重金属を含んだ酸性雨はネオン看板を濡らし、行き交う人々は様々なレインコートに身を包み、誰もが暗く顔を伏せている。建ち並ぶビルには『アカチャン』や『むらかみてるあき』といった奥ゆかしい文字のネオン看板がかけられている。所々、寂れた廃ビルの下で違法屋台を出している事から、ここらの治安は悪いという設定なのだろう。
ここは英雄の街、スカイスクレイパー。だがそこには、希望といったものは見受けられず、誰も彼もが死んだような顔をしている。そんな世界のど真ん中に現れたのは、二人の青年。
一人は黒い制服を羽織った、サイヤ人っぽい髪型の青年。もう一人は虫の脚のように伸びた、左右六本の角を肩に付け、赤いマントを羽織り黒い鎧と兜を被った青年。
万丈目準と遊城十代である。十代の方のデュエルディスクは黒く、カードを置く部分は丸く収納されている。
「何だその恰好」
ちりちりと妙な音を立てながら、万丈目は十代の恰好について問いかける。
正直中二病臭すぎて、見てられない。万丈目にも少しばかり覚えがあるのだ。
「なんか覇王っての選んだら、これになった」
一人はがしゃんがしゃんと喧しい鎧の音を鳴らしながら、街を歩く。すれ違う人々はPCもNPCも、誰も彼もがレインコートを着こんでいる。
ここは仮想世界、デュエルモンスターズオンライン。プログラマーとデザイナーの暴走&悪ノリによって造られた3Dプログラムは、大変カオスな出来栄えとなっている。
「しっかし、四天王ってのは何処に居るんだろうな」
十代が歩くたびに下がっていくフェイスガードを手で押さえながら、十代は万丈目に尋ねる。今回ここへ来た目的は、四天王討伐。しかし、その相手が何処に居るのかはまでは依頼に書いていなかった。誰かに聞くという選択肢もあるが、暗い顔で通り過ぎていく人達を見てはどうも気が進まない。
「知るか……まあ、恐らくビルや塔といった高い所に居るだろうな」
「なんで?」
「馬鹿と煙は高い所が好きだからだ」
万丈目のあまりの物言い、だが十代は言い返せず苦笑い。実際彼らは馬鹿なので、強ち間違ってもいないと思ってしまう。
しかしビルとなると骨が折れる。今居る場所はスカイスクレイパー、ビルが立ち並ぶフィールドだ。その中のたった一つに四天王が居る。それを探すのは少々骨が折れる。
面倒な依頼を引き受けたと十代は嘆くが、時すでに遅し。既にミッションは受理してしまい、前渡金も貰っている。依頼を中断する事も可能だが、してしまえばただでさえ低い十代の評価がストップ安になってしまう。
「しかしさっきから、この音は何なんだ?」
「説明しよう!」
突如上かけられた声に対し、十代と万丈目は声のした方を向く。
鼠色の重金属性酸性雨を降らせる雨雲をバックに、高笑いしながら現れる一人の影。六階ほどのビルの上から、その人影は、奥ゆかしく悪役っぽいアモトスフィアの着地をした。
その男の上半身は無駄に筋肉質な裸で、腕には蟹のようなはさみ。下はふんどし一丁。そして特徴的なのが、頭に『興』といった感じのバケツを被っている。ファック&サヨナラしてきそうでとてもコワイ!
「その音はスカイスクレイパー特有の、重金属性酸性雨によるスリップ・ダメージだ! 頭に被り物をしていなければ徐々にライフが削られていき、最終的にはライフ1でデュエルをしなければならなくなる!」
何処かで聞いた事のある声で説明するバケツ頭。正直その説明も、どうも納得出来ない。何せそのバケツ頭は裸なのだ。裸にふんどしで蟹の手と、怪しさ重点である。
だが、それがゲームシステムであるのならそう納得するしかない。道理で先ほどからレインコートを着ている者が多い訳だ。と十代はバケツ頭に関しては眼を逸らし勝手に納得する。
「そうデース! そして私達の生命線でもあるライフポイントは、店で買い物する際に消費する事になりマース!
つまりライフ=マネー! 命を金で買う事はNOデスが、命を金代わりにする事は出来るのデース! まさに、マネーはライフよりヘビーネ!」
今度はビルから、白い服に赤色のアクセントが特徴的な和服を着、青いジャージを履いた白い髪の男が現れる。妙に片言で、どういう訳か背中に真っ赤な四角いジェネレーターを背負っている。
妙にテンションが高い。そして、バケツ頭と同じように何処かで聞いた事のある声。
「えっと……貴方達は?」
「俺の名はジャック・O、そしてこっちが」
「米国生まれの金剛デース!」
バケツ頭が手で促すと、金剛は右手を腰に当て、左手を突き出しながら自己紹介をする。
勿論彼らが言ったのはユーザーネームである。オンラインゲームで態々自分の名前を書くのは愚の骨頂、ノータリンな馬鹿のする事。彼らは当然、それを知っているのだ。
「ライフポイントを知るには、視界の右下の端にあるマークをタッチすればいい。それで君達の、現在のライフポイントが出てくる筈だ」
ジャックの言う通り気付かなかったが、右下の端にウィジャド眼のようなマークがあった。万丈目と十代は、取りあえずそれをタッチしてみる。
十代のライフポイントは4000のまま変わらずだが、万丈目のライフは3990となっている。
「取りあえず建物の中に入りまショウ、ここに居ては黒服ボーイのライフが減っていくだけデース」
「そうだな、こちらへ逃げ込め」
そう言い残し、ジャックは金剛が出てきた建物の中へと入っていく。万丈目と十代も、右も左もわからぬ状況なので取りあえず二人の後を付いていく事にした。
ぴしゃん、と足元の水溜りを思い切り踏んでしまうが、靴の中に水が入っていく様子は無い。感覚は本物とうり二つなのにこういったのを感じないというのは言い知れぬ違和感があるが、やはりゲームでは感覚を完全に再現する事は不可能なのだろう。
『ツキジ鎮守府』と低俗的に輝く看板が掛けられたビルの中に入ると、そこは言い知れぬ場所だった。
革製の見るからに高そうなソファー、大理石の床、テーブルも勿論大理石で、その上には黒光りするマグロが丸々一匹息絶えていた。血は既に抜かれており、テーブルの下には血で満たされたバケツがある。
壁に掛けられているショドーには『金剛カワイイ』『AMIDAカワイイヤッター』の文字。あからさまにACなのだ!
「取りあえず座りたまえ、ルーキー諸君」
ジャックと向かい側に、二人は座る。金剛と名乗った(見るからに男な)女性は飲み物を持ってくるからなのか、姿が見えない。
「スープカレーしか無いデースが、我慢してくだサーイ!」
金剛が湯呑みにスープカレーを入れ、テーブルの上に置いていく。喉が渇いたところにスープカレーとはいかがなものか、と思わなくもないが、とはいえ差し出されたものを断るのも大変失礼というもの。
ジャックが先にそのスープカレーを呑み、次に十代が口を付ける。まろやかな甘みと奥ゆかしくも自己主張を忘れないピリッとした辛さが程よい。が、ナン無しに食べるには少しキツく、間違っても飲み物ではないだろう。万丈目もそれに口を付ける。悔しい事に美味しいのだが、だとしても飲むには少しばかりキツい。
「さて、君達はこの世界についてどれくらい知っているのか、確かめさせてもらう」
「どこまでって……今日やり始めたばっかだから、なあ」
「正直言って、この世界がどういうシステムなのか全く持って解りません。というか、なんでスカイスクレイパーに酸性雨なんかが」
「私が説明しまショウ!」
無駄に生き生きと、眼を輝かせながら金剛は、何処からか取り出したホワイトボードに文字を書いていく。しかし、その文字はまるでミミズに硝酸をかけた時の動きの様な、とても読めない文字だ。もはや日本語なのか英語なのかすらわからない。
ジャックは溜息をつき、マジックペンを金剛から引っ手繰る。
「俺が説明する。まずは行く事の出来る世界からだ。
今現在行く事の出来る世界はここを含めて五つ。一つはスカイスクレイパー、どういう訳かアシッドレインも同時に展開されている。次にアンデットワールド、竜の渓谷、魔法族の里。そして暗黒海だ」
「暗黒界?」
「暗黒海だ」
十代のつぶやきに、ジャックはすぐさま訂正をする。しかし喋っているので違いがあまり解らない。すると金剛が、ヘタクソな字で『海』の文字を書いた。
かなり下手だが、一応丁寧に描いたのだろう。腰に手を当てふふんと言いたそうな様子だ。
「かいは『海』の方のかいデース!」
「うむ。そして次にフィールドごとの違いだが……この世界ではフィールド魔法を使えない、と思っていただこう。
暗黒海以外はモデルとなったフィールド魔法の効果がそのまま適応される。しかも破壊出来ないので、その厄介さは拍車かかかる」
フィールド魔法は、ある一定のデッキにとっては生命線といってもいいカードだ。それが使えないというのは、途轍もなく大きいデメリットである。だが逆に言えば、それらに対応したデッキであれば途轍もないメリットとも成り得る。何せ最初からフィールド魔法が展開され、しかも破壊出来ないのだ。パラドックス大歓喜である。
「しかし建物内部ではまた別の話だ。そこの場合は、フィールドの影響を受けずにフィールド魔法を展開出来る。
その他にも課金によって、建物内を自由にカスタムする事も可能だ」
ついでに補足すると、今現在もこのゲームは開発中な為、竜の渓谷と魔法族の里はフィールドの効果を発揮する事が出来ない。
そしてカスタムフィールドはかなりの高額が要求されるので、かなりの金持ちか廃人でないと手に入れる事は不可能なのである。だがこの変な格好している二人は金持ちな為、そこら辺の感覚がちょっと麻痺していたのでうっかり説明を忘れていた。
「では、ライフポイントについての説明をしましょう!」
金剛は何処から取り出したのか黒縁眼鏡をかけ、指示棒を手に持って説明し始める。勿論ホワイトボードにはジャックの書いていったフィールドの名前以外は書いていないので、指示棒は持つだけ。ただのお飾りである。
「デュエルモンスターズの基本ルールの説明は省略し、この世界特有のシステムをレクチャーしマース。
まずデュエルを始めるには、お互いにライフポイントを4000ずつ
そして、自身のライフが3000以下の状態で挑まれ負けた場合、その場でゲームオーバー、リスポーン地点からライフ4000でやり直しデース!」
ゲーム開始時に必要なコインが4000のライフで、負ければその半分を奪われる。連コインでライフポイントを増やす事が出来るが、その分だけ負けた際に取られる分が多い。短く説明すれば、こういう感じだ。
「そしてライフポイントをマネーとして使えるのは、自身のライフが4000を超えてから……メイルボーイ、ライフを確認してみてくだサーイ」
自己紹介をしていないので見たまんまで十代に促す。十代は言われるがままライフを確認。するとライフは4200に増えていた。万丈目の方は4190、十代より僅かに少ない。
「さっきのカレーでライフが回復しました。今現在メイルボーイが買い物に使えるライフポイントは200、今のところはカレーしか買えませんが、デュエルを繰り返していくうちにマネーはチャージされていくでショウ」
「頭の防具を買うのに必要なライフポイントは、最低でも2400……今のままでは購入出来そうに無いな」
と、なれば今のうちは、万丈目は外で行動するのを控えた方がいいという事になる。しかし、このままでは四天王を探しようも無いし、何よりゲームの中でまで引きこもりたいと思う人はそうそう居ないだろう。
で、あれば取る手段は一つだ。見た所二人はかなりの経験者、資金集めにはちょうどいい。万丈目はニヤリと笑い、デュエルディスクを起動させる。
「お、おい万丈目!」
「いや、いい。チュートリアルをしなければと思っていた所だ、相手になってやる」
ジャックは被っているバケツの中に手を突っ込み、そこからデュエルディスクを取り出す。あきらかに入らないだろうとか、入れる場所おかしいだろとかいうツッコミもあるだろうが、ジャックの付けているバケツはそういう機能なのだ。
そして両腕のハサミをパージし、カードを五枚引く。
「「デュエル!!」」
半裸男とのデュエルが始まった。絵面だけ見たらぶっちゃけ事案であるが、ここはフィクションの世界。法律は通用しない。
「まずは俺からイく、試させてもらおう! ドロー!
私は魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! 腐て打を一枚捨て、デッキから攻撃力3000・守備力2500のドラゴン族モンスター二体を手札に加える! 私はデッキから青眼の白龍二体を手札に加える!」
「青眼の白龍だって!?」
「何を驚く事がある、この世界では一般人も青眼を使う事が出来るのだぞ?」
そう、ジャックの言う通りこの世界では、一般人でも青眼を使う事が出来る。しかし勿論、この世界では青眼の白龍はレアカード、滅多に手に入らない代物だ。
「魔法カード、融合を発動! 手札の青眼の白龍三体を融合させ、青眼の究極竜を融合召喚!」
遊戯王をやっている者には説明不要と言ってもいいだろう。狂暴的なほど白い、三つの首のドラゴンが、巨大な羽を広げ現れる。
伝説が、たった一ターンで現れたのだ。
「更に魔法カード、黙する死者を発動! 墓地より通常モンスターを蘇生させる! 甦れ、青眼の白龍よ!」
究極竜の隣に現れたのは、白い龍。青い眼は敵を見やり、咆哮を上げる。
どう考えてもチュートリアルじゃないだろ、と万丈目は思う。というか、チュートリアルからこれとか心を折るつもりとしか思えない。デュエル初心者相手にこんな事したら絶対に泣かれるだろう。経験者でも戦意喪失する者が大多数だろうか。
ジャックの後ろで金剛が苦笑いをしている。
「キサ──青き眼の乙女を召喚!」
次に現れたのは、長く白い髪が特徴的な、清楚そうな女性。麻布の服がとても似合っており、神秘的だ。
「レベル8青眼の白龍に、レベル1のキサラをチューニング!」
「NO! その娘はキサラではありまセーン! 正気に戻ってくだサーイ!」
青き眼の乙女は白龍を抱き寄せ、共に九つの光と化す。そして光の塔が現れ、その中から青眼の白龍に酷似した白い龍が現れる。
「白き翼翻し、伝説の名の元に姿を現せ!」
その白い龍は青眼の白龍とは違い、肩やひざ辺りに白い棘が生えており、青眼より暴力的な見た目となっている。
「シンクロ召喚! 蒼眼の銀龍! 私はこれでターンエンドだ」
たった一ターンで、最上級モンスターが三体も並んだ。素晴らしい手腕、腕だけならプロを超えているかもしれない。だが一ターンでこれだけの数を並べるのは、少々警戒心が薄いようにも万丈目は思えた。仮にここで全体除去のカードを使われたら、ハンド・アドバンテージもボード・アドバンテージも万丈目の方が勝ってしまうだろう。
最も、今現在万丈目の手札に、そんな便利なカードは存在しないのだが。そして今回のデッキは、現実世界で使っているデッキとは少々違うのだ。
「俺のターン、ドロー! チッ、カードを一枚セットし、ターンエンド!」
忌々し気に万丈目はカードを伏せ、ターンを終了する。カードゲームは所詮運、運が悪ければモンスターが手札に来る事は無い。
「ふぅん、手札事故か。私のターン! ドロー! スタンバイフェイズ、蒼眼の銀龍の効果発動! 墓地より通常モンスター一体を特殊召喚する! 墓地の青眼の白龍を攻撃表示で特殊召喚!」
伝説の龍が蘇る。毎ターン通常モンスターのみという縛りこそあるものの、攻撃力3000のモンスターが蘇るのは非情に厄介だ。
「バトル! 青眼の白龍で直接攻撃! 滅びのバーストストリーム!」
「罠カード発動、和睦の使者!」
万丈目の前に、薄いバリアが張られバーストストリームを弾き飛ばす。円状に拡散するビーム、十代は慌てて身を屈め躱す。
「チッ、小癪な……ターンエンド!」
「俺のターン! 闇魔界の戦士長ダークソードを召喚!」
現れるのは黒を基調とし、所々が金色に輝く鎧に身を纏った戦士。手に持っている剣は刃元の部分が丸く抉れている不思議な形。ダークソードの乗る漆黒の馬は嘶く。
「闇魔界の騎士長……墓地の闇属性を除外する事で、相手の光族下級モンスターを吸収し、盾にする。デスが、それではジャックのモンスターをダーイする事は不可能デース」
「上り詰められないのなら、引きずり下ろすまで! 魔法カードを二枚発動する! 一枚目は、おろかな埋葬!
デッキからヘル・エンプレス・デーモンを墓地へ送る! 二枚目は、波動共鳴を発動! モンスター一体のレベルを4にする! 俺は、青眼の究極竜のレベルを4に!」
そう、波動共鳴でレベルを変換出来るモンスターに制限は無い。表側表示で対象に取る事さえ出来れば、どんなモンスターだってレベルを4にする事が出来る。
とはいえこのコンボ、あまり安定はしない。本来であればDNA移植手術等を組み込むし、そもそもカイザー亮に対するメタデッキとして作ったのだ。今回の様な野良デュエルは想定の範囲外なのである。
「墓地のヘル・エンプレス・デーモンを除外し……ダークソードよ、レベル4となった究極竜を吸収しろ!」
ダークソードが手に持っていた剣を掲げると、丸く抉られた箇所から光が溢れ出し、究極竜の身体を包んでいく。足を踏ん張り、必死に抵抗するも虚しく、まるで掃除機のコードを吸い込むかのように究極竜の身体は引っ張り込まれ、剣の穴を埋める。
「闇魔界の騎士長ダークソードは、相手の光属性・レベル4以下のモンスターを吸収し、盾とする事が出来る」
「ぐっ、おのれ……小癪な真似を!」
「カードを二枚セットしてターンエンドだ」
パワー・アドバンテージこそ万丈目が負けているが、いきなり究極竜を消す事が出来た。攻撃力4500というのはかなり厄介であり、あのまま置いていたらすぐにライフは尽きていただろう。だがこの状況であれば、少なくとも一気に決められる事は無い。
「俺のターン!
スタンバイフェイズ、蒼眼の銀龍の効果発動! 青眼の白龍を特殊召喚!」
「この瞬間罠カード発動! 奈落の落とし穴! 青眼の白龍を除外!」
蒼眼の銀龍の咆哮によって呼び寄せられた青眼の白龍、その足元にぽっかり空いた穴があったが、当然飛べるのでそのまま着地しようとはせず滞空したまま。だが、突如伸びてきた手に引っ張り込まれてしまう。
短い手で床に踏ん張るが、より一層強くなった力には勝てず、悲鳴のような鳴き声を残して姿を消す。
「またしても……ぐっ、バトルだ! 蒼眼の銀龍で忌まわしきダークソードを攻撃!」
本当に白龍より攻撃力が低いのか不思議になるくらい太い足を踏みしめ、口から銀色の光線を吐き出す。その太さはドラム缶を一瞬で包み込むほどだが、ダークソードの縦に振るった剣によって、真っ二つに引き裂かれる。その引き裂いた光線が、万丈目を襲う。
「ダークソードは吸収したモンスターを盾として、生き延びさせる事が出来る!」
「次! 青眼の白龍で攻撃! 滅びのバーストストリーム!」
青眼の白龍は口から、蒼眼の銀龍が吐き出したのよりいくらか細い光線を吐き出す。迫力としては蒼眼の銀龍の方が上だが、白龍の方は言い知れぬ神秘性を感じられる。
ライフはまだ残るが、ボード・アドバンテージは最悪な状態となるだろう。しかし、だというのに、万丈目は不敵な笑みを浮かべる。
ダークソードは先ほどと同じように光線を切り裂こうとするが、今度はそのような傾向も見られず光に包まれ、塵と化す。
「モンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカードは発動出来る! ヘル・ブラスト!」
突如蒼眼の銀龍の身体が内部から弾け、爆発する。重低音の轟音が鳴り響き、臓物を辺りにまき散らす。その際に飛び出した棘が、ジャックと万丈目の身体を貫く。
「相手場の攻撃力が一番低いモンスターを破壊し、互いにそのモンスターの攻撃力の半分のダメージを受ける!」
これで万丈目のライフは三桁にまで落ちてしまったが、依然その顔に恐れは見えない。ただただ、心の底から楽しいと思っている。追い詰められる感覚、圧倒的な力の差を見せつけられてなお噛みついていけるという事実。
懐かしい、あの恍惚感。
「俺はカードをセットし、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!
カードを一枚セットし、魔法カード地獄宝札を発動! このカードは手札がこのカードのみの時に発動可能、デッキからカードを三枚ドローする! 更にリバースカード、埋葬呪文の宝札を発動! 墓地の魔法カード三枚を除外し、カードを二枚ドロー! 速攻魔法、サイクロンを発動! 伏せカードを破壊する!
魔法カード、増援を発動! デッキから戦士族モンスター、地獄兵士を手札に加える! 更に魔法カード、死者蘇生を発動! 相手の墓地より青眼の白龍を蘇生!」
一気に手札を回復し、しかも伝説のモンスターを支配下に加える。ジャックはバケツ頭の奥で歯噛みした。
万丈目は逆境に落とされれば、それだけ燃え上がる性質の人間だ。そして彼は選ばれている、運に。デュエルモンスターズに。
そうでなくては、このような逆転劇を引き起こす事は不可能だろう。
「闇の誘惑を発動! カードを二枚ドローし、闇属性の地獄兵士を除外! 更に手札を一枚捨て、装備魔法D・D・Rを発動! 除外されているモンスター一体を特殊召喚! 来い! ヘル・エンプレス・デーモン!」
水色に歪む次元を、悪魔のような模様を付けた先端が二つに割れた杖で振り払い、紫色の肌をした悪魔が現れる。
攻撃力2900、ジャックとてこの総攻撃を受けたらひとたまりもない。というか詰みである。
「バトル! まずは青眼で青眼を攻撃! バーストストリーム!」
「くっ、迎撃しろ! バーストストリーム!」
青眼と青眼の光線がぶつかり合い、巨大なエネルギーの球を作りだす。バチバチと放電し、大理石の床が砕ける。やがてそのエネルギー球は爆発し、お互いの青眼を飲み込む。衝撃で黒光りするマグロが壁にぶつかり、バケツがひっくり返り、中に入れていた血が広がっていく。
金剛は小声で「掃除しなきゃデスね……」と嘆いていた。
「これで守る者は居ない! ヘル・エンプレス・デーモン! トドメを刺せ!」
万丈目の命令にこくりと頷き、杖を振り下ろす。黒い光線がジャックの身体を焼き、「アバーッ!」と悲鳴を上げる。
そして、ジャックのライフが尽きると同時に、先ほどまであったソリットヴィジョンが消え去り、いつの間にか手に持っていた筈のカードも姿を消す。
「……チュートリアル、クリアおめでとう。認めよう、その力を。今この瞬間から、君はデュエリストだ!」
むくりと起き上がりながら、ジャックはいつの間にか装着し直したハサミを万丈目に向けながら言う。デュエリスト──万丈目はこれまでずっと、デュエリストとして生きてきたと言うのに、その言葉がどういう訳か脳髄にまで染み込むような気がした。
まるで、やっと認めて貰えたかのように。不思議な感覚だ、言い知れぬ嬉しさがこみ上げてくる。
「ではチュートリアルも終わった所で、昇格したユーにプレゼントがありマース。受け取ってくだサーイ」
そう言い金剛が渡したのは、真っ黄色でたらこ唇な、それでいて眼がナメクジの角のような箇所に付いているよく解らない生き物の被り物だった。
万丈目は思わずその被り物を見、そして金剛の顔を見、もう一度被り物を見る。
万丈目もよく知っている、バニラモンスター。攻撃力0、守備力1000の雑魚で、サポートカードに恵まれてはいるが好んで使う者は少ないモンスターの一角……おジャマ・イエローだ。
「あの、えっと……これって」
「ユーにはこれしかアリマセーン! 何故かビビッと来ましタ」
物凄くいい笑顔で、グーサインを出す金剛。正直言って殴りたいが、折角の恩人にそのような事は出来ない。だが、金剛の後ろでゲラゲラ笑っている十代は後で殴ると、万丈目は心の中で固く誓った。
さーて、誰が誰か解ったかなー?