今日は休日だというのに、デュエル場には沢山の人だかりが出来ている。デュエルアカデミア、昇格デュエル。ただの昇格デュエルであれば、これほどまで人数が集まる事も無いだろう。しかし、今回の対決は現デュエルアカデミア学年主席VSデュエルアカデミア中等部学年主席の対決。そして、今の万丈目は狂犬と称されるほどの戦闘狂いとなっている。
デュエルアカデミアで誰彼構わず敵を求め、その全てに打ち勝ってきた男。自らの理論とデッキへの信頼で勝利してきた男。
その二人が、今デュエル場に立っている。まだ始まってすらいないというのに、とてつもない緊張感だ。
思わず十代と翔、そして物珍しさから来た隼人も生唾を飲み込む。十代の隣で永理は、隣の生徒とどちらが勝つか賭けをしていた。
「俺の同人誌を賭けよう」
「グッド」
隣で緊迫感の欠片も無い会話が聞こえて来て、思わず脱力してしまう。どうやら永理は、今晩のオカズを賭けあっているようだ。永理の手にはブラマジガールが触手によって亀甲縛りにされている同人誌が(卵を産み付けるマニアックなタイプの奴)、対する男子生徒の手にはブラマジガールとサイレント・マジシャンが半裸で抱き合っている百合もの(の表紙とは裏腹に、中身は双頭ディルトとスカトロという表紙詐欺に騙された罪なき罪人達を地獄へ突き落した物)。何ともまあどうでもいい争いではあるが、本人達の眼は真剣である。無駄に。無駄に。
まるで主人公ではないが、割と前からこんな感じなのでノーマンダイだ。
「三沢大地……デュエルアカデミア学年主席。成績優秀スポーツ万能、これといった欠点の見つからない優等生。デュエルタクティクスは同学年の間では群を抜いている……盲点だったよ、何故気付かなかったのか不思議なくらいだ」
「そりゃどうも……君の噂も聞いているよ、万丈目準。デュエルアカデミア中等部学年主席で卒業、中等部時代はテクニカルなコンボが主体のデッキを使っていたが、高等部に入ってからは少しばかり癖の強いパワー系デッキを使用。そしてここ最近はまるで狂犬のように誰彼かまわず噛みつき、そして勝利している
そういえば、と十代はちらりと永理を見やる。隣で馬鹿な事をしでかしている永理だが、一応強者に入る人間ではある。こんな奴が、あそこでシリアス満載な雰囲気を出している二人と同じくらいの実力があると思うと、何故だかやるせない気持ちになってしまう。
永理はそんな視線に気付かず、足を組みながら手作りサンドイッチを頬張る。マヨネーズマシマシ、女子生徒が食べたら翌日にダイエットを決意するほどの高カロリー食品。勿論バターもたっぷりと塗り込んでいる。そのせいか、向かい側に座っているオベリスクブルー女子生徒から嫉妬の眼差しを向けられているが、本人は気付く様子が無い。嫉妬なんて知らぬ顔だ。
「全力で来い、叩き潰してやる。これまで戦ってきたデュエリストと同じように」
「その言葉、そのままそっくりと返そう」
『気合十分なようなノーネ。それではこれヨーリ、三沢大地VS万丈目準、昇格を賭けたデュエルを執り行うノーネ!』
スピーカーからクロノスの声が響き渡る。降格という点は、万丈目が頼み伏せて貰ったのだ。曰く「自分のせいで誰かが落ちると思ってしまっては、全力を出せないかもしれない」だとか。
クロノスはその言葉を聞き、思わず万丈目の将来を心配してしまった。何せあまりにも、強さに貪欲すぎるからだ。
『あとシニョール永理、デュエル場は飲食禁止なノーネ』
それでも一応注意はしておくのが、教師としての務めである。
「チッ、バレたか」
永理は対して悪びれずに言ってから、一気にサンドイッチを口の中に詰め込む。そして何度か咀嚼してから、一気に飲み込み。相も変わらず噛む回数は少ない。
万丈目と三沢は互いに距離を取り、デッキをデュエルディスクにセット。そして起動させ、ほぼ同時に叫ぶ。
「「デュエル!!」」
その宣言と同時に、会場が大きく湧き上がった。トップVSトップ、その興奮もまた当然であろう。ちなみに永理は、三沢を思い切り応援していた。三沢に賭けたからである。
「先功は俺が頂く、ドロー!
俺は魔法カード、増援を発動! デッキからレベル4以下のモンスター、夜薔薇の騎士を手札に加え、そのまま召喚! 効果によって手札からレベル4以下の植物族モンスター、キラー・トマトを特殊召喚する!」
黒い鎧に身を包んだ白い髪の騎士が現れ、右手に持っている剣の切っ先で空中に円を描き、その中からジャック・ランタンのような顔を付けたトマトを召喚する。
夜薔薇の騎士の登場と共に、女子と一部の男子から黄色い歓声が巻き起こる。夜薔薇の騎士は女子生徒の方を向き、一礼。随分とサービス精神が旺盛なようで、それのおかげでひときわ大きな歓声が響いてきた。永理は小声で「ショタコン共が」と呟いたが、永理も永理でそういったキャラクターが好きなので割と同族だったりする。
「魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札のモンスターカード、ゾンビキャリアを墓地へ捨て、手札・デッキからレベル1のモンスター──イービル・ソーンをデッキから特殊召喚する。更に手札を一枚デッキトップへ戻す事で、ゾンビキャリアを特殊召喚!」
ピンク色の萎れた花とは対照的にパンパンに膨らんだ紫色の種と、その隣に紫色の肌をした太ったゾンビが現れる。今度は女子生徒から悲鳴、ゾンビキャリアは少しばかり悲しそうに肩を落とす。
イービル・ソーンは自信を生け贄にする事で素早く墓地を肥しモンスターを場に展開する事に長けているカードだが、手札からは特殊召喚出来ない。ゾンビキャリアは手札を一枚デッキに戻す事で場に特殊召喚出来るカードだが、次のターンドローするカードが決まっており実質ロックされているのと何ら変わりない。
だが、ゾンビキャリアの効果で手札のイービル・ソーンをデッキに戻す事で二体の展開を、イービル・ソーンの特殊召喚効果によってデッキ圧縮と共にデッキトップの固定を免れる。実に効果的な持ち運びだ。
「イービル・ソーンの効果発動! このカードを生け贄に捧げる事で、相手ライフに300ポイントダメージを与える!」
イービル・ソーンのグレネードのような実がひときわ膨らんでから弾け、万丈目の足元に二つ、三沢の身体に向かって大量の種が突き刺さる。
「その後、デッキからイービル・ソーンを最高二体まで特殊召喚する!」
万丈目の足元に刺さった種が発芽し、薄桃色の花を咲かせる。しかし一瞬でそれが萎れ、代わりにまたグレネードのような物体が実る。
三沢はそのコンボに、思わず感心した。多少の運は絡むが、実に考えられている。デュエルにおいて運とは、デッキ構築だけではどうしようも出来ない要素ではあるが、そのリスクを減らす努力は大切だ。
「レベル1イービル・ソーン二体に、レベル3夜薔薇の騎士をチューニング!
禁断の書物に手を出しし知識の貪欲者よ、禁忌の知識を駆使し我に力を貸せ! シンクロ召喚!」
光の輪を二つの種が潜り抜ける。すると種は星となり、輪がそれを締め付ける。するとまるで爆発したかのように光の束が出来、視界を白く塗りつぶされる。
「TGハイパー・ライブラリアン!」
十代が使った者に比べ少し色合いがグレーな、サイバー魔術師が現れた。
永理は隣に座っている十代に、あの時の事を尋ねる。
「そういえば十代、ライブラリアン融合はどうだった?」
「融合よりシンクロ特化の方が使いやすい」
ハイパー・ライブラリアンは下手に他のデッキと混ぜるより、シンクロに特化させた方が強くなるカードだ。何故ならハイパー・ライブラリアンはシンクロ召喚によって真価を発揮する。十代の融合とは少しばかり相性が悪く、事故を引き起こしてしまう可能性があるのだ。
「一ターン目からシンクロ召喚か……なるほど、元学年主席になっただけの事はある」
「もはやその称号に、何の意味も無い。俺に必要なのは、果て無きデュエルの世界、そこに妥協は許されない」
万丈目は純粋に、ただ純粋にデュエルを求める。十代が万丈目の、乾ききった心に火を付けてしまったのだ。そのせいで、明らかに狂っている思想を持ってしまった。
永久に潤う事の無い、破滅のみを産み出す乾き。
「その果てに、君は何を見る」
三沢は、思わず尋ねてしまう。果て無き戦いの果て、矛盾した言葉だがこの世に永遠というものはない。全ての事柄に終わりは訪れる。神様だって死ぬのだ、人間が作りだしたものに終わりが訪れない訳が無い。
しかし万丈目は、さも当然のように答える。口角を歪に上げながら、その果て無き果てを想像しながら。
「俺を打ち滅ぼす者だ」
「……そうか。邪魔して悪かった、続けてくれ」
三沢は万丈目の考えに賛同出来ないが、心の中で同意している自分が居る事に困惑した。その終わりを、終わりだけを目指す眼は一体何処を、何を見ているのか。興味深さと同時に、言い知れぬ恐怖も感じてしまう。
「レベル4キラー・トマトに、レベル2ゾンビキャリアをチューニング! 卑しき妬みに彩られし野薔薇の女王よ、我が僕となりて鋭き棘で敵に後悔と死を与えよ!」
光の束を払いのけて現れたモンスターに対して、今度は一部の男子生徒と一部の女子生徒から歓声が上がる。やはり成人した女性よりも、霊使いのようなロリがいいのだ。
永理と十代の眼には、一瞬だが万丈目の側に付き添うように側にいる、女性の姿が見えた。
「シンクロ召喚! ヘル・ブランブル!」
野薔薇の魔女が現れ、上品にお辞儀をする。三沢はそのモンスターの登場と同時に、思わず眉根を寄せる。面倒な効果を持ったモンスターだからだ。
「ハイパー・ライブラリアンの効果で、カードを一枚ドロー! ゾンビキャリアは自身の効果で特殊召喚された際、墓地へは行かず除外される。手札を二枚セットし、ターンエンド!」
万丈目の手札は一枚、たった一ターンでそこまで使い切ったのだ。その結果ドローソースを産み出すモンスターと、展開を抑止するモンスターを二体も並べた。
思わず教職員も舌を巻く、素早い展開。万丈目はそれを、さも当たり前のようにやってのけたのだ。そして万丈目の顔には、獰猛な笑み。三沢がこれをどう突破するか期待しているのだ。
数秒ほどの硬直、あれこれ考えていたのだろう。溜息を一つ漏らしてから、三沢はデッキトップに指を掛ける。
「ドロー! ……良し!
俺は手札から魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動! 手札を一枚捨て、相手場に表側表示で存在するカードを全て破壊する!」
「その程度、見越してないとでも思っていたのか! カウンター罠、マジック・ドレインを発動! 相手は手札から魔法カードを墓地へ捨てる! 捨てなかった場合、魔法カードを無効にし破壊する!」
「魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札からモンスターカード、可変機獣ガンナー・ドラゴンを墓地へ捨て、デッキからレベル・スティーラーを守備表示で特殊召喚! ヘル・ブランブルは植物族以外のモンスターを手札から召喚・特殊召喚する場合、ライフを1000払わなければならなかったかな。ライフを1000払い、神獣王バルバロスを召喚!」
一つ星テントウムシの隣に現れるのは、顎部分のたてがみがまるで機械のようになっている、筋肉ムキムキの王だ。長い自然のたてがみをなびかせ、右手に真っ赤な槍を、左手に綺麗な青い盾を持っている。だが、それより目が行くのが下半身だ。まるで馬のような、黒い四足。腰当を覗けば、下には褐色肌の筋肉と馬の身体の境目を見る事が出来る。
攻撃力3000の最上級モンスターではあるが、妥協召喚という特殊な召喚方法で、元々の攻撃力を1900にまで下げる事で下級モンスターと同じように召喚可能なモンスターである。元々は神に仕える従属神の王として造られたのだが、一般にも出回っているのでただの噂話としか誰も思っていない。
最も、その噂話も頷けるほどの性能の良さではあるが。
「攻撃力1900……なかなかの攻撃力だが、それでは俺のモンスターは倒せんぞ?」
「どうかな? バルバロスのレベルを一つ下げ、墓地からレベル・スティーラーを守備表示で特殊召喚! バトルフェイズだ! 神獣王バルバロスでハイパー・ライブラリアンを攻撃!」
三沢の突然の奇行、十代と永理、そして万丈目以外はそれに困惑の声を上げる。だが実技担当最高責任者であるクロノスだけは、すぐに合点がいったようだ。
神獣王バルバロスは真っ赤な槍を放り投げ、ハイパー・ライブラリアンは薄く笑いながら魔法陣を素早く描き、黒き槍を召喚する。指をクイッとバルバロスの方へと向けると、それと連動するように黒い槍が、バルバロスに飛ぶ。
「ダメージ計算時、手札から速攻魔法発動! 禁じられた聖杯!」
赤い槍が黄金色に輝く聖杯を貫くと、突如光り輝く。すると、槍の切っ先が三つに分かれ、激しくスパークする。黒い槍とぶつかり合い、ハイパー・ライブラリアンの放った槍は、まるで開花するかのように裂け、その勢いそのままハイパー・ライブラリアンの胸へと向かって行く。
咄嗟に手に持っていたタブレットを盾にするが、盾にしてはいささか薄すぎる。軽くタブレットを貫き、赤い花を咲かす。
「……禁じられた聖杯によって、バルバロスの攻撃力を400ポイント上げる。更にバルバロスの効果による妥協召喚──それが無効になる事で、元々の攻撃力3000に400がプラスされ、合計攻撃力は3400」
「それだけではなく、エンドフェイズにステータスリセットが発動し、攻撃力は3000となる。カードを一枚セットし、エンドフェイズ! 聖杯の効果は失われるが、それと同時にステータスリセット! 今度は立場が変わった、これをどう攻略する? ターンエンドだ!」
万丈目の方が有利だったデュエルの流れを、一気にとは言わないが堅実かつ大胆に、自分の方へと流れを持って行った。
流石は成績優秀者、伊達に勉学に励んではいない。一般生徒よりいくらか、高レベルなデュエルタクティクスだ。
しかしいささか、マニュアル過ぎるか……というのが、万丈目の感想である。
「俺のターン、ドロー!
ライフを1000払い、インフェルニティ・リベンジャーを攻撃表示で召喚!」
黒いテンガロンハットを付けた二頭身の悪魔が現れる。白い髑髏のような顔が、好敵手を見つけた時特有の笑みを浮かべた。
「レベル6ヘル・ブランブルに、レベル1のインフェルニティ・リベンジャーをチューニング!
負の遺産より生まれし黒き暴風、血鉄に彩られし死の力──硝煙と死の臭いをまき散らし、殲滅せよ! シンクロ召喚! ダーク・ダイブ・ボンバー!」
戦闘機のような風貌をした、銅色の機械が現れる。肩に二つのジェットエンジンを乗せ、両手の甲には防御盤が。錆鉄色の羽を背負い、二本の足で地面を立つ。
さながらロボットアニメに出てきそうな風貌である。主に敵の兵器として。
「攻撃力2600……それじゃあ、俺のバルバロスはまだ倒せないな」
「ああ、まだな。ダーク・ダイブ・ボンバーの効果発動! 自分場のモンスター一体を生け贄に捧げる事で、そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える! そしてこの効果の範囲は、自身も含まれている! ダーク・ダイブ・ボンバーを生け贄に捧げ、相手ライフに1400ポイントのダメージ!」
ダーク・ダイブ・ボンバーは自らの身体を折りたたみ、まんま戦闘機となりて三沢の方へと突っ込む。これぞ日本が最後の手段としてアメリカ軍に行った愚策、神風特攻である。
爆弾を積んだまま、更に燃料によりひときわ大きな爆炎が三沢の身体を包み込む。
だが、演出としては永理が出した破壊竜ガンドラ? の方がインパクトは大きかった、と会場に居る誰もが思った。
「くっ……だが万丈目、これで君の場のモンスターは〇。次のターン、俺のバルバロスの直接攻撃で俺の勝ちだ!」
ヘル・ブランブルによる効果ダメージによって、互いのライフは互角。だが三沢の場には攻撃力3000のバルバロス。このターンのうちに何とか手を打たなければ、次のターンバルバロスの槍が万丈目の身体を刺し貫くだろう。だが、万丈目の眼に諦めは見えてこない。
「そう慌てるな、まだ俺の負けが決まった訳じゃない……魔法カード、終わりの始まりを発動! 墓地の闇属性モンスターが七体存在する時、そのうちの五体を除外し、カードを三枚ドローする!
俺は墓地のハイパー・ライブラリアン、ダーク・ダイブ・ボンバー、イービル・ソーン三体を除外し、カードを三枚ドロー! 更に魔法カード、闇の誘惑を発動! カードを二枚ドローし、手札から闇属性モンスター一体を除外する! 俺はヘル・エンプレス・デーモンを除外!
更にフィールド魔法、ダークゾーンを発動! そしてリバースカードオープン! 永続罠、闇次元の解放! 除外されているヘル・エンプレス・デーモンを攻撃表示で特殊召喚!」
紫色の雷雲の中、突如現れたいびつに歪んだ次元を、悪魔のような模様を付けた先端が二つに割れた杖で振り払い、紫色の肌をした悪魔が現れる。羊の角のような被り物の上に、紫色の腰まである長い髪の毛。露出度の高い、北半球が丸々見える服。紫色のロングスカートには、上から悪魔っぽいデコレーションが施されている。若干鎧っぽい皮膚が、少しばかり残念だろうか。男子生徒からの歓声に、にこりと身長に似合わぬ童顔で微笑み、小さく手を振る。
一気に手札が補充され、更にそれだけでなく最上級モンスターの召喚。しかもダークゾーンによって、その攻撃力をバルバロスが倒せる打点にまで引き上げる。
「魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキから、冥府の使者ゴーズを墓地へ送る。バトルだ!
ヘル・エンプレス・デーモンでバルバロスを攻撃!」
両手でくるくると杖を振り回すと、巨大な闇の塊が出来上がる。
それはダークゾーンから落ちてくる稲妻をも吸収し、更に大きく、そして凶悪になっていく。バチバチとスパークがそこら中に飛び散り、最新設備(野外でやる際と何がどう変わっているのかは不明)の床を削り取る。
そして、ハッと勢いよく右脚でそれを勢いよく蹴る。すると闇の塊が一直線にバルバロスの方へと飛んで行く。それを打ち払おうと槍を突き立てるも、力の差は歴然。なす術なく闇の塊に飲み込まれ、その肉体を消滅させた。
「カードを一枚セットし、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!
……中々やるじゃないか。魔法カード、強欲な壺を発動! カードを二枚ドロー! 永続魔法、冥界の宝札を発動! そして、二体のレベル・スティーラーを生け贄に捧げ、ダーク・ホルス・ドラゴンを召喚!」
レベル・スティーラーが消え、代わりに現れたのは、巨大な黒い竜。鳥の様な黒い顔、真っ黒な羽を広げ、二本足で大地を踏みしめ、雄叫びを上げる。竜頭蛇尾な尻尾はゆっくりと揺れる。
伝説のレベルアップモンスターと言われるホルスの黒炎竜が、闇に堕ちた姿。その効果は、専用デッキさえ組めばそこそこ強い。ホルスの黒炎竜LV8の方が強いとか、間違っても言ってはいけない。
「冥界の宝札の効果で、カードを二枚ドロー!
更に、墓地のダーク・ホルス・ドラゴンのレベルを二つ下げ、レベル・スティーラーを二体特殊召喚!」
「次のターンの布石を揃えたか……」
「バトルだ! ダーク・ホルス・ドラゴンで、ヘル・エンプレス・デーモンを攻撃! ダーク・メガフレイム!」
ダーク・ホルス・ドラゴンは大きく息を吸ってから、口から黒い炎の塊を吐く。対するヘル・エンプレス・デーモンは左手に巨大な闇魔法を纏わせ、それを塊として相手に投げつける。空中で闇の力同士がぶつかり合い、衝撃が走る。
が、少し力及ばず。ヘル・エンプレス・デーモンの放った魔法は打ち消され、その身体を炎によって焼かれてしまう。グーサインをしながら、炎に包まれ退場する。割とお茶目なようだ。
そして、その炎を消し去るかのように剣を振り払う、一人の剣士が現れる。黒い鎧は、いやに攻撃的なデザインをしている。
「ヘル・エンプレス・デーモンが破壊され墓地へ送られた時、墓地からヘル・エンプレス・デーモン以外のレベル6以上の悪魔族モンスターを一体特殊召喚する! 俺はこの効果で、冥府の使者ゴーズを特殊召喚した!」
「だが攻撃力はたったの2700、ダークゾーン影響下では俺のダーク・ホルス・ドラゴンの攻撃力も上がっているので、これを超える事は出来ない! そして、お前のデッキでは俺のモンスターを超える事は出来ない筈!
ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
万丈目は引いたカードを横目見、ニヤリと笑った。
勝利を確信した笑みではない、まだこの決闘を楽しめるという、戦闘狂染みた笑みだ。
「俺のデッキの最高打点は、攻撃力2900のヘル・エンプレス・デーモン。貴様の言う通り、超える事は出来ない──火力で越えられないのなら、他にも打つ手はある。魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地からインフェルニティ・リベンジャーを特殊召喚! これで墓地の闇属性モンスターは三体!」
ボチヤミサンタイ、万丈目のエースカードの召喚条件。その効果は、永理の住んでいた世界で制限を受けた、凶悪な効果を持ったカード。
もはや、万丈目を象徴すると言っても過言ではないモンスター。
「ダークモンスターを使うのは、貴様だけではない! ダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚する!」
雄叫びを上げ、黒い鎧に身を包んだドラゴンが現れる。万丈目のデッキのエースモンスター、万丈目が一番信頼するカードだ。
ギラリ、と敵を──ダーク・ホルス・ドラゴンを鋭い眼で睨み付ける。
「ダーク・アームド・ドラゴンか、その効果は確かに凄まじいが──」
「効果発動! 墓地のヘル・エンプレス・デーモンを除外しダーク・ホルス・ドラゴンを破壊!」
「使わなさければ、問題は無い! 永続罠、デモンズ・チェーン! 効果を無効にし、攻撃も封じる!」
三沢の足元から生えてきた鎖がダーク・アームド・ドラゴンの首に絡まり、地面に縫い付けられる。効果を封じられてしまったが、場にはチューナーが居る。そしてダーク・アームド・ドラゴンのレベルは7、シンクロ召喚に使われてしまえば邪魔な鎖としかならない。だが、場をがら空きにされる事に比べれば、その程度は些細な問題だ。
「中々やるじゃないか……レベル7のダーク・アームド・ドラゴンに、レベル1のインフェルニティ・リベンジャーをチューニング!
混沌より生まれし片割れの竜よ、黒き翼を翻し我が敵を葬れ! シンクロ召喚! ダークエンド・ドラゴン!」
真っ直ぐ横に伸びた角が特徴的な、黒い竜。額には蒼の宝石がはめ込まれており、全体的に尖った攻撃的なデザインの顔。翼は膜がすり切れ短くなっており、身体の中心部分には悪魔染みた顔が付いている。
「ダークエンドだと……データに無いカードだな」
「ではその脳髄に焼き付けるがいい! ダークエンド・ドラゴンの効果発動! このカードの攻撃力・守備力を500ポイント下げる事で、相手モンスター一体を破壊する! ダーク・ホルス・ドラゴンを焼き殺せ! ダーク・イヴァポレイション!」
ダークエンド・ドラゴンの口から吐き出された黒い炎が、地面を縫うように迫っていく。ダーク・ホルス・ドラゴンはそれを打ち消そうと炎を吐くも、それすらも吸収されてしまう。
ダーク・ホルス・ドラゴンの足元にその炎がくぐり込むと、まるで死者を地獄に引きずりおろすかのように黒い柱が伸び、ダーク・ホルス・ドラゴンをゆっくりと包み込んでいく。苦し悲鳴を上げながら、徐々に飲み込まれていく。
「……強い。流石、ジュニアとはいえグランプリの優勝者」
「レベル・スティーラーが少々面倒だな……バトル! ダークエンド・ドラゴンでレベル・スティーラーを攻撃!
燃やし尽くせ、ダーク・フォッグ!」
ダーク・ホルス・ドラゴンを飲み込んだ炎とは違い、地面に当たった瞬間拡散する。だがそれが隣のレベル・スティーラーを飲み込む事無く、一体だけ燃やされてしまう。
壁は、次のターン辺りにまた、確実に湧いてくる。守りに徹しなければ、三沢のライフはすぐに消え去ってしまう。だが、眼はまだ諦めてないかのように、ギラギラと輝いている。
今、万丈目は心の中から楽しんでいた。あの時の様と──十代とのデュエルと同じ──いや、それ以上に。思わず、笑みが零れる。勝利の笑みではなく、期待の笑み。
「ターンエンドだ……さあ、まだまだ俺を楽しませてみろ!」
「重い期待だな、だが応えたくなる。一人のデュエリストとして! ドロー……万丈目、これが俺の──全力だ!
魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地のバルバロスを蘇生! 更に、バルバロスのレベルを一つ下げレベル・スティーラーを守備表示で特殊召喚!
更に──三体のモンスターを生け贄に捧げ、神獣王バルバロスを召喚!」
三体のモンスターが姿を消す。ダークゾーンの雲が晴れ、地面にヒビが入る。さながら噴火のように、三沢の場から光が溢れ、その中からバルバロスが現れる。絶えず落ちる稲妻の後光によって、暴力的なほど神々しい。
神、まさにそう表現するしかない。槍を地面に強く突き下ろすと、大きな地割れが起き、万丈目の場のカードを全て飲み込まんとする。
ダークエンド・ドラゴンは空を飛び逃げようとするも、天より舞い落ちた稲光に打たれ墜落。更に、バルバロスの咆哮に合わせるかのように、黒い雲が晴れていく。
「このタイミングで……あと一ターンで俺が勝つ、このタイミングで……」
信じられない、といいたげに万丈目は唖然とする。デュエルにおいて絶対、というものは無い。それは万丈目も重々承知している。だがあの時、あのターンで万丈目は勝利を確信していた。
ニヤリ、と口角を上げる。既に打てる手は無い。伏せているカードは、リビングデッドの呼び声。闇次元の解放であれば、ヘル・エンプレス・デーモンを特殊召喚し、破壊された事による効果で墓地のゴーズを蘇生。その場しのぎは出来ただろう。
「これだから面白い、デュエルって奴は」
「……ああ、俺もそう思うよ。バトルだ! バルバロス!」
バルバロスの槍が万丈目に迫る。豪速で投擲された槍は一直線に、勢いよく万丈目の胸を遠慮なく貫く。万丈目は満足そうな笑みを浮かべながら、そのライフを〇にした。
ソリットビジョンが消え、静まり返る会場。荒い二人の息だけが、しばし会場の音となる。
『しょっ、勝者! シニョール三沢なノーネ!』
クロノスの宣言と共に、一気に歓声が沸き起こる。
万丈目、三沢の勝利を労う言葉。そこに寮同士の格差は無い。一部のオベリスクブルーの生徒は、何処か面白くなさそうにそれを見る。
『これでシニョール三沢は、オベリスクブルーに昇格! 万丈目準は──』
「すみませんが、それは辞退させていただきたい。俺はまだ、倒したい相手が居る。オベリスクブルーに入るには、ナンバーワンになってからと、ここに来た時から決めていましたので」
クロノスの言葉を遮り、三沢は昇格を辞退する。その目線は、十代の方を向いていた。十代にアイコンタクトで宣戦布告をする。十代はそれに頷き、薄く笑う。
永理はそんな二人を見ていて「主人公だな~」と他人事のように思った。主人公なのに。
『……でしたーら、仕方ないノーネ。諦めますーノ。ガクリンチョ』
クロノスは基本的に物わかりのいい教師だ。オシリスレッドでも、真面目に勉学に励み、向上心のある者には優しく、そして厳しく教える。遊城十代を嫌っているのは、十代がよく授業中に居眠りしているせいである。
ちなみにクロノスの中での永理の評価は、「変だけど真面目に授業受ける生徒、変だけど」である。永理は、一応授業は眼の敵にされない程度に真面目にしているのだ。最も、別に向上心は無いがそれを表側に出す事は無い。
「残るは俺の降格だけか……三沢大地、いつかまた、俺とデュエルをしよう」
万丈目は右手を差しだし、三沢もそれに答える。固く、がっちりと。男同士の、死闘を繰り広げた末に生まれた、好敵手同士の友情。
「ああ、いつでも受けて立つ。次も勝つけどね」
「言ってろ、次は負けない」
二人ともニヤリと、挑戦的な笑みを浮かべ手を放し、強くハイタッチ。
まるで主人公とライバルである。一方当の主人公は、泣く泣く同人誌を隣の生徒に差し出していた。
あっれ~? 永理主人公……あっれ~?