出しの針金で作られた首と繋がっている顔はバイクのランプを転用した眼になっており、黄色く光る。歯車やらバネやらが丸見え状態で、何故か所々タイヤが付いている。
見た目はあまりよろしくないが、その性能は強力の一言に尽きる。一枚自分のカードを破壊する事で、相手のカードを一枚破壊出来る効果。要するに全ての魔法・罠が、全てのモンスターが地割れになるようなものだ。
「スクラップ・ドラゴンの効果発動! このカードは自分場のカードと、相手場のカードを一枚ずつ破壊する!
俺は伏せていたチューナー・キャプチャーとブラッド・メフィストを破壊!」
スクラップ・ドラゴンは伏せられていたカードを食べる。すると体内に存在するエネルギー変換路にカードが行き届き、全身が青白く光り輝く。
そして口から炎を、ブラッド・メフィストに向けて吐き出す。高温の熱に溶かされ、ブラッド・フィストは悍ましい雄叫びを上げながら消え去ってしまった。
「ふん、中々やるじゃないか」
「なっ、ばっ馬鹿にしやがって……すぐに怖気面に変えさせて、命乞いさせてやる! スクラップ・ドラゴン!
地獄将軍・メフィストに攻撃!」
スクラップ・ドラゴンは口から電子廃棄物の咆哮を吐き出す。鉄屑の咆哮はあっという間にメフィストを飲み込み、さながら土砂崩れに飲み込まれる家のように、抵抗する間もなく破壊されてしまった。
しかし、ダークゾーンによって攻撃力が上がっており、与えたダメージは微々たるもの。だが、攻撃力3000のモンスターを破壊した事で勝利を確信していた。してしまっていた。
「どうだ見たか! ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!
ふむ……やはりこのくらいのハンデが無ければ、デュエルは面白くないものだな」
くつくつと笑いながら、万丈目が挑発する。これまでの相手にもシンクロを使う者は居たが、やはりその腕はまるでなっていない。それを覆すには、満足する為に難易度を上げる。さながらゲームの縛りプレイのようなものだろうか。そうしなければ強くなれない奴らへの呆れと、自分が求める果て無き戦いの欲求。
「どこまでも馬鹿にしやがって……テメェの場にあるのはレベル2と5のシンクロモンスターだけ! たとえスクラップ・ドラゴンを破壊したとしても、次のターンリビングデッドの呼び声で蘇らせてジ・エンドだ!」
「そうでなくては面白くない。決闘とは、デュエルとはそういうものだ。墓地のヘルウェイ・パトロールの効果発動! このカードを除外する事で、手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスター一体を特殊召喚する! 来いっ、二体目のヘルウェイ・パトロールを特殊召喚! そしてこれにより、墓地に現存する闇属性モンスターは三体となった、ダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚!」
悪魔のような顔を付けたバイクにまたがった、黒い角を付けたヘルメットをかぶっているライダーが現れる。黒い服の上から赤いスカーフのようなものを首に巻いている。
その隣に黒い拘束具に身をまとった黒いドラゴンが現れる。背中と肩、腕輪と尻尾を纏うプロテクターに痛々しい棘が付いており、半分露出している顔には殺意が込められている。
「だっ、ダーク・アームド・ドラゴンだと!? ここで引き当てたって言うのか!」
「終わりの始まりで手札に来てただけだ。魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキから地獄戦士を墓地へ送る。レベル4ヘルウェイ・パトロールにレベル2、焔紫竜ピュラリスをチューニング! 三つ首の狼よ、天に逆らいし蛮勇なる愚者を称え、絶対的力をもちて全てを砕け! シンクロ召喚! 天狼王ブルー・セイリオス! ハイパー・ライブラリアンの効果で一枚ドロー!」
光の塔から現れるのは、三つの首を持った蒼き狼。逆立った白い毛は攻撃的な印象を持ち、両腕を含む三つの首には餓えた獣特有の野蛮性を秘めている。じゃらり、と両手の狼に付けられた金色の鎖が音を鳴らす。
これで弾は四個。一発で引導を渡すのは無理だが、一人屠る事は出来る。
「墓地のヘルウェイ・パトロール、地獄戦士を除外し、貴様らの伏せカードを破壊!」
ダーク・アームド・ドラゴンの背中から棘が飛び出し、伏せカードに突き刺さる。
まずはリバースカード、罠の類いを全て破壊。相手の場にミラフォが伏せている事は解っている。そして、ただ除外するだけではい終わりではないのだが……このコンボは今使うべきではない。
「次だ、ブラッド・メフィストを除外しスクラップ・ドラゴンを破壊!」
背中からブーメランのように放たれた棘はスクラップ・ドラゴンの首を掻っ切る。まるでこと切れたように眼に宿っていた人工物の光が消え、がしゃんと音を立てて崩れていく。まるで古い呪縛から、解き放たれるように。
男達は焦った、俺達は二年生だ。二年生が一年坊主に負ける訳が無い。男達にはプライドがある。たかが大会で優勝経験があるだけの奴に、負ける訳が無いと。
だが、男達は攻撃力に頼った戦いしか知らない。対して万丈目は、元々低攻撃力のモンスターを駆使して戦うデッキだった。シンクロ召喚が導入された今、その経験の差による溝は深まる一方。彼は攻撃力よりも、モンスター効果を重く見るタイプなのだ。
「さて、では引導を渡してやる。ダーク・アームド・ドラゴンで直接攻撃」
ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃力は、フィールド魔法ダークゾーンによって500ポイントアップしている。ブラッド・メフィストの効果によってチマチマ削られていたところに、大きな一撃。ダーク・アームド・ドラゴンの振り下ろされた爪によって、唯一二回シンクロ召喚を行った生徒のライフが0となった。
「ひっ……ふ、ふざけるな。俺は二年生だ。二年生が一年如きに負ける筈──!」
「学ばなければ経験とは言わない。貴様らはどうせ、攻撃力に頼ったバトルしかしてこなかったのだろう? ヘルウェイ・パトロール、轢き殺せ」
万丈目の命令に頷き、バイクをふかし残る敵の伏せモンスタに釣って混んでいく。轢き殺されたモンスターは、ジェネティック・ワーウルフ。四つの腕を持った白い獣人。血走った眼をしているが、腕はクロスされ防御の体制。だが守備力は100と、プチモスにも破壊されてしまう低守備力だ。
「ヘルウェイ・パトロールが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時、そのモンスターのレベル×100のダメージを相手ライフに与える」
ギュルルル、と後輪を回し、相手に土煙を吹きかける。随分としょぼい演出だが、実際バーンダメージもしょぼいので仕方ないだろう。
「ターンエンドだ」
「おっ、俺のターン!
俺は魔法カード、死者蘇生を発動! お前の墓地からメフィストを蘇生させる! 更に、ジュラック・デイノを召喚! シンクロ召喚! スクラップ・ドラゴン!」
先ほど倒した相手と、全く同じ手段のシンクロ召喚。またしても現れる屑鉄仕掛けの竜。だが先ほど出てきたのとは違い、眼の色が薄い赤色だ。
「カードを一枚セットして、スクラップ・ドラゴンの効果発動! 自分場のカードと相手場のカードを破壊する!
俺は、ダーク・アームド・ドラゴンを破壊!」
スクラップ・ドラゴンが伏せカードを食べ、エネルギーを蓄える。相手はしてやったり、という顔をしている。
確かに、今現在万丈目の場に居る一番高い攻撃力を持ったモンスターはダーク・アームド・ドラゴンのみ。しかしデッキには三体ほど最上級モンスターが眠っており、更にチューナーの数もかなりのもの。立て替えしはいくらでも出来る。
そして──
「カウンター罠、闇の幻影。闇属性モンスターが効果対象に選択された時に発動する。そのカードの効果を無効にし、破壊」
スクラップ・ドラゴンの炎弾は、ダーク・アームド・ドラゴンの幻影を揺らすだけ。何時の間に移動したのか、懐に潜り込み鋭い爪を喰いこませていた。
水をかけたラジオのように、ノイズ交じりの断末魔が鳴り響き、鉄屑が崩れていく。
「なっ──何故あの時、何故ブラッド・メフィストの時に使わなかった!」
既に負けた男が、鉄屑の雨に遭いながら激昂する。当然だ。闇の幻影を伏せたのは、最初のターン。つまりやろうと思えば、ブラッド・メフィストを守る事が出来たのだ。
嘗めプ、相手を格段に見下したプレイング。自分が圧倒的強者に居るという考えを持たなければ到底出来ないプレイ。
当然、相手を馬鹿にする事が目的ではあるのだが、もう一つ理由はある。
「貴様らが弱いから、ハンデをくれてやっただけだ。だがもう残るは一人、とっとと介錯してやるのが温情ってものだ」
「お前……どこまで俺を、俺達を馬鹿にすれば済む──」
「馬鹿にされる実力なお前らが悪い」
スパッと、斬り捨てるように万丈目は言った。その万丈目の言葉に、男達は何も言い返せない。実際、ただでさえ三対一というハンデを貰ってるのだ。だというのに、結果はどうだ。万丈目のライフはたった500しか削れてない。これでは実力不足という言葉で片づけられても、何の文句も言えないではないか。
「で、どうするんだ? 貴様のターンのまま、止まっているぞ?」
「……カードをセットして、ターンエンドだ」
「俺のターン。墓地のレベル・スティーラーを除外し、その伏せカードを破壊。
万丈目が手を振り払うと、ダーク・アームド・ドラゴンが黒い炎を口に貯え、それを発射する。真っ黒な炎に包まれ、相手のライフを燃やし尽くした。
デュエルが終了し、デュエルディスクに残っているカードを取り、デッキに戻していく。伏せていたカード、ヘル・ブラストを使っていたら、もしかしたらもっと早く終わっていたかもしれない。だが元々このデュエル、本気でやるつもりは無かった。ちょっとしたハンデで、危なくなれば迷わず使うつもりだったのだが、その機会も無く相手は破れてしまった。
膝から崩れ落ちる三人に興味を無くし、部屋に戻ろうとした所。出入り口から鳴る何者かの拍手によって、その足を止められてしまう。男達はそれで意識を現実に戻したのか、まるで逃げるように退散していった。
万丈目は拍手のした方を振り向く。
「ブラーボ、ブラーボなノーネ。シニョール万丈目」
「……クロノス……先……生……?」
白いホーステールな髪、まるで死人のような肌、痩せこけた顔。オカマのような青い唇。オベリスクブルー男子寮の寮長であり、デュエルアカデミア実技担当最高責任者。クロノス・デ・メディチである。ちなみにかなり細いが、別に拒食症とかそういう訳ではない。本人曰く「体質」らしい。
だがその左眼は、まるで誰かに殴られたかのように青く腫れていた。
「どうしたんですか教諭、その眼は」
「ん? あ~、ちょっと色々ありまして~……ゴホン。そんな事ヨ~リ、シニョール万丈目。貴方は今、デュエルに満足していないのではないのではありまセーンか?」
クロノス教諭の言葉は真実だった。だが、それが露見してしまうのも無理は無い話だ、と万丈目は薄く笑う。授業を休んでまでデュエリストを狩り続ける、そんな事をしていれば自然と、誰もがそう思うだろう。そう──強いデュエリストなら。
なので万丈目は、ここは素直に頷いておく。
「よろしい。ではシニョールに一つ、壁となってもらいたいノーネ」
「壁……ですか?」
壁であれば、もっと適任が居るのでは。と万丈目は心の中で思う。万丈目は自分が強いと自負しているが、それゆえ一年生とは実力が釣り合わないとも感じていた。唯一同じくらいだと思っているのは、遊城十代くらいだ。
「俺より適任が居るんじゃ」
「壁は高い方が、それを乗り越えた時成長しまスーノ。その点、貴方なら最適と言えるノーネ」
実技最高責任者にそう言ってもらえて、万丈目は悪い気はしない。誰だってそうだ、褒められて嬉しくない者はそうそう居ないだろう。
だが、万丈目はそれを感情に出さず、相手の名前を聞く。
「誰の?」
あらかた強そうなデュエリストは狩り尽くした。一年生はもう既に、めぼしい奴らは残っていないだろう。相手によっては、辞退するつもりだ。雑魚に構っている暇は無い、次は二年生、その次は三年生を狙うつもりだったのだ。
「シニョール三沢、貴方も名前だけなら聞いた事ありまセーンか?」
「三沢……ああ。筆記、実技共に高得点なあいつですか」
筆記、実技共に高得点をたたき出す生徒は少ない。大抵は筆記で高得点を取るか、十代のように実技で点数を稼ぐか、だ。その点三沢は、まるで絵に描いたような優等生キャラ。正直、今の万丈目より教師からの評判は良いと言っていいだろう。
「近々、彼の昇格デュエルを行う予定なノーネ。シニョール三沢と、デュエルをしてほしいノーネ」
「……なるほど、いいでしょう。ただし、条件があります。もし俺が負けたら、オシリスレッドに降格させてください」
万丈目の言葉に、クロノスは驚いた。一応万丈目を懲らしめる意味も込めて、このデュエルを持ち掛けたのだが……それでも落とすのはラーイエロー程度にしておくつもりだったのだ。
だというのに万丈目は、自らデュエルアカデミアで一番設備の整ってない、不憫なオシリスレッドへ行く事を望んだ。何故? という疑問が、クロノスの頭の中に現れる。
「ラーイエローというクッションがあっては、それに甘えてしまい全力を出し切れません。後には引けない状況に自らを追い込んで、俺は全力を出し切ります」
「……解ったノーネ」
クロノスはあきれ返った。あまえいのバトルジャンキーさに。馬鹿げている話だ。自らそこまでする必要も無いのに、追い込みを入れる。まるで今回の、変則デュエルのように。出来るだけ生徒の意思を尊重しておいてあげたいのだが、こればっかりはクロノスも判断に困ってしまう。
「では、デッキ調整がありますので俺はこれで。失礼します」
「……昇格デュエルは明日なノーネ、万全の体制で挑むように」
万丈目は頷き、獰猛な笑みを浮かべながら自室へと戻って行った。その背中を見て、クロノスは思う。ひょっとして、とんでもない事をしでかしたのではないかと。
取りあえずズキンズキン痛む眼を冷やす為に、部屋へと戻る事にした。
ハーメルン作品多しと言えど、GXの世界でシンクロもあるのにシンクロ召喚を使わない主人公は永理だけでしょう。多分。