月影永理の暴走   作:黄衛門

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第24話 米国生まれの金剛デース!

「先功は?」

 

「ユーからで構いませーん」

 

 天井から降り注ぐ光の三原色が混ざり合い、両プレイヤーを白い光が照らす。

 ライフポイントは8000、永理の世界と同じ初期ライフ。それ以外は手札もデッキも何ら変わらない。が、この世界では現実世界と違い、一部のカードを除けば誰もが手に入れる事が可能。それが例え青眼だろうと、真紅眼だろうと。デッキ構築の自由度で言えば、現実世界なんぞ比較にならないくらい抜きん出ている。

 ナイトゴーはニヤリと笑い、カードを引いた。

 

「魔法カード、手札抹殺を発動。互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローします」

 

 金剛は少しばかり苦い顔になる。手札の中に、デッキの核ともいえるカードがあったからだ。その顔を見、ナイトゴーはほくそ笑む。

 

「更に魔法カード、ソウル・チャージを発動。墓地から任意の枚数モンスターを特殊召喚し、その数×1000ポイントライフを失う。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃出来ませんが……先功では関係ありません。私は墓地より闇の侯爵ベリアル、軍神ガープ、神獣王バルバロス、ザ・カリキュレーターを特殊召喚し、ライフを4000失う」

 

 夜行の場に、一気に四体ものモンスターが現れる。

 黒い羽を生やし、白く長い髪。何処となく丸っこい黒い鎧に身を包み、白いマントを翻しながら現れるのは闇の侯爵ベリアル。肩に付けられた鋭い爪が恐ろしい、クワガタのような頭が特徴的な薄紫の細い身体で軍をやっていけるのか不安になる軍神ガープ。下半身が馬で上半身が褐色肌の筋肉ムキムキマッチョマン、手に持っている赤い槍と丸く青い盾が武器の神獣王バルバロス。レジのような頭が特徴的で、胸に電卓のあれが付いている赤いメカ系ゲームに出てくる雑魚キャラのような見た目のザ・カリキュレーター。

 ザ・カリキュレーターの攻撃力は、場のモンスターのレベル×300ポイントとなる。今場に存在するモンスターのレベルは自身を入れて、24。よって攻撃力は7200。恐ろしい攻撃力だ。

 一気にモンスターを四体も揃えた。それも、どのモンスターの攻撃力もかなりのものだ。このプレイングは、ライフ4000ではそうそう出来ないだろう。

 

「……更に、軍神ガープのレベルを一つ下げ、墓地からレベル・スティーラーを特殊召喚! そして軍神ガープとレベル・スティーラーを生け贄に捧げ、モンスターをセット。更にカードを二枚伏せ、ターンエンドです」

 

 軍神は対して活躍しないで消えるのが不満そうに、スティーラーはまるで当たり前のように消え、代わりにモンスターが伏せられる。

 ザ・カリキュレーターの攻撃力は少々落ちるも、それでも5400。高い事には変わりない。

 

「アンビリーバボー! 素晴らしいタクティクス! たった一ターンでこれほどまで揃えるとは……流石、我が息子」

 

「今この場では、ただのデュエリスト……そう、認識してほしいものです」

 

 眼を細めながら、金剛は感慨深そうにカードを引く。

 既にお互い、正体が誰なのかは解っている。しかし、それをあえて追究する無粋な者は居ない。今彼らは、ただ二人のデュエリスト。そこに言葉は必要とせず、親子の縁も無い。ただ意地と意地のぶつかり合い、魂と魂のぶつかり合い。それだけがこの場での全てだ。

 

「ソーリー……無粋な事を言ってしまい、申し訳ない。

 お詫びに本気でお相手しまショウ! 魔法カード、テラ・フォーミングを発動! デッキからトゥーン・キングダムを手札に加えマース! 更に魔法カード、トレード・インを発動! 手札のトゥーン・アンティーク・ギアゴーレムを墓地へ捨て、カードを二枚ドロー! デッキトップからカードを三枚除外し、フィールド魔法トゥーン・キングダムを展開しマース!」

 

 金剛の眼の前に大きな本が現れ、それが開かれる。するとそこから、まるで絵本のように、ちゃちなお城が飛び出してきた。

 トゥーン、それはこの世界においてもある人専用となっているカード軍。専用カードではあるが、決して強くは無い。BFの方が強いとか、トゥーンのもくじだけあればいいとか言ってはいけない。

 

「……正体隠す気無いんですか、この世界でもそのデッキって」

 

「一般人には儀式ビート使うので、問題ありまセーン!

 魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地のトゥーン・アンティーグ・ギア・ゴレームを守備表示で蘇生! トゥーン・マーメイドを守備表示で特殊召喚!」

 

 飛び出す絵本の城から、武人が被る兜のような頭の、機械仕掛けのカートゥーンに出てきそうな見た目の巨人が飛び出してきた。左肩にむき出しの歯車があり、両足は太い重量級。左手は子供が見ても悪影響が出ないように先端が丸くなっている、アメリカでは何が原因で訴えられるか解らないのだ。

 その隣には、同じく絵本の城から飛び出した二枚貝。その中ですぴーと寝息を立てている緑髪の人魚。肌は褐色肌である。

 トゥーンモンスターの大きな特徴は、召喚酔いと言われる他のカードゲームと同じシステムを効果に搭載している点だ。召喚酔いを持たないトゥーンは、厳密にいえばトゥーンモンスターではないトゥーン・アリゲーターだけである。

 

「モンスターをセットし、カードをセット。ターンエンドデース!」

 

「私のターン、ドロー!

 モンスターリバース! 禁忌の壺!」

 

 禍々しい悪魔の模様が付いた壺の中から、プレデターのような口が覗いている。

 禁忌の壺、ペガサスが何とか禁止カードの効果を使わせたいと思って創りだしたカードである。その為その効果の凶悪さは金剛自身が一番よく知っている。

 

「第三の効果を発動! 相手場のモンスター全てを破壊! サンダーボルト!」

 

 サンダーボルト、それはデュエルモンスターズで初めて禁止となったカードである。効果は単純明快、相手のモンスターを全て破壊するという凶悪すぎる効果だ。

 ちなみに通常モンスターだけのデッキを組んで、サンダーボルトを一枚だけ入れるという遊びをしたら案外盛り上がるのだ。

 壺の中から稲妻が飛び散り、トゥーンに向かって行く。が、その寸前でその出力が消えた。

 

「そのモンスターの存在は読めてマシタ! 速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! 攻撃力を400アップさせ、禁忌の壺の効果を無効にしマース!」

 

 女神が聖杯を壺の中身に注ぎ込んでいる。ごぷごぷと嫌な音が鳴り、声無き悲鳴が壺の中から出ている。女神の口端がニヤリと上がっており、明らかにこの状況を楽しんでいる。

 追加で金色のバケツを何処からともなく取り出し、更に中に注ぎ込む。ペガサスがそれを止めようとするも、何か溢れ出ている黒いオーラで何も言えない。

 満足したのか駄目押しにバケツを壺の上に置き、女神は姿を消した。女神の皮を被った悪魔だと、創造者であるペガサスは思った。ちなみにモンスターの動きは主に海馬コーポレーションかフロム・ソフトウェアが製作している。

 

「一見正しいように見えた今の選択……だがそれは、大いなる間違い。禁忌の壺のレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを特殊召喚! ベリアル、スティーラー、壺を生け贄に捧げ、二枚目のバルバロスを召喚!」

 

 三体のモンスターが消え、数秒ほどしてから天から落ちてきた赤い槍が床に刺さり、そこから稲妻が溢れ出る。だがその稲光は、ペガサスの場に届く直前にかき消されてしまう。

 

「ですから……甘いと言ってるでショウ。手札からエフェクト・ヴェーラーを捨て、バルバロスの効果を無効にしマシタ」

 

 口では余裕そうに言ってのけたが、金剛は内心焦っていた。

 手札にエフェクト・ヴェーラーが来たのは偶然だし、相手の手札に二枚目が来るのはまだと高を括っていた。そもそも、最上級モンスターを躊躇いもなく生け贄にするという判断……成長したな、と喜びと若干の寂しさ。しかし、それを表には出さない。壁は厚ければ厚いほど、高ければ高いほど人を大きく成長させる。自分はそれにならなければならないのだ。

 

「カードをセットしターンエンド」

 

「私のターン、ドロー!

 トゥーン達を攻撃表示に変更! バトルデース! トゥーン・アンティーク・ギアゴーレムで直接攻撃! バアアアアニングゥ! ラアアアアブ!!」

 

 背中に付いているブースターから大きな光が溢れ出、一気にブースト。勢いそのままブースターを下の方へ向け、身体を浮かす。速度そのままに相手モンスターを飛び越え、相手プレイヤーの顔面にストレートを打ち込む。しかしナイトゴーはそれを両腕で防御、腕に伝う衝撃で半歩ほど後ろに下がる。

 トゥーン・アンティーク・ギアゴーレムは攻撃宣言時魔法・罠を発動出来ない。それはナイトゴーもよく知っている。

 

「これは……少々不味いですね」

 

「トゥーン・マーメイドで止めデース!」

 

 トゥーン・マーメイドは寝ぼけ眼をこすりながら弓を引く。矢は丁度ナイトゴーの頭上に向かって大きく反り上がり、天井を砕く。瓦礫に埋まったナイトゴーを見ててへぺろ、と自分の頭を軽く小突く。

 しかし、まだソリットビジョンは消えない。ごくり、と金剛は唾を呑む。

 

「罠カード、副作用? を発動。相手は一枚~三枚カードを引き、私は相手が引いたカードの枚数×2000ポイントライフを回復する。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」

 

 無駄に妙に厭味ったらしい言い方で、首の皮一枚を繋げられた。相手にカードをドローさせるという、決して小さくは無いデメリットはあるが、ライフ・アドバンテージに関して言えばこれ以上のカードは無いと言ってもいいだろう。便乗との組み合わせをすれば、手札補充も兼ねる事が出来る。

 

「では、カードを三枚ドローしマース」

 

「ライフを6000ポイント回復、いい傾向です」

 

「カードを二枚セットし、トゥーン・ヂェミナイエルフを召喚。ターンエンドデース」

 

 妙に脂っこい絵柄の、二人の女性。片方は金髪、もう片方は茶髪だ。どちらの髪も長く、胸は豊満である。

 トゥーンの最大の利点は直接攻撃が出来るという事。そしてトゥーン・ヂェミナイエルフは、オリジナルであるヂェミナイエルフと違いトゥーンの共通効果以外の効果を持っている。

 手札ハンデス、一部のデッキ以外では、手札一枚はライフ2000以上の価値を持つと言われている。その手札を削り取る効果は、いわば希望の一つを摘み取るのと同じ。とはいえこのターンは攻撃出来ないのだが、副作用? の効果で手札に来たのだから仕方がない。

 

「……私のターン、ドロー!

 魔法カード、アドバンスドローを発動! 場のバルバロスを生け贄に捧げ、カードを二枚ドロー! 更にトレード・インを発動! 手札の闇の侯爵ベリアルを墓地へ捨て、カードを二枚ドロー! 魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地のバルバロス、ベリアル二体、スティーラー、軍神ガープをデッキに戻し、カードを二枚ドロー!

 魔法カード、闇の誘惑を発動! カードを二枚ドローし、手札の闇属性モンスター──ヘル・エンプレス・デーモンを除外!」

 

 このターンのうちに決めなければ、そこで負けが確定する。自然と、手札を持つ手に力が入り、汗ばむ。

 手札は三枚まで回復した。代わりに墓地アドバンテージを失ってしまったが、逆転するにはこうする他ない。だが、逆転するには少々強引に動かなければならないだろう。そして現時点での手札では、それを突破する事は不可能。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動! トゥーン・キングダムを破壊!」

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂を発動! 魔法・罠カードの効果を無効にし、相手はカードを一枚ドローしマース!」

 

 勢いのあった竜巻は白い煙と共に小判へと変化する。

 狙い通りだ。相手はトゥーンを守る為、確実にこのカードを無効にするだろう。もう一枚のカードまで魔法・罠を守る物とは考えずらい。で、あればこのドローで全てが決まる。

 

「ドロー!」

 

 運とは、自らの力で引き当てるものだ。待っているだけでは神は味方してくれない、自分で口説かない限り。今日のナイトゴーは、逆転の女神へのナンパが上手く行ったようだ。

 

「バルバロス、壺、ザ・カリキュレーターを生け贄に捧げ、神獣王バルバロスを召喚!」

 

 壺が割れ、カリキュレーターの頭部分の数字がバグり、バルバロスの筋肉がひときわ膨れ上がる。そして巻き起こる、大地を割らんとする衝撃。これを防ぐ手は、ペガサスは持ち合わせていない。トゥーン・キングダムの効果も、トゥーンモンスターと同時に破壊されては発揮のしようがない。衝撃によって紙は引き裂かれ、トゥーン・モンスター達の身体も同じように引き裂かれていく。

 

「Oh my God! 私のトゥーン達が!」

 

「これでは防ぎようもあるまい! バルバロス!」

 

 バルバロスの投擲された槍が、真っ直ぐ金剛の胸へと向かって行く。守る壁も、罠も、何もない。一本の赤い線を空中に描きながら槍は空中で二つに分かれ、そのうちの片方がペガサスの人中に突き刺さる。

 

「罠カード、ダメージ・ダイエットを発動していまシタ。このターン受ける全てのダメージを半分になりマース」

 

「ならば、少しでも削るまで! 闇の侯爵ベリアルで直接攻撃!」

 

 ベリアルは両手剣を振り下ろす。するとそこから黒い衝撃波が、さながら鮫のように、床を割りながら金剛へと向かって行く。とはいえその攻撃は金剛の目前で半分程度まで小さくなってしまう。

 

「ターンエンド!」

 

 このターン仕留めきれなかったのは少々残念だが、それも仕方がない。相手はデュエルモンスターズの創造主にして、ナイトゴーの育ての親。勝てるとは思っていなかったが、それでも出来れば勝ちたかった。決して叶わない相手にそう思ってしまうのは、やはりデュエリストとしての性か。

 

「私のターン、ドロー!

 素晴らしいデュエルでしたよ、ナイトゴー。正直、ここまで追い詰められるとは思っても見ませんでシタ。既に貴方は、兄を超えているでショウ……しかし! ほんのちょっとですが、私にはまだ届きまセーン!

 ライフを1000払い、トゥーン・ワールドを発動!」

 

 城の次に現れたのは、街の一角。闇に光る家のランプ、路地を照らす街灯。そして墓。トゥーンの、漫画に仕込まれているブラックジョークを思わせるカード。

 しかし、このカード単体では何の効果も持たない。そしてトゥーンは召喚したターン攻撃出来ない。だというのに、このターンで決める宣言。手札には既に、必勝のカードが揃っているという事に他ならない。

 

「魔法カード、コミックハンドを発動! 相手のモンスターに装備し、トゥーンに代えコントロールを得マース!

 神獣王バルバロスをトゥーンに!」

 

 ディ●ニーに出てきそうな手のマジックハンドがトゥーン・ワールドの中から飛び出し、バルバロスを引き入れる。そして一旦トゥーン・ワールドが閉じられ、再度開かれる。すると目が大きく、更に全体的に丸く、白い無地のTシャツを着たバルバロスがトゥーン・ワールドから飛び出してきた。

 

「バルバロスが……しかし、私のライフは5600、削りきる事は不可能!」

 

「慌ててはいけまセン、ナイトゴー。魔法カード、コピーキャットを発動! 相手の墓地のカードを一枚選択し、それがモンスターなら特殊召喚、魔法・罠なら私の場にセットしマース。私はナイトゴーの墓地から貪欲な壺をセット!」

 

 黒い猫のような生き物がナイトゴーの墓地を漁り、貪欲な壺をペガサスへと手渡す。ソリットビジョンはたまに現実にも干渉出来るのだが、それが何故かはまだ解明されていない。

 

「&リバース!

 墓地のブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン、トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム、トゥーン・マーメイド、トゥーン・ヂェミナイエルフ、トゥーン・デーモンをデッキに戻し、カードを二枚ドロー!

 更に儀式魔法、イリュージョンの儀式を発動! 手札のトゥーン・デーモンを供物とし、サクリファイスを儀式召喚!」

 

 黄金色のウィジャド眼が描かれた壺から禍々しい色の煙が溢れ出、視界を包んでいく。

 まるで煙が重しかのようにのしかかる。プレッシャー、かつて伝説のデュエリスト、武藤遊戯を追い詰めたカード。それが現れようとしているのだ。

 地下深くに封印された魔物というイメージを持つ蒼い肌、獣のように鋭く尖った爪、虫のような羽。小さな顔の下には、顔より一回り大きなウィジャド眼がまるで寄生虫のように飛び出している。腹は何かを埋め込むかのように窪んでおり、足は逆三角形のものが一つ。当然それで身体を支える事なぞ出来ず、空中に浮いている。

 

「サクリファイスは一ターンに一度、相手モンスターを吸収し、その攻撃力を得る事が出来マース! 闇の侯爵ベリアルを吸収! ブラック・ホール!」

 

 窪んだ部分から黒い渦が現れ、ベリアルをそこに吸い込む。完全には吸い込まれまいと縁の部分に手をかけるが、すぐに増大した吸引力によって腕の骨は折られ、肉団子のように窪みを埋めていく。

 

「ベリアルまでも……流石です」

 

「バトル! トゥーン・バルバロスで攻撃! トゥーン・トルネード・シェイパー!」

 

 アメコミチックになったバルバロスは槍をナイトゴーに向け、柄の部分を押す。すると槍が点火し、さながらロケット弾のようにナイトゴーへと飛んで行き、爆発した。

 

「トドメデース! サクリファイスで直接攻撃!」

 

 サクリファイスの窪みから鋭い棘が生え、ベリアルの身体を突き刺す。ベリアルは一瞬苦しそうに声を上げるも、すぐにぐったりと力を抜く。

 そして窪みに黒い光が集まり出し、太いレーザーとなってナイトゴーを飲み込む。

 デュエルは終わり、ソリットビジョンは消える。ナイトゴーは負け、尻もちを付く。その表情は悔しそうだが、何処か満足したかのように笑みを浮かべていた。

 金剛はナイトゴーに駆け寄り、手を差し伸べる。ナイトゴーはその手を受け取り、立ち上がる。

 

「夜行! いえ、ナイトゴー。大丈夫デースか?」

 

「平気です……お許しください、ムーンナイト=サン。私はご信頼に背きました」

 

 負けて尚ネタを言ってはいるものの、身体は徐々に下から消えて行っている。デスポーンするのだ。別に命とか賭かっていないのだが、この演出はどうも対戦相手を心配させてしまう。

 

「……夜行、別に貴方がこのゲームをやる事に対して咎めようという気はありません。しかし、何故四天王になったのデスか?」

 

 その声はいつものキャラクターのものではない、父の声だ。まあ、息子がオンラインゲームで崇められる存在にまで上り詰めたとなっては、こうならずにはいられないだろう。

 ナイトゴー──夜行は薄く笑いながら、それに答え始める。

 

「もう月行と間違えられるのは、嫌だったんですよ。私に声をかけてくる人はみんな月行と間違えてだし、私のファンもどういう訳か月行の方に行くしで……」

 

 何とも言えない事情であった。これに関してはペガサスは何も言う事が出来ず、そして解決させる事も出来ない。双子というのはこういう時損をしてしまう。それも、プロデュエリストとなればなおさらだ。

 

「だから、誰にも間違えられないNPCの世界を──ハーレムを創ろうとしたのです! コンピューターなら間違える事ありませんから!」

 

 既に腹の辺りまで消えている夜行、その答えは聞いててなんか虚しくなる話だ。兄のファンに間違えられ、更に自分のファンも間違えられていく。これ以上に悲しいものはない。

 

「……しかし、負けたのであれば手を引きます。それほど執着していた訳でもないので」

 

「夜行……」

 

 色々と吹っ切れたように笑う夜行に、ペガサスは慰めの言葉をかけようとする。しかし、何もいい言葉が思い浮かばない。というよりどう慰めればいいのだという話になる。

 

「それとペガサス様、最後に一言だけ。あい──」

 

 そこで夜行は姿を消した。完全にデスポーンした。

 取り残されたペガサス、最後の言葉が何だったのかが激しく気になる。もやもやとした気分、例えるなら歯茎にトウモロコシが挟まったような気分。それだけが、一階の場に残った。




 はい、という訳で四天王の一人は天馬夜行でした。予想出来ないデュエリストとして真っ先に思い付いたのがこいつです。選んだ理由は何となく、マジでそれだけです
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