万丈目が昇格、降格デュエルに敗れた。それによって誰もが、万丈目はラーイエローに格下げされると思っていた。だがその予想に反して、否それ以上の処遇──オシリスレッドへの格下げとなってしまった。
勿論、クロノスは万丈目からの希望を受け止め、その頼みを叶えただけである。だが一部から「やり過ぎではないのか」という声もチラホラと上がってきている。
最も、万丈目はそんな事知った事では無い。問題は、万丈目に割り当てられた部屋だ。
万丈目が暮らす事になったので、これまで永理が使っていたベッドは撤去され、代わりに一か月ほど前に入った三段ベッドが置かれている。
それはいい、狭いがオシリスレッドの殊遇としては当然の事だ。
問題は──部屋の汚さである。
「これは酷い」
赤いオシリスレッドの制服に身を包み、口元をマスクで覆いながら万丈目はぼそりと呟く。その隣ではヘル・ブランブルとヘル・エンプレス・デーモンがうんうんと頷いていた。
当の部屋主である永理はベッドの一番上で本を読みながら、万丈目のつぶやきに答える。その隣では死霊伯爵がベッドに腰掛けながら小説を読み、その膝の上でグレート・モスが寛いでいる。
「えっ、何が?」
床に散らばる菓子屑や総菜パンの空き袋、ろくに掃除されてないのか埃っぽい部屋。壁の直角を沿うように生えている黒カビ……あまりにも酷い有様だ。唯一綺麗なテーブルの上に、万丈目は自分の荷物を置いている。黒いボストンバッグだ。
この部屋へ入る前に、間違えて入った方には、黒カビなんてものは生えていなかった。そもそも、浴室ならともかくとして寝室にカビが生えるなぞ聞いた事が無い。
だが実際、永理の部屋に黒カビは生えている。そしてゴミが、散らばっている。まんま片づけられない症候群ではあるが、何故かゲーム類や漫画本が置いてある箇所だけちゃっかりと綺麗にしているので、別に片づけられない訳ではなく、ただ単に面倒くさがってるだけであろう。
「貴様、この惨劇を見て何も思わないのか」
「いつも通りじゃん、シングルベッドが無くなっただけで」
「ああ、いつも通りだ」
中段ベッドの上でゲームをしている亮が、言葉を紡ぎながらブーストチャージで敵を蹴る。ガコン、という景気のいい音が鳴り、画面に緑色で敵撃破を伝えるメッセージが英語で現れる。
現在亮は、金剛、ジャック・Oと共にオンラインで領地戦をしている。ゲーム内では自称『蹴りのカイザー』を名乗っているのだ。馬鹿である。
機体のカラーリングは全体的に青いが、機体のラインを沿うように赤い線が引かれている。そして何より、雷の痛デカールがデカデカと張っている。色々とギリギリな感じだが、一応全年齢向けである。
「ええい、貴様ら! 掃除するぞ掃除!」
「今いい所だから駄目」
慣れた手つきで足で箱を固定し、箱を開ける。中に入っている袋を永理の方に投げ渡すと、永理はそれを阿吽の呼吸でキャッチ。袋を剥いてから亮に手渡す。
カロリーメイト、プレーン味。クリームチーズととても合う美味しい栄養食品だ。だが亮は何もつけずにぼそぼそと食べる。
「ベッドの上でそんなものを喰うな! そして食べるかゲームするかどっちかにしろ!」
「断る。これは元々、手が離せない時の為に作られたものだ」
カロリーメイトは元々病院食である。決して、引きこもりニートのゲーム時間を僅かでも稼ぐ為ではない。最も、本来の用途というのは些細なもの。オムツだって介護用なのに廃人御用達になっていたりする、使い様によってガラッとイメージを変えるのが道具なのである。
「つーかさ、なんで万丈目がオシリスレッドに居るのよ。実力的に見ればさ、落ちるとしてもラーイエローじゃん?」
「……クロノス教諭に頼んだからだ。俺が三沢大地に負けたら、オシリスレッドに落とせとな。それより何だこの体たらくは、貴様それでもオシリスレッドの優等生か」
「アナトリアの傭兵だ」
永理はぱんっ、と読んでいた漫画を閉じ、一気に一番下まで飛び降りる。
ゴキッ、という音。亮がゲームする手を止め、下を見やる。すると永理は、まあ当然のように足を捻っていた。
「あー、なんてこった永理が死んじゃったー」
「この人殺し!」
勢いよく開けられた扉から、十代がそう叫びながら現れる。何故か物凄く生き生きとしているのは、いつも苦労ばかりかけている永理が負傷したからだろう。悪い子と付き合ったら悪くなる、というのは強ち迷信でもないようだ。
あまりにも色々と起きすぎてて、頭が痛くなってきたのか万丈目はこめかみを押さえる。なんだこれ、と自問自答するも、答えは出ない。まるでゼンモンドーである。
「あれ、なんで万丈目が此処に?」
「寮の降格だ。つかなんだ貴様も、いきなり人殺しとか」
「何か言わなきゃいけないと思って……」
痛みに悶えている永理を放っといて、そんなどうでもいい会話を続ける二人。亮はゲームのミッションが終わると、すぐさまベッドから梯子で降り、かなり古いタイプの、事務所に置くような小さな冷蔵庫から牛乳を取り出し、口の中にカロリーメイト(プレーン)を含みながら飲む。
口の中でプレーンの程よい甘さと牛乳が非常にマッチして、そこそこ美味いのだ。
「つか永理、どうしたんだ?」
「ベッドの最上部から飛び降りたんだ、馬鹿だろ」
亮が口に付いた牛乳の雫をぺろりと舐め取りながら、十代に状況を説明する。十代はなるほど、と言ってから馬鹿だろ、と思ったが口には出さない。言っても無駄だと解りきってるからだ。
唯一心配しているのは、万丈目の引き連れている精霊のヘル・ブランブルとヘル・エンプレス・デーモンだけだ。とはいえ駆け寄ったりはしない、ただ心配そうな眼を向けるだけだ。
「……そろそろか」
「何がだ?」
亮の謎のつぶやきに万丈目が尋ねると、その脇を通り抜けるように永理が冷蔵庫から買いだめしていたブラックサンダーを取り出し、ぱくりと食べる。
もしゃもしゃと食べ、ごくりと飲み込んだら空き袋は床の上に。
「永理、もう大丈夫なのか?」
「最近回復が早まってる気がする、俺の身体の事ながら何か怖い」
具体的に言えば、永理が回復するようになったのは十代のあの言葉が聞こえてからだ。まるであの言葉がトリガーかのように、永理の負傷した箇所は回復していく。人体の神秘と一言で片づけるにしては神秘にも程がある。というかもう、化け物の域だ。十代は平然としているが、その隣でハネクリボーは若干引き気味だ。正直、ハネクリボーのリアクションが一番正しいのだろう。
まあぶっちゃけて言ってしまえば、ただ単にこの世界がギャグ時空なせいであるのだが。
「って、そんな事より! 掃除だ掃除! 十代、貴様も手伝え!」
「嫌だよめんどくさい。あっ永理、あの漫画あるか? なんてったっけえーっと……あの、女の子が出てくる奴」
万丈目の言葉を軽く拒否し、十代はなんとなーく記憶に残っている漫画が、この部屋にあるか尋ねる。
女の子が出てくる奴、という情報だけではどういうものか見当もつかない。が、永理は友人の為、普段はゲームにしか使わない脳髄を働かせる。
「まどマギなら、巴マミの平凡な日常しかないぞ」
「逆に何でそれだけあるんだよ」
「ほら、ハイスクール・オブ・ザ・デッド持って無いのにハイスクール・オブ・ザ・ヘッド持ってるのと同じ原理よ」
何ともまあ解りにくい例えだが、十代は何処か納得したようにうんうんと頷いている。永理の後ろで話を聞いていた亮と万丈目、ついでに精霊達は首を傾げているが……本人達の間で通じ合ったのならば、問題は無いだろう。
大体そういうものだ、オタク同士の会話というものは。他人が聞けば一体全体何を話しているのか全く分からないが、その道の人が聞けばすんなりと理解する。理解されないものと諦めた者同士の会話とは、得てしてそういうものだ。
「それじゃなくてさ……あの、女の子が百合百合する奴」
「つぼみか?」
『ひょっとして、これですか?』
そう言い死霊伯爵が、膝の上からグレート・モスを下してから、本棚から『あの娘にキスと白百合を』を取り出し、十代に手渡す。亮はベッドの中段に戻り、ゲームを再開。ちらりと浮かんでいる本の方を見るが、すぐに意識をゲームの方に向ける。既にこういった精霊による怪現象は慣れっこなのだ。
「うーん……多分違うけど、永理貸してくれないか?」
「いいけど、汚すなよ。主に白い液体とかで」
「バーロー、誰が汚すかっつーの。んじゃな」
十代は死霊伯爵から漫画を受け取り、会釈をしてから自分の部屋に戻って行った。もはや最強のデュエリストがゲームに夢中なのに慣れているような感じさえする。
思わずこめかみを押さえる。正直万丈目としては、この部屋の主と最強のデュエリストとこれからやっていく自信が無い。強者と戦える、デュエル出来るというメリットこそあるものの、二人は予想以上に癖が強い。正直、実力を付ける前に胃に穴が空くだろう。
『あの、マスター……掃除は、どうなさいましょうか』
ヘル・ブランブルがおずおずと万丈目に尋ねる。が、万丈目はどう答えようも無い。何せ一番埃が溜まっているのは、確実に最上部にある本棚の上。それを掃除しない事には、どう解決もしない。
そしてある意味埃より問題なのが、カビだ。黒カビ、長時間吸っていたら色々と病気になるあれである。別に万丈目はアトピー持ちという訳でも、アレルギーがある訳でもない。だが、それらが無かったとしても健康に被害を及ぼすのは明白だ。
しかし、万丈目は生まれついてのボンボン。元々居たオベリスクブルーこそ自らの力で勝ち取った結果だが、それら以外は正直言ってそこらの金持ちの子息と何ら変わりない。掃除程度なら何とかなるが、カビの排除となると点で全く解らないのだ。
「大丈夫だって、たった三年や四年カビに囲まれてても、割と問題ないって。なー、カイザー」
「ああ、直ちに影響は無い」
信頼性がクソほども感じられない言葉、勿論そんな言葉を信じられる万丈目ではない。というか、万丈目の方を見向きもせずカタカタとずっとゲームをやっているさまを見て何を信じろと言うのか。長い髪は既にボサボサになっており、まるでニートだ。
「まあ、明日になったら床のは掃除するから大丈夫だ」
ベッドから身を乗り出し、永理がそう告げる。一か月に一度だけだが、永理は部屋の掃除をする。別に掃除なんて毎日やるものではない、というのが永理の考えだ。その結果がこれなのだが、永理としては別に異臭がする訳でもないので問題ないと判断している。
「カビは?」
「……」
永理はその問いに答えられず、眼を逸らす。
それに、カビは来た時からずっと生えていたのだ。ただ、永理の前世の部屋でもカビは普通に生えてたので見慣れていただけの事。もう部屋の黒カビはあって当然という認識が、永理の心の何処かにあった。だが、それは諦めから来る現実逃避だ。その現実逃避を、この世界に来てからもずっと続けていただけだ。
でも実際どうしようもない。アパートのような場所では、壁紙の裏にまで浸食しているカビをどうにかする手段は無い。壁を取り壊すか、という発想も一瞬浮かんだりしたのだが、それでは隣の部屋に迷惑をかけてしまう。
最も、既にかなりの迷惑を被っているのだが。主に騒音、深夜のゲームや馬鹿騒ぎで。
亮はミッションクリアしたゲームの手を止め、態々万丈目の肩にポン、と手を乗せ、こう諭す。
「カビは、カビキラーかけても壁の中から牛蠅のようにはい出てくる。つまりそういう事、丸藤亮です」
「何だその喋り方」
そう言い何処か満足そうな顔で、亮はベッド中段に戻る。忙しい人だな、と思う反面暇は人だな、と同時に矛盾した事を思ってしまう。
実際亮と永理は、忙しい暇人という、とてつもないほど矛盾した言葉が似合う。
ほどなくして、紙を捲る音とテレビ画面から聞こえてくる音、そしてゲームの音とコントローラーの音だけが部屋の中を包み込む。万丈目はぼっと立ってるのもあれなので、下段のベッドに転がり込んだ。
まだ作られてそれほど経っていないのか、傷一つない。実際万丈目がレッド寮に来る事になった際に、突如永理の部屋に運び込まれたものだ。まだ作られてひと月ほども経っていない。思った以上にフカフカな布団が、眠気を誘う。が、その眠気をゲームの音がかき消してしまう。
『しかし、万丈目さんの方は女の子いっぱいなのに……どうしてこちらの方は』
『ぷぴゅん』
死霊伯爵の言葉にグレート・モスが頷き、永理は半ば八つ当たり気味に本で死霊伯爵を叩く。とはいえ精霊は、この世界では実態を持たない。なのですり抜けてしまい、結果壁に当たってしまう。
「俺だって、俺だって……!!」
『まず女っ気が全く無いデッキってのがおかしいですよ。何ですか、なんで唯一の女性枠が人妻なんですか』
「人妻はエロいぞ」
精霊の声が聞こえていない筈の亮が答えて少しびっくりしたが、死霊伯爵は構わず話を続ける。ちなみに亮も、先ほど誰に言ったのか解らないのか、キョロキョロと辺りを見渡している。が、その間もコントローラーの動きは止まらないのは流石と言えよう。実生活では何の役にも立たないが。
『……まあ、とにかくです。現状を何とかしなければ、貴方は童貞のまま死んでいく事になってしまいますよ』
「いいもん、いざとなりゃレイプするもん! JSレイプしまくってやるもん!」
『JSに負けるくせに?』
ぐぬぬ、と永理は死霊伯爵の言葉に言い返せない。それは、死霊伯爵の言ってる事がまぎれも無い事実だからだ。JSに負ける、そんな高校生は存在しないだろうと誰もが思っていた。永理だって思っていた。しかし、実在したのだ。存在したのだ。永理自身が、それなのだ。
別に肉体に障害があるという訳でもない、正常だ。正常な筈なのだ。だというのに負けるのもおかしな話ではあるが、こればかりはどうしようもない。そして永理は、割と頑張るのが嫌いだ。確実に眼に見える評価なら苦労はしないが、頑張りが眼に見えないのは御免だ。
そもそもの話、永理の中での筋肉ムキムキの基準というのがラオウな時点でもうかなりおかしい。あんな筋肉達磨、女性に受ける訳が無い。
「風俗しかないなあ永理!」
「素人童貞って馬鹿にするんだろ、俺は解っているんだ頭脳指数が高いから解るんだ」
「お前過去に何があった」
亮はゲームする手を止めずに永理に尋ねる。その下で万丈目はあきれ返っていた。何とも馬鹿な話だ。高校生らしいと言えばらしいが、永理の眼には二人の女性の精霊が見える。つまり、居ると知っていてこの話をしているのだ。
はっきり言って、モテない理由は此処にあるのだろう。と、万丈目は勝手に予測する。
「どうせ女なんてなー! 金持ちんとこに尻尾振って行くに決まってんだよー! 高校生同士の恋愛でデキ婚してもさー! ぽいって捨ててさー!! 世の中金なんだよ! 見てるのは財布と口座の中身なんだよ!!」
「うわすっごい偏見」
永理は女生との経験が無い。前世では風俗やらに行った事やデリヘルを呼んだ事しか無く、正直言って恋愛に関しては初心者もいい所だ。
それもひとえに、この偏見のせいと言えるだろう。この偏見を持っているせいで女性を信じる事が出来ないのだ。どうせ裏切られる、と。別に過去になにかあった訳でもない、ただちょっと昔は思い込みが激しく、その思い込みが未だにこびりついているだけだ。
永理の中で一番つらい経験なんて痛風しかないのだ。
「もういいや! 万丈目、パソコン取ってくれ」
「ちょっと待て……ああ、これか」
「サンキュ」
万丈目から渡されたノートパソコンの電源を入れ、とあるサイトにアクセス。そして六桁ほどの値段がする人形を注文。永理のベッドに腰掛けながら、死霊伯爵は呆れている。何となく、しょうもないものを買ったんだなと万丈目は悟った。
ふと、本棚の奥に光るものを見つけた。永理は本をいったん取り出し、それを手に取る。それは一枚のパックだった。ずっと前に気まぐれで一つだけ買っておいて、すっかり開封するのを忘れていたパックだ。表紙にはバスター・ブレイダーとブラック・マジシャンが描かれている事から、もうずいぶんと前のものだと予測される。
「ふむ……」
正直保存状態は悪いので、たとえ絶版になっていたとしてもショップでは売れないだろう。だとしたら開封し、中身を確かめるか? と頭の中で好奇心が芽生える。
だが、一人で見るというのも何か味気ない。そう感じた永理は、今度は梯子を伝って下に降りる。
「どうした永理……って、なんだそのパック?」
「俺が小学生くらいの頃に買ったパック……だと、思う」
万丈目は興味があるのか、少々食いついてきた。古いものというのは、どういう訳か好奇心が刺激されやすい。アンティークショップとか対して興味が無いのについつい眼が行ってしまうのと同じような感覚だ。
パックの右端に付いている切れ目を引き裂き、中のカードを取り出す。
「うわっ、古っ」
「懐かしい、惹かれるな」
出てきたカードはあまのじゃくの呪い、ポールポジション、財宝への隠し通路、霊魂消滅、モリンフェンの五枚。正直、どれも使いこなせる気がしない。ポールポジションはスターダスト・ドラゴン/バスターを倒せる性能を持っているものの、肝心のスターダスト・ドラゴンは一般には流通していないので無意味。永理のデッキはその性質上、相手の場の方が攻撃力が高いという局面が多い。が、だとしても他のカードでカバーした方がいいだろう。あまのじゃくの呪いは、どちらかというと永理のデッキのアンチカード、財宝への隠し通路と霊魂消滅は使いこなせる気がしない。
ただ、一枚だけ。一枚だけ永理のセンサーに反応したのが、モリンフェンだ。
モリンフェン……レベル5、攻撃力1550という微妙にリクルーターで出せない数値の、バニラモンスター。使うメリットは、今や雑魚カードとなっている死霊伯爵以上に無いものの、謎の魅力に憑りつかれた者は多い。
「霊魂消滅か。終焉の炎を組み込めば、無理にではあるが使いこなせない事も無いか? いやしかし、その場合は事故が怖いな」
「……欲しいのか?」
「少し惹かれるな。ちょっと待ってろ」
万丈目がベッドから立ち上がり、ボストンバッグの中をごそごそと探る。そして一枚のカードを、永理に差し出した。
「えっ、いいのか? 本当にいいのか!?」
「俺のデッキとかコンセプトが合わん、貴様なら使いこなせるだろう」
万丈目がトレードに出したカードは、デビルドーザー。ピンク色のムカデだ。レベル8、墓地の昆虫族二枚を除外する事で特殊召喚可能な、攻撃力2800のモンスター。当然、霊魂消滅とのトレードに適しているかと問われれば、あまりにも勿体ないと誰もが言うだろう。
だが、万丈目が持っていたとしても宝の持ち腐れなのは確か。そして霊魂消滅も、ストレージを漁ればあるカードではあるが、既に絶版となっている。ある意味レアなカードだ。入手難度で言えば、パックから当てるつもりなら霊魂消滅の方が高いだろう。
「サンキュ、なんか悪いな」
「構わんさ。どうせ使わんカードだ」
万丈目からデビルドーザーを受け取ろうとした瞬間、万丈目は手をひっこめる。
「が、掃除してからの褒美だ」
「ファッキンブッダ! ……はあ、仕方ない。やるか」
そう言い永理は、大きな黒いごみ袋を取り出し、床に落ちている空き袋を拾いそれらを袋の中に詰めていく。亮はそれを尻目に、黙々とゲームを続ける。家主が掃除しているのに、この上級生は……と万丈目は思ったが、口には出さない。どうせ言っても無駄だというのが解りきってるからだ。
それに亮は、永理の部屋の中ではこんなでも学園では
はあ、と動かない亮に溜息を洩らしてから、万丈目もゴミ拾いを手伝い始めた。
油断してたらマジで部屋にカビは生えます。特に冬場は注意が必要です。結露が溜まりますので、それを放っといたらあっという間に……そして、夏には枕にカビが。
いや、うちがおかしいだけなんだけどね。