月影永理の暴走   作:黄衛門

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第25話 遊びだから本気になれる

 ぎょろり、と壁に埋め込まれた眼がジャックを睨み付ける。カスタムフィールド、多額の課金をしなければ使用する事が出来ない厄介なフィールド。その効果は要するに、常に展開され破壊も塗り替える事も出来ないフィールド魔法。課金するだけの価値があるかどうかは怪しい所だが、兎に角強力なものだ。

 近未来の武器やパワードスーツの製造工場と言っても信じられるような、白い部屋。壁も床も六角形のデコボコ、そしてその部屋と一体化した女性。

 

「何処かで会ったような気が……」

 

「他人の空似という奴だ」

 

 そして対するは頭隠して下隠さず、ふんどし一丁のムキムキマッチョマンな変態。事案ものである。とはいえ仮想世界なので、現実の法律を何やかんやする事なぞ造作も無い事なのだ。

 それでも、この空間が言い知れぬシュールを醸し出しているのに言い訳は出来ない。機械と一体化している女性と、八裸の男。上手く言葉に言い表せない空間だ。

 

「私は面倒が嫌いだ。とっとと終わらせて、大好物のトリシューラプリンを食べるのだ」

 

 トリシューラプリンとは、ターミナル・エイトで売られている高人気、高価格、高カロリーと三拍子揃ったウルトラレアスイーツである。お値段一つ五千円。女性にも人気だが、そのカロリーの高さから金持ちでもあまり手の出せない代物だ。

 

「ふぅん。デュエルに置いて、言葉は意味をなさない。力を示したいのであれば、結果で示す他ない。貴様の実力がどれほどの物か、試させてもらおう!」

 

 なんかかっこいい事言ってる風だが、忘れてはならない。バケツ頭のふんどし一張羅なのを。

 

「「デュエル!」」

 

 相手が誰であれ、やる事は変わらない。世界の破滅も、それを阻止させるのも。全てデュエルで解決してきた。今回はただのゲームで何も掛けてはいないが、それでも両者とも、負けるつもりは毛頭ない。

 

「先功は私だ、ドロー!

 課金の力を見せてやる! 特殊フィールド、フォルテシモの効果発動! 手札から機皇兵と名の付いたモンスター一体を特殊召喚する! 機皇兵スキエル・アインを守備表示で特殊召喚!」

 

 眼の様な部分が回転して開き、その中から全体的に細い一つ足の機械の鳥が現れる。身体は青く塗られており、肩から羽のように生えている反重力ユニットで空中に浮いている。両手は機銃となっている。

 手札消費無しでフィールド魔法の効果を使えるというのは、やはり強力だ。

 

「更に機皇兵ワイゼル・アインを召喚! そして機皇兵の効果発動! 自身以外の機皇兵と名の付くモンスターが存在する場合、スキエル・アインは200、それ以外の機皇兵の攻撃力は100ずつアップする」

 

 次に現れたのは、白い人型の機械だ。全体的に軽量で、太い装甲のようなものが取り付けられた右腕と、内部にレーザーブレードが仕込まれた細い武器腕。左右非対称の腕が特徴的だ。

 

「魔法カード、機皇帝の賜与を発動! 場に機皇と名の付いたモンスターが二体のみの場合に発動、カードを二枚ドローする! このカードを発動したターン攻撃は出来ないが、先功では関係ない。カードを二枚セットし、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

 儀式魔法、白竜降臨を発動! 手札のアレキサンドライドラゴンを供物とし、白竜の聖騎士を儀式召喚!」

 

 天より一振りの剣が落ち、床に突き刺さる。すると稲光がその剣に直撃し、白い煙で視界を満たす。煙が晴れ現れたのは、豆のような頭をした蒼い竜にまたがった、蒼い鎧に身を包んだ騎士。上半身の鎧には金色のアクセントが付いており、下半身の鎧には緑色の布のアクセント。マントが無駄に棚引く。

 

「更に魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! 手札を一枚捨て、デッキから攻撃力3000・守備力2500のモンスターを二体手札に加える! デッキから青眼の白龍二体を手札に加える! そして白竜の聖騎士を生け贄に捧げる事で、手札・デッキから青眼の白龍を特殊召喚する! 俺はデッキから、青眼の白龍を特殊召喚!」

 

 聖騎士が自らの喉に剣を斬ると、そこから肉が裂け、あきらかに物量保存的に収まらないだろう白い龍が血を滴らせながら現れる。フロムが担当するようになってから、こういった所に力を入れるようになってきたのだ。一部のPTAから苦情は来ているが、だがその分迫力が増したのでジャックとしては何の問題も無い。苦情なんて聞かぬ存ぜぬで成長してきたのだ。

 

「この効果を発動したターン、青眼の白龍は攻撃出来ない。が、素材にすれば関係ない。魔法カード融合を発動! 手札の青眼の白龍二体と、場の青眼の白龍を融合! 青眼の究極竜を融合召喚!」

 

 三体の龍が場に現れ、渦の中に溶け込みまるでナメクジの交尾のように溶け合う。その渦の中から一筋の光が溢れ出、三つ首を持った竜が姿を現す。

 伝説の竜、と言われている割には負けフラグの別名も持つ伝説のモンスター。額にはWの文字が。

 

「バトルだ! 青眼の究極竜で機皇兵ワイゼル・アインを攻撃! アルティメット・バースト!」

 

 三つの首から太い光線がそれぞれ発射される。たった一機を消し飛ばすには過剰すぎる火力だが、ゲームシステム上仕方のない事なのだ。

 しかし光線はワイゼル・アインに当たる直前に、スキエル・アインの方へと曲がった。光線によってスキエル・アインの身体が消し飛び、爆発し、そこら中にパーツを散らばせる。

 

「罠カード、シフトチェンジを発動。自分場のモンスター一体が魔法・罠・攻撃対象に選択された時、それを自分場に存在するモンスター一体に変更する。この効果によって、私は攻撃をスキエル・アインに移し替えた。

 そして機皇兵スキエル・アインのモンスター効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから機皇兵と名の付くモンスター一体を特殊召喚する! 私はデッキから、機皇兵スキエル・アインを特殊召喚!」

 

 新たに現れる機皇兵。リクルート出来るモンスターは限定されていものの、場に存在するだけで攻撃力を上げる効果。かなり厄介なカードだ。

 

「チッ、速攻魔法超再生能力を発動! このターン手札から捨てた、もしくは生け贄にしたドラゴン族モンスターの数だけ、エンドフェイズにカードをドローする! そしてエンドフェイズ、俺がこのターン捨てた、もしくは生け贄にしたドラゴン族モンスターは白竜の聖騎士、アレキサンドライドラゴン、ドレッド・ドラゴンの三体! よってカードを三枚ドロー! ターンエンドだ!」

 

 手札も三枚だけではあるが補充出来た、引いたカードも悪くない。場には攻撃力4500のモンスター、状況的には悪くない。しかし、相手のデッキは未だ未知数。そしてジャック自身もなんとなく、青眼の究極竜は負けフラグだという事実に気付いてきている。

 

「私のターン、ドロー!

 私は機皇兵グランエル・アインを召喚し、効果を発動! このカードの召喚時、相手場のモンスター一体の攻撃力を半分にする! グラビティ・プレッシャー!」

 

 両手が平べったい武器腕のようになっている、真っ黄色の機械。下半身は半円で、ホバー式なのか空中に浮いている。

 グランエル・アインの武器腕から虹色の光線が出ると、青眼の究極竜の動きが気持ち半分鈍った。しかしそれでも攻撃力は2350、絶望の場には機皇兵が三体居るものの、一番高い攻撃力はワイゼル・アインの2000、まだ足りない。

 

「貴様に面白いものを見せてやる……レベル4の機皇兵グランエル・アインとワイゼル・アインでオーバーレイネットワークを構築!」

 

「オーバーレイだと!?」

 

 絶望の前に黒い渦が現れ、その中に光と鳴ったグランエル・アインとワイゼル・アインが入っていく。

 

「これぞシンクロ召喚と相反し、その脅威を打ち消す召喚方法、エクシーズ!」

 

 ジャックはその言葉を聞き、大きく眼を見開く。

 渦の中から大きな爆発が起き、光が漏れる。エクシーズ召喚、シンクロ召喚が発表されまだ間もないというのに、二年後に発表されると既に決まっている召喚方法。勿論まだ公表もされておらず、動作テストのカードしか作られてない筈のカード。だが実践に使うという事は、実践に出しても問題ないステータスと効果を持っている事に他ならない。

 

「エクシーズ召喚! 発条機甲ゼンマイスター!」

 

 四つの脚がロケットになっている、カラフルな機械。細い両腕に繋がれた、黄緑色の掌と赤い指。肩には扇状に広がった何かよく解らないものが付いている。身体部分を覆う鎧は青く、そして武者のようなロボット頭。カラーリングは見るからに子供向け特撮ものに出てきそうだ。

 

「何故貴様が、まだ発表されていないカードを持っている!?」

 

「私がシンクロ召喚とエクシーズ召喚を伝えたからだ。このままいけばいずれ人類はシンクロ召喚によって滅びる……だが、私達が暮らしていたのとはまた別次元に現れたエクシーズ召喚、それはシンクロ召喚が生み出すエネルギーを打ち消す、反対のエネルギーを持っていた。私とて、シンクロ召喚が無くならないのであればそれに越した事は無い。だから私は、ペガサスにこのカードの存在と、放っておけばいずれ訪れる未来を伝えたのだ」

 

 絶望はエクシーズを持っている理由を答えたものの、その内容は到底信じられないものだった。未来から来たとか、いずれシンクロが世界を亡ぼすだとか、到底信じられないオカルト話。しかし、ペガサスが突然二種類の新たな召喚方を発表した事に関しての説明は、一応付く。いくら天才だとしても、いきなり二種類の召喚方が思いつくなぞ不可能だ。

 

「そして私は! この世界で放送されているアニメを全て見るまで死ぬ訳にはいかない! 今季のアニメが終わったら、学校の階段で放送されなかった口裂け女を何としても放送させ、そしてサイボーグクロちゃんの製作会社を倒産から救う!」

 

 あのオカルト話で終わっていればシリアスになったというのに、絶望はすぐにネタの方へと持っていく。何だかため息が出る話だ。

 

「発条機甲ゼンマイスターの攻撃力は、エクシーズ素材の数×300ポイントアップする! 今の素材の数は二個、よって攻撃力は2500! スキエル・アインを攻撃表示に変更し、バトルだ! 発条機甲ゼンマイスターで青眼の究極竜を攻撃! そしてスキエル・アインで直接攻撃!」

 

 ゼンマイスターは一気に距離を詰め、下半身のブースターで焼き殺す。白い鱗が焼かれ、黒く焦げていく。断末魔を上げる間もなく、究極竜は絶命した。その青眼を乗り越え飛んできたスキエル・アインの両手から何発も機銃が落とされる。

 

「貴様を倒し、ついでにジョジョ一部の映画も復活させる! ターンエンドだ!」

 

 全く脈略の無い目的を宣言する絶望、しかも無駄にいい笑顔である。

 ちなみにまだその目的を達成しようと何かをした事は無い。アニメが多すぎるせいで無理なのだ。多分一生無理だろう。

 

「俺のターン!

 貴様の目標は大層な事だが……それでは俺を倒すことは出来ぬぞ! 龍の鏡を発動! 墓地の青眼二体、究極竜、アレキサンドライドラゴン、白竜の聖騎士を除外し、F・G・Dを融合召喚!」

 

 鏡の中から現れた五色の首を持った、黄色い身体の龍。炎・光、水、そして何故か闇の首が二つある。かつて海馬瀬戸の父親となり、自殺した海馬剛三郎の元部下であるビッグ5が融合した姿。

 首には無い属性なのだが、風属性にも耐性があるのだ。最も、高い攻撃力故戦闘破壊耐性がほぼ機能しないのだが。

 

「バトルだ! F・G・Dでゼンマイスターを攻撃!」

 

『検診のお時間だァ!』

 

『お注射よ♥』

 

 F・G・Dから無駄に野太い声が響き渡り、どういう訳か現れたお注射天使リリーがぶっとい注射でゼンマイスターの人間でいう尻部分に突き刺す。

 Oh……という声が漏れ、ゼンマイスターはしめやかに爆発四散した。

 ジャックは若干、このカードを使って後悔している。ビッグ5の誰かが出るだろうとは思っていたが、大門のボイスであんなのを言われるとは思っていなかったのだ。

 

「カードをセットし、ターンエンド!」

 

「私のターン、ドロー! ……スキエル・アインを守備表示に変更、カードを一枚セットしターンエンド!」

 

 スキエル・アインは盾を無駄に曲げ、盾のように構える。

 デュエルの流れはジャックが殆ど持って行っている。絶望はまだ未知なるエクシーズ召喚を使用しているというのに、である。デッキに一族の結束を入れているので機械族以外のカードは使えず、更に機皇兵は魔法・罠で補助して殴るタイプのデッキ。いかにして相手よりアドバンテージを稼ぐかが重要になってくるのが、機皇兵のデッキなのだ。

 

「俺のターン、ドロー!

 ふぅん、まさに鎧袖一触だな。永続罠、竜魂の城を発動! 今は何の効果も発揮出来ないが、F・G・Dにはほぼあって無いようなもの! F・G・Dで攻撃!」

 

『可愛ければ性別なんぞあって無いようなものなのですよ! 機械を操る猫耳八重歯女性で更にTSとかもう……ヌフフーフフフ!!』

 

 ソリットビジョンで現れたシルクハットを被り、スーツを着たペンギンがそんな事を言いながらスキエル・アインに急降下して突っ込んでいく。

 隠す気の無い変態発言。こんなのが海馬コーポレーションで重役になっていたというのだから、現実は小説よりも奇である。

 バキン、という音を鳴らしフレームやらが飛び散る。

 

『しかしTSで男と犯るのは違う! 私は百合百合しているのが見たいのですよ!』

 

「……消えろ!」

 

『アバーッ!?』

 

 ジャックがパージしたはさみの片方をペンギンにぶん投げ、それを無理矢理打ち消す。

 もうなんか、聞いてるだけでF・G・Dを出した事を後悔してしまう。というかこんなのが重役になっていたと思うと、どういう訳か自分の会社さえも嫌になってくるのだから不思議だ。本当、首にしてよかったとジャックは心の中から思う。

 

「スキエル・アインの効果を発動! デッキからワイゼル・アインを特殊召喚!」

 

 再び現れたワイゼル・アイン。だが、未だ相手は切り札と思わしきカードを出していない。まさかゼンマイスターが切り札な訳でもないだろうに。

 少しばかり怖い所だが、今ジャックの手で打てるのは罠を仕掛ける事だけ。

 

「カードをセットし、ターンエンド!」

 

「貴様のエンドフェイズに罠カードを発動する、ロスト・ネクスト! 場のモンスター一体を選択し、そのモンスターと同名のカードを一枚デッキから墓地へ送る。私はワイゼル・アインを選択し、デッキからワイゼル・アインを墓地へと送る! そして私のターン、ドロー!

 魔法カード、悪夢再びを発動! 墓地の闇属性・攻撃力0のモンスター二体を手札に戻す! 私は墓地のワイゼル・アイン二体を手札に戻す! 更に手札から、機皇と名の付くモンスター……機皇兵ワイゼル・アイン二体と機皇兵グランエル・アインの系三体を墓地へ送る事で──現れろ、三つの絶望! 機皇神マシニクル∞!」

 

 白いトンガリ頭の機械の巨神が現れる。両肩にはエネルギーユニットらしきものが真っ黒な空間の中に浮かんでおり、更に肩の上には羽のようなもの。右手には盾らしきものと、左手は銃。身体は何となく軽量っぽいが、足はかなり太い。AC的に見たら中途半端感が否めないモンスターだ。

 

「更にチューナーモンスター、ブラック・ボンバーを召喚! 効果によって墓地のレベル4・闇属性の機械族モンスター、機皇兵ワイゼル・アインを特殊召喚!」

 

 黒い爆弾が現れ、爆発するとその中からワイゼル・アインが現れる。

 チューナー、絶望が生きていた時代では世界を破滅させた原因の一つではあるが、今は違う。ただの一枚のカードだ。

 

「レベル4ワイゼル・アインに、レベル3のブラック・ボンバーをチューニング!

 アニメの平和を守る為、勇気と力をドッキング! シンクロ召喚!」

 

 七つの光となった輪から光が溢れ、その光の中からモンスターが現れる。シンクロ口上はまるで正義の味方っぽいが、彼はあの永理と意気投合した者である。

 

「愛と正義の使者、ダーク・ダイブ・ボンバー!」

 

 戦闘機のような風貌をした、銅色の機械が現れる。肩に二つのジェットエンジンを乗せ、両手の甲には防御盤が。錆鉄色の羽を背負い、二本の足で地面を立つ。しかし何処となく、その風貌はトゥーンっぽい。

 現れたのは、愛と正義の使者を名乗る割にかなり物騒な感じのモンスター。見た目や効果からして、明らかに悪役が使いそうなカードである。まあ強ち間違ってもいないが。

 しかし、どれだけモンスターを並べようと、F・G・Dの攻撃力を超える事は出来ない。が、絶望の口がニヤリと歪んだ。

 

「ダーク・ダイブ・ボンバーの効果発動! 一ターンに一度、メインフェイズ1に自分場のモンスター一体を生け贄にし、そのレベル×200ポイントダメージを与える! 私はダーク・ダイブ・ボンバーを生け贄にし、1400ポイントダメージを与える! D・D・ダイナマイト!」

 

 いつぞやの万丈目が使った時とは違い、腰にダイナマイトを巻き付け自爆特攻。もしこの場に十代が居たら、お前爆撃機だろ、というツッコミが入るだろう。しかも何故か劇画チックになっていたし。

 

「ぐっ……しかし、その程度のダメージでは俺は倒せんぞ!」

 

「まだ慌てるような時間ではない。罠カード、ギブ&テイクを発動! 自分の墓地からモンスター一体を相手場に特殊召喚し、自分場のモンスター一体のレベルをそのモンスターの数だけ上げる! 私は墓地のダーク・ダイブ・ボンバーを相手場に特殊召喚し、ワイゼル・アインのレベルを7アップさせる!」

 

 ジャックの場にダーク・ダイブ・ボンバーが召喚される。ギブ&テイク、墓地のモンスターを相手に与える事でレベルを上げるという一見メリットよりデメリットの方が勝るように見えるカード。だがその真価は、そのデメリットにこそある。

 リクルーターを相手に押し付ける、G・コザッキーやマンモス・ゾンビといった自壊モンスターを送り付け更にダメージも与える、キメラティック・オーバー・ドラゴンの的にする等々……割と悪用は出来る。

 そして絶望の場合、さながらマッチポンプ染みた動きをする事になる。

 

「何のつもりだ、俺の場にダーク・ダイブ・ボンバーを召喚するなんぞして」

 

「機皇神マシニクル∞の効果発動! 相手場のシンクロモンスター一体を吸収し、その攻撃力分攻撃力をアップする!」

 

 マシニクルの肩から渦が現れ、ダーク・ダイブ・ボンバーを吸い込む。断末魔と共に肩の中に吸い込まれ、真っ黒の空間で土星の輪のようなものが二つに分かれて円を描いているものの中心の中に収納される。

 そう、ギブ&テイクはこの為のカード。相手がシンクロ召喚をしなかった場合でもマシニクルの吸収能力を使えるように入れてあるのだ。

 

「更に速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! 攻撃力を400ポイントアップさせ、F・G・Dの効果を無効にする! 攻撃力は6400! これだけあればジャック、貴様のライフを消し飛ばすには十分な火力だ! バトル! 機皇神マシニクル∞、お前の力を見せつけてやれ!」

 

 左手の銃を構え、銃口から四角状のエネルギーをぶっ放す。そのブロック一個一個が、それぞれ致命的な破壊力を持っている。その破壊力たるや、F・G・Dが迎撃に五つの首から出した光線でさえも歯が立たないほど。すぐにビームに飲み込まれ、跡形も無く消滅する。

 

「更に! ワイゼル・アインで直接攻撃! クォーク・カーブ!」

 

 粒子による剣を薙ぎ払う直前、ワイゼル・アインはその手を止めた。あの永続罠の姿が消え、代わりに三つの首を持った竜が居たからだ。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動し竜魂の城を破壊した。表側表示となっている竜魂の城が墓地へ送られた時、除外されているドラゴン族モンスター一体を特殊召喚する! 俺はこの効果で、青眼の究極竜を帰還させた!」

 

「小癪な真似を……カードをセットし、ターンエンド!」

 

 やや過剰すぎる攻撃力だが、それでもこの状況ではその場しのぎにしかならない。攻撃力6400、この攻撃力を超える事が出来るデュエリストなんぞ、絶望が知る限りではヘル皇帝(カイザー亮)のキメラティック・オーバー・ドラゴンしか知らない。

 しかし、仮想世界だというのに嫌な汗が流れる。こういう自分が有利な状況から逆転された事は、これまで何度もあった。シューティングスターやらライフストリームやら、酷い時はサイバー・ドラゴン一枚であっけなく崩壊したものだ。

 デュエルモンスターズとは、たった一枚のカードでこれまで積み上げてきたものが崩れ去る事がある。

 

「俺のターン、ドロー! 強欲な壺を発動! カードを二枚ドロー! 装備魔法D・D・Rを発動! 手札を一枚コストに、除外されているモンスター一体を特殊召喚する! 俺は青眼の白龍を特殊召喚!」

 

 二度目の登場、しかし攻撃力3000では絶望のワイゼル・アインを倒す事が精々だ。しかし、ジャックは無意味な事をするデュエリストではないと、この短いデュエルの間で絶望は感じ取った。

 そして、その予感は的中する。

 

「魔法カード、滅びの爆裂疾風弾を発動! 相手場のモンスター全てを破壊する! 蹴散らせ!」

 

 青眼の口から放たれた光線は、絶望のモンスターを全て消し飛ばす。デュエルモンスターズで初めて禁止カードとなったサンダーボルトと同じ効果、その恐ろしい効果は場に青眼の白龍が存在しなければ使えないという、現実世界では実質的に海馬コーポレーションの社長である海馬瀬戸のみ。

 最も、この世界ではその常識も通用しないが、だとしてもまだβテストが出回っているのみ。今使える者は、今ここまで揃えられる者は、世界でたった一人のみだ。

 

「やはり、貴様は……」

 

 光線によって破壊された下半身に自重が耐え切れず、崩れていくマシニクルを尻目に、絶望は半ば確信した答が頭に思い浮かんだ。最も、それを口に出すつもりはない。答えを飲み込む。この神聖で不純な戦いでは、必要のない事だからだ。

 

「チッ、魔法カード馬の骨の対価を発動! 場の通常モンスター一体を生け贄に捧げ、カードを二枚ドローする!」

 

 馬の骨の対価を使う時、ジャックは露骨に嫌そうに舌打ちをした。

 馬の骨の対価、某社長が某凡骨に、凡骨になる前に付けた蔑称である。どちらにせよ蔑称だが、ペガサスは何を考えてこれをカードに生かそうと思ったのかは不明だ。

 

「ふぅん、来たか。魔法カード、大嵐を発動! 場の魔法・罠を全て破壊する! 更に装備魔法、巨大化! 究極竜の攻撃力を倍にする!」

 

 ただでさえ大きかった青眼の身体が、更に倍となる。巨大化、攻撃力を倍にするという単純ながら強力な効果を持つ装備魔法。ワンキルデッキにおいては、リミッター解除と並ぶ重要なパーツとなる事もある。

 これにより青眼の究極竜の攻撃力は9000、初期ライフすらも一瞬で消し飛ぶだろう。そして相手場にカードは存在せず、可能性としては手札に速攻のかかしがあるかもしれないという事だけ。それで防いだとしても、逆転は難しいやもしれぬ。

 

「このフィールドで……負ける筈が無いんだ!」

 

「バトルだ! 青眼の究極竜で直接攻撃! アルティメット・バースト!」

 

 部屋を全てのみ込むくらいの出力を持ったビームが三つ、究極竜の口から放たれる。そのビームはすぐに絶望の身体を包み込み、それだけでは飽き足らずフォルテシモをも飲み込み、その火力によって破壊されていく。

 各所で爆発が起こり、足元も崩れていく。

 

「私が……負ける……? 燃える、燃えてしまう。フォルテシモ……私が、消えていく……これは、面倒なことに……なった……」

 

 フォルテシモと共に、絶望も飲み込まれていく。ジャック・Oは急いでエレベーターの中に飛び込み、難を逃れた。崩れていく中、絶望の顔は悔しそうだが、だが同時に言いたかった台詞が言えたからか満足そうな笑みを浮かべながら、フォルテシモと運命を共にした。

 

 

「アポリア……一体貴方は、何をしていたのですか」

 

 デスポーンした際特有の暗い空間の中、昔から聞きなれた者の声が聞こえてきた。ゆっくりと目を開けると、そこは竜の渓谷。カードイラストに描かれている夕日ではなく、昼日が地表を照らしている。そびえる崖を背景に、呆れた様子で覗き込む蟹のような髪の男。顔の右半分は機械化されており、眼帯染みて付けられている赤い機械が何処となくボトムズを連想させる。

 

「ぞっ、ゾーン!? いやこれは違うぞ、ただちょっとブームになっているゲームが気になって、やってみたら趣味の合う友人が出来てのめり込んでいっただけで」

 

「何が違うというのですか、全く。いい年した大人が」

 

 ゾーン、絶望が──アポリアがこの時代に来る前、ずっと未来の荒廃した世界で出会った友人の一人。どういう訳かアポリアの記憶とは違い、荒廃こそしているが、記憶の世界ほど人類は死滅していない。代わりにニンジャとかオムラ社とか訳のわからん奴らが出て来ていたが。

 ゾーンは呆れた様子で、しかしすぐににこりと表情を緩めると、未だ座った状態のアポリアに手を差し伸べた。

 

「さあ、帰りますよ。貴方の言う破滅する未来とやらは回避出来たようですし……帰りにトリシューラプリンでも買っていきましょうか」

 

 アポリアはその手を受け取り、立ち上がる。しかしその表情は何処か寂しそうで、そして悲しそうだ。

 

「アニメが……まだ、放送中のアニメが」

 

「それは諦めなさい」

 

 アニメへの未練を断ち切れぬまま、アポリアはデュエルモンスターズオンラインの世界を──トリシューラプリンを買ってからこの世界を後にした。

 もう、月影永理(シャドームーン)とも、ヘル皇帝(カイザー)とも会えない事に少々の寂しさを感じながら。




 この作品での未来組は、まあ忍殺みたいな感じになってたりはしますが、そこまで荒廃はしていません
 鬱よりこっちの方が書いてて気が楽です
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