月影永理の暴走   作:黄衛門

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第2話 遊戯王カードのパロディは、大体子供にゃ解らない

 デュエルアカデミアの制服は、三つに分けられている。まず最下層に位置するオシリスレッド、真ん中故全く目立たないラーイエロー、そしてこの学校の創立者である海馬瀬戸の愛人の名前を付けちゃったオベリスクブルーの三つだ。

 今、月影永理はオシリスレッドの制服を着て、購買に来ている。入学式も校長の無駄話も脳内メタルウルフカオスで時間を潰し、十代と翔から誘われた校内探検を断って態々やって来たのは、少しばかり知りたかった事があったからだ。

 商品のチェックだ。今は入学式故それほど品ぞろえは良くないが、メニューの名前だけでも知っておきたいというのが、育ち盛りな男の子の性だ。まあ食べる量は、女の子よりも若干少ないのだが、まあそこはあれだ。好きな食べ物のカロリー量で色々と誤魔化せるのだ。

 しかし色々なメニューがあるな、と商品棚を眺めながら思う。チョコパンやアンパン、カレーパンといったメジャーものから、超激辛ハバネロカレーパン、バター揚げまである。何故作った、バター揚げ。何故仕入れた、購買部。

 ふと、ある場所で足が止まった。食品棚から少し歩いたところ、嗜好品類の棚だ。

 ガンプラ、大量のガンプラが置いてあるのだ。ザクやギャンは勿論の事、サイコミュ試験用ザクやジュアッグ、ゾゴジュアッグにシャア専用ザズゴググングまで……これを態々選んで仕入れている奴は間違いなく素敵で面妖な変態だ。

 

「うむ……ケンプファーか、たまにはメジャーなものもありだろうか。いやしかしこちらも捨てがたく」

 

 しかし白い制服を着た、妙に長い蒼色の髪をした青年は何なのだろう。何かブツブツ言ってるし……と、ちょっと怖い。そして手に取っている箱はケンプファーと、ザクデザートタイプ。というかなんでジオンのモビルスーツばかり仕入れているのだろうか。不思議なところだが、永理にとってはありがたい話だ。何せ永理はジオニストなのだから。

 ふと、永理はザクデザートタイプが欲しくなった。他人の芝生は青い、他人のザクデザートタイプは砂色なのだ。どういう意味かは知らん。

 

「もし、そこの青年」

 

「ん? ああ、すまない。少し考え事をしていた」

 

 じーっと、永理はザクデザートタイプの箱を見る。白い制服を着た青年はその視線に気付いたのか、ニヤリと笑った。

 あれは同族を見つけた時の笑みだ。

 

「……貴様もジオニストか」

 

「ふふふ、いい。最高の気分だ。さながらホワイトベース部隊とランバ・ラル部隊がぶつかり合う前にドムの製造が間に合った時のような、いい気分だ」

 

 ギレンの野望、並みのジオニストではない。素晴らしい、いい青年だ。

 青年は抑えきれない笑みを浮かべながら、永理に尋ねる。

 

「所で、何を求めているのだ? ヅダか? ゴッグか? それともジュアッグか?」

 

 どうしてこうマイナーな機体ばかり上げるのだ、この青年は。そして永理も頷いている、何故理解出来るのだ。お前どちらかというとゲッター派だろ。

 永理は少しばかり言いよどんだが、やがて決心したように口を開いた。

 

「……ザクデザートタイプだ」

 

 一瞬、青年が固まる。折角見つけた同志、求めているのは同じだ。だのに、だというのに争わなければならない。せっかく芽生えた友情、だというのに争わなければならない。友好を深める為ではなく、奪い合う為に。

 青年は一瞬悲しそうな顔を浮かべたが、だがすぐに、とても楽しそうな笑みを浮かべ、水色のラインが入ったデュエルディスクを起動させる。

 

「そうか、ならばデュエルで決めよう。これの購入権を、俺か貴様か!」

 

「いいだろう。権利のアンティだ!」

 

 永理もまた、それに答えるように赤いラインが入ったデュエルディスクを起動させる。

 こういう時、デュエルで決まるのがこの世界のいい所だ。そして永理の、受験日に使ったデッキとはまた別のデッキの試運転も兼ねよう。

 

「俺の名は丸藤亮だ。君の名前を聞こう、我が愛しき怨敵にして同志よ」

 

「月影永理だ、同志よ」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は同志永理、君に譲るよ」

 

 遊戯王は基本、先功有利である。永理が生きていた世界では先攻ドローが無くなっていたが、この世界は未だに先攻ドローが残っているのだ。

 元の世界で最後にやったのはいつだったかな、と若干過去への感傷に浸りながら、デッキトップに指を置く。

 

「では気合、入れて、行きます! ドロー!

 モンスターをセット、カードを一枚セットしターンエンド!」

 

 永理の足元辺りに、横向きの裏側カードと縦向きの裏側カードが実体化する。向こう側が透けない技術、相変わらず凄い。これをエロゲに転用すれば、と邪まな考えは常に思っているが、やはり永理の技術的に無理だ。

 

「初手は守備を固める、か。それもいい、ドロー!

 自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚出来る! 来い、サイバー・ドラゴン!」

 

 亮のフィールドに、メタリックなドラゴンが現れる。ガラス越しのカメラの奥から、本物の竜に勝るとも劣らない眼力を感じる。

 こういった機械族系のモンスターは、遠目から見たらただの眼にしか見えないが、よーく近付いてみれば大量のコードやらレンズやらが見えたりする。こういう目に見えない所まで手を込んで作っているのが海馬コーポレーションだ、ちなみにCG製作にはあのフロム・ソフトウェアも関わっているらしい。流石フロム、変態である。

 

「融合呪印生物-光を召喚」

 

「うわキモッ」

 

 色々な生物がぐちゃぐちゃのごちゃまぜになったような、光の脳みそみたいな珍妙なる物体が現れる。正直、かなりキモイ。

 だがその効果は、見た目によるディスアドバンテージを差し引いてもお釣りがくるぐらい強力なものだ。

 融合呪印生物シリーズは融合代用モンスターであると効果と、もう一つの効果がある。

 

「融合呪印生物―光の効果発動。このカードと正規の融合素材モンスターを生け贄にして発動できる。

 光属性の融合モンスター一体を融合デッキから特殊召喚する。現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 双頭を持った、メタリックドラゴンが現れる。攻撃力2800、双頭の雷竜と同じ攻撃力だ。

 たった一ターンで、しかも手札消費二枚で出してくる。流石はオベリスクブルーと言うべきだろうか。

 

「押して参る! サイバー・ツイン・ドラゴンで伏せモンスターを攻撃、エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 口から出される高温の光線が、永理の伏せたモンスターに差し迫る。攻撃された事により、伏せたカードがオープンとなる。

 永理の伏せたカードは、メタモルポット、強力な手札交換カードであり、補充カードであり、時としてデッキ破壊のキーカードにもなる、割と強いカードだ。

 寸胴色の壺から、メタモルポットの仮面を付けたムキムキマッチョマンの、どういう訳か上半身裸の男がにゅっと出ると、指をパチンと鳴らす。謎の動作をしてから自ら、サイバー・ツイン・ドラゴンの熱線に飛び込んだ。

 

「メタポの効果、手札交換だ」

 

「……さっきの動作は必要だったのか?」

 

「……知らん」

 

 どういう訳か永理の使うカードはこういったように、他のカードとは何処か違うのだ。モンスターカードに限った話ではあるのだが、何故か普通ではない動作をする。

 何の嫌がらせだ、と思わずにはいられない。何せ普通とは違うパターンなだけで、効果自体はありふれたものばかりなのだから。

 

「まあいい、ツイバを直接ぶち込む。やれっ」

 

「所がイカのキンタマ、罠カード発動。ドレインシールド。その攻撃は無効となり、ツインさんの攻撃力分スシを補充!!」

 

「アイエエ……カードを二枚セットし、ターンエンド」

 

 ノリのいい男だ、亮とかいう奴は。本来スシを補充という台詞は非常食を使った時の方がいいのだが、まあノリとは得てしてそういうのを気にしてはならないのだ。気にしたら強羅が襲ってくる。

 

「俺のターン、ドロー。

 手札抹殺を発動、互いに手札を全て捨て、カードを五枚ドロー」

 

 手札交換、別に事故っていた訳ではない。むしろ手札はいい方だ。いい具合に墓地に落としておきたいカードと手札抹殺が、メタポの効果で引けたのだ。そもそも永理の使っているデッキの真骨頂は、墓地を溜める事にこそ意味がある。

 これによって墓地のカードは十枚、とはいえメタポは使わないのでそれを除外したとしても、九枚。最高のドロー数を誇るカードの使用条件を満たした。

 

「魔法カード発動、終わりの始まり。

 自分の墓地に闇属性モンスターが七体以上存在する場合に発動する事ができる。

 自分の墓地に存在する闇属性モンスター五体をゲームから除外する事で、自分のデッキからカードを三枚ドローする。俺は墓地のニュードリア二体、マッド・リローダー二体、死霊伯爵を除外し、カードを三枚ドロー。更に闇の誘惑を発動。カードを二枚ドローし、闇属性モンスター……クリッターでいいか、こいつを除外」

 

 終わりの始まりは発動条件こそ難しいが、それに特化さえすれば簡単に満たす事が出来る。とはいえ普通のデッキではまず入る事のないカードだ。闇の誘惑は闇属性モンスターを除外しなければ手札を全て捨てるというリスクこそあるが、闇属性モンスターを大量投入したデッキであればそのリスクはあまり気にならない。

 手札交換カード、だが別に事故っている訳ではない。このデッキは除外場と墓地をフル活用するデッキ、そしてその二つとも、十分に肥えた。

 であれば、後は勝ち筋をただ進んでいくだけ。このコンボは対策されると途端に弱くなるが、逆に言えば対策さえされなければかなりの勝率を誇っているという事になる。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動。左のカードを破壊。墓地のニュードリア、終焉の聖霊、紅蓮魔獣ダ・イーザを除外し、ダーク・ネクロフィアを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 顔色が悪い禿げ頭の女が、フィールドに現れる。手にはネクロフェイスのような人形っぽい赤ん坊。正直、かなりホラーだ。永理のデッキのエースの一体、切り札は複数用意しておくのが永理流だ。

 

「……攻撃力たったの2200、だが寝取られるのは厄介だな。そういうジャンルは嫌いではないが」

 

「寝取りとか言うのやめて」

 

 何故ほぼ初対面である男の性癖を知らなければならないのだ。というかこの男、いきなり何を言い出すのだ。と永理は思わずにはいられなかった。

 確かに、永理もそういうジャンルは好きだ。だが寝取られはどうも好きになれない。ヨヨは死ぬべきである。

 

「神風特攻されると厄介なのでな、縛らせてもらう。罠発動、デモンズ・チェーン!」

 

 攻撃を封じ、ついでに効果も封じてしまうかなり厄介な罠。だが真に厄介なのは、ダーク・ネクロフィアも所詮永理のカードだという点だ。

 どういう訳か亮の足元から現れたデモンズ・チェーンはダーク・ネクロフィアを亀甲縛りにしたのだ。誰が得するんだ、禿げの人妻SMプレイなんて。いくらなんでもニッチすぎるというものだ。そして海馬コーポレーション、これは全年齢対象ではなかったのか。

 

「このカードは君のエースカードなのだろう? それを封じさせてもらった、さあこれをどう突破する? この俺に見せてみろ」

 

「いいや、これでいい。その伏せカードが発動した。その結果だけでいいのだ」

 

 だがダーク・ネクロフィアがまさか亀甲縛りされるのは流石の永理も予想外だった。というか何処か艶やかな喘ぎ声を出している。流石にげんなりするというものだ。

 

「切り札は二つ用意しておくのが、俺の主義でね。紅蓮魔獣ダ・イ-ザを召喚する」

 

 永理のデッキの表切り札である、紅い悪魔が永理の場に、両脇に炎の柱を上げながら現れる。ただし、顔だけだして身体から足までまるで変形したアッシマーのような状態だが。

 そのアッシマーみたいな飛行物体から本来の身体が抜け出て、ちゃんとした赤い二本足でフィールドに降り立つ。流石は海馬コーポレーション、馬鹿の極みだ。

 

「グレンダイザーの攻撃力・守備力は、除外されている自分のカード×400ポイントとなる。

 除外されているカードは全部で九枚、よって攻撃力は3600なり」

 

「……ほう」

 

 亮は不敵な笑みを浮かべる。所詮オシリスレッドと何処か見くびっていたからだろう、ここまでやるとは思っていなかったのだ。

 思わぬ強者の出現、同志を見つけた時よりそれは大きい。

 

「バトルだ、グレンダイザーでサイツイを攻撃、ダイザービーム!!」

 

 ダ・イーザの眼から発射される熱光線によって、サイバー・ツイン・ドラゴンは呆気なく溶かされてしまう。

 だというのに亮は不敵な笑みを崩さない。自らのエースカードが倒されたと言うのに。

 

「カードを二枚セットしターンエンドだ」

 

 最初にライフを削り、エースモンスターを倒したというのに、どういう訳か永理は勝ちを確信出来ないでいた。

 追い詰めているのは、永理の方。追い風は永理に吹いている筈。だというのに、どういう訳か逆転されるのではないか。そう思わずにはいられない。

 亮は不敵な笑みを浮かべたまま、デッキトップに指を置いた。




《紅蓮魔獣ダ・イーザ》
効果モンスター
星3/炎属性/悪魔族/攻 ?/守 ?
このカードの攻撃力と守備力は、
ゲームから除外されている自分のカードの数×400ポイントになる。

永理「今日の最強カードは紅蓮魔獣ダ・イーザ。自分のカードに限定されるが、除外さえすれば破格の攻撃力を得る事が出来るぞ」

亮「UFOロボ、グレンダイザーはマジンガーZ、グレートマジンガーに続く三作目のマジンガーシリーズだ。だが製造理由は何故かは不明。まあ子供向けアニメにそんなのを求めるのは野暮ってものだがな」

永理「俺は真マジンガーが好きかな、丁度世代だし」

亮「あれは確かに平成に放送していたが、世代と言って……いいのか?」
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