月影永理の暴走   作:黄衛門

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第三章 セブンスターズ編~どうせみんなギャグ要員~
第28話 主人……公?


 永理と亮を十代達が懲らしめてから数日ほど経ったある日。既に冬休みも終え、教室の中はカラフルな生徒でごった返していた。

 結局ヴァーチャル世界から帰って来た後も永理と亮は、時間こそ一時間や二時間ほど短くはなったものの、はた目から見たら十分やり過ぎなくらいあのゲームをやっていたので、十代達は「俺達が行った意味は何だったんだ……」と嘆いたのだが、それはそれとしてお金も貰えたので良しとしている。

 後、どういう因果か永理の持つ精霊にもう一人加わったのも、大きな変化と言えるだろう。

 

『生け贄……三体……私にはそれが必要だ……』

 

『実体化くらい普通に出来ると思うんですけどね、ねーモスちゃん?』

 

『ぷぴゅん』

 

 血管の浮き出た赤い禿げ、緑色の服を着て眼がどんな色をしているのかすら解らない赤いレンズの眼鏡を付けた、効果だけを見れば割と強いモンスター。サイコ・ショッカー。十代が冬休みの間に退治した精霊なのだが、どういう訳か永理にまで憑りついたようだ。とはいえ当の本人は全く影響を受けておらず、今も十代の隣で授業中だと言うのにテーブルの下でゲームをカチカチやっている。だというのに当てられた時はしっかりと答えるので、永理のポテンシャルは元々高いのだろう。才能の無駄遣いもいい所だが。

 ちなみに、普通の精霊は実体化なんぞ出来ないらしい。死霊伯爵、バニラの雑魚モンスターなのに割と凄い事をやってのけるのだが、それでやる事と言えばゲームか本を読むかくらいなので、その技術がいかされる事はまず無いだろう。

 教卓では相も変わらず歌舞伎めいた白い肌の、凍死寸前の登山家のような紫色のくちびるが特徴的なクロノスが、召喚に関する処理を長々と解説している。

 当然そのルールを十代と永理は完璧に解っているという訳ではないが、本人達は「要するに、シンクロやエクシーズ召喚に神の宣告使われたら蘇生出来ない」という事だけを覚えていたら大丈夫と豪語しているので、つまらん理論を説かれても退屈なだけなのだ。実際デュエルではそれくらいを覚えておけば何ら困らないのである。

 それに、十代としては精霊の馬鹿なやり取りを見てる方が面白いのだ。十代の肩でハネクリボーが苦笑いをするが、何の問題も無い。無いったら無いのだ。

 

「そういや永理、知ってるか?」

 

「んあ、どうしたよ?」

 

 さっきから卵を孵化させては逃がしを繰り返している永理に、十代は退屈しのぎに雑談を持ちかける。勿論声を潜ませて。永理は眼をこちらに向けながらも、無心で卵を孵化させては逃がす。

 

「最近、レアカード強奪事件が多発してるんだと」

 

「へー、俺が知ってるのはここ最近、ドローパンの中に黄金の玉子パンが無いって事くらいだな」

 

「なっ、マジか!?」

 

 思わず大声を出してしまう十代は、クロノスに睨まれてしまう。平謝りをしながらも、噂話は続く。

 

「道理で最近引けない訳だ……つか、なんで永理はそんな事知ってるんだ?」

 

 十代が重要な事を聞こうとした瞬間に授業終了のチャイムが鳴った。これで声を潜ませずに会話をする事が出来る。出ていくまでの間、十代はクロノスに物凄く睨まれていたのだが、そんなので気を病むほど十代のメンタルは弱くない。

 

「ドローパンを引いた生徒は名前を発表されるんだぞ、知らなかったのか?」

 

 ドローパンの人気はすさまじく、売れ残る事は全く無い。だというのにここ最近、誰も黄金の玉子パンを引き当てたという話を聞かない。最も、普段は普通の惣菜パンを食べる永理には全く持って関係の無い話ではあるが。

 しかし、十代にとってはかなり大きな問題だ。彼は黄金の玉子パンが物凄く好きな人間なのである。いや、他の生徒も好きではあるのだが。

 

「許せねえ……でも、カード泥棒も同じくらい許せねえ。一体全体、どうしたらいいんだ!?」

 

「二手に分かれればいいだろう」

 

 後ろから万丈目が、十代にそう助言した。そう、今現在デュエルアカデミアでは二つの事件が巻き起こっている。

 一つは、謎の大男。曰く夜に夢遊病の如く森に誘われ、オベリスクブルーの制服で姿を隠した大男と強制的にデュエルをさせられ、しかも負けたらカードを強奪されると言う事件。もう一つは、黄金の玉子パンが盗まれている事件である。

 片方は校則で禁止されているアンティで、もう片方は無銭飲食。割とどっちもどっちだが、永理はさして興味を持たない。アンティの方は狙われているのがオベリスクブルーの一年坊主共だけで、ラーイエローやオシリスレッドが襲われたという話は聞いた事が無い。黄金の玉子パンに関しては、まず永理は食べないのでどうでもいい。別に無くなっても、さして困りはしないのだ。

 だというのに、万丈目は面倒事の火だねを更に燃やす油をぶちまけやがったのだ。

 

「良し、永理は闇夜の大男の方を追ってくれ。俺は黄金の玉子パン泥棒をとっちめる!」

 

「面倒な……」

 

 しかし、永理のつぶやきは半ば意図的に無視される。だがそれも仕方のない事だろう、何せこの前、冬休みの間面倒事を永理は引き起こしたのだが。最も、それは海馬瀬戸とペガサスJ・クロフォードが実力を測る為にでっち上げたものなのだが、当の本人はそんな事を知る由も無いし、知る必要も無い。

 

「でもよ、もし相手が武力行使してきたらどうすりゃいいんだ?」

 

「そっちには万丈目も付けるし、後はカイザーでも誘っとけば大丈夫だ」

 

「あいつ割とすぐ放って帰るぞ」

 

 永理は前に起きた、廃寮での出来事を思い出す。三年生だというのに一年坊主を置いて帰った、割と畜生な野郎なのである。

 当然、皆はそんな事を知らない。なので信じられないといった面持ちだが、そんなのは永理の知った事ではないのだ。実際、永理は心の中で他の学生の安全とゲームとを天秤にかけて、コンマ一秒の早さでゲームの方を取ったのだから。

 

「俺はね、青い空を見なきゃいけないの。レイヤードの生活には飽きてきたの」

 

「……そういえば、プレミアの付いたゲームが家にあったな」

 

「やらせていただきましょう」

 

 万丈目の言葉に即座に掌を返す。チョロいな、と十代と万丈目は悪そうに笑う。当然永理も、二人がそんな笑みを浮かべている事は知っている。知っているが、あえて罠に乗る。何せ永理は騙して悪いが系ミッションも何度も諦めず挑戦するタイプの人間だからだ。報酬さえよければ何の文句も無いのが永理で、それで学ばないのが永理である。将来ギャンブル依存症になりそうな性格をしているが、既に矯正する事は不可能だろう。

 

 

 オベリスクブルー男子生徒寮というのは、外見はまるで西洋のお城だ。無駄に大きく、無駄に豪勢。当然飯は無駄にカロリーが高いので、学園教師は痛風にならないよう努力しているらしい。

 

「で、俺まで付き合わされてるって訳か……帰っていい?」

 

「囮が帰るな」

 

 草木は眠らぬ午前零時、南国特有の夜風が当たってとても気持ちのいい夜。永理と亮はオベリスクブルー寮の敷地内に居た。理由はオベリスクブルーを狩り妖怪レアカード置いてけ狩り。しかもどういう訳か、永理は女装している。一応おびき寄せる為という大義名分こそあるが、これまでの被害者に女性の姿は無い。ただ単に何となく女装したかっただけなのだ。

 どういう訳かデュエルアカデミアの女子制服はかなり際どい。スカートとか下手したらパンチラするんじゃないかと思うほどだ。最も、永理の女装姿なんぞ気分が悪くなる方の眼に毒ではあるが。

 カツラは黒い長髪、永理が持つ死体のように白い肌と目の下のクマ、ゲームのやり過ぎで血走った眼。更に病的な細さから、生前は美人だったんだろうなーと思える程度にはなっている。要するにゾンビ扱い、夜道で亮と合流した時絶叫されたのには永理も心底驚いた。

 

「つかなんでお前女装してるんだよ、俺囮になる必要無いだろ」

 

「エサは多ければ多いほど良い、獲物がかかりやすくなる」

 

 誰がアカデミア最強の実力を持つ皇帝とゾンビを相手にしたがるのだろうか、ともしこの場に誰か居たらそう思わずにはいられないだろう。というか逃げ出すだろう、まずゾンビを見て。

 十代から聞いた情報は『オベリスクブルー男子寮の何処かに現れる』という事だけ。その何処かを永理は知りたかったのだが、肝心の十代は知らないと答えた。なので適当に散策するしかないのだが、もうここで永理のやる気が無くなっていく。

 永理は歩くのは好きだが、それは目的地があっての事か、気まぐれに進路変更出来る散歩の場合。目標のものが現れるのかどうかさえ未知数な相手の為に歩くのはかなり嫌いなのだ。

 それに何より、標的は確実に男だというのが永理のやる気をさらに削ぐ。闇夜の巨人、声から性別だけは男性と判明している。態々男の為に時間そそぐなら与一に注ぐわ。というのが永理の本音だった。

 

「せっかく今日は電に癒してもらおうと思ったのに……」

 

「この雷電に削り合いを挑むとは」

 

「やめい!」

 

 漫才染みたやり取りをしながら、オベリスクブルー敷地内を深夜徘徊する二人。一人はロンゲ、もう一人は気持ち悪い女装。ここに警察が居たら確実に職質ものである。

 まあそんな感じに適当にぶらぶらする事三十分、遠くから声が聞こえてきた。声のした方は雑木林。

 

「デュエルディスクから……光が逆流する!? ぎゃあああああ!!」

 

 割と余裕のありそうな叫び声だったが、一先ず二人はその声のした方へと走る。夜の雑木林の中を走るというのは、まるで樹海に突っ込むような気分だ。

 少しするとソリットビジョンを出しても問題ない程度に開けた場所に出る。叫び声をあげていたのであろうオベリスクブルーの男子生徒は人の気配を感じて、尻もちを付きながら永理の方を見

 

「アイエエエエエ!? オバケ!? オバケナンデ!? コワイ!」

 

 ZRS(ゾンビリアリティショック)に陥り、一目散に逃げ出した。まあ、死人のような顔をした女子制服を着た人が森の中から出てきたら、そりゃそんな反応するだろう。対戦相手の方を見ると、大量のオベリスクブルー男子制服で全身を包み姿を隠す、二メートル以上の身長を持つ大男。

 

「アイエエエエ!? オバケ!? コワイ!」

 

 大男までもいきなり出てきたオバケによってZRSに陥っていた。割と肝っ玉の小さい男なのかもしれない。が、当然男の悲鳴なんぞ聞いていても全く面白くも股間にも来ない。というより、なんで永理の顔を見た時の悲鳴がモータルのそれなのか、それに関してばかり気になる永理であった。

 が、今それは重要ではない。割と心にダイレクトアタックを受けているものの、それらの感情は一切抜き。今の永理に情なんてものは存在しない。新しく作ったデッキを試したくてうずうずしているのだ。

 

「MS.ビッグマン、俺とデュエルをしてもらおう。勝てばレアカードを全ていただく!」

 

「おい、やってる事あいつと何ら変わりないぞお前おい」

 

 やってる事は追いはぎからの追いはぎだが、永理には何の関係も無い。永理が頼まれたのはあくまで『大男を退治して』というのだけで、カード自体の返却を求めるという訳ではないのだ。

 まあ、暗に頼まれた事もきっちりやっておかねば、ひょっとしたらゲームが貰えなくなるかもしれない。永理としては他人がどうなろうとぶっちゃけどうでもいいのだが、永理の友達はどういう訳かそうではないのだ。割と永理に対しては辛辣に当たってるような気がしないでもないが。

 

「冗談だ。俺が勝てば、お前が手に入れたカード全てを持ち主に返してもらおう」

 

「なら、お前が負けたらどうするんだ?」

 

「俺のデッキ全てをやろう」

 

 永理の発言に負けたオベリスクブルーの生徒も闇夜の巨人も驚くが、亮はその意図を察しているのかくつくつと笑う。

 デュエリストにとってデッキとは魂のようなもの、それを全て手に入れる事が出来るとなれば、相手も乗ってこない筈が無い。

 

「奉仕行為は柄じゃないが、たまには主人公らしくしなきゃな」

 

「何を訳の分からない事を!」

 

 若干シリアスっぽくなっているが、永理の女装姿である。それもオバケみたいな、墓場から出てきたような、ものすっごく不気味な。

 

「「デュエル!」」

 

 そして、永理が居る限りこの世にシリアスは現れない。それは半ば呪いめいている因果なのだ。

 

「俺の先功、ドロー。ジャイアント・オークを召喚。カードをセットし、ターンエンドだ」

 

 見るも悍ましい太った白い大男が現れる。上半身裸、下の方は緑色のズボンの上から腰当てのように毛皮が巻かれており、それを上に持って来いよと言いたくなる。そして顔、下の牙が突き出ている醜顔。手に持っているのは巨大な動物の骨だ。

 

「俺のターン、ドロー! モンスターセット! ターンエンド!」

 

 永理の動きは静かで、ただ守りを固めるだけ。伏せカードも無いのは油断か、それとも手札に来なかったか。だがその顔は、まるで悪戯を思いついた悪ガキのような笑みを浮かべている。

 

「消極的だな、ドロー。バトル! ジャイアント・オークで伏せモンスターを攻撃!」

 

 ジャイアント・オークの手に持った骨棍棒が、勢いよく永理の伏せモンスターに振り下ろされる。そしてカードがリバースされるも、そこにモンスターの姿は無い。

 ジャイアント・オークは当たりを見渡すが、すぐ後ろからの言い知れぬ気配に気付く。が、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。そして後ろから腕を首に回され、アームロック。そのままいつの間にか出した、紫色に輝く次元の中に引きずり込んでいく。

 そのモンスターが消える瞬間、金色の髪が見えた。そして顔は、恍惚に歪んでいた。

 

「異次元の女戦士は戦闘を行ったモンスターを除外する事が出来る」

 

「ぐっ、遅すぎたオークを召喚し、ターンエンド!」

 

 次に現れたのは、ジャイアント・オークを丸っこくデフォルメしたオークだった。ピンク色のキャラものバックを背負っている。まあデフォルメしたとしても元が元なので、ぶっちゃけキモいのだが。

 

「俺のターン、ドロー! 味方殺しの女騎士を召喚!」

 

『くっ、殺せ!』

 

 肩にトゲトゲとしたアーマーを付けた、動きやすいように左右の端を切った薄紫色の長い髪を編んだ女騎士が、何か何処かで聞いた事のあるフレーズを言いながら現れる。

 

「更に装備魔法、アサルト・アーマーを女騎士に装備!」

 

 女騎士の周りを、緑色のバリアが覆う。見るからに環境に悪そうな色をしているが、ソリッドビジョンは現実にはそんなに干渉しないので問題ない。

 

「バトルだ! 女騎士で遅すぎたオークを攻撃!」

 

『コジマアアアアアッ!!』

 

 女騎士はクイックブーストで一気に遅すぎたオークに接近し、バリアを解放する。身体の周りを覆っていたバリアが瞬間的に膨張し、空気の体積がなんやかんやして巨大な緑色の半円球大爆発を巻き起こし、遅すぎたオークを木端微塵に破壊する。

 色々とツッコみどころ満載ではあるが、さして問題ではない。

 

「カードを一枚セットし、ターンエンド!」

 

 永理がターンを終了させた瞬間、女騎士のショルダーアーマーから棘が取れ、代わりに三日月型のよく解りたくないパーツが装備される。

 

「俺のターン、ドロー!

 くっ、モンスターを伏せてターンエンド……」

 

「貴様のエンドフェイズに速攻魔法を発動する、スケープ・ゴート!」

 

 カラフルなちっちゃい子羊が、一気に永理の場に四体も現れる。羊……肉……と永理は連想させていたら脅えられた。読心術も心得ているようだ。

 

「そして俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、女騎士の効果発動! 自分のスタンバイフェイズごとに場のモンスターを生け贄にしなければ、このカードを破壊する! 俺は羊トークンを破壊!」

 

 女騎士は羊の首を斬り落とし、腹を掻っ捌いて内臓を取り出し、毛皮も皮膚ごと取り、骨も取り除いた肉に胡椒といくつかの香辛料を詰め込み、何処からか取り出したマッチでたき火をして子羊を焼く。

 こんがりと焼けた羊にレモンの絞り汁をかけ、ぱくりと一口。無駄に長く、無駄に美味そうなのがとても腹立つ。

 

「異次元の女戦士を召喚!」

 

 上半身はガッチガチの鎧なのに下半身はブルマ染みた鎧だけの、パツキンな戦士が現れる。その胸は平坦であった。女騎士が勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

「バトルだ! 女戦士で伏せモンスターを攻撃!」

 

「罠カード発動、マジックアーム・シールド! 相手場にモンスターが二体以上存在し、自分場にモンスターが存在する場合、相手モンスター一体のコントロールをバトルフェイズ終了時まで得て、そのモンスターと代わりに戦闘させる!」

 

『テメェ貧乳って馬鹿にしやがってこの野郎があああああっ!!』

 

『上等だぶっ殺してやんよおおおおおっ!!』

 

 マジックアームが現れる事も無く仲たがいし、醜いキャットファイトを繰り広げる二人。女戦士が斬りかかろうと飛びあがった瞬間機動させたアサルトキャノンが直撃し、女戦士は蒸発した。

 女同士の争いは、醜い。

 

「チッ、カードをセットしターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー!

 速攻魔法、サイクロンを発動! アサルト・アーマーを破壊する!」

 

 突如吹き荒れた竜巻によって、女騎士のバリアが剥がれる。残念ながらパンツは見えなかったので、永理は舌打ちする。

 しかし、プライアルアーマーが消滅させられた事によって、ダイレクトに攻撃が通るようになってしまった。そして、永理の今回使っているデッキは、お世辞にもあまり強いとは言えない、ネタの方に特化したデッキ。ぶっちゃけ逆転は難しいのだ。

 

「ジャイアント・オークを召喚し、バトル! ジャイアント・オークで女騎士を攻撃!」

 

『くっ、殺せ!』

 

 もう最初から抵抗する素振りも見せず、膝をつき女座りで涙目でオークを睨み付ける。だが、その攻撃は突如目の前に現れた紫色の次元によって阻まれる。

 

「罠カード、次元幽閉!」

 

『妊・娠・確・実っ!!』

 

 女戦士のものであろう悍ましい叫びと共に、その中から延びてきた女の手によって引きずり込まれるジャイアント・オーク。その執念には半ば戦慄を覚えてしまう。というか実際かなり怖い。

 

『精種! 精種置いてけ! お前男だろう、男なんだろう、男なんだろうお前!』

 

『アイエエエエエ!!』

 

 ジャイアント・オークの断末魔も虚しく、次元の中に吸い込まれていく。何というか見ていてものすっごくくだらない争い、見ていてやっていて馬鹿馬鹿しくなるが、割と賭けてるものはヤバいのだ。

 

「ぐっ、カードをセットし、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、トークンを生け贄に捧げる!」

 

 もうお腹はいっぱいなのだが、手ごろな羊を殺し皮を剥ぎ、ついでに内臓も取り出すと、香辛料や塩をまんべんなく塗し、今度は煙で燻製にする。

 

「速攻魔法、サイクロン発動。その伏せカードを破壊する! 更に魔法カード、死者蘇生! 墓地の女戦士を蘇生させる!」

 

 土の中から女の手が伸び、まるでゾンビのように復活する女戦士。そこに淑女の姿は無い。というか、ぶっちゃけかなりキモい。髪に付いた土くれを叩き落としてから、女剣士は手を掲げる。すると地面から生えるように剣が現れた。

 

「更に漆黒の豹戦士パンサー・ウォリアーを召喚!」

 

 三日月状の剣を手に持った、緑色のマントを羽織った黒豹の戦士が現れる。この場に何処ぞのアベックが使ったデメリットモンスターが二体揃ったが、別に関係の無い話だ。

 

「まずは女戦士、伏せモンスターに攻撃!」

 

「ぐっ、だが伏せモンスターは魂を削る死霊! 戦闘では破壊されない!」

 

 死神っぽい紫色の布を被り、赤い髑髏の眼を光らせ、鋭い鎌を持ちながら現れたのは戦闘破壊に耐性を持つモンスター。カードイラストだけを見れば攻撃力1800くらいありそうだが、たったの300しかない。

 

『たまにはゾンビも……いいかも』

 

『!?』

 

 そう言い女戦士は死霊を羽交い絞めにし、姿を消す。じたばたと死霊はもがいていたが、永理ではどうする事も出来ないし、元々除外する予定だったので何の問題も無い。

 

「では、女騎士で攻撃!」

 

『オークチンポ置いてけ!』

 

 ダイレクトな淫語を整った顔立ちの口から出した女騎士は横に一閃。その衝撃で大男の顔を覆っていたオベリスクブルーの制服が吹き飛び、ラーイエローの制服を着たゴリラのようなごつい男が姿を露わになる。永理はつかさず取り出したPDAのカメラ機能を立ち上げ、シャッターを切る。

 これで負けたとしても、デッキは渡さなくて済む。約束よりも規則、規則よりも自分がモットーの永理らしい行動だ。

 

「トドメ! ラスト・トークンを生け贄に捧げ、パンサー・ウォリアーで攻撃!」

 

 羊トークンをまるで饅頭のように丸かじりしてから、パンサー・ウォリアーはゴリラっぽい大男を袈裟斬り。相手のライフを完璧に0にした。

 ソリットビジョンが消えると同時に、脱力したように大男は膝をつく。

 

「さーて、証拠は撮った。アンティは校則で固く禁じられている、だよな亮」

 

「ああ、確かにな」

 

 ニタニタと三流悪党のような笑みを浮かべながら、膝をついている大男を見下す二人。別に正義とかいう大義名分なんぞ無く、あるのはただ一つ。ただ優越感に浸りたいだけだ。

 すると、上の方からがさりと音が鳴り、降りてきたのはカツラっぽい印象を持つ髪型のちっちゃい男だ。

 

「俺達をアカデミアに突き出すつもりか」

 

 クソッ、と悪態を付いて地面を蹴るちっちゃい奴。彼らに何があったか永理達は知らないし、興味も無い。取りあえず永理は小さい方の写真も撮っておくと、十代のPDAに送信した。

 

「さあ、どうなるかな。それは十代次第だ。精々神にでも祈っとくんだな」

 

 ケタケタと悪党染みた笑い声を出す永理。ただでさえ普段から死んだように細い身体をしているというに、夜と更に女装という訳の解らない要素も追加され非常に不気味で、永理の隣を立っていた亮もちょっと距離を取っている。

 

「まあ自業自得だからね、俺を恨むのは筋違いってもんよ。だから恨むなよ」

 

「……うん、そだねー」

 

「なんで棒読みなんだ亮」

 

 そう言い残し、言葉をかけあいながら永理と亮は森を後にした。そこに残ったのは、既に諦めモードの大原と、地面を何度も殴りながら悔しがる小原だけだった。

 

 ちなみに後日、十代は二人に奪ったカードを返す事を条件にこの事を不問とした。ついでに脅した事もバレてゲームゲットはお釈迦となった。そこまでは良かったのだが、どういう訳か『オベリスクブルー寮近くにある森には死んだ女のゾンビが夜な夜な彷徨う』という噂が流れる事になるのだが、それはまた別のお話。




 大体あと四話くらいでセブンスターズ関連の戦闘となるので、もうセブンスターズ編とか書いちゃっても大丈夫だよね
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